戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第八章/繋xX式・調(ツキ)が読み解くわたしの答え×黎明・それでもme侶スは駈ke走ル④(後)

 

―調神社―

 

 

「──これで、よし……」

 

 

 市街地でのクロス達とキマイライレイザーの戦闘が激化するその一方、調は調神社の自分の寝室として宛てがわれた部屋に戻り、先程まで身に付けていた白装束や就寝に使っていた布団などを綺麗に畳んで整頓した後、私服に着替えた格好で正座したまま部屋を静かに見渡していた。

 

 

(ここでやり残した事は、もうない……後は……)

 

 

 ほんの一晩過ごしただけなのに、心做しか後ろ髪引かれる思いを感じながらも正座していた畳の上からゆっくりと腰を上げる。

 

 

 そんな彼女の手には、緑色の薬液が入った銃のような形状をした注射器……切歌が神社に置き忘れた携帯型のLiNKERが握られていた。

 

 

(切ちゃんが忘れていってくれて助かった……これなら、ギアを返してもらった後でも……)

 

 

 元々、シンフォギアの聖遺物との適合率が高い響やクリス達とは違い、自分と切歌、そして今ロンドンに遠征中のマリアも、このLiNKERの薬を投与しなければシンフォギアの聖遺物と適合出来ず、ギアを纏う事も出来ない。

 

 

 自分が常に携帯している分はギアと共にS.O.N.G.に返還してしまったが、切歌がコレを忘れていってくれたおかげで戦場に向かう事が出来る。

 

 

 普段は抜けている彼女のそういった部分に今は感謝しつつ、LiNKERを懐に仕舞った調は廊下に繋がる出入口に足を向けて戸を開けると、もう一度自分が過ごした部屋を振り返り、深々と頭を下げてお辞儀する。

 

 

 そして静かに戸を閉じ、縁側の下の石段の上に予め用意しておいた靴を両足に履いて靴紐をしっかりと締め、腰を上げて神社の鳥居の前まで向かって歩き進んでいた、その時……

 

 

「──調」

 

 

「…………っ」

 

 

 背後から不意に、優しい声に呼び止められた。

 

 

 その声にビクッと調が思わず肩を震わせ、恐る恐る振り返ると、其処にはいつもの穏やかな顔で佇む宮司の姿があった。

 

 

「宮司、さん……」

 

 

「ふうむ、もしやこれから外出ですかな?それでしたらせめて一言ぐらい挨拶を残して欲しいものです。でないとこの爺、孫に無下にされてあまりの寂しさに今晩枕を涙で濡らしてしまうやもしれませんぞー?」

 

 

 よよよっ、と袖で目元を覆いながら、冗談で嘘泣きしてみせる宮司。

 

 

 しかし、いつもならそんな彼の冗談にも冷静にツッコミを入れる調は口を閉ざして何処か申し訳なさそうに宮司から視線を逸らしてしまい、宮司はそんな調の様子に気付き、嘘泣きを止めて真摯に言葉を投げ掛けた。

 

 

「往くのですね?黒月さん達の下へ、あの怪物を倒す為に」

 

 

「?!ど、どう、して……?」

 

 

「ふふ。伊達に数十年と年を重ねてきた訳ではありませんからな。年の功と呼ぶべきか、その顔を見ればマルっと全てお見通しですとも」

 

 

 こう見えても察しはいいのだと、宮司は愉快げに笑う。だがその一方で、調は気まずげに彼から目を逸らしてポツポツと口を開き、謝罪する。

 

 

「無断で出ていこうとした事は、謝ります……でも……それでも、私は──」

 

 

「分かっています」

 

 

「……え……?」

 

 

 例え此処で引き止められても、それを振り払う覚悟を胸に消え入りそうな声で謝罪しようとした調の言葉を、宮司は優しい声で遮る。

 

 

 その顔もまともに見れず、顔を逸らしながらたどたどしい口調で言い淀んでいた調は驚き、宮司の顔を直視すれば、彼はまるで何かを悟っているかのように瞼を伏せて穏やかに微笑んでいた。

 

 

「宮司さん……?」

 

 

「分かっています。分かっていますよ。とっくに気付いておりました。……私があの怪物に何かをされ、"今の私"になってしまった事も……調が今まで無理をして、私のワガママに付き合って下さった事も、全て」

 

 

「?!」

 

 

 どうして……?と、心の内から浮かび上がる疑問が驚きと動揺のあまり直接口には出せず目を見開く調に、宮司は伏せていた瞳を見開きながら空を仰いだ。

 

 

「どうやらあの怪物は、中々に意地の悪い方のようですね……"コレは違う"、"そう想うべきではない"……頭ではそう理解していても、感情までもは私自身にも御する事が出来ない……どんなに頭では強く否定しようとしても、"今の私"の心は貴方を本当の孫娘としてしか思えず、こんなにも愛おしいと想い、戦いに向かおうとする貴女をしがみついてでも止めたいと今なお思ってしまう……厄介なものですなぁ。人の心というものは、中々どうして」

 

 

「……いつ、から……一体、いつからソレに気付いてっ……?」

 

 

 彼がこの異常に気付く素振りなんて、今まで一緒にいて一切見せなかったハズだ

 

 

 なのに何故?一体いつ、何処から?

