戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第二章/邂逅×存在を赦されない存在③

 

 

「ツォラアアアアアアッ!!」

 

 

「はぁああああッ!!」

 

 

「デーースッ!!」

 

 

市街区の中心部。再び出現したノイズ達の猛威により街は戦火に包まれ、燃え盛る炎から立ち上る黒煙が茜色の空を黒く染め上げていた。

 

 

だが、今回は前回と違い現場にいち早く駆け付けたクリス、切歌、調の奮闘によって被害は最小限に留められており、クリスが乱射するガトリングガンが火を噴いて次々とノイズを蜂の巣にし、切歌と調の阿吽の呼吸のコンビネーションによってノイズは確実にその数を減らしつつあった。

 

 

「コイツで四十!前ん時に比べて随分と数は少ねぇが……!」

 

 

「きっとすぐ近くに、ノイズを呼び出したイレイザーがいるハズ……」

 

 

「今度は何企んでるか知らないデスけど、これ以上アタシ達の世界で好き勝手はさせないデスよ!」

 

 

蓮夜にはイレイザーとの戦闘を避けるように言われているが、ノイズが出てきて人々を襲うのなら自分達が戦わない訳にはいかない。

 

 

例え直接戦って勝てないにしても、せめてイレイザーの目的だけでも阻止する為、三人はそれぞれの得物を振るって戦場を舞うように駆け抜け、ノイズ達を次々と蹴散らしていく。

 

 

そして、次第に数も残り少なくなったノイズ達を纏めて撃破し、周囲の安全を確認したクリス達が一息吐いて一箇所に集まろうとした、その時……

 

 

「──やはり、ノイズ程度では長くは持ちませんでしたか……」

 

 

「「?!」」

 

 

「誰だ?!」

 

 

何処からともなく不意に聞こえてきた謎の声に、クリス達は驚きと共に瞬時に互いに背中を合わせてアームドギアを構え、警戒を露わにする。

 

 

すると其処へ、半壊した建物の物陰から一人の人物……外見的に二十代前半程の歳若い黒髪の青年が現れ、クリス達の前に歩み出ていった。

 

 

「人?どうしてこんな所に……」

 

 

「もしかして逃げ遅れたデスか?だったら今の内に早く──」

 

 

「待て!」

 

 

「「……え?」」

 

 

逃げ遅れた民間人かと思い、青年に近付こうとした切歌と調を呼び止め、クリスは両手に構えたマシンピストルの銃口を青年に突き付けた。

 

 

「ク、クリス先輩っ?」

 

 

「お前、普通の人間じゃねえだろ……一体何モンだ?」

 

 

「ほう?この姿のままで私の正体に勘付くとは、随分と鼻が良いようだ……それとも、そういった匂いが嗅ぎ分けられる生き方でもしてきたのでしょうかね、貴女は?」

 

 

「んだとッ!」

 

 

クスッ、と顎に手を添え嘲笑を浮かべる青年の言葉を聞き険しい顔付きになるクリス。そんな二人のやり取りに切歌と調が戸惑う中、青年の姿が突如歪み出し、徐々にその身が変貌して赤い瞳のコウモリのような姿をした紫色の異形……バットイレイザーへと変化していった。

 

 

「?!す、姿が変わったデスよ?!」

 

 

『生体反応のパターンが変化!これは……先日現れたノイズイーターと同じ反応です!』

 

 

『という事は奴もイレイザー……人間に擬態出来るタイプか!』

 

 

イレイザーが元々人間である事は蓮夜から聞かされていたが、こうして直接人間から姿を変える瞬間を目にして驚きを露わにするクリス達とS.O.N.G.の面々の反応を他所に、バットイレイザーは徐に歩み出していく。

 

 

『困るんですよ。折角の雑兵を狩り尽くされては私の目的にも支障を来たす……私の狙いに貴女がた装者は含まれてはいないのだから、大人しくしていて欲しいものです』

 

 

「貴方の、狙い?」

 

 

