放浪騎士   作:赤い月の魔物

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使命を終えた『火のない灰』よ

貴公は未だに足掻いているのか

だが、それでこそだ

…貴公に炎の導きがあらんことを


第13話 変わりゆく者と変わらぬ者

俺が城塞都市から辺境の街に戻ってから、また月日が流れた。

 

俺は相変わらず手頃な依頼や余った依頼を片っ端から受け続けた。

人々を脅威に晒す者たち。

 

ゴブリン、トロル、ガーゴイル、下級魔神(レッサーデーモン)

 

東西南北、俺はあらゆる場所へ駆け回る日々を送っていた。

そんな中で、俺はある一つの疑念を確かめるべく、独自に調査をすることにした。

 

それは遠出をしたときに遭遇した、あの「ソウルを持たないデーモン」達だ。

 

あれらはソウルこそ持たなかったものの、動きは以前戦った時と寸分違わず同じだった。

全体的な動きこそ微小な差異はありはしたが、あの呪われた地(ロスリック)で見たソレだったのだ。

 

以前に一党を組んだ男戦士が言っていたように…

例えば「デーモンの王子」は、この世界では金等級クラス。すなわち国家レベルの難事(デーモン)だ。

城塞都市に赴いたときに戦った山羊頭も周辺で被害が出ている報告があって尚討伐されなかったということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺の当面の目的は依頼をこなしつつ奴等の手掛かりを探し、情報を得しだい奴等を始末する事。

そして、奴等を生み出す…ないしは呼び出しているであろう元凶を「殺す」ことだ。

 

王子の首を提示した時も、城塞都市で山羊頭の首を提示した時も、あれらはこの辺りで目撃されたことはないとのこと。ギルドの上層部に確認も取ってもらっているので間違いはないだろう。

 

…結論付けるにはまだ早計かもしれないが、俺の中では奴等を『この世界に招いている奴がいる』という結論に至った。冒険者として人々を助けながら、そいつを殺すことが()()()()だ。

 

 

 

~~~

 

 

 

ある日の昼下がり。気持ちのいい日差しの中、俺は不動産屋に来ていた。

冒険者としては未だ一年と経っていない若輩者だが、連日あらゆる場所に出向いては依頼をこなしていたので金は溜まっている。等級もデーモンの王子の一件で銅まで上がっているので家を持ってもいいと思ったのだ。この短期間で何故これだけ稼げたなど聞かれたら素直に言うしかあるまい。まぁ別にやましいことがあるわけではないので特に気にする必要はないか。

 

「いらっしゃいませ。あら?貴方は放浪の…」

 

「ああ、家を買いたい。そろそろ自分が落ち着いて腰を下ろす場所が欲しくてね」

 

「ええと…失礼を承知でお伺いしますがお金は足りますか?場所にもよりますが結構なお値段がしますよ?」

 

「ある。ほとんど使ってないからな。むしろこういう時に使わなければ一生使うことなく口座で腐らせてしまいそうだ」

 

実際、水薬(ポーション)はエスト瓶があるので買う必要はないし解毒剤(アンチドーテ)も同様だ。

 

精々が消耗品や小道具、後は日々の潤いとして食事代に幾らか…といった具合だ。

 

「まぁ確かに貴方のペースなら有り得るんでしょうけど…いえ、詮索は無用ですね。取り敢えずこちらが今空いている物件の一覧になります」

 

窓口の担当から一覧表を渡される。

 

…成る程。確かにこれは相応の値段がするな。特に人の生活圏に近かったり、ギルドに近い物件は交通の便で便利な為かどれも高い。

正直冒険者として一生を過ごすことを考えても宿を取ったほうが結果的に安く済むかもしれん。

 

うーむ…俺としては場所自体ははどこでもいい。

俺に取って重要なのはそこではない。篝火を置けるかどうかだ。

 

中々いい場所が見当たらない…と思っていたが一覧の最後の方にある一つの物件に目が止まった。

場所で言うなら端っこも端っこ。街の隅と言っても過言ではない場所にある廃教会だ。

この時代の一般的な家と同じ寄棟の形状をした屋根の物。場所が場所な為か値段も一覧の最初にあったものと違いかなり安い。それでもそれなりの金額はしているが。

 

…ここだ。ここを拠点としよう。いまいち他の場所は拠点するには目立つのでどうかと思ったが端も端の隅っこの場所なら目立つ事はないだろう。元より人気のない静かな場所の方が好みなのだ。この場所はまさに理想と言えるかもしれない。

 

「これにする。街の隅にあるこの廃教会だ」

 

「え…ここですか?貴方がここでいいというのであれば私達は止めませんが…他の場所はお気に召しませんでしたか?」

 

「ああ。元より生活圏に近い人気のある場所に拠点を構えようとしたわけじゃないからな。こうした街の外れにある場所のほうがいい」

 

「わかりました。ではこちらの書類にサインを。支払いはギルドの口座より引き落としで構いませんか?」

 

「それでいい。一括で構わん」

 

書類にサインを書いて支払いを済ませる。これで晴れて拠点を確保できたわけだ。

 

「はい。ではこちらが貴方の物であるという権利書になります。無くさないようにしてくださいね」

 

「分かった」

 

窓口の職員から権利書を貰い、それをソウルへしまう。早速、我が家を見に行くとしようか。

 

 

