最近、恋に落ちました。   作:母は歯はいい

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前回のお話を二部構成にしていたのですが、そこまで意味もなかったため通常通りにカウントしていきます。

それと、この作品にもついに色がつきました。
推しを書きたいという思いから始まったこの作品に評価がつけられるのは凄く嬉しいです。
これからも楽しんで頂けるように書いていきますのでよろしくお願いします。


第七話

「こんばんは。今日の天気はいいですね」

 

 そんなスタートで始まったトークは残念ながら不発に終わってしまったらしい。あかりちゃんが質問して俺が答えて。はい終了、って感じだ。

 無愛想でも感情はあるのだよ、あかりちゃん……。

 

「ここまでとは……。泣きそうになってくる」

 

「私より大きいのに泣くの? ダサ」

 

 大人が泣かないとでも思っているのだろうか? いい年した高校生が毎年ドラ○もんで泣くと言うのに。

 

「……辛辣だな。君は知らないかもしれないが大人でも泣くんだぞ。悲しくても泣くし、感動しても泣くし、嬉しくても泣く。人間ってのはそういうもんだ。

 それに、泣くことはそう悪いことじゃない、と俺は思うのだが」

 

「……」

 

 ざ、雑談が雑談にならねぇ……。……沈黙が辛い。パラ、パラ、とあかりちゃんがページをめくる音とカチッカチッという最速の時計の針がカウントするシンプルな音だけが病室に響く。

 口ベタな俺があかりちゃんに興味を持ってもらう。そんなことは正直不可能だ。

 なぜか? 俺が不器用だからだ、その生き様が。地道に一歩ずつ泥臭く這いずり回って、結果を出していくことが楽しいって思うタイプなんだ。

 そんな俺が薄っぺらく努力や根性を名言なんかを引用して語ったとしてもこの子には通じない。

 だって、俺が努力をしてないから。好きだからやってるだけに過ぎない。

 

 だったらとことん真正面から君の想いを()ち続けてやる。

 

「……お伽噺をしにきた」

 

「……」

 

「なぜそんなことをするか? それは君と俺は似ているから、興味が湧いたからでもある」

 

 返答はない。が、確実に意識はしている。本を読む手が止まっているんだから。仕方がなく、俺は口を開く。

 

 

 

 

 

 ……昔々、鶴太郎という男がいたそうだ。

 

 鶴太郎は非常に人懐っこくいつも笑顔だった。そんな彼はいつでも人に囲まれ人に愛されて育ったのだ。

 

 そんな少年はある時、自分の名前に興味を持った。

『僕はなんで鶴太郎なのか?』と。彼は父親にそっくりそのまま聞いてみた。

 

 父親曰く『お前はコウノトリではなく鶴が連れてきたのだ。だから、お前の名は鶴太郎だ』ということらしい。彼はなんともまあシンプルな理由だなぁと思ったが、微笑みながら覚えておくことにした。

 

 彼は着々と成長していき、元気な男の子になった。いつしか彼の夢は世界を救うヒーローになることだった。子供らしくも力強い夢を抱いた男の子。周囲からの印象はそんな普通の男の子だった。

 

 夢がヒーローってガキっぽい? 男の子なんだ。仕方がないだろ? 

 

 だが、彼の夢はどうしても叶わぬ未来となる。

 

 

 

 

「……ほら、夢なんて叶わないんじゃん。やっぱり夢に向かって努力するとか、そういう……なんて言うのかな?」

 

「綺麗事か?」

 

「そう、それ。綺麗事なんて一つも叶わないんだよ。あの金色の髪の人も同じだよ。世界中のみんなを笑顔になんて不可能だよ」

 

「それはどうだろう? この話を聞いているとそんなことを言えなくなると思うよ」

 

「……ふーん」

 

 

 

 

 なんで叶わなくなったかって? 鶴太郎はいつしかいじめられるようになったからだよ。理由は簡単『鶴が連れてきた子だから』だ。

 

 彼なりの正義をいつも持っていた鶴太郎。暴力を振るわず、諦めることをせず、妥協もせず。彼はずっと言葉で訴えかけた。

 けど、力が足りなかった。相手のことを考えてなかった。だから、負けてしまった。

 

 だが、鶴太郎は諦めなかった。なら、もっと力をつけて対等になって話し合おう、と考えたわけだ。どこまで諦めが悪いんだよって話だ。馬鹿すぎてこの上ない。

 

 けれど、彼は一人にはならなかった。

 彼を知ろうとする少しの友人が彼を助けてくれた。友人たちはそれぞれ自分のできることをどう活かせるか話し合ったんだ。

 

 

 

 

 俺が話すのをやめるとあかりちゃんは疑問に思ったのか俺に問いかけた。

 

「……それでどうなったの?」

 

「お話の結末は俺も知らない。何よりしばらく会っていない友達に聞いた話だからな。今度会った時に聞いておく」

 

「なんだ。つまんない」

 

「そうでもない。俺がこの話を聞いて思ったのは小さな小さな石っころがいつしか大きな壁に変わっていくってこと。それと、諦めなければ一緒に馬鹿やる物好きが絶対に現れるってこと」

 

「そんなこと……」

 

「信じられないって? 君が見たこころをもう一度見直してみればいい。今のこころは仲間に恵まれている。それにこころは俺が知る限り絶対に諦めない。いつも突拍子も無いがそういうとこは信頼できる」

 

「……なんで? そんなに信頼できるの?」

 

 

 

「惚れたからだ」

 

 

 

()()()()()()()()の俺がこころを見た瞬間に惚れたからな」

 

「………………」

 

 あかりちゃんは唖然としている。ポカーンという擬音がきっちりくっきり的を射ているそんな状態だ。口を馬鹿みたいに開けっぴろげ俺を見つめる。まるで知り合いがエロ本の袋とじを開けようとするところを見たかのよう、な…………。

 

 

 

 ……ん? 