「目的って何デスか!また何か良からぬ事を企んで……」

 

 

『ハッハハハッ、私が律儀に答えるとお思いで?何とも可愛らしい事ですが……生憎、貴女達に費やす時間は私にはないのですよ……』

 

 

スっと、バットイレイザーの雰囲気が不意に冷たく変わる。その変化を肌で感じ取ったクリス達が思わずそれぞれのアームドギアを構えていくと、バットイレイザーは両腕の羽根を広げるように身構えながら態勢を低くし、

 

 

『私の邪魔をするのであれば何者であれ容赦はしない……奴が来る前に、貴女達を先に片付けるとしましょうかッ!』

 

 

ダァンッ!と、勢いよく地を蹴り上げて飛び出したバットイレイザーの身体が豪速球の如く勢いでクリス達に迫る。

 

 

それを目にした三人も慌てて散開してバットイレイザーの突撃を回避し、クリスが振り向き様に両手のマシンピストルを乱射してバットイレイザーを背後から狙い撃つが、バットイレイザーは両腕の羽根を広げながら上空へと空高く飛翔し、そのままクリスの弾を振り払いながら再度空からの突撃を仕掛けてクリス達に襲い掛かっていく。

 

 

「くうっ!そ、空が飛べるなんて反則デスよッ!」

 

 

『お前たち、此処は一旦引くんだっ!イレイザーへの対抗策も無しに奴と戦うのは危険過ぎるっ!』

 

 

「それは分かってるけど……!」

 

 

「このまま奴をほっとけば街にも被害が出ちまうかもしれないだろっ!せめてアイツが駆け付けるまでは……!」

 

 

奴の目的が何であれ、ノイズを利用して此処まで街を破壊したバットイレイザーを放置して撤退するなど危険過ぎる。

 

 

奴が再び街を襲う可能性もある以上、此処で自分達が退く訳にはいかないと通信越しに撤退指示を出す弦十郎の命令を振り払い、せめて蓮夜が駆け付けるまでの時間稼ぎの為、猛スピードで滑空しながら何度も向かって来るバットイレイザーの突撃を切歌と調と共に必死に回避しながら、クリスは左右の腰部アーマーを展開していく。

 

 

「ちょこまかちょこまか飛び回りやがってっ……!コイツでも食らってろォッ!!」

 

 

―MEGA DETH PARTY―

 

 

装甲に内蔵された射出器から一斉に追尾型の小形ミサイルを放出し、バットイレイザーに目掛けて放つクリス。

 

 

無論イレイザーに通用する事はないだろうが、少なくともミサイルが直撃して発生する爆煙で奴の視界を一瞬でも奪う事は出来る。

 

 

その隙にバラけて三方から攻める戦法を仕掛けようとする三人だが、迫り来る小型ミサイル群を目にしたバットイレイザーは僅かにほくそ笑んだ瞬間、突如滑空したまま勢いよくドリルのように回転し、その羽根から無数の真空波を放って小型ミサイル群を斬り裂き爆散させ、更に爆煙の中から立て続けに真空波が飛び出し三人に襲い掛かった。

 

 

「何っ?!うっ、ウグァアアアアッ!!」

 

 

「うわぁああああッ?!」

 

 

「あうぅッ!!」

 

 

爆煙の中から飛び出してきた真空波を見て思わず動きを止めてしまうクリス達に、立て続けに真空波がモロに直撃して三人を纏めて吹っ飛ばしてしまい、地面にユラリと着地したバットイレイザーは倒れるクリス達の姿を見回し不気味に嗤っていく。

 

 

『無駄な事を……貴女達と私では根本的なルールの違いがある。貴女達に私を傷付ける術などないのですよ、始めからねぇ』

 

 

「くっ……くそッ……この、化け物が……ッ!」

 

 

クツクツと肩を揺らして嗤うバットイレイザーに、地面に倒れ伏したまま毒づき何とか立ち上がろうとするクリスだが、バットイレイザーはそんなクリスに一瞬で肉薄すると共に彼女を容赦なく蹴り飛ばし、建物の壁に叩き付けてしまう。

