我、死二場所ヲ探s...あ、兎ちゃん   作:IS提督

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「今日も前哨基地に戻れませんか......」

 日が傾き、黄金色に染まった雨上がりの空の下で、一番背の小さい男が発した言葉に、誰も答えることができなかった。

「おコメとおみそ汁、あとお魚がおかずの食事が腹いっぱい食べれれば、文句ないんだけれどな......」

 その言葉を最後に、男は右肩に立てかけていたアサルトライフルに頭を預け、じっと空を見上げていた。

 空だけを集中してみてみれば綺麗で神秘的な光景であるが、ひとたび空への集中を止めると視界には土の壁......、砲弾が地面に着弾し、爆発した深いクレータの中に男たちは身を隠していた。

「もし、今日帰ることができたとしても、満足のいく飯なんてありゃしないだろ」

 先ほどの男とは違う男がヘルメットを脱ぎながら答える。

「俺達が上陸した際にされた奇襲で、食料は木っ端みじん。そのうち、目の前にある仏さんを食べる日も近いかもな・・・・・・ほれ」

「うぉ?!」

 脱いだヘルメットの中から柔らかく四角いケースに入った煙草を小さい男に投げわたす。

「まぁ、食べ物はないが、クソみてぇな味の煙草は腐るほどをあるからな、こいつで空腹を紛らわせるしか無いわな」

そういうと男は、いつの間にか火をつけた煙草を咥えて白紫色の息を吐く

「いただきます」

小さい男もそれに倣って煙草に火をともし白紫色の息を口や鼻から吐き出した。

「願わくば、この吸い口がかわいい女の子でありますように」

 男の呟きに小さな男は何も言えなかった。

 小さくて一見どうでも良いことですら、ここにいる限りかなうことはないから・・・・・・生きたいと望む事は英雄になることと同じぐらい難しいことであるのかもしれないのだと語っているようであった。

架空書籍『英雄の友達』より引用


第10話

「ほら忠義君、ここに座って」

 

 そういうと、ラビットハウスのマスターであるタカヒロは自身に血が付くことを厭わずに田中の体をしっかりとつかみながら椅子の上へとゆっくり下す。

 

「ありがとうございます」

 

 いまだ先ほどの戦闘の際に打った鎮痛剤の影響か、それとも近距離戦闘時に銃床で殴られ腫れた右頬が口の動きを阻害しているのか、田中の声は覇気がない声色で話す。

 

 田中は少しばかり怠い頭で周囲を見渡した。

 

 先ほどまで事後処理の為、忙しなく動いていた戦闘現場とは違い、ここラビットハウスの生活部のキッチンからはオレンジ色の蛍光灯の光が温かく自身を包んでいる様な感覚を錯覚した。

 

「それにしても災難だったね。まさか着任初日でこんなことになるなんてね......。それにしても、あいつも酷いな。奴の屋敷にあるシャワー室を貸せばいいのに」

 

 そういうとタカヒロは親バカな友人を思い浮かべながらシンクでタオルを水に濡らし、水気を取った状態にした後に田中に渡す。

 

 濡れたタオルを受け取った田中は、一応事後処理中に渡されたタオルで手や顔を拭いたとはいえど、いまだに額に乾燥してガビガビにこびり付いた血液を強引に落とす。

 

「......上に立つ人間としては最悪な対応だとは思いますが、しかし自分の愛娘があんな危機に晒られれば誰でもああなると思います」

 

 それに......。と田中は言葉を続けた。

 

「確かに、戦闘後の閣下の行動はあれですが、私達への増援隊の指揮は的確で素晴らしいものだったと思います。......この区画の最高指揮者が現場に出てくる意味がわかりませんが」

 

「現場主義の極みだね」

 

 タカヒロは苦い顔をしながらフォローにはいる。

 

「それはそうと、私はこれから少しばかり出かけないといけない予定ができたから、少し出かけるけれど......」

 

 そう言いながらタカヒロは、疲れて半場意識が朦朧としている様に見える田中の顔を覗き込むように見る。

 

「......心配ありがとうございます。ですが私も一服した後に風呂に入ったらすぐに寝るつもりです」

 

 重く、覇気がない声色ではあるが、田中がゆっくりと話したことに、タカヒロは一種の安堵の表情を浮かべた。

 

「そうそう、煙草を吸うときは、カフェエリアに行って吸ってほしい」

 

そう言うとタカヒロは、ドアノブを回し部屋の外に出ていった。

 

「現場首位の極みの最高指揮官ね......。俺たちが戦場にいた時は、誰一人として助けることはなかったのに、残党......残党がいるとはいえ、終戦したある一定の安全が保たれている中でのみの現場主義か」

 

「田中君? 帰ってきてたんだね。今日の晩御飯はチノちゃんと私特性のシチューだよ!」

 

 あざ笑うように田中が言葉を発しながら、椅子から立ち上がろうとした時、タカヒロとは別の扉から入ってきた陽気な人物に声をかけられた。

 

「ッ!? ココアさん......」

 

 声をかけたココアは目の前にいた田中に驚いた様子で呆然と立ち尽くしていた。

 

 「田中君?......ち、血が......怪我の手当しなきゃ! チ、チノちゃ「大丈夫、大丈夫です」」

 

