我、死二場所ヲ探s...あ、兎ちゃん   作:IS提督

11 / 14
「禁話! 家族!」

 どこの野営テントからかわからないが、私たちが普段、同じ言語をしゃべらない相手に話す言葉。つまりは我が国の公用語が、暗く、だが薄っすらと明るみだした空に響いた。
 主に英語で構成されている言葉ではあるが、話者の国の言葉が混じわった、いわば訛りの様なものを含む言語であった。
 誰かが発した「禁話! 家族!」の言葉は、公用語に不慣れで理解が足りず言葉が不自由なわけではなく、言語の違う者同士がスムーズに意思疎通が出来うように極力無駄な情報を含ませない事を意識されている言語である。
 無駄だとされる情報を極力省いた公用語は、読書家の兵士達から「ニュースピーク」と呼ばれ始め、その呼び方は階級や物理的な距離を超え、伝わり定着していった。

「今の言葉の意図は何だろうね?」

 眠たそうで、気だるそうな声がブルとアクションライフルとアサルトライフルの2丁を抱いて、今さっきまで寝ていたであろう男が若干湿っている地面に体を横たえながら聞いてきた。

「さぁ......? 「家族の話をするな」ってことだから......自身の家族が死んだか、それとも家族のことを思い出して士気が下がるからか......」

 私が言い終わると同時に彼は口を開いた。

「士気がさがる? あぁ、確かに高級士官なら言いそうなことだな。そうだ......そうだな」

 彼は自身に言い聞かせるように何度も呟き、そして自身が被っているヘルメットの位置を調節した。

「さて、そろそろ俺たちが見回りをする時間か......。あぁ、眠い......。こりゃ戦争が終わったら死人に間違われる程寝なきゃ戦後の生活に支障が出ちまうな」

 男がそう呟きながら、自身の腕に付けている時計に視線を落とす。

「それよりも、お前はちゃんと寝たのか? なんか寝てないような気もするけど......」
「ご心配どうも。ちゃんと寝たよ、君が起きる1時間ほど前に起きたけれども」
「えぇ......それって、ちゃんと寝たのかよ? 俺が寝る時も起きていたよな?」
「そうだけれど、僕は元々そこまで寝なくてもどうにかなる体質らしくてね。それに少しやることがあって」

私はそう言いながら胸元のポケットから四つ折りにした紙を取り出して、彼に渡す。

「手紙? 家族に? 見てもいいの?」

 どうぞ。とジェスチャーを送ると彼は興味深そうに四つ折りになっている手紙を開き、薄暗い中で読み始める。
 しばらく手紙を読み込んだ彼であったが、内容を読み切ったのか、再度手紙を四つ折りにして私に渡した。

「余計なお世話かもしれないんだけれども......、いや、なんでもない」
「なんだよ? 何か気になったんなら言ってくれよ。別に怒りはしないよ」

 私がそう言うと、彼は「そうか」と言い銃を手元に寄せながら立ち上がった。

「お前が書いた手紙だけれど、若干「ニュースピーク」に影響されてるぞ」

そう言うと彼は担いだ銃のうちアサルトライフルを手に持ちながら外に出て行った。
その後を私は手紙を胸ポケットにしまい、1丁の銃を担ぎながらついて行った。


11話

 机に置いていた腕時計の時刻を確認すると、釣っていた右腕の感覚を確かめる様に腕を回し、問題ないと感じ釣っていた腕を自由にした。

 その後、田中は身支度をいつもよりも丁寧に済ませ、自身のほかに「もう1人分」のドックタグと「木の板に焼き印が入っている」お守りらしきものを首から釣るし、1階に降りて行った。

 

「おや、お早いお目覚めだね。昨日は災難だったね。肩の方は大丈夫かい?」

 

 1階の生活部のキッチンに下りた彼を出迎えたのは下宿先の家の主のタカヒロであった。

 

「肩の方は問題ありません。あの後から少し痛みがぶり返してきていますが......、医者の話では「そろそろ怪我の事を考えずに動いても良い」との言葉をもらいましたからね。その証拠にほら、昨日まで釣っていた腕を釣らなくて良くなりましたからね。一応昨日までは薬を縫って腕を釣りましたが、今朝にはすっかり良くなっていましたよ」

 

 そういうと田中は右腕をタカヒロの前で軽く回して見せる。

 

「そうか......。大事にならなくて本当によかったよ。それで......」

 

 タカヒロがちょっとした沈黙の後に言葉を続ける。

 

「今回はちゃんと眠れただろうか?」

 

 声色を一段階落とし、いかにも目の前の少年......田中忠義を心配しているといった様子であった。

 

「......いつもと同じです。そこに関しては心配しなくても大丈夫です。ただ......」

 

 そこまで言うと田中はその後の言葉に詰まった。

 

「2つの意味で大丈夫だよ......。なに、時間が解決してくれるさ。その感覚は君がもう少し成長したら、なんとなく分かってくるし、私ぐらいの年になればそれはハッキリと理解できるものさ」

 

 言葉に詰まった田中の事を理解しているような言動でタカヒロは彼の言葉の後を続けた。

 

「私も昔は、君ほどではなかったにしろ、それなりに悩んで悩み尽くしたつもりでね。もし忠義くんがどうしても自己解決できない時や、自身で道を踏み外しそうだと感じた時は、遠慮なく私に相談してほしい」