 

 

「がはぁっ!!」

 

 

「ク、クリス先輩っ……!」

 

 

『さて、先ずはその鬱陶しい飛び道具使いの貴女から潰させてもらいましょうか……』

 

 

「や、止めろデスよッ!!」

 

 

醜い異形の手から伸びる鋭利な爪をチラつかせてクリスに迫るバットイレイザーを見て慌てて起き上がり、阻もうとする切歌と調だが、それを見越していたかのように二人の足元から突如ノイズ達が現れ、切歌と調の身体に巻き付き動きを封じてしまう。

 

 

「ノイズ……?!」

 

 

「ま、まだこんなに残ってたデスか?!う、ううっ!」

 

 

「お、お前らっ……!」

 

 

『なに、命までは取りませんよ。私が直接貴女達を手に掛けては、物語側に私の存在がバレてしまいますからね……まあ最も、それも命さえ取らなければ他は何をしても構わないという事なのですが』

 

 

ニヤァッと下劣な嗤みを浮かべると共に、バットイレイザーは壁に背もたれて座り込むクリスに悠然とした足取りで歩み寄っていく。

 

 

『先ずは抵抗出来ないようにその手足から引き裂くとしましょうか?嗚呼、この一方的に蹂躙する感覚……やはりたまりませんねぇ!否が応にも高揚せざるを得ないですからァッ!!』

 

 

「「クリス先輩ッ!!」」

 

 

「くっ!」

 

 

恍惚の笑みを浮かべながら勢いよく飛び出し、バットイレイザーは両手の爪を振りかざしてクリスへと襲い掛かる。

 

 

迫り来る異形を見てクリスも咄嗟に両手に握るマシンピストルを突き付けて近づけまいと抵抗するが、バットイレイザーは赤い弾丸をその身一つで弾きながら構わずクリスに突っ込んで爪を振るい、振り下ろされる凶爪を前にクリスは両腕を交差させて思わず目を背けるが、

 

 

……何故か、彼女の身に痛みが降り掛かる事はなかった。

 

 

(…………?なん、だ……?)

 

 

何時まで経っても予想してた痛みに襲われず、顔を背けたクリスは恐る恐る目を開けて目の前に視線を戻していく。すると其処には、ギラリッと妖しげに光る爪先がクリスの目と鼻の先で寸止められており、そして……

 

 

 

 

 

『──お前、はっ……!』

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

──バットイレイザーの手首を掴み、クリスを切り裂こうと振り下ろされた爪を止めるフードを被った青年……蓮夜がいつの間にか傍に佇む姿があり、突如現れた蓮夜を見て目を見開くバットイレイザーに蹴りを打ち込み後退りさせていった。

 

 

「れ、蓮夜さん!」

 

 

「お前……!」

 

 

『グッ……き、貴様……!』

 

 

「……相手を一方的に蹂躙するのがそんなに好みか……なら、好きなだけ味あわせてやる……」

 

 

蹴られた箇所を抑えて睨み付けてくるバットイレイザーを見据え、淡々とそう告げると共に蓮夜はあらかじめ手にしていたカードを腰に巻いたベルトのスロットにセットし、掌でスロットをバックルに押し戻した。

 

 

「変身……」

 

 

『Code x…clear!』

 

 

バックルからの電子音声と共に、蒼い無数の粒子がベルトから舞って蓮夜の身体を覆いながら黒のアンダースーツを形成し、更に蓮夜の周囲に出現した蒼のアーマーが一斉に身体に纏われていく。

 

 

全ての行程を完了し、その姿を蒼い戦士……『仮面ライダークロス』に変身した蓮夜を目の当たりにしたバットイレイザーは驚きから目を見開くも、次第にその顔に不敵な笑みを浮かべていく。

 

 

『漸く姿を現しましたか、クロス……随分と待ち侘びましたよ、この時を……!』

 

 

