戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第二章/邂逅×存在を赦されない存在②

 

 

「──奴が記憶を失ってる……だって?」

 

 

とある廃屋内。元は何かの工場だったのか、長らく放置された錆まみれの機械が多く見られる屋内にて、デュレンにより金髪の男と青髪の青年が集められ、彼から齎された情報……自分達が敵対している蓮夜に関わる情報を聞き、金髪の男は怪訝な反応でデュレンにそう聞き返していた。

 

 

「そうだ。先日の戦いを観察した際、奴の戦闘スタイルが目に見えて変わっているのが分かった……恐らく、我々が以前罠に嵌めた際に一命こそ取り留めたものの、代わりにこれまでの記憶を失う事になったのだろうよ」

 

 

「うーん……って言われてもさ、デュレンがそう言ってるだけで実際そうなのかなんて分からないでしょう?まあ彼と何度か交戦経験があるのはこの中じゃデュレンが一番多い訳だから、僕らも強くは否定出来ないけど……」

 

 

「確かにな……大体、記憶を失ってるからってソレが何になるんだよ?奴の力が厄介なままなのに違いねえし、実際に奴のせいでこれまで何人もの駒を消されちまってんだぞっ?」

 

 

記憶を失ったせいで戦えなくなったのならまだしも、蓮夜はそれでも変身して自分達の駒であるイレイザーを倒している。どっちにしろ自分達にとって驚異でしかないのは変わりないではないかと吐き捨てる金髪の男に、デュレンは両手をポケットに突っ込んだまま淡々と語る。

 

 

「記憶を失っただけとは言え、それは奴にとって死活問題なのに変わりはない。忘れたか?奴が変身するクロスの力の本質は繋がり……『他者との絆』をその身に具現化し、己の力とするだけでなく、奴と繋がりを得た人間にまで我々と戦える力を恩恵として与える……」

 

 

「知ってるよっ。そのせいで本来、フィクションの連中には倒されねぇっていう俺達の強味も打ち崩されちまうし、だから計画を動かす前に奴と装者共が合流しないように先に潰そうって話になったんだろっ?それが何の……」

 

 

「……分からないか?記憶を失ってる今、奴は嘗ての仲間の記憶も失い、これまでの繋がりも絶たれた事になる……つまり今の奴は、俺達と戦った時よりも遥かに弱体化しているという事だ」

 

 

真剣味を帯びた口調のデュレンにそう言われ、彼の話を半ば聞き流そうとしていた二人の表情も僅かに変わる。仮にもしデュレンの話が本当だと仮定すれば、今の蓮夜は確かに自分達にとって大した驚異になり得ないかもしれない。しかし……

 

 

「けど、奴がマジで記憶を失ってるって確証は本当にあんのか?もしかしたら向こうも俺達の事を欺く為に、わざと記憶がない素振りを見せてこっちを釣り上げようだなんて考えてるかもしれないだろ?」

 

 

「ハハッ、相変わらず用心深いねぇー……でも、僕も同意見かな。まだ一度しか彼の戦いを見てない訳だし、もう少し様子を見てから判断するべきじゃない?」

 

 

「分かっている、その為の次の一手を既に用意済みだ。先の使い捨ての駒とは違い、奴の力を測るのに適当な駒をな……アスカ、お前は其処で奴の力を見極めろ」

 

 

「ハアッ?!何で俺なんだよッ?!お前の方が奴の事に詳しいんだから、お前が直接確かめてくりゃいいじゃねえかッ?!」

 

 

「そうしたいのは山々だが、俺は欠けた駒を補充する為に色々と動かなければならないのでな……俺の代わりとなると、後は慎重派のお前ぐらいしか適任はいない」

 

 

お前の目なら奴の一挙一動を見逃す事もないだろうと、見透かすように語るデュレンに金髪の男……アスカも嫌悪感を露わに顔を歪め、舌打ちと共に頭を掻きながら廃屋を後にしていく。

 

