最近、恋に落ちました。   作:母は歯はいい

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プロローグは突然に
プロローグ1


 マイクで促され男が席から立ち上がった。こんな時でもおちゃらけた調子でヘコヘコ頭を下げながら登壇した。明るいペールブルーのネクタイを直し、男は静かにお辞儀を数度。打って変わって真面目な表情を浮かべる男は今日の主人公である二人に視線を向けて語り出した。

 

 

 

 黄昏時の忙しなく人が通る通学路でのことだ。少なくとも三つの学校の生徒がこの通学路を往来していた。その中でも一つ、バカ話をするとある男子グループがあった。人数は四人。全員が共通して学校指定のロングコートを着て、コートの裾から見えるズボンも学生服のそれ。はしゃぎながら駆け抜けていく様は青春群像劇のような初々しさがあった。

 

 そんな出会いは高一の春。中学はみんなバラバラで様々な事件を通じて仲良くなった四人組。

 いつも駄弁って、走って、怒られて。遊んで、遊んで、遊んで、……時々勉強。しばしば町のイベントにボランティアなんかに行ったりもして。なんとまぁ、素晴らしく青春してるグループだったんだ。

 

 

 そして、このお話はそのグループの中の一人。吉野千里という初心な男子高校生が送る初恋の物語。

 

 

 

『最近、恋に落ちました。』

 

 

 

 初めて彼女を見かけたのは偶然だった。

 

 その日は日がな一日中寒い日だった。それはもう校舎内でもコートを着てる奴を見かけるほどのものだったように思う。(そいつはもちろん怒られていた)

 授業中その寒さに耐え、遊びに行く為に金曜日の今日に課題を終わらせてしまおうと俺たち四人で一致団結。学校内で唯一暖房の効いている図書館に転がり込んだ。

 駄弁り、教え合い、キチンと課題と向き合った。まあ、そんなこんなでまもなく課題も終わり、その日もいつも通り四人でそこそこはしゃぎながら帰っていた。

 

 右に公園、左に川が流れる一際寒い帰り道。一番後ろを歩きながらはしゃぎ回る三人をぼーっと眺めた。そんな時、ふと視線をいつものメンツから逸らした。今にしてみればその行為に特別な意味もなく、多分夕日で目が眩しかったんだと思う。

 

 けれど、逸らした先には太陽のような少女がいた。一人で楽しそうにはしゃぐ彼女を、気づけば目で追っていた。小さな小さな風が吹き、彼女を中心に枯葉が舞う。常ならば哀愁を覚えるだろうその光景は、彼女の表情を視界に入れてしまえば、寒空に降り注ぐ陽光のような眩しさに感じてしまう。

 今思えば、見惚れていたんだろう。

 

「センー! 行くぞー!」

 

 ミツの呼び声が聞こえたから。

 俺は振り返り「今行く」とだけ少しだけ声を大きくして叫んだ。そして、呼び声に向けて歩き出す。しかし、なぜか彼女をもう一度見たくなった。こっちを向いてたらいいなという柄にもない感情に一瞬だけ身を任せてみる。

 

 鮮やかに煌めいた瞳が見えた。

 髪の色と同じ。周りを照らし続ける太陽のような金色の瞳。

 

 そして、彼女は俺に微笑んだ。勘違いじゃないのかって? 勘違いじゃないはずだ。だって、周囲を見渡しても誰もいなかった。勘違いじゃないのかって自分でも思って俺は自分を指差した。すると、彼女は太陽のような微笑みで頷いてくれたから。

 

 なんだか恥ずかしくなって手を振った。彼女もそれに返してくれて……俺は走った。あんまり三人を待たせるのも悪かったし、何よりも———

 

「……可愛かった、な」

 

 これ以上見続けても胸の高鳴りは多分収まることを知らないだろうから。

 

 

 

 

 

 翌日、葉叢(はむら)工業高校。

 

「初恋した」

 

 土曜日の授業で生徒全員が睡魔とバトルをし続ける中、その三人だけはセンの言葉で目をパチンと覚ました。まず、根本的にあまり喋らない彼が喋った。それだけでも友人たちは動揺と好奇心が湯水のように湧き出すのだ。それが唐突かつ縁の無かった色恋の話である。三人の反応は顕著だった。

 

 シュバッ!

 

 同時にセンの方へ顔を向ける三人ことミツ、ゲン、コー。彼らにしてみれば、その喋らないセンから詳細を聞き出すには質問しなくてはならないことを半年を超える付き合いから理解している。

 

「どんな()!?」

「金髪金眼の子だった」

「どこ高? ぱっと見の印象どんな感じ?」

「羽丘でも花咲川でもなかった。 中学生ではないか?