『……待ち侘びた?まさか、また俺を誘き寄せる為だけにこんな騒ぎを起こしたのか……?』

 

 

『ええ、それが私に与えられた役目でしてねぇ……。貴方が私達の気配を感じ取れる事も聞かされていますよ。なのでこうして時間潰しに街を破壊しながら、貴方が来るのを待っていたという訳です。目印が派手な分、此処まで道に迷う事もなかったでしょう?フフフッ』

 

 

悪びれもせず、バットイレイザーは破壊された街並みを指すように片手を広げながら愉快げに微笑む。

 

 

クロスはそんなバットイレイザーの話を聞いている内に仮面の下で眉間に皺を寄せていくと、周囲を見回して傷付いたクリス達、ノイズに襲われて炭素の塊となった人々、怪我を負って苦しげに地面に横たわる怪我人達の姿を視界に捉え、右手の拳を無意識に強く握り締めながら鋭い眼差しでバットイレイザーを睨み付けた。

 

 

『……どうやらお前に温情を掛ける必要はなさそうだ……自身の快楽の為に、無関係な人間を巻き込んだ落とし前は付けてもらうぞ……』

 

 

『ハハッ、如何にもヒーローが言いそうな癪に障る台詞ですねぇ……では、その言葉を有言実行出来るか見せてもらいましょうかァッ!!』

 

 

そう言って耳障りな嘲笑と共に、両腕の羽根を広げてバットイレイザーがクロスに飛び掛かる。

 

 

それを見たクロスも体当たりが当たる寸前に頭から倒れる勢いで後ろへ飛び退くと、真上を過ぎ去ろうとしたバットイレイザーにサマーソルトキックを叩き込んで打ち落とし、そのまま両手を地面に付きバク転の要領で態勢を立て直しながらすぐさま地上に落とされたバットイレイザーに突っ込み拳を飛ばすが、バットイレイザーも素早く身を起こしてクロスの拳を両手で受け止めてしまう。

 

 

『お前達の裏にいる連中の居場所も、此処で全て吐いてもらう……!』

 

 

『出来るものならやってみるといい!最も私も口が堅いのでねぇ、そう簡単にはいきませんよぉ!』

 

 

受け止めたクロスの拳を払い除け、バットイレイザーは身を翻しながら両手の爪を振るいクロスに襲い掛かるが、クロスもバットイレイザーの爪、足払いを避けながら反撃の肘打ちを相手の胸に叩き込んで後退させると、怯んだ隙を逃さず畳み掛けて攻勢に出ていくのであった。

 

 

「……蓮夜さん……やっぱり強い……」

 

 

「クッソッ……結局アイツに頼るしかねぇってのかっ……」

 

 

クロスがバットイレイザーの相手を引き受けている隙に、身体に纒わり付くノイズ達を駆除した切歌と調は一進一退の攻防を繰り広げるクロス達の戦いを関心の目で見守り、クリスも脇腹を抑えながら身を起こしバットイレイザーと戦うクロスを悔しさを滲ませた表情で見つめる中、其処へ……

 

 

「──みんなぁー!!」

 

 

「「「……!」」」

 

 

不意に聞き慣れた声が三人の耳に届き、声がした方へと振り返ると、其処にはギアを身に纏った響がクリス達の下へ駆け寄って来る姿があった。

 

 

「響さん!」

 

 

「おせぇーぞ!何やってたんだ今まで!」

 

 

「ご、ごめんっ。ヘリが途中でノイズに落とされちゃったから、パイロットさん達を安全な場所まで運んでたら遅れちゃって……それで、皆は大丈夫?状況は?」

 

 

「ノイズの方はアタシ達で何とかなったデスよ。でもノイズを呼び出したイレイザーと戦う事になって、その後に……」

 

 

そう言いながら切歌が視線を向けた先にはバットイレイザーと交戦するクロスの姿があり、クロスを瞳に捉えた響は複雑げに眉間に皺を寄せた。

 

 

(蓮夜さん……やっぱり一人でイレイザーと戦うつもりで……)

