放浪騎士   作:赤い月の魔物

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だから、どうぞ立ってください

…それが、私たちの呪いです









第8話 小さな救い

――神々は困惑していました。

 

誰だ、あんな化け物を配置した奴は!

 

あんなんどうやっても倒せるわけないじゃないか!

 

セッションは大混乱です。順調に進んでいる一党の様子を見てそこそこいい感じに終わるかなと思っていた矢先に明らかに仕様(四方世界)にあっていないような奴が出てきたのです。

これには≪混沌≫も≪秩序≫も大慌て。

どうにか対抗策を出そうとしますがどうにもできず時間だけが過ぎていきます。

 

原因は一つの骰子でした。

 

一党が休憩してる間に振れる骰子振っちゃおうぜというノリで骰子を振ろうとしたらいつも使っている骰子がなかったのです。

あれ?骰子どこやった?

皆探しますが、見つかりません。

あった!ある神様が骰子を見つけました。

 

しかしそれはなんとも凝った骰子でした。

 

全体が灰色で目の形が火の模様になっているのです。

 

随分凝ってるなぁ。誰かの私物?見つけた神様は聞きますが誰も心当たりがないようです。忘れ物かな?今回は取り敢えず借りて持ち主が来たら返せばいっか。

 

あったなら早くやろー。待ってらんないー。

 

神様達は続きが気になるので早く早くと急かします。

 

わかったわかったと、早速神様は骰子を振りました。

 

それが他所からとんでもないモノを呼び出す物とも知らずに。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「ぐっ…」

 

全身に痛みが走る。咄嗟に回避したはいいものの熱戦の余波で吹き飛ばされたのか、頭がクラクラする。まさかいきなり撃ってくるとは思わなかった。予備動作もなにもあったものではない。

 

他の皆は…?一党の仲間は無事だろうか?

あたりを見渡し周りを確認する。視界がまだボヤけているが人らしき輪郭は見えた。

 

「おい!生きてるか!生きてるなら返事しろ!」

 

デーモンの攻撃を回避しながらもこちらの安否を声で確認しようとしている頭目の男戦士。

女の森人野伏と男僧侶もデーモンの攻撃を回避しながらも攻撃しようとするが、隙が上手く見極められず攻めあぐねているようだ。無理もない。一撃が重く、かつ隙も少ない相手だ。初見ではタイミングを掴めないのも当然だろう。

 

だが今はそんなことよりも彼等を逃すことが最優先だ。自分は何度も交戦したが彼等は初めてなのだ。

そしてこの世界の人間が「初めて」であれに勝てるとは思えない。

間違いなく一撃貰えば瀕死。二発食らえば死ぬだろう。

火球や熱線ならば言うまでもない。消し炭(即死)だ。

 

意識がハッキリしてきた俺は一先ず腹から声を出し大声で叫ぶ。

 

「私が殿を務める!貴公等は安全圏まで退避しろ!」

 

ソウルから黒騎士の剣を取り出しつつ応戦しようとするが、皆引こうとはしなかった。

 

「馬鹿言うんじゃねぇ!死ぬ気か!?どうやったって一人でどうこうできる奴じゃねぇだろ!」

 

「そうよ!どうにか隙を作って全員で…」

 

「皆!来ますぞ!」

 

デーモンが手に巨大な火球を作り、飛び上がりつつこちらに投げつけてくる。全員が散開して回避する中俺は奴の方に向かって距離を詰めるようにローリングする。

 

「下手に近づくな!危険…うぉっ!?」

 

直後にデーモンが飛び上がって滑空しつつ両手を振り上げるように戦士に襲いかかる。追いついた距離が再び開いてしまった。クソッ…!

 

(戦いにくい…!)

 

周りには死なせてはいけない人達。

素直に下がってくれないもどかしさと目の前にいるデーモンを前に焦りが生じる。

周りに誰もいないなら何度死んでもここに戻ってきて倒せるまで挑むのだが、

今そんなことをすれば俺が彼等にとってどんな存在になるかわかったものじゃない。

 

全員が分散してデーモンに応戦しているためデーモンが動き回ってしまい中々追いつけない。

どうにかしてデーモンの気をこちらに向けさせ彼等を避難させなければ…!