 

「ハハッ、口では何だかんだ言いながらも仕事はちゃんと全うするよねー、アスカって」

 

 

「後は命令に忠順であってくれれば話も早く助かるんだがな……まあいい、俺は新たな駒集めに戻る。お前は引き続き、S.O.N.G.の動向を見張れ……奴と装者共が合流すると踏めば、即座に潰しても構わん」

 

 

「りょーかい……っと、そうだった。一つ伝え忘れた事があったんだけど、この間の彼に倒されたイレイザーの事で興味深い発見があったんだよ」

 

 

「……発見?」

 

 

アスカに続いて廃屋を後にしようとするも、青髪の青年の台詞に怪訝な反応を浮かべて振り返るデュレン。

 

 

そして、青髪の青年が語った内容……三日前の戦場で蓮夜が倒したイレイザーの変容を聞き、デュレンは僅かに口端を吊り上げた。

 

 

「ほう、窮地に追いやられたイレイザーが進化を……」

 

 

「混じりっ気のない僕らの時に比べたら微々たる変化だったけど、それでもこれまでに比べれば目に見えて分かる変化だ。ノイズを喰らったイレイザーに短期間で力を付けさせて、僕達とは異なる進化の可能性を探る……正直前例のない試みだから失敗で終わるんじゃないかと危惧したけど、此処に来てやっと日の目が見えて来たんじゃない?」

 

 

「……そうだな。しかしその話が本当だとすれば、進化の引き金となるのは──」

 

 

顎に手を添え、深く考え込むデュレンの脳裏に過ぎるのは嘗て相対した蓮夜の顔。暫し思考した後、廃屋の入り口に顔を向けて目を細めていく。

 

 

「もしかすると、少しばかり計画の進行に修正が必要になるやもしれんな……」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「──それじゃあ、結局その仮面ライダーさん……蓮夜さんって人と協力を取り付ける事は出来なかったの?」

 

 

「……うん……」

 

 

一方その頃、蓮夜と別れた響達は本部に帰還した後、協力こそ取り付けられなかったが蓮夜から齎された情報を整理する為に一先ず今日は解散という事になった。

 

 

その後、四人は本部で皆の帰りを待っていた未来を加えて行き付けのクレープ屋に寄ろうという話になり、その道中で蓮夜との交渉の経緯を未来に説明する中、クリスが掌に拳を打ち付けた。

 

 

「クソッ!アイツ、あたし等の事を足手纏いみたいに扱いやがって……!今思い出しても腹が立つ!」

 

 

「ま、まあまあ……でも、私もその人の言ってる事はあながち間違ってるとも思えないかな。対抗策もない状態で皆が戦って、それで怪我をするなんてあって欲しくないし……」

 

 

「それは……確かに……」

 

 

「正直、今イレイザーと戦うのはギアも無しにノイズと戦うみたいなもんデスしね……戦える方法も無しに、またあんなのと戦うのはアタシも気が引けるデスよ……」

 

 

「そんな事は言われなくても分かってんだよ!けど……あー、クッソッ……!」

 

 

イレイザーと交戦してその危険性を身をもって実感したし、蓮夜が自分達をこの件から遠ざけようとする気持ちは分かる。

 

 

だが、今まで自分達が必死に守ってきたこの世界がイレイザーの手によって明日にでも乗っ取られるかもしれないと聞かされたのに、戦う手段がないから手を引けと言われて簡単に引き下げれるほど大人にはなれない。

 

 

故にクリスも蓮夜への怒りと言うよりも、何も出来ない事に対しての苛立ちを抑えられない意味合いの方が大きく、切歌と調も口では納得してるように呟きつつも実際の所は内心割り切れてないのが本心だったりする。

 

 

そんなクリス達の様子に未来も複雑げな顔を浮かべる中、隣を歩く響は浮かない様子で肩を落としており、顔を上げて空を仰いでいく。

 

 