~~~

 

 

権利書に書いてある場所へ向かい、自身の拠点を確認する。

窓口で聞いたとおり本当に街の隅にある、ただの廃教会のようだ。

…ここなら第二の祭祀場として申し分無い。

 

中を一通り見る。少々埃が溜まっているが小綺麗な教会だ。客室や応接間もあるし、普通の家としても使えそうだ。教会のシンボルの部分だけは何もついていないがそこはいずれ取り付ければいいだろう。

 

あとは篝火の設置場所だ。どこに置くかだが…

そうして中をうろついていると裏庭に出た。

周囲は壁に囲まれておりギルドの裏にある訓練場のようだった。

 

…ここだな。ここなら螺旋の剣を刺すのにも丁度いい。

よし、段取りは出来た。あとは螺旋の剣を取ってこよう。

 

俺は剣の破片を使って篝火へと帰還した。

 

 

~~~

 

 

「…はい。では詳細は依頼書にある通りに、現地の人より説明がされますので。お気をつけて」

 

今日も今日とて冒険者ギルドは多忙である。

 

冒険者が受ける依頼の受理。新たに冒険者の仲間入りをする新人達。

 

性格の問題があるかどうかの真偽を確かめ行う昇級審査。

 

基本的に忙しくない日々はないと言ってもいいだろう。

 

「彼」を担当する受付嬢も例外ではなく仕事に追われていた。

 

「はぁ…」

 

依頼を受けていく冒険者の姿が見えなくなると受付嬢は一人憂いを帯びた表情で息を吐いた。

 

(今日あの人来てないな…)

 

別に「彼」とはそんな関係でないのは理解しているし、待ち合わせをしているわけでもない。

だが、城塞都市より戻ってきてから毎日見ていた顔を見なくなると何かあったのかと思ってしまう。

 

「ほら、だらしないわよ」

 

「ひゃっ。あっ…すみません」

 

ペシっと頭を軽く叩かれ、振り向いた先にいたのは自身の先輩でもあり監督官でもある女性だった。

 

「仕事中なんだからシャキっとする。そんなんじゃ冒険者さんも安心して出発できないわよ?」

 

「はい…」

 

返事を返すがどうにも力のない空返事になってしまう。受付嬢も原因は分かっているのだが、分かっていてもどうにも出来ないのだ。

彼女も「彼」の担当をしてそこそこ長いが、それでも「彼」のことは殆ど知らない。

何処から来たのかも、以前何をしていたのかも、趣味趣向だって何一つ知らないのだ。今思うと基本的に事務的な事でしか関わっていないかもしれない。

 

「もしかして『彼』が気になる?」

 

含みのある笑みを向けて、監督官が尋ねる。その言葉に受付嬢の顔が赤くなった。

 

「そ、そうじゃなくて!ただ、いつもは朝からギルドにいるのに今日は見てないので少し…その…」

 

