戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
「──うーん……!遊びに遊び尽くしたデスねー……!しかもお茶とお菓子までご馳走してもらっちゃって、正に至れり尽くせりデス!」
「でも切ちゃん、一人でキッシュを何度もおかわりするのは流石に度が過ぎてたと思う……」
「あぐっ……し、仕方ないじゃないデスかっ。宮司さんは大丈夫だったし、あの子猫の里親も無事に見付かって一石二鳥だった訳なんデスから、嬉しさのあまりついつい食べ過ぎてしまうのも無理はない話なのデスっ。蓮夜さんもそう思うデスよね!」
「…………そうだな。こっちは無駄に傷が増えたばかりに、痛みが勝って味は何一つ覚えていない訳なんだが……」
フォローを求めて振り向く切歌に対し、松葉杖を突いてトボトボ歩きながら愚痴っぽくボヤく蓮夜のその顔には元々の傷に加えて、何度も爪で引っ掻かれたような跡が何本線も頬などに幾つも切り刻まれている。
やはりと言うべきか何というべきか、結局あの子猫は蓮夜にだけは何故だか最後まで懐かず嫌われたままで別れてしまい、地味に落ち込む蓮夜に切歌が苦笑いを返す。
「ま、まぁでも、本当に良かったデスよね。あの子にも里親が見つかって」
「うん……これできっと、もう寂しい思いはしないはずだから……」
調も切歌と同じく子猫との思い出に浸るように、優しい笑みを浮かべながら呟いた。
その横顔をチラリと見やった蓮夜だったが、すぐに視線を逸らすと俯いて小さくため息を吐く。
「まぁ、これでアイツに手を焼かれる必要はなくなったと思えば、確かに悪い気はしないかもしれないな……」
「とか言って~。本当は蓮夜さんだって、あの子猫と離れるのちょっと寂しく思ってるんじゃないデスか~?」
「……さあな」
「にへへ。案外素直じゃないデスねぇ、蓮夜さんは」
悪戯っ子のようにニヤつく切歌の指摘に、そっぽを向いて無言を貫く蓮夜だが、否定しようとはしなかった事に二人はクスクスと笑い合う。
そんな二人の反応に蓮夜もバツが悪そうに眉尻を下げて困ったように頬を掻きつつ、何か物思いにふけるように青く澄んだ空を見上げ、
「……まぁ、あれだけ面倒掛けて世話をしたのだから、少しくらいは名残惜しい気持ちもある……かもな……」
ポツンと、独り言のような小声で零す。
すると、そんな蓮夜の声を聞き逃さず、調と切歌が彼の心内を察して目配せした後、互いに微笑んで蓮夜に顔を向ける。
「なら、また会いに行きましょう」
「調の言う通りデス!今度会いに行く時には、あの子の喜びそうなオモチャを持って行ってあげると良いかも知れません。そうしたら今度こそ蓮夜さんに懐いてくれるかもデスよ!……多分」
「……そこはもっと自信を持って断言してくれ」
相変わらず根拠のない事を言う切歌に呆れる蓮夜だったが、その提案自体は悪くないものだと思い、次に会う時には子猫の好みに合わせたオモチャを用意してやろうと考えを巡らせ、密かにリベンジを心に誓う。
そんな一件落着な雰囲気と共に三人が他愛もない会話を続けながら帰路に着く道中、調がふと何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「そういえば、すっかり忘れてた……蓮夜さん」
「……ん?どうした?」
急に立ち止まった調に釣られて蓮夜と切歌が足を止めると、彼女は何処か無表情のままジーッと不思議そうな表情を浮かべる蓮夜の顔を見上げ、
「──この間の私からの告白、まだ返事を聞かせてもらっていないんですが、何時になったら教えてもらえますか……?」
真剣そのものといった様子で、いきなりそう尋ねてきたのだった。
