放浪騎士   作:赤い月の魔物

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…俺はずっと、何を探して、ここにきたんだ…

…ああ、誰か、教えてくれ…

…俺はいったい、なんのために…


第16話 見えぬ目標

あれから数日後

 

お昼を過ぎた午後の日差しが差し込む森の中。そこに冒険者の声が木霊していた。

 

「むんッ!ウハハハッ!小鬼なぞ私の敵ではないわー!」

 

小鬼を柄が長く取られた特大剣(ツヴァイヘンダー)で叩き潰しながら、玉葱のような形の兜をかぶった男騎士が豪快に叫んだ。

 

「一体だけに気を取られるな。奴等は一匹足りとも逃すわけにはいかん」

 

「おうとも!人々を脅かす小鬼共を許す道理など無し!」

 

俺の言葉に力強い返事を返して、横薙ぎにツヴァイヘンダーを振り抜いて複数のゴブリンをまとめて始末していた。

視界の端に逃げていくゴブリンが目に入り、投げナイフを投げて転ばせて、首根っこを掴んで『浄火』で焼いた。

 

「それっ。…やれやれ、銀等級になってまでゴブリン退治、とはね」

 

ゴブリンの腹を刺し貫いて薙ぐ動作でゴブリンを引き抜いているのは圃人の軽戦士だ。

 

小柄な体躯ながら身の丈以上の槍を自在に操っているのは彼の鍛錬の賜物だろう。目的の為に努力を惜しまず、進み続ける。そんな姿勢が俺にはとても好ましかった。

 

「全くだぜ。ったく旦那も、もうちょい身入りのいい依頼を持ってきてくれても良かったんじゃねぇか?これじゃ全員に報酬分けたら殆ど残んねぇだろ」

 

文句を言いながらも圃人軽戦士と同じく槍を振るっているのは男斥候。軽戦士も兼ねている彼はこの面子では唯一鋼鉄級と等級に大きく差があるものの、その実力を見て俺が誘ったのだ。等級も身分も関係ない。その言葉を見事に体現している男だった。…まぁ風体の悪さと昔の知り合いにとても良く似ていたので当初はかなり警戒していたのだが、それも杞憂だったようだ。…多分。

 

「文句言わないの。これに限らず鼠退治や蟲退治だって立派な仕事なのよ?身入りが少ないからって受けないのは冒険者の名折れだわ」

 

そう言って流れるような動作で弓を引いて、次々とゴブリンを射抜いているのは森人の野伏。彼女は五年前に出会った男戦士の一党で野伏をしており、彼に誘われて同行した遺跡調査で共に戦った間柄だ。男戦士が銀等級に上がって少ししてから戦士と僧侶が一線を引いてしまったので一党としては俺が引き取った形になる。ただそれでも普段は一緒に依頼には行かないが、この面子の中では最も一緒に依頼をこなした回数は多いだろう。

 

「へいへい。で、後いくつだ?もうかれこれ四件は消化したよな?」

 

「ああ。これで五件。…全員分終わりだ。街に戻るぞ」

 

「うーい。あ~ぁ、もっといい稼ぎの依頼に行きたかったぜ」

 

だらしなく伸びをしながらも帰路につく斥候を見て、苦笑いをしつつ答える。

 

「さすがに昼過ぎではもう殆ど持ってかれた後だ。いい稼ぎの依頼なら朝一に行くしかあるまいよ」

 

「…ホント、よく旦那はこんなこと続けられたよな。毎日この数の依頼を見境なしにやってたんだろ?」

 

「ああ。私は私に出来ることをしたくてな。自己満足だが、それが私に出来る唯一の事だと当時は思っていたんだ」

 

やれやれと両手を広げて呆れながらも笑いながら俺を揶揄う斥候。そこにひょこっと顔を出して森人野伏が聞いてきた。

 

「当時は?ってことは今は違うの?」

 

小首を傾げながら聞いてくるその動作は見るものが見ればさぞ魅了されただろう。俺は何も感じなかったが。

 

「今は、な。戦うだけが全てではない事を知ったからな。戦うこと以外にも手を出してみたのさ。これでも料理の一つや二つは出来るぞ?」

 