しどろもどろになりながらも返答をするがそれも尻すぼみになっていく。ただ純粋に一人の人の安否を心配する彼女の人の良さが現れていた。

 

「はいはい。そういう事にしておくわ。でもそう心配する必要はないんじゃない?なんだかんだで「彼」がどういう人かわかってるんでしょ?」

 

「それはまぁ…そうなんですけど」

 

そういえば彼は家を買おうと思っていると言っていた。もしかしてそれと関係が?

うーん…と受付嬢が唸って考えていると別の声が掛けられた。

 

「よう。受付さん。この依頼を受けたいんだが…」

 

「あっ、はい!ええと…」

 

そこにいたのは以前「彼」と遺跡調査に趣いた男戦士だ。しかしそこに普段はいるはずの二人の一党の仲間はいなかったが。

 

「お一人で向かうんですね?戦士さんの実力なら申し分ないと思いますが…昇級審査も控えてるんですから無理は禁物ですよ?」

 

「わーってるさ。ペーペーじゃないんだしな。…そういや嬢ちゃんあいつを見たか?」

 

「いえ、今日はまだ見ていませんね」

 

彼の言う「あいつ」とはここ最近見なくなったあの放浪の「彼」のことだろう。

机に顔を近づけて小さめの声で話すあたり何かあるのだろうか?

 

「そうか…見てねぇなら仕方ねぇ。まぁあいつの実力なら死んでるってこたぁねぇだろ」

 

「何か用事があったんですか?」

 

「んーまぁ、な。あれから結構経ったし男二人で冒険の成果でも語ろうと思ってなぁ」

 

やや歯切れの悪い返事を返す戦士。だがその違和感に気づけるのはここにはいなかった。

 

「そんじゃまぁ行ってくるわ。あいつを見かけたら俺が探してたって伝えてくれ」

 

「はい。わかりました」

 

しかしあれほどまでストイックに依頼をこなし、周囲からは「仕事人」だのなんだのといわれている人が依頼を受けない日があるとは…過労で倒れるならばとっくに倒れてもおかしくはないのだが、仮にそうだとしたら何故今更?依頼も受けずに悪魔だなんだを見境なしに(スレイ)したりする人ではないはず…

 

「はぁ…やめやめ!」

 

そこまで思い至って受付嬢は頭を振った。

 

―冒険者に詮索は無用、ですもんね。

ふんっと気持ちを切り替えて彼女は自分の戦場(仕事)に臨むのだった。

 

 

~~~

 

 

螺旋の剣を回収して俺は再び街の中へ、廃教会へ向かおうとした俺に声が掛けられた。

 

「ん?おいお前さん。久しぶりだな」

 

「む、貴公か。久しいな」

 

以前俺を一党に誘ってくれた男戦士だった。今日は一党の二人はいないようだ。一人で依頼でも受けたのだろうか?