突然の質問に蓮夜だけでなく切歌までもビクゥッ!となり、二人揃って目を丸くしながら固まってしまう。
しかしそれも束の間、蓮夜はすぐに我を取り戻すと目を泳がせながら頬を掻くと、
「ええ、と、だな……それに関しては、もう少し考える時間を……」
「待てません。蓮夜さんもちゃんとした大人の男の人なんですから、其処はスッパリハッキリ答えを出して欲しいです」
「簡単に出せる答えではないから言ってるんだ……!大体、ちゃんとしたと言いつつお前から提示してきた『付き合う前提条件』があまりに非常識に過ぎるからこっちも頭を悩ませているんだぞ!」
先日、あのいきなり過ぎた調の爆弾的告白発言から暫し時間を置き、お互いに冷静になってから改めて行われた調と切歌による話し合いの場。
そこで出された彼女の提示した交際する為の条件があまりにもぶっ飛んだ内容であった為に、蓮夜としてはその条件を簡単に呑む訳にはいかず今も答えを出せずにいたのだ。その内容というのが……
『私は蓮夜さんが好きです……。でも、蓮夜さんと正式に交際をし始めたら切ちゃんと一緒に過ごせる時間も減ってしまうような気もして、その点がどうしてもネックだなとも思ったんです』
『ハア……なる、ほど……?』
『なので、あれから色々考えて一つ、打開案を思い付きました。──蓮夜さんと切ちゃん、"私が両方とも貰っちゃえばいいんじゃないかな"、って』
『──────ぇ』
『ふ……ふぇええええええええええええええっっ!!!!?』
このやり取りの通り、二人の関係を恋人関係に発展させる条件として提示された内容が、なんと調が蓮夜と切歌の両方と一緒になる……要するに、蓮夜に調と切歌、両方と交際する事を要求して来たのである。
そんなあまりに非常識が過ぎるぶっ飛んだ提案に理解が追い付かず固まっていた蓮夜も即座に我に返り、流石にそれは無理だと否定しようとしたのだが、
『大丈夫です。蓮夜さんの事は勿論大好きだし、結婚を前提にお付き合いしたいと思っています。だけど切ちゃんの事だって大切な親友として好き。だからどちらか一方じゃなくて、どちらも私のものにしてしまおうと思ったんです』
『………いや、思ったんですではなく……そういう問題ではなくてだなっ……』
『安心してください。蓮夜さんは私と切ちゃんの両方を平等に愛してくれればいいだけです。何も難しい事はないと思いますよ。二人の事を幸せにしてあげれば良いだけですから』
『倫理観!社会的な常識!道徳観念!そして俺自身の貞操感!!それら全てを丸ごと無視してのその発想がそもそもおかしいという話をしてるんだ!』
『そ、そそそそそうデス!いくらなんでも調のその考えはどうかと思うデス!それにアタシ達はまだ学生の身デスし、そんな不純異性交遊みたいな真似をするなんて絶対に駄目デス!……で、でも、蓮夜さんがどうしてもと言うのなら……別に、構わないデスけど……』
『切歌ァああ?!』
『うわぁ……切ちゃん、今の台詞だけ聞くと凄く変態っぽいね』
『ええ?!あ、そ、そう言う意味じゃないデスよ?!変な誤解しないでほしいデスっ!!』
などと、こんな具合に蓮夜の頭では理解できない思考回路を持つ少女二人との話し合いは平行線を辿るばかりで結局結論を出す事が出来ず、こうしてズルズルと今日まで引き延ばしになってしまった訳である。
「もう、蓮夜さんがそんな態度を取るせいで、私も切ちゃんもあれからずっと悶々とした日々を過ごしてるんですよ……?」
「いや……俺は寧ろずっと常識に基づいた事しか言ってなくないか……?何故俺が悪いみたいな空気になっているんだっ……?」
不服そうな表情を浮かべる調に、蓮夜は最早胃痛すら覚えて疲れた様子で額を押さえながら嘆息する。
すると、今まで傍で大人しく話を聞いていた切歌が蓮夜の隣まで歩み寄ると、おずおずと手を伸ばして蓮夜の服の袖をキュッと遠慮がちに摘んだ。