「私……蓮夜さんと話せればきっと協力出来るって思ってたけど、もしかして考えが甘かったのかなぁ……」

 

 

「響……さっきも言ったけど、その蓮夜さんって人も響達の身を案じて事件から手を引くように言っただけで、別に協力が嫌で断った訳じゃないんでしょ?実際、直接協力は出来ないけど情報提供はするって聞いたし……」

 

 

「それは分かってるんだけど……でも……」

 

 

イレイザーに太刀打ちする術がない以上、蓮夜が言うように自分達が事件から手を引くのは妥当な判断だ。

 

 

それは弦十郎達も理解してるのか、本部に戻った後のブリーフィングでは一先ず情報の整理の為にあの場では解散となったものの、仮にこのまま対抗策が見つからなかった時は……と、直接口には出さなかったがそんな雰囲気を醸し出していた。

 

 

無論そうせざるを得ない事は頭では理解しているのだが、それでも自分が望んでいたのとは違う現状に響も未だに納得し切れず気落ちしており、そんな響の様子を見た切歌は不意に拳を掲げて叫び出した。

 

 

「まぁ、もう終わった事デスし、今日はこれ以上あれこれ考えてもしょーがないデスよ。こーゆーモヤモヤっとした時は、甘い物でも食べて気分を変えるのが一番デース!」

 

 

「……そうだね。気分転換は大事」

 

 

「つっても、正直今はそんな気分にもなれねえんだけどな……」

 

 

「まーまーっ。とにかくGOデスよGO!ほらほら、お二人も早くー!」

 

 

「あ、うん。私達もいこ。ね、響?」

 

 

「……うん、そだね」

 

 

気落ちする皆を励まそうと敢えて明るげに振るう切歌の気遣いを悟ったのか、真っ先に同調した調に背中を押されながら半ば不本意げなクリスも仕方なさそうに先へと進んでいき、そんな三人を見た未来に促され響も若干ぎこちなくも笑って頷き返し、皆と共に目的地のクレープ屋へ向かう足取りを速めていくが……

 

 

「──さっきの店員さんって、新しく入った人かなぁ?」

 

 

「結構カッコよかったよねー!私、あの店通っちゃおうかなぁ〜」

 

 

「……?何か、今日はやけに人多くないか?」

 

 

「デスね……というか、この辺じゃあまり見掛けない他校の生徒までいるデスよ?」

 

 

クレープ屋に向かう道中、何やら何時もに比べて響達と同じリディアンの生徒やここら辺ではあまり見ない制服の他校の女子生徒と行き交い、クリス達は頭上に疑問符を浮かべる。

 

 

そして漸くクレープ屋の前に辿り着くと、其処にはやはり黄色い悲鳴と共にクレープを持って店から出てくる女子生徒達の姿があり、その姿を見送りながら小首を傾げつつ、五人が取り敢えずクレープ屋に入っていくと、其処には──

 

 

 

 

 

「──いらっしゃいませ。ご注文は何に致しますか」

 

 

 

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

 

 

 

──其処には響達も見覚えのある顔……というか、先程別れたばかりの筈の蓮夜が何故か店のショーケースの向こうに、クレープ屋の店員の格好で真顔のまま佇む姿があったのだった。

 

 

「……って、れ、蓮夜さぁんッ?!」

 

 

「?……ああ、誰かと思えばお前達だったか。奇遇だな、まさかこんな所で会えるとは……」

 

 

「き、奇遇だなって、お前っ、こんな所で何してんだよっ?!」

 

 

「何、と言われても……見ての通り、此処でバイトをさせてもらってるんだが……」

 

 

「バイト……?」

 

 

両腕を軽く広げ、自身の格好を指し包み隠さずそう告げる蓮夜に響達は唖然とした表情を浮かべている一方で、未来は響達と蓮夜の顔を交互に見比べながら若干状況に付いていけず困惑しており、そんな未来の存在に気付いた蓮夜は訝しげに首を傾げた。

 

 