「あら、そうなの?…なんか意外だわ。貴方、料理なんて絶対しないと思ってたのに…」

 

まるで未知の生物を見るかのような視線を向ける森人野伏。失礼な。五年も戦いっぱなしだと流石に飽きが来るから色んな事に手を出しただけなのだが。見れば周りの皆もすごく意外そうな顔をしている。お前ら…

 

「へぇ…料理っていうけどちゃんと食べられる物だよね?肉を焼いただけ、とかじゃないよね?」

 

圃人軽戦士が興味深げに目を細めている。…揶揄っているな…

 

「ちゃんとした物を作れる。以前何度か酒場の厨房に立ったこともあったぞ」

 

「嘘っ…?じゃぁ酒場にいた人はもしかしたら貴方の料理を食べてたかもしれないの…?」

 

私だって食べた事ないのに…最後のほうは尻すぼみになって聞こえなかったがそんなに意外か。俺はあくまで趣味の範疇を得ないが、皆なら生きる上でいい知識になると思うのだが…

 

「うーむ。であればいずれ貴公の手料理にあやかるとしようか!酒の肴にちょうど良さそうだ!」

 

「機会があればな。その時は文句の言えないような物を食わせてやるさ」

 

「へぇ。じゃぁ楽しみにしてよっかな♪」

 

軽やかな足取りでステップを踏むように前に躍り出て言う森人野伏。だが彼女は森人だから肉は苦手そうだ。昆虫食でも調べておくか…

 

「しっかし、ゴブリン共はホント減らねぇなぁ。旦那も五年の間に結構な数倒したんだろ?」

 

転がっていたゴブリンの死体を蹴っ飛ばしながら男斥候が疑問を口にした。

 

「ああ、そのはずだ。控えめに見ても二日に一度は一日中ゴブリン退治の依頼受けるくらいのペースでやっていたはずだが…」

 

あわよくばそのついでに『俺の敵』の手掛かりを掴めればと思ったが、一向に掴める気配はない。やはり辺境ではなく都の方に行くべきか…?

ここ最近では、俺の知るデーモンの目撃情報もない。ギルドで受付嬢に頼んではあるものの余りいい成果は出ていない。昇級の話も真面目に検討すべきか。一応向こうが言うにはもういつでも昇級させていいとの事だが…

 

「奴等はどこから来ているんだろうね。曲がりなりにも混沌の連中、呼び寄せている奴等がいるのは間違いないと思うんだけど」

 

顎に手を当てて圃人軽戦士が考えを述べる。幼さの残る顔立ちのはずなのにその仕草が妙に合っていた。

 

「うーむ…私が思うに小鬼共は、あの空の月から来ていると思うのだが、どうだ!」

 

腕を組みながらもそんな事を言う男騎士。玉葱兜の姿がかつての友を思い起こさせる。あいつはいつも答えを出すのに考え込んでいたな…

 

「馬鹿言うなよおっさん。それなら流れ星は小鬼とでも言いてぇのか?だとしたらとんだ大惨事じゃねぇか」

 

両手を広げて呆れながらもそんな事を言う男斥候。なんだかんだでこいつは現実主義だ。

 

「まぁ構うまい。そういった答えはいずれ然るべき時に出るものだ。そろそろ街に戻るぞ」

 

…とは言ったものの、本当に出るのだろうか。未だ俺自身、倒すべき敵を見つけられていないのに。

 

 

