戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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メモリア05/Die Geburt der Tragödie×SiNの堕天使(中)

 

―研究施設外・採石場―

 

 

『『『───がァあああああああああああああああッッ!!!?』』』

 

 

───研究施設の裏手に存在する広大な採石場。

 

 

 他にはない、この世界でしか採掘出来ない特殊合金の鉱石が大量に眠る場所であり、八雲がまだデュレンと同じ組織に属していた頃に出資者として施設をこの近くに建造するのを決めたのも、その鉱石の採掘、研究施設への運搬を効率よく進めるのが目的だったからだ。

 

 

 そんな場所へ何体ものイレイザー達が無様に宙を舞いながら次々に吹き飛ばされていき、最後に吹っ飛ばされてきたオウルイレイザーがゴロゴロと地面を転がりながらも咄嗟に身を起こして睨み付けた先には、施設が建つ遥か崖の上からゆっくりと浮遊して降りてくるSiNメモリーの姿があり、地上に降り立ったSiNメモリーはオウルイレイザー達の顔を見渡し、肩を竦めた。

 

 

『どうした……?一息で簡単には死なぬようにこちらも加減してやっているんだ。もう少し歯応えのある抵抗を魅せてくれ……』

 

 

『お、おのれぇええっ……!!』

 

 

『『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』』

 

 

 何処か落胆を込めて首を振るSiNメモリーの言葉に屈辱を覚えるオウルイレイザーの両脇を勢いよく駆け抜け、二体のイレイザーがSiNメモリーへと果敢にも挑み掛かっていく。

 

 

 しかしSiNメモリーは立て続けに襲い来るイレイザー達の攻撃を身体の僅かな重心をズラすだけで顔色一つ変える事もなく難なく回避し続け、右側の死角から殴り掛かってきたイレイザーの渾身の拳をスっと伸ばした掌だけで受け止めながらそのまま押し返すように掌から黒の波動を放ち、軽々とイレイザーの身体を弾き飛ばす。

 

 

 其処へ息を吐かせる間も与えまいと、背後から次に飛び掛ってきた二体目のイレイザーの奇襲もまるで背中に目が付いているかのように身を翻しながら逆に流れるような動きで背後に回り込み、軽い裏拳をその背中に叩き込んだだけで、イレイザーの身体が勢いよくきりもみ回転しながら派手に吹っ飛ばされてしまう。

 

 

『ぐぁあああぅううっ?!ぅ、うぅっ……!!』

 

 

『く、くそぅ……!!』

 

 

『…………』

 

 

 派手に地面に身体を叩き付けられて痛みに苦しみ悶え、尻餅を着いたまま怯え切った眼差しを向けてくる二体のイレイザー達をつまらなげに一瞥しつつ、SiNメモリーはバックル右側部分のスロットの表紙を無言で閉じ、そのままリバイスドライバーやジュウガドライバーと同様の動作でスロットを右側に一度ロール操作した後、再び表紙を開け放った。

 

 

catastrophe(カタストロフィ)

 

Aischylos tragoedia(アイスキュロス トラゴエディア)

 

 

 くぐもった不気味な電子音声が採石場内に反響して響き渡る。

 

 

 直後だった。

 

 

 SiNメモリーと戦う二体のイレイザーの右腕と背中……彼に先程触れられた部分からブクブクと内側から気持ち悪く肉が膨れ上がり、急激な速さで膨張し始めたのは──。

 

 

『ひ、ひぃいいいいいっ!!?な、なんだよコレェええええええっ!!?』

 

 

『ぐ───グル、じ────ァ─────!!!!!?』

 

 

 バァアアアアアンッ!!と、二体のイレイザーは自分の身に起きた突然の異常に何が起きたのか分からず混乱したまま限界まで膨張した己の肉に呑まれ、断末魔の悲鳴すら上げられず、そのまま身体の内側からまるで風船のように破裂した。

 

 

 辺り一面に汚らしくブチまけられる、二人分の醜い肉片と赤い血飛沫。

 

 

 その凄惨な光景を前にオウルイレイザーや他のイレイザー達も言葉を失い、絶句してしまう中、当のSiNメモリーは大して動じる様子もなく悠然と佇み、戯けるように首を軽く揺らして、嗤う。

