戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
メモリア05/Die Geburt der Tragödie×SiNの堕天使(前)
―???の世界・研究施設―
───とある世界の、何処かにある謎の研究所の一室。
薄暗い暗がりの中で、何かを培養しているらしき薄気味悪い光を放つ無数の生体ポットが何処までも並んでいるその部屋にて、白衣を着た研究者達が忙しなく動き回る中、部屋の中央に置かれた巨大なカプセルの前では数人の男が額を突き合わせて話し合っていた。
「──やはり駄目ですな……培養液に浸かっている間も侵食が止まらない……」
「うむ……この異常なまでの侵食速度……やはり、埋め込まれた『彼』の細胞に被検体の身体が先に持たないのか……」
研究員の一人の言葉に、他の者達も難しい表情を浮かべて同意を示すように首を縦に振る。
彼らが見つめるカプセルの中には、まるで水のような液体の中に浸かっている異形の怪人がいた。
全身を包帯のように黒い繊維状のもので巻かれており、その隙間から覗く肌にはびっしりと不気味な血管のような模様が広がっている。そして、顔の半分以上を占める大きな眼からは赤い光が灯っていた。
「しかし、これが上手く行けば『彼』の計画も夢物語ではなくなる」
「ああ、分かっているさ……全ては我々、イレイザーの未来の為に!」
そう言って男達……この場にいるイレイザー全員は決意を新たにする。
とその時、一人の若い男が息を切らしながら何やら慌ただしい様子で部屋の中に駆け込み、血相を変えて叫んだ。
「た、大変ですっ!たった今、監視カメラの映像を確認したところ、侵入者を発見しましたっ!」
「?!何だと?馬鹿な、この場所はイレイザー以外に見付からぬように改竄の力で隠されてるハズ……一体どうやってこの場所を突き止めた!?」
「分かりません……!ただどうやら相手はかなりの手練れらしく、既に護衛のイレイザー達を倒してこの場所に向かっているよう──!」
報告の途中で、突如として男の頭が破裂したかのように弾け飛ぶ。
飛び散った脳漿と血液を浴びながら、その場にいた全員が驚愕に目を見開いた。
「な……ッ!?」
突然の出来事に唖然としていた一同だったが、やがて我を取り戻した者達が一斉に身構えると、出入り口の扉から一人の男性が悠然と姿を現した。
「───ほう?中々の設備が揃っているじゃないか……ただ、流石はデュレンがスポンサーを務めるだけあって陰気臭さが滲み出ている……まぁ、それも奴らしいと言えばらしいがな……」
感慨深そうに言いながら、男は不気味な生体ポットが並ぶ研究所内の光景をマジマジと眺めていく。
外見年齢は恐らく二十代後半辺りだろうか。
漆黒の長髪に、真赤い瞳。
黒を基調としたロングコートに身を包み、右手には奇妙な形状の剣を握っており、腰にはソレを収める為のホルダーのような物が装着されている。
一見すると剣士のように思える風貌だが、よく見ると足運びが非常に独特であり、独自の歩法を用いている事が分かった。
「な、何だ貴様?!どうやって此処まで……?!何者だ?!」
「……おや?随分つれない反応じゃないか。嘗ての出資者の顔を忘れるとは……少々薄情ではないか?Mr.プロスペクト」
「……何?」
男の口から放たれた言葉に、プロスペクトと呼ばれた研究者の一人が怪しげな物を見るような視線を向ける。
そんな彼に男が口元を歪めて不敵な笑みを浮かべると、その笑みを見た瞬間、プロスペクトは男の正体を思い出したのか、まるで恐怖に襲われたかのように顔を青ざめさせた。
「馬鹿、な……まさか貴様、そんな……!生きてたというのか?!黒月蓮夜と、その父親……!
有り得る筈がない、そんな事はと、プロスペクトが目の前の男を見てまるで幽霊でも目の当たりにしたかのように狼狽を隠せず後退りしていく中、男はそんなプロスペクトの言葉に何処か自嘲を含むように笑う。
「死んだ筈、か……まぁ、それもある意味間違いではない。奴らに敗北した事で、今の俺は嘗ての俺ではなくなったのだからな」
「っ……そ、そうだ……!聞いているぞ!貴様が奴らに敗れた事で、
まるで目の前の男への恐怖を押し殺すかのように、男を指差し敢えて大声を荒らげて虚勢を張るプロスペクトだが、男はそんな彼の心を見透かしているかのように嗤い、右手に持つ奇妙な剣を腰のホルダーに収めながら冷淡に告げる。
「愚問だな……。此処に辿り着くまでに多くのイレイザーを殺し、研究に必要と思われる機材の殆どを壊し回ってきた……此処までして、お前達をこの研究所ごと消し潰す以外に目的があると思うか?」
「な、何故っ……?組織を除籍させれたとは言え、貴様も我々と同じイレイザーだろう?!どうして我々の邪魔をする?!」
「どうして?……ハッ、貴様らしくもなく察しが悪いなぁ、Mr.……」
狼狽するプロスペクトを見て肩を僅かに揺らしながらクツクツと嗤うと、男は徐に懐から一つのバックルを取り出した。
そのバックルの造形は仮面ライダージュウガのジュウガドライバーに酷似しているが、配色は黒、金、赤色が入り交じり、バックルの左部分には鋭角なアレンジがされた『SiN』の文字が刻まれている。
