戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
第八章/繋xX式・調(ツキ)が読み解くわたしの答え×黎明・それでもme侶スは駈ke走ル
宮司の記憶の改竄、ダストやノイズによる街の襲撃など立て続けに起こる上級イレイザー・クレンの意図が読めない陰謀の数々。
そんな中、遂にカメレオンイレイザーを仕留める寸前にまで追い込んだ蓮夜と切歌だったが、それも思わぬ形で打ち砕かれてしまった。
奴を裏で操る首謀者のクレンと──自分達の仲間である筈の、月読調の手によって。
◆◇◆
―S.O.N.G.本部・発令所―
「───調ちゃんが……ノイズイーターを庇って、逃がすのを手伝った……?!」
「……………………」
街を襲撃したダストとノイズの軍勢を一掃し、カメレオンイレイザーとの対決の後、蓮夜達は本部の発令所に帰還していた。
報告では、装者達が寝泊まりしていた調神社から比較的近い地区、襲撃を予期して予め街に配置しておいた情報部員の迅速な避難誘導が功を奏したのか、街の被害や怪我人などを除けば今のところ死亡者は確認されていないらしい。
それ自体は喜ばしい戦果なのだが、生憎と今の発令所に漂う空気はそれとは全く正反対で、一同の間は重苦しい雰囲気で包まれていた。
その理由は勿論、先の戦闘でカメレオンイレイザーの逃亡を手助けした調の不可解な行動が原因だ。
「事情は先程、君からの連絡で軽くは聞いた……しかしそれでも解せない。何故調君はそんな事を……彼女は今何処に?」
眉間に皺を寄せ、弦十郎は顔を動かして辺りを見回す。
発令所に集まったのは、本部にいた弦十郎やエルフナイン、銃後のメンバーを除いて蓮夜、響、クリスの三人だけ。
当の本人の調と、蓮夜と共にカメレオンイレイザーと戦った切歌の二人の姿は此処になく、その疑問に蓮夜が淡々と答える。
「調はあの後、何も言わず神社に戻った。切歌はそんな彼女を引き止めて何とか理由を問いただそうとしたが、結局何も答えてもらえず……俺達にコレを渡してきた」
そう言って蓮夜が懐から取り出し、皆の前に差し出したのは彼の掌の上で輝く赤いペンダント……調のギアであるシュルシャガナだった。
「それ、調ちゃんの……!」
「……『今の自分は戦えない』……そう言って調が俺達の下を去った後、切歌もショックに打ちひしがれて、今はうちで預かっている猫と一緒に俺のマンションにいる。……あんな事があった手前、調のいる神社にはいられんだろうし、二人で住んでた部屋に戻っても、調の事をより鮮明に思い返して辛くなるらしくてな……」
そう語る蓮夜の表情も、何処か辛く険しげに歪んでいる。
調と切歌のすぐ傍にいながらあの二人のすれ違いに何も出来なかった事に対して心を痛めているのか、そんな彼や切歌の今の心情を察して響やクリス、エルフナインのその場の誰もが何も言えず沈んだ顔で俯く中、弦十郎は無言で蓮夜の手からシュルシャガナのペンダントを受け取る。
「ギアを返還したという事は、これ以上我々を妨害するつもりはないという彼女なりの意思表示かもしれん。……少なくとも、調君が己自身の意志でイレイザー側に寝返ったという最悪の可能性は除外してもいいだろう」
「……でも、それならなんで尚更、調ちゃんは蓮夜さんと切歌ちゃんの邪魔なんか……あのノイズイーターを倒せば、宮司さんだって元に戻れた筈なのに……」
「……まさか、アイツもイレイザーの改竄を受けてるんじゃないのか?前のあたし等の時みたく」
そうだとしたら、調の突然の心変わりにも納得出来る。だが、蓮夜は即座に首を横に振ってそれを否定した。
「いや。アイツと対面した時、イレイザーに改竄された痕跡は一切感じられなかった。つまり調が俺達の邪魔をしたのは奴らから改竄の影響を受けたからではなく、あくまで自分の意志で、という事になる」
「っ、マジかよ」
「イレイザーのせいじゃないんなら、どうして……」
一番有り得そうな可能性は蓮夜の口から否定され、ますます調の動機が分からず困惑を深めてしまう響とクリス。
