最近、恋に落ちました。   作:母は歯はいい

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三話

 今日はスタジオ初練習の日、なんだが。

 

 非常に残念なことに俺は遅れることになっている。なぜなら今日は、幼稚園のボランティアに出ているためだ。

 もちろん、こういう時は大概一緒にいる四人組で参加だ。見事に性格や顔のタイプが分かれている俺たちだから子供たちも好みのタイプのもとに集まりやすいから、今まで経験したボランティアよりは楽な方に位置する。

 

 例えば、少女漫画のヒーローにいそうな爽やか系イケメンであるミツは部屋の中で女の子と一緒にお絵描きや読み聞かせをずっとしていていつみても優しい微笑みを浮かべている。時々女の子達がミツを取り合って喧嘩になるのもイケメン特有の爽やかオーラでなんとかしている。

 ゴリゴリに鍛えまくったであろう筋肉がジャージの上からでもわかるゴッツい身体を持つゲンは悪ガキグループと相撲勝負をしている。ずっと殴られているのにハッハッハ!と豪快に笑う様は相変わらずすごい貫禄だ。柔道部期待のエースなだけある。

 少し容姿が子どもっぽいコーは男の子も女の子も問わず鬼ごっこをしている。性格自体が子供っぽいこともあり、早々に打ち解けていた。ケガをさせないように視野を広く取りながら遊んでいるあたり、彼の気配りの上手さが滲み出ている。

 

 翻って俺はというと、意外と人気なのだ。

 

 オリジナルで作った発明品で遊びに使えそうなものを改造・改良して子供達が扱いやすくした結果、一人遊びに飽きたちょっと大人な子供たちが遊び道具を求めて俺のところに寄ってくる。その子たちにおもちゃを渡し、遊び方を実演レクチャーし、眺めるだけという状態。

 ただ、子どもなので結構おもちゃを壊してしまうので、きちんと直せるようにいつもの用具箱は用意してきている。その修理作業も子どもたちには目新しいようで、目をキラキラと輝かせながら作業を見てくる。

 少しむず痒いがこれも一興というものだろう。

 

 

 そんなボランティアも昼過ぎには終わってしまう。時々あるとはいっても多くても年に数回しかここには訪れないのだ。そこに俺は一抹の寂しさを覚えた。

 だから、

 

「また会える時は元気な女の子たちが君たちを笑顔にする。その時まで楽しみにしておくといい」

 

 こうして宣言しよう。そう遠くない未来だろうから。

 案の定、子ども達はすぐにキャッキャッと騒ぎ出した。ミツ達が視線を向けてくる。少し恥ずかしくなった。

 

「それじゃあ僕たちはこれで」

「またな! ハッハッハ!」

「じゃーねー! また今度来るからね!」

「次の機会に、また遊ぼう」

 

 子ども達が笑顔で見送ってくれたのがすごく嬉しかった。

 

 

 

 今日は全員ともこのあと人に会う約束をしているようで、少しだけ歩いたらそれぞれ別れた。そのまま自転車に乗り結構なスピードで風を切る。

 向かう先はライブハウスCiRCLEだ。

 

 15分もせずに辿り着くとそこにはこころのサポーターである黒服さん達と美咲がいた。中で話しているため詳細は分からないが唇の動きからすると、『ライブ』『自分たちで』『ミッシェル』『お願いします』ってところだけ読み取れた。

 そんな姿を見て、涙を流さない奴はいるのだろうか。いやいまい!なんてな。

 

「こんにちは、美咲」

 

「! ……先輩だったんですね。おどかさないでください」

 

 猫みたいに背中が縮みきった美咲はもう先日ほどの警戒心は無いようですごくありがたい。それに先輩呼びが定着したようで気分として悪くはない。

 

「ありがとう、ライブのこと。 こころのためなんだろ?」

 

 ギョッと軽く目を見開きながら驚く美咲に「外から唇を読んだだけだ」と告げる。何か言いたそうな雰囲気だったが特に追求はしない。代わりに美咲が口を開いたのは別の案件のようだった。

 

「いえ、スタジオでこころが言ってたんですよ。 『ライブとか衣装とか演出を全部決めて一人前だ』って。だから、ミッシェルのことだけは黒服の人に押し付けようとしたってだけなんですよ」

 

「それはつまり、『ライブのことは自分がやるから』という宣言に聞こえるんだが、気のせいか?