更にバックルの右部分には、プリミティブドラゴンワンダーライドブックに造形が似た白い縁の黒い長方形のパーツが空きスロットに装填されているような状態で存在し、本の上部分である天から下が空洞。まるで中身のないブックカバーのような形状をしている。
そしてそのブックカバーのラベルには、漆黒のローブを身に纏った黒い仮面の戦士が己の右手を意味深に見つめる絵が本の表紙のように描かれていた。
「ベ、ベルト……?!」
「まさか、貴様?!」
男が取り出したバックルを見て研究員達とプロスペクトが戸惑う中、男は無言のまま自身の腹部にバックルを押し当てると、バックルの端の部分からベルトが伸びて男の腰に巻き付きドライバーとなる。
それと同時にドライバーの両脇に携行用ホルダーが出現し、右腰側のホルダーにはワンダーライドブックのような本型のアイテムが上段と中段と下段、それぞれに一冊ずつ収まっており、男は徐に一番上の上段に収められている黒と金の配色の本型のアイテムを抜き取る。
「察しが付かない様なら直々に教えてやる。先ず一つに、俺が出資していた研究所をデュレン如きに再利用されるのが単純に気に入らん……奴とは組織に居た頃から、どうにも反りが合わなかったのでな」
言いながら、男は己の顔の横に掲げた本型のアイテムの左側面に備え付けられたスイッチを親指で押し込む。
直後、本型のアイテムの表紙部分に闇夜に浮かぶ満月を背に黒い天使の異形が漆黒の翼を広げて空から舞い降りる絵柄が出現し、同時に電子音声が鳴り響く。
『
『
常人には聞き取れない、謎の言語の電子音が響き渡り、男は黒き天使の異形の本を腰に巻いたバックル右部分のブックカバー状のスロットの空洞に、上から差し込むように装填する。
『Fall Down……』
「……第二に。デュレンが目論む目的は俺自身の目的と衝突し、いずれ障害に成り得る……故に、その前に潰す必要がある……そして──」
おどろおどろしく、不気味なバイオリンのメロディーの待機音と共に黒金の本を装填した手でブックカバー状のスロットの表紙に触れ、恐怖で顔を引き攣らせて後退りするプロスペクトや他の研究員達の顔を見渡し、男は歪に口元を歪める。
「明日を信じて止まない、希望に満ち溢れたお前達のその曇り無き瞳の煌めきを絶望で濁らせ、新たな『悲劇』を彩るというのも悪くはない……フフッ。そうは思わんか、プロスペクト……?」
「ッ……き、貴様ァアアアアッッ!!」
嘲るように嗤う男の言葉に激昂するかのように、プロスペクトが両腕を荒々しく広げながら咆哮し、その姿を徐々に変化させ、灰色のフクロウの異形……オウルイレイザーへと変貌したのを始め、他の研究員達も後に続き、雄叫びと共に全員イレイザー態に姿を変えていく。
数は数えてざっと十。
しかし男はそんな光景を前に臆するどころか、その鋭い瞳を細めて抵抗の意志を見せるオウルイレイザー達を逆に嘲笑った後、スっと無表情となり、感情の機微もなく、淡々と告げる。
「──変身──」
『
静かな声音と共に男がブックカバー状のスロットの表紙を片手のみで右側へと開いた瞬間、スロットの中に装填されている黒金色の本の表紙も共に開かれ、黒い仮面の戦士の右半身と右腕を掬い上げるように掲げる姿が描かれた1ページが露わになり、そして……
『
『
『
壮大且つ不穏なメロディーと共に流れる電子音声と共に、バックルから放出された暗く深い闇が男の身体を覆い包み込む。
そして全身がまるで影のようなシルエット姿になった男の身体が徐々に変容していくと、黒の波動、赤の波動、最後に金の波動を順に身体から放ちながら漆黒のマントを勢いよく首元から展開し、同時に全身を覆い隠していた闇が弾け飛ぶように晴れて一瞬でその姿が露わになっていく。
闇の中から現れた男の姿は変貌し、仮面ライダージュウガに酷似した全身に金色のラインが縁に走る漆黒の装甲と、仮面ライダーエターナルに似た黒いアンダースーツを足し合わせたような外見をし、両肩の黒いアーマーが丸びを帯びている他、仮面の右目側がエターナルの複眼に酷似した血のように赤い瞳、左目側の複眼が『SiN』の文字を崩して混ぜ合わせたかのような形状をしており、更に首元からはローブのような黒いマントを装備している。
全ての変身の工程を完了し、ただ其処に存在しているだけなのに周囲の空間自体が酷く重たくなるような圧倒的な威圧感と存在感を放ち、その姿を直視し続けていれば畏怖のあまり思わず平伏しそうになる暴力的なまでの力の波動を前にオウルイレイザー達もただただ圧倒されてたじろぐ中、男が変身した漆黒の仮面の戦士は天を仰ぎ、徐に両腕を広げながらまるで唄うように芝居掛かった口調で告げる。
『
『ッッ……!!ふ、ふざけるな……ふざけるな裏切り者がァ……!!
恐怖心のあまり心折れそうになる己の心を奮い立たせるように喚き散らし、両腕から巨大な鉤爪を生やしてオウルイレイザーが先陣切って飛び出し、そんな彼に続くように他のイレイザー達も雄叫びを上げて一斉に飛び掛かる。
その光景を前に男……"黒月 八雲"が変身した『仮面ライダー SiNメモリー』は鷹揚と佇んだまま指先一つ動かさず、迫り来る自分と同じ同族達の姿を視界に捉えるようにゆっくりと顔を上げていく。
────その仮面の下で、愉悦に満ちた不気味な微笑みをうっすらと浮かべながら。