そんな三人のやり取りを瞼を伏せ、無言で静かに聞いていた弦十郎は複雑げな表情で告げる。
「いずれにせよ、調君の行いをこのまま無視する事は出来ん。ギアを返却したとは言え、動機が分からない以上、再び土壇場になって彼女がまた我々の邪魔をする可能性もなくはないからな」
「……師匠、それって」
「……事態が収まるで、調神社に滞在している調君を即刻捕縛し、然るべき処罰を与えるしかない、という事だ」
「っ……待てよおっさん……!まだアイツからちゃんとした事情だって聞かされちゃいねぇんだ!拘束なんて、そいつはまだ早計が過ぎるんじゃねえのか?!」
「そうですよ!調ちゃんは今まで一緒に戦ってきた仲間なんです!なのにそんなの……!」
弦十郎の無慈悲に思える決断に反発して声を荒らげるクリスと響。しかし、弦十郎もそんな二人の意見にも毅然とした態度を崩さず言葉を返す。
「無論、調君の事を信じたいと思っているのは俺とて同じだ。……しかし、今の彼女が何を思い、何の為にあのノイズイーターを庇ったのか。その理由がもし生半可な気持ちでなければ、例えギアがなくとも、再び同じような場面になれば彼女が身を呈してノイズイーターを庇わない保証もない。……そうなっては彼女の立場はますます危うくなり、今以上に重い処罰を彼女に下さねばならなくなる」
「っ……それはそうかもですけど……でも……」
「それに、彼女がイレイザーに利用されているなら、このまま我々が何もせずにいれば奴らに散々利用された挙句使い捨てにされ、更に危険な目に遭う可能性も考えうる。……処罰は避けられないにしても、その危険性から遠ざける為にも身柄を保護してやる事ぐらいしか、今の俺達が彼女にしてやれる事が思い付かん……」
「おっさん……」
彼女なりにただならぬ事情があったにせよ、司令という責任ある立場上、今後更なる被害を生む危険性があるカメレオンイレイザーを逃がした調の問題行動をなあなあで許す訳にはいかない。
しかし、それでも彼女は今までも共にS.O.N.G.で一緒に戦ってきた仲間で、多くの人々をその小さな身体一つで身を張って救ってきた功績もある。
敵を助けた理由が分からないとは言え、そんな彼女にも何かしらの並々ならぬ事情を抱えている事を考慮し、これ以上彼女がイレイザー達に利用されない為にも即刻身柄を拘束する考えを語る弦十郎だが、その顔にはやはり彼なりの葛藤の色が滲み出ている。
そんな弦十郎の顔を見て響とクリスも内心まだ納得し切れていないが、彼も彼なりに調の事を気に掛けているのだと理解しそれ以上の言及を躊躇して誰もが口を閉ざしてしまう中、
「……風鳴司令、少し待って欲しい」
その沈黙を破ったのは、相も変わらず感情の起伏が分かり辛い蓮夜の待ったの一言だった。
「蓮夜さん……?」
「調への処罰、もう少しだけ時間を……猶予を与えてはもらえないだろうか」
「……訳を、聞かせてもらっても構わないか?」
いきなり過ぎる、突飛な蓮夜からの進言。しかし弦十郎は真顔のままそれを受け止めて聞き返すと、蓮夜は僅かに目線を下げ、ポツポツと言葉を続ける。
「今回の一件、あの二人……調と切歌の事は俺に任せて欲しい。俺が傍にいながら二人に何もしてやれなかった責任を感じてるというのもあるが……一つ、調があんな行動を取った理由に心当たりがある」
「ッ!本当ですか?!」
「その理由ってなんだ、勿体ぶらずに聞かせろよ!」
「それは……すまない、俺の口からは言えない……」
「え……ど、どうして──!」
肝心な内容を話せないと言う蓮夜に響もクリスも思わず詰め寄ろうとするが、そんな二人を弦十郎が片手で制し、真剣味を帯びた眼差しを蓮夜に向ける。
「その理由を話せないというのは、もしや、調君の為か?」
「…………それも、ある」
「君に任せた結果、あの二人の苦悩を晴す事が出来る。これ以上、調君や周囲の人々に被害は出させないと、そう言い切れる確証はあるのか?」
「…………それも、今はまだ何とも言えない。ただ、」
弦十郎の目をまっすぐ見つめ返す。要領を得ない蓮夜の返答にその顔は厳しく歪んでいるが、それでも蓮夜は億さず、彼の目から視線を逸らさない。