「っ、切歌……?」
「え、と……そのぉ……アタシも最初は調が変な事を言い出したのかと思ってちょっと困ったんデスけど、あれからよくよく考えたら、調の考えも一理あるなぁ~……なんて思ったりもして……」
「……一理……?」
「ほ、本音を言うとデスけど……蓮夜さんさえ良ければ、二人と一緒になりたいっていうか……その、他の人とかとだったらともかく、この三人でなら一緒にいる時間がもっと欲しいというか……あぅう~!何言ってるんだろう、アタシ!!」
「お、落ち着け切歌……!本当に何を言ってるんだお前?!」
顔を真っ赤にして混乱しているらしい切歌に蓮夜が困惑する中、調が切歌の肩に手を置いて小さく微笑みかける。
「やっぱり、切ちゃんも同じ気持ちなんだよね」
「デ、デスッ……!調には全部バレちゃってるみたいデスね……」
「当たり前だよ。切ちゃんが蓮夜さんを見る時の顔を見ていれば、すぐに分かるから」
「あうっ……!」
親友からの指摘を受けて恥ずかしさに耐えられなくなったのか、切歌が俯いて縮こまってしまう。
その様子を見て苦笑しながら調は、切歌の突然のカミングアウトにポカンとしている蓮夜へと視線を向ける。
「蓮夜さん、一つ提案があるんですけどいいですか?」
「……ぇ……ア、ハイ……なんでしょうか……?」
何故か敬語になりつつ恐縮気味に蓮夜が尋ねると、調は一度コホンと咳払いしてから真剣な眼差しで告げてきた。
「此処まであれこれ言っておいてあれですけど、この前の切ちゃんも言い分にも一理あるかなって思ったんです。私達はまだ学生だから、結婚を前提とした交際を始める前に、まずは学業に専念すべきだなって」
「……それが当たり前の認識と呼ぶべきというか……此処で本当に付き合いでもし始めたら下手をしなくても捕まるぞ……?俺が」
何せこっちは今、政府お抱えの組織であるS.O.N.G.監視下の元の協力者の身だ。
そんな中で、まだ15~16の年端もいかぬ少女達に手を出したなどと知られれば、間違いなく大目玉を食らう。
「だから私達が無事に卒業するまでの間、それまで待っていてもらえませんか?蓮夜さんにも気持ちの整理が必要でしょうし、ちゃんと準備を整えてから、蓮夜さんに改めて告白したいと思っていますから。……駄目ですか?」
調が上目遣いで見つめてくる。その瞳はまるで小動物のように不安げで、それでいて熱っぽく潤んでいる。
そんな目をされてしまっては流石の蓮夜でも「うぐっ……」と言葉を詰まらせてしまい、助け舟を求めて思わず切歌の方を見てしまう。
しかしそこで蓮夜が見たのは、先程以上に顔を赤く染め上げてチラッチラッと蓮夜の様子を窺っている切歌の姿。
「…………」
(……どう、しろとっ……!!)
調だけでなく切歌からも熱い視線を向けられ、蓮夜が内心で絶叫を上げる。
二人の事は好きではあるし、異性としての魅力もある。
しかしだからといって同時に恋人になるというのはあまりにも不誠実すぎる気がするし、そもそもこの二人は自分なんかより遥かに優れた魅力を持っているのだ。そんな少女達と釣り合うだけの男ではないことぐらい自覚はある。
故に、ここで蓮夜が取るべき選択肢は───
「……分かった。お前達の言う通り、少し時間をくれ……その時に必ず、答えを出すから……」
半ば観念したように蓮夜が項垂れながら声を絞り出してそう答えると、調と切歌が嬉しそうな笑顔を浮かべて互いに顔を合わせる。しかし、其処で蓮夜が掌を前に突き出す。
「ただし……!俺はまだ自分の考えを完全には納得していないっ。あくまで猶予期間を設けるだけで、その間に俺なんかより魅力のある男を見付けたら、迷わずにそっちへ行ってもらっても全然構わないからなっ……!」