奴の注意をこちらに向ける為に指輪を付け替えようとした。

 

その時だった。

 

戦士の身体が宙に浮いた。デーモンの腕の振り上げを喰らったのだ。打ち上げられた姿勢で受け身も取れぬままデーモンの腕が振り下ろされる。

 

鮮血が飛び散った。

 

吹き飛ばされ、壁際に飛ばされて地に伏した戦士。

野伏と僧侶が名前を呼び彼の方に行こうとするがデーモンもそれを分かっているのか彼を背にするように立ち塞がった。

かなりの量の出血だった。急がなければ彼は自分の子供を見ることなくこの世を去るだろう。

 

「チッ…!二人は早く戦士のもとへ行け!奴は私が引き受ける!」

 

二度目の俺の叫びに二人は一瞬戸惑うもののこちらを見て彼の元へ駆け出す。

行かせまいとデーモンが攻撃しようとするがその腕を黒騎士の剣で斬りつける。古来からデーモンに対して有効な黒騎士の武器はデーモンの王子にも有効だ。デーモンの腕から血が飛び散る。

 

自らに傷を与えた武器を持つ俺に奴は憎悪の視線を向けてくる。

…これでいい、まずは一歩。奴の注意(ヘイト)はこちらに向いた。あの王子が傷ついたタイプなら例えヘイトを稼いでも火球の雨を降らされた時点で俺の負けだった。

…熱線を吐くうろ底の方で良かったと心底思う。

 

それでも油断すれば熱線で消し炭にされるか凄まじい膂力でミンチにされるかだ。

奴の腕振りに対して盾は用いるべきではないだろう。あの剛腕の前では盾など無力だ。凄まじい受け能力を持つ大盾ならば受け切れるだろうが過信は出来ない、無敵の盾などないのだ。

崩されてそこに攻撃を叩き込まれれば即死の可能性もある。

 

故に俺は盾を持つという考えを捨てる。持っても意味が薄くどの道リスクがあるなら持たない方がいい。普段使ってる盾が小ぶりな物を使っているのもあるかもしれないが。

 

デーモンの腕が振るわれる。それを懐に飛び込んで回避し足を斬る。

血が出ると言うことはダメージは通っている。

だがこいつは、凄まじい生命力を持つ「デーモンの王子」だ。

かなり長い戦いになる。地道に集中力を切らさないように相手の動きをよく見て戦う。これほどまで昔を思い出して戦うのは久しぶりだ。まったく持って嫌な記憶ではあるが。

飛び上がったデーモンが距離を取り火球を投げる。奴を追うように走りそのまま前転し頭に攻撃を入れる。

…浅い!すぐに体勢を立て直したデーモンはそのまま腕を振り上げる。咄嗟に構えた武器ごと弾かれ後方に吹き飛ばされたが、どうにか空中で姿勢を立て直して着地する。武器を

伝って全身に衝撃が襲ったが直撃はせず済んだ。

 

あとどのくらいだ?どのくらい斬れば奴は倒れる?

ここで倒しきれなければ他の3人は死ぬだろう。

最悪、奴が何らかの方法で遺跡から出た場合、多くの死者が出ることは想像に難くない。

 

剣を構えて再度奴に向き合う。未だ奴が倒れる気配は無い、だが確実に体力は削っているはずだ。

 

その時だった。デーモンの頭部目掛けて矢が飛来する。森人野伏の矢だ。すぐ側に野伏がやってくる。

 

「何故戻った!奴は危険だと言っただろう!」

 

「いくら貴方が戦えても一人じゃ危険すぎるわ!戦士は僧侶に任せて来たし、私だけでも一緒に戦う。私達は一党(パーティ)なのよ?」

 

俺の言葉に彼女は不敵な笑顔で答える。…変わらない笑顔だ。

 