 

 

『ハァッ……!ハッ!』

 

 

『ガフゥッ!お、のれぇええッ!』

 

 

そんな響の心境も露知らず、クロスはキレの鋭い身のこなしから放つ打撃の手数で徐々にバットイレイザーを押していき、トドメに放った横蹴りでバットイレイザーを勢いよく蹴り飛ばす。

 

 

だが、地面を滑るように倒れながらも身を起こしたバットイレイザーは忌々しげに唸りながら正面切っての肉弾戦は分が悪いと踏んだか、両腕の羽根を拡げて再度飛翔すると低空滑空で何度もクロスに体当たりしていき、それに対しクロスも飛び退いて避けながら左腰のホルダーからカードを一枚取り出した。

 

 

『素早いな……だったらこっちもコレだ……!』

 

 

『Code slash…clear!』

 

 

バックルにカードを装填して再度電子音声を鳴らし、直後にクロスの蒼い装甲がパージして朱い装甲に変化し、再度クロスに纏われて仮面と複眼の色が変わり、両手に黄金色の双剣が握られる。

 

 

それは先のノイズイーターとの戦いでもクロスが変身した双剣使いの姿……機動力と感覚に特化した形態である『仮面ライダークロス・タイプスラッシュ』にタイプチェンジし、両手に握る黄金色の双剣、スパークスラッシュを手の中で回転させながら構えた。

 

 

「あれは、この間の……」

 

 

『ハッ、色が変わった程度で何がっ!』

 

 

タイプスラッシュに変化したクロスを見て調が反応する中、バットイレイザーは姿を変えたクロスを鼻で笑いながら方向転換して構わずクロスに再度突撃を仕掛ける。

 

 

だが、クロスは正面から迫るバットイレイザーを見据えたまま徐に腰を落とすと、思い切り地面を蹴り上げた瞬間に残像のように消え、バットイレイザーの頭上に双剣を振りかざしながら一瞬で姿を現した。

 

 

『ッ?!何っ?!』

 

 

『ハァアッ!!』

 

 

『ガッ、ァアアアアアアアッ?!』

 

 

移動する軌跡すら見えず一瞬で肉薄したクロスを見て吃驚するバットイレイザーの両肩を、まるで雷鳴のように振り下ろされたクロスのスパークスラッシュの刃が斬り裂いて激痛を走らせる。

 

 

それによりバランスを崩したバットイレイザーはそのまま地上に墜落して何度も地面を転がっていき、それとは対照に悠然と地に着地したクロスは徐に身を起こして倒れ伏すバットイレイザーを見据えていく。

 

 

『グッ、グゥウッ……!これがクロスのっ、貴方の力ですかっ……』

 

 

『……此処までだ。これ以上続けた所でお前に勝機はない……お前が知っている全てを吐いてもらうぞ……』

 

 

斬り裂かれた肩を片手で抑え、僅かに上体を起こすバットイレイザーから黒幕の情報を聞き出す為に歩み寄ろうとするクロス。しかし……

 

 

『……フ、フフッ……クククククククッ……』

 

 

……バットイレイザーの肩が震え、劣勢に陥っているにも関わらず何故か不気味な笑い声を漏らしていた。

 

 

『……何がそんなに可笑しい?』

 

 

『フフフッ……いえ、ただ話に聞いていた通りだと思い、つい笑みがこぼれてしまいましてねぇ。今の貴方は嘗ての貴方とは違う……記憶だけでなく、力の大部分も失ってしまっているというのは本当のようだ』

 

 

「!アイツ、まさか……」

 

 

「も、もしかして、蓮夜さんが記憶喪失だってバレちゃってるデスか!?」

 

 

クロスが記憶を失っている事を突き付けるバットイレイザーの言葉に響達もどよめき思わず互いに顔を見合わせてしまうが、当のクロスは特に反応を返す事もなく淡々と切り捨てる。

 

 

『お前との無駄話に付き合う気はない……そんな事よりも答えろ。お前達を裏で操っている連中は何処だ、一体何が目的でこの物語を狙う?』

 

