戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
―調神社・応接間―
「──いやはや、先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした……。皆さんの前で年甲斐もなく、大変見苦しい姿をお見せしてしまい……」
「い、いえいえ、私達は全然気にしてないから大丈夫……なんですけどぉ……」
──あれから約三十分が経ち、空が夕暮れ色に染まりつつある調神社。
先程意識を取り戻したと同時に、何故か突然調に泣きながら抱き着いて尋常でないほど取り乱した宮司をどうにか落ち着かせた響達は、彼と共に調神社の応接間にテーブルを挟んで集まっていた(因みに蓮夜は本部へ報告する事があるからと、今は一人席を外して部屋の外に出ている
先程の痴態を恥じてか、恥ずかしげに頭を掻きながら苦笑いを浮かべる宮司のその姿は一見いつもと変わらぬ様子に見えるのだが、響達はそんな彼と対面しながらもその顔には揃って戸惑いの色が浮かんでいた。何故なら……
「ともかく、あの怪物から助けて頂き本当に有り難うございました。……ほら、調も皆さんに感謝しないといけませんよ?おかげでうちの神社もこうして無事だった訳ですから」
「…………あ、あの、宮司さん……私は、その……」
「おやおや。人前だからといってそう畏まらずに、いつも通り"お爺ちゃん"と呼んでもらって大丈夫ですよ?でないとうちの神社の狛兎に倣い、可愛い可愛い"孫"にそう他人行儀にされてしまっては寂しさのあまり死んでしまいますよ……よよよっ」
「え、っと……あの……」
「何を倣ってなんだよ……そもそもそんなんで死んでたら魔除け像の意味ねぇだろうって……」
着物の袖で目元を覆いながらあからさまな嘘泣きを見せる宮司に調も困り果て、クリスも顔を逸らしながら思わずツッコミを入れてしまうものの、一同が戸惑っているのは今の宮司の発言の通りだ。
自らを"祖父"と称し、調の事を己の"孫"と呼んでいる。
意識を取り戻してからの宮司は何故か自分と調の関係をそう認識しており、響達や当の本人の調もどうして宮司がそんな風に調の事を呼ぶのか一切訳が分からず困惑してしまう中、宮司が不意に席を立ってにこやかに微笑む。
「そうそう。せっかくですから、今晩は皆さんうちに泊まって行って下さい。助けて頂いた御恩もありますから、今日は腕に寄りをかけてご馳走様を作りましょう。勿論、食後のデザートにはキッシュやカヌレも大盤振る舞いですよ?」
「い、いえ、そんな気にしないで大丈夫ですよ?!それに宮司さん、今はしっかり安静にしてないと……!」
「そうデス!ただでさえあんな目に遭ったばかりで病み上がりなんデスから!」
「ははは、お気遣いありがとうございます。ですがご心配なく。こう見えて見掛けに寄らず丈夫でしてね。それにせっかくこうして調のご友人が集まって頂いたのですから、今はゆっくりと、友人同士の時間を楽しんで下さい。その方が調もきっと喜びますから」
ではでは、お邪魔虫な爺はその間台所にでも引っ込んでおりますよ〜と、響と切歌の心配も他所に宮司は陽気に笑いながら部屋から出ていき、夕飯の準備をしに向かってしまう。
そんな彼の部屋から出ていく様子を見送り、宮司が出ていった後の室内では響達はお互いに困惑の表情を浮かべて顔を見合わせてしまう。
「い、一体何がどうなってるデスか?なんていうか、ホントに調の事をお孫さんみたいに思ってるっていうか、随分と気のいい優しいおじいちゃんみたいになっちゃってるデスよ……?」
「んなのあたしが知りてぇよ……まさか、イレイザーに襲われたせいで可笑しくなっちまったのか?」
