「ずっとスタンバってるんだが大丈夫だろうか……」
今日はハロハピこと『ハロー、ハッピーワールド!』の初ライブ。演出に使う俺の発明品はリハの時に持ち込んだから今日は小さめのバッグだけだ。「切り替わるタイミングでスイッチ押すだけなので」と予め報告しておいたのがよかったのか、あまり嫌な顔をされなかったのは僥倖だろう。
妙なことをしなければ何も問題はないはずだ。『CiRCLE』の人たちなら仮にもプロだ。単純なミスはしない。
問題はこころたちの方だ。何をしでかすか分からない恐怖がある。
……例えばセトリの順番を無視して演奏したりとかしなければ。
「……なぜだ。 背筋に悪寒が」
「セェン! 何ボソボソと喋ってんの! ちゃんと見て楽しまなくちゃ」
「そうだぜ! ライブは殆どがノリだ。 つまり、はっちゃけたもん勝ちってことだな! イェーイ!!」
「こういう場所オレ始めてきたけどさ……! すごくワクワクすんね! もう今から楽しみだよ!
「……それもそうだな。 今日は精一杯楽しませてもらおう」
……この三人は一体どこから聞きつけたのか。ハロハピのライブが行われるライブハウスCiRCLEにハロハピのメンバーと俺が来る前に集まっていたのだ。ただどこで知ったのか少し分からない。
うちの学校はちょうどこの時期、春に行われる学園祭のために非常に忙しくなるのだ。そのために、高校でのビラ配りもやらなかった。それに彼らの行動範囲とハロハピの宣伝範囲は全くと言っていいほど被ってない。
「だから、知らないはずなんだがなぁ」
「おい、セン! 始まるぞ!」
俺より興奮してる……なんてことは100%ありえないが、彼らの興奮はそこらの観客に負けてはいない。
だから、ゲンの言葉を借りるなら
「……今日は俺もはっちゃけるぞ!」
さぁ、全力ではしゃぎたてよう!
ライブが始まった。
登場シーンからド派手なこころ達のパフォーマンスは観客には好評だ。はちゃめちゃというべきかみんなそれぞれ曲の間にパフォーマンスをぶち込んでいる。
こころはスタート直後にバク転するし、瀬田さんはまるで王子様のような佇まいで人目を集めるし、はぐみはミッシェルに飛びつくし、それを味わうミッシェルは姿勢を維持しようと必死になりながら音楽を流す。花音さんはもうずっと目をグルグル回しながら、ふぇ〜って言ってる。
けれど、みんなきちんと弾けている。何より少し心配だった美咲も落ち着いてメンバーをきちんと見ている。心配も杞憂に終わったからには声援を送るしかないだろう。
というわけで!
「いいぞ、ハロハピ! 最高だぁ!」
空気の読めない応援でも関係ない! 喜んで応援することに意義があるのだから!
なんやかんやあって周りの盛り上がりも最高潮。サビに入った瞬間にパワーを強化した改造ドローンが観客達の上を飛び回った。定められたルールに従い規則的に動き出し四方の壁にレーザーでミッシェルが映された。
……最近のイルミネーションはすごいよな。
「イェーイ! みんな笑顔になれたかしら! これからも『ハロー、ハッピーワールド!』をよろしくね!」
「「「イェーイ!」」」
俺ら四人の野太い声が一番大きかったように感じた。
……き、気のせいだといいなぁ。
「まさか楽屋が男子禁制だとは思いもよらなかった……」
迂闊だった。できがすごく良かった、と伝えに行こうとしていたのだが月島さんという人から『男の子はここまで!』と奥に行くことを禁じられてしまった。
それにあのライブ会場付近は比率で言えば女子の方が圧倒的に高い。そんなわけで男子だけでいるのも罪悪感があったおかげで、近くのファミレスに来ている。こころ達も呼んでいるが、ライブの後で疲れているかもしれないので無理な勧誘はしていない。もちろん、お金は俺たちが出すつもりだ。
それにしても、ポテトが美味いな……。
「残念だったな! だがまぁ、ガールズバンド時代なんて言われてるからな! 仕方がねぇだろ!」
「意外だな。 ゲンがそういう話に詳しいとは……」
俺は右手に摘んだポテトを口に入れながらゲンに尋ねた。
俺の知ってるゲンは格闘系のスポーツが軒並み強くて、大らかというか大雑把な性格だ。家庭の話も仲のいいヤンチャなはとこがいるとかその程度だ。
……友人の新しい一面を知ることができるなんて運がいいな。
「知り合いにドラムをやってる奴が何人かいてな、調べ始めて二、三年ってところだ。 ライブハウスにもちょくちょく行ってんだぜ!」
「知らなかった。そこまで入れ込んでいるとは……」
その後も男子だけのバカ話や週末課題の話、最近の愚痴なんか話し合った。一番盛り上がったのがバカ話だったのはなんとも俺たちらしいと思った。
扉が開くベルが鳴り、そろそろかと思って俺は首を向けた。
「千里ー! 来たわよ! すっっごく楽しかったわ! みんな笑顔になってくれたの!」
「こころ! お店の中なんだから、流石に叫ぶのはやめたほうがいいって!」