「初めて見る顔もいるな……お前達の友人か……?」

 

 

「え……あ、は、はいっ。小日向未来って言います。えっと……もしかして、貴方が黒月蓮夜さん、ですか?」

 

 

「?俺の事を知ってるのか……?」

 

 

「あ、はい。実は私、民間協力者って言う体で響達に協力してるんです。それで、蓮夜さんの事も一通り皆から話を聞いてて……」

 

 

「成る程……民間の協力者なのか……確かに学業をこなしながらノイズと戦うなんて並大抵の苦労ではないだろうからな……良い友人を持ってるじゃないか……」

 

 

「え、えーっと……そ、それ程でも〜……」

 

 

「言ってる場合かッ!ってかそんな事より聞きたいのは、何でお前がこんなとこでバイトなんかしてるって話だッ!イレイザーを作ってる黒幕を追ってたんじゃねーのかよッ?!」

 

 

そう、今知りたいのはそれだ。先程の交渉の際にイレイザーの件は任せて自分達には手を引けと言っておきながら、何故こんな所でクレープ屋の店員なぞやっているのか。

 

 

勢いよく問い質すクリスからの質問に対し、蓮夜は真顔のまま小さく頷き返す。

 

 

「勿論、イレイザーや黒幕の捜索は今も続けてる……たださっきも言ったように、俺はこの世界の人間じゃないから身寄りもなく、金銭も大して持ち合わせがなかったからな……最初の頃はその事にも気付かずひたすらに奴らと戦い続けていたんだが、所持金が底を尽き、飲まず食わずで過ごすのも流石に限度が来て、遂に行き倒れてしまったんだ……其処へたまたま通りがかった此処の店の店主に救われて、事情を説明したら此処で働かせてもらえるようになった、という事情があってこうなった……」

 

 

「い、行き倒れたデスか……」

 

 

「何ていうか……影のヒーローも世知辛いんだね……」

 

 

思いのほか現実的且つ納得のいく理由に切歌と調も何とも言えない表情になり、クリスは呆れて物も言えないと頭を抑えて溜め息を吐いてしまう中、店の奥から店員の格好をした一人の女性が顔を出した。

 

 

「あれ、どうかした蓮夜君?何かトラブル?」

 

 

「ああ、店長……いや、たまたま顔見知りが来たから少し話し込んでるだけで、大した事は何も……」

 

 

「顔見知り?あ、もしかして、蓮夜君が記憶を失う前の知り合いとか……!」

 

 

「いや、そういう訳ではないんだ……此処に来る前に知り合ったというだけで、特別何か親しいという訳じゃ……」

 

 

「そうなの?そっかぁ、てっきり蓮夜君を知ってる人が漸く現れたのかと思ったけど……あ、すみませんね?いきなり出てきて話に割り込んじゃって」

 

 

「あ、い、いえ!全然気にしてないですから!」

 

 

「そう?なら良かった……あ、因みに彼、人付き合いとか結構不器用なとこがあるけど、根はホントにいい子だから、どうか仲良くしてあげて下さいね?」

 

 

そう言って響達に微笑み掛け、店長はその場を蓮夜に任せ再び作業の為に店の奥に戻っていき、その背中を見送りながら蓮夜はたどたどしい口調で語る。

 

 

「今の人がこの店の店長でな……素性も分からない俺の話を信じて雇ってくれただけでなく、行く宛がないなら暫く自分の家に住み込んでもいいと言ってくれたんだが、流石に其処まで世話になる訳にはいかないと断った……いざという時、俺の問題に巻き込まれないとも限らないからな……」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

苦笑いを浮かべる蓮夜のその言葉に、響は眉間に皺を寄せ複雑な表情を浮かべてしまうが、蓮夜はそれに気付かずに真顔に戻って響達の方に向き直った。

 

 

「まあ、俺の話は置いておくとして……それより、注文はどうする?今ならオススメはイチゴ系、ガトーショコラ系も人気だと店長も言っていたから、その辺のメニューの味は保証するぞ……」