「……もしかして……」
「……?響さん?」
普段と同じ陽気さは変わらぬが、調の事をまるで本当の孫のように見ている宮司の急な変化に切歌もクリスも困惑が収まらない。
そんな中、響だけがあの宮司の今の異常に心当たりがあるかのような深刻げな表情を浮かべ、それに気付いた調が響に追及しようとしたと直前に部屋の襖が開き、蓮夜が顔を出した。
「皆、少しいいか?話しておきたい事がある」
「え?蓮夜さん……?」
「何だよ、急に出ていったかと思えば話って……っておい!何処行くんだよ?!」
用件を伝えたかと思えば、そのまま無言で踵を返して部屋を後にしようとする蓮夜を慌てて呼び止めるクリスだが、蓮夜はそのまま足を止める事なく何処かへ歩いていく。
それを見て調や響達は慌てて立ち上がってその後を、クリスは相変わらず言葉足らずな蓮夜に「あーったく!」と頭を掻き毟りつつも、皆の後を追い掛け部屋から出ていったのだった。
◆◇◆
―調神社・拝殿前―
「──宮司さんが、イレイザーの改竄を受けてる……?」
場所は移り、調神社拝殿前に集まった調達は蓮夜の口から聞かされた衝撃的な内容に驚きを隠せず動揺を露わにし、そんな一同に背中を向け、黄昏の夕日が差す参道の方をじっと見つめ佇んでいる蓮夜は僅かに間を置いた後、重苦しい様子で小さく頷き返した。
「ど、どういう事デスか?何で宮司さんがそんな事に……!」
「それは俺にも分からない……。ただあの人の容態を確かめている最中、彼からイレイザーの力の痕跡を感じ取った。それでまさかとは思ったが、調に対するあの反応を見て、イレイザーがあの人に改竄を施したのだと確信した……宮司さんの身に起きている異常の原因は、先ず間違いなく奴らの仕業だ」
「……だから私の事を自分の孫……家族だと思い込んで……」
「やっぱりそうだったんだ……前に皆が私を忘れてた時の異変と何となく似ていたから、もしかするとって思ってたけど……」
「そういや、こん中でイレイザーの改竄能力を身を持って知ってんのはお前と不器男の二人だけだったな。あたし等はそん時の記憶とか全然ねぇし……けど、何でアイツらは今になって、しかもよりによってあの爺さんを標的にしたってんだ?」
そう、改竄なんて強力な力を使うなら自分達と大して関係もない一般人の宮司よりも、まだ記号の力を持たない調や切歌、或いはS.O.N.G.そのものを壊滅させる事に利用した方がよっぽど有効な筈だし、わざわざこのタイミングで改竄を仕掛けたのにも疑問が残る。
どうせ力を行使するのなら、それこそ以前、自分達が風太郎と五月の世界に出払っている隙を狙っていればリスクも少なく自分達の戦力を一網打尽に出来た筈だ。
それなのに何故?と、首を捻らせる響達のそんな疑問に対し、蓮夜は顎に手を添えて目を細めながら淡々と語り出す。
「あの人を狙った動機は俺にもまだ分からない……ただあの上級イレイザーが先に姿を現して、俺達の注意を引き付けている隙に宮司さんを襲撃した所から見ても、奴らの狙いが最初からあの人にあったのは先ず間違いはないだろう……」
それに……と、蓮夜は言葉を区切りながら響に目を向ける。
「奴がわざわざこのタイミングで仕掛けてきたのも、恐らく以前の響に関する記憶を周囲から消した改竄の件が今まで尾を引いていたからだと思う……彼処までの規模の大きい改竄、それもこの世界にとっての守護者である響の身に異変が起きたともなれば、この世界もイレイザー達の存在に勘づき始めてただろうからな……だから俺達が別世界へ出払っていた際にも力は使えず、調や切歌に対して改竄の力を行使しなかったのも、そういったリスクを考慮してからの事なんだろう」