 

「これから依頼か?他の二人は?」

 

「あいつらは今休暇だ。野伏の方は故郷に顔出しに。僧侶の方は孤児院の方に挨拶してくるつってたぜ。ところでお前さん今日の夜時間空いてっか?たまには男二人酒でも飲みかわそうと思ってよ」

 

「構わない。夜に酒場にいけばいいか?」

 

「おう。お前さんもこれからギルドに行くんだろ?」

 

「ああ、所用を済ませたらギルドで依頼を受けるつもりだ」

 

「あいよ。んじゃまた後でな」

 

戦士と別れ、教会の裏庭に向かう。

 

森で作ったときと同じように灰を敷き詰め、螺旋の剣を突き刺して手をかざす。

ボッと火がついて螺旋の剣は再び篝火としての機能し始めた。

 

「…ようやく落ち着いて腰を下ろせる場所が出来たか」

篝火を見つめながら一人ごちる。

さて、遅くなったがギルドへ向かおうか。

 

 

〜〜〜

 

 

 

「あっ放浪さん!」

 

「依頼はまだ残っているか?」

 

ギルドに入るなり笑顔で迎えてくれる受付嬢。…気のせいか、俺を視界に入れるまでは机に突っ伏していたような気がしたのだが。

 

「ええと…今放浪さんが受けられるような物は…」

 

()()()()()。このまま手持ち無沙汰で過ごすわけにもいかんしな」

 

「…はい。こちらが今日貼りだした物で余った物です。でも…」

 

今日の受けられずに余った依頼を出しながら受付嬢が苦い顔をする。それもそのはず昼を過ぎて午後の時間ともなると依頼は殆ど残っていなかった。

 

まぁ残っているのは定番のゴブリン退治や下水の依頼といった具合だ。新人がやるような物ばかりだが、選り好みはすまい。依頼書を見ていくと最後には調査依頼があった。

折角だ。たまには初心に帰ろうか。

 

「なら、この下水道の依頼を二件。ゴブリン退治を一件だ」

 

「はい、合わせて三件ですね。ゴブリン退治の方は詳細が依頼書に書いてあるので確認しておいてくださいね」

 

以前は周囲から奇異の目で見られたこともあったが最近ではそれも減ってきている。俺がどういう冒険者なのか分かってきたのだろう。

さて最近は受けて無かったが久しぶりの下水道だ。ゴブリンもそうだが慢心しないようにしなければな。

 

 

〜〜〜

 

 

「GUIYYYYYYY!!」

 

下水道にガンッと鈍い音が響く。横振りに振られたメイスが鼠の頭を強打し、鼠が壁に叩きつけられる。追い討ちに頭に思いっきり振り下ろすことで頭部を陥没させしっかりと仕留める。

こういった連中は刃物が通りやすいが打撃武器のほうが楽でいい。刃物だと刃毀れを気にしなければならないが、こちらは気にする必要がない。楽なものだ。やはり打撃はいい。見栄えは悪いかもしれんがその裏には確かな実用性を秘めている。久々に振るったが繊細な刀剣などと違って多少乱暴に扱っても大丈夫なのもいい。突き刺す用途などには使えないが頭を潰してしまえば大抵の生き物は死ぬだろう。

 

今のでノルマ分は達成。これで下水道の依頼は終えた。ちなみに蟲の方はすでに呪術で燃やして(消毒)ある。あれはいかん。下手したらゴブリンより恐ろしいのではないか?見た目の悍ましさならデーモンにも勝てるかもしれない。

さて討伐の証拠もすでに回収したことだ。俺にとっては時間は無限だが、無駄にはするまい。次はゴブリン退治だ。

 

 

下水道から出た足でそのままゴブリンが出たという村へと向かった。

家畜や作物が持っていかれるというゴブリン退治ではありふれた被害だ。被害は散発的に起こっているらしいのでまだマシな方だろう。恐らくは巣穴を失った連中か…だが過去に潰した例では近くに巣穴を新たに作り、そこに集結している可能性もある。初の依頼でそうだったのだ。警戒はしておくに越したことはない。

村の人々に聞いて、ゴブリンがやってきている方角へと歩いていると足跡を見つけた。こうした痕跡をそのまま残すあたり奴等はやはり馬鹿なのだろう。わざわざ見つけてくださいと言っているようなものだ。

