放浪騎士   作:赤い月の魔物

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あの騎士の娘から、君に礼だそうだ。

…それ以上、何も話さなかったがね。







何故お前はあの剣を俺に渡したんだ。俺にはこれを振るう力はないのに。




第21話 羨望

「うわっ、わ!?」

 

「動きを止めるな。実戦では動きが止まった瞬間に死ぬぞ」

 

ガキン、という音が草原に響く。村から少し離れたところにある草原で俺と少女は剣で打ち合っていた。少女にはショートソードを渡して俺は鈍らの直剣(アンリの直剣)を使って稽古をしている。とは言っても俺の方からは一切切りかからず少女の方から来る攻撃を受ける度に弾き返すに留まっているのだが。

 

事の発端はつい先ほどの事だ。

 

 

~~~

 

 

「騎士さんに、お願いがあるんだ」

 

「…お願い?」

 

さっきまで見せていた無邪気な顔から一転、年端もいかない少女らしからぬ真剣な表情で俺を見据えてくる。だがふざけている…という訳でもないようだ。

 

「ボク、騎士さんみたいな冒険者になりたいんだ!だから…えと、ボクに戦い方を教えて欲しいんだ」

 

「…ほぅ」

 

…俺は兜の下で小さく呟いた。この世界で他の冒険者の話を聞いて冒険者に憧れる子供は少なくない。実際御伽噺に出るような英雄に憧れ自分もそうなりたいと言って冒険者になる者達は多い。そして、そう言って冒険者になった者達の大半が帰ってこない事も。

 

だがそう言って冒険者になった若者達の大半が亡き者になるのは知識が無いからだ。実際俺とて灰の墓所から目覚めた後は何度も死んだ。そこから知識を時に自力で、時に他者から得て多くの苦難をくぐり抜けてきた。知識を有して現実を知っていれば少なくとも最初の冒険で死ぬ確率は大きく減るはずだ。確率を大きく減らすだけなので絶対ではないのが辛いところだが。

 

俺の話を聞いて冒険者になりたいなどと思うとは…あれほど凄惨な旅の話(多少の脚色有)を聞いて何故そう思ったのかは定かではないが…一つはっきりとさせておく事がある。

 

「一応理由を聞こうか。理由も無しに冒険者になろうとしているわけではないんだろう?…それとも君も多くの新人達のように『英雄』とやらに憧れたのか?」

 

兜越しにではあるが少女の方へと視線を向け、真意を問う。もしこれでありきたりな理由であれば即座に俺はこの少女を切り捨てるだろう。勿論物理的な意味ではない。

 

「憧れはあるよ。でもそれ以上に騎士さんのお話を聞いてボクも世界中を見て回って困っている人を助けられたらって思ったんだ」

 

ありきたりな理由かもしれないが一応真っ当な理由が返ってきた。だが問題はそれだけではないはず。院長だっているだろうし村の皆もいるのだから勝手に抜け出す訳にもいかないだろう。

 

「…分かった。だが院長や皆にもちゃんと話すんだ。そこで何を言われても己を曲げない姿勢を見せて来い。本気で冒険者を目指すというのであればな」

 

「!…分かった!ありがとう騎士さん!ううん、これからはお師匠様だね!」

 

そう言って立ち上がって櫓から降りていく少女を見送る。…師匠か。

 

「まぁたまにはこういうのも良いだろうさ…」

 

誰に言うでもなく俺は青空に向けて呟いた。

 

脳裏に浮かぶ多くの師達。…今の俺を見たら皆は何と言うだろうか?

 

 

 

~~~

 

 

 

「てて…師匠容赦ないなぁ…」

 

「教えるのに手を抜いていいのならそうするが…君の為にもならん」

 

「それは分かってるんだけど…まだ一回も当てられないし…」

「一朝一夕で当てられたら私も立つ瀬が無くなってしまうからな。早々当たってはやれんよ」

「むぅー…」

顰めっ面をする少女に思わず笑みが溢れる。俺の師達もこういった心境だったのだろうか。ここ数日簡単な稽古を少女につけてやっているが、これでいいのかどうかは微妙な所だ。何分他者に技術と言ったものを教えた事はないので身体を動かして動きを染み付かせる事くらいしか俺には分からないのだ。後は実体験から心構えを教えるくらいか。…本音を言えば実戦で経験を積むのが一番なのだが流石に年端も行かない少女を連れ出すわけには行かない。