「んで、ほとぼりが冷めるのを待って、今が落ち着いた頃合いになったからまた改竄の力で仕掛けて来たって訳か?とんでもない力を持ってる割に、案外せせこましい連中だな……」
「けど、イレイザー達が改竄の力をまた使ったなら、この世界も流石に異変に気付くんじゃ……」
イレイザーがこの物語で改竄の力を行使したのは、前回と合わせてこれで二回目。
ともすればこの世界もいい加減異変に気付いてイレイザー達を追放してくれるのではと考える響の問いに、蓮夜は厳しい顔で首を横に振った。
「残念だが、今回と前回とでは規模が違う。この程度の範囲の改竄では物語側も異変に気付きはしないだろう。……そもそも一個人、それもお前達と違ってこの物語じゃ一般人とそう立場の変わらないあの人の身に異変が起きたとしても、この世界は大して気にも留めようとしない……本の中の物語の主人公達はともかく、それ以外の大衆がどうなろうと、本の筋書きには何の影響も及ばなさないからな……」
「っ、そんなっ……」
「要するに、イレイザー共から自分を守ってくれるあたし等みたいな都合のいいヒーローには過保護で、それ以外の大多数の人間がどうなろうと構いやしないって訳か……随分と良い性格してやがんな、あたし等の世界もっ」
悲痛な顔を浮かべる響の横で、賽銭箱前の石造りの段差に腰掛けたまま片膝の上に頬杖を立てて皮肉げに呟くクリス。
蓮夜はそんな響達の背後で、神社の柱に背中を預けたまま両手を絡めて深刻そうに顔を俯かせる調を視界の端に捉えると、一度目を伏せ、改めて真剣な表情に戻り話を続けていく。
「それからもう一つ、皆に話しておきたい事がある。あの人を襲ったイレイザーの件だ」
「……!」
宮司を襲ったカメレオンイレイザーについて蓮夜が言及した瞬間、深刻な様子で俯いていた調がパッと顔を上げる。
すると、響は傍らに置いておいた液晶パッドを手に取って操作し、画面に映る静止画……先程本部から送られてきた、イガリマとシュルシャガナのギアに備え付けられているカメラ機能で撮影されていたカメレオンイレイザーの画像に目を通していく。
「このイレイザー、確か気配も反応も感知出来なくて、蓮夜さんや本部の方でも出現が掴めてなかったんですよね……?」
「見掛け通り、カメレオンみたいにスーって姿を消せてたデスからね……しかもコイツ、何か言動が変だったというか、全然こっちの言葉が通じてる感じがしなかったデスよ……ううっ……一体何処の何者デスかあのイレイザーっ……」
あの薄気味悪いカメレオンイレイザーの不気味な笑い声の残響が未だ耳に残っているのか、横から液晶パッドを覗き込む切歌は青くなった顔でブルルッと身体を震わせて両耳を抑えている。そんな切歌の疑問に対し、蓮夜も柱に背中を預けながら何処か遠くを見つめて語り出した。
「調と切歌が遭遇したソイツは恐らく、ノイズを大量に喰らい過ぎた事で理性が崩壊したイレイザー……増大し過ぎた力に精神が耐え切れず壊れ、見境なく人を襲うようになったノイズ喰らいの失敗作のような存在だ」
「ノイズイーターにも失敗作なんているのかよ……」
「人を見境なくって……あ、もしかしてネットの都市伝説とかにあった人を襲う怪物の正体って、この……?」
「つまり、このイレイザーも暴走してるって事デスか?前にアタシ達が戦ってきた奴らみたいに」
「確かに似てはいるが、アレとはまた少し違うようだ。お前達と出会う以前に俺も何度か戦った事はあったが、アレらは言葉もまともに通じなければ、お前達の知る暴走したイレイザー達のように体格や身体の一部が異常に発達して急激に力が増すような事もなかった。……そもそも彼処まで壊れてしまえば、改竄の力すらまともに扱える筈がないのに、奴はどうやって……」