卒業するまでの間、この二人なら自分よりもマシな相手を見付ける事も有り得る。
好意自体は嬉しいし、年の差という壁や調が提示した条件がなければ迷う事なく頷いていたかもしれないが、やはり二人にはもっと良い人を見付けて幸せになって欲しいという気持ちも多分にある。
そういった望みも込めての蓮夜の言葉にしかし、二人は笑顔で頷き返す。
「はい、分かってます」
「大丈夫デスよ。蓮夜さん以上の人なんて、絶対にいないデスからっ!」
「……一体俺なんかの何処を見てそう言い切れるんだ……こっちはお前達に迷惑を被ってばかりの甲斐性なしでしかないんだぞっ……」
自信満々に胸を張る調と切歌の言葉に、蓮夜が更に深く肩を落とす。
すると、調はクスリと小さく笑いながら蓮夜の腕を掴んで僅かに引き寄せ、つま先で背伸びをしながら耳元まで口を寄せて囁く。
──そういうところも含めて、全部が好きなんです。
「……ッ!」
バッ!と、蓮夜が耳を抑えて慌てて調から離れる。
その様子に調が悪戯っぽい笑みを浮かべながら踵を返して歩き出し、切歌は不思議そうに二人を交互に見てから調の後を追い掛ける。
「調~?今、何を言ったんデスか?」
「秘密」
「えぇー、教えて欲しいデス~!」
「嫌」
楽しげにじゃれ合いながら先を歩く二人の背中を暫し呆然と見つめると、蓮夜は片手で顔を覆って俯き、ボソリと呟いた。
「勘弁してくれ……反則にも程があるっ……」
年下の女子にまんまと翻弄され、弄ばれている自分が情けなくて仕方がない。
顔を覆った片手の指の隙間から微かに覗かせる頬は赤く染まり、心臓は思わぬ不意打ちのせいで激しく早鐘を打っている。
そんな自分に深々と溜息を吐くと、蓮夜は徐に空を見上げ、何だか酷く眩しく思える青空を見つめて呟く。
「……法律……とりあえず知識とか色々と身に付けておこう……」
何だかもう色んな意味で強過ぎる彼女を前にして幾分かの貞操の危機すら覚えてしまい、一人静かにそんな決意を固めながら空を見上げる蓮夜の目は若干虚ろになっていたのだった。
◆◇◆
―……ガシャアァアンッ!―
「ぐうっ!……はァっ、はァっ……」
───赤いレンガ倉庫が何処までも続いて立ち並ぶ街の一角。
そこで一人の青年……蓮夜達に敗北し、身体中に包帯を巻いたクレンが道中に躓いたドラム缶を倒しながら地面に倒れ込み、苦悶の表情で荒い呼吸を繰り返していた。
「あぁ、クソ……マジで痛い……何だよあのカード、インチキじゃん絶対……」
悔しげに毒づきながらクレンは身体を起こし、ふらつきながら壁伝いに何処かへ向かおうと覚束無い足取りで歩き出す。
と其処へ、路地の隙間からアスカが誰かを探すように必死の形相で辺りを見回しながら現れ、クレンの姿を見付けると慌てて駆け寄った。
「此処にいたのかよ……!何やってんだお前?!」
「……ああ、アスカか……すーごい……よく僕が部屋から抜け出せたのに気付いたね……」
「こんな時にまでふざけてんじゃねぇよ!満足に動ける身体でも無ぇくせに!!」
いつも通りの口調で話すクレンだが、その顔色は真っ青に染まっており、一目見ただけでも重症だと分かる。
それでも平気そうな素振りを見せるクレンの姿に、アスカが怒鳴り付けながらも肩を貸す。
「良いから今は大人しく部屋に戻って休んでろ!!傷が開くぞ……!」
「……気持ちは、有り難いんだけどね……ゆっくりはしてらんないんだ……今はとにかく、デュレンから聞き出さなきゃならない事が──」
「───俺がなんだって?」
突然背後から聞こえた声に、クレンとアスカがギョッとして振り返る。
そこにはいつの間にいたのか、レンガ倉庫に背中を預けて両腕を組みながら二人を睨み付けるデュレンがいた。