「少なくとも、この役目は俺でなくてはならないと、そう自負して言い切る事だけは出来る……確証も不確かなのに無責任だと責められて、ふざけるなと一蹴されても仕方がないと思うが……それでもどうか、たの──いや……お願い、します……俺達にもう少しだけ……時間を、下さい……」
「…………」
そう言って、深々と弦十郎に向けて頭を下げる蓮夜。そんな彼の真剣な姿に響達も誰も声を発せず気圧される中、弦十郎は頭を深く下げる蓮夜を暫し見つめた後、瞼を伏せ、思考に浸る仕草を見せると、やがて目を開き、蓮夜に向けて小さく頷いた。
「分かった。その言葉を信じて、調君達の問題解決の一件は君に一任しよう」
「……!」
「師匠……」
「いいのかのよ……!コイツ一人だけであの二人をケアするだなんて、流石に荷が重いんじゃっ」
意外そうな響の呟きとクリスの驚きの声を耳に弾かれたように蓮夜が顔を上げると、弦十郎の視線と再び交わる。
その表情は真剣だが、しかし先程と同様厳しさも残っている。
「しかし、君にもどうにも出来ないと分かれば、我々もすぐに彼女を拘束しに動かねばならない。過去に一度、罪を犯した事がある彼女のこの一件が上に露見すれば、俺達でも彼女の立場を庇い切れるか危うい。そんな最悪な事態を避ける為の処置を待つという事は、我々にとっても、調君にとってもリスクが高いという事だ。……それでもやると、君は言うんだな?」
「………………」
失敗は赦されないと、言外にそう語っているように聞こえる弦十郎の問い、蓮夜は何も答えない。
ただ真っ直ぐ、弦十郎の視線を返すその眼差しが力強い物に変わり、それを彼なりの返答と受け取った弦十郎は瞼を伏せて小さく微笑むと、響達の方へと振り返る。
「では、二人にはこのまま本部に待機して次の出撃まで体力の回復に専念してくれ。今回は初めから上級イレイザーが戦線に加わっているという事は、この後にも引き続き奴と、取り逃がしたノイズイーターとの連戦になるやもしれん。蓮夜君が調君と切歌君の元へ向かってる間、二人には何時でも出られるように備えておいて欲しい」
「それは大丈夫、ですけど……」
弦十郎からの指示に頷きつつも響が蓮夜の様子を伺って横目を向けると、蓮夜は既に彼女達に背中を向けて発令所を後にしようと歩き出している。
そんな彼を呼び止めようと響が口を開き掛けるが、クリスが先に蓮夜の腕を掴んで引き止めた。
「お前、何かあたし等に隠し事してないか?」
「………………」
掴んだ腕に指が食い込むほど強く力を込め、何かを見透かすような眼差しを向けるクリス。
蓮夜はそんな彼女と無言で視線を交わすと、そっとクリスの手を取って離させていく。
「心配入らない。今回は俺も前回みたく無茶をする気はないし、お前達が一抹の不安を感じたとしてもそれは杞憂に終わる。奴らとの決戦にはお前達の力を頼りにしているから……その時が来るまで、俺を信じて任せてくれ」
「……蓮夜さん……」
「…………」
何時もの真顔のまま、しかし何処か穏やかな微笑と共に蓮夜は頷く。
その言葉自体に嘘偽りは感じられないが、それでも何故か引っ掛かりを感じてしまうクリスや響に見送られ、蓮夜は発令所を後にした。
◆◇◆
―S.O.N.G.本部・通路―
「…………………………」
発令所を去った蓮夜は、通路のあちこちから艦を動かすエンジンの起動音が響き渡る通路を無言で歩き進めていた。
……しかし、不意にその歩みが止まり、誰もいない通路の壁に撓垂れ掛かるように身体を預け、壁に背を預けると、顔を俯かせながら沈痛な顔を浮かべる。
「……すまない、切歌……すまない、調…………すまない…………宮司さん…………」
その口から漏れ出たのは切歌と調、そして宮司に対する心の底からの謝罪。
顔を上げて天井を仰ぎ、両手で顔を覆うその姿は、まるで神に許しを乞い懺悔する罪人のように見えた。
("この事"は誰にも知らせてはならない……響達は勿論の事……調には特に……絶対に……)
脳裏に思い浮かべるのは、宮司に改竄を施し、下卑た笑い声を上げていたカメレオンイレイザーの顔。