「…彼奴は私がかつて旅した中で戦った『デーモンの王子(うろ底のデーモン)』だ。何故奴がここにいるのかは分からないがアレは私が戦ってきた中でも屈指の強敵だ。奴の攻撃を見ただろう?無事に生きて帰れる保証はないぞ?」

 

「それでも、よ。貴方にだけ任せて私だけで生きて戻っても意味なんてないわ。後輩を見捨てて生き延びたなんて…そんな後悔はしたくないわ」

 

そう言いつつデーモンを鋭く見据える野伏。

…これはもう言葉で言っても無駄か。ここに戻ってきたということは覚悟はしているはずだ。死ぬかもしれないという覚悟を。ならばその覚悟を尊重すべきか。

 

「…わかった。だが決して無理をするな。奴にとって間合いを取る事は意味を成さない。距離を詰めるのも早い上に遠距離攻撃手段も豊富だ。火球もそうだが奴が口に炎を滾らせたときは特に注意しろ。あれを浴びれば確実に塵になる」

 

「わかったわ。援護は任せて…来るわよ!」

 

「…援護は任せる」

 

俺はそう言って指輪を一つ付け替える。『頭蓋の指輪』だ

 

この指輪は端的に言って敵に狙われやすくなる指輪だ。普段だと好き好んで付けることはない指輪だがこういった誰かを守りながら戦う場面では役に立つ。

 

野伏の援護を受けながら、デーモンに向かい走る。頭蓋の指輪から出るソウルの臭いに反応したのか奴の顔がこちらを向く。その顔はまるで失った物を取り戻そうとするかのように思えた。

 

野伏の援護を受けながらデーモンとの攻防を繰り返す。

 

放たれる火球、振るわれる剛腕、空を飛んでの上空からの叩きつけ

 

それらを回避しながら剣を振るう。野伏の弓矢による援護も効いているのか、だんだんと奴の動きも鈍くなっていく。

直後に飛んできた矢がデーモンの頭部に刺さり大きく仰け反った。

 

致命的な隙。奴の頭部に致命の一撃を加えるべく走る。だがここで予想外の事が起きた。

 

頭をダラリと下げふらついたはずのデーモンの王子が飛び上がった。

なんと奴は強引に翼をはためかせ飛翔し、致命の一撃を回避したのだ。

 

「何…!?」

 

走りながら頭部に突き刺そうとした剣が空を切る。奴はどこに…!?

 

上を見上げるがそこに奴の姿はない。まさか…!

 

予想外の行動に嫌な予感がし、後ろを振り返る。

 

そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

デーモンの口に炎が集まっていく。熱線を放つ前兆だ。

 

「しまった…!」

 

幸いそこまで離れてはいない、間に合うか…!?

俺は剣を放り捨て、野伏の元へ走りだした。

 

 