 

 

『先ずは二人。──そら、次は誰が相手をしてくれる……?』

 

 

『ぁ、あ───あああああああああああああァぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!!!?』

 

 

『嫌だ、嫌だ、嫌だ……!!あんな死に方は嫌だァああああああああああああッッ!!!!!』

 

 

『ま、待てお前たち……?!逃げるなぁッ!』

 

 

 あまりにも惨い同士達の最期を目の当たりにし、遂に恐怖に屈してしまったオウルイレイザー以外のイレイザー達が一斉に背中を向けて逃げ出した。

 

 

 その情けない姿を見てSiNメモリーも興が削がれたかのように今まで浮かべていた仮面の下の笑みをフッと消して無表情になり、バックル右側部分のスロットの表紙を再び閉じると、今度は二回ロール操作を行い、再度表紙を開け放った。

 

 

catastrophe(カタストロフィ)

 

Sophoklēstragoedia(ソポクレス トラゴエディア)

 

 

 先程とはまた別の電子音声がバックルから流れる。

 

 

 次の瞬間、赤い風がSiNメモリーの両脇を吹き抜けると共に何かが立て続けに切り裂かれるような音が響き、直後に流れたのは、水が勢いよく噴き出すような飛沫の音。

 

 

───それは我先にと逃げ出そうとした三体のイレイザー達の首が、何かによって無惨にも根元から綺麗に切り落とされ、立ったままの死体の首の断面図から赤い血が噴出し流れる音だった。

 

 

 首無しの死体が次々に地面へ倒れてゆき、それまで宙を舞っていたのか彼等の首が空から落ちて何度もバウンドしながら無造作にあちこちに転がっていき、その内の一体の首が生き残った他のイレイザーの足元に転がって止まり、上向いた眼球の目と思わず目が合ってしまう。

 

 

『ヒ、ィイイイイッ!!?』

 

 

『な、にが……なにが起きたんだ今ァああッ……!!?』

 

 

 SiNメモリーとは確かに距離が離れていたにも関わらず、一気に三体ものイレイザーが原理不明の攻撃で絶命した。

 

 

 訳も分からず、突然の残虐な死を立て続けに見せられた事で恐怖心が加速しパニックに陥るイレイザー達に向かって、SiNメモリーは悠々とした歩みで砂利を踏み鳴らしながら近付き、退屈そうに口を開く。

 

 

『あまりくだらん真似をしてくれるなよ……俺の息の根を止める事もせず、逃げ切られると本気でそう思ったのか……?お前達が生き延びられる方法はただ一つ──』

 

 

 そう言いながら、SiNメモリーはバックルのスロットの表紙を閉じて黒金の本型のアイテムをドライバーから抜き取り、右腰にある携行用ホルダーの中段に収まっている金の縁の純白の本を手に取って顔の横に掲げ、親指で側面のボタンを押し込む。

 

 

PRIEST(プリースト)

 

Sacerdos ridet benedictione Dei(神父は微笑む 神の祝福を受けながら)

 

Cum spe credo in corde meo, alis albis evolo(信ずる希望を胸に 白き翼で飛び立つ)

 

Crede quod futurum est ante lucem promissam(光差す先に 約束された未来があると信じて)

 

 

 解読不能の言語を発する純白の本の表紙に、絵柄が浮かび上がる。

 

 

 それは無数の白い羽根が舞う光差す空間の中、聖職者を連想させる姿をした戦士が、まるで神に祈るように両手に握る剣を胸の前で掲げる姿の絵。

 

 

 まるで絵画のような神々しさを感じさせる絵柄が出現した純白の本を、SiNメモリーはベルトのバックル右部分のブックカバー状のスロットに上から差し込むように装填する。

 

 

Fall Down……

 

 

『──此処で俺を仕留めるしか道はない……俺を前にした時点で、そんなのは分かり切ってた筈だろう……?』

 

 

porta sursum(ゲートアップ)

 

 

 バックル右部分のスロットの表紙が開かれ、中に装填された純白の本の中身が露わになる。

 