 ココアが田中の怪我の手当をしようと、チノを呼ぼうとするが、それを田中は静かに制止する。

 

「お心遣い感謝しますが、大丈夫です」

 

 手でジェスチャーを行い、ココアに落ち着いてほしい旨を伝えようとするが、まったくと言っていい程、落ち着く様子を見せない。

 

「でも、田中君......、血が!」

 

「大丈夫です。大量出血に見えますが、これはえーっと......、うん、大丈夫です。心配しないでください」

 

 少しだけではあるが、鎮痛剤が抜けてきたのだろう。田中の声色に覇気がもどる。

 

 が、それと同時に戦闘時に腕を動かした反動で痛みもぶり返してくる。

 

「田中君、か、顔が......、顔が悪いよ?!」

 

「それは、生まれつき! ......顔色? 顔色のことだよね?!」

 

「食いつき良いね?!」

 

 ココアの発言に、田中が思い切り食いつくが、当のココアは若干引き気味に答える。

 

「顔色が悪いのは、疲れがたまっているだけで別に体調が悪いわけじゃないから」

 

そう言いながら、田中は先ほどタカヒロが出ていった方向に歩き出す。

 

「どこ行くの? 今日はもうバーの営業は終わったよ?」

 

 ココアの呼びかけに、田中は振り返らずにポケットから取り出した煙草を3回ほどヒラヒラと見せびらかす様に、こめかみの横で仰ぎながら生活空間から出る。

 

「それにしても、この前に行ったシミュレーションの予想よりも早い段階で......」

 

 そう呟きながら手ごろな椅子に座り、煙草に火をつける。

 

「しかし......」

 

 小さな声でそう言って直ぐに煙を吸い込み、忠義はそこからの話を一切口にせずに、静かに煙草を吸っていた。

 

「田中君! ご飯だべよ!」

 

 煙草を吸い終わり、吸殻を携帯灰皿に押し込んだタイミングで、どこか緊張感が内容で、しかし緊張の糸が張っているような矛盾した声を出しながらココアが扉を開いて入ってくる。

 

「最近のお鍋ってすごいんだよ! この短時間で冷めちゃったシチューが、熱々になるんだよ!」

 

「え、あぁ、はぁ?」

 

 突然の事に田中が戸惑っていると、ココアは素早く田中のもとに行き田中の手を引っ張り、キッチンに連れて行こうとする。

 

「チョッ?! ココアさん?!」

 

「良いから! 良いから! チノちゃんが作ったシチューはおいしいよ!」

 

 やはりココアは田中の言葉を聞かずに強引に連れて行こうとする。

 

「チョット、いきなりどうしたんですか?!」

 

 田中がココアに声を掛けるが、一行に反応を返さないココアであったが田中を食卓に座らせ、シチューをよそった皿を彼の目の前に置いた。

 

「確かに、ココアさんが言った通り美味しそうな匂いがしますね。......あぁ、そうだシチューを持ってきてくれたお礼にこれ食べます?」

 

 そういって田中は右胸のポケットに入っていた包みをを取り出し、痛む右腕を器用に動かしながら両手で包みを広げる。

 

「これって......チョコレート?」

 

 ココアの発した言葉に、一瞬ニヤリと笑みを浮かべた田中はナイフを取り出すと、柄の部分を振り下ろし、チョコレートをたたき割った。

 

「食べてみればわかりますが......歯は丈夫ですか? これはチョコレートであってチョコレートじゃ無いものですよ」

 

 そういうと田中はココアに割れた一かけらのチョコを渡した。

 

「歯は丈夫な方だと思うけど......いただきます」

 

 ココアが口にチョコレートを運ぶが、一口嚙んだところで不思議そうな顔をした後、暫くすると表情がだんだんと曇っていく。。

 

 田中はそんなココアの顔が面白いのか、はじめはニヤニヤと気持ちの悪い顔をしていたが、次第に笑い声が抑えられなかったのか、次第に声を出して笑い出した。

 

「味の感想はいりませんよ! 私も何度も食べましたから! それと噛まずになめてくださいね。歯が折れちゃいますから」

 

 ひとしきりココアの表情の移り変わりを見た田中は「いただきます」と言葉を発し、少し冷め始めたシチューを食べだした。

 

「おぉ! シチュー! ずっと食べたかったんですよね! これは.......あぁ......うん、美味いですね」

 

 おいしい。素直にその感想は出てきたが、それ以外の感想が出てこない事に田中は少し疑問を感じた。

 

 あれだけ望んだ料理なのに......。と田中は考えたが、ふと『なぜシチューを食べたかったのか』の理由を思い出す。

 

「あれ? ......シチュー冷たくなっちゃった? 温めなおそうか? それとも焦げ臭くなっちゃった?」

 

 一口食べたところで、手が止まった田中に対して、その手元を不思議そうに見ているココアが尋ねた。

 

「え? おいしいですよ。 ただ、女の子と一緒に食事をする事なんて滅多になかったもので......ちょっと感慨深いなぁ。なんて」

 

 そう言いながら、一口、二口とシチューを口にする田中を目にココアの目元が優しくなっていった事に、彼が気づく事はなかった。

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