戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
───調神社。
先のパヴァリア光明結社との神の力を巡る事件にて、装者達が神社本庁を通して得た情報を元に現地調査に赴き、其処で出会った神社の宮司の協力により敵の真の目的に近付く事が出来た場所らしい。
加えてその当時、戦いの中である悩みを抱えていた調も彼とのやり取りをきっかけにスランプを脱し、その後のパヴァリア光明結社の幹部の一人との激闘にも風鳴翼との共闘の末、見事撃退するに至ったのだとか。
「──成る程。事件当時の資料を以前見せてもらった時に出てきた、レイライン……龍脈に関する情報を閲覧した際に神社の名前だけは見た事があったが、調個人ともそんな繋がりがあったのか」
「よっ、とと……!そう言えばあの時の調、ずっと沈んだ顔をしたまま錬金術師を追い掛けて一人で神社から飛び出しちゃいましたから、宮司さんの顔を見たのもそれっきりだったデスよね。あの後も色々とてんやわんやありまくりで、会いに行く暇なんてなかったデスし」
「うん。だからそれも兼ねて、もう一度顔を出しておこうかと思って。……元気にしてるといいな」
東京から埼玉行きまでの高速バスを降りて、ターミナルから暫く徒歩で歩き、目的地である調神社にまで続く石段の前まで辿り着いた三人。軽快な足取りで先に石段を登っていく切歌を先頭に、蓮夜と調が事件当時の経緯を話しながらその後に続いて階段を上がった先には本殿にまで続く参道が見えたが、神社によく見られる鳥居はなく、脇には狛犬……ではなく、狛兎の像が建てられているのを見て蓮夜が首を傾げた。
「珍しいな……此処の神社は狛犬じゃなく、兎が像になってるのか?」
「そーみたいデスね。アタシも最初見た時は変わってると思ったデスけど、これはこれで可愛いので断然にアリだと思うデス」
物珍しげに兎の象を見上げる蓮夜の隣で、ピョンピョンッとまるで兎の耳を真似るように頭の上で両手をヒラヒラさせながら明るく笑う切歌。
そんな二人のやり取りを調も微笑ましげに見つめる中、参道の奥の方から眼鏡を掛けた袴姿の老人が現れ、泰然とした足取りで蓮夜達の下へと歩み寄っていく。
「いやいや、以前にお会いした時からお変わりのない賑やかさ。相も変わらずお元気そうで何よりですよ、御二方」
「……?貴方は……?」
「おおー、お久しぶりデス!」
「こんにちわ。蓮夜さん、この人がさっき話したこの神社の……」
「ああ、例の協力者の……初めてお会いします……黒月蓮夜、といいます」
「これはこれはご丁寧に。まだまだお若いのに礼儀正しい御方だ。嗚呼、貴方達を見ていると、生き別れになった娘夫婦の孫を思い出しますなぁ……」
「生き別れ……そんな事が……」
「蓮夜さんっ、これは違うデスよ」
「うん、また神社ジョーク……」
「ジョーク?……そうか、つまり娘夫婦ではなく、息子夫婦の孫と生き別れになったと……」
「そういう意味でもないデスよッ!」
自分で勝手に勘違いを深めて深刻げに目を伏せる蓮夜に切歌が思わずビシィッ!と横からツッコミを入れ、そんな二人のやり取りに調も呆れ気味に溜め息を吐く中、ジョークを発した当人である宮司はそんな三人のやり取りを見て愉快げに笑いながらペシっと戯けるように自分の額を平手で軽く叩く。
「ただの小粋なジョークを此処まで真摯に受け止めてもらえるとは。お話には軽く伺っておりましたが、どうやら貴方はお優しく、純真な心持ちの御方なようだ」
「……?俺の事を知ってるのか?」
「ええ。先程月読さんから事前に連絡を頂きまして、その時に貴方の事もお聞きました。何でも捨て猫を拾い、新しい飼い主さんを探しておられるのだとか。そういった事情でしたら、私でよろしければお手伝い出来る事、何でもご協力致しますよ」
「おお、本当デスか!話が早くて助かるデス!」
「なんのなんの。皆さんが以前うちにいらした際、大勢の方々の為にその身を呈して頂いた事は小耳程度ながらに聞き及んでおります。そんな皆さんの頼みを足蹴にしたとあってはバチが当たるというもの。仮にも神職に就く者がそんな事になっては、それこそ笑えないジョークになってしまいますからねぇ。私のジョークセンス……もとい、矜恃にも関わる問題ですから、ええ」