その鋭い視線を前にして思わず気圧されるも、クレンが一歩前に出てデュレンの前に立つ。
「ちょうど良かったよ……君には聞きたい事が山ほどあったんだ……」
「そうか?俺は特に貴様と話す事はないのだがな。……あぁ、もしやあの出来損ないのノイズ喰らいを失った事への謝罪か?それとも、ただの出来損ないを使えるようにしてくれた事への感謝か?何れにせよ、俺には必要のないものだ」
「……ッ!」
「おい、止めとけクレン……!」
クレンが怒りに任せて殴りかかろうとするのを察したアスカが小声で制すると、クレンは不機嫌そうにしながらも渋々と引き下がる。
そんなクレンを見て何処かつまらなそうに鼻を鳴らすと、デュレンが口を開く。
「……それで?一体何を聞きたいと言うのだ?」
「……まず最初に、君はどうして僕の邪魔をした?」
「それも先に答えた筈だぞ?俺なりに、お前を手伝おうと思っただけの、ただの善意でしかなかったとな」
「嘘だ。そんな言葉を信じられると思う?」
「…………ふん」
クレンの言葉を聞いて、デュレンが不快そうに目を細める。
そしてゆっくりと右手を持ち上げて指差すと、まるで銃を向けるかのように指先を向けた。
「では、どうすれば信じてくれる?」
「……知ってる事を、全部此処で話してくれない?それが出来ないなら……力尽くで吐かせるしかない」
「ほう、面白い冗談だ。この俺に力で勝てると本気で思っているのか?」
「思ってないよ……それでも、僕は……やるしか、ないんだ……」
痛みに耐えながら拳を握るクレンの眼差しは鋭く、決して諦めようとしない意志の強さを感じさせる。
そんなクレンの態度を見てデュレンが呆れた様子で嘆息し、やがて小さく笑いながら指先に黒炎を集めて臨戦態勢の構えを取ろうとした、その時……
───突如として轟音が響き渡り、空から一筋の光が降り注いでデュレンとクレン達の間に衝撃波と共に何者かが落下した。
「うっ……!?」
「うぉおおっ!!なん、だっ?!」
衝撃で地面が大きく揺れ、近くのレンガ倉庫が砕けて破片が飛び散る中、クレンとアスカは咄嵯に両腕で顔を庇いながら突風のように吹き荒れる衝撃波に耐える。
そして漸く爆風が収まり、二人が恐る恐る目を開けると、其処には……
「──デュレンの気配が急に膨れ上がったから、慌てて駆け付けてみれば……なんだいこれ?どういう状況?」
「……?なんだ、アイツ……?」
「ヴィーヴル……!」
地面に片膝をつくように着地している、全身を黒い装甲のギアに覆われた少女……イレイザーの処刑人を自ら自称する謎の装者・ヴィーヴルが存在した。
ヴィーヴルの姿を前にした瞬間、初対面であるアスカは怪訝な顔を浮かべ、クレンは逆に顔色が一気に青ざめ、冷や汗を流し始める中、デュレンは悠然とした足取りでそんなヴィーヴルの元に近付いた。
「心配はいらない。ちょっとした口論からお互いに熱が入り過ぎただけだ。貴様が気にする事ではない」
「ふぅん……?まぁ、それなら別に良いけど。それより、こんな所で何をしていたんだい?キミが此処にいるなんて珍しいじゃないか」
「少しばかり野暮用があってな。だがその話は後だ。今は……そうだな……こいつらの相手をしなければなるまい」
デュレンがクレン達に視線を向けて不敵に笑うと、状況が何一つ掴めていないアスカがクレンとデュレン達を交互に見て戸惑っている。
「お、おい……!マジでどういう状況なんだよコレ!説明しろよ、クレン!!」
「……それ、は……」
今の状況を説明する事は容易い。しかし、それを話せば必然的にアスカまでデュレンに目を付けられて危険に巻き込まれてしまうやもしれない。
それだけは絶対に避けなければならないと分かっているからこそ、クレンは何も答える事が出来ずにいた。
