我、死二場所ヲ探s...あ、兎ちゃん   作:IS提督

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 穴の中にいた他の仲間は、皆身体を晒した瞬間に文字通りの肉片になったり、良くて体に数か所穴をあけて倒れ込んでいた。
「なぁ、俺たちは帰れるんだよな! なぁ! なぁ!」
 敵の砲弾の嵐の中、砲弾と共に突撃してくる敵に対して、スコップでおよそ1.5m掘っただけの穴の中から、砲撃と砲撃のほんのわずかな時間の中で、穴から身を乗り出し、ボルトアクションライフルを発砲している戦友に、私は怒りをぶつけた。
「帰れる! と言いたい所だが、敵が多……」
 言い終わる前に、身を乗り出していた戦友の身体が少し後方に傾き足元から崩れる。
「おい! おい! 大丈夫か!? 死……死んだ? あぁ! あぁ!」
 私は半ば発狂した様な声を上げ、パニックに陥った。
 死。私を包み込んでいる環境は痛々しい程の死で在った。
「案ずるな。敵の弾丸がヘルメットの横を掠めていっただけだ。っと言っても、結構頭に響くな」
 そう言うと戦友は左手でグリップとトリガーを握り、右手で銃身を支えた。いわゆる戦友は一般の構え方とは逆の構え。左利きでの構えで、照準を合わせ発砲した。
 左利き。これが戦友の数ある特徴の内の一つ目の特徴である。
「死にたくないなら砲撃の間に敵に向かって攻撃しろ! 敵さんは、味方からの攻撃が激しいのにも拘わらず、突っ走って来やがる!」
「どうして! どうしてそんな事……!」
 私は先ほどの戦友の姿をみて、恐ろしくなり(最初から恐ろしかったが)頭を抱えながら、涙を流し戦友に聞いた。
「昔の中国で、同じような作戦を行った記録が残ってる! 死刑囚を敵大軍の前で自殺させたってやつだ! 実際にそれを見せられた敵は戦意を喪失したらしい!」
「だからって! だからってこんなのは! こんなのは!」
 私は兎に角、現実から逃げたかった。この穴の外にも同じような穴がいくつもあるが、外の爆発音等の為、他の穴との連絡を取る事が出来なかった。
 この穴にも、私と戦友のみ。もし仮に砲弾等で死ななくても、攻撃が止んだ後、敵に捕まって、死ぬよりも恐ろしい拷問が待っていると考えると、今のこの戦いを生き残る必要性が感じられなかった。
「……ッ!」
 いっそ死ぬなら。と、せめて尊厳のある死に方をしたい! そう思って、まだ無事であったサイドアームであるM1911コルト・ガバメントの銃口を顎の下にくっつけて……。
「父さん! いま行きます! 母さん! しーちゃん! ごめんなさい!」
 父親、母親、妹の顔を思い浮かべ引き金を引こうとした瞬間、自分の頭に重い衝撃が加わり銃口が自身の顎から外れた瞬間に弾が発射された。
「うあぁぁぁぁー!?」
 何が起こったか分からず、パニックになり情けない声が出たが、直ぐに衝撃を感じた方向を見ると銃床で私の頭を突いた姿勢の戦友がいた。
「そんな事してる暇が在ったら、仲間の弾薬を集めてくれ! 弾が付きかけてる! 出来ればこの銃のタイプは内臓式マガジンだから、クリップに弾を装填した状態にして渡して欲しい!」
 そう言いながら戦友は、再度敵に向かって発砲して、左手で起用に右側についているボルトを操作していた。
 私は急いで弾薬を漁り(この時の仲間の身体を動かした時の、無力で鈍く重い仲間の身体を動かした経験は一生忘れる事は出来ないでしょう)言われるがままクリップに装填して戦友に渡した。
 渡す度に戦友は礼の言葉を述べ、その弾薬をマガジンと薬室に上から差し込み、ボルトを操作し、クリップが空を舞って行った。

架空書籍『英雄の友達』より引用


第8話

暗くムードの良い店内で、田中は先ほど閣下から強引に詰め込まれた葉巻を旨そうに吹かしながら、階級章を軍服に取り付けていた。

「……私に貸せ!」

 そんな様子を横目に、リゼはマスターが差し出したノンアルコールのカクテルを片手にしていたのだが、どうにも田中の縫い方にイラつく事が在ったのか、少しばかり強引に田中の元から軍服を奪い取った。

「あっ! チョット……。 何を?!」

 突然の出来事にビックリする田中をリゼは気にも留めない様子で軍服に縫い付けかけている針を外し、そこまで縫い付けていた糸を切っていく。その様子を見ながら田中は、あぁ……。という声を漏らすが、その様子すらリゼにとっては不快感を感じたらしく、鼻をフンと鳴らした。