 

~~~

 

 

 

ギルドに戻って報告を済ませ、一党の皆と軽い祝杯を挙げた後、俺は自宅へと戻っていた。この五年間の間に余った金で改装をしたおかげか、ある程度綺麗になっていた。

一軒家と何ら変わらない大きさのそれには欠けた月に剣を添えたシンボル(暗い月の騎士の紋章)がついており、全体は白く、如何にも誰かが通っていそうなものだが、俺以外の人はいない。地下室は倉庫だが、今は特に何も置いていない。…というか不死人()はソウルに物がしまえるので実質ただの地下室扱いだ。片付ける前に木箱やら何やらが置いてあったので恐らく倉庫だったのだろう。

 

裏庭にある篝火で腰を下ろし、夜空を見上げて思案する。

 

どうしたものか…

このまま辺境で依頼を受け続けていくか。あるいは都に移り()()()()()を受け取るか。

 

実際こちらで受けた依頼はまだしも、受付嬢を通してまわされてくる名指しで送られてくる依頼は大体が都に近い場所だ。最近…特に一年ほど前からその機会はかなり増えていた。

 

大体七日に一回(週一)くらいのペースで来ていた気がする。

最近は収まってきたと思ったが…それもこの前の捜索依頼兼キマイラ退治によって再び都付近へ向かうハメになった。

 

今俺に示されている道としては少し前にも挙げたが昇級がある。

受付嬢が言うにはもう金等級にはいつでも上がれるらしいのだが、当時は一度断った。金等級とは冒険者の等級第二位であり、国家レベルの難事に関わる冒険者だ。

言い方が悪いかもしれないが、つまり金等級になれば、向こうで当分は難事にこき使われて、自由に動ける時間が減る、ないしは無くなるということだ。故に俺が昇級を断ったのは自由に動けなくなる可能性が高いからだった。そうなれば手掛かりを探すどころではない。

 

五年前に魔神王とやらを倒した冒険者の一党もその功績を讃えられて金等級になっているらしい。

俺はそんな功績はないのだが、それも過去に向こうのギルドで金等級案件の怪物を何度も返り討ちにしたからだろう。

 

気づけば帰ってきたとき受付嬢に昇級の話を嬉しそうにされたのを覚えている。ただその時、受付嬢の顔が僅かに曇ったのも見逃さなかった。俺が昇級を断ったらすぐにパァッと顔を明るくしていたが。何故だ、やはり金等級の冒険者は過酷なのだろうか?

 

俺は『英雄』の仲間入りを果たすつもりはない。ない、のだが…

 

選択肢は二つに一つ。虎穴に入らずんば何とかを得ずとも言う。

 

…俺も、いい加減選ぶべきなのかもしれない。つまらない意地を張っても仕方ないのだ。いつまでもこのままでは、俺も前に進めない。

 

もう少しだけこちらで活動したら、昇級の話を受けてみるか…

 

「…道化だな。これでは」

 

 

〜〜〜

 

 

ギルドへ向かい、いつも通り依頼を見ていると、後ろから声が掛けられた。

 

「よぉ旦那。相変わらず余り物を漁ってんのかい?」

 

振り返ると男斥候がニヤついた顔で立っていた。得物である槍を肩に担ぎながら依頼書をチラつかせている。

 

「私はな。そういう貴公はどうしたんだ。今日は別行動か?」

 

「まぁな。俺は俺で単独でもやれそうな依頼があったからよ。…受付からは渋い顔されたけどな」

 

「いつものことだろう。貴公は実力はあるんだ。堂々としていればいい」

 

「なーに、今更気にしてねぇよ。んなこと気にしてたら冒険者なんざやってらんねぇってな」

 

「手は必要か?」

 

「いや、いらねぇ。旦那の手ェ借りるほどじゃないしな。…仮に罠があったとしても(騙して悪いが)、俺の事考えりゃ分かるだろ?」

 

「…だろうな」

 

「そういうことだ。『好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰の為でもなく』それが俺達のやり方だろ?」

 

俺達が顔合わせをして、俺の在り方を示した言葉をそのまま言ってみせる斥候。…未だに覚えていたとはな。

 

「それを言われたら、私は何も言えんな。死ぬなよ?」

 

「へいへい。俺様にかかりゃちょろいもんってな」

 

んじゃぁな。と言って手をひらひらとさせてギルドを出て行く斥候。まぁあいつは前衛もこなせるし、人の悪意に鋭い奴だ。()()()()()類に関しては心配はいらないだろう。

 

俺の方はというと掲示板に貼られているものではどれも、手を出しにくいものばかりだ。

手を出しにくいと言っても厳しいというものではなく、場所が遠いのだ。

全体的に指定された位置がバラバラで、これでは一個をこなしてもう一個と行こうとすると移動にかなりの時間を要してしまう。

 

…参ったな。一件だけ受ける、というのも…恐らくすぐに終わって時間を持て余すだけだ。

仕方ない、こういう時は…

 

素直に受付に行くとしよう。貼り出されていない近辺の依頼があるかもしれない。

 

 