扉をあけて早々にテンションMAXなこころ。後ろにはハロハピのメンバー全員が揃っている。
瀬田さんとはぐみはいつものまま。花音さんはびっくりオドオドというか、赤くなってうつむきながらこっちに歩いてくる。美咲は頭を色んな方向に下げながらこころを諌めている。正直意味はないと思うがな。
案の定、こころはテンションがいつもの1割り増しくらいになっているので行動がいつも以上にアクティブだ。
「千里ー! あなたの演出って最高ね!」
「そ、そうか……。 これもハロハピの演奏が良かったからだ」
素直に褒められると照れるのは……まぁいつも通り。
それをミツにからかわれてしまったが怒るほどのものでもない。今日はただの宴だ、宴会だ。
「というわけで、ハロハピの初ライブの成功にカンパイ!」
『カーンパーイ!!!』
宴は盛り上がった。
全員のテンションがどこまでもどこまでも上がり続け、全員強い酒でも飲んだのではないかと思ったほどだ。
例えるなら……そう、これはまるで合コンの有り様。
けれど、それも少しの時間。こころが次のライブに向けて作戦会議を始めたのだ。彼女らのライブは彼女らで決める。そんな風に美咲が宣言したおかげで俺はライブの構成については一切触れていない。そんな訳であの新しい居場所に俺が入るわけにもいかない。
そんな理由で俺たちは完全に男女で分かたれた。
「ノリが良いというのも考えものだな……」
バカ騒ぎしても辛うじて怒られていない。これも、店長さんとミツが知り合いだからこそだろう。……多少迷惑にはなっているだろうが。
「それにしても、センが演出考えたんだろ? 良い出来だったよ」
「そうか。 ありがとう」
ここでグラスをカランと合わせられたら様になるのだろうが、あいにくドリンクバーの炭酸だ。俺は残り半分になったそれを口の中に一気に流し込む。氷を歯で噛み砕きながら三人の会話を眺めている。相変わらず中身のない馬鹿話なのだが、時々本当に面白かったりするのだ。
ボーッと眺めながらなんとなく将来のことを考えてみた。
俺たちは今まで自分のやりたいことを好きなだけやってきた。やりたいことをやるためやりたくないこともやってきた。
そんな俺たちは今しか目を向けていなかったんだ。
これからも俺たちは変わらない。多少の考え方の変化や遊び方の変化は起こるのだろうがな。今までも俺たちは放課後に自分の都合を優先させてきた。遊びに誘っても自分の用事を最優先してきたのだ。しかし、俺たちはお互いが断っても無理な勧誘や過度な干渉はしない。
それは……もう、お互いのために。
そんなふうに思っていたからか、ミツの次の言葉に少し驚いた。
「俺たちもバンドとかやってみないか?」
「……正気か?」
「あぁ、本気だよ」
熱に浮かされたのか? だとしたら、ここまで落ち着いているはずはない。 なぜか。 ミツは意外にミーハーで、熱しやすく冷めやすいのだ。
彼女も何度かいたこともあるけど長続きしない。それもミツが告白したのにミツから振ってしまうことの方が多い。
「なんでやろうと思ったんだ?」
「気持ちを知りたいから。 それじゃあ、ダメか?」
そんな寂しそうな顔をするなよ、断れなくなるだろ。
ふと頭をよぎるのは太陽のようににこやかな、こころの笑顔。
……せっかく、ハロハピという夢のようなバンドを蹴ったのに……。 これで受け入れたら、裏切ってるのも一緒じゃないか?
「俺に言うってことは誘ってんだろ?」
だから、俺はこの提案に……。
「結論はイヤだ」
乗らなかった。
「俺は機械いじりは得意だし趣味だが、楽器なんて子供の頃に触ったDJセットくらいしか触ったことがない。ベースもギターもトーシローだ。 俺に今できることは何もない」
半分嘘だ。
努力すれば、熱中すれば、この世の中で大概のことはできる。そうやって生きてきたんだ。断る理由も本来はない。
だが……。
「ミツ、残念ながら俺は今やることがたくさんある」
ハロハピのサポートもこころへの告白もまだ何も終わっていない。
中途半端じゃ終われない。停滞なんて俺は求めてない。
やるなら全力を尽くし、死に物狂いで挑み、考え、達成する。だから、これ以上は増やせない。
「……そうか。なんとなく分かってたけど、残念だよ」
「……」
ミツの萎える顔は久しぶりに見た。去年にも一度こんな時があったがあの時とは違う。今回は俺が原因だ。だから、その責任は取らねばならない。
「やる曲だけ教えてくれ。合わせるのはリハと本番だけ。
チャンスは春の学祭だけだ」
俺にできるのはこれが限界だ。
「……このツンデレめ」
「勝手に言ってろ。男のツンデレに需要はねぇ」
この後、彼らは宴会を楽しみましたよ。
今が一番大事なグループがこの瞬間を楽しまないわけないですから。
バンドストーリーが終わった後は……
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