第三話
ココア救出の為2階に向かう。
相手を落ち着かせようとして居るココアの声が聞こえるが、はっきり言って相手を逆上させているだけの様な気がする...。
「....から....銃....ろして...!」
階段を登っている最中に、ココアの声が聞こえるレベルまでになった。
...どうやら敵は銃を所持して居る様だ。
田中は、銃を取り出し器用に左手を使い薬室中に弾薬が装填されている事を確認し、ハンマーを上げる。
銃を所持している敵の脅威は未知数の為、細心の注意を払い声のする部屋に向かう。
「お願い...許して...お願いします....。」
震える声を必至に振り絞って言葉にしているのか、覇気が無く弱々しい声がドア越しに聞こえてくる。
....状況は余り宜しくない様だな。
田中はスゥッと息を深く吸い、フゥと息を吐く。
吊っている右腕の手...指を使い扉のノブを回す。
この場合の敵への最も効果的な接敵方法は奇襲による制圧が最も効果的で在ろう。
ドアノブを回したドアを少し押しラッチボルトを溝から外す。
ラッチボルトが溝から外れたことを確認すると、田中はもう一度二度、深呼吸をし呼吸を整える。それと同時に突入への心構えを改めて作る。
ドンッ!!
利き足である右足を使い、文字通り田中はドアを蹴破った。
一瞬、ドアとは思えない程の重さを感じたがそれを気にしている暇は無く、正面の銃を構えて居る人物に銃を向ける。
「な!?...クソッ!?囮!?敵の増援か!!」
そう叫ぶ人物の印象は、第一に紫の下着であり、第二に女性...少女であった。
「銃をゆっくりと地面に置け。」
田中はゆっくりと、そしてドスの効いた声を出し敵に語りかける。
「煩い!黙れテロリスト!!」
「これが最後だ。銃を置け。」
指示に従わない敵に、田中は再度警告するが下着姿の少女は警告を聞かない所か、より一層銃を持つ手に力を入れている。
この様な様子を見る限り、下着姿の少女には『平和的解決』と言う概念が頭の中から飛んでなくなって居るらしい。
警告の無視。...残念だ。
何故、戦争のせいで荒廃したこの世の中を立ち直させる使命を帯びている若者同士が殺し合わねばならないのか?
何故、戦争は終わったのにも関わらず、今の世の中には武力が蔓延って居るのだろうか?
何故?テロリストが蔓延る?
何故?武力を行使する?
何故?テロ組織が出来上がる?
人が、特定の思考に囚われた人間が集まるから組織が形成される。
人の考えとは不安定で、少しでも輝いて居る様なことに人は魅了される。より良い世界を、世の中を実現する為に立ち上がる。
では何故?何故に武力行使という方法で立ち上がらんと欲す?
幾ら考えど、その先の答えが出る事は無いのだろう。
ならば、自分が行うべき行動は実に簡単である。
人が人を呼ぶので在れば、今此処で少女を排除しテロに加担する人間を少しでも減らす事!!
それが最善の方法であり、今現在で考えられる原因に最も有効な方法である。
田中は左手の人差し指に鉄槌の如く力を入れ"躊躇すること無く"引き金を引く。
カチャン!
しかし、銃からは弾が出る事が無く代わりに出てきたのは金属を力強く叩く音のみであった。
ミスファイヤ、である。
「....」
ミスファイヤ...ではあるが、此処で慌てる必要は無い。
いや、実際問題は内心で慌てては居るがそれを敵に悟らせる程、戦闘に余裕がない訳では無い。
「なっ?!」
近距離での命のやり取りをして居る中での致命的なアクシデントであるミスファイアを起こしたのにも関わらず、依然として冷静な態度で居る田中に、下着姿の少女は驚きを隠す事が出来ずに居た。
カチャン!
「うぁッ!!」
不自然とも言える田中の不気味さに気を取られて居る間に少女の耳に金属の叩かれる音が再度、聞こえて来た。
またしても不発。
間髪入れずにもう一度田中は引き金を引くが結果は変わらず不発。
「...フ」
敵である田中に戦闘能力無いと確信したのか下着姿の少女が笑う。
少女の手の中にある銃の銃口が田中に向き....
「ウッ!!」
バタン!!
物凄い音と共に少女の体が倒れ込む。
「?!?!!!!!!?..カハッ!!」
今の一瞬に少女は何をされて、何故、自分の体が横たわって居るのかが理解できなかった。
一瞬の間に視界が遮られ、顔面へ2発の重い衝撃...。訓練により体に染み付いている筈の受け身を満足に取ることが出来ないほどの強烈な投げ技....。そして状況を理解する間も無く首に、痛く呼吸すらも、ままならなくなる程の重圧...。
状況を把握出来る頃には、少女の体は投げられた事に対する衝撃と首に掛かる重圧の為、動かす事が出来ず、もがく事しか出来なかった。
「ウッ!!....カハッ!!.....!!」
さらに、首元に乗っている足に体重を掛けて意識を刈り取ろうとする田中に対して、負けんとばかりに抵抗して来る少女。
...苦しめて殺すよりも、一瞬で殺った方がコイツの為か。
酸欠のせいで、苦しそうにして居る少女を直ぐ近くで見続けた田中は余りの惨さを目の辺りにし、背中側に括りつけていたナイフを鞘から抜き大きく振りかぶった。
....来世は強く、そして幸運に生きろよ。
なんの躊躇も無くナイフを振り下ろす。
「ウグ...!アッ!!」
ナイフは少女の眼下まで迫る。
もうダメだ!
少女は固く目を閉じ、直後に起こるであろう事に身も心も恐怖に支配される。
...しかし、幾ら待てど自分自身の想像していた未来が自分自身を襲うことは無かった。
コレが走馬灯という奴なのか、或いは痛みを感じる事無く死んでしまったのか...。
ガンッ!と音がして幻想的な意識が現実に戻る。それと同時に少女は先程まで体にあった拘束が解け、四肢、そして呼吸が自由になった事を酸欠の為、ぼんやりとした感覚であったが理解した。
テロリスト集団は?!
少女は状況を確認する為に勢いよく"起き上がる事が出来た"。
"起き上がる事が出来た"とは、当たり前の動作でこれが出来なければ地面に足を付いては歩く事は愚か先程まで自分の命を刈り取ろうとしていた敵と交戦する事すら叶わない事である。
そんな当たり前の事にすら、少女は感動していた。
敵は銃を撃つことが出来なかったが、銃を持っている自分を...戦力的には圧倒的であった自分を圧倒的な何かで上回り、一瞬で無力化した。
ただでさえ、敵は今さっきまで自分の命を本気で奪おうとしていたのに....。
あの様な状況で何も起こらずに何事も無かった様に"起き上がる事出来た"
このような理由を含め、彼女がこの様な当たり前の事で感動する事は可笑しい事では無い。
「リゼさん!大丈夫ですか!?」
「チノ?」
少女...もとい、リゼが
「」
「ティ、ティッピー?」
少女が周りを見ると、そこには店主の娘で実質的なカフェタイムのオーナーであるチノの頭の上に常に乗っている兎が青ざめた様子で敵に説教?をしていた。
兎が『青ざめて説教』とは、また不思議な行動ではあるが、それ以外にティッピーに適用する言葉は存在しなかった。
続く