 

 

「注文って……もしかして、蓮夜さんがクレープを焼くんですか?」

 

 

「大丈夫なのかよ……下手に注文してゲテモンが出てきたりとかしないだろうなっ……?」

 

 

「任せて欲しい。店長に教えを乞いて基礎から徹底的に叩き込んでもらい、お墨付きも貰ってる……商売をやる以上、顧客の期待を裏切るような物は出せないからな……必ず満足させてみせると約束する……」

 

 

「ムム、この多くのクレープを食べ尽くしてきたアタシを前に其処まで言い切るとは、これはクレープ覇者のアタシへの挑戦と受け取ったデスよ!」

 

 

「いや一人で勝手に盛り上がってんじゃねえよ、なんだクレープ覇者って」

 

 

ビシィッ!と、蓮夜を指差しながら良く分からないテンションでノリノリになる切歌に冷静なツッコミを入れるクリス。

 

 

そんな二人を横目に調は溜め息を吐きながら無言で財布を取り出し、既に響と未来と共に自分達の分のクレープを先に選び始めていたのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

それから数十分後。結論から言えばあの後、蓮夜が作ったクレープは自称舌が肥えてる切歌や響達にご満悦だった。

 

 

寧ろ、甘さのバランスが良く考えられたクレープの出来に彼女達から賞賛を貰い、切歌やクリスも「悔しいっ……!でもおかわり!」と満足させる事ができ、彼女達が去って閉店時間が過ぎた店の片付けを行う蓮夜も、表情こそ真顔のままだったが内心ではホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

(……店長直々に仕込まれて自信があったとは言え、実際に食べてもらうとなるとあんなにも緊張を覚えるものなんだな……記憶を失ってから初めて理解した……)

 

 

無論それだけじゃない。自分が苦労して作った物を美味いと言って褒めてもらえるのは、あんなにも心満ちる感情を覚える物なんだなと実感して小さく微笑み、その余韻を胸に蓮夜がダンボールを抱えて店の片付けを進めていくと、その時……

 

 

「──あの、蓮夜さん!」

 

 

「……?」

 

 

店の後片付けを行っていた中、後ろから不意に声を掛けられてダンボールを抱えたまま振り返る。其処には、夕日の日射しが差し込む店の入り口の前に立つ一人の少女……クリス達と共に帰った筈の響の姿があった。

 

 

「お前は……確か仲間達と一緒に帰った筈じゃ……」

 

 

「未来達には先に帰ってもらいました……私やっぱり、蓮夜さんともっとちゃんと話がしたくて……」

 

 

「…………」

 

 

そう語る響の目を見て彼女が言わんとしてる事を察したのか、蓮夜は口を閉ざし、響に背を向けながら抱えたダンボールを片付けて作業を続けていく。

 

 

「もうすぐ日も暮れる……ノイズと戦ってるお前には要らぬ心配かもしれないが、女子高生が一人で夜道を歩くのはあまり宜しくない……暗くなる前に帰った方が──」

 

 

「お願いします!イレイザーに対抗する為に、私達と一緒に戦ってもらえませんか!」

 

 

「…………」

 

 

帰宅を促して遠回しに話を切り上げようとするも、向こうもそれを悟ったのかこれ以上ないほど一直線に再度協力を申し出られてしまった。

 

 

先手を打とうとするもそれも封じられ、蓮夜は瞼を伏せて溜め息を漏らすと、響の方に振り返って困ったように語る。

 

 

「その話は昼間にもした筈だろう……?イレイザーに対抗する手段を持ち合わせていないお前達を奴らと戦わせる訳にはいかない……危険が伴う以上、無謀な真似をさせる事は出来ないと……」

 

 

「それは、分かってますけど……」

 

 

「分かっているなら、納得は無理でも理解はしてくれ……これがお前達や、この世界を守る為にも一番の最善の方法なんだ……」

 

 

