戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第七章/離Yy式・解答不能×切り離されたaヵ吊奇のウタ④(後)

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『ハァアアアアッ……ハァアアッ!!』

 

 

 時間は少し戻り、調神社の外の広場ではポセイドンイレイザーから距離を離したクロスが腰のバックルにカードを颯と装填し、辺りに響き渡る電子音声と共に両肩のアーマーを変容させたドリルナックルを右腕と左腕にそれぞれ纏い、両腕を交互に突き出して白と黒のドリルナックルをポセイドンイレイザーに向けて立て続けに放っていた。

 

 

 ドォォオオッ!!と、クロスの両腕から勢いよく射出された二基のドリルナックルは刃を回転させながら稲妻状の火花を撒き散らし、ブーストで加速しながらポセイドンイレイザーに向かって一直線に空を駆け抜ける。

 

 

 それを見たポセイドンイレイザーも即座に真横へ飛び退いて回避を試みるが、二基のドリルナックルは空中で横滑りに方向転換してポセイドンイレイザーを追い続けていく。

 

 

『おいおいマジィ?自動追尾付きってまた厄介だなぁ、ったく!』

 

 

 バックステップを繰り返して何とか振り切ろうとしても、白と黒の二基のドリルナックルは執拗にポセイドンイレイザーを追い掛けて追撃を止めようとしない。

 

 

 やがて痺れを切らしたポセイドンイレイザーは「めんどくさっ!」とボヤき、このままでは埒が明かないと踏んだのか後退を止めて三叉槍の切っ先を突き出し、槍の先端から雷撃を立て続けに撃ち出す。

 

 

 宙を奔る雷撃を浴びせられ、二基のドリルナックルは空中で機能停止しながらそのまま内側から爆発して木っ端微塵に吹き飛んでしまい、追撃を免れたとポセイドンイレイザーが胸を撫で下ろして一息吐いた瞬間、ドリルナックルの爆発で発生した黒煙を切り裂いてクロスが勢いよく飛び出し、ポセイドンイレイザーの懐へと踏み込んだ。

 

 

『!やっべ──!』

 

 

『ぜぇええァああああっ!!』

 

 

 気を抜いた一瞬の隙を突いて肉薄するクロスを前に慌てて槍を突き出すポセイドンイレイザーだが、それに対してクロスも咄嗟に下から突き上げた掌底で三叉槍を上へと弾きながら後ろ腰に両腕を引き、そのままポセイドンイレイザーの腹部に押し当てた両手で発勁を叩き込む。

 

 

 しかし、発勁を打ち込まれたポセイドンイレイザーは瞬時に自身の身体を水質化させて弾け飛び、そのまま無数の水粒と化した己自身をクロスから離れた場所に集めて実体化し、無傷の状態で何事もなかったかのようにほくそ笑んだ。

 

 

『無駄だよ無駄。水そのものになれる僕に物理的な技なんて何一つ通用しない。幾らやり口を変えようと、君の攻撃が僕に届く事なんて有り得ないのさ』

 

 

『…………』

 

 

 どんなに技の趣向を変えようとも、あらゆる技を水になって無効化する自分の前では無意味でしかないと、ポセイドンイレイザーは自身の胸を親指で突つきながら自信に満ちた口調で言い切る。

 

 

 対するクロスは無言のまま何も答えずに左手を前に、右腕を腰の後ろに引いて構えを直していき、そんなクロスを見て彼がまだ性懲りもなく戦うつもりだと察したポセイドンイレイザーはやれやれと肩を竦め、三叉槍をクルクル回しながら槍の先端から雷を放出していく。

 

 

『何度やったって結果は変わらないってのに、諦めが悪いのも考えものだね……。まあいいさ、君にまだその気があるなら僕も吝かじゃない。とことんまで付き合って、その闘志を根こそぎまでへし折るのも悪くは──』

 

 

 対策もロクに取らず、愚直にただ向かってくるだけなら所詮その程度。

 

 

 利用する価値もないのなら此処で始末するだけだと、クロスに見切りを付けるべきか否かの算段を今から考え始めながらポセイドンイレイザーが槍を振りかざし、再び雷撃を放出しようとした瞬間、

 

 

 

 

──ポセイドンイレイザーの腹の内側から突如、まるで刃が突き出すかのように橙色の爆発が発生したのであった。

 

 

『──ッ!!?な、にっ……!!?』

 

 

 ガシャンッ!と、不意に腹部を襲った凄まじい激痛と衝撃に見舞わられ、思わずその手から落とした三叉槍が地面に落下し甲高い金属音が鳴り響く。

 

 

 何だ、今何が起きた?