足跡を辿ると洞窟があった。やはり巣穴を作っていたか。まぁ、でなければ定期的に村に入り込むことなぞ出来まい。今回は以前と違って洞窟は埋めてしまうことにした。

まずは出入り口を封鎖。レドの大槌を取り出して入り口を崩した。ガラガラと音を立てて岩の瓦礫で入り口は完全に封鎖された。あとは通気口があるかどうかだ。いくら洞窟とはいえ巣穴にするには空気を取り込む場所を作る必要がある。どこかに…あった。小さいが棒切れが一本入るくらいの大きさが洞窟反対側の上側に空いている。

…おそらく位置的には奴等のねぐらだろう。そうでなくても奥の方だ。都合が良い。穴から以前買ったものの使っていなかった油を流す。大量の油を流してそのまま地面に沿って残った油を導火線代わりにして火をつける。パチパチという音ともに内部から煙と醜い叫び声が聞こえた。どうやら当たりのようだ。穴に顔を近づけると中にいるゴブリンが見えた。穴から新鮮な空気を吸おうと詰め寄って仲間割れをしているらしい。ゴシャグシャという音が焼ける音に紛れて聞こえてくる。良い感じに燃えているので油を追加で投入する。中から聞こえる火の音と叫び声が一層大きくなった。

しばらくして声が聞こえなくなったのを見計らって入り口の瓦礫を粉砕して内部に突入する。あれだけの勢いで燃やしたのだから生き残りはいないと思うが万が一もある。確実に仕留めたかどうかを確認しないで帰るのは三流もいいところだろう。

黒焦げの死体が一、二、三…全部で八匹程か。上位種の姿は無し。周囲に動物の骨のような物が僅かに確認できることからこいつらが今回の討伐対象なのは間違いないだろう。

 

あとはギルドに戻って報告だな。今回はこれで…む?

炎で黒焦げになった洞窟の隅にある物が俺の目に止まった。黒い煤に塗れてはいるが何か金属がある。これは…

 

「螺旋の剣…?だが…」

 

そこにあったのは刀身が半ばから砕けた螺旋の剣だった。刀身の部分が半ばから折れているが折れた先の部分も一緒になっている。普通の人間なら精々変わった形の剣のような物が折れている程度の認識だろうが、俺にとっては重要だ。もしかしたら転送出来る場所が増やせるかもしれないのだ。問題は…

 

「街の鍛冶屋が直せるかどうか…か…」

 

最悪何年もかかるかあるいは直せないかもしれん。その場合は諦めるしかない。

ギルドに報告を済ませたら鍛冶屋に見せてみようか。

 

俺は螺旋の剣をソウルへしまうと依頼の報告の為ギルドへと帰還した。

 

 

〜〜〜

 

 

「戻った。依頼は無事に終わったよ」

 

「お帰りなさい。ご無事で何よりです。あっそういえば以前放浪さんと組んだ戦士さんを覚えていますか?放浪さん見かけたら探してたって伝えて欲しいと言ってましたよ」

 

「ああ、不動産屋から出た時に会ったよ。酒飲みに誘われたな。まぁまだ夜には時間があるし、依頼も終わったことだからあとは街の中で時間を潰すさ」

 

「そうですか。なら大丈夫そうですね。…はい。依頼内容通りの報告ですね。こちらが今回の報酬になります」

 

受付嬢から報酬金を受け取ってそのまま鍛冶屋へ。そこでの用が終われば丁度いい時間だろう。

 

「ん?なんだお前さんしばらく見とらんかったな。何の用だ」

 

「これを直せるか?」

 

俺は机に折れた螺旋の剣を置く。

 

鍛冶屋の店主はそれを手にとってじっと見つめるとふぅと息を吐いた。

「研ぎ直すにしても無駄だな。そもそもこいつは武器なのか?こんな変わった形の剣は見たこたぁねぇ」

 

「当たり前だ。それは武器ではない。で、どうだ。直せるのか?」

 