だからどうか諦めて欲しいと改めて響の頼みを断わり、蓮夜は今度こそ話を切り上げて片付け作業に戻ろうとするが、響はギュッとバッグの持ち手を握る手に力を込めた。

 

 

「──確かに、その方法なら私達は危険な目に遭わないし、安全も保証されるかもしれない……でも……けどそれじゃ、蓮夜さんが独りっきりのままじゃないですか……」

 

 

「……?俺……?」

 

 

響の思わぬ発言に怪訝な反応と共に振り返る蓮夜に対し、響はそんな蓮夜の目をまっすぐ見つめ返しながら告げる。

 

 

「さっき皆で話してた時もそうだったけど、蓮夜さんの顔、何ていうか……寂しそうっていうか、悲しそうに見える事が時々あるんです……私も昔、色々あったせいかそういうのが分かるっていうか、感じ取れちゃうっていうか……だからずっと気になってて、放っておけなくて……」

 

 

「…………」

 

 

何か辛い過去を思い返してるのか、暗い影を落としてそう告げる響の顔をジッと見つめると、蓮夜も自分の顔を手で触れて物憂い表情を浮かべた

 

 

「寂しそう……悲しそう、か……確かに、あながち間違ってるとは言い切れないかもしれない……」

 

 

「え?」

 

 

自嘲気味に笑う蓮夜の言葉に響が頭上に疑問符を浮かべて思わず聞き返すと、蓮夜はダンボール運びを再開しながら話を続けていく。

 

 

「自分でも理由は良く分からなかったんだが……何というか、記憶を失ってからずっと、胸に穴が空いたような感覚が拭えなかったんだ……何か大事な物が自分から抜け落ちたようで、落ち着かなくて……時々理由もなく泣き出したくなるような時もあって、自分でも困惑を覚える事も多々あったが……多分、あれは悲しかったんだ……記憶を無くした事もそうだが……恐らく、大事な人達の事を思い出せないのが……」

 

 

「大事な人達……家族とか、友達とか、ですか?」

 

 

「……其処までは分からないが、多分そうなのかもしれない……その人達の事を思い出そうとしても、出来なくて……こんなにも悲しく、切なくなる……だからきっと、記憶を無くす前の俺は余程大事で、大好きだったんだと思う……その人達の事が……」

 

 

顔も名前も思い出せない誰かの事を此処まで想えるのも、きっと過去の自分がそれだけその人達の事を大事に想っていたのだろうと、何処か羨むように微笑んで俯く蓮夜。その横顔を見て、響は僅かに逡巡する素振りを見せた後、何かを思い付いたようにハッとなった。

 

 

「そうだ……もしかしたらソレ、エルフナインちゃん……えっと、私達の仲間に相談すれば何とかなるかもしれないです!難しい事は良く分かんないんですけど、そういうのに詳しくて私達も何度も助けられた事があるし、蓮夜さんが無くした記憶も取り戻せるかも!」

 

 

そうなれば、イレイザーへの対策も何か思い出せるようになり、自分達も一緒に戦えるようになるかもしれない。

 

 

我ながら名案を思い付いたと喜びを露わにする響だが、それを聞いた蓮夜は少し考える仕草を見せるものの、直後に目を伏せて首を横に振ってしまう。

 

 

「え、ど、どうしてっ?」

 

 

「……もう少し前なら、その提案に乗ってたとは思う……だが、今は俺もイレイザー側に生きてると知られてしまってる。となれば、奴らも俺とお前達が合流する事を良しとせず今も警戒してるかもしれないし、お前達の拠点も見張られている可能性がある……其処で俺が出入りしている事が知られれば、奴らがどんな手を使ってくるか想像に難くない……」

 

 

「で、でも、そうなった時こそ一緒に戦えば!蓮夜さんがいれば、イレイザーを倒す事も出来る訳ですし!」

 

 