響達と出会う以前から同様のノイズイーター達と戦った事がある蓮夜にとってもあのカメレオンイレイザーは不可解な存在なのか、困惑を露わにした顔で眉を顰める蓮夜に対し、今まで無言だった調が口を開き、疑問を投げ掛けた。
「あの……それで、イレイザーの改竄を受けてる宮司さんは、あのままでいて大丈夫なんですか……?」
「……今の所は、としか言いようがない……例のイレイザーが改竄したのはお前と宮司さんの関係性と、あの人の記憶だけだが、それも恐らくこれから起こる大事の前準備にしか過ぎないんだろう……あのクレンとかいう男、どうやら前の炎使いのイレイザーとは違い、地頭を使って狡猾に動くタイプのようだからな……」
「実際奴等にとっても、改竄の力を使うのは相当リスキーっぽいしな。ソイツを切っておきながらこのまま何にもせずに退くわきゃないだろうが……弦十郎のおっさんはその辺、何か言ってたのか?あたし等が神社の中で話してた間、異変の事とか伝えてたんだろ?」
「一先ず、こちらに向かってる途中だった応援部隊には命令の変更を伝えて、消えたイレイザー達の行方の追跡と市街地の方にも人員を割くらしい。……前のように、奴等と戦いになればノイズやダストが街中に現れる可能性もある。だから念には念を押して厳戒態勢を敷きつつ、俺達はこの神社に残って宮司さんの警護する方針に決まった」
「警護……前に私が襲われた時みたいに、イレイザーが宮司さんを狙ってくるって事ですか?」
「ああ。風鳴司令も予想していたが、奴らの襲撃がまたあるとすれば、狙われる可能性が高いのは今の所あの人だからな……。酷い言い方になってしまうが、さっき言ったように宮司さんはこの世界にとってさほど重要な人間ではない。お前達と同様、仮に奴等に殺されでもすればこの世界に見付かってしまうリスクは残されているかもしれないが、既にこの物語での重要な役目を終えた人間であると世界に認識されていれば、奴等もあの人の命を奪う事を躊躇はしないだろうし、もし宮司さんが死んだとしてもこの世界はその異変に気付かない、なんて可能性もある……それでもあの人がこの物語の一部である以上、あの人が死ねば『物語の矛盾』が生まれ、奴等に改竄の力を行使しやすい状況が出来上がってしまう……という訳だ」
「っ……改めて聞くと胸糞悪いな、クソっ」
「っ……」
人の命は、みな等価値であって然るべき尊いものである筈だ。
なのにイレイザーだけでなく、自分達が今まで守り、守ろうとしているこの世界までもが宮司の命を値踏みしている。
聞いていて気持ちのいいものではない蓮夜の話にクリスや響も厳しい表情を浮かべてしまう中、蓮夜は目を伏せて言葉を続ける。
「確かに酷い話に聞こえるが、世界から見れば、人なんて元からそんなモノだ。今こうしている間にも、世界の何処かで人が死に、それでも世の中は何事もなく回り続けていく……人が世界を守る事はあっても、世界が人を守ってくれる事なんてそうそうないからな……だから俺達に出来るのはせいぜい、この目に映る誰かを守り、自分達が安心して暮らせていく為に戦うだけだ。その為にも宮司さんは俺達の手で守る。それに今回に限って言えば、あの人を救う事が、ひいてはイレイザー達の魔の手からこの世界を救う事にも繋がる。そう考えれば、あの人の命にもちゃんと価値があるのだと、そう思えて少しは気も楽になるだろう?」
「なんだそりゃ、めちゃくちゃが過ぎんだろその理屈……けどまぁ、あの爺さんの命=この世界の未来、みたいに考えりゃ、確かにやる気も沸いてこないって事もないかもな」
「うん。イレイザーの目的が宮司さんなら、私達で守り切ろう!」
「はい……今度こそ……絶対にっ」
(……?調……?)