  あと明るそうな……そう、太陽みたいな子だった」

「どこで会ったんだ? オレたちが知る限りセンは結構出不精だろ?」

「会ってはない。見かけただけだ」

 

 三人の顔が疑問を隠す様子もなく同時に左に傾いた。

 そして、疑問をそのままにするようにセンは話さなかった。しかし、そんなことを続けていても三人の好奇心は収まるはずもない。圧さえ感じるその視線にセンは動じないがどうにも居心地が悪そうに頬をポリポリと掻いた。

 

「一目惚れしたんだ」

 

 

 

「「「……ん? え、まじで?」

 

「ああ、マジだ。真剣と書いてマジと読む奴だ」

 

「っひょ〜〜〜!! 青春だぁ!!」

「「はい!!」」

 

「アオハルだぁ!!」

「「わぁー!!」」

 

「僕らの好物がぁ、やってきたぞぉ!!」

「「イェーイ!!!」」

 

 瞬時にテンションのおかしくなった3人。この騒ぎようにクラス中の視線が集まるが、彼らは1ミリも気にしていない。むしろ3人の中で以心伝心され、井戸端会議を始めるようでセンを背中にほとんど放置。

 五分ほどそのままになっていると三人はセンの方に振り向いた。その三人の表情は少々悪戯っ子じみたものだったことをここに記しておく。

 

 「「「セン! 会いに行くぞ、その子に!!」」」

 

 

 

 

「セーン! 一目惚れの子は、ここで見かけたの⁉︎」

 

 そんな問いを掲げたのはコーだった。

 

 センの何か探していたみたいだった。という言葉をアテにして四人で紅葉の枯葉が落ちる公園にまでやって来たが、当然のようにいない。

 しかし、それもそのはず、昨日は放課後遅くまで残っての帰宅だったのだ。また、時間が異なる上に今日は土曜日。条件が異なり過ぎている。

 

「いねぇなぁ。 中学ローラー?」

 

「今日は土曜日だよ。 中学生は遊びに行ったり買い物行ったり色々用事があるはずさ」

 

「じゃあ街に行ってみる?」

 

 目的が消失したことによって指針はもはや意味を成さない。だが本人よりも張り切っている三人の意欲はこの程度で収まらない。センを差し置いてプランを立てる。それをセンは見るがままだ。

 どうして動かないのか? 自分のことなのに。そう考えるものもあるだろうがセンは基本的に楽観主義。波に乗る方が彼のポリシーに合っているのだ。それに行きたくないところに行くほど彼らが馬鹿ではないことをセンは知っている。

 

「モールに行こう!」

 

 ほら決まった。センは心の中でそう思った。

 

 

 ***

 

 

「行けぇぇ!」

「ちょまっ! おまっ! ぶつけてくんなって!」

「あははは。おっさきー!」

「…………追いつかれた」

「「「セン。お前は周回遅れだ」」」

 

 学生といえば? そう問われれば少なからずゲーセンと唱える奴もいるだろう。その通り。彼らはゲームセンターでレーシングゲームに興じていた。

 騒ぎに騒ぎまくる俺たち四人組だが、節度はキチンと守っている。周りが怒らないのも大概の奴はみんな俺たちと知り合いだから。そんな身内同士だからできる遊び方だが、嫌いじゃない。

 客が増えてくるのも、イタズラが始まるのも恒例だから。

 

「アヒャッヒャッヒャッ! やめろぉー! ダンナ!」

「あははは!お前コースアウトしてんじゃん「そんなことしてていいのか?」へ? んぎゃっ! セン!甲羅ぶつけてんじゃねぇ!」

 

 そんなこんなで、テンションアゲアゲ(死語)なレースは幕を閉じた。その後は応援してくれた奴らのプレイングを見てさらにテンションが上がった。

 

 銃ゲーは拮抗する実力と時間との勝負で興奮した。

 クイズは答える際のオーバーリアクションが見ていて面白かった。

 音ゲーは知ってる曲をみんなで歌いながらやったら冗談交じりに怒られた。

 

 そんなこんなで結構楽しい1日だった。

 

 

 ……まぁ本来の目的は忘れていたんだが。それも綺麗さっぱり。

 

 

 ***

 

 

 雨は唐突に降った。折り畳み傘を持たないタイプの人間である俺は黒々とした厚ぼったい雲を眺めながら家路を急ぐ。なんてことはしなかった。

 俺はこういう雨が嫌いでないのだ。無駄な思考をこ削ぎ落とすように降りしきる雨は。

 

 

