戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
―Δ式・艶殺アクセル―
「やぁああああああッ!!」
スカートを円状の刃に変形させ、まるでフィギュアスケート選手のように身体を高速回転させながら周囲を駆け回ってダスト達を次々に斬り裂いていく調。
それに続いて切歌が大鎌を大きく振るい、調が打ち漏らした残存するダスト達を纏めて引き裂いていくが、二人が撃退したダスト達は倒した端から蘇ってしまい、呻き声のような雄叫びを上げながら何事もなかったかのように起き上がっていく。
「くうっ……!やっぱり斬っても斬ってもすぐに復活しちゃうデスよ!」
「だけど足止めくらいなら出来てるっ……!響さん達が駆け付けてくれるまでの間、此処で何とか押し留めないと!」
でなければ、この調神社や周辺の民家等にも余計な被害が出ないとも限らない。本部が自分達やイレイザー達の反応を検知して応援を寄越してくれてると信じ、今はとにかくダスト達の足止めに専念しなければと、調と切歌はそれぞれのアームドギアを構え直し再びダストの群れに立ち向かっていく。
『そぉおりゃっ!よっと、たぁああっ!』
『クッ……!ハァアアッ!』
その一方、戦いの流れで戦場を調神社の外の広場に移したクロスとポセイドンイレイザーは一進一退の攻防を繰り広げ、互角の戦いを演じていた。
クロスはポセイドンイレイザーが突き出す三叉槍の素早い三連撃を首を僅かに逸らすだけで回避し、反撃に相手の懐に潜り込みながら足払いを仕掛けるも、ポセイドンイレイザーは軽やかな足取りで楽々とそれをいなしつつ、身に纏うローブが派手に舞うほどクルクルと身を翻して三叉槍を身体ごと横薙ぎに振るってクロスに叩き付けるが、クロスも負けじと瞬間強化を施した左腕で三叉槍を受け止め、すかさず残った右腕でポセイドンイレイザーの顔面に目掛けて裏拳を放つ。
しかし、ポセイドンイレイザーはそれも読んでいたかのように槍から離した片手でクロスの裏拳を受け止め、クロスと至近距離で睨み合いながら小さく笑みを浮かべた。
『成る程ねぇ……"戦い方が以前と違う"と前にも聞かれてはいたけど、こうして実際に戦ってみるとその違いってのが良く分かるもんだ……』
『ッ……何の話だ……!』
『なぁに、今の君と嘗ての君を重ねて見る必要はないってだけの話さ。実際前に戦った時の君のデータは役立ちそうにないほど、今の君は僕の予想通りには全然動いてくれてないしねぇ、っと!』
『ぐっ!』
飄々とした口調で疑問をいなし、クロスの腕を掴んだまま無理矢理引きずるように段差から飛び降りたポセイドンイレイザーは空中で容赦のない前蹴りをクロスに叩き込み、強引に距離を離す。
クロスは受け身を取って何とか体勢を立て直すが、其処へすかさず水を纏った三又槍を振り上げたポセイドンイレイザーが斬り掛かり、咄嗟に身を翻して水しぶきが流れる三叉槍を避けながら回転の勢いを利用し、そのままポセイドンイレイザーの肩に目掛けて回し蹴りを叩き込む。
だがポセイドンイレイザーの肢体にクロスの蹴りが当たった瞬間、ポセイドンイレイザーの身体が突然バシャアッ!と水のように変質し、クロスの蹴りを通過してそのまま地面に染み込むように消えてしまった。
『(?!身体を、水に……?!)』
『──ちょっとしたマジックって奴さ』
『ッ!―ガギィイイイイイイッ!!―ぐぅううっ!』
水となって地面に消えたポセイドンイレイザーを見て驚きを浮かべるクロスの背後から、飄々としたそんな声と共に鋭い殺気が背筋を駆け抜ける。