 

『フッフフフッ、もう勝ったつもりでいる気ですか?何をそんなに急いているのか知りませんが……勝負はまだ此処からですよォおおッ!!』

 

 

バシュウゥッ!と、愉悦に満ちた雄叫びと共にバットイレイザーが掲げた右手からエネルギー弾が放たれる。

 

 

しかしそれはクロスや響達を狙ったものでなく、戦場から僅かに離れた場所の物陰で蠢く影……ノイズ達の目を盗んで逃げ延びようとしていた一般人達を狙ってのものだった。

 

 

「あ、危ないッ!!」

 

 

「?!う、うわぁああああああああああッ!!」

 

 

『ッ!』

 

 

それを見て響達も慌てて飛び出すが、あまりに距離が開き過ぎて彼女達の足では間に合わないと悟ったクロスはすぐさまその身を朱い閃光と化しながら素早く一般人達の前に先回りし、片手のスパークスラッシュでエネルギー弾を弾いて彼らを守ると、悲鳴と共に逃げていく一般人達の安否を確かめてバットイレイザーを鋭く睨み付けた。

 

 

『貴様っ……!』

 

 

『ハハッ、此処に来て僅かでも可笑しいとは思いませんでしたか?前回の時と違い、今回はやけにノイズ達の数が少なく勢いも弱いと。それも当然……こうなる事を予期して、ちゃんと保険を用意しておいたんですよォおおッ!!』

 

 

高らかに叫び、天を仰いだバットイレイザーの口から光弾が打ち上げられ、空を翔ける。

 

 

直後、光弾は遥か空で分裂して無数の散弾と化し、怪我で動けない人々や逃げ遅れた一般人を意図的に狙って街へと降り注いでいったのだった。

 

 

「あ、あの野郎ッ!」

 

 

「ッ!皆ッ!」

 

 

『チッ!』

 

 

無数の光弾の狙いに気付いた響達は咄嗟に散開して近くの怪我人や物陰に身を隠していた人々を抱え、光弾が着弾して巻き起こる爆発を背に急いでその場から離れていき、クロスもタイプスラッシュの機動力を全力で駆使して光弾の大半を次々と叩き切り人々を救っていくも、一人ではカバーし切れない程の数の光弾を前に次第にクロスの顔も険しくなっていく。

 

 

『ハハハハハハハッ!!どうしましたかぁッ?!動きが目に見えて鈍くなって来てますよぉッ!!ホラホラホラァッ!!』

 

 

『っ、クッ……!』

 

 

そんなクロスの奮闘を嘲笑い、休まる暇も与えまいと立て続けに一般人や怪我を負って動けない人々を狙った悪質な攻撃を嬉々として行うバットイレイザー。

 

 

その悪辣さにクロスも仮面の下で顔を歪めながらも必死に駆け回って光弾を切り払っていくが、バットイレイザーが指摘した通り徐々に募る疲弊から光弾を追う身体が追い付かなくなりつつあり、このままではジリ貧になると感じ取ったクロスは次の光弾を切り払うと共に一息でバットイレイザーへと迫り、スパークスラッシュでバットイレイザーをすれ違い様に斬り裂いた。が……

 

 

『ガァアアアアッ!……なーんてねぇ』

 

 

『ッ!何……?!』

 

 

全力で振るったクロスの双剣に斬り裂かれて苦痛の悲鳴を上げていたバットイレイザーの身体が、無数のコウモリに変化し一斉に羽ばたいていってしまう。

 

 

それを見てクロスが動揺を浮かべる中、無数のコウモリは上空で一つになるように集まると、バットイレイザーの姿を形作ってほくそ笑んだ。

 

 

『私の力があの程度だと思いましたか?ざぁんねん、貴方の力を測る為だけに本気を出す訳がないでしょう?今まで貴方が倒してきた連中とは違うのですよ、私はねぇッ!!』

 

 