「お前の縫い方を見ていてイラついただけだ。 そもそも軍人がまともに階級章すらも縫えないとは何事だ?!」

「いや……、片手でそこまで縫えたのなら、上出来じゃ?」

 田中の言葉に一瞬ハッとした様な顔をした後に、再び階級章に向かい直す。

「だけど、いつ田中君は右腕を負傷したんだい? 戦場では、特に目立った怪我はしていなかったと聞いているけれど」

「……」

 田中とリゼの会話にマスターが入り込むが、彼はグイっとグラスを口に付けると、そこから先は苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべ何とも言えなくなった。

「何か言えない事情でもあるみたいだね……。」

「言えない訳ではありませんが、言いたくないだけです」

「それを称して、言えない事情って事だね」

 田中とマスターのやり取りを横目で気にしながらも、リゼは階級章を丁寧に縫い付けていく。一定のリズムで、一切の無駄のない手つきは、彼女の几帳面な性格を表しているかの如くであった。

 しばらくの間、沈黙がラビットハウスを支配したが、それはラビットハウスの居住区からきたチノによって破られた。

「お取込み中に申し訳ありません。……た、田中さん少しよろしいですか?」

 少しばかり深刻な顔つきをしたチノがオドオドとしながら田中に話しかける。

「……? ……!? 逢引きか……駆け落ち……、……貴女となら何処へでも逃げられますよ」

 チノに呼ばれた田中は、一瞬不思議そうな顔をしたが、直ぐにハッとすると同時に、コチラもまた、深刻な声色で返事をする。すると同時に、パシンッ! と、乾いた音が、田中の二の腕を音源としてラビットハウスに広がった。

「あ、アンタ……、せめて顔面の方がましだろッ! 普通に考えて患部の近くを叩くか!?」

「馬鹿! そういうのは、まだチノには早すぎるだろ! だいたい、中学生には早すぎる! もう酒が回ってるのか?!」

「じょ、冗談じゃないっすか~。いや、割と本気で捉えて欲しい気持ちは無い事は無いですが……」

 左手で右肩付近をさすりながら、田中はチノの後について行き、部屋から出ていく。

「……」

 リゼは田中の後ろ姿をじっと見つめ、田中の背中がドアが閉まった事で見えなくなった所で、少し大きめのため息をついた。

「お疲れのようだね、リゼくん。 アルコールは入っていないよ」

 そういいながら、マスターはリゼに甘いノンアルコールカクテルをそっと出す。

「これは……」

 目の前に出されたドリンクの理由を少し疑問に思ったリゼを他所に、マスターは彼女に背中を向けグラスに酒を入れると、それを少し下品にグイッ! とグラスを傾け酒を飲む。

「君の考えている事に関して、少しだけなら答えられるかもしれない」

 グラスを従業員用のカウンターに置くと同時に、マスターがポツリと呟いた。

「え?」

「最初の時の忠義君と、今の忠義君との性格の違いに追いつかない。ってところかな」

「……それもあります」

 何かを含んだ言い方をするリゼの方を向き直したマスターは、もう一度、従業員用のカウンターの上に置いた飲みかけの酒を、今度はチビリと飲んだ後に口を開く。

「彼は……。いや彼らは、この国の人々に対して愛ゆえの憎しみを持って居ると解釈をすれば良い……いや、彼らは誰も憎んでない。だれも憎まず、憎まれている」

「どう言う事ですか?」

「リゼ君は、彼らがこの町に降り立った時の事を知っているだろう?」

 目を瞑り、ゆっくりと息を吐き出すようにマスターは続ける。

「彼らは初め、誇らしい気分で輸送機から降りてきた事だろう」

「……」

 一体何を言い出すのだろうか? とリゼはマスターの話しに疑問を持ちながらも、目の前にあるノンアルコールカクテルを傾けながら次の言葉を静かに待った。

「当時の……、いや現在もそうではあるが、この国に居る限りは国外にいる敵に対して攻撃する事が出来ない。だから彼ら彼女らは自国を捨て、多少の違いはあれど、同じような境遇にある人達が寄り添って作り上げた国に自身を捧げ、激戦を潜り抜けてきた」

 そこまで話すと再度、酒の入っているグラスを傾けチビリと液体を飲み込む。

「それがどうした? とでも言いたそうな顔をしているね……。大丈夫だ。話の本命は此処からだよ。……実際問題として、忠義君達、多国籍軍の活躍が今回の終戦……、そうだね、マスコミのいう所の終戦については最も貢献している。しかしながら、多国籍軍の損害は今回の戦争に参加した国の中でも一番多くの戦死者と戦争後遺症者を出している。そんな彼らが自分の生まれた地に戻って来た時に抱く気持ちは想像できるかい?」