 

 現れたのは、美しく神々しい純白の本の見た目とは全く真逆のイメージのページ。

 

 

 血塗れた女性や多くの子供達が地に倒れ付す中で、道化師のような姿をした異形が天を仰ぎ見、まるで狂ったように踊っているという猟奇的な1シーンが描かれていた。

 

 

disastrous root

 

Homo risit maledicens Deum non esse(男は嗤った 神を呪いながら)

 

insanus chorus custodiunt chorum(狂い 舞い 踊り続ける)

 

Rideat te cum Corydon larva(道化の仮面で 己すら嗤い)

 

Lacrimas sanguinis effundentes, quae numquam arescunt(永遠に渇かぬ血の涙を流して)

 

 

 詩を謳うように鳴り渡る電子音声と共に、バックルから黒い闇が放たれてSiNメモリーの全身を包み込む。

 

 

 闇が不気味に流動して体中が変容していき、やがて、全身を覆う闇が勢いよく弾けると同時にその姿の全貌が明らかとなる。

 

 

 全身の装甲がエングレービングのような模様が入った深紫と金のカラーリングとなり、左肩から足元近くにまで伸びて展開された道化師を思わせる、一見豪華に見えて何処か虚飾さを感じさせる金色の無数の星座と、地に向かって堕ちてゆく銀色の流星群が描かれた星空のヘリオトロープのマント。

 

 

 仮面は左目側の『SiN』の文字をそのままに紫と黒を基礎とし、仮面の右側部分がピエロのメイクを彷彿とさせる白が入り交じり、赤い複眼の下には血涙のようなラインが入った姿……『仮面ライダーSiNメモリー √クラウン』へとルートチェンジしたSiNメモリーを見て、オウルイレイザー達の間にどよめきが広がる。

 

 

『ま、また姿が変わった……?!』

 

 

『ッ……こ、このまま黙って殺されるぐらいならぁ……!』

 

 

『ウァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

 先程の同士達の凄惨な最期を目の当たりにし、逃亡は不可能と断じたオウルイレイザー達は最早破れかぶれにと、それぞれが得物と鋭爪を構えて雄叫びを荒らげながら一斉にSiNメモリーへ突っ込み、立て続けに攻撃を仕掛けていく。

 

 

───が、最初にSiNメモリーに殴り、斬り掛かった二体のイレイザーの攻撃が何故かその身体を透過し、それどころか攻撃が空ぶった勢い余ってそのまま纏めてSiNメモリーにぶつかり掛けるも、SiNメモリーの身体には触れられずにすり抜け、無様に地面を転がってしまう。

 

 

『?!な、何だコレ……?!』

 

 

『攻撃が、当たらない?!』

 

 

『くそ、くそくそくそくそォッ!何がどうなってる?!』

 

 

 目の前に、確かに其処に姿が存在する筈なのに、幾ら攻撃を繰り出しても掠りもしない。

 

 

 まるで形のない霞を掴み取ろうとしているかのようで手応えもなく、それでも自分達が死なない為に必死にSiNメモリーを殺そうと足掻くイレイザー達の姿を静かに見回すと、SiNメモリーは右手にミリタリー色が強い紫色の刃が煌めく機械製の短刀……SiNクラウンエッジを華麗な手捌きで回転させながら出現させて構え、表紙を閉じたバックルのスロットから抜き取った純白の本をSiNクラウンエッジのグリップ部分に装填し、トリガーを引いた。

 

 

PRIEST(プリースト)

 

miserable end

 

 

『──!離れろ!!』

 

 

 不気味な電子音声から直感的に嫌な予感を感じ取り、オウルイレイザーが両腕の羽根を咄嗟に羽ばたかせて後方へと逃げるように飛び退く。

 

 

 次の瞬間、SiNメモリーの身体が紫色の霧と化して一気に霧散し、イレイザー達の周囲を覆い包んでいく。直後……

 

 

『───!?ど、どうしてオマエが……!!?』

 

 

『ァァ……ゆ、赦して……赦してくれぇええ……!!』

 

 

『違う!!俺じゃないんだ!!違う!!!!違う違う違うちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウ───!!!!!!』