 

 

 あまりの痛みに立つ事もままならぬままそんな疑問が脳内を埋め尽くし、片膝を着いて円形状の火傷の跡が残る腹部を抑えながら混乱するポセイドンイレイザーを見て、クロスは僅かに構えを緩めながら何かに納得したように頷く。

 

 

『成る程……厄介なその力、どうやら意識外に発動する事は出来ないようだな……ある程度は意識しなければ使えないとなれば、こちらが付け入る隙もそれなりにありそうだ』

 

 

『ッ……!この痛みっ、君の仕業かっ……!一体、何をっ……?!』

 

 

『別段大した事は何もしていない……。たださっきの攻撃の際、お前が変容した水の中に少し仕込みをさせてもらっただけだ』

 

 

 先程の攻防の際、ポセイドンイレイザーの腹部に打ち込んだ発勁。

 

 

 一見かわされてしまったかのように見えたあの一瞬、ポセイドンイレイザーが変容したあの無数の水粒の中にエネルギーを予め注ぎ込み、奴が油断し切って実体化している隙に時限式で暴発させ、ダメージを与えられないか試みた。

 

 

 奴の能力が無意識にでも発動するものなら無駄にしかならなかったが、どうやら思っていたより効果は覿面だったようだ。

 

 

 駄目元のつもりだった策が幸を成し、奴の能力の穴が露呈したこの隙を逃すまいとクロスはすかさずバックルからスロットを立ち上げ、再度押し込み電子音声を鳴り響かせる。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『ッ!させるか!』

 

 

 ベルトを操作するクロスを見てポセイドンイレイザーはすぐさま手を着いた地面に水のエネルギーを注ぎ込み、地面から巨大な水柱を幾つも噴き出させてクロスへと襲い掛かっていく。

 

 

 しかし、クロスは迫る水柱を前にしても動じる様子はなくゆっくりと身を屈めながら全身の装甲を部分展開していき、仮面の複眼とクラッシャーの内側から橙色の光を発光させる。

 

 

 同時に、オレンジ色に光輝く両脚を揃えて勢いよく地を蹴り、水柱を軽々と飛び越えながらパワージャッキを稼働させた雷光を纏う右脚を突き出し、咄嗟に防御態勢を取るポセイドンイレイザーの三叉槍と正面からぶつかり合っていったのだった。

 

 

『はァアアああああああっっ!!!!』

 

 

『ぐぅううぅっ!!こ、んな……ものでぇっっ……!!』

 

 

 雷光煌めくクロスのライダーキックを全力で受け止めながら、ポセイドンイレイザーは身体を再び水に変容させて何とかこの場から切り抜けようと試みるが、先程受けた腹部のダメージのせいで集中が出来ず、上手く身体を変容させる事が叶わず目に見えて水質化の速度が落ちている。

 

 

 その好機を逃さず、クロスは三叉槍を支点に右脚の重心を預けたまま左脚のパワージャッキを同時に稼働させ、そのまま左脚を振り抜いてポセイドンイレイザーの手から三叉槍を弾き飛ばしながら空中で身体をコマのように勢いよく回転させる。

 

 

『!しまっ──!!』

 

 

『ぜぇええああああッッ!!!』

 

 

 不意を突かれて手放した槍に思わず手を伸ばすポセイドンイレイザーに、身体を翻す勢いを乗せたクロスの後ろ回し蹴りが横一閃に炸裂し、雷豪の轟きと共に横一文字の雷撃をその身に刻み込んだのだった。

 

 

『ガァッ──!!!?ァ──ま、さか──ここま、で──!!』

 

 

『……それがお前のエンドマークだ』

 

 

『ァァあぁああああぁぁぁああぁぁあああぁああぁぁぁぁあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!?』

 

 

 背中を向けて着地したクロスが部分展開された全身の装甲を完全に元に戻したと同時に、ポセイドンイレイザーの胸から一際大きい火花が噴き出し、直後、凄まじい爆発が身体の内側から巻き起こりポセイドンイレイザーを呑み込んでいった。

 

 

 その熱を背中越しに感じ取りながらクロスも薄い息を吐き出し、元の通常形態に戻りながら徐に身を起こして振り返ると、地面を走る炎の中に力無く仰向けに倒れ、ボロボロの姿で気を失っているポセイドンイレイザーを静かに見下ろしていく。

 

 

(手応えは確かにあった。今の一撃で倒せたのは間違いない……しかし何だ、この違和感……本当にコイツはあの上級のイレイザーだったのか……?)