そう言って優位に立っているつもりでいたクロスを滑稽だと言わんばかりに嘲笑すると共に、バットイレイザーの手から再びエネルギー弾が放たれた。

 

 

その標的となるのは、今正に近くの会社の入り口から逃げようとしていた一般の社員達であり、それを目にしたクロスはすぐに素早く飛び出して光弾の前に回り込むと同時に両手の双剣でエネルギー弾を弾き返そうとするが、先程とは比べ物にならないエネルギー量に弾く事も叶わず、爆発した光弾の威力に吹っ飛ばされてガラス張りの窓に叩き付けられてしまった。

 

 

『ガッ、ハッ……!』

 

 

「ひ、ひぃいいいいっ?!」

 

 

「は、早く逃げろっ!急げぇっ!」

 

 

無数のガラス片と共に力無く地面に倒れるクロスに怯え、急いでその場から逃げ出していく社員達。

 

 

そしてバットイレイザーは倒れるクロスの前に着地すると、自分達を守ってくれた筈のクロスに目もくれず走り去る社員達の背中を見つめて鼻を鳴らした。

 

 

『愚かしいですねぇ……何をそんなに必死に守る必要があるのか理解に苦しみますよ。所詮アレも貴方とは関わりのない異世界の人間、我々からしてみれば仮初の現実を生きるフィクション如きに過ぎない……そんなものを守る為に身を削らなければならないとは、ヒーローとは本当に難儀な生き物ですねぇ』

 

 

全く同情しますよ、と口元に手を添えて馬鹿にするように嗤うバットイレイザーだが、それを聞いたクロスは近くに転がるスパークスラッシュを手に取り、徐に顔を上げて口を開いた。

 

 

『っ……俺、は……お前の言うヒーローなんて呼ばれるような、そんな大層な人間なんかじゃないっ……』

 

 

『……ああ?』

 

 

そう言って背中からガラス片を落としながらふらつく身体を起こしていくクロスの反論に、バットイレイザーは訝しげに眉を顰め、クロスは覚束無い足で地を踏み締めながら逃げ遅れた民間人を守る為に今も奔走する響達を見つめて言葉を続けていく。

 

 

『本当にヒーローと呼ばれるべきなのは、誰かの為に身を張る事を恐れない、アイツらのような人間だ……俺はただ、自分が知っているから戦ってるだけだ……唯一俺に残された役目を……大切な何かを失う、悲しみや辛さをっ……』

 

 

「……!蓮夜さん……」

 

 

助け出した人々の避難を促す中で、風に乗って聞こえてきた彼の言葉を耳にし響が思わずクロスの方に振り返るが、クロスはそれに気付かぬまま傷付いた腕でバットイレイザーに向けて双剣を身構えていく。

 

 

『お前達の暴挙を見過ごせば、また俺のように大切な何かを失う苦しみを味わう人間を生み出すと知っているっ……それが我慢出来ないから戦うっ……もうこれ以上、誰かの人生(モノガタリ)をお前達のような連中に侵させてたまるかっ……!』

 

 

『……ハッ、ようするにくだらない感傷ですか?それなら尚のこと救い難い。だったらこの場にいる全員を救ってみせるといい……貴方一人の力で為せるのならねぇええッ!!』

 

 

クロスの戦う理由を馬鹿馬鹿しげに一蹴し、ならば救ってみせろとバットイレイザーが再び放ったエネルギー弾が先程クロスが身を呈して庇った社員達の背中に目掛けて襲い掛かる。

 

 

それを見て慌てて飛び出そうとするクロスだが、先のダメージが想像以上に響いているのか一瞬足に力が入らずスタートダッシュが遅れてしまい、その間にもエネルギー弾が社員達に迫り最早直撃は免れられないかと思われた、その時……

 

 

―ARTHEMIS SPIRAL―

 

 

──社員達の背中にエネルギー弾が当たる寸前、真横から矢の形状をしたミサイルが猛スピードでブチ当たり、エネルギー弾を撃ち抜いてかき消したのだった。

 

 

『!』

 