 

~~~

 

 

 

初めて見たとき、私は死を覚悟した。

 

見たことない化物。幻想的な空間の奥にいた悪魔(デーモン)は地下空洞を一瞬で地獄絵図に変えた。

奴の叫び声が上がった直後に凄まじい熱さの熱線が放たれた。長年の経験がなかったら私はあの一撃で死んでいた。

頭目の戦士が皆の無事を声を上げて確認している。

最初に僧侶が、次に私が返事を返し、遅れて「彼」が返事をした。

 

直後に意識を取り戻した「彼」は叫び、目の前の悪魔の危険性を訴える。

でも銅等級の私達ですら危険だとハッキリわかる悪魔を相手に彼一人で任せられるはずもなく

全員で応戦する。

 

どうにか隙を作りだして全員でこの場を切り抜ける。

ギルドに戻って金等級以上の冒険者…最悪白金等級の人達ですら出張る必要があるかもしれない、

コイツの存在を伝えなければ!

 

その時に戦士の身体が宙に浮いた。悪魔の攻撃を喰らったのだ。

血が飛び散り、戦士の身体が吹き飛ばされる。

 

壁際の方に吹き飛ばされた彼を救うべく、僧侶と共に戦士のもとへ向かおうとするが、

悪魔に阻まれる。

早くしないと戦士の命が危ない…!

 

直後に「彼」が再び叫んで悪魔を引き付けると言う。

私と僧侶は戸惑い、彼に任せるかどうかを迷ってしまう。

だが、このまま放置していれば戦士は死んでしまう。悪魔の注意が「彼」に向いたのを見て私と僧侶は一目散に戦士の元へ駆けつけた。

 

戦士は辛うじて生きてはいたが重傷だった。

防具は内側の鎖帷子諸共砕かれ、右肩から身体にかけて大きく切り裂かれていた。

呼吸も荒く一歩遅かったら彼は死んでいたかもしれない。

 

僧侶が治癒の奇跡を使って傷を塞いでいく。

これで出血は抑えられた。血の流し過ぎで死ぬことはないだろう。

 

だが、問題はそれだけではない。あの悪魔がいる限り全員で生きて帰るのは不可能だろう。

私は振り返って、悪魔のいた方を見る。

 

「彼」はどこから取り出したのか、黒い大剣を両手で持って悪魔と対峙している。

相手の攻撃を間一髪のところで避けながら、的確に一撃一撃を入れていく。

悪魔は一行に倒れる気配を見せない。あの状態がいつまで続くのか、

このまま自分は見ているだけでいいのか。

 

そこまで思い至って、私は立ち上がった。

 

「僧侶。戦士をお願い」

 

「野伏殿…?死ぬおつもりか!?あれは拙僧らの手に負える存在では…!」

 

「分かってる。「彼」に任せておけば倒せるかもしれない。無事に帰れるかもしれない。でも…

でもね、ここで何もしなかったら、私は一生後悔する。それに…」

 

振り返って僧侶に笑いながら伝える。

 

()()が後輩に任せっきりってのもカッコ悪いでしょ?」

 

僧侶が呆然とした表情をしたが直後に真剣な顔になる。私、上手く笑えてなかったかな?

 

「…そこまで覚悟が決まっているのなら拙僧からは何も言いますまい。

戦士殿のことは任されよ。…ですが決して無茶をしてはなりませんぞ」

 

すでにこれからしにいくような物ですがな。と言って彼も苦笑いをする。

 

私は僧侶に後を任せて、一人で悪魔と戦っている「彼」の元へ走った

 

 

 

 

「彼」と合流してからは悪魔と距離を取って、私は弓で援護をしていた。彼が敵の攻撃を引きつけ、注意も引いてくれているおかげで、

私は安心して弓矢での攻撃に集中できた。

 

魔術師や優れた司祭の人達による高火力な攻撃は出来ないけれど

確実にダメージは溜まっているはず、意識を集中させ矢をつがえる。

 

そのとき悪魔の体勢が崩れた。頭を垂らし、蹲って、動きが止まる。

 

致命的な隙。そう見えて気を少しでも抜いた私は、すぐに自分の愚かさを思いしった。

 

悪魔の目が()()()()()()のだ。

 

鬱陶しい虫を見るような、怒りをその目に宿して悪魔は飛び上がり、そして―

 

私の方へ()()()()()

 

身の危険を感じた私は咄嗟に避けようとするものの悪魔の伸ばした腕に捕まってしまった。

 

「あ、ぐっ…!」

 

凄まじい握力で身体を握られ意識が飛びそうになる。拘束から逃れようともがくが抜け出せず、

そのまま玩具のように放り投げられた。

 