そんなクレンの反応を見て何かを察したのか、デュレンが静かに目を細めてクレンに声を掛ける。
「クレン。取り引きをしないか?」
「……えっ?」
「貴様の知りたい事、俺が知っている限りの全てを教えてやろう。ただその代わりに今一度、俺に協力しろ」
突然の提案にクレンが思わず動揺すると、デュレンは続けて口を開いた。
「今、ロンドンの方で水面下で進めている計画がじきに最終段階へ移行しようとしているのは知っているな?貴様にはその計画に参加して貰う。無論、拒否権はない。断れば、分かるだろう?」
「ッ……!」
つまりそれは、自分が協力すればアスカを巻き込まずに済むという事なのか。
悩む素振りを見せるクレンを見て、アスカは戸惑い気味に声を掛ける。
「お、おい……!さっきから何言ってるか全然分からねぇけど……お前、まさか……」
「……分かった。協力するよ」
「なっ!?おい、クレン!!本気で言っているのか!?」
あっさりと承諾したクレンに対してアスカが驚きの声を上げるも、クレンはそれを黙殺してデュレンを見つめる。
「それで……?僕は何をすればいいの?」
「簡単な話だ。お前が元々担当していた仕事をアスカから引き継ぎ、以前の通りお前が"アレ"を守れ。力が徐々に増してきている分、黒月蓮夜やS.O.N.G.の連中に気付かれるのも時間の問題だろうからな……やれない、とは言うまい?」
「……それで、今回の失敗を取り返せって言いたいんだろ……?」
忌々しげに呟くと、デュレンは満足げな笑みを浮かべた。
その表情に苛立ちを覚えながらも、クレンはその場から覚束無い足取りで歩き出し、デュレンとすれ違う際に足を止め、小声で耳打ちする。
「……約束は、守ってもらうよ……必ずね……」
「……ふん」
クレンの言葉にデュレンは鼻を鳴らし、クレンはそんなデュレンの横顔を一瞥し睨み付けると、再びフラフラと何処かへ向かって歩き出していく。
「お、おい……!待てクレンっ!―ジャキィッ!―……?!」
遠ざかっていくクレンを引き留めようと走り出すアスカだが、そんな彼の前にヴィーヴルが右腕に纏う盾と一体化した剣を突き出し、止めに入った。
「デュレンの命令だ。君も大人しく従ってもらうよ」
「っ……!何言ってんだ……!アイツは黒月蓮夜達から受けた傷もまだ完治してねぇんだぞ?!そもそもテメェは何なんだ?!おいっ、説明しろやデュレン!」
ヴィーヴルから剣を突き付けられながらもデュレンに説明を求めて吠えるアスカ。
しかしデュレンは両手をズボンのポケットに突っ込んだまま背を向け、ただ冷たい眼差しでアスカを一瞥する。
「貴様が知る必要のない話だ。それより、お前は奴がロンドンで動いてる間に日本に残ってS.O.N.G.の動向を抑えてろ。どうせ連中の事だ。仮に向こうでの異変を察知した所で、こちらに俺達がいる以上、奴らも戦力の全てをロンドンに向ける事は出来ん。未だ万全でない貴様でも、それぐらいの雑用は出来るだろう?」
「ふざけんな!俺が聞きてぇのはそんな話じゃねぇ!そんなもんで納得が──!」
「そうか。ならばクレンの奴に貴様の分の仕事を回すしかあるまい。……最も、奴もあれだけの死に体だ。こちらとあちらで同時に動いてもらうともなれば、黒月蓮夜でなくとも、他の装者共だけで簡単に仕留められてしまいそうだがな……」
「ッ……!てめぇ……!」
明らかに煽るように語るデュレンの無慈悲な言葉にアスカは無言で睨み付けるしか出来ず、暫しの熟考の末、ヴィーヴルが突き付けてくる刃を舌打ちと共に乱雑に手で払い除けると、そのまま無言で立ち去っていった。
「……いいのかい?あの二人、君に明らかに不信感を覚えてる。放っておいたら面倒な事になるかもよ?」
「……そうなった所で、俺の計画に大した揺らぎになどなりはせん。問題ないさ」