「普段の神社ジョークも別にそんなに笑えるものじゃないと思う……」
何故かちょっぴりカッコつけ風にキメ顔まで決める宮司に対して短いながらも割りと辛辣なトーンでツッコミを入れる調だが、宮司は特に気にする素振りもなく「はっはっはっ」と愉快げに笑って流すと、踵を返して拝殿の方に向かって歩き出し、賽銭箱の前にまで蓮夜達を案内していく。
「さてさて、確か事前の連絡では参拝をしたいという話も承りましたな。差し支えなければ、正しい作法を私の方でお教えしますが……」
「それなら大丈夫です。前に宮司さんに教わって、それから自分でも調べてみて一通りの所作は覚えましたから」
「おおっ、そうでしたか。勉強熱心な教え子を持てて、私も何やら鼻高々な気持ちですよ」
「調、調!そのやり方、アタシにも教えて欲しいデス!」
「良ければ俺もいいか?恥ずかしながらこういった場所自体、今まで無縁だったせいで右も左も分からなくてな……」
「う、うん。えっと……最初はこうして2回礼をして……」
「こうデスか?あ、お賽銭はいつ入れればいいんデスかね」
「賽銭か……そういえば前にいいご縁があるようにの語呂合わせで、五円玉を投げると良い出会いがあると聞いたがどうなんだろうか……それとも多く出した方がいいのか……」
「其処まで深く悩まずとも大丈夫ですよ。真に大切なのは金銭の大小ではなく、神様に向けて真摯に願い、それを強く想う事なのですからね。……それはそれとして、お賽銭を多く投げ入れてもらえるとうちの神社的にも大変に助かりますが」
「前半はいい話風だったのに、急な生々しい話で台無しになったデスよ……」
「勿論冗談ですよ?半分は」
「もう半分は本音なんだ……」
「成る程。つまり見返りも兼ねて多く賽銭を入れろと……一万円を全部五円玉に変えるか……?」
「蓮夜さんも真に受けたら駄目デスよ?!」
「はっはっはっ、申し訳ありません。皆さんのリアクションがあまりに良く、私もついつい年甲斐もなくはしゃいでしまいまして」
身を蓋もない宮司のジョークに振り回されてげんなりしたり、一万円札を丸々換金しようと真面目に検討する蓮夜を制止しつつ、調の不慣れな指導の元、何とか無事にお参りを済ませる三人。
その後、宮司の許可を貰って院内にある案内掲示板に蓮夜が持参した飼い主募集の張り紙を貼らせてもらい、一通りの用事を済ませた蓮夜達は一息吐いていく。
「これでヨシ……後はあの子の飼い主になってくれそうな人が、この張り紙を見て連絡してくれればいいけど……」
「お参りもお賽銭もきちんとやったんデス、きっと大丈夫デスよ」
「宮司さんもすまない。わざわざこちらの我儘に付き合ってもらって」
「いえいえ、善行のお手伝いが出来たのでしたらこちらとしても幸いです。ところで、皆さんこの後は如何お過ごしで?もしご予定がなければ、少し家の方でおもてなしの方をさせてもらえませんかな?」
「いや、流石に其処までは……ただでさえこちらが無理を言って頼みを聞いてもらったというのに、その上もてなしまで受けるというのも……」
「いえ、実はこれでも天涯孤独の身でしてな。神社の事もあり、毎日寂しさに枕を濡らして過ごしているのです。哀れな老人につかの間の団欒を味合わせるボランティアだと思って、少しだけでも寄っていってもらえませんかな?」
「……天涯孤独……?」
「結局孫はいるのかいないのかどちらなんデスかね……?」
ヨヨヨっと、何ともわざとらしく悲しげに着物の袖で目元を拭う宮司に対して調と切歌もお互いに顔を寄せながら訝しげにジト目を向ける中、蓮夜は自分の都合を聞いてもらってる以上此処で断るのもどうかと困り顔で少し悩んだ後、遠慮がちに小さく頷き返した。
「そういう事なら……分かった。どの道次のバスまで時間もあるだろうし、少しだけ寄らせてもらえると有り難い」
「おお、それはそれは。では、こちらへどうぞ。すぐにお茶とカヌレを用意しますからな」
「其処は和菓子じゃなくてカヌレなんだ……」
「おいしければ何でも良いデス!」