 

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!』

 

 

 グシャグシャグシャ、ぐちゅぐちゅぐちゅと、濃い霧の向こう側から響き渡る発狂の悲鳴と共に不快な音が聞こえてくる。

 

 

 それだけで何も見えない霧の向こう側に広がる"最悪"を想像してしまい、オウルイレイザーが恐怖から固まって動けなくなってしまってる間にも悲鳴は絶え間なく響き、次第に彼等の声が弱まり、静っていくにつれて霧の濃さも薄れて景色がクリアになっていく。

 

 

 霧が完全に晴れた向こう側には、死屍累々……自ら首を絞めて骨を折って倒れる者、自身の武器で自らの身体を何度も串刺して息を引き取った者、互いに互いの急所を貫き、相手にもたれ掛かるように崩れ落ちた者達──。

 

 

 泉のような赤い血溜まりが何処までも地に広がり、その中に沈むイレイザー達の屍が無惨にも転がる姿があったのだった。

 

 

『な、何が……一体……!』

 

 

『──そう難しい話ではない。今まで積み重ねてきた己が罪の幻影に向き合えず、その重さに耐え切れず精神が崩壊して自ら命を絶った。それだけのつまらん話だ』

 

 

『……?!』

 

 

 不意に背後からの声に驚き、オウルイレイザーはすぐに振り向き様に両腕の羽根から無数の刃を乱射する。

 

 

 しかし、オウルイレイザーの背後にいつの間にか姿を現し、回り込んでいたライダー……SiNメモリーはオウルイレイザーの羽根をやはりすり抜けてしまい、自身の胸を無言で軽く手で払う。

 

 

『ッ……!な、何なんだ……その姿は一体?!それに奴等に何を……?!』

 

 

『同じ説明を二度も繰り返す気はない。それに、解らない事を解る事に解明するのが技術者という者……俺の下に一時でもいながら、その程度の事も学ばなかったのか?』

 

 

『くっ……貴様ぁッ!!』

 

 

 嘲るような口調と挑発するような視線を受け、オウルイレイザーは思わず顔を怒りに歪ませながら両手の羽根を刃状に変化させてSiNメモリーへ斬り掛かりに行くが、それでもまたも攻撃が当たる事はなく、逆に腕を掴まれてしまう。

 

 

『ぐぅ?!は、離せぇ!私はまだ此処で終わる訳にはいかん!私には、私には絶対に成し遂げねばならん目的があるのだ!!』

 

 

『目的?……ああ……』

 

 

 必死の形相で抵抗するオウルイレイザーの言葉を聞き、SiNメモリーは思い出したかのように呟くと、オウルイレイザーを拘束から解放するように軽く突き飛ばす。

 

 

『そういえば、俺の元へ来た時にそんな事を言っていたな……確か、元の世界で殺人犯に殺された妻と娘と共に暮らせる人生を、再び取り戻したいんだったか……?』

 

 

『ッ……そ、そうだ……!私は貴様が組織からいなくなった後も、その目的を果たす為だけに執念を燃やしてきた!死んだ妻と娘にもう一度会う為なら、私は悪魔とだって手を組む覚悟でいる!!』

 

 

『その最初の相手が俺で、次にデュレンだった、と……フフッ……今の俺が言えた義理ではないが、お前も中々の道化っぷりだな、Mr.プロスペクト……』

 

 

『……何……?』

 

 

 顔を背け、仮面の口元を片手で覆いながらクツクツと嗤うような声を上げるSiNメモリーの反応に、オウルイレイザーは怪しげなものを感じ取る中、SiNメモリーは徐に顔を上げて淡々と口を開いた。

 

 

『貴様の妻と娘、死因は確か押し入りによる殺人だったな。配達員を装った男が二人を玄関先でナイフで殺害し、その後リビングで首を括って自殺している姿が発見されたのだとか……動機は幸せな家族の姿を見て、嫉妬による衝動的な犯行だったと、犯人がその場で描き殴りしたと思われる遺書が死体の傍に置かれていたのを見付けて判明した……だったか?』

 

 

