戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
去年の暮れほどから家の事情でバタバタしていた他、県外を頻繁に行き来したりと忙しなく、まともな執筆が叶わず大変遅れてしまいました。
一先ずはそちらも幾分か落ち着き、また少しずつ更新していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
───翼とマリアに頭を下げ、二人に買ってきてもらった胃薬をこれでもかと飲み込んでから本部へ無事意識を取り戻した事を報告する為に連絡した蓮夜。
そんな彼を待ち受けていたのは、最初は彼が目を覚ましてくれた事への大きな喜び。
そうして次に待っていたのはやはりと言うべきか否か、無事であったのならどうしてすぐに連絡しなかった上に重体の身で戦ったりなどしたのかと、怒り心頭な響達からのお叱りであった。
その件で大いに心配を掛けてしまった彼女達からの暫しの説教を素直に受けてる最中、いい加減状況を見兼ねて仲裁に入った弦十郎からの助け舟で話題を逸らしてもらってから、蓮夜はこれまでの自分の身に起きた出来事について説明し始めた。
先ず始めに、自身が乗っていた旅客機を墜落させた首謀犯がクレンであったこと。
次に旅客機が堕ちた後、蓮夜は飛行機の爆発の後から意識を失ってしまってたらしく、それから目を覚ますと、いつの間にか何処かの見知らぬ孤島の浜辺に無数の飛行機の残骸と共に漂着していたらしい。
怪我の具合はその時から既に酷かったらしく、破いた服などを包帯代わりに傷口を塞ぎ応急処置を施していた最中、遠方からイレイザーの気配を察知し、その現場へ駆け付けるべくすぐさまタイプイチイバルに変身した後、以前クリスに見せてもらったミサイルサーフィンによる全速力で気配がする方角を頼りにロンドンにまでどうにか辿り着けたとのこと。
以降は翼やマリアも知る通り、現場に到着すると同時に成り行き上、ファートムを狙うマンティスイレイザー達との戦闘に入る事となり、何とか彼女を守り切って二人との挨拶を交わす最中に体力の限界が遂に訪れ倒れてしまった……というのが、今に至るまでの蓮夜に身に起きた経緯の全て。
つまり要約すると、事故から数日間、怪我の治療も何もしていない昏睡状態から目覚めてすぐに翼とマリア達の救援に駆け付け、そのまま無理を通して戦ったせいで傷が更に悪化し危険な状態になってしまったという訳だ。
無論、そんな話を聞かされて響達が黙っている筈もなく、火に油を注がれたが如く怒髪天。
彼女達からの再度のお叱りを受ける流れで蓮夜がいたたまれないあまり思わずベッドの上で土下座しようとした途端、『そんな重体で無茶な態勢しない!!』と響達は更に激怒。
結果、調が宣告していた通り蓮夜への説教は延長コースに突入してしまい、蓮夜がお叱りを受けているのを他所に、弦十郎は酷く呆れながらも翼とマリアに引き続き蓮夜とファートムの護衛を頼みつつ、緒川と共に姿を消したイレイザーとfirstの動向を探るようにと指示し、まだまだ説教し足りさそうな響達をどうにか宥めて通信を終えたのが、先程までの話。
そして、現在───
◇◇◇
「──────────────────────────」
───本部との通信を終えた暫し後、蓮夜は三人と一緒に点滴スタンドを傍らに病院内の自販機がある待合所へ移動し、マリアが奢ってくれた缶ジュースを片手に淀んだ空気を漂わせながらすっかり疲れ切った様子で備え付きのソファーの上に座り込んでいた。
「…………ええっと、その……だ、大丈夫……?何だか物凄い憔悴し切ってるようだけどっ」
「────嗚呼…………しんぱい、いらない…………きにしないでくれ…………」
とても大丈夫そうとは思えない状態の蓮夜を気遣って恐る恐る声を掛けるマリアだったが、当の本人は心ここに在らずといった感じで項垂れたまま力無く返事をするだけだった。
そんな彼を見て流石に同情を禁じ得なかったのか、隣に立つ翼が目尻を下げて苦笑いと共に口を開く。