 生家であり実家でもあるオンボロあばら家に辿り着けば、いつもの通りガギャガッと突っかかるような音を鳴らす引き戸をこじ開けた。

 

「…………」

 

 もう何年も働き続けるその音はいつも誰かを不快にさせる。その例に漏れず俺もこの音にはウンザリした。

 

 今日も独りになった。

 

 見慣れてしまった我が家だ。バッグを落とすだけで鈍い音は屋敷に響く。

 誰もいない部屋も、埃のかぶった階段も、例に漏れず胸が炙られるように痛くなる。それはもう本当にじわじわ、じわじわと。

 

 そんな痛みに耐えかねて、俺は服を脱いだ。

 目に止まった背中の火傷を見てふと笑みが溢れた。

 

「……風呂」

 

 風呂を目指して歩く。その様はまるで幽鬼のごとき有様だった。

 

 

 ***

 

 

 それからも毎日のように金髪の女の子を探したけど、見つかることはなかった。

 

 ショッピングモールや駅、カフェ、ファーストフード店や果てには楽器屋なんかにも寄ってみたが見つからなかった。

 

 まぁ、探しては脇道に逸れていれば当たり前なのかもしれないが。

 

 

 そして、あれから一ヶ月が経った。

 

 

 町の電飾は色鮮やかに、ショッピングモールは聖夜のためのグッズが売られ、商店街もちょくちょくイベントに合わせて新商品を販売している。

 

 そんな鮮やかな景色の中、彼はバイト帰りに一人で歩いていた。

 口から漏れる白い吐息を見て、口元を隠す。

 眼に映る景色は周囲の輝きに反比例してブロックの黒や灰に埋め尽くされた。その有様を見て俺は独りごちる。

 否、口に出すこともできなかった。

 

(結局会えなかった)

 

 その事実に溜息を吐きながらも景色の変わらない黒と灰のタイルを見続ける。年内に会えなければと思い、方々探し回った彼の身体は限界に近かった。疲れから人混みに流されること十数分。

 灯の量が変わって少しだけ鬱陶しく思って顔を上げた。

 

 俺の瞳を。その両の瞳全てを、巨大なクリスマスツリーは埋め尽くした。

 つい数秒前の不満とか嫌悪とか、その他諸々の負の感情が総て消え去っていく気がした。

 いや、この豪奢なクリスマスツリーが追い出したのだ。

 

 

 けれど、その光景だけが俺の心を反転させたわけではない。

 

 そのツリーを見る一人の少女だ。

 あの金髪の子だった。

 

 ポーっと熱に浮かされたようにツリーを仰ぎ見る姿は、まるで小さな小さな子どものようだった。

 でもその姿は希望に満ち溢れているように見えた。

 けれど、冷静な思考が今更になって小さな疑問を紡ぎ出す。彼女は少なくとも中学生。人生にはどうにもならないことやどうしてもできないことがあると、少なからず知っているはずなのに。

 

 いつか見た想い焦がれるその瞳。そこに映る景色には恐らく一点の曇りもないに違いない。

 

 

(俺にもできるだろうか)

 

 過去の俺ならとうに総てを諦めていた。

 

 

(俺が近づいてもいいのだろうか)

 

 現在(いま)の俺でも躊躇っているのだ。

 

 

(俺は諦めないだろうか)

 

 未来(さき)の俺は太陽に追いつき、追い越せるだろうか。

 

 

 過去も未来も、変えられない。ならば、と。

 

「変わるべき……。いや、変えるべきは現在(いま)だ」

 

 

 

 一歩、前に踏み出す。考えぬ内にもう一歩。もう一歩、もう一歩彼女の元へ。次第に足の振りも、歩幅も、大きく広がっていく。

 たった数歩。そう、たった数歩だったのだ、彼女との距離は。

 

 

 ただ、進むか(とど)まるかの違いでしかなかったのだ。

 

 

 そんなことが、今更わかった。

 でも、遅くなかった。それにわかってしまえば、俺は無敵だ。

 

 ツリーの麓。彼女の元へ近寄った。恋い焦がれる少女は目と鼻の先だ。

 

 

 

 

「こ、こんばんは! き、今日はいい天気ですね!」

 

 

 ……盛大にミスった気がする。




タグにも書いてある通り、この金髪の女の子はこころんです。
ただ、主人公の間の悪さやコミュ力の無さが天元突破しかけているため名前すら出てきませんでした。

プロローグを三本くらい書いて反応がよければ、のんびり続けていこうと思います。
よろしくお願いします。

バンドストーリーが終わった後は……

  • イベントストーリーを見たい
  • オリジナルストーリーを見たい
  • 主人公たちの過去編を見たい
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