『っ……!だからなんだっ、今更貴様の口から説明されるまでもない!!私はあの時の事を……!あの絶望を片時たりとも忘れたりしなかった!!殺してやりたいほど憎んだ相手すら失いっ、行き場を失ったこの憎しみを執念に昇華させて此処まで来たのだ……!!それを貴様に邪魔立てされる筋合いなどない……!私を散々利用してきた、貴様には特になぁ!』

 

 

『フッ……ああ、貴様の復讐に横から口を出すつもりなどないさ。

 

 

 

 

───何せ、不本意とは言えど嘗て俺の手で描いた筋書き(・・・)なんだ。邪魔などする筈もないだろう?』

 

 

『……………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

『……は……?』

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に告げられた目の前の男の言葉に、脳が一瞬理解に追い付かなかった。

 

 

 今、奴は──なんと言った?

 

 

『しかし、今にして思えば懐かしい物だ……俺がまだ組織に属していた頃、とあるプロジェクトに必要な技術者の数に欠員が出てしまい、その埋め合わせをどうするべきか思案していた中、優秀な頭脳を持つという貴様の存在をデュレンの口から聞かされたのが始まりでなぁ……貴様をどうにかこちらへ引き入れられないかと考え、お前の妻と娘に着目したのは我ながら良い出来だったと、今でも思うよ』

 

 

『……何を……言って……?』

 

 

『ただ、デュレンの奴が実行を命じたイレイザーの手腕は稚拙にも程があったがな……貴様の家族を殺した男の運命を改竄の力で操り、殺人犯の役に落とし込むのはまだ良いとして、其処に至るまでの経緯があまりに粗末が過ぎる……風情のないつまらん男だとは常々思っていたが、まさか彼処までとは流石の俺も──』

 

 

『──何の話をしてると言っているんだ!!!!』

 

 

 饒舌に語り続けるSiNメモリーに対し、オウルイレイザーは思わず大声で遮るように叫ぶ。

 

 

 まるでそれ以上先を口にされたくないと言わんばかりのその反応に、しかし、SiNメモリーは小さく肩を揺らしながら残酷な笑みを浮かべた。

 

 

『何だ、此処まで話してまだ理解出来ないのか?……ああ、それとも、既に理解していながら認めたくないだけなのか?』

 

 

『黙れぇっ!!』

 

 

 オウルイレイザーは叫びながら羽根を刃状に変化させると、そのままSiNメモリーへと斬り掛かる。だが、やはり攻撃は当たる事はなく、逆に胸倉を掴み上げられると、地面に叩き付けられるように遥か遠くへ放り投げられてしまう。

 

 

『ぐぁあああぅっ!!?』

 

 

『聞きたくない、知りたくない、認めたくはない、か……フフッ……ならば、誤魔化しようのないようにはっきりと教えてやろうじゃないか……』

 

 

『っ!!や、やめ──!!』

 

 

 

 

 

 

『──貴様の復讐や願い、その全てを叶える為の舞台装置を用意したのは、他ならぬこの()だ。貴様が今まで信じていたものは全て、この俺が用意した偽りの筋書きに過ぎないんだよ。Mr.プロスペクト?』

 

 

 

 

 

 

『やめろと言っているんだァああああああああああああああああああッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 仮面の下から響く嘲笑混じりの声が耳に入った瞬間、オウルイレイザーは激昂のままに両腕の羽根から無数の矢羽を射出させる。

 

 

 狙いも何も付けずに放っただけの無差別攻撃だったが、それでもSiNメモリーに直撃する軌道を描いており、SiNメモリーの周囲に降り注ぐと共に巨大な爆発が巻き上がる。

 

 

 オウルイレイザーは肩を上下に揺らしながらその光景を見て確かな手応えを感じたが──直後に、その期待は無慈悲にも裏切られる事となる。

 

 

 

 

 

 

In fine mortiferum peccatum novum levat velum(終わりなき大罪が新たな幕を上げる)

 

Scribere carmina recenti sanguine(鮮血で詩を描け)

 

Suprema tragoedia est hic...!(至高の悲劇は 今 此処に……!)