 ……美咲、どうした? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているぞ」

 

 本当に鳩が以下略のような顔をしているのだ。少々心配になってくる。

 そんな時に美咲は黒服に呼ばれた。何かするようだ。そう思って美咲をボーッと流しみる。物陰に入り見えなくなり、数分後その場所から出てきたのはピンクのクマだった。

 

「ミッシェル!? ということはつまり、、、美咲=ミッシェルなのか!?」

「そうですけど今更気がついたんですか!?」

 

 あぁ、本物のテディベアの国があるかもと思ったのに……。

 

「さよなら、デフォルメベアーの王国……」

(いや、あんたなに言ってるんですか)

 

 ミッシェルにツッコまれた気がしたが気のせいだ、と信じたい。

 

 

 

『ライブのことは私に任せて』とその後改めて宣言されたため、今回のことに手は貸していない。つまり、美咲は一人で1週間頑張ることでライブに出るように取り決めたということになる。すごいを超えて凄まじいの域だと思いました。

 それから、こころの提案でミッシェルはDJとして参加することになりましたとさ。

 ……うん、演出のやり甲斐があるな!

 

 それから1週間が過ぎる。これまでがボランティア、バイト、機械いじりの三つで構成されていた俺の放課後はそこに新たに演出方法の組み立てが新規加入し、忙しい日々を送っている。

 そして今日が自主練の成果を発表する日。ちなみに俺は観客だ。どれだけできているかをビデオカメラに撮り、パソコンで色々処理して頑張る係。『色々頑張るってなんだよ、なにすんの?』と思わないでもないがな。

 ……別に俺も楽器やってみたいと思ってなんかいないんだからな!

 

 

 

 その日の帰り。俺はこころと一緒に帰っていた。黒服の人たちも多分付いてきているのだろう。ある程度の信頼はあっても『もし』『万が一』があると怖いという徹底的な配慮だろう。正直に言ってその方が安心できる。

 

「今日は楽しかったわ! みんなの音が一つになるって今日みたいなことを言うのよね! 感動したわ!」

 

「そうだな。俺も柄にもなく楽器を触ってみようかと思ってしまうくらいにはいい演奏だった」

 

 お互いに笑っているような柔らかい雰囲気が心地よくて、不意に顔を出してくる気恥ずかしさが俺の心をくすぐってくる。

 しかしながら、ここまできても俺の表情は変わらないらしい。確認のために顔を触ってみても、いつもと同じところに口の端がある。まぁ残念だが仕方がない。

 

「千里、あなたも楽器をやってみたいなら一緒にやりましょう!」

 

「それは俺を『ハロー、ハッピーワールド!』に勧誘しているのか? だが、残念ながらそれは無理だ。」

 

「なんでかしら? やってみるってすごく大事なことだと思うわ! きっと笑顔になれるわよ!」

 

 ……そういうことじゃないんだよ、こころ。俺は———

 

「『ハロー、ハッピーワールド!』に()()演出を提供したいんだ。こころ達の演奏にベストマッチしたものを、みんなを笑顔にするために俺は、創り出したいんだ。

 だから、バンドには入っても音楽は今は遠慮しておくよ」

 

「むー…… しょうがないわね……。 でも、分かったわ! それなら、今はダメでもいつか一緒に歌いましょう!」

 

 その答えが聞けただけで俺はすごく幸せだ。こころは待っててくれるのだ。だから、『ハロハピ』に最高の演出を見つけ出そう。楽しくて面白くて笑顔になれるような、そんな演出を。

 

 

 

 

 

「あ、そういえばなんだが。 こころは美咲を知らないのか? 確か同じクラスじゃなかったか?」

 