蓮夜が承諾した途端コロりと態度を変えて明るくなり、早速自分の家にまで案内をし始める宮司の後を切歌がのほほんとした笑顔で着いていく。
そんな二人の強かさとお気楽さに調も思わず溜め息を吐きつつも、せっかくまた会えた宮司と事件とは関係なしにゆっくり過ごすのも悪くはないだろうと気を改め、仕方がないと呆れ気味に微笑しながら隣に立つ蓮夜の顔を見上げていく。
「私達も行きましょうか。ちょっと変わってる人だけれど、宮司さんが作るお菓子、実際にとてもおいしいから期待してて大丈夫だと思いますよ」
「そうなのか……まぁ確かに、掴み所の難しい人だとは思うが、わざわざ急な頼み事をしてきた俺達をこうして気さくに迎え入れてくれて……お前から話に聞いていた通り、本当にとても良い人なんだと、鈍い俺でもすぐに分かる人柄をしてるんだな」
「ふふ。……?」
宮司の背中を見つめて静かに微笑む蓮夜の褒め言葉に、まるで自分の事のようにくすぐったい気持ちになり思わず口元から笑みがこぼれる調。
そんな気持ちを覚えた自分に一瞬疑問を覚えるが、蓮夜が先に歩き出したのを見て「まあいいか」と深くは考えずに思考を切り、皆の後を追い掛けようと足を踏み出した、その時……
「──へー。子猫の飼い主なんて探してるんだー」
「──?!」
「え……?」
先程張り紙を貼った案内掲示板の方から、不意にそんな声が届いた。
子猫に興味があるかのような好感触な声音。もしかしたら早速子猫の飼い主候補が見付かったのかもしれないと、今の声を耳にした途端顔色が急に変わった蓮夜の反応に気付かぬまま期待に満ちた表情で調が振り返ると、其処には……
「いやぁ、とっても興味を引くねー。これって、僕みたいなのでもその気があれば引き取れちゃったりするのかなぁ?」
案内掲示板にもたれ掛かるように片手を着き、わざとらしく声音を上げて疑問げにそう問い掛けて来る革ジャンを着込んだ青髪の青年。
以前、風太郎達の世界で瀕死のアスカを助けに自分達の前に突然現れたもう一人の上級イレイザー……クレンが軽薄な笑みと共に佇む姿があったのだった。
「ッ?!アナタ、は……!」
「イレイザー……!!」
何の前触れもなく現れたクレンの姿を目にした瞬間、驚愕のあまり顔色を変えて思わず後退りしてしまう調の前に、蓮夜が険しい表情ですぐさま飛び出しクレンと対峙していく。
一方でクレンはそんな二人の反応にケラケラと明るく笑い、案内掲示板から離れて蓮夜と調に交互に視線を向ける。
「まあまあ、そんな顔しないでよ。会って早々そんなに怯えられたら、流石に僕だって傷付いちゃうよ?」
「っ、いけしゃあしゃあとよくもっ……何故お前がこんな場所にいるっ?今度は何が目的だっ?!」
「んー?そうだなぁ、気分転換に日光浴しに遠出したら、たまたま君達と鉢合わせた……なーんて、言った所で信じてもらえるハズないよねぇ?」
「っ……」
ハッハハッ!と、人をおちょくるような言い回しで話をはぐらかすクレンに対し、蓮夜と調は警戒心を露わに緊迫した表情を浮かべながらも何があっても咄嗟に反応出来るように徐々に徐々に足幅を広げ身構えていき、そんな二人を見てクレンは更に笑みを深めながら言葉を続けていく。
「まぁ冗談はこの辺で置いとくとして。此処へは今君が聞いた通り、とある目的があって足を運んでね。君達とこのタイミングで顔を合わせる事になったのは本当に予想外ではあったけど……まぁ、必要な工程が飛んだと思えば寧ろ好都合になるのかなぁ」
「……好都合……?」
「一体何を企んでる……」
「ろくでもないこと♪」
簡潔に、たったの一言で己の目的を笑いながら話すクレン。
そのふざけた態度にいい加減蓮夜も不快感と苛立ちを露わにしつつある中、いつまでも追い掛けて来ない二人が気になって戻ってきた切歌と宮司がその場に現れた。
「二人ともー、ずっと何やってるデスかー?早くしないとカヌレが……って、オ、オマエは?!」
「どうされましたか皆さん?……おや、そちらの方は?」
「うん?もう一人の装者も揃ったか。んじゃ、もうそろそろ始めてもいい頃合いかな……?」
自分の顔を見て驚愕する切歌を一瞥し、クレンはそう言いながら徐に顔の横に掲げた左手で指を軽く鳴らす。