 

 

 困惑のあまり口も上手く回らないほど激しく動揺する調だが、宮司はただ穏やかに微笑むばかりでその疑問には答えず、調に歩み寄ってその両肩の上に両手を乗せながら目線を合わすように腰を僅かに落とす。

 

 

「こんな老いぼれの事など気にしなくて良いのです。それよりも、今の貴女にはやるべきこと……いいえ、貴女が"本当にやりたい事"があるのでしょう?」

 

 

「……っ……それは……でも、私は……私は今から、貴方を……っ……」

 

 

 自分の肩に置かれた宮司の手の上に己の手を重ね、調は悲痛に歪む顔を隠すように俯く。

 

 

 自分の心の内は、とうに決まってる。蓮夜と言葉を交わしたあの時に。

 

 

 けれど……それは今、目の前のこの人を傷付ける行為でもある。

 

 

 肩に添えられた暖かな手。

 

 

 優しく微笑んでくれる穏やかな笑顔。

 

 

 家族として、自分の事を心の底から心配してくれる想い。

 

 

……その全てを、自分は今から傷付け、最初からなかった事にしようとしているのだ。

 

 

 だから、どうか……そんな笑顔を向けないで欲しい。

 

 

 自分には、そんな顔を向けられる資格なんてない。

 

 

 貴方に……貴方の優しさに包まれる資格なんて、私には──

 

 

「それは違います」

 

 

「……っ?!」

 

 

 心の内を埋め尽くす薄暗い罪悪感を否定するように、宮司の厳しい声が降り注ぐ。

 

 

 まるで心を読まれたかのようなその声に驚き、釣られて思わず顔を上げれば、其処には悪い事をした子供を叱る親のように眉間に皺を寄せる宮司の顔があったが、その顔もすぐに何時もの穏やかな表情に戻った。

 

 

「それでいいのです、調。貴女が選んだその選択は間違いなどではない。寧ろもっと胸を張り、前を向いて誇るべきものなのですよ?」

 

 

「……でも……でも私は、この手でもう一度、貴方から家族の絆をっ……!」

 

 

「……そうですね……それは少々……いいえ、正直に申し上げれば、大変悲しくはあります……ですが、それだけではない。それだけではないのですよ、調」

 

 

「え……」

 

 

 怪訝に首を傾げる調。そんな彼女の両肩から手を離し、宮司は慈しみ、しかし何処か申し訳なさを滲ませた眼差しを調に向ける。

 

 

「貴女はとても優しい子だ。しかしきっと、そのせいで辛い思いも沢山させたかと思います……恐らく、私のせいで」

 

 

「っ!ちがっ……っ……」

 

 

「……さぞ悩み、辛く苦しめてしまった事でしょう……しかしその上で、貴女は"正しい選択"を選ぶ事が出来た……私にはそれが、堪らなく誇らしく思うのです」

 

 

 そう言って、宮司は己の胸に手を当てていく。

 

 

「私達の間に繋がれたこの家族の在り方は、嘘偽りの幻で繋げられたモノなのかもしれません……それでも、こうして貴女に抱いている想いは確かに今此処にある、紛れもない"本物"なのです……かわいい孫娘の成長に、祖父としては喜ばしく思うのですよ」

 

 

「っ……宮司……さんっ……」

 

 

「ふふっ……最後の最後まで、"おじいちゃん"とは呼んで頂けませんでしたなぁ」

 

 

 名残惜しそうに言いつつも、宮司は笑って調の頭の上に手を置いて優しく撫でていく。

 

 

……その温かさに、優しさに包まれ、瞳の奥から溢れ出る涙を止められずにポツポツと大粒の雫を地面に落としてしまう調を、宮司は何も言わず神社の入り口の方に振り向かせる。

 

 

「さぁ、此処で足踏みなどしてはいられませんぞ?……貴女の帰りを、待ってくれている方々がいるのでしょう?」

 

 

「……っ……。………………」

 

 

 柔らかい口調と共に、優しく背中を押して促す宮司の声を背に受ける。

 

 

 涙を流してその場から動けなかった調だが、暫しの涙の後、目元から流れる涙をぐしぐしと拭い、顔を上げたその表情は力強く、赤く腫れた目はまっすぐ神社の鳥居を見据えている。

 

 

 そして1歩、また1歩と、宮司の下から離れるように足を進め、神社の鳥居に向かって歩き出していき、

 

 

「……ああ……そういえば一つだけ、言い忘れていた事がありましたな……」

 

 

「……?」

 

 

 最後の1歩。あと1歩踏み込めば、神社の鳥居を抜けて外に出てしまう直前、何かを思い出したかのような宮司の声が背後から届く。

 

 

 頭の上に疑問符を浮かべ、調が振り返ると、其処には宮司がやはり穏やかな顔を浮かべて参道の上に佇み、瞼を伏せながら優しく微笑み、告げる。

 

 

「──"いってらっしゃい"。どうか、お気を付けて」

 

 

「…………!」

 

 

 ハッと息を呑み、その言葉の"意味"を悟る。

 

 

 理解した瞬間、反射的に何かを言い掛けて開いた唇が微かに震えて、唇を噛み締めるように強く結ぶ。

 

 

───せき止めたハズの感情が、また溢れ出して止まないように。

 

 

 

 

「……うん……うんっ……

 

 

 

────いってきます(さようなら)…………宮司さん(おじいちゃん)…………」

 

 

 

 

 目尻に浮かぶソレが溢れ出さないように、万感の思いを込めた一言に、永遠の別離を添えて。

 

 

 伝えるべき言の葉は、今の二人の間にはそれだけで充分だった。

 

 

 背中を向けて、迷いなく走り出す調の後ろ姿を宮司は笑顔で見送る。

 

 

 ふと見上げた空は、何処までも蒼く澄んでいた。

 

 

 その鮮やかな色を通して、心の内に過ぎったとある青年の顔と、共に交わした"約束"を宮司は思い返し、悔いなく微笑む。

 

 

「あの子の事を……どうかお願いします……黒月さん……」

 

 

 

 

 

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