奴だけは必ず、自分のこの手で始末を付ける。
切歌や響達、特に調には絶対に、奴に手を下させる訳にはいかないのだ。
(こんな重荷を背負わせてたまるものか……この"罪"は、俺が最期まで背負い続けなければならない……彼女達の手を、こんな形で汚させる訳にはいかない)
顔を覆う指の隙間から見えた蓮夜の目に浮かぶのは、仄暗い殺意の色。
まるでこれから取り返しの付かない罪を犯そうとする犯罪者のようにも見える危うさを漂わせながら緩かに歩き出し、顔を上げて進もうとした彼の脳裏にふと、何故だか今も医療機関で眠り続けている筈の漂流者の青年の顔が横切った。
◇◆◇
―symphony・405号室―
「………………」
明かりすら点いていない、窓から差し込む僅かな月の光だけで照らされた蓮夜の部屋では、カメレオンイレイザーとの対決の後に調神社を後にした切歌がソファーの上で体育座りし、顔を伏せて塞ぎ込む姿があった。
(……調……どうして……)
頭の中で何度もリフレインし、こびり付いて離れないのは自分と蓮夜に泣きながら何度も何度も謝罪の言葉を繰り返す調の痛ましい姿。
残響して耳の底に残るのは、その後、自分達を残して神社に戻ろうとする彼女を無理やりに引き止め、理由を問い詰めようとした際に彼女の口から告げられた、まるで感情を押し殺したような冷え切った声だ。
『───私はもう、戦えない……こんな迷いを抱えたままじゃ、皆と戦う資格なんて、私にはない……ごめんね切ちゃん……ごめんね……』
「───どうしてデスか、調……言ってくれなきゃ……ちゃんと言葉にして伝えてくれなきゃ……あんなに一緒だったアタシにだって、調の気持ちは何にも分かんないデスよっ……」
「……なーう」
まるで彼女の独り言に代わりに応えるかのように、子猫の一鳴きが部屋に響き渡る。
顔を僅かに上げて隣を見れば、其処には尻尾を揺らし、つぶらな瞳で自分を見上げる神社から連れ帰った黒毛の子猫の姿が。
冷たい雨の中に飼い主に打ち捨てられ、これから何処へ行けばいいのかも未だ分かっていない居場所のない哀れな生き物。
その境遇に何処か今の自分を重ね合わせた切歌は下手くそな笑みを浮かべて微笑み、子猫を優しく抱き抱え、まるで温もりを求めるように無言で抱き締めたその顔には、やはりそれでも晴れない心が浮き彫りになり、切ない表情を浮かべていた。
◆◇◆
―調神社―
「………………」
雲がかった月光に照らされる、調神社の一室。
畳の上に敷かれた暖かな布団の上で、穏やかな寝息を立てて寝る宮司の顔を傍で静かに見守るのは、戦う前と変わらず寝巻き姿のままで正座する調だった。
(…………私は…………)
眠る宮司の顔を見つめる調の顔は、何時ものポーカーフェイスが崩れ落ち、悲痛に歪んでいる。
心に未だ残り続ける、仲間達やイレイザー達に襲われた人々に対する罪の意識、迷い、自己嫌悪の負の感情の数々。
こんな事は絶対に間違っている。許されていい筈がない。
頭では確かに分かっていながら、それでも"あの言葉"を振り切れる強さを自分は持てなかった。
『───彼に掛けられた改竄を解きたいだけなら、あのノイズ喰らいを倒せばいい。……でも、これだけは忘れないでね。もしも彼を倒せば、そのおじいさんは──』
──まるで深海の深い底、暗い海の冷たさを思わせる彼の言葉が脳裏にこびり付いて何時までも離れない。
指先から冷たくなっていくこの感覚は、きっと夜の寒さのせいだけではなかった。
(……切ちゃん……蓮夜さん……皆……私はどうすれば……どうしたら、良かったんだろう……分からない……私には、分からないよっ……)
寒さを。寂しさを。この苦しみから逃れたい一心で、眠る宮司を起こさないように布団の中からそっと彼の右腕を両手で取り、自分の額に当てていく。
……それでも、その温もりが胸の内の痛みを和らげてくれる事はなく。
瞳から不意に零れ落ちた雫が宮司の手から流れ、畳の床の上に落ちる音だけが室内に静かに響き、部屋を唯一照らしてくれていた月の明かりは空の雲に完全に覆われ、弱々しく項垂れる彼女に暗い影を落としていくのだった。