次の瞬間、クレンの足元の地面から突然大量の水が溢れ出して瞬く間に彼の全身を包み込んでいき、数泊の間を置いた後、水が弾けるように消し飛んで中から青の亜人が姿を現した。
全身の所々に魚の意匠が見られる海のように深い青の体色。その上から青と黒のローブを身に纏い、右手には金色に光輝く三又槍を手にし、バイザーのような青い瞳が特徴的な頭部には幾つもの耳飾りと、王のような冠が見受けれる海神……ポセイドンイレイザーへとその身を変貌させたクレンは、戯けるように肩を竦めながらイレイザー特有のエコーが掛かった声で飄々と告げる。
『僕は別にアスカみたく恨みがある訳じゃないけど、こちらにも込み入った事情ってもんがあってね。生憎と加減はしてあげられない。悪く思わないでくれよ?』
「か、怪物……?!」
「っ、宮司さん下がってて……!」
「此処はアタシ達が!」
「何を企んでいるかは知らんが、此処で俺達が止めてしまえばそれで済む話だ……!」
いきなり目の前で人間だったハズのクレンが変貌したポセイドンイレイザーを目にして驚愕する宮司を守るように背に庇い、調と切歌はそれぞれの首に掛けたギアのペンダントを、蓮夜はクロスベルトを腰に巻き付けながら左腰のケースから取り出したカードを手にし、
「Zeios igalima raizen tron……」
「Various shul shagana tron……」
「変身!」
『Code x…clear!』
二人の装者の歌声と蓮夜の掛け声、電子音声が重なり合って鳴り響き、光に包まれた切歌と調はそれぞれシンフォギアを、蓮夜はクロスへと変身しながら手首を軽くスナップさせてポセイドンイレイザーと対峙していく。
そして三人の変身を見届けたポセイドンイレイザーは小さく笑いながら拳を握り締めた左腕を徐に上げて手の平を下に開くと、その手から無数の灰色の塵屑がばら撒かれ、地面に落ちた塵屑の一粒一粒が徐々に巨大化しながら姿を変えていき、無数のダストと化して溢れ返った。
『では早速お手並み拝見だ。今の君達の力、この目で直接見極めさせてもらうよ……』
『『『ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーアアアァァッッッッ!!!!!!』』』
「来るデスよっ!」
『ハァアッ!』
「み、皆さん……!」
「宮司さんは今の内に逃げて下さい!やぁああああっ!!」
ポセイドンイレイザーの一声と共に迫り来るダストの軍団を前に、果敢にも迎え撃っていくクロスと装者達。
一方で、目の前で突如巻き起こった戦闘を前に戸惑うばかりだった宮司も自分を必死に逃がそうとする調の背中を目にし、未だ動揺は収まらないまでも何とか彼女に頷き返しながら神社の裏口を目指して慌てて走り出していき、そんな宮司の姿を目で追いながらポセイドンイレイザーが何やら一人ほくそ笑む中、ダスト達の群れを突破したクロスがポセイドンイレイザーに飛び掛かって右拳を飛ばし、青の亜人が即座に振りかざした金色の三又槍とぶつかり合って甲高い金属音を鳴り響かせていくのだった。
◇◇◆
一方その頃、S.O.N.G.本部にて……
「調神社にて、イレイザーとその他酷似した反応を無数に検知!この有り得ない数値……上級イレイザーのモノですっ!」
「神話型だと?!しかも調神社になど、何故そのような場所に奴等が……?!」
「イレイザーの反応と共に、イガリマ、シュルシャガナ、クロスの両三名の反応も近くに検知!交戦中の模様です!恐らく彼等を狙った襲撃かと……!」
「まさか、まだ記号を持たない二人を狙ってきたのか……?すぐに響君達に連絡して二人を向かわせろ!急げ!」
「「了解!」」
調神社で戦闘を開始したクロス達とポセイドンイレイザーの反応はS.O.N.G.本部でも早くに検知され、上級イレイザーの突然の襲撃に発令所も騒然となりながらも藤尭と友里のオペレーターコンビが響とクリスを現場に向かわせる手配を早急に行っていき、弦十郎もモニターに映し出されるクロス達の反応から目を離さず、響達が到着するまで彼等が無事である事を焦燥と共に祈り続けるのであった。