 

 

 仮面の下で訝しげに眉を顰め、クロスは地面に倒れたまま動かないポセイドンイレイザーをじっと見つめる。

 

 

 前に戦ったイグニスイレイザーがそうだったように、神話型のイレイザーともなればその力は並のイレイザーを上回り、他の追随を許さない絶大な力を有しているハズ。

 

 

 なのにそんな難敵を相手に、特に苦戦する事もなくこうもアッサリ倒せるなどと、幾ら自分が以前より力が増してるとは言えそんな事が果たして有り得るのだろうか。

 

 

 とてもあのアスカと同じ存在とは思えないポセイドンイレイザーの強さに内心疑問を抱かずにはいられないクロスだが、思考の末にやがて深々と溜め息を吐きながら頭を振り、倒れるポセイドンイレイザーに近付いて一歩前へと踏み出した。

 

 

(まあいい、考えるのは後回しだ。いずれにせよコイツが危険な存在である事に変わりはない。今はこの男を敵の情報源として拘束すべきか否か……いや、あのアスカとかいうイレイザーが追い詰められたあまり自爆しようとした例もある……下手に生かしておくよりも、此処で始末して奴らの戦力を少しでも削るべきか……)

 

 

 仮に此処で拘束したとしても、この男がそう易々と情報を吐いてくれる保証もなし。何より、このイレイザーの力が今の戦いで見せた全てとも限らない。

 

 

 不用意にこの男をS.O.N.G.の内部に招き入れ、その力で組織を内側から攻められでもすればひとたまりもない。

 

 

 その危険性を考慮し、アスカの時の二の舞にならぬように此処で完全に息の根を止めるべきかと考え、左腰のカードケースから一枚のカードを抜き取ったクロスはバックルに装填して再び必殺技を発動しようとし……

 

 

 

 

 

───倒れたまま動かないポセイドンイレイザーの全身が不意にドロリと、水色のゲル状に変質し始めた。

 

 

『ッ?!何だ……これはっ……?』

 

 

 先程の戦闘で見せた水質化とは明らかに様子が違う異常。

 

 

 また新たな攻撃の兆しかと思い、慌てて身を引きながら警戒を強めるクロスを他所にポセイドンイレイザーの異変は止まらず、その肉体はまるで飴細工のようにドロドロと溶けていき、そのまま地面に吸い込まれるように消滅し始めていた。

 

 

『!おい、待て!』

 

 

 目の前で身体が崩れていくポセイドンイレイザーを見て驚愕を隠せないまま慌てて呼び止めるクロスだが、その声も届かず、ポセイドンイレイザーは完全に液状化して消えてしまうと共に、イレイザー特有の気配も消えてなくなってしまった。

 

 

(ッ……完全に消滅したっ……どういう事だ、死んだのか?いや、仮にも神話型があの程度の傷で致命傷になる筈が…………?!)

 

 

 目の前で起こった突然の出来事に理解が追い付かず困惑するクロスだが、その時、調神社の方から奇妙な気配を感じ取り、驚きと共に神社の方へと振り返る。

 

 

(何だ、この妙な気配……?前にも何処かで……)

 

 

『──蓮夜君!聴こえているか?!』

 

 

『……ッ!風鳴司令?』

 

 

 今の今まで感知する事が出来なかった、突然沸いて出たようにしか思えない何処か覚えのある気配にクロスが困惑する中、不意に本部にいる弦十郎からの通信が届いた。

 

 

 今度は一体何事かと困惑が収まらぬまま聞き返そうとするが、それよりも早く、切羽詰まった様子の弦十郎から衝撃的な事実を告げられた。

 

 

『緊急事態だ!君が戦っていた上級イレイザーがもう一人、新たなノイズイーターと共に現れた!現在調君と切歌君が応戦している!今すぐ救援に向かってくれ!』

 

 

『……なっ……』

 

 

 先程不可解な消え方をした筈のポセイドンイレイザーが、新たなノイズイーターと共に調と切歌を襲っている。

 

 