 

「焦る必要はない。君はまだ若い。今から鍛えておけば将来冒険に出てすぐに死ぬ事はないさ」

「…うん!そうだよね。よーし!頑張るぞー!」

「いい返事だが、一先ずここまでだ。そろそろ昼食の時間だろう?」

「えー?ボクまだまだ平気だよ?」

少女が不服そうな顔をして剣を構えたその時、グルルルルと草原に盛大な腹の虫が鳴いた。

 

「………」

 

「…へ、平気だよ!ボクはまだ…」

 

グルルルルと再び腹の虫が鳴く。一度空腹を自覚したのか口では平気と言っているが体は食事を欲しているようだ。俺はこの身体(不死人)になってから生憎腹を空かせたことはないのでこの音源は少女という事になる。

 

「さっさと済ませてしまえばいい。その後でも時間はあることだしな」

 

「うー…で、でも師匠は?お腹空かないの?」

 

「私は腹持ちのいい物を朝に摂ったからな。この程度で腹など空かせんよ」

 

勿論嘘である。朝方というか今日は何も口に入れていない。ここに至高神の信徒がいれば一発(看破)でバレていただろうが今は俺達二人だけだ。問題ない。

 

「じゃぁもう少し!もう少しだけやる!お願い!」

 

「…分かった。それなら少し剣を変えてみようか」

 

そう言ってもう一振り鈍らの直剣(アンリの直剣)を差し出す。少女は剣を受け取ると剣をマジマジと見つめていた。

 

「この剣…」

 

「私が今持っているのと同じ物だ。鈍らだがこうした鍛錬に使う分には模造刀を持つよりも良いだろう」

 

「…ねぇ師匠。これってほんとに切れないの?」

 

ふと少女が剣を見つめたままそんな事を聞いてくる。どうしたのだろうか?さっきまでの明るい表情は消え、神妙な顔つきになっている。

 

「さすがに思い切り振れば人肌くらいは切れるだろうが…鎧越しになれば切れないだろうな。まだ重かったか?」

 

「ううん。重さならさっきの剣より軽いくらいだよ。…気のせいかな」

 

…軽い?どういうことだ?まぁ単体の重さは軽い方だがさっきまで少女が振っていた物はショートソードだ。大きな差は無いとはいえ重さだけで言えば重いはずなのだが…?この剣は一応人の本質的な力によって威力を増すが…それは俺達が持った場合のはずだ。しかし…

 

「…ょう?ねぇ師匠?」

 

「む?…ああ、すまない。少し考え事をしていた」

 

物は試しか。実際に振らせれば分かる事だ。もしこの少女がこの剣を振るう事が出来るならば…

 

「さぁ来い。余り長くは出来ないぞ」

 

「よぉし…やぁぁぁ!」

 

少女が両手で剣を構えて上段から振り下ろす様に剣を振った。先程までと同じように盾を構えいつも通りに受け流そうとして…

 

(………!!)

 

咄嗟に真後ろと飛んだ。

 

「…あれ?師匠?」

 

「……………」

 

少女が首を傾げて此方を見つめている。だが俺にとってはそんな事を気にしている場合ではなかった。受け流せた筈だった。甘えた、まだまだ未熟も良いところの剣など簡単に受け流せる筈だったのだ。なのに…

 

この少女があの剣で振った一振りは受け流せないと。感じてしまったのだ。

 

長い経験によって培われたそれは感覚では有りながらも最早確信に近い域にある。あの剣は確かに鈍らだが、担い手によってはその威力を大いに増す。その条件が…

 

(人の、本質的な力…)

 

『運』によって力が増すのだ。

まだまだ冒険に出るには早すぎる、それも未熟な少女が振るっただけで身の危険を感じる程までにその力を感じた。ならば…

 

(教示は不要だな…その剣が振るえるのならば…)

 

「師匠?さっきからどうしたの…?」

 

「…終わりだ。その剣が扱えるなら私が教える事はもう何もない」

 

そう言った瞬間少女の顔が驚愕に染まった。…当然か。いきなり師事していた相手に自分が満足していない状態で同じ事を言われたら俺だって同じ顔をしただろう。

 

「え…ど、どうして!?ボクまだ全然…!」

 

「落ち着け。何も君に見所がないだとか愛想を尽かしたとかそう言った話ではない。…その剣を君が振った時何か感じなかったか?」

 

