戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第七章/離Yy式・解答不能×切り離されたaヵ吊奇のウタ⑥(前)

 

―調神社―

 

 

 深夜。宮司が用意してくれた夕飯をご馳走になった蓮夜達はクレンの次の襲撃に備えつつ、お風呂を交代で頂いたり、寝る前に子猫を相手に遊んで癒されたり(終始嫌われまくっていた蓮夜以外)とそれぞれ自由時間を過ごした後、男女別に割り当てられた部屋に別れ一先ず今日は休む事となった。

 

 

「──ぐぅっ……何故響達にはあんなにも懐いているのに、俺にだけはあんな辛辣なんだっ……」

 

 

 響達も眠りに付いて静かな夜が訪れる中、トイレから戻ってきた蓮夜は縁側を歩きながら先程自由時間に響達と共に子猫とじゃれてた際に、またも増えてしまった両手の引っ掻き傷を摩りながら部屋に戻ろうと歩いていると、窓から光が射す月に気付いて夜空を見上げた。

 

 

(月がよく見える……そう言えばここ最近、こうやってただ月を見上げる事もなくなってきたな……)

 

 

 まだ響達と出会う前、記憶を失ってから自分が何者なのかも分からず、イレイザーと戦う事だけを目的としていた日々を過ごしていた際、帰る場所もなく汚い路地に座り込んで暇を持て余していた時も、数々のノイズイーター達を手に掛けてから宛もなくさ迷っていた時も、こうして月明かりに照らされる事で、理由の分からない心に空いた隙間を少しでも埋めようと紛らわしていた事もあった。

 

 

 だがこうしてあの少女達との出会いを経てからは、そんな暇もなくなるほど騒がしく、しかし心地のよい日々を過ごすようになった。そんな今と昔の自分の違いを思い返し、僅かに微笑を浮かべながら蓮夜が目の前に視線を向けると……

 

 

「…………」

 

 

(……?あの人は……)

 

 

 自分の部屋に戻ろうと蓮夜が前を向いた視線の先に、縁側に座り込む宮司の姿を見付けた。その膝の上には、何やら分厚いアルバムのような本が置かれており、ページを一枚一枚捲っていくその横顔には何処か懐かしさと愛おしさが垣間見えた。

 

 

(あれは……「宮司さん……?」……っ!)

 

 

 アルバムを眺める宮司を見て蓮夜が彼に歩み寄ろうしたその時、反対側の縁側の方から不意に声が響き、蓮夜は思わず壁の影に隠れる。一方で宮司はその声に釣られて視線を向けると、其処には不思議そうな顔で廊下の向こうから歩み寄ってくる寝巻き姿の調の姿があった。

 

 

(調……?)

 

 

「おっと。こんな夜更けにどうしましたかな?」

 

 

「…………少し、寝付けなくて」

 

 

「おやおや、それはいけない。まだまだお若いとは言え夜更かしは美容の天敵。油断していると、あっという間に私のようなほうれい線の目立つシワシワなお肌になってしまいますぞ?」

 

 

「……また変な冗談を言って」

 

 

 「はっはっはっ」と、呆れ顔の調の反応に気を良くしたのか愉快げに笑う宮司。そんな宮司の明るい表情を見て調も少しだけ気が楽になったように笑い、僅かな逡巡の後、彼の隣に少し遠慮がちに腰を下ろすと、宮司の膝の上に置かれてるアルバムに気付いた。

 

 

「それは……?」

 

 

「ああ、これですか?皆さんと過ごす調を見ていたらふと昔を懐かしんで、うちの押し入れの中から引っ張り出してきたのですよ。……私の大切な、貴方との思い出の日々です」

 

 

「……えっ?」

 

 

 驚きの顔を浮かべる調を他所に、宮司はアルバムのページを捲る手を進めていく。

 

 

 其処には、何処かの小学校の入学式の際の校門前で、宮司とランドセルを背負った幼い調が一緒に写ってる写真や、神社での奉納儀式で正装した調が舞台の上で鮮やかに舞う姿が写った写真……調には何一つ身に覚えのない、存在しない筈の思い出の数々があった。

 

 

「これ、って……」

 

 

「いやはや、懐かしいものですな。こうして振り返ってみると、今の調は本当に大きくなったと感慨深い気持ちになります。正に、親心ならぬ爺心、という奴ですかな?はははっ」

 

 

(……こんな思い出、私の記憶には一つもない……多分このアルバムも、きっと──)

 

 

(──イレイザーの改竄が生み出した産物か……)

 

 

 本来のこの物語には存在し得ない、調と宮司が普通の祖父と孫として歩んだ思い出の日々の写真が飾られたアルバム。

 

 

 そのページ一枚一枚の写真を懐かしむように眺める宮司の姿に調は複雑げな表情を、壁の影に隠れる蓮夜も僅かに俯いて眉を顰める中、宮司は月明かりが照らす夜空を見上げ、遠い記憶を思い返すように瞳を伏せる。

 

 

「それでも鮮明に思い出すのは、やはり、産まれたばかりの頃の貴方をこの腕に抱いた時の記憶ですかね」

 

 

「……私が、産まれた時……」

 

 

「ええ。私の娘……貴方の母親が貴方を病院で産む際、私も貴方の父親もそれはそれは気が気でなかった。陣痛で苦しむ娘の姿をただ見ているしかなく、出来るものなら変わってやりたいとも思い、亡くなった妻にも娘と生まれてくる子供の無事を必死に祈り続けて……やがて、耳に届いた貴方の産声と、憔悴し切った顔でやり遂げ、愛おしげに貴方を見つめる娘の姿を目にした時は、自然と涙がこぼれたものです」