直感のまま右腕に光を灯して瞬間強化を行いながらすぐさま振り返ると、三叉槍の先端の刃が背後から襲い掛かり、右腕で火花を撒き散らしながら何とか槍を受け流したクロスは仮面の下で痛みで僅かに顔を歪めつつ、いつの間にか自分の背後に回り込んでいた青の亜人……無数の水粒を一箇所に集め、右半身のみを形成しながら金色の三叉槍を突き出すポセイドンイレイザーを睨み付けた。
『へぇ……?初見の筈の技をこうもあっさり凌ぐなんて、案外其処まで勘は鈍ってないって事かな?』
『ッ……身体を水のように変質させて、物体をすり抜けるだけでなく自由に再構築出来るっ……それがお前の能力か……!』
『あくまでその内の一つってだけだけどね。生憎僕はアスカほど戦いが得意な方じゃないんだ。だからこうして能力に頼らなきゃ、君ともまともにやり合う事もままならないって訳さ!』
言いながら、右足と右腕だけが繋がっている不恰好な状態から器用にも槍を振るい、クロスに続け様に鋭い突きを放っていくポセイドンイレイザー。
対するクロスも異様な格好で襲い来るポセイドンイレイザーの姿に戸惑いながらも三叉槍を最小限の動きで捌きつつ後退し、次の突きが放たれたのと同じタイミングで相手の懐に踏み込み、ポセイドンイレイザーの頭に目掛けて拳を飛ばす。
しかし、ポセイドンイレイザーも槍を回避されたのと同様のタイミングで三叉槍ごと右腕を再び水化させ、今度は槍を握り締めた左腕を瞬時に腰の後ろに引いた状態で形成し、クロスに向かって躊躇なく槍を突き出しその胸に直撃させていった。
『ぐっ?!何っ……?!』
『まだまだ、こんなもんで驚かられても困るよっと!』
瞬時に形成されたもう片方の腕を目にし、思わぬ一撃を喰らったクロスもその再生力の速さに驚愕を隠せぬまま激痛が走る胸部を抑えて態勢を立て直そうと後方へと飛び退くが、それを逃すまいとポセイドンイレイザーは今の攻防の隙に集めた水で左足を形成しながら追撃し、再度三叉槍を勢いよく突き出してクロスに襲い掛かった。
眼前に迫る三叉槍の刃を前にクロスはすぐさまポセイドンイレイザーの手から槍を蹴り払って何とか弾くが、回転しながら彼方へと空を舞う槍は再び水化して霧散する。
直後、ポセイドンイレイザーは左足を構築する水で右腕と共に三叉槍を形成し、両手で握り締めた三叉槍を横一閃に振るう。
その奇っ怪な反撃にクロスも目を見張りながらも咄嗟に両腕を十字に組んでギリギリ防御体勢を取るも、槍の斬撃を受け止め切れずに吹き飛び、ゴロゴロと地面を派手に転がっていってしまう。
『グウゥッ!ぐ、っ……!(幾ら捌いて弾いても、槍や身体の部位を瞬時に入れ替えてすぐに反撃に転じてくる……!それだけでもやりにくいのに、こちらの物理的ダメージが殆ど通らないというのもっ……』
地面に両手を着いてよろよろと身を起こし、欠損してる身体の部位を水で補い、徐々に再生していくポセイドンイレイザーを睨み付けながらクロスは仮面の下で唇を噛み締める。
こちらから拳や蹴りを繰り出せば瞬時に身体を水化してすり抜け、向こうの攻撃を避けても腕や足を武器ごと水化して入れ替えながら、予想外の方向からの攻撃でこちらの虚を衝く。
水質化出来る能力を惜しみなく利用し、尚且つそれを最大限に活かしたトリッキーな戦術でこちらに動きを読ませようとしない。
何とも性根の悪い戦術だ。
これの一体何処が「戦闘は得意じゃない」なのかと小一時間は問いただしい心境になるクロスに対し、残りの水粒を全て集め、完全に元の五体満足の姿に戻ったポセイドンイレイザーは黄金の三叉槍を器用にクルクルと手の中で回転させながら首を傾げてほくそ笑んだ。
『こんなもんかい?あのアスカを追い詰めたぐらいだからもう少しやるものと思ってたけど、これはちょっと期待のし過ぎだったかなぁ』