だからきっと大丈夫だと、前向きな笑顔と共に語る響。しかし蓮夜はそんな響の笑顔を見て一瞬複雑げに表情を歪めながら俯いた後、改めて響の目を見つめながら口を開いた。

 

 

「立花響、だったか……お前には、家族や友人……その身を削ってでも、守りたいと思える大切な存在はいるか……?」

 

 

「……?えっと、はい、それは勿論!お母さんやおばあちゃん、お父さんとか……未来やクリスちゃん、切歌ちゃんに調ちゃん、今は海外にいる翼さんとマリアさん、師匠やエルフナインちゃん、S.O.N.G.の皆さんも……みんな私の大切な家族で、友達で、仲間です!」

 

 

「……そうか……ならもし、その大切な人達の命が失われてしまった時……その時、お前ならどうする……?」

 

 

「……え……」

 

 

彼女達の命が失われたら……。そんな考えたくもない問いを突き付けられた瞬間に響は声を詰まらせて思わず黙ってしまう中、そんな響の反応を予想していたように蓮夜も物憂い表情で話を続けていく。

 

 

「お前達が今までどんな敵と戦ってきたかは俺には分からないが……少なくとも、お前が戦おうとしているイレイザー達はそのどの敵よりも厄介で、残忍である事だけは言い切れる……今はまだ脅威対象外として見てるかもしれないが、奴らが一度お前達を障害と判断すれば、どんな手を使ってでも潰そうとする筈だ……お前の家族や、さっき一緒にいたお前の友人の命を改竄の力で奪う事になっても、奴らは一切躊躇しない……その筆を軽く振るうだけで、奴らは簡単に人の命を奪う事が出来るからな……」

 

 

「お母さん達や……未来達をっ……?」

 

 

本にたったの一文を書き記すようなそんな簡単な感覚で、自分の大切な家族や親友達の命が奪われるかもしれない。

 

 

考えもしなかったその可能性を仄めかされ響も一言も声を発せず口を閉ざす中、蓮夜も意地の悪い問いを投げ掛けた事に対して申し訳なさそうに瞼を伏せるも、それでも響に事の重大さをしっかり伝える為に語り続ける。

 

 

「俺が頑なにお前達との協力関係を拒むのは、その危険性を孕んでいると思ったからだ……奴らがそんな手段を取るようになれば、改竄を防ぐ術を持たない俺にもどうする事も出来ない……失われるかもしれない命に責任を負う事も出来ない以上、安易に頷く訳にはいかない……大切な何かを失う事の辛さは、俺も少なからずは分かるから……」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

イレイザーの冷酷さや残忍さを、何より大切な物を失う事への悲しみを理解しているが為に、響達の大切な人達にも危害が及ぶ事を考慮して協力関係の提案を簡単に受け入れる訳にはいかない。

 

 

何処か沈痛の面持ちで視線を逸らしながらそう告げる蓮夜の顔を見てその心情を察し、響もそれ以上は何も言えなくなってしまう中、不意に響の携帯に着信が入る。

 

 

蓮夜に一言断りを入れてから携帯に出ると、弦十郎の緊張に張り詰めた声が届いた。

 

 

『響君、緊急出動だ!ノイズがまた市街区に現れた!』

 

 

「ノイズ……!」

 

 

弦十郎からの連絡を聞き、響の顔が強ばる。アルカ・ノイズでない通常のノイズという事は、恐らくまたイレイザーによる差し金か。

 

 

S.O.N.G.から送られるヘリが降下する合流地点を聞かされながらそう考え、携帯を切り響が蓮夜の方に振り返ると、其処には既に蓮夜の姿はなく彼が着ていたエプロンだけがいつの間にかショーケースの上に脱ぎ捨てられていた。

 

 

「蓮夜さん……っ……!」

 

 

恐らくイレイザーの気配を察知して先に現場に向かったのか、誰もいない店内を見回した響も急いで店を飛び出し、弦十郎が指定したヘリの合流ポイントへと駆け出していくのであった。

 

 

 

 

 


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