「かっはッ…!あ゛っ…!」

 

遺跡の残骸に背中からぶつかり、肺の空気が一気に吐き出される。

 

衝撃で意識が朦朧とする、酷く全身が痛んで立ち上がれない。少しして視界が元に戻ったときに

私が見たのはこちらに向かって熱線を撃とうとしている悪魔の姿だった。

 

――口に炎を溜めたら気をつけろ――

 

「彼」の言葉が脳裏によぎる。だが避けようとしても身体が動かない。

じきに私はあの悪魔の熱線によって焼かれて、死ぬ。

 

すぐ目の前に迫った「死」に対して、私は動くことが出来なかったのだ。

 

酷く時間が過ぎるのが遅く感じる。これが走馬灯なのかな。

昔の事が思い出されては消えていく。

 

お父さんとお母さんに無理言って森を出て…冒険者になって…

 

なんだっけ…ああ、そうだ。

 

私は森人(エルフ)だから、長生きだし、時間はたくさんあったけど…

 

 

 

 

 

 

――あーあ。結局…行き遅れちゃったなぁ…

 

 

 

 

 

 

視界が白く染まっていく中、私は目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?いつまでたっても熱さが襲ってこない。何故?

 

目を開けた私が見たのは、

 

全身を覆い隠すほどの巨大な岩のような盾を持った「彼」の姿だった。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「くっ、間に合うか…!?」

 

デーモンの掴み攻撃を食らって放り投げられた野伏の元に走る。

 

俺達(不死人)ならば、食らってもすぐに起き上がってエストを飲めば復活するが彼女は違う。

 

壁に叩きつけられた衝撃と拘束されたときの痛みで動く事ができないのだろう。

デーモンの方を恐怖に怯えた表情で見て、固まっている。

 

走りながら緑花草を齧る。効果がすぐに現れ、活力(スタミナ回復速度)満ちる(上がる)

 

そして熱線が放たれる直後に即座にハベルの大盾を両手で持ち、野伏を庇うように構える。

 

「ぐ…おぉぉぉぉぉぉ…!!」

 

盾越しに伝わる防ぎ切れない熱量(ダメージ)が身体を焼く。

 

ジリジリと命の灯火が消えていくのが分かるが、ここで手を離すわけには行かない。

今盾を持つ手を離せば彼女は俺と一緒に塵になるだろう。

 

―むざむざ死なせるつもりなど毛頭ない…!

 

熱線を撃ち終わったのか、熱が収まっていき盾の後ろで膝を付く。

 

くそ…ハベル盾で防いでこれ程とは…!

 

以前戦ったときにあれは防ぐものではなく避けるものだったので初めて盾受けをしたが

ここまで響くとは…

 

「あ…あ…」

 

後ろから野伏の声が聞こえる。振り返ると安堵と悲しみが入り混じった表情をしていた。

 

「…無事か?」

 

どうにか声を絞りだす。

盾越しとはいえ凄まじい熱量をほぼ直に浴びた俺の声は大分枯れていた。

 

「あ…!そんな…ことより!貴方、は、大丈夫、なの…!?」

 

苦痛に歪んだ顔でこちらの心配をするあたり、彼女の優しさが伺える。

だが今はそんな事を言っている場合ではない。

 

盾を彼女の前に突き刺すように地面に立てて、デーモンの方へ向き直る。

俺はエストを飲むと、黒騎士の大剣を取り出した。

 

剣でチマチマと攻撃していたら削りきれない。長引けばこちらが不利になるのであれば…

 

――高い火力で押し切る(ゴリ押す)だけだ…!

 

「…そこにいてくれ。その後ろにいれば巻き添えは受けないはずだ」

 

佇む竜印の指輪をつけて呪術の炎を用意する。使うべきは一つ。

 

『内なる大力』

 

炎を身体に押し当てて、自身の秘められた力を開放する。

 

全身から赤い闘気が溢れ、力が漲る。先ほど攻撃を防いで上がりかけた呼吸もすでに元に戻った。

それと同時に自分の命が削れていく感覚も伝わる。過ぎた力には代償がいる。

だからこそ、その力はずっと秘められているのだ。

 

黒騎士の大剣を構え、駆け出す。いい加減終わりにしなくてはな…!

 

デーモンの前に陣取り、大剣を振るう。大力によって増した力で振られる一撃は、