「剣を振った時…?」

 

少女が鈍らの直剣(アンリの直剣)を見て首を傾げる。持ち上げたり色んな角度から見て唸っている。

 

「うーん…良くわからないや…この剣って何かあるの?」

 

「ああ。…私が終ぞ扱う事が出来なかった物だよ」

 

「師匠にも、使えない物ってあるんだ…これそんなにすごい剣なの?」

 

「剣そのものは少し変わった剣というくらいで扱う事自体は私もできるさ。ただ私にはその剣を振るう資格がなかっただけだ。残念ながら…な」

 

事実そうで無ければ今の今まで出先で厄介事に出くわす事などなかったはずだ。…昔ならば武器を強化するのに使う変質強化の貴石を集めるのにどれだけの敵を倒したか。思い出すのも嫌になる。地下墓で何度骸骨(スケルトン)を葬った事か。俺は神を信じはしないが自身の運の無さだけは信じている。

 

「それにいくら教える為や見張りの為と言えど別の依頼の帰りでここに立ち寄っただけだからな。余り長居するとギルドにも心配をかけてしまう」

 

「うー…でも…」

 

まだ踏ん切りがつかないのだろう。少女は煮え切らない表情をしている。

 

「その剣が使えるなら心配はいらんよ。それとも私の言うことが信じられないか?」

 

少し意地悪な言い方になってしまったかと思いつつ少女を見つめる。

少女は暫く俯いていたが剣をギュっと握りしめ、その後少しして顔を上げた。先ほどと違いその表情はまだ幼いながらも小さな決意を秘めているように見えた。

 

「ねぇ師匠…ボクなれるかな。師匠みたいな皆を助ける冒険者に」

 

表情で隠しているつもりなのだろうがその声音からは不安が隠しきれていないのが伝わってくる。昔の俺ならここで適当な返事をして流しただろう。だが…

 

「なれるさ。…鍛錬をサボったりしなければ、な」

 

俺はハッキリと肯定の言葉を口にしていた。まるで息を吐くかのような自然さで。だが、それとは別に俺はこの少女ならば立派な冒険者になると感じたのだ。

 

「えへへ…そっか」

 

「ああ、だが決して無理はしない事。好奇心は猫をも殺す、自らの身の程は弁えておくんだ。いいな?」

 

「うん。…師匠なんだかお父さんみたいだね」

 

「馬鹿な事を言うもんじゃない。私に子などいた事はないよ」

 

「はーい。ごめんなさい」

 

そう言って悪戯に笑う少女に釣られて苦笑いをする。…子か。俺には…俺()にはもう縁のない物だ。もし次の世代へ命が残せたなら俺はどうなっていたのだろうか?俺が望んだ多くの人々が持つ当たり前の日々を手に入れる事が出来たのだろうか?

 

「全く…では私はそろそろ行くぞ。院長には世話になったと伝えてくれ」

 

そう言って少女の頭をくしゃりと撫でて踵を返して俺は村を後にした。共闘したあの青年が報告をしてくれている可能性も無きにあらずだが本人が行かなければその辺りの確証はないだろう。いくら等級が高いと言えど死ぬ可能性はあるのだからさっさと戻って受付嬢へと報告してやらねば。

 

俺は足早に村から去り、誰もいないところで螺旋剣の破片で辺境の街へと帰還した。今にして思えば俺は嫉妬していたのだろう。少女があの剣を使えた事に。だからこそ早くこの場から去りたかったのかもしれない。

 

 

まるでお前は人にはなれない(願いは決して叶わない)という現実を突きつけてられている気がしたから。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

ムカデ(ロックイーター)退治が終わったのも束の間、冒険者ギルドはいつもの活気を取り戻していた。冒険者達が依頼書を手に受付嬢達がそれを処理するいつもの日常だった。黒髪の受付嬢もその内の一人だ。冒険者達の依頼を受理してはそれに伴う書類の作成、整理をこなしていた。これが新人の受付嬢ならば手間取っていたのだろうが彼女は既にここに務めて五年以上も月日が経っている。もう既にベテランと言える彼女にとっては造作もない事だった。そんな彼女は等級の高い冒険者は請け負うような依頼を担当する事が多かった。

 

「…はい。商団の護衛ですね。何があるか分かりませんので十分に気をつけてくださいね」

 