~~~

 

 

俺はいつも世話になっている黒髪の受付嬢に声を掛ける。彼女は俺を見るなり手をつけていた書類仕事を中断して、普段と変わらぬ笑顔で応対してくれた。

 

「どうしました放浪さん?何か依頼でもお探しですか?」

 

「ああ、どうも今日はあちらに貼り出されている依頼の場所が疎らでな。近場の依頼があればと思ったんだが」

 

「ああ…新人さん達が増えた時期だからと言うのもあって近場の依頼は殆ど残ってないですね。…一応あるにはあるんですけど…」

 

珍しくそう言って苦笑いし、視線を落として口篭る受付嬢。何があったのだろうか。

 

「…何か、あるのか?」

 

「それは、まぁ…」

 

すっと隣の受付を手で示す。その動きに釣られて隣を見てみると机に突っ伏している髪を三つ編みにした新人の受付嬢がいた。そしてそこに積まれている書類の山。そういえば彼女はゴブリン退治の書類を…

 

「…そういうことか」

 

人知れず溜息が漏れてしまう。成る程なぁ…彼女も苦労するわけだ。毎日毎日減らないゴブリン退治の書類の山。あれを受ける冒険者が他に何人いるだろうか。今となっては俺は余り意識したことがないが他の人々にとっては報酬も安く苦労に見合っていない為か、やはり白磁の新人を除いて受ける冒険者は殆どいないようだ。

そうこう思案していると巨漢の冒険者が新人受付嬢のところへ顔を出した。

 

「よぉ、トロル退治の依頼なんかないか?ありゃぁ上手くやりゃ結構稼げるんだが」

 

「すみません。今日はトロルの依頼は…」

 

顔を曇らせながらも書類をめくっていく新人受付嬢。…あの様子だとなさそうだ。

 

「あの、ゴブリンでしたら…!」

 

「ゴブリン?」

 

新人受付嬢がゴブリン退治の依頼を提示するが、対面の巨漢の冒険者の反応は渋かった。まぁそれが普通か…

 

「ゴブリンなんて身入りも少ないし、面白くもねぇからな。そういうのは白磁の仕事だろ」

 

その反応を見て、新人受付嬢が一瞬唇を噛んだ。

…あの表情は以前にも見たことがある。俺を担当してくれた受付嬢も五年前にあんな表情をしていたことがあった。依頼を選ぶのは冒険者の自由。あくまで彼女達は斡旋する立場であって無理強いをすることはできない。してはいけないのだ。

 

…過去に半ば押し付けられるように受けた依頼もあった気がするが、あの時は他に回す人間がいなかったんだろう。そうだと思いたい。

 

「すみませ…「ゴブリンか?」

 

新人受付嬢が頭を下げようとしたその時、いつぞやに聞いた低い声が聞こえた。

巨漢の冒険者の後にいた声の主は、以前俺が助言をした青年だった。

顔を覆い隠す鉄兜に薄汚れた革鎧、片腕には小盾を括りつけ、腰には俺が渡した短めで幅広の直剣(ブロードソード)を下げている。

 

以前は見た新品同様の綺麗だった面影は消え、すっかり汚れたその装備は幾度かの冒険を経た証拠になっていた。

 

「ゴブリンか?」

 

「あ…、はい」

 

繰り返し言う青年の問いに新人受付嬢は小さく頷いた。青年は淡々とした口調で言葉を続ける。

 

「そうか。ゴブリンなら俺が行こう」

 

「なんだ、白磁の坊主か。お前この前もゴブリン退治請けてなかったか?」

 

青年を横目で見ながら巨漢の冒険者が訝しげな顔つきになる。青年はその問に対しても淡々と答える。

 

「ああ、ゴブリン退治をした」

 

「ふぅん。そうか」

 