『ッ……嘗めてくれるなよ、こっちもまだ力の全部を出し切った訳じゃない……!』
ケラケラとわざとらしく笑うポセイドンイレイザーの挑発に敢えて乗っかり、左腰のカードケースからカードを一枚取り出しながら立ち上がったクロスは腰のバックルのスロットを立ち上げ、カードを装填すると共に掌でバックルに押し戻した。
『Code Gungnir……clear!』
電子音声と共にクロスの装甲が一部分離していく。そして新たに形成された橙色の仮面とアーマーが次々に纏われていき、タイプガングニールへとタイプチェンジして身構えるクロスを目にしたポセイドンイレイザーは興味深そうに頷いていく。
『それがこの物語で新しく手に入した力の一つって奴か。噂には聞いてたその力、どの程度のものか確かめさせてもらおうか!』
―バチィイイイイイイッ!!―
『チィ……!』
初めて目にする筈のタイプガングニールを前に臆するどころか、寧ろ愉しみを露わに三叉槍を嬉々として振るい金色の雷撃を再び放つポセイドンイレイザー。
うねる波のように迫り来る雷撃を前にクロスも咄嗟に両脚のパワージャッキを稼働させ、目にも止まらぬ瞬発力で雷撃を回避するように真横へと跳び、更に続け様にパワージャッキを連続稼働させて地面を吹き飛ばす程の勢いで地を蹴り、ポセイドンイレイザーに一気に肉薄して右腕を鋭く振り抜き、殴り掛かる。しかし、
―バシャアァァッ!!―
『(っ、また水化か……!)』
クロスの拳が触れると同時にポセイドンイレイザーの上半身が再び水のように弾け、クロスの拳が虚しく空を切ってしまう。
そのまま勢い余ってすれ違うクロスの背後で、残った下半身の断面部から一瞬で上半身を生やしたポセイドンイレイザーがガラ空きのクロスの背中に向けて素早く三叉槍を振りかざす。
それに対しクロスもすぐさま両腕のナックルを分離してそれぞれ純白の烈槍と漆黒の烈槍に切り替えると、二本の烈槍の柄の底をジョイントさせた両刃の烈槍を頭上に掲げてギリギリで三叉槍を受け止めつつ、力任せに押し返しながら振り向き様の薙ぎ払いでポセイドンイレイザーを後退させていく。
『っと、とと……!へえ、応用力もそれなりに兼ね備えていると?確かに厄介な力だ。アスカが退けられたのも頷けるよ』
『……いつまでそうして様子見を続けるつもりなんだ……それで俺の力を計ってるつもりか……?』
『一応はそのつもりだよ。ただまぁ、君の力が僕の想定を超える物でなければさっさと見切りを付ける気でもある。……無用な長物を弄ばせておく余裕なんて、こっちにはないからね……』
『……?』
ボソッと、顔を背けて何事か呟くポセイドンイレイザーの声を上手く聞き取れず、クロスが怪訝げに小首を傾げる。
そしてそんなクロスの反応を他所にポセイドンイレイザーは顔を背けたまま僅かに小さく微笑んだ直後、その場で派手に身を翻しながら再び大きく横薙ぎに振るう三叉槍から雷の一撃をクロスに見舞い、それを目にしたクロスも咄嗟に両刃の烈槍を振るって雷撃を打ち消し、今の一瞬でいつの間にか回り込んでいた背後から不意を突いて襲い掛かろうとしたポセイドンイレイザーの一撃を振り向き様に烈槍で受け止め、火花を散らしながら鍔迫り合っていく。
『それじゃあ仕切り直しだ。海神の槍と雷神の槍、どちらが上か勝負といこう♪』
『ッ……お前のくだらない酔狂に付き合うつもりはない……!さっさと決着を着けさせてもらう!』
今は調と切歌が止めてくれているとは言え、今のあの二人にはあの数のダスト達を倒す術がない。
きっと本部も自分達の反応を検知して響とクリスを応援に寄越してくれてるとは思うが、この腹の底が読めない男がそれを見越していないとも思えない。