「そうだったかしら? 憶えてないわ……」

 

 首を傾げて一生懸命思い出そうとしているらしいが結果はあまり芳しくないようだった。

 そこで何となくだが考えてみる。俺のことは出会ってすぐに憶えてくれたし、こころの家にもあげてもらったことはある。俺はそんなこころと接していて仲良くなる敷居は高くないと思っていた。だから、今回の美咲に対しての言葉は少し違和感があった。

 

 歩きながらも考えてみる。五分経ったか十分経ったか、はたまた十秒も経ってなかったかもしれない。思考は思う存分加速させた。

 ………………解は出ない。が、推測はたった。

 

 

「もしかしたらの話なんだが、こころが苦手なタイプだったんじゃないか?」

 

 

「あら、どうしてそう思うの?」

 

 こころは心底不思議そうだ。けれど、俺からしたらあまりにも外れているというような予感はしていないんだが……。

 ……無意識とは怖いものだ。

 

「こころの周りにやると決めてもやらなかった人はいるか?」

 

「そういえば、……いないわ! 千里はエスパーかしら!」

 

 いやいや、ないない。

 

「ハロハピのメンバーって花音さんにはぐみも瀬田さんもそうだが、やると決めたら絶対に達成するタイプが多いと思うんだ。 こころもそうだろう? 」

 

「えぇ! もちろんよ!」

 

 ……迷いのない返答に心底憧れてしまう。 俺は少なからず言質を取られないように必死になって粗探しをするからなぁ。 羨ましい。

 

「だが、美咲は違う。美咲はきちんと優先順位を決めるんだと思う。 それも一番が状況によって変わるタイプのものだ。 そういうことをする人は大概、自分のことよりももっと大事なものがある人なんだ。

 もしかしたら、弟妹がいるかもな」

 

 ……俺の声に続く音はなかった。いつも元気なこころが?と少しだけ気になって左を向く。隣にいたはずのこころはそこにはおらず、二、三歩離れたところに立っていた。少しだけ俯いているのか表情は見えない。

 こころが俯く。その事実にこそ俺は驚きながらもこころが動き出すのを待った。

 

 

 

「千里は……人のことがよく見えてるのね!」

 

 

 

 バッと顔を上げたこころはどこぞのフレンズみたいなことを言い出した。

 脈絡のなさというのはこういうことを言うのかと少し冷静になっている気さえする。

 

「もし……あたしが、千里に会わなかったら美咲をそんな風に思うことも無かったわ」

 

「どうだろうな。こころならある程度一緒に過ごせば自分の力で気づいた気がするが」

 

 これは本心だ。こころの審美眼には短い間ながら度々驚かされてきた。

 ただ、こころはそれに首を横に振る。

 

「いえ、絶対よ! あたしはいつも笑顔だから、笑顔になれない理由は分からないわ! でも、千里はあたしの考えが分かった上で笑顔になれない理由も見つけ出しているもの!

 

 千里のそういうところが……大好き!」

 

 ……ま、満面の笑みでそういうこというのはやめてくれよ。照れる。

 そんな風に喋りたくても喋れなかった。口はパクパクと動作するだけ。音にならない。声にならない。

 目が潤んでくるのを感じた。涙が出てきてしまう。仏頂面に涙だけ垂れるなんてどんなホラーだよ。

 

「千里、これからもよろしくね!」

 

 言った本人は平気そうだ。いつも通りの笑顔。太陽のような煌めき。

 

「あぁ、よ、よろ……しく、頼むよ」

 

 泣いて声が震える。これは間違いない。

 

 

 嬉し泣きだ。

 

 

 こころの笑顔を曇らせないように頑張らなきゃな!




彼はそう簡単に笑顔になりませんが、もちろん感情はあります。

故に泣くことは結構あります。


因みに映画ドラ◯もんで毎年泣くくらい彼は涙腺が弱いです。

バンドストーリーが終わった後は……

  • イベントストーリーを見たい
  • オリジナルストーリーを見たい
  • 主人公たちの過去編を見たい
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