 突然に告げられたその不可解な内容に一瞬理解が追い付かず硬直してしまうクロスだが、同時に頭は今も察知しているこの奇妙な気配の正体がそのノイズイーターだと瞬時に察し、胸に飛来した嫌な予感に駆られるまま弦十郎に詳細を問うよりも先に身体が勝手に動き出し、急いで調神社に戻るべく走り出していくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーアアアァァンッッッ!!!!!―

 

 

「きゃあああああっっ!!!」

 

 

「うぁああうううぅぅっっ!!!」

 

 

 その一方、宮司の悲鳴を聞き付けて神社の裏手に回った調と切歌はもう一人のポセイドンイレイザーの襲撃に遭い、窮地に立たされていた。

 

 

 ポセイドンイレイザーが乱雑に振るう三叉槍から放出される金色の雷が大地を抉りながら調と切歌に炸裂し、二人は纏めて吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がり倒れ伏せてしまう中、ポセイドンイレイザーは飄々とした足取りでそんな二人に歩み寄りながら退屈げに告げる。

 

 

『この程度なのかい?前の戦いじゃ雪音クリスは記号がなくともアスカを相手にシノギを削ったと聞いていたけど、君達に其処までの期待を求めるのは酷な話だったかな?』

 

 

「うぅっ……!」

 

 

「っ……ど、どうして、此処に……?貴方は蓮夜さんと、戦ってたハズ……!」

 

 

『さあねぇ。どうしてだと思う?見事正解したら豪華賞品を進呈しよ〜。……なーんてね』

 

 

 ケタケタと、人の神経を逆撫でするようなわざとらしい笑い声と共に三叉槍を振り上げ、ポセイドンイレイザーは倒れる調と切歌に容赦なく襲い掛かる。

 

 

 それを見た二人も咄嗟に左右へ飛び退いて散開しながら槍の一撃から逃れるが、ポセイドンイレイザーは躱された三叉槍をそのまま地面に突き立ててエネルギーを流し込み、瞬間、ポセイドンイレイザーを中心に凄まじい水爆発が発生し、調と切歌を巻き込み纏めて吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「うああぁぁっっ!!!」

 

 

「ぐうっっ!!(っ……これが上級イレイザーの力っ……今の私達じゃっ……どう、すれば……!」

 

 

 至近距離からの爆発をまともに喰らって地面に叩き付けられてしまい、全身水浸しになりながら調は激痛の走る身体を抑えて何とか上体を起こし、焦燥の入り交じった眼差しでポセイドンイレイザーを睨み付けながら額から汗を伝らせていく。

 

 

 思わぬ形で合間見える事になってしまった上級イレイザーとの初戦。

 

 

 その力は蓮夜の口頭や以前見た蓮夜とイグニスイレイザーの戦闘記録で知識としては理解していたつもりだが、こうして実際に相対してその脅威度は想像を遥かに超えていた。

 

 

 このままでは数度の打ち合いもままならずこちらが負ける。

 

 

 そう確信せざるを得ない程までの力の差を感じて二人が焦りを露わに何とかアームドギアを手に身を起こす中、悠然とした足取りで二人に歩み寄ろうとしたポセイドンイレイザーは視界の端で脇腹を抑えながらこちらを見つめるカメレオンイレイザーの存在に気付き、面倒そうに溜め息をこぼした。

 

 

『まだ居たの?せっかくこうして時間稼ぎしてるのに、君が何時までもそんなんじゃ意味ないでしょ?役目は終えたんだし、さっさと離脱しなよ』

 

 

『ギギギ……ゲゲゲゲッ……』

 

 

 冷たい口調で突き放すように告げるポセイドンイレイザーの指示に、カメレオンイレイザーは一瞬何処か不服そうに俯いた後にその身体を徐々に透明化させていき、やがて周りの景色に溶け込むように完全に消えてしまった。

 

 

「い、イレイザーが消えちゃったデスよ?!」

 

 

『二人とも、今の内だ!そのまま負傷者を連れて後退しろ!今のお前達ではそのイレイザーには勝てん!奴の相手は蓮夜君達に任せるんだ!』

 

 

「!そういう訳には……!―ガギィイインッ!!―ぅああっ!!」

 

 

「調?!ぐぁうっ?!」

 

 