何か嫌な予感に後押しされるまま、今はあの二人の為にも一刻も早くコイツを撃退せねばと気を改め、クロスはポセイドンイレイザーの顔の横を突き抜ける烈槍の先端を左右に開き、刃の奥に内蔵された砲口から高出力のビームを撃ち出す。
その熱量に驚いたポセイドンイレイザーが思わず身じろいで槍に込めた力を抜いた瞬間、クロスはその隙を逃さずビームを放ったまま相手の首に目掛けて三叉槍と鍔迫り合ったまま槍を押し込み、そのままポセイドンイレイザーの頭をビームで一閃しようとするが、寸前の所でポセイドンイレイザーも咄嗟に全身を水に変質させ、やはり紙一重で回避してしまう。
そして今度はクロスの頭上に無数の水粒を瞬時に集めて実体化し、落下の勢いを利用して三叉槍を振り下ろすポセイドンイレイザーに反応し、クロスも両刃の烈槍を振り上げて再び激突していくのであった。
◇◆◆
「──ぐぁああうっ!!」
「切ちゃんっ!くっ!」
場所は戻り、ダスト達を院内に押し留める為に必死に奮闘し続ける調と切歌だったが、記号の力抜きでは無限の再生力を誇るダストの群れの進行を前に徐々に数で押されていき、体力の消耗から僅かに集中力が途切れた隙を突かれ、切歌がダストの攻撃を喰らい吹き飛ばされてしまっていた。
それを見た調は咄嗟に切歌を庇うように倒れる彼女の前に立ち、ヘッドギアの左右のホルダーから小型の丸鋸を連続で放ってダスト達を近付けまいとするが、ダスト達は調の攻撃を受けて頭や腕を欠損しても立ち所に再生してしまい、歩みを止める事すらなく不気味な雄叫びと共に二人へ迫っていく。
(っ……どんなに傷を負わせても向こうの再生のスピードの方が速い……!前に別世界で戦った個体とは再生力が明らかに違う!)
以前風太郎達の世界で戦ったダスト達も際限のない再生力を有していたが、目の前の軍勢のソレはあの時に戦ったどの個体よりも段違いに上回っている。
恐らく生み出す上級イレイザーによって、アレらにも個体差が出るのかもしれない。
どれだけ傷を負っても構わずに迫るダスト達を前にそう考え、調も出せる力の全てを振り絞って必死に迎撃する中、そんな彼女の背中を横目に切歌も震える手で地面に転がる大鎌に手を伸ばすが、其処へ小型丸鋸の弾幕を潜り抜けた数体のダストが調に突進し、切歌の下にまで吹っ飛ばしてしまった。
「うぁああぅっ!」
「調っ?!」
『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
土埃を巻き上げながら地面を滑るように倒れる調を目にし、慌てて彼女の下へ身体を引きずって近付く切歌だが、ダスト達は丸鋸の弾幕がなくなったのと同時にこれを機にと獣の如く雄叫びを上げ、一斉に調と切歌へと襲い掛かっていく。
「ま、不味いデス……!ぐっ……うぅっ……!」
「き、切ちゃんっ……っ……!」
迫るダストの大群を前に調と切歌も顔を引き攣らせながら痛みの走る身体に鞭を打って何とか起き上がろうとするが、二人が復帰するよりも速く先頭のダスト達が調と切歌へと飛び掛かり、振りかざされる凶爪を目にした二人は思わず顔を逸らし、数秒後に襲い来る痛みに備えて歯を食い縛った。その時……
「──どォおおおりゃァあああああああああああああああああああッッ!!!!!」
──上空から橙色の煌めきと共に雄々しい雄叫びを上げながら何者かが猛スピードで落下し、大きく腕を振り上げて調と切歌に飛び掛かろうとしたダスト達を頭上から纏めて殴り付け、そのまま地面に着地しながら凄まじい衝撃波を巻き起こしたのであった。
『『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?』』
