世界を救った果てに貴殿に待っているのは
決して軽くはない重石になるぞ
…だが、それこそが―
…この断片は見ずとも良い。貴公らの目に入っても大して意味のないものだ。
幕間 きっと世界はー
そろそろ行こう。という
淀んだ瘴気、石畳の冷たい感触、全身を押しつぶすような圧迫感を女司祭は『御守り』を握り締める事で和らげる。
…これが無ければ自分は今よりずっとあの悪夢に悩まされていたかもしれない。
彼女達は迷宮の通路で休息を取っていた。上では既に混沌の軍勢との戦いが始まっている頃だろう。
頭目は片刃の剣を点検しているのかカチャカチャと鎧の板金が微かな音を立てていた。
「大丈夫ですか?」
柔らかい声音で声をかけてくれたのは女魔術師。その声に彼女は頷いた。
「ええ、大丈夫ですわ」
心配をかけないようにしっかりとした返事を返し立ち上がった。
「何かあったら言ってね?あの子は本当に女の子に気が回らないから…」
頭目の彼がはいはいと受け流し、もう、と膨れる様子がわかる。…彼等と一党を組んでから見慣れた光景だ。
一党において、後ろで指揮をとって呪文の采配を振るっている彼女を皆信頼していた。それは自分も同じで、彼女は何かと面倒を見てくれた。感謝してもしきれない。
…振る舞いが少しばかり粗忽なのがたまにきずだが…
「しかしどちらにせよ、進むか戻るかは決めなければならんな。昇降機はそう離れてはいない」
蟲人僧侶が低い声でいった。経験豊富で年長者である彼はいつも慎重な意見をくれた。
「これから先の戦いは覚悟のない奴について来られては困るからな…」
少々つっけんどんな口調なものの長い付き合いでそれは気にならなくなっていた。微かに笑みが溢れてしまう。蟲人僧侶はガサゴソと地図を広げて道をなぞった。
「場所は中間のあたりだ。このまま行くか、一度帰還するか。俺はどちらでも構わんぞ」
「でも術は節約して進んどるから、まだ余裕はあるやろ」
「っちゅうても術の回数と体力気力は別やさかい。途中でバテたら洒落にならんしなぁ。もうちっと休んどくか?」
「あらあらぁ?もう疲れちゃったのかしらぁ?」
揶揄うように笑みを浮かべながら女戦士が手にしている槍で半森人の斥候を軽く小突いた。恐らく女性らしさという点ならば一党の中で彼女が最も魅力に溢れているかもしれない。
しかしそれは過酷な経験を経てきた結果で自分が気づけたのは、自分も同じ道を通ったが故だろう。…自分はその過去を噫にも出さない彼女を素直に尊敬していた。
「ダメねぇそんなんじゃ。女の子に嫌われちゃうわよぉ?」
「やかましいわ」
まったくねぇ?と女戦士が囁いてきて思わずくすりと笑ってしまう。最初こそ気後れしてしまったものの今ではすっかり友人であり仲間だ。
…今ここに来るまでの冒険で誰かがか欠けていたらここまで来ることは出来なかっただろう。
「君はどうだ?」
「えっ?」
不意に頭目から声をかけられて首を傾げてしまう。こちらを見ながら返答を待つ彼は呑気なようでいつも全員に気を配っていた。誰か一人の話だけでなく必ず全員の話を聞いてくれていた。…そうでなければ彼の一党についていかず自分は今頃『彼』のほうについていったかもしれない。『彼』とは戦う場所が違うが故に別れたが今尚自分の胸に『彼』の事は刻みこまれている。
ここまでこれたのは一党の皆がいてくれたからだ。みんなが互いを支えあってきたからだ。皆が自分の言葉を待ってくれている。
「…そうですわね。次はないかもしれませんもの」
皆との冒険と、そして『彼』との出会いが自分をここまで立ち上がらせてくれた。
「わたくしは、行きたいですわ。…決着をつけに」
「なら、行こう」
彼がそう言うと、一党の皆が顔を見合わせて揃って頷いた。
「このまま敵の頭と決戦か。面白い、腕が鳴る」
「へっへっへ。魔神王なんざワイの手にかかれば、屁の河童よ!」
「じゃあ、もし負けたら貴方のせいねぇ」
「お、おおぅ…」
「大丈夫ですよ。皆さんのことは頼りにしてますから」
他人事みたいに言うなと頭目が女魔術師に苦笑い混じりに言って歩き出す。
自分も後に続いて、未だに豊かではない胸の前で、『御守り』と天秤剣をぎゅっと握りしめた。
もしかしたら誰かが死ぬかも知れない。どれほどの傷を負うかも分からない。地上で戦っている人達も、もしかしたら全員が死んでしまうかもしれない。
『彼』に再び会うことなく自分だけが死ぬかもしれない。自らの胸に秘めた誓いを果たすことなく…
―それでも。
それでも、世界は―
本当は一緒に入れようとしたけど分割。
少しでも文字数どうにかするために幕間という形で。
いらん話かもしれないけどここで出しとかないとしばらく「彼女」が出せそうにないので…