内容の簡単な確認と決まり文句のような台詞と同時に冒険者を送り出す。あれから大規模な依頼という物はないもののそれなりに重要かつ責任のある依頼は多い。先ほど送り出した商団の護衛なんかもその一つである。それに加えここ最近は見たこともない悪魔(デーモン)や怪物の依頼も増えてきている。腕利きの冒険者達は腕が立つが貴重な存在でもある。五年前に『彼』が倒したという強大な悪魔(デーモンの王子)の例もあるのでおいそれと斡旋出来ないのが事実だ。この五年で『彼』が対峙して提供された情報によって一部の悪魔(山羊頭や牛頭)などは銀等級の冒険者達に依頼を斡旋する事は出来ているが、調査依頼などはここ最近では殆どが出ていない。五年前の悪魔の件もあって上も冒険者の今後を考えると何もかも情報の足らない調査依頼に新人達を送り出すのは不味いと判断したのだろう。故に調査の依頼は鋼鉄よりも上、少なくとも第七位の青玉からと改訂されたのだった。

 

「ん~~~っはぁ…ようやく一段落ってところかしらね…」

 

一通り冒険者達を捌け終えると黒髪の受付嬢は大きく伸びをした。後輩達が増えたのは職員不足のギルドにとっては有難い事ではあったがそれでも足りていないのが現状だ。人手はいくらあっても足りない。せめてもう少し余裕が欲しい物だがそれは叶わなそうだ。そもそもある程度務めて経験を積んだ職員は都や大きな街に行ってしまうことが殆どでそれは彼女とて例外ではなかった。ただしそれも強制ではないので彼女はここに残り続けている。その時は当たり障りのない理由を答えていたが本心は別にあった。

 

(放っておけない人がいる。なんて、言えないわよね…)

 

五年前に突如として現れた騎士の風貌をした冒険者。最初は冒険者になりに来たにしてはしっかりとした装備をしているくらいにしか思っていなかった。あの頃はまだ自分も経験が浅かった頃。それでも多くの冒険者を見送り、帰って来ない事に何度も胸を痛めた。同僚や先輩からは一々気にしてたら身が持たないと言われていたが正しくその通りだった。実際に血糊の付いた身分証を見てその場は耐えたものの直後に嘔吐してしまったことさえあったのだ。

 

都にある実家の家族からも心配はされていたが元々反対を押し切って出てきたのだ。いざ出たはいいがそのままのこのこ帰るわけにはいかなかった。やめようと思ったことは何度もあった。だが同じ事が何度も続けば人は嫌でも慣れてしまうものだ。いつからだろうか張り付けたような笑顔を浮かべるようになったのに気づいたのは先輩に指摘された時だった。当時は気付かなかったが今の自分が見たらさぞ酷い物だっただろう。

 

だがそんな日々も五年前で突如終わりを迎えた。『彼』と出会ったからだ。

 

…別に依頼を達成して帰って来た冒険者が『彼』が初めてであった訳ではない。等級が上の者であれ下の者であれ生きて戻ってきた冒険者はいた。ギルドの人間としては余り個人に肩入れはしては行けないというのも分かっている。だが一個人としても職員としても冒険者の皆には死んで欲しくない。身の丈に合わない物や危険な依頼を背伸びして請けようとする人には遠まわしにだがやめるように言ったものだが誰もが耳を傾ける事なく帰らぬ人になった。

 

だが、『彼』は帰ってきた。

 

ゴブリン退治という冒険者の仕事して見れば小さな物。それでも危険な事に変わりはない。時には銀等級の冒険者とて油断して死に掛ける事もあるのだ。それを別の依頼を終えて休まずに向かった時にはまた帰らぬ人が増えるのだろうかとも思った。その後彼が何食わぬ顔で帰ってきた時私は心底嬉しそうな顔をしていたらしい。…今思い出すとすごく恥ずかしい。穴があったら入りたいとはこの事だろうと思う。

 

いつものように帰ってきて話を聞かせてくれる『彼』にいつからか私は惹かれていたのだろう。

 

(はぁ…これじゃ職員失格ね…)

 

そうして思いを馳せながら溜息をついていた時だった。

 

「あのー…先輩?」

 

「ん?どうし…あら?」

 

「………」

 

そこにはつい最近入った私の後輩(三つ編みの受付嬢)ゴブリン退治の依頼ばかり請けている冒険者(変わった新人)がいた。

 

「ええと…こちらの…ゴブリンスレイヤーさんが用があるらしくて」

 