大して心配する様子もなく、ただ冷淡に答えるデュレン。そんな彼を見てヴィーヴルは肩をすくめ、やれやれと首を振った。
「相変わらず、君の考えている事は良く分からないなぁ……。一体、何の為にこんな事をしているのか……」
「……何の為、か……分かり切った事だ……」
意味深に呟き、デュレンはゆっくりと歩きながら静かに空を見上げる。
「全ては俺の渇望を満たす為……その為には……"奴"の力が必要なのだよ」
その言葉を最後に、デュレンの姿が消える。まるで最初からそこに存在していなかったかのように、跡形も無く消えてしまったのだ。
一人残されたヴィーヴルはしばらくその場に佇むも、やがて小さく息を吐いて踵を返す。
(まあ良いさ……どちらにせよ、ボクの仕事は使い物にならなくなった他のイレイザーの処刑だ……最強最速の名に恥じぬよう、ただ冷徹に、粛々と実行するだけ……)
既にアスカとクレンの存在は頭から抜け落ち、ヴィーヴルもまたデュレンに与えられた命令を遂行する為に動き出す。
その影で……
―……カシャッ―
「──成る程……大体分かった」
歩き去っていくヴィーヴルの背中に向けて、レンガ倉庫の屋根の上から二眼レフのカメラを片手で突き出し、静かにシャッターを切る者がいた。
「……にしても、コイツはまた厄介な事になったものだ」
ヴィーヴルが姿を消した後、構えを解いたカメラが首から掛けたカメラストラップでぶら下がる重みを感じながら、男は誰に言う訳でもなく独りごちた。
(装者達も着々と力を増して来てはいるが、ロンドンの"アレ"を今のアイツ等の力だけでどうにか出来るものか……さて……)
其処まで考えながら、男は懐から一つのアイテムを取り出す。
それは、まるでバーコードを模した様な頭をした謎の仮面の戦士の横顔のレリーフが左端に描かれ、中央から右端に掛けてスロットのようなギミックが施されているマゼンタのラインが入った蒼いブレスレット。
手の中でそのブレスレットを弄び、男は無言で空を見上げる。
「……そろそろ見極め始める必要があるか……クロスを……この世界を、"破壊"すべきか否かを……」
何処か憂いを帯びた声で呟くと、男は踵を返して歩き出す。
その眼前に灰色のオーロラが突如現れるも、男は構わずに潜り抜け、そのままオーロラと共に何処かへと姿を消したのであった───。
第八章/繋xX式・調(ツキ)が読み解くわたしの答え×黎明・それでもme侶スは駈ke走ル END
新タイプ解説編
仮面ライダークロス・タイプザババ
解説:調と切歌との繋がりから生み出され、更に二枚のカードが一つとなった『TYPE ZABABA』のカードを用いてクロスが変身するオールラウンダー形態。
タイプチェンジ時の姿は、三つの刃の鎌を模した緑色の右目と丸鋸を模した桃色の左目が特徴的な仮面。
右肩や右腕、右脚がまるで刃のように鋭利な意匠のアーマーが特徴的で、右肩甲骨部には巨大な黒の線が入った緑のブースターを装備した緑色の右半身。
全体的に重装甲であり、左脚の側面に高速移動用のホイールであるランドスピナーが備わり、左側の背中からはまるで翼のように伸びた機械的な桃色の巨大アームが特徴的なピンク色の左半身と、仮面ライダーWや仮面ライダービルドのようにアンシンメトリーな姿が特徴的。
二つの力が一つにユニゾンしている為、純粋なスペックだけならこれまで登場どのタイプよりも上回っており、下記するそれぞれのタイプの武器や技、特徴を活かせるなど強みがある反面、それらを同時に使いこなせなければ十分に真価を発揮出来ないという器用貧乏になり兼ねない面もある。
何よりの最大の武器として一つの力を二つに分離、つまりは分身を特徴とし、それぞれの機能に特化、或いは共闘する事で連携を仕掛けられ、好きなタイミングで再び合体出来るなどゲッターロボのような高度な合体分離機構が備わっている。