 今すごく臭いセリフ言わなかった? しかも笑ってないのが致命的な奴。自覚した瞬間、恥ずかしさが湧き水みたいにコポコポと溢れてくる。じっくりじんわりと確実に。

 

 ……つまり、びみょーに気まずい。

 

 途端に現実に戻った俺は焦りに焦って口を開いた。

 

「あかりちゃん、わ、忘れてくれ! 

 本心は本心だがこういうのはまだ君が気にするのは早いと思うので迅速に忘れろください!」

 

 頭を下げ、全身全霊で懇願する高校生とそれに相対する小学生。……美咲辺りが見たら『……先輩、何してるんですか?』と言われそうなくらいの滑稽さ。

 だが、今の切羽詰まった感情をこの子が理解してくれることに比べればそんなことは非常にどうでもいいのだ。それよりも何よりもまずいのはこの子が思いの外策士で、俺を脅してしまえば正直なところ詰みだ。この子は俺を脅すに足る必要な情報を全て持っているのだから。

 

 ①俺がこころを好いていること

 ②俺がハロハピの演出家であること

 ③こころがハロハピのメンバーとしてもう一度ここに来ること

 

 ほら、文字通りチェックメイト。

 

 ……こんな時でも表情は変わらんがな!! もういい加減にしてくれ、とそう思わなくもない。

 顔を上げてあかりちゃんをみる。脅す気はないようで口に手を当てクスクス笑っている。どうやら俺はあかりちゃんを元気付けることに成功したようで、彼女は暫くぶりの笑顔であった。

 

「……お兄ちゃん、なんだかカッコいいね。

 すっごくキラキラ光って見える。目が痛くなりそうなくらい」

 

 呆れたような表情の中にアホな奴を見る憐憫さを隠さない瞳。

 けれど、口元には笑みが浮かんでいてそこまで悪い気分にはならなかった。

 致命的な無愛想に対してそんなことを言ってくれるなんて……。大人な感じがして涙が出るわ。

 

「ありがとう」

 

「……もう一回きちんと見てみるよ」

 

「その方がいい。また見舞いにくる」

 

「うん、じゃあね」

 

 俺は手を振り返してゆっくりと音を立てないように部屋を出る。こんなところで誰かに見つかったら笑い話にもならんからな……。

 

 

 

 

 

 

 誰もいないことを確認。グループチャットに電話を鳴らす。取り敢えず要件を簡潔に。

 

『撤収しよう。準備してくれ』

 

『了解したよ。僕は後から出るから先に出てて』

『俺の方も待機してるからな、そろそろねみぃ』

『待ってるからね、セン!』

 

 な、あかりちゃん。言っただろ? 俺はいい仲間を持てて幸せだよ。

 

 

 

 

 近くの公園に場所を移した。俺はベンチに、ゲンは鉄棒、コーは滑り台の近くに陣取る。遅れて出てくるミツを待つ間、ずっと雑談をしていた。最近のことから始まり、様々なことだ。

 そうして時間を潰すこと十数分。放射冷却によって気温が下がり少し肌寒くなりかけた頃、ミツはいつもの優しい笑みを浮かべて現れた。

 俺は取り敢えず、どこかに場所を移したくて口を開いた。

 

「……どこに行く? 星でも見に行くか?」

 

「んー、取り敢えずファミレスに行こうよ。流石にお腹が減った」

 

「「「さんせ〜い!!!」」」

 

 

 

 いつもの馬鹿騒ぎと全力疾走を伴って、俺たちは夜の街を走り回る。

 ネオンが俺たちを照らし、怖い人に絡まれかけたり、淫美な女たちが店に俺らを誘うのを断りながら走って走って走り回る。

 

 時々警官にも追いかけられたけどそれもまた悪くはない。

 

 

 

 

 

 ファミレスからの帰り道。ゲンとコーとは早々に別れ、俺とミツの二人で川沿いの道を歩いて帰る。お互いに今日は疲れたのだろう。口数はどうしようもないほどに減ってしまった。だが、そこまでキツい沈黙ではない。俺たちは二人とも自分から話しかける方ではないのだ。話し始めは大概ゲンとコーの二人だから。

 そう。いつもなら一言二言の会話で終わるはずなのだが今日は違った。

 

「それで今日はどんな話をしてあげたんだい?」

 

「……鶴太郎だ」

 

「……へぇ」

 

 ミツはそれを聞いて空を仰いだ。理由は分かっている。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「鶴太郎ねぇ、それにしてもあそこまでよくオマージュできたよね。僕たちからしてみれば、出来過ぎなほどに」

 

「あぁ、そうだな」

 

 なんとなく俺も空を仰いで見る。街灯も、家の明かりもない帰り道には満天とはいえない、けれども美しい景色が広がっていた。

 

「いい景色だよね」

 

「……そうだな」

 

 いつの日でも心の燻りは俺の中で残りつづける。

 

 




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