 

「ありがとうございます。そのお気持ちすごく助かります」

 

 田中がそういうと、タカヒロはどこか安心したような顔つきになり絵に彼に朝食を振る舞う為にキッチンから見える食卓の椅子に着席を進めた。

 

「あぁ、ありがとうございます。しかし......これから軍の式典で事前に顔見知り達と顔合わせしようと話てまして......」

「もうすでに先客がいたんだね、それは失礼。......何人くらいと集まる予定かな? 少し時間をもらえれば人数分のサンドウィッチを用意するよ」

「ありがとうございます。......ただそいつらとは終戦前に話した事なので......」

「......全員が来ることを前提に作るから、そこまで心配する必要は無いよ。......なに、忠義君の戦友のだ、全員が集合場所に来るに違いない」

 

 そこまで言うとタカヒロは、すぐに冷蔵庫の中身を確認し、その中身から何をどの位作れるのかを人数に応じた料理を即座に何通りも頭の中で作成する。

 

「何から何まで申し訳ありません......。」

 

そういうと彼は、今日の最初に集合する面々の顔を思い浮かべながらタカヒロにその人数を言い、タカヒロが無駄の無い手さばきでサンドウィッチの材料を切り分け、パンの形を成形する。

 

「......結構前の話に戻るのだけれど、ちゃんと眠れたのかい? 君が来る前に受け取った君の資料には......」

 

「問題ないですよ。その件ですが、それは医者がチョコっとばかし大げさに診断を下しているだけに過ぎません。なに、戦争が終わってから今までそれによって何か不自由を感じた事はないのですから」

 

 タカヒロの言葉にかぶせる様に、そして図星を疲れた政治家が必死に冷静さを保ちながら反論するように彼は言葉を交わす。

 沈黙がタカヒロと忠義の双方に押し寄せる。その場で音を発するのは、コンロ上にある換気扇とタカヒロが作成の終わったサンドウィッチを容器に詰める音だけが響いていた。

 

「よし、これで人数分が完成したよ」

 

 タカヒロが完成したサンドウィッチを忠義に渡す。

 

「ありがとうございます。......それと、申し訳ないです。朝っぱらからこんな空気にするつもりはなかったです」

 

「なに、忠義君が誤ることではないよ。私もチョットくどかったからね」

 

「ありがとうございます」

 

 田中がサンドウィッチを受け取ると、タカヒロは彼に少し待っていてほしいと伝え、2階に上がっていく。

 少しの時間の後にタカヒロがライフルと油紙に包まれた実包を持ってくる。

 

「昨日、君が帰ってきた後に受け取りに行ってたんだ」

 

 そういうとタカヒロはボルトを後方にスライドし、薬室内を田中に見せた。

 

「受け取った帰りに少し用があって何発か発砲してしまった。すまない」

 

 そう言いながらタカヒロは油紙を開封し薬莢が5発装填されているクリップを開いた役室に装填し、薬莢を銃に押し込みボルトを前進させ役室を閉塞した。

 

「実弾ではなく空砲のようですが、なぜですか」

 

「......それは今日の式典に行ってみればわかるさ」

 

 田中の問いに少し悲しそうな顔をしたタカヒロが銃を彼に渡しながら答える。

 

「それで使い心地はどうでした」

 

 また空気を悪くしてしまったか? と田中は考え会話を別の話題に移すと、タカヒロは少し顔を喜ばせる様に目の奥が若干輝きをます様な顔つきになり、その質問に答える。

 

「よく手入れがされているといった印象かな? 元々精度の良い個体だと思っていたんだけれど、君が戦地で良く一緒にいたという加苅(かがり)君に聞いた所、君は暇があれば手入れをしていたそうだね」

「手入れをしたところで精度なんて上がりませんよ......、それに素人の手入れだと精々が弾詰まりの確率を下げることぐらいでしょう? 元々精度の良い当たり個体を引き当てただけですよ」

 

田中がそう言った所でタカヒロの目はさらに輝きが増し、若干熱のこもった声色で目の前にいる彼に説く。

 

「何を言うか。確かに手入れだけでは精度は上がらないね。それは田中君の言う通りだと私も認識しているよ。だけどね、適切にきちんと手入れをされているからこそ、銃の精度が落ちずに今でも良い状態を保っているんだよ。そこは忘れちゃいけない」

「そういうものですかね」

「そういうものさ」

 

「私が手入れをしていた理由は何も特別な理由があったわけではありません。それにあそこにいた人達は皆同じように自分が扱っている武器の整備を欠かさずに行っていました......、当時は作戦行動以外は本を読むか、酒を飲むか、煙草を吸うか、武器を手入れするか位しかやれることがなかったですから」

 

 そういうと田中は自身の腕時計を見ながらタカヒロから受け取った銃を背負い、右手にサンドウィッチが入ったバスケットを持ち変える。

 

「さて、そろそろ出発します。」

「あぁ、気をつけてな......、それと......」

 そういうとタカヒロが言葉を詰まらせるが、すぐに続けた。

 

「何があっても、今日はちゃんとここに帰ってきて来るんだよ。君の居場所はここにあるから」

 

 そういわれ田中は、何のことかと一瞬困ったが「行ってきます」と言いながら玄関の扉をひらいた。




よろしければ「こうした方がもっとSSが良くなるよ」や、物語に関するご感想をいただけますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。