皆が改めて宮司を守る決意を固める中、調は一人険しい顔付きで拳を強く握り締めている。
その様子に気付いた切歌が頭の上に疑問符を浮かべながら彼女に声を掛けようとしたその時、砂利を踏む音と共に宮司がその場に現れた。
「おお、皆さんこちらにいらしましたか」
「にゃー」
「あ、宮司さん……って、わあ、猫ちゃんだぁ〜!?」
現れた宮司の両腕の中には、何故か一匹の黒毛の子猫が抱かれて可愛らしい鳴き声を上げていた。
子猫を目にした途端、黄色い声と宮司の下に駆け寄って子猫にぐりぐりと触れる響の後に続いて蓮夜達も近付くと、切歌と調はその子猫を見て小首を傾げた。
「あれ?もしかしてその子、蓮夜さんが拾った子猫じゃないデスか?」
「どうしてこんな所に……?」
「ああ、実は先程、黒服の方々が皆さんの着替えなどを送り届けに来まして。その際、この子も一緒に連れて来られたのです。此処を警護する為に自分が家を空けている間、この子を一人にしては心配だから一緒に居させてもらえないかと、彼から頭を下げられましてね」
「こいつにって……いや、ってかそもそもこの猫、お前が買ってんのかよ?!」
「ええ?!だ、大丈夫なんですかっ?自分の食生活すらロクに管理出来てないのに、他の動物のお世話なんて?!」
「…………お前達は揃って俺を何だと思ってるんだ」
腕の中に収まる子猫の頭を撫でて、微笑ましげに笑う宮司の説明で其処で初めて子猫の主が蓮夜だと知った衝撃のあまり、大概失礼な発言をかましてしまうクリスと響。
蓮夜もそんな二人の反応に大変不服そうな顔を浮かべ、切歌と調もただただ何とも言えない苦笑いを浮かべるしかない中、宮司はそんな蓮夜に近付き子猫を優しく差し出した。
「まぁとりあえず、夕飯の支度も済んだので皆さんもご一緒に中へどうぞ。この子用の食事もすぐに用意しますので、気兼ねなくゆっくり寛いで下さい」
「……申し訳ない。では、ご厚意に甘えて──」
「シャアァアアアアアア!!」
「───すまん……誰か俺の代わりにコイツを中まで連れていってやってくれないだろうか……」
「ぇえええっ……」
「めちゃくちゃに嫌われまくってんじゃねぇかよ……何やらかしたんだお前……」
宮司の手から子猫を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、全身の毛を総立ちさせて威嚇する子猫の反応から物凄く悲しそうな顔で振り返る蓮夜からの頼みに、響もクリスも顔を引き攣らせてしまう。
そしてその後、蓮夜に代わり響が子猫を抱いて一同が戻ろうと歩き出す中、一番後ろで途中まで一緒に歩いていた調が不意に足を止めて立ち止まり、それに気付いた宮司は振り返り怪訝に小首を傾げた。
「調?どうかしましたか?」
「……いえ……ただ、あの……」
「…………」
何処か複雑そうな顔で、調は宮司と目線を合わせようとせず顔を逸らしている。そんな彼女の反応から何かを感じ取ったのか、宮司は僅かな無言の後、調にゆっくりと近付くと共に彼女の頭に手を伸ばし、まるで子供をあやす様にポンポンと叩く。
「何か悩みがあるのでしたら、私で良ければ話ぐらい聞きますよ?何せたった一人の家族なんです。可愛い孫娘の為でしたら、喜んで力になりますとも」
「…………私、は…………」
優しい声音で微笑む宮司だが、彼が告げる『家族』という言葉を素直に受け止める事が出来ず、調は暫し口を閉ざした後、宮司の手から離れるように一歩後ろに引き下がってしまう。
「調?」
「……私の事は平気だから、大丈夫です……晩御飯、楽しみにしてますね……宮司、さん……」
何故か少しだけ、その呼び方に罪悪感を感じてしまいながらも頭を軽く下げ、調は宮司の横を通り抜けて蓮夜達の後を駆け足で追い掛ける。
その姿がまるで、自分から逃げ出しているようにも感じた宮司は一瞬困惑と僅かな哀しみが入り交じった顔を浮かべるが、それでも一度瞼を伏せて俯き、頭を上げたその顔に少し不器用ながらも笑顔を作って調達の後を追って歩き出していくのであった。