「刀身が残っているから直せるが金もかかる。それでもいいなら直してやるが…見たことねぇ奴だからどのくらいかかるか分からんぞ」

 

「構わんよ。直るのであればいくらでも待とう。それこそ何百年でもな」

 

「んなにかかってたら俺ァとっくに天寿全うしてらぁに…時間はかかるかもしれねぇが必ず直してやる。だがそれまでは気長に待つんだな」

 

「ああ、分かった」

 

そう言って鍛冶屋を後にする。それでもまだ少し早いか…先に酒場で飲んでいようか。どのみち不死である俺は酔わないのだ。先に飲んでいても問題はなかろう。

 

 

〜〜〜

 

 

「よぅ、待たせちまったな」

 

「構わんよ。大分先に来ていたが遅れない為に先んじてここで時間を潰していただけだしな」

 

「…その言葉を女に向けて言うなよ?ガッカリさせちまうからな」

 

やれやれ…と呆れながら俺の隣に座り酒を頼む男戦士。

 

「お前さんは先に飲んじまってたみたいだが…俺達の無事に乾杯」

 

「ああ…乾杯」

 

コツンと樽のジョッキの音が響く。そのまま二人して酒を呷った。

 

「そういや知ってるか?なんでも北の城塞都市のほうで魔神王とやらが倒されたって話」

 

「いや、初耳だ。その魔神王?とやらは何なんだ?」

 

「魔神王を知らねぇのか?まぁ簡単に言えば混沌の連中の勇者みたいなもんだよ。化物達の親玉。何匹もいるらしいがそのうちの一体が迷宮で倒されたんだとよ」

 

「ほぉ…」

 

成る程な。つまりその魔神王とやらを倒した人たちは英雄扱いというわけだ。普通なら名誉なことだろうが俺にはそれを肯定することが出来なかった。英雄という人達がどのような結末を迎えるかを知っているからだ。

 

「…それで?態々呼び出してまでただ酒を飲みに来たわけではないんだろう?」

 

「…ああ。お前さんには言っとこうと思ってな」

 

神妙な顔つきになってもう一度ジョッキを傾ける戦士。さっきまでの明るい顔はなく、今の彼からはまるで戦いに疲れ果てた兵士のような顔つきになっている。

 

「引退をな、考えてるんだ」

 

「…ほう」

 

「つったって冒険者をやめるわけじゃねぇ。ただ一線を引くって意味だ。昇給審査も控えてるしな。銀等級になって少し活動したら、本格的な活動は控えようと思ってる」

 

「何故?貴公程の腕ならばむざむざやめる必要はないのではないか?」

 

「…まぁ、な。だが俺ももう冒険者をやって長い。かれこれ十年以上はやってる。それに自分で言うのもなんだがいい歳だしな。後進に道を譲ろうと思ってるのさ」

 

「そうか…」

 

「あとは…なんだ。嫁のこともあるからな。心配させちゃいけねぇと思ってよ」

 

「そういえば貴公の伴侶はどのような人物なんだ?その言葉を聞く限りでは同業者というわけではなさそうだが」

 

「ああ、街で薬師の仕事してる娘でな?昔大怪我して街に帰ってきたときに助けてもらったのさ。意識が戻った時にあいつの顔みて一目惚れしちまったのよ。まるで天使のようでな…」

 

「よく相手方が了承したな? 娘ということはそれなりに年は離れているのだろう?」

 

「そりゃあな。だが愛に年の差は関係ねぇ。何度もアプローチを続けて今に至る…ってわけさ」

 

…愛か。愛とは何なのだろうか。俺には最後まで分からなかったな…過去に多くの女性と関わりはしたがどれも人して愛を育んだ覚えはない。お互いにそんな感情はなかっただろうしあの世界にそんな余裕はなかった。

 

俺もいずれ誰かを愛することが出来るようになるのだろうか?こんなつまらない人間のなりそこないを好く酔狂な奴がいるとは思えんが…

 