「まぁ、なんだ……慰めと言うにはアレだが、立花達も立花達でずっと気を張り続けていたようだからな。皆もそれだけ身を案じていたという事なのだろう。決して憎からずああして責め立てた訳ではないだろうから、どうかその辺りの気持ちは汲んでやって欲しい」
「……あぁ……心配を掛けたのは俺なのだし、悪いのは俺だと重々承知している……してはいるんだが……それはそれとして、毎回こう何度も何度も絞られるとどうにも気が重くなってしまうというか……最初は響だけだったのが、何故か最近ではクリス、切歌に調からまで叱れるようになるとは……どうしてこうなったんだっ……」
翼の言葉に弱々しく返答するが、やはり普段から散々心配を掛けてきた手前、今回の件は素直に申し訳なく思っているのは本心のようで蓮夜は深く溜め息を吐いてしまう。
そんな蓮夜のやつれた様子に翼とマリアも互いに何とも言えない顔を見合わせる中、ひと足先にジュースを飲み終えたファートムが自販機に隣接されてるゴミ箱に空き缶を捨てつつ、溜め息混じりに口を開く。
「そんな事より、これから一体どう動くつもりなんだ……?イレイザー達は黒月蓮夜が合流した事に暫くは警戒を覚えるかもしれないが、もし今彼がこんな状態である事が知られれば、これ幸いにと一気に攻め込んでくる可能性もある。何しろ奴等にとってクロスは一番の障害だ。それを排除出来る絶好の機会を、奴らがみすみす逃すとも思えない」
「……そうね。それにファートムの話だと、奴らはこのロンドンを支配する事で何かをしようと企んでようだし……少なくとも、私達がこうしている間にも着々とその準備を進めてると考えるべきでしょうね」
「ああ。ファートムは己自身を"鍵"と称していたが、それが具体的にどういった意味なのかもまだ見当すら付いていない状況だ。その辺りも含め、慎重に情報を集める必要があるが……ファートム、今からでも何か思い出せる事はないのか?例えば、お前が囚られていたという奴らのアジトの場所などは……」
翼が腕を組んだままファートムに視線を向ける。しかし、その問いにファートムは目を伏せて静かに首を横に振った。
「生憎、アジトから連れ出された時の記憶は状況が混沌としてたのも相まってあまり良く覚えていない。……そもそもの話、私は外の世界についての知識はほぼ無知といっていいぐらいだ。仮にアジトの外観程度を覚えてたとて、それが何処の場所に当たるのかさえも皆目見当がつかない」
「む……となると、やはり緒川さんが奴らの足取りについて何か掴んでくれる事を期待するしかないか……」
「……?緒川さんと言うと、確か……」
「翼のマネージャーで、S.O.N.G.調査部に所属するエージェントよ。情報収集といった裏工作に関して敏腕のスペシャリストだから、今も逃げたイレイザーとfirstの足取りを追ってもらってるわ」
「ああ……そういえば以前、風鳴司令や響達から話を聞かせてもらった事があったな……」
確か翼のマネージャー兼お世話役という表を顔を持ち、その正体は忍びの末裔としてS.O.N.G.を陰ながら皆をサポートする現代の忍者でもあるとか。
最初にその情報を聞かされた時は何かの聞き間違いかと耳を疑ったりなどもしたが、そもそもシンフォギアやノイズのような超常な存在、もっと言えば自分やイレイザーのような存在がいるのだから、忍者の実在くらい寧ろ健全な方だろうと自分を納得させた記憶もある。
「でも、そうなってくると私達は情報集めの方面で大して役立てそうにはないわね。……やっぱり、今はこの二人の身辺警護に専念すべきかしら。特に彼はまだ満足に動ける身体ではないのだし」
「ああ、いや、俺の事なら気にしなくていい。クロスのベルトを巻いておけば身体の傷も勝手に治してくれる。これまでの経験上、それで安静にさえしていれば、明日になる頃には普通に歩ける程度にまで回復してる筈だ」
「ベルトを巻くだけでって……たったそれだけでそんな大怪我を治せるっていうの、貴方?」
「確かな事は分からないが、少なくとも俺はそう思ってる。そうでもなければ、毎回毎回あんな死ぬような怪我を負いながらたった数日で完治するだなんて説明が付かない」
「……何となしに言っているが、そうして理知外の回復力を頼りに自らを軽視して顧みようとしないから、立花達も彼処までの憤りを見せるのではないか?」