「……っ!これって……!」
「もしかして……!」
衝撃波によって巻き起こされる粉塵が吹き荒れる中、腕で顔を庇って土埃を凌ぐ調と切歌も今の聞き覚えのある声で誰が来てくれたのか察し、その表情が鬱陶しい雲が晴れていくように明るくなっていく。
そして突然の闖入者にダスト達も思わず動きを止めて立ち尽くす中、そんなダスト達の頭を次々に撃ち抜きながらもう一人の乱入者が空から現れて着地し、少しずつ治まっていく土霧の向こうで調と切歌の窮地を救った二人組……ギアを纏った響とクリスはお互いに肩を並べ、未だ戸惑いを拭えてないダスト達と対峙しながら身構えていく。
「響さん……!クリス先輩!」
「遅れてごめん二人共、助けにきたよ!」
「ナイスタイミングデス!痺れるデス!」
救援に駆け付けてくれた心強い援軍に喜ぶ二人に、響も振り返って頼もしい笑顔を向けて頷く。だがそんなつかの間の安息すら与えまいと、突然の乱入者に足を止めていたダスト達が獣の雄叫びを上げながら一斉に装者達へと襲い掛かり、迫り来るダスト達を前にクリスも忌々しげに舌打ちする。
「急に本部からの報せを聞いて駆け付けてみりゃまたコイツ等かよ……!いい加減見飽きてんだよ、お前らの面もっ!」
「クリスちゃん、援護をお願い!はぁああああああっ!!」
先の異世界転移騒動で散々煮え湯を飲まされた顔触れにうんざりしながらも、先手必勝と言わんばかりに両手のアームドギアを大型ガトリングガンに切り替えて迎撃を開始するクリス。
その弾丸の軌跡を追うように響も勢いよく地を蹴ってダストの群れの中へと勇ましく突貫していき、二人がダスト達と戦っている隙に何とか起き上がれた調と切歌のヘッドギアに、本部からの通信が届く。
『響ちゃんとクリスちゃん、現着しました!』
『そのまま交戦状態へ移行!』
『上空イレイザーは破格の脅威だ!先ずは装者全員でダスト達を迅速に殲滅した後、蓮夜君の援護へ向かえ!彼なら上級イレイザーが相手でもそう簡単にはやられはしない筈だ!』
「了解デス!調……!」
「うん……!此処から一気に形勢逆転──!」
記号持ちの二人が駆け付けてくれたおかげで戦況は一気にこちら側へ覆ったが、このまま何も出来ずに助けられたまま終わる気などない。
助けられた借りを返しつつ、自分達に出来る最大の援護で二人を手助けすべく、調と切歌もアームドギアを構え直し二人に続こうとした、その時……
「───あぁあぁあぁああぁあぁああぁああぁあぁあぁああぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!??」
「「……っ!!?」」
装者達とダスト達が入り乱れる戦場に、突如として木霊した悲痛な悲鳴。
神社の裏手から聞こえてきたその声に、戦闘中の装者達も思わず動きを止めて驚きと共に振り返った。
「い、今の声って?!」
「……宮司さん?!」
突然の悲鳴に一同がどよめく中、今の声の主が先程逃がした筈の宮司の物だと瞬時に察した調はすぐさま両足のブーツに内蔵された小型の車輪を展開し、地面を滑走しながら急いで神社の裏手へと走り出していく。
「調?!待つデスよ、調ーっ!!」
「切歌ちゃん!待っ、くうっ?!」
「おい待てっ!いくなっ!もし敵がイレイザーならお前等だけじゃ……!」
調の後を追って走り出す切歌を慌てて呼び止めようとする響とクリスだが、ダスト達はそんな混乱にもお構い無しにと二人に容赦なく襲い掛かり、絶え間なく雪崩込んでくるダスト達に対して響とクリスも迎撃を余儀なくされてしまう。
(今の声、間違いなく宮司さんのだった……!一体何が?!)