必殺技はそれぞれのタイプ各種。
右足の側面から巨大な三日月状の鎌の刃、左足の側面から巨大な丸鋸を展開して敵を切り刻むライダーキックを放つ『邪輪刃殺・Sュuマ久激』
調と切歌とユニゾンし、彼女達のアームドギアと一部のギアをその身に纏った文字通りの全身凶器と化し、二人からのフォニックゲインでブーストして突撃し、全身の刃で相手に無数の斬撃を叩き込む『禁合Xx式・Zあ破刃廻ン牙ェZi』と多彩な技を持つ。
仮面ライダークロス・タイプイガリマ
解説:切歌との繋がりから得た力であり、近~中距離戦を得意とする他、隠密からの一撃必殺の刃を繰り出せるタイプザババの片割れ形態。また、切歌との繋がりから得る本来の姿でもある。
外見は右半身に比べて若干軽装備と化し、更に右の背中からはまるで死神を彷彿とさせる緑のラインが走った、漆黒の羽根を生やした緑色の装甲と対象的になった三つの刃の鎌を模した仮面が特徴。
背中の羽根は纏うように閉じる事でシールドとしても利用出来、更に特殊・強力な妨害電波を発生させてカメラやレーダー等の電子機器をほぼ完璧に無効化し、カメラ・レーダー等から情報を得る兵器にとっては勿論、視覚情報や気配もその一切消す事が可能。
得物として使用する大鎌は切歌のソレと同様様々な形態に変形可能であり、分離して双鎌、刃をビーム状に展開する事も出来る他、敵の様々な防御機構・概念すら斬り裂いて魂そのものにダメージを与える強力な一撃を繰り出せる。
必殺技は羽根を纏って透明化し、完全に気配を消して相手に音もなく接近しながら大鎌の刃を振るい、標的の魂を一閃する『永別・伊theナmi』と、両脚の側面から血に濡れたように赤い刃を展開しながら標的に向けて両脚を突き出しながら跳び蹴りを放つ『死踊・朱ィ苦uツ』
仮面ライダークロス・タイプシュルシャガナ
解説:調との繋がりから得た、タイプイガリマと同じくザババの片割れとなる形態。元の調のギアと同様に状況に応じて様々な技を使える他、重厚な装甲とその見た目に反して小回りの利く機動力が特徴。
外見は赤のラインが所々に走るまるで重機のように厚い桃色の重装甲と仮面に、丸鋸を模した桃色の複眼。両脚にはザババの時には片脚のみだったランドスピナー、両翼となった機械的なピンク色の巨大アームを装備している。
全身の様々な部分から小・中・大と、大きさや種類を問わず多種多様の刃を展開・放出が可能であり、両腕の装甲を変形させて黒の刀身に赤いギザギザの刃が煌めくチェーンソー、背中のアームを先端を丸鋸やプロペラに切り替える、切り離して巨大な大剣にしたりなど、正に全身凶器と呼ぶに相応しく無数の刃を使い分ける他、調のように刃を仕込んだ赤とピンク色のメカヨーヨーを得物として使える。
必殺技は『EXCEED DRIVE』発動後、凄まじい機動力で一気に敵の懐に飛び込み、全身から展開した凶器による連撃で立て続けに切り刻み、トドメに先端がハサミ状になったアームを伸ばして標的を捕らえ、相手の胴体を一瞬で切断する『ν式・斬鮮血』
巨大アームのプロペラの回転から発生させた竜巻で相手を空へ打ち上げ、身動きが取れないところへ背中の二基の巨大アームの先端を巨大な丸鋸に切り替えて回転させ、全身のスラスターを噴かして飛翔しすれ違い様に丸鋸で敵を切り裂く『η式・飛影輪』
背中のアームから連続放出する無数の小型丸鋸で敵を牽制しつつ、まるでフィギュアスケート選手のような素早い動きによる滑走で相手の周りを動き回りながら蹴り技を連続で叩き込み、フィニッシュに両脚の裏面から丸鋸を展開した状態で強烈なサマーソルトキックを叩き込む『χ式・狂美輪舞曲』