興味もなさげに巨漢の冒険者は頷き、直後に笑みを浮かべてカウンターから書類を一枚手にとった。

 

「なら、ちょうど良い。俺はこっちの、火冠山(ファイアトップマウンテン)とやらの魔術師退治をやらせてもらうぜ」

 

「あ、はい!地下迷宮だそうですので、どうぞお気をつけて」

 

慣れてきたのか慌てながらも、滞りなく書類を書くその姿は五年前の受付嬢を思い出した。…彼女はもう少し落ち着いていたような気がするが。

 

「新人はゴブリンか鼠退治から頑張んな」といって巨漢の冒険者は立ち去っていく。俺も行くか。

 

「私も依頼を受けたい。何かあるか?」

 

横から入る形になってしまうが今回は問題ないだろう。

 

「あんたは…」

 

「わ、ええと。今あるのですと…」

 

こちらに気づいた青年とわたわたと慌てる受付嬢。書類をペラペラと捲ると、目に止まったであろう書類を一枚俺に見せてきた。

 

「こちらの、遺跡調査とか…!」

 

調査、調査か。それも遺跡と来た。彼女としては咄嗟に手にとった物なのだろうが、俺にとってはこの世界での遺跡調査にあまり良い思い出がない。

デーモンがいるわ、罠が多いわ、入り組んでいるわ…他にもあげればキリがない。

 

「いや、私は近場の適当な依頼を受けに来たんだ。私が第三位(銀等級)だからといってそんな無理に身入りの良い依頼を出さなくてもいいんだが…」

 

本音は可能なら調査依頼に行きたくないのだが。少し前にも新人の一党が遺跡調査に行っただのという会話が聞こえたのだが良く無事でいられたものだ。

 

相変わらず調査依頼の脅威度の認識がおかしい気がする。いくら一党を組んでいても新人達を何も分からない遺跡に何故放り込めるのか?それとも俺の行った遺跡がたまたま化物が潜んでいただけだったのか?うーむ…

 

「ええと、それですと…その、ゴブリン退治、とか…」

 

無理やり作ったような笑顔で、書類をペラペラとめくって見せる新人受付嬢。

 

「なら、それで構わん。貴公もゴブリン退治か?」

 

「ああ。ゴブリンだ」

 

鍛冶屋で助言をしてから、この青年からゴブリン退治について聞かれた事があったな。

ただその内容はどうすれば効率的に奴等を殺せるか、というものが殆どだったが。

 

その時、俺は自身が思いつく可能な限りの助言をしたつもりだが、果たして何程役に立っただろうか…

 

特に大変な巣穴に関しては、

 

火攻めをする。

生き埋めにする。

通気口になっている穴から油を流し込んで着火する。

といった物くらいしか俺には浮かばなかった。情けない。

一応毒ガス(毒の霧)で燻り出す戦術も言おうか迷ったが、まだ新人である彼には厳しいだろうと思った為やめた。

 

「えっとですね。まず一件あるのが村の家畜を攫って、見張りの人が―」

 

「請けよう」

 

青年は依頼書を彼女からひったくるように受け取り、内容を見る。

 

「五、六匹か」

 

隣から俺も内容を見る。五、六匹では巣穴の類は無さそうだ。

 

「ふむ…それなら追い出された『渡り』の連中か。大したことはないな」

 

「…『渡り』とは、なんだ?」

 

俺の発言に青年が視線を向ける。その表情は兜に隠れ、見えなかったがどことなく疑問符を浮かべているように見えた。

 

「簡単に言うと『巣穴を持たないゴブリン』の事だ。今回貴公が手にとった依頼は単純に巣穴を失った、ないしは追い出された物だな」

 

「そうなのか」

 

「ああ、だがこれにはもう一つ意味がある。巣穴にいる『渡り』は経験を積んで巣穴を『渡り』歩いた連中を指す。シャーマンのいる巣穴にいるホブ…大柄な奴が大抵がそれだ」

 

「なるほど」

 

口数は少ないが会話は成立している。…本当に昔の俺を見ているようだな。

その様子を見ていた新人受付嬢がくすりと笑った。

 

「む、どうした?」

 