「調っ!一人で先走るのは危険デスっ!待つデスよ、調っ!!」
その一方、先程の悲鳴の主である宮司を探し戦線を離脱した調は背後から追い掛けてくる切歌の静止の声にも聞く耳を持たず、靴裏の車輪の回転速度を更に速めて神社を迂回し、裏手へと回り込んでいた。
そんな彼女の聞かん坊ぶりに切歌も「ああ〜もうっ!!」と声を荒げて思わず頭を掻き毟るが、それでも彼女を一人放っておく訳にはいかず急いで調の後を追い、神社の裏手に回ると、其処には……
『ケケケ……ケケケケケケッ!』
「うぅ…………ぁああっ…………」
───裏手に回った二人の視界に飛び込んできたのは、緑と灰色が入り交じったような体色をし、不気味に首を回しながら嗤うカメレオンの姿をした赤目のイレイザー。
そしてそんな謎のイレイザーに首を掴まれ、身体を無理矢理持ち上げられて呼吸もままならず、顔色がみるみる内に青白くなっていく宮司の姿だった。
「ノ、ノイズイーター……?!イレイザーがもう一体いたのデスか?!」
「宮司さんっ!!このっ……!」
―α色式 百輪廻―
『!ケヒヒッ、ケヒャヒャヒャヒャッ!!』
イレイザーの気配や反応を探知出来る筈のクロスや本部から何も聞かされていない、新たなイレイザーの出現に切歌が動揺を浮かべる中、宮司の痛ましい姿を見て頭に血を昇らせた調がヘッドギアの左右のホルダーから小型の丸鋸を連続で射出していく。
しかしそれに気付いた新たなイレイザー……カメレオンイレイザーはすぐさま宮司から手を離し、理性の欠片もない狂った笑い声を上げながら無数の小型の丸鋸を軽快な動きで回避してその場から飛び退き、逃げるように後退していってしまう。
「逃がさないっ!」
「お、落ち着くデスよ調っ!今は宮司さんを……!宮司さんしっかりっ、しっかりするデスっ!」
「…………ぅう…………ぁああ…………」
後退するカメレオンイレイザーを追撃し、小型の丸鋸を乱射しながら滑走して後を追う調を慌てて呼び止めながら宮司の下へと駆け寄る切歌だが、彼女に抱き抱えられた宮司は気を失ったまま何かに苦しむように悶え、呻き声を漏らしている。
そんな宮司の姿を横目に調も無意識に唇を噛み締め、自分の攻撃をいなしてわざわざ屋根の上に陣取り、首の骨を不気味に鳴らしながら赤い瞳でこちらを見下ろすカメレオンイレイザーを見上げ、鋭く睨み付けた。
「よくも宮司さんをっ……絶対に許さないっ、貴方だけはっ!」
『ゲゲゲゲ……ゲギャアアッ!』
狙うのならイレイザーを倒す術を持たない自分達を狙えばいいものを、わざわざ何の戦う力を持たない一般人である宮司を襲ったカメレオンイレイザーの卑劣さに怒りを滾らせ、調はヘッドギアの左右のホルダーから二枚の巨大な回転鋸を展開しながら跳躍してカメレオンイレイザーへと飛び掛かる。
対するカメレオンイレイザーもそんな調の激昂を馬鹿にするかのように薄気味悪く嘲笑い、屋根の上から軽快に飛び出して調を迎え撃とうとした、その時……
『──困るなぁ……此処で装者と戦うのはNGだって、事前に何度も釘刺しておいた筈でしょ?』
……不意に何処からともなく響き渡る飄々とした男の声。
直後、調とカメレオンイレイザーの横合いから金色の雷撃が突如飛来し、無防備な二人の横腹に轟音と共に炸裂して纏めて吹き飛ばしてしまったのだった。
『ギャアァッ!!?』
「うぐぁあうぅッ!!?」
「ッ……?!し、調っ?!」
突然の攻撃に受け身も取れず吹き飛ばされ、地面の上を何度も転がって土埃を巻き上げる調とカメレオンイレイザーの姿を目にし、宮司を一旦近くの木陰に避難させていた切歌も驚きと共に慌てて調の下へと駆け寄り、身体を抱き起こしていく。
其処へ、砂利を踏み鳴らす音と共に誰かが近付いてくる足音が聞こえ、その音に釣られて切歌が思わずそちらに目を向けると、其処には……
『……全く、理性のないノイズ喰らいはすーぐこっちの思惑から逸れるから大変だ。命令に従順なとこは評価出来るけど、飼い慣らすのにはもうちょっと時間が掛かるかなぁ、コレ』
「ッ!ど、どうしてっ……?!」
「ぐっ……じ、上級イレイザーが……もう、一体っ……!!?」
肩を竦めて「やれやれ」と首を振りながら姿を現したのは、黄金の三叉槍を手にした青と黒のローブを纏う亜人……。
今も調神社の外でクロスと一対一の激闘を繰り広げている筈の、"もう一人のポセイドンイレイザー"の姿があったのだった。