「それは……、えぇっと……歓迎される……ですか?」

 急に話を振られたリゼは一瞬だけ焦り、戸惑ったが、直ぐに口を開きマスターを関心させた。

「そうだね。ふつうはどんな事が在ったにせよ、戦争を終わらせて自国を戦争の火から守った英雄だからね。事実、様々な国の軍隊からは多国籍軍は英雄的な扱いを受けていたそうだ。その証拠に、多国籍軍の多くの兵士は様々な国から何らかの勲章を授与されたみたいだしね。」

「だけれども……、だけれども国に帰ってきた時の国民の気持ちは違った……」

 消え入りそうな声ではあったが、どこか力強い事を出しながらリゼが俯きながら言葉を絞り出した。

 彼女の頭を占めていたのは、今日の昼間、忠義に対して差別発言をした女性。多国籍軍がこの国の土を踏んだ時には、目を瞑りたくなる様な罵詈雑言が多国籍軍に投げかけられた。

 彼女の考えている事を察したのか、マスターは一回だけ頷いて話を続けた。

「多国籍軍の兵士がそれぞれの配属先に移動できる様になるまでに3か月以上も掛った。その間に、沢山の兵士が兵舎に押し掛けるデモ隊からのヘイトスピーチによって、心を病み、自殺してしまったとの話を聞く」

「都市伝説の範囲で……。その類のうわさ話を聞いた事が在ります。勿論、デモ活動が頻繁に行われていて、その度に兵舎が移動していた事も知って居ました。初めは、敵襲に対する警戒かと思って居ましたが、3回程の移動が在ってから、そんな噂を聞くようになったので……」

「噂は、やはり噂だね。」

「? しかし、実際はそうだったという事で……」

「我々は、いつからか噂の持つ力を忘れていたという事さ。これは一つの真理だよ」

「すみません。……仰っている事の意味が分からないのですが……」

 そこまでリゼが話した所で生活部と仕事場を繋ぐドアが開き、話が途切れる。

「……どうしたんですか? 空気思いですけど?」

「あぁ、気にしなくても大丈夫だ……。それとリゼ君。本性を晒せる場所というモノは、ある意味、安心できる場所という事だよ。それも、随分忘れられている」

「……サン=テグジュペリの引用ですか? しかし、その話の内容は……」

「忠義君。その先は彼女に考えさせてあげて欲しい」

忠義の言葉に不思議そうな顔をするリゼに彼は説明をする。

「星の王子さまと言う本を知りません? 聖書の次に読まれていると言われている本なのですが……っと、それどころじゃありません。リゼさん送っていきます。」

「え?」

「先ほど閣下から『娘を連れて帰ってくれ』との電話がありました。マスター申し訳ないのですが、会計は帰ってきてからでよろしいでしょうか?」

「最初にも言ったが、2人の分は私からのおごりだよ。気にしなくても大丈夫だ。それと忠義君、そんな装備じゃ丸腰も同然じゃないか。何か他の装備も在るなら取ってきた方が良いよ。なんせリゼ君は要人の娘なのだからね」

「しかし、まだナイフ一つ何も持って来ていないのです」

 肩をすくめて、やれやれと言った仕草をする忠義にマスターがカギを投げる。

「君の部屋は階段を上って右側の右奥だよ。衣服も装備も大方そろっている筈だ」

「承知致しました。有り難うございます」

そう言うとすぐに忠義は再度ドアを潜り、階段を上がっていった。

「マスター……。さっきの言葉の意味は……」

「それは、リゼ君が一人で考えてごらん。答えを知っているで在ろう忠義君にも聞かずに。そうしたら、また一つ大人になれるよ」

ドアが閉まり、忠義が確実に階段を上がっていった事を確認した後に、リゼは先ほどのマスターの言葉の意味を確かめる為に言葉を発したが、期待していた回答が返って事かった事に少し落胆していた。

それから少しの時間が経ち、忠義の足音が再び下に降りてきた。

「な、ななな何を考えて居るんですか!!」

「田中君ダメー!」

「痛った! これは痛った! ってか、あんた最初はそんな暴力的な性格じゃなかっただろ! さては猫を被ってたな!」

すぐ隣からチノココア、忠義の順で声が聞こえた事で、クスッとマスターが笑い、それにつられてリゼも笑う。

「あぁ、チノにとっても心地の良い場所になったのか……。それにココア君も」

 マスター……タカヒロの顔つきが・声が父親になったのをリゼは見逃さなかった。

 

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