「何でもありません。えっと、それで依頼の方は…」

 

「今回は私も同行しよう。…する必要もないと思うがな」

 

「…いいのか?報酬は…」

 

「ああ、貴公が全て持っていけ。白磁の新人の依頼に酔狂な冒険者がついてきた程度の認識で構わんよ」

 

「そうか…わかった」

 

青年は少し思案して黙った後に了承の意を示した。

そして一通り、新人受付嬢から説明を受けて、彼女から「いつも、ありがとうございます!」と感謝の言葉を受けた。

 

隣の新人は何故感謝されたのか分かっていないようだったが。

 

 

~~~

 

 

「そっちに行ったぞ!」

 

「うわわ、逃げられちゃう!」

 

「囲めばそんなに苦労しないな!」

 

「気をつけてください!ゴブリンとは言え怪物ですから!」

 

どうやら俺達以外にもここの依頼を受けた奴がいたらしい。以前武具屋で見かけた若い新人の戦士とその仲間がいた。

 

前にも街中でチラりと見かけたがそれなりにバランスの取れた一党だ。

 

頭目(リーダー)である若い戦士と鉱人(ドワーフ)の戦士による前衛。

半森人(ハーフエルフ)野伏(レンジャー)と禿頭の只人(ヒューム)僧侶(プリースト)による後衛の一党だった。

 

彼等の一党と青年があちらで取り掛かっている間に俺は三体のゴブリンを相手していた。

今回の依頼で確認できたのは合計で六。向こうに三。こちらに三で半々で受け持っていた。

 

恐らく片方が囮を引き受けてその間にもう片方が盗むという算段だったのだろう。そのくらいの事は考えついたようだが残念ながら無意味だ。

 

俺は後ろ向きに倒れたゴブリンを踏みつけながら首に刺さった打刀を引き抜く。振り向くと、二匹の内一匹は逃げようとしていた。

 

もう一匹も後に遅れて逃げようとするが、同じ方向に逃げている時点で悪手だ。

投げナイフを慣れた手つきで投げるとヒュッという風切り音と共にゴブリンの足に突き刺さり、見事に二匹ともずっこけた。

奴等の落とした雑な作りの手斧を拾うと片方の頭に叩きつけ、もう片方は打刀で首を跳ねた。

 

俺の方はノルマは達成だ。向こうはどうだ…?

新人達は新人達で半森人の野伏が《泥罠(スネア)》で足止めして転んだゴブリンに鉱人の戦士が斧を振り下ろしていた。いい連携だ。

 

「これで撃破数は互角じゃな!」

「言ってろよ。次は俺が勝つから」

「どうやら怪我人はいないようですね。安心です」

 

ふぅと胸を撫で下ろしながら禿頭の僧侶が安堵の息を漏らした。

 

「そちらはどうですか?」

 

「問題ない」

 

「既に終わった。滞りなく、な」

 

見れば青年の方もゴブリンを組み伏せて、その背にブロードソードを突き刺してゴキリと背骨をねじ切っていた。

 

「一つ」

 

淡々と数を数えるその姿はまるで作業をしているかのようだった。

 

「…そちらで二、あっちで三、合わせて六か」

 

「ああ。やっぱベテランの冒険者は違うな!あっという間に片付けちまうんだし、俺も早くなりたいぜ!」

 

若い戦士は剣を鞘にしまいながら、息巻いて俺の方を見た。その目は、まるで失敗など有り得ない、未だに現実を知っていない目だった。…危ういな。

 

「貴公らも自身の実力を見誤らずに依頼をこなしていれば自然となれるさ。後は問題を起こさなければな」

 

「問題…?」

 

半森人の野伏が小首を傾げて、疑問を口にした。視線を移すと俺は彼女の疑問に答える。

 

「ああ。実力があっても性格や人格に問題がある奴は昇級出来んからな。力が全てと言うようなならず者同然の連中を上げるわけには行くまい?」

 

その言葉に新人の一党達は皆が成る程なぁと言った表情を浮かべていた。そして青年はふぅと息を吐くとニッと笑って話しだした。

 

「まぁゴブリン退治は装備を整える為だったからな。次の依頼は大変そうだ」

 