「そうね……あの子達があんなにも怒りを覚えるのも、何となくその片鱗が見えてきた気がするわ……」
「……いやまあ……その節がないかと問われれば確かに否定はし辛いが……いや待て。その目はやめてくれ。あまりの既知感にどうしてもこちらがいたたまれなくなってしまう……」
そう言いながら片手で遠慮がちに制しつつ、自分を説教する時の響達のソレと似たような眼差しを向けてくる翼とマリアから気まずげに顔を逸らしてしまう蓮夜だが、視線を逸らした先で半ば呆れたような怪訝な眼差しでこちらを見るファートムと目が合ってしまい、気を取り直すように軽く咳払いし、重い腰を上げ立ち上がった。
「とにかく……奴等の計画を探る為にも、人手は多い方がいい。俺はイレイザー達の気配を感じ取る事が出来るから、直接街を出歩けば何かしらの発見を得られるかもしれない」
「……イレイザーの気配を探知出来る、ね……それは貴方自身の力なの?それとも、ベルトの力?」
「……分からない。ベルトを外していても奴等の気配を読み取れはするんだが、果たしてこれがベルトを着け続けた事により身に付いたものか、それとも元々ある俺自身のモノなのか……どちらにせよ、俺自身に記憶がない以上、どういった理屈なのかと聞かれても困る。答えようがない」
「今はその事を追求しても仕方がない、という訳ね……わかったわ。でも、あまり無茶はしないで頂戴。いくら貴方が強いといっても、相手は人間離れした身体能力を持った化け物よ。幾ら何でも、一人でどうにかなる程甘くはないと思うわ」
「分かってる。奴らの目的を知る為に必要最低限の情報を集めるだけだ。……ただそれでも、クレン──上級イレイザーもこの件に一枚噛んでる以上、何処かで無茶を強いられる必要が出てくるかもしれない。そうなれば、俺一人でこのロンドンで起きている異常事態を止めるのは難しい。だから……」
そう言うと、蓮夜は二人を見据えて真剣な表情を浮かべた。
「無茶を言ってるのは自覚している。ただそれでも、どうか協力して欲しい。一人では満足に戦えない俺には、二人の助力が必要なんだ……頼む」
そう言いながら貴方を深く頭を下げる蓮夜。その言葉に、翼とマリアは一瞬呆気に取られたようにキョトンとした顔をするも、やがて互いに目配せして小さく微笑みながら同時に頷き、連夜を見る。
「ええ。言われるまでもないわ」
「ああ。私達が不在の間、立花達を救ってもらった恩もある。それを返す為にも、微力ではあるが尽力しよう」
「……ありがとう」
二人の返答を聞き、頭を上げた蓮夜もまた静かに口元を緩めて安堵の笑みを作る。
そうして話が纏まったところで、蓮夜はファートムの方に振り向いた。
「一先ず、俺達の方はその方針で動くつもりだが……お前はこれからどうする?」
「そうね。イレイザー達は貴女のことを狙ってるようだし、此処は厳重な警護を付けて何処かに身を隠しておいた方が賢明──」
「いや。私もお前達と行動を共にする」
間髪入れない即答に、思わず目を丸くさせる三人。そんな彼等の反応を見て、ファートムは目を伏せて淡々と言葉を続けた。
「警護なんて付けられたところで、普通の人間程度がイレイザーに傷一つ付けられる筈もない。寧ろ無駄な被害と犠牲を出してしまうのが目に見えてる。なら、此処は唯一奴らを倒せる黒月蓮夜と行動を共にしてた方が断然マシだろう」
「それ、は……確かに一理あるけれど……」
「それに、私としても奴らに関する情報収集に協力してやりたいと思ってる。何せ奴等の狙いは私だ。なら私が街を適当に出歩いていれば、向こうから勝手に姿を現してくれるかもしれないだろう?」
「……つまり、奴らを誘き寄せる囮役を自ら買って出る……と?」
「早い話が、な……。私としても一刻も早くこの状況を打破して自由の身になりたい。その為にも私はお前達に同行する。その方が効率的だし、そちらとしても、事態を早く終息させたいのなら手っ取り早い方がいいだろう?」
「それはそうだけど……だからといって狙われてると分かってる貴女を白昼堂々歩かせるというのも……」