 

『何?!』

 

 

その光景を目の当たりにしたクロスとバットイレイザーも驚愕で目を見開き、エネルギー弾を落とした今の矢が放たれてきた方へと振り向く。

 

 

其処にはアームドギアをロングボウの形状に変形させ、矢を放った態勢で佇むクリスの姿があり、動揺するバットイレイザーに向けてクリスはしてやったりと不敵に笑って見せた。

 

 

「ハッ、生憎だったなぁコウモリ野郎。さっきの仕返しだ、気に入ってくれたかよ?」

 

 

『ッ……!貴様ぁっ、フィクション風情が私の邪魔を──!』

 

 

「「はぁああああああああッ!!」」

 

 

―切・呪リeッTぉ―

 

 

―α式 百輪廻―

 

 

自分の邪魔をしたクリスに怒りを露わにし、拳を握り締めてバットイレイザーが思わず歩み出ようとした瞬間、其処へブーメランの如く飛ばされた大鎌の刃と無数の小型の鋸が飛来してバットイレイザーの足を止めていき、クリスの前に切歌と調が飛び出しアームドギアを身構えた。

 

 

「これ以上、貴方の好き勝手にはさせない……!」

 

 

「アタシ達を舐めて掛かったこと、後悔させてやるデスっ!」

 

 

『……そうですか……死よりも恐ろしい目に遭いたいと……ならば、望み通りにしてあげますよォッ!!』

 

 

『待てっ……!グッ!』

 

 

怒りに震えるように息を深く吸い込み、最早容赦はすまいとクリス達に目掛けて羽根を広げながら滑空して襲い掛かっていくバットイレイザー。

 

 

それを止めようとクロスも後を追おうとするが、急に身体を動かしたせいで痛みが走り思わずその場に膝を付いてしまう中、そんなクロスに響が駆け寄り身体を抱き起こしていく。

 

 

「しっかりして下さい蓮夜さんっ!大丈夫ですか……!」

 

 

『ッ……俺の事はいいっ……それより早くお前の仲間達を止めて、民間人と一緒に此処を離れるんだ……!イレイザーとは戦いを避けるように言っただろう……!』

 

 

「…………」

 

 

このままではクリス達の身が危険だと焦燥を露わにこの場からの避難を促すクロスだが、それに対し響は僅かに考える素振りを見せた後、クロスの目を見つめ返しフルフルと首を横に振った。

 

 

「すみません……やっぱり私、蓮夜さんだけに戦わせる事は出来ません」

 

 

『……何……?』

 

 

響からの思わぬ返答に戸惑うクロス。響はそんなクロスの前に出ると、ギアを纏った右手を握り締めて拳を形作っていく。

 

 

「蓮夜さんの言う通り、イレイザーを倒す方法を持たない私達じゃアイツには勝てないかもしれない。でも、だから戦わないって選択肢を簡単には取りたくないんです……!自分や自分の身の周りの人達を守る為にって言い訳して、蓮夜さん一人に重荷を背負わせて逃げ出したら……きっと、そんな自分を許せずにこの先も後悔し続けると思うから……」

 

 

『…………』

 

 

「例え出来ない事が多くても、せめて限られた中で出来る事をしたい……自分に胸を張れない後悔はしたくない……今は蓮夜さんも、この世界を生きる一人の人間だから……力になりたいんです」

 

 

それが今後悔しない為の自分の選択なのだと、クロスに顔を向けて微笑み、マフラーを靡かせながらクリス達と戦うバットイレイザーに目掛けて駆け出していく響。

 

 

その背中を止めようと思わず手を伸ばし掛けるが、何故か彼女を呼び止める言葉が出て来ず、中空で止めた手の平をジッと見つめていく。

 

 

(自分に胸を張れない、後悔をしない為に……)

 

 

その言葉に何か感じ入る物を得たのか、クロスはゆっくりと拳を握り締め、何か意を決したように顔を上げてふらつきながらも身を起こしていくのであった。

 

 

 

 

 


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