確実に効いていた。必死に攻撃を受けまいと腕を振るって迎撃を試みているがそれを

すんでのところで回避し、我武者羅に剣を振って、振って、振り回す。

 

しびれを切らしたデーモンは叩きつけを繰り出す。が、それはこっちに(チャンス)を与えただけだ。

 

渾身の力を込めた突き(片手溜め強攻撃)がデーモンの喉を突く。大きく仰け反り喉元を抑え、暴れるデーモン。

 

風圧を放って後ろに飛び退いた。熱線を撃つつもりだ。撃たせるものか…!

 

落ちていた黒騎士の剣を拾い、デーモンの頭目掛けて投げる。綺麗な放物線を描いたそれは、

僅かに逸れて、奴の首元に刺さった。

 

苦痛の叫びを上げ、口に炎を溜める。剣を構えて俺が走りだす。

奴が撃つのが先か。俺が剣を突き立てるのが先か…!

 

 

俺が剣を突き出すのと、奴がこちらに向けて口を開いたのは同時だった。

 

そして――

 

 

 

 

 

――デーモンの顔面に剣が突き刺さった。

 

 

 

 

 

デーモンの身体から光が消えていく。仰向けに仰け反り行き場をなくした炎が、

熱線となって力なく天井に放たれる。

 

 

…終わった。終わったのだ。かつて幾度なく戦い屍を晒しあげた先に倒したデーモンの王子を。

 

俺は、誰一人、欠けることなく、倒したのだ。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

「終わった…の…?」

 

森人野伏が盾の裏から顔をだして訪ねてくる。

 

俺はそれに首肯で応えた。彼女は腕を抑えながらも盾の裏から出て来た。

 

デーモンの死骸を見つめる。以前はソウルとなって消えたが一向に消える気配がない。何故だ?

 

この世界に奴の力と同質の存在が現れたとでも言うのだろうか?…だとしたら相当厄介だ。

 

下手したらこれから先、あの旅で倒してきた数々の化物共がまた立ちふさがるかもしれないのだ。

…だが今は、いいだろう。戦いは終わった。あとは無事に地上まで帰るだけだ。

 

俺はデーモンの頭側に回って、2本の剣を回収した。そして特大剣でデーモンの首を落とす。

 

「な、何してるのよ…?」

 

「…討伐証明だ」

 

なんの気無しに答えるが、彼女は何も言わなかった。言えなかっただけかもしれないが。

大方、無力な自分を責めているのかもしれないがそれは違う。相手が悪かっただけだ。

 

「…あいつは、無事なのか?」

 

俺は最初に大きな負傷をした戦士の安否を尋ねる。

男僧侶がついてる以上死んではいないはずだが…

 

「傷は深いけど彼は無事よ。一先ず…皆と合流しましょう。っとと…」

 

そう言いつつ歩き出そうとしてフラついた彼女を支える。まだダメージが残っているのだろう。

 

「肩を貸す。それと治癒の水薬を飲んでおけ」

 

「あ、うん。ありがと…」

 

ポーチから水薬を取り出し、彼女に渡して肩を貸す。

 

そうして、戦士と僧侶の元へと歩きたどり着いた。

 

 

 

 

 

ただ、戦士の様子がおかしかった。

 

「傷は塞がりましたが、血を流し過ぎたのでしょう…未だに回復する様子が見られず…」

 

確かに鎧が砕けているが傷は塞がっている。だが顔色が悪く、呼吸も荒い。まさか…

 

「…よぉ。へっ、情けねぇところ見せちまったな…」

 

「そんなことはない。奴相手に生き残っただけでも誇るべきだろう」

 

「そうかい…っつ!クソ、視界がボヤけやがる…」

 

「まさか…毒の類を…!?」

 

僧侶が焦ったように声をだし、解毒剤(アンチドーテ)を取り出す。

 

「よせ。ここまで時間がたった以上もう間に合わない。

…むしろここまで生きていられたのが奇跡だ」

 

僧侶と野伏の顔が絶望に染まった。

せっかく全員で無事に帰れると思った矢先に仲間の命が失われそうになっているのだ。

 

「僧侶!どうにか…どうにかならないの!?貴方《治療(リフレッシュ)》の奇跡は…」

 

「拙僧はまだ授かっておりませぬ…!くっ…!何か…何か手は…!」

 

二人がどうにか助けようとする中で、戦士が声を掛けた。

 

「…お前ら。頼みがある」

 