 弦十郎からの命令を無視し、消えたカメレオンイレイザーの後を調がふらつきながら追い掛けようとするも、それを阻むように接近したポセイドンイレイザーが三叉槍を調に叩き付けて斬り飛ばしてしまい、更にうつ伏せに倒れる切歌に歩み寄ると共にその背中を踏み付け、両手に握り締めた三叉槍の尖端を真下に向けて彼女に突き付ける。

 

 

『悪いけど彼を追わせる訳にはいかないのでね。後々の為にも、此処で一人ぐらい再起不能になってもらおうか!』

 

 

「ッ……!!」

 

 

「切ちゃん!!」

 

 

 一切の躊躇なく振り下ろされた三叉槍の鋭い刃が、切歌の背に勢いよく迫る。その光景を前に調も必死の形相で慌てて起き上がるが既に間に合わず、三叉槍が自身の背中を刺し貫く痛みに備えて切歌も目を強く瞑りながら思わず顔を伏せた、その時……

 

 

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『はぁああああっっ!!』

 

 

『……ッ!―ドゴォオオオオンッ!!―ぐぅううぅっ!』

 

 

「……ぅえ?!」

 

 

「ッ!蓮夜さん……!」

 

 

 何処からともなく鳴り響く電子音声と共に、神社の屋根の上を軽々と飛び越えながら現れたクロスが蒼色に輝く右脚を振り抜いてポセイドンイレイザーに不意打ちの飛び蹴りを放ち、その顔を思いっきり蹴り飛ばして切歌から引き離したのであった。

 

 

 そうして切歌の窮地を救ったクロスを見て調の表情に喜色が差す中、其処へ丁度ダスト達を片付けた響とクリスも合流し、調と切歌の下へと駆け寄っていく。

 

 

「調ちゃん、切歌ちゃん!」

 

 

「お前ら、無事か?!」

 

 

「響さん……クリス先輩も……」

 

 

「な、何とか、大丈夫デス……。蓮夜さんもありがとうデス、助かったデスよっ……」

 

 

『間に合ったのならそれでいい……それより……』

 

 

 調と切歌を一瞥して彼女達の無事に内心安堵しつつ、クロスは鋭い眼差しで目の前の青の亜人……クロスに蹴られた顔を抑え、わざとらしく痛がる素振りを見せるポセイドンイレイザーを睨み付けた。

 

 

『いってぇっ……ちょっとさぁ、いきなり不意打ちした上に人の顔を蹴り飛ばすとか酷くないかい?もう少しこう、手心ってのをさぁ』

 

 

「ほ、ホントに上級イレイザーがもう一人……?!」

 

 

『どういう事だ……今さっき倒した筈のお前が、どうしてこんな所にいる……!』

 

 

『え、全無視?わー、流石に僕でもこれは傷付いちゃうかなー。幾ら人でなしって言っても、そういうので傷付くだけの人並みの感情ぐらいはまだ残ってるつもりなんですけどー?』

 

 

『惚けるんじゃない!いいから答えろ!それにさっきまで感じていた奇妙な気配、ノイズ喰らいも此処にいた筈だ!一体何処へ隠した?!』

 

 

「そ、それが……」

 

 

「さっき、コイツに邪魔されたせいで逃げられちゃったデスよ……しかも逃げられたそいつのせいで、宮司さんが……」

 

 

「んだと……?!」

 

 

 悔しげにそう言いながら調と切歌が向けた視線の先を追うと、近くの巨木に寄りかかったまま気を失っている宮司の姿を捉え、響は慌てて宮司の下へと駆け寄り、クロスもそんな宮司の変わり果てた姿を見て仮面の下で険しげに顔を歪めながらポセイドンイレイザーに向けて静かに身構えていく。

 

 

『どうやらお前には、聞き出さなければならない事が山ほどありそうだ……何が目的なのか、此処で全て吐いてもらうぞ……!』

 

 

『いやいや、そう言われて素直に答える奴っている?まぁそれで何かが面白く変わるんなら吝かじゃないけど、そうじゃないならこっちには何のメリットもないしさぁ?』

 

 

「ごちゃごちゃうるせえんだよ!良いからとっとと武器捨ててプチョヘンザしやがれ!」

 

 

 後頭部を掻きながらめんどくさそうに告げるポセイドンイレイザーの煮え切らない態度に痺れを切らし、クリスが怒号と共に銃を突き付けて投降を促すものの、ポセイドンイレイザーはそれでも余裕を崩さず鼻で軽く笑いながらクロス達の方に向き直る。