尤もらしい理由を述べながらファートムは自ら囮役になるのに積極的なようだが、翼とマリアの方はそんな危険な役回りをこんな小さな少女にやらせるのはあまり賛同寄りではなく悩ましい表情を浮かべているが、そんな二人の心配を他所に、ファートムは相変わらず冷静な面持ちで蓮夜の方を見た。
「お前はどう思う?この二人が反対するように、やはり危険過ぎると思うか?」
「…………」
ファートムから問い掛けられた蓮夜は無言のまま口元を片手で覆いながら考え込む。
翼とマリアの心配も最もではある。敵の狙いがファートムにあると分かってる以上、普通であれば安全な場所に彼女を隔離しておくのが正しい判断だと思う。
しかし相手が不条理を当たり前とする以上、正攻法が通じる筈もないと考えた方がいい。
「……念のため聞いておくが、仮にもし俺達がその提案を蹴った場合、素直にこちらの言う事に従ってくれるのか?」
「それが100%、私の安全を保証してくれるのなら文句はない。……そうでなければ、私は私の身を守る為に自己の判断を優先して動かせてもらう」
「……下手に目を離すよりかは、見える範囲で傍にいてもらう方が幾分マシ、か……」
絶対と呼べる安全策がない現状、ファートムの身柄を誰かに預けるのも本人が言うように不安の方が勝る。
顔色一つ変えないファートムの宣言に思わず溜め息を漏らしながらも、翼、マリアと互いに困った表情を突き合わせた後、最終的に小さく肩をすくめた蓮夜は仕方がないと諦めた様子でファートムに再び目を向けるのであった。
◆◆◇
「───────…………ぅ…………ぁ………………?」
一方その頃、S.O.N.G.管轄の医療機関。
此処には別世界からの漂流者である謎の青年が医療室に収容され、長らく意識不明の状態で眠り続けている。
しかし、その青年の瞼が今、ピクリと僅かな反応を示した後、ゆっくりと開かれ、久しく差し込んだ光に眩しそうに目を細めた。
「…………?どこだ……ここ…………?」
まだ意識がハッキリとしないのか、寝惚けたようにボヤける視界に映る見知らぬ天井を眺めながら呟く。
そして自分が何故此処にいるのかを思い出そうとしながら僅かに頭を上げて辺りの様子を伺おうとした際、点滴や心電図などの医療機器に繋がれている自身の身体を目に入れてギョッとなる。
「う、ぉおお……な、んだこりゃ……?俺、なんでっ……あだぁ!?」
驚きのあまり思わずベッドから上体を起こそうとした途端、ベッドに突いた手を踏み外し、青年はそのまま顔面から床へ派手に勢いよく倒れ込んでしまう。
と、其処へ……
「───ったく!かもしれねぇと思いはしたが、ホントに無茶する馬鹿がいるかっての、あの不器男……!」
「正直、アレでもまだまだ怒り足りなかったかも……」
「ま、まぁまぁっ……取り敢えずコレで心配事もなくなったわけデスし、今は一先ず蓮夜さんの無事を喜ぶべきデスよっ」
「一応反省自体はしてくれてたようだしね。……それでちゃんと聞き入れてくれるかはまた別問題なんだけど……」
「その見込みがねぇから言ってんだよっ……はあっ、こうなりゃ先輩とマリアも味方に引き込んで、一度徹底的……に……?」
「あ、だだだだっ……うんっ……?」
個室の扉が開き、談笑を交わしながら部屋の中へ入ってきたのは響、クリス、切歌と調の四人。
蓮夜が不在の間、定期的な青年のお見舞いを彼から任されて足を運んだ少女達と、フラフラと床に強打した頭を擦りながら身を起こした青年は互いの存在に気付き、ガラス板越しに視線が交わり、暫し硬直。で……
「ひ──人だァああああっ!!助かったぁぁあああああっ!!」
―バァアアンッ!!―
「ギョエェエエエエエッ!!?こ、こっちも生き返ったデスよぉぉおおおおっ!!?」
「切ちゃん、不謹慎……!どっちも死んでない!」
「い、意識を取り戻したのか……!?お、おいっ!オッサンに連絡っ!急げっ!」
「わ、わかったっ!?」
先に我に返った青年が、突然歓喜の声を上げながら抱き着いてきそうな勢いでガラス板に張り付いてきたのである。
その勢いに反射的に身を仰け反らせながら絶叫する切歌の隣で調も慌てふためきつつも彼女を落ち着かせようとする中、響はクリスに促されて青年が目覚めた事を弦十郎に連絡する為、急いで部屋を飛び出していくのだった。