 

 

「………………」

 

 

「赤ん坊だった貴方を胸に抱いた時、これ以上の幸せはないと思いました。こんな幸せが、きっとこれから先もずっと続いていくのだと信じて疑わず……あの日までは……」

 

 

「……?」

 

 

 ありもしない筈の思い出を懐かしげに語る宮司の顔をまともに直視出来ず、膝の上に絡めた両手を見つめてずっと複雑な顔を浮かべていた調だが、不意に声色が変わった宮司の顔を思わず見上げると、宮司は何処か哀しげな眼差しでアルバムの写真に目を落としていた。

 

 

「もう十年以上も前になりますか……貴方たち家族が旅行中に事故に遭い、娘夫婦を亡くした時、どうして、何故と……私は嘆き、酷く苦しみました……神職の身でありながら、この世に神はいないのかと恨みもしましたが……そんな中、貴方だけが奇跡的に生き残った」

 

 

「事故に……私だけ、が」

 

 

「ええ。変わり果てた姿で対面した貴方の両親が、何かを守るように庇ったまま亡くなったような姿を見て、すぐに気が付きました。二人が死の間際、その身を呈して貴方だけでも守ってくれたのだと」

 

 

「…………」

 

 

 宮司の語る彼の家族に纏わる話を聞きながら、調も夜空を仰いで思い出す。嘗ては自分も、F.I.S.に連れてこられる以前に事故にあったらしき事を。

 

 

 自分の本当の名前も含めて、それ以前の記憶がないせいで実感は持てないが、それでも何処か、イレイザーに改竄され捏造された物だとしても、宮司の話は何故だか他人事のようには思えなかった。

 

 

「その時、私は二人に、奇跡に……貴方に感謝しました……絶望の淵で、悲しみに打ちひしがれていた私に希望を与えてくれたのは他の何物でもない、貴方の存在だったのですから」

 

 

(……宮司さん……)

 

 

「ですから私は、亡くなってしまった貴方の両親にも誓ったのです。あの二人のように、今度は必ず私が貴方を守る。ただ一人残った家族として、いついかなる時にも貴方に寄り添い、幸せにしてみせると……それを今の私の、たった一つの生き甲斐にしようと」

 

 

「…………ッ…………」

 

 

 ギュッ……と、膝の上に置かれた調の両手が自然と力強く握り締められる。

 

 

 穏やかな顔で、優しい声音で、調を守ると胸の内の誓いを吐露する宮司の言葉を耳にしながら、締め付けられる胸の痛みに苛まれる。

 

 

 自分は彼の本当の孫娘なんかではなく、彼は自分の祖父ではなく、血の繋がった家族などではない。

 

 

 ただイレイザーの改竄によってありもしない記憶を植え付けられ、自分達の関係をそう思い込んでるだけに過ぎないのだ。

 

 

 普段から冗談を言っている彼に、本当に亡くなった娘夫婦や孫娘がいたかどうかなんて実際には分からない。

 

 

 ただそれでも、彼の今の言葉には紛れもない自分への愛情が確かに込められているのだと、ひしひしと伝わってくる。

 

 

…………だから、もし。

 

 

 もしも本当に、イレイザーの改竄なんて関係なく、この人に既に亡くなった家族がいたとして、その悲しみや絶望が実際に彼が味わったものだとするのなら。

 

 

 今こうして、この人に暖かな言葉を向けられている今の自分は、なんて───

 

 

「…………ごめん、なさい」

 

 

「……うん?」

 

 

「ごめんなさい……私……私、にはっ……」

 

 

 その暖かな言葉は、優しさは本来自分に向けられるべきモノなんかじゃない。

 

 

 生きてて欲しかったと心から願った相手。本当に大切な人に送られるべき筈の言葉を、偽りの立場の自分が受け取ってしまっているという罪悪感で胸が苦しくなる。

 

 

 本当なら、今すぐにでも事実を伝えたい。自分は彼の家族などではなく、貴方が本当に大切に想うべき人は他にいるのだと告げてしまいたい。

 

 

──けれどそれを、今この瞬間の全てが嘘なのだと伝えた時……この人は一体どんな顔をするのだろう。

 

 

 その先を想像するのが怖く、優柔不断にも真実を伝える事を迷い、ただただ俯いて辛そうに謝罪の言葉を繰り返す事しか出来ない調の姿を見て何を想ったのか、宮司は一瞬戸惑いを見せた後、すぐにまた何時もの穏やかな顔を浮かべて微笑み、そんな調の手の上に自身の手を優しく重ね合わせた。

 

 

「そうでしたね……貴方にとっても何より辛い記憶の筈なのに、何故今日に限って私はこうも無神経におしゃべりなのか……申し訳ありませんでした、調」

 

 

「っ……」

 

 

「……………………」

 

 

 そう言って心苦しそうに眉を下げ、謝罪の言葉を口にする宮司の顔を思わず見上げた調は何かを言い掛けて一瞬口を開くも、その先に告げるべき言葉を詰まらせて結局は何も言えず、ただ無言のまま宮司の手を戸惑いながらも握り返してあげる事しか出来なかった。

 

 

 そして、そんな二人の一連のやり取りを影で見守っていた蓮夜も何処かやり切れない表情で目を伏せた後、瞼を開いたその顔を険しげに歪め、二人に気付かれぬようにその場から離れるべく静かに歩き出そうとした、その時……

 

 

 

 

 

 

───穏やかな夜の静寂を引き裂くかのように、市街地の方角からけたたましい爆発音と共に燃え盛る火の手が上がった。

 

 

 

 

 

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