「ゴブリンスレイヤー…?ああ、そういう…」

 

彼にあだ名が出来ていた事に驚きだが同時に納得もしてしまう。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ならぬ小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)とは…まぁあれだけゴブリン退治しか請けていなければそんなあだ名が付くのも必然かもしれないが。

 

「あの冒険者は、いるか」

 

「あの冒険者?」

 

彼はどうやら誰かに用があるようだが『あの冒険者』では少々…どころか誰なのかを絞るのは不可能だ。もう少し特徴とかはないのだろうか。

 

「黒い外套の騎士の男だ」

 

「………」

 

それなら該当する人物は今のところ一人しかいない。一応後輩である彼女から村に数日残るとう報告を受けているのでまだ残っているのだろう。そろそろ戻ってきてもいい頃合ではあるが…

 

「まだ帰ってきてはいないですね。もう帰ってきてもいい頃ではありますけど…」

 

「そうか…」

 

「彼に何か用事でも?」

 

「ああ。ゴブリンについて聞こうと思っていた」

 

そういえば一人でしか依頼を請けていない青年に彼がついて行った事があった。それにしても何故彼なのだろう?特に接点があるように見えないが…

 

「えっとですね。ゴブリンについて知りたいって言われたんですけど私が『経験豊富な冒険者』さんに聞くのがいいかもしれませんねって言って…』

 

「それでよく『彼』の応対をしている私の所へ来たと」

 

困ったように苦笑いする後輩に釣られて自分も苦笑いを浮かべる。いやたしかに彼の応対はほぼ自分がやっているが…

 

「取り敢えず戻ってきたら彼に伝えておきましょうか?それとも帰ってくるまで待ちます?」

 

青年はその言葉に顔を少し俯かせて考え込むとすぐに顔を上げた。

 

「なら、伝えておいてくれ。…今日は帰る」

 

「分かりました。お伝えしておきますね」

 

そう言うと青年はそのままギルドから出て行った。その後ろ姿に向けて手を振っている後輩を見えて微笑ましく思ってしまった。

 

「な、なんです?」

 

「ううん。貴方も苦労しそうだなって」

 

「貴方もって何ですか。まるで他に苦労してる人がいるような言い方ですけど…」

 

「気にしなくていいわ。貴方とはいいお酒が飲めそうだなって思ったのよ」

 

「?」

 

ここまで言っても頭に?を浮かべて首を傾げている後輩に私は過去の自分を重ねた。…自分もこんな顔だったのかしら。いや、こんなに活き活きとはしていなかったかな。

 

「さーてっお仕事お仕事。常に余裕を持っておかないとね」

 

その言葉に慌ててカウンターへ戻る後輩を見て私は再び自身の戦場へと戻った。

 

 

 

~~~

 

 

 

ゴンゴンと扉がノックされる。街外れのあばら家の前に一人の男が立っていた。

 

黒い外套を纏い削られた兜や手甲を身につけた放浪騎士だった。彼は街へ帰還した後ギルドへ行かずこの家の主である孤電の術士(アークメイジ)を訪ねていた。

 

「ああ、開いているから上がってくれたまえ」

 

何度来ても変わらない横着な返答に放浪騎士はふっと笑った。もう何度も行われたやり取りに変わらないなという感想を抱いた。返答が来てから彼は自分の家に上がるような自然さで扉を開け中へと入った。

 

「うぅむ…違うな。こうじゃない…ならば…む」

 

中では孤電の術士がぶつくさとああでもないこうでないと唸っていたが彼が上がった事に気づくとガバりと立ち上がって振り返った。

 

「やぁやぁ久しぶりじゃないか!さては私に会いに来てくれたのかい?」

 

「ああ。聞きたい事がある」

 

彼の口から心底低い声が出た。元々声は低い方だがそれでも郡を抜いて低い声だった。その声音を聞いてつい先程まで茶化したような雰囲気の孤電の術士もすぐに真剣な表情へと変わる。

 

「何かあったのかい。君がそんな声を出すような事が」

 

その言葉に彼は黙る。この沈黙が答えだと言わんばかりに。そしてその沈黙をすぐに破るように言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「血塗れの騎士を知っているか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅れも甚だしい!

言い訳はしませんがマジな話すると病院のお世話になってました。

人生初の点滴を体験してきました。獣性が高まったような気がします(狩人感)
刺すところが地味にチクチクして痛かった…
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