全員が彼の方に顔を向けて耳を傾ける。

 

「街に戻ったら…アイツには…俺は暫く戻らないって伝えてくれねぇか。

遠くに言って、デカい稼ぎを見つけたから暫くは戻れねぇってよ…」

 

弱々しく彼が言葉を紡いでいく。確実に命の終わりが近づいている証拠だった。

 

「…それで、いいのか?」

 

俺の声に3人とも顔を向ける。

 

「それでいいのか?お前はまだ助かるかもしれない可能性を放り捨て、

生きることから逃げるのか?」

 

「俺は神様じゃない。英雄でも、勇者でもない。見ず知らずの人間を無償で助けるような

お人好しじゃない。それでも…」

 

「…()達は、()()だろう。少しくらい頼ってもバチは当たらんさ」

 

そう言って俺は、ソウルから1本の小さな瓶を取り出す。『女神の祝福』だ。

あらゆる状態異常を治し、傷を全快する極めて貴重な回復手段だ。

その貴重さ故に結局使い損ねてしまっていたものだが…今回は別だろう。

 

俺は女神の祝福を彼の前に差し出す。

 

「人によっては、死ぬことで救われる奴もいる。だが、それは生きる事が苦痛になった奴だけだ。

お前はまだそうじゃないだろう…!」

 

戦士の目をまっすぐに見据えて、俺は続ける。

彼の目は先ほどの弱々しい状態から一変して、驚きつつも光を宿していた。

 

「さっきも言ったが俺は神様じゃない。誰かの生き死にを決めることなんてできない。

生きたいか、死にたいかは人それぞれだ」

 

中には死んでいいことなんかない。生きるべきだ。なんて言う奴もいるだろう。だがそれは人によってはその信念に対する侮辱になることも知っている。そしてそれが、綺麗事であることも。

 

俺は最後に彼に問いを投げかける。

 

「決めるのは…お前自身だ」

 

俺の言葉に戦士はフッと目を閉じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなの…決まってるじゃねぇかよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

差し出された救いに、彼は手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長い上に雑。それがWATASIクオリティー。後々編集する・・・かも

今回のダイス結果。
戦士 旗が折れるか回収されるか 1D100 → 41 
内容
1~10 → 無傷で生還。五体満足。仮に怪我しても軽い傷程度。

11~30 → 負傷しつつも生還。数値が大きい程、怪我が大きくなる。

31~60 → 重傷を負う。傷の大きさと状況次第では死亡。今回はなかったが、四肢欠損などもありえ、生き残っても冒険者としての生命は絶たれる可能性もあった。

61~100 → 死亡。YOU DIED。叩き潰されミンチ。火球で蒸発。捕まって火炙り。頭から喰われるetc… 

「最深部にいる敵」と出くわす前に「ある会話」をしなければ無傷の生存判定に怪我の2つの判定から5ずつ引かれ1~20になりました。
会話をするかどうかの判定が見事に失敗しましたが。

援護にどちらが行くか1D2(1 野伏せ 2 僧侶)結果→1

援護に行くか行かないか → 1D2(1で行く。2で行かない)結果→1

無事に生き残れるか否か。内容は戦士とほぼ変わらず。

結果59

「彼」がNPCというのもあって助かりましたが居なかったら死んでます。追撃で。

オリジナルで書いてるから長いのなんの…早く原作に入りたい。
だが、もうすぐ…もうすぐ入れるんだ…!(ただしイヤーワン)
戦士さんは実は当初ぶっ殺す気マンマンでした。他の二人も死なせる予定バリバリでしたが二次創作でそこまで暗くしすぎるのもアレだったので・・・ね。ただでさえ原作で人が死にまくっているので・・・
絶望的な状況に陥っても少しの運で訪れる、救いがあってもいいじゃない?

感想・評価してくれた方ありがとうございます。m(_ _)m
相変わらずド素人の書いてる文なため読みづらい所とか文章おかしい所とかあるかもしれないけど、深く考えずに読んでくださいネ。
考えるな。感じるんだ…

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