「…そうか。指輪は渡したのか?」

 

「いいや。まぁすでにOKは貰ってるんだ。銀に上がってから稼いで渡すのも遅かぁねぇだろ」

 

「しかし引退か…あの二人には言ったのか?」

 

あの二人とは彼の一党である森人野伏と男僧侶の事だ。

 

「いいや、あいつらにも言ってねぇ。いずれは話すつもりだけどな。ただ僧侶も言ってはいたんだ。孤児院にかかりっきりになりそうで一党を組むのは難しくなりそうだってな。野伏のほうは森人だからまだ冒険者を続けるとは言っていたな」

 

「成る程な…」

 

「もし野伏が行き場に迷ってるようだったらお前さんが面倒見てやってくれねぇか?腕のいい野伏だし悪くはねぇと思うぜ?」

 

「それは後輩に頼むことではないと思うのだがな…」

 

「はっはっは!お前さんだからこそだよ。あんだけでけぇ悪魔をぶっ倒しておいて先輩も後輩もないさ」

 

「…まぁ考えておこう」

 

「おう。考えておいてくれ。…んじゃそろそろ俺は行くかな」

 

「ああ。…貴公はその幸せを手放すなよ」

 

「おうとも。手放すつもりはねぇ。あいつを残して死ぬつもりはねぇさ」

 

じゃあな。と言って彼は後ろ手を振って酒場を出て行った。

 

…俺は暫くジョッキの中の酒に映る自分の顔を見つめていた。何故だろうか。

今俺は酷く彼に対して劣等感を抱いていた。…何故だ…。

 

ああ、そうか。彼は年を取りながら幸せを掴んだ。つまり、俺は…

 

俺は…、羨ましかったんだ。

 

 

 

~~~

 

 

 

自宅である教会に戻り備え付けの鏡の前に立つ。そこには自分が鏡写しになるように映っていた。

そっと兜を取り、自身の顔を見つめる。

そこには若々しさを残しながらもどこか老成した雰囲気を持っている。そんな顔つきだった。髪の色はまるで自身のかつての存在を表すかのように灰色だ。

鏡に近づいて己の瞳を見る。そこには未だに「呪われた証(ダークリング)」が残っていた。

 

(使命は終えても宿命(呪い)は消えず…か…)

 

ふっと笑い兜を被りなおす。今更嘆いたところで変わるまい。元よりわかっていたことではないか。あの地にたどり着いた時点で元に戻ることなど出来ないのだと。

 

天上にある月を見る。その手にある赤い瞳はずっと二つの月を見つめている。だが、これを使用したところで何も起こらなかった。何か条件でもあるのか…あるいは時がまだきていないのか…。あのデーモンを招く元凶を葬った時に俺は今度こそ人して生きられるのだろうか?いつになるかは分からないが…今は…

 

今は所詮真似事でもいい。人のなりそこないである俺でも、「人のように生きること」くらいは…

 

そのくらいなら、許されるだろう。

 

俺もいつの日か…

 

かつて亡者の王と崇められた時に誰かに用意された物言わぬ伴侶ではなく、

 

互いを愛する伴侶に出会えるのだろうか?

 

それがいつになるかは分からない。だが…

 

それまでは…冒険者として人々の平穏を守ろう。

 

俺は世界を救う英雄ではないが、それでも。

 

それが今の俺に出来る唯一つの事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時が流れ、舞台は五年後へ。物語は始まり(イヤーワン)へと。

 

彼の長い旅はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 




エピローグっぽく書こうとして見事に失敗\(T)/
10年前の「彼」の話はここで終わりです。

次からはようやくイヤーワンへ。
やっと原作入れるねん…。

感想評価してくれる方ありがとうございますm(_ _)m

それと誤字報告してくださってる方ホント助かってます。投稿前に2~3回くらい見直すんですけど自分だと殆ど気づけないという…
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