 

 

『まあそう焦らないでよ。折角仕込みも終わってこれからって所なんだし、どうせなら君達も楽しんでいくといい。こんな体験、普通に物語の筋書き通りに生きてたら絶対に味わえないんだしさ?ふふ』

 

 

『何を──!』

 

 

 ふざけた事を……!と、軽薄なポセイドンイレイザーの態度に憤って反論しようと身を乗り出すクロスだが、その言葉も最後まで言い切れず驚愕で目を見開いてしまう。

 

 

 何故なら、目の前で嗤うポセイドンイレイザーの身体が突然先程と同様徐々に水色のゲル状へと変化していき、全身がゆっくりと溶けて崩壊し始めたからだ。

 

 

「な、何だコイツ……身体が急に……?!」

 

 

『転移……?いや、違う……まさか、お前はっ……』

 

 

『フフッ……もう一人の僕の口から聞いてない?僕はアスカのように戦いが得意な方じゃないから、自分の能力を駆使しないと君達とまともに戦うだなんて怖くて仕方ない。だからまぁ、僕自身は安全な所で高みの見物をしつつ、こうして"傀儡"を通して現場を指揮してるって訳さ』

 

 

「く、傀儡……?」

 

 

「クソッ!」

 

 

 少しずつ身体が溶けていくポセイドンイレイザーの傀儡というワードに戸惑う切歌の横で、クリスがポセイドンイレイザーを逃がすまいと躊躇なく両手のリボルバーを発砲してその頭を撃ち抜いていく。

 

 

 だが、ポセイドンイレイザーは頭を風穴だらけにされても何事もなくクツクツと不敵に笑いながら完全なゲル状に変化し、地面に粘液状の水溜りを広げて完全に消え去ってしまった。

 

 

「ッ!逃げたのか……!」

 

 

『……いや……今のはきっと奴が言っていたように、能力を使って生み出した偽物……それも気配が寸分違わない所からしてダストとは比べ物にならない分身だ……本物の奴本人は恐らく、何処か別の場所から俺達の事を見ているんだろう……』

 

 

 そう言ってクロスはポセイドンイレイザー……否、クレンが能力を用いて生み出した分身が消えた後の地面を見下ろすと、顔を上げて険しい表情のまま遠方を睨み付けていく。その視線の先に……

 

 

 

 

 

「───こっちに気付いてる……って訳でもないか。まぁ仮にそうだとして、今更S.O.N.G.に追っ手なんか向けさせても間に合う筈ないけど」

 

 

 

 

 

───調神社から数キロほど離れた場所にある山岳部の木の太枝の上に、二体の分身を調神社に送り込んだ本物のクレンの姿があった。

 

 

 人差し指と親指で作った輪の穴から、数キロほども距離が離れている筈の調神社の状況を覗き込み、まるでこちらの居場所に気付いているかのように鋭い眼差しを向けるクロスの視線と目が合いながらほくそ笑み、クレンは静かに腕を下ろして青い空を仰ぎ見た。

 

 

(一先ず必要な布石は打った……後は芽が花開いた時、彼等が思惑通りに動いてくれるか否か……)

 

 

 内心そう考えながら、クレンは徐に目の前に掲げた右手の掌から水を生み出す。

 

 

 それは徐々に形を変えながら球状となり、水の中に一人の人物……調神社にて調達に介護されている宮司の姿が映し出されていく。

 

 

(まぁ、どうせデュレンも大して期待している訳でもないんだ……今回はある程度適当に進めても問題ないだろうし、ならいっその事、この機会を上手く利用させてもらうとするさ──)

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

『──了解した。急いでそちらに情報部と救護班を向かわせる。お前達はその間イレイザー達の再度の襲撃に警戒しつつ、負傷者の警護を頼んだ』

 

 

『調さんと切歌さんが遭遇したというノイズイーターの映像も、こちらでデータを纏め次第そちらの端末にお送りしますね』

 

 

「わかった。頼んだぜおっさん、エルフナイン」

 

 

 その頃、ポセイドンイレイザー達を一先ず退ける事は出来た蓮夜達はカメレオンイレイザーに襲われた宮司を神社内の一室にまで運んで介護しつつ、S.O.N.G.と通信を繋いでいた。

 

 