 

 

 

 

 

 

『ッ……!!』

 

 

 不意に聞こえてきた壮大且つ不気味な電子音声に、オウルイレイザーは思わず息を飲む。

 

 

 爆煙が晴れていく中、そこには無傷どころか汚れ一つ付いておらず、最初に彼が目にした通常形態と思われる黒金の姿に戻って佇んでいるSiNメモリーの姿があった。

 

 

『ぁ……そん、なっ……』

 

 

『──イレイザーに身も心も墜した以上、死ねばその肉体は消滅し、魂は行き場さえなく、塵と消えるしかない。何せ、俺達は総ての物語から追放されし者……輪廻転生など、そんな上等な救いがある筈もない』

 

 

 絶望に満ちた声を漏らすオウルイレイザーに対し、SiNメモリーは掌を上に何かを掬い上げるように構えると、その指の隙間から黒い液体のような物が零れ落ちる。

 

 

 それは地面に落下すると瞬く間に広がってSiNメモリーやオウルイレイザーの足元だけでなく、二人が知覚出来る空間全てを黒く染め上げてしまう。

 

 

『故に、俺はお前に憐情の念を抱かずにはいられんよ。あれほどまでの罪を重ねてさえ、逢いたいと願った妻と娘に再会する事は二度とない……あの世でも、来世でさえなぁ……ならばせめてもの手向けに、本当の仇である俺から鎮魂歌(レクイエム)を贈ろうさ……プロスペクト?』

 

 

『う、あ…………ぁぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!黒月八雲ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!』

 

 

 全てが漆黒の闇に包まれた中、オウルイレイザーが絶叫の雄叫びと共に走り出し、闇の中、唯一姿が見えるSiNメモリーに向かって突進してゆく。

 

 

 その怒りと憎しみに塗れた無様な姿を前にSiNメモリーも仮面の下で愉悦に満ちた笑みを浮かべつつ、バックル右側部分のスロットの表紙を閉じて四回ロール操作を行い、再度表紙を開け放った。

 

 

catastrophe(カタストロフィ)

 

tragic The END

 

 

 おどろおどろしい電子音声が鳴り響いた直後、二人の周囲を覆う闇から無数の黒い手が一斉に飛び出し、オウルイレイザーの身体に纏わり付いて拘束してしまう。

 

 

『ッ?!こ、れは……!!!?』

 

 

 突然の事態に動揺を隠し切れないまま、何とか振り解こうと暴れるオウルイレイザーだったが、幾重にも巻き付いた無数の腕はまるで全身に縫い付けられているかのようにビクともしない。

 

 

 その一方で、SiNメモリーはその全身から炎のように勢いよく噴き出した漆黒の闇を身に纏い、同時に右足から金と赤の二色の凄まじい雷を放出しながら天高く跳躍し、遥か天上から猛スピードで急降下。

 

 

 まるで隕石が如く勢いでオウルイレイザー目掛けて降り注ぐと同時に彼の腹部へ強烈な飛び蹴りを叩き込んだ直後、あまりの威力と衝撃に周囲の闇にも影響が及び、黒い空間全てに白の亀裂が無数に走る。

 

 

Acta est fabula(芝居は終わりだ)

 

 

『ぐっ、が──ァああああああああああああッッ!!!?』

 

 

 オウルイレイザーが苦悶の声を上げ、その身体が軽々と吹き飛ばされると共に周囲を覆っていた闇がガラスが割れるように砕け散り、世界が色を取り戻していく。

 

 

 そして、空中で漆黒のマントを翻しながら流麗に着地したSiNメモリーはその姿を見届けると、まるで劇上の演者を称えるかのように右腕を高く掲げながら背を向け、芝居掛かった口調で告げる。

 

 

『万雷の喝采を───此れがお前の悲劇だ……』

 

 

『ァ──ぁぁ──ァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!?』

 

 

 劇の幕を降ろすようにSiNメモリーが徐に右腕を下ろした瞬間、オウルイレイザーは全身から無数の火花を撒き散らしながら悲痛な悲鳴を上げ、やがて力無く倒れ伏すと同時に巨大な大爆発が引き起こされたのだった────。

 

 

 

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