ほう、次の依頼ということは新人ながらに複数の依頼を受けたのか。

 

「ゴブリンか?」「違うって」

 

「鉱山の探索依頼なんだ」

 

そんなやり取りを交わす新人達。鉱山。鉱山か。粘液塊(ブロブ)は気をつけていればいいとしても大丈夫だろうが、岩喰怪虫(ロックイーター)とかも潜んでいたはずだが…

以前、何処かの鉱山内部で戦ったが、中々手こずった記憶がある。だが音を感知するとわかった瞬間に音送りを使って出てきた所に魔術(ソウルの結晶槍)を打ち込んで外殻を無理矢理貫いて討伐したな。

 

「金が取れなくなっちゃたんだよねー」

 

「大方、奥に怪物の手合いでも潜んどるんじゃろ。しっかしまさか他の冒険者とバッティングするとはなぁ」

 

確かに、これは俺も初めてだった。俺達が受けたのは村の防衛。あちらが受けたのは討伐の依頼だったらしい。

 

「まぁこれも何かの縁だ。なにせこいつと俺は同じ日に冒険者になったんだからな」

 

そう言ってバシバシと青年の肩を気安く叩きながら、ニカッと笑った。俺はその間にゴブリンが全て死んでいるかを確認して回っていた。

 

「なぁ、お前普段は単独(ソロ)なんだろ?良かったら次も一緒に…」

 

「いや、」

 

最後の確認をし、若い戦士がそこまで言いかけた所で俺の背後に倒れていたゴブリンが急に起き上がってきた。やはり死んでいなかったか。突如起き上がったゴブリンに新人の一党は身構えるが、襲った相手が悪かったな。

俺は手を伸ばし迫るゴブリンに対し盾を持った左手を振り返りながら思い切り振り抜いた。

ガンッという鈍い音と共にゴブリンが地面に打ち付けられ、そこに青年が剣を突き刺して止めをさした。

 

「ゴブリンだ」

 

「ちっ、死んだフリをしてたのか!」

 

「浅かったな。止めは確実に刺しておけ。冒険者をやる上でこういった不足の事態は付き物だ。常に気を配り、ギルドに帰るまで安心はするな。()()あってからでは遅いぞ」

 

死んだゴブリンを見ながら新人達に経験をそのまま口にする。新人達は顔を少しばかり青くしながらも頷いた。…こうして口頭で伝えることしか出来ないのが辛いな。今なら受付嬢の気持ちが分かる気がした。彼等は俺と違って死んでも蘇る事は出来ない。彼等の命は一つなのだ。彼等を見据えそのまま言葉を続ける。

 

「決して不安にさせるつもりはないが、兎に角気をつけろ。貴公らはこれから鉱山へ行くのだろう?ならば明かりは常に持ち、あまり音は出さずに、後は敵の奇襲…特に頭上からの奇襲には気をつけることだ」

 

「…分かりました。ありがとうございます」

 

禿頭の僧侶がお辞儀をして礼を述べる。言葉を並べるより同行するべきなのかもしれないが…

流石に自分の請けた依頼を放り出すわけにもいくまい。

 

「ああ、冒険者は命があってこそだ。死ぬなよ」

 

そう言うと彼等は次の依頼に向かった。

俺は青年と共に、村でゴブリン達の増援が来ないか、一晩明かすことにした。

 

日が沈み夜も更けた外で俺は二つの月を見上げた。…変わらない。何も変わっていない。

 

五年。あれから五年だ。俺自身はこの世界には慣れた。だが世界は何も変わってはいない。

…新人達に道を示しておきながら、その実自分は未だに迷っている。…とんだ笑いものだ。

村の方へ目を向けながら俺はポツリと一人呟く。

 

「…貴公は迷うなよ。迷い、何もかもを失った俺のようにはなるな…」

 

その言葉が誰に向けられたのか、知る者はこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――カランカラン。

 

 

 




それなりに手直ししてこのザマとは…
これが作者の限界か…

繋ぎの回で、すぐ書けるじゃろとか思ってたらそうでもなかった。ハハッワロス

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