 クリスが部屋の外で弦十郎とエルフナインに調と切歌から聞かされた情報も含めて報告する中、未だ目覚める気配もなく布団の上で眠る宮司の容態を蓮夜が確かめ、切歌と響も不安げその様子を見守る中、宮司の傍らに座る調は顔を伏せて思い詰めた表情を浮かべていた。

 

 

「私のせいだ……私が宮司さんを一人で逃がしたりなんかしたから……」

 

 

「そ、そんな、調ちゃんが責任を感じる必要ないよ!」

 

 

「そうデス!悪いのは全部あの性悪イレイザーデスよ!無関係な人間をわざわざ狙うような真似して……!調は何も悪くなんかないデス!」

 

 

「……でも、そもそも私がこの神社に行こうだなんて言い出さなかったら、宮司さんが巻き込まれる事だって……」

 

 

 あのクレンとかいうイレイザーが何の為にこの調神社に現れたのかは定かではないが、もしも自分達を標的として狙ってたのだとしたら宮司はたまたま巻き添えに遭ったという事になる。

 

 

 仮にそうなら、彼がこんな目に遭ったのも調神社行きを最初に提案した自分にもその一因はあると落ち込んでしまう調を見て響と切歌も必死に元気づけようとする中、本部への報告を済ませたクリスが室内に足を踏み入れていく。

 

 

「取り敢えずおっさん達への報告は済ませておいたぞ。……そっちの様子はどうだ?」

 

 

「……一通り見た所、大した外傷は特に見当たらない。脈も呼吸も正常で、一先ずは今すぐに命が危機……なんて事はないだろうと思う」

 

 

「!本当ですか!良かったぁっ……」

 

 

「ああ……ただ──」

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

 蓮夜の口から命に別状はないと聞かされホッと安堵する響達だが、蓮夜は何故か歯切れが悪く顔を逸らしてしまう。そんな蓮夜の様子に響達が怪訝な表情を浮かべる中……

 

 

「───ぅ…………うぅっ…………」

 

 

「……?!宮司さん?!」

 

 

 眠っている宮司が不意に苦しげに呻き声を漏らし、苦しげに顔をしかめた。それを見た響達は思わず身を乗り出し、調も宮司に顔を近付けて必死に呼び掛けていく。

 

 

「宮司さん!私達の声が聞こえますか?!しっかりっ……!」

 

 

「……………………ッ…………?こ……こ、は…………?」

 

 

「良かった、目が覚めた!」

 

 

「大丈夫デスよね?アタシ達の事、分かるデスか?!」

 

 

 漸く目を覚まし、意識がまだ朧気な様子の宮司に自分達の事が分かるか必死に呼び掛ける切歌の声に釣られ、宮司は切歌や響、傍らの蓮夜の顔を気だるげに見回していく。

 

 

「みな、さん……?はて……私は……一体、何を……?」

 

 

「あ、その……宮司さん、ずっと意識がなくて眠ってたんです……あの怪物に襲われたせいで、それで……」

 

 

「…………!!!!」

 

 

 困惑している様子の宮司に何とか状況を説明しようと、しどろもどろになりながらも今までの経緯を語る調だが、宮司はそんな調に目を向けた途端、突然目を剥いて言葉を失ったかのように絶句してしまう。

 

 

「……?宮司さん?」

 

 

「おい、爺さん?どうし──」

 

 

「ぁ……ぁああああっ……!!!!」

 

 

―ガバァッ!―

 

 

「「「……え!!?」」」

 

 

 何だか様子が可笑しい宮司を見て一同が頭上に疑問符を浮かべる中、宮司は急に布団から飛び起きたかと思えば、なんといきなり調に抱き着いて彼女を抱き締めたのである。

 

 

「ぐ……宮司、さんっ……?」

 

 

「嗚呼……!調、調!よく、よく無事でっ……!ぅ、うううっ……うぅっ……!」

 

 

「え、えっ……ええっ!?」

 

 

「オイオイ……何がどうなってんだこりゃっ……?!」

 

 

「……………………」

 

 

 一体何が起きてるというのか。突然調を力強く抱き締めながら声を詰まらせて泣き始める宮司の尋常ではない様子に響達は勿論、彼に抱き締められる調も状況が飲み込めずただただ困惑するしかない中、ただ一人、蓮夜はそんな宮司の姿を見て何やら沈痛な面持ちを浮かべ、静かに瞼を伏せながら顔を俯かせてしまうのであった。

 

 

 

 

 

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