第1話 そして彼は流れ着く。
目が覚める。意識が戻る。
―ああ、またか。
「私」はそう思いつつも体を起こす。こうして意識が戻ってしまった以上はまた繰り返すのだろう。
だが幾度なく繰り返した使命など考える必要もないと思いながら「私」は辺りを見渡そうとして―
「・・・ここは何処だ?」
あたり一面見渡す限りの木々。時々聞こえる鳴き声は小鳥の囀りだろうか。
僅かに木の葉の隙間から漏れ出る太陽の光。
そして着ている軽量の鎧越しにすらわかるそよ風の心地よさ。
ここが、あの呪われた地でないことは火を見るより明らかだった。
咄嗟に自分の身を確認する。さすがに火の力は失われているようだったがその服装は最後に使命を果たしたと同じ姿だった。
腰の左側に帯刀されたひと振りの刀。刃渡りはそこそこ長くロングソードより気持ち長めと言ったところ。
左手に馴染むように持っていた小盾は、小盾にしては大きめで金属の割合が多く咄嗟に身を守る事と取り回しの両方を重視したものだ。
予備の武器である短剣も刀のちょうど反対側に収められている。
俺の見た目を客観的に見て初見で例えるのは難しいかもしれない。
兜や手甲は重量を減らしつつも実用性を増すために削られ、溝のような加工が施されており角ばった印象を持ちつつも滑らかだ。
鎧は一見すると枯草色の布地の服に黒いマントを付け左肩に金属版の肩当てをつけただけのように思える。
しかしその服には胴回りに薄い金属版が仕込まれ布地で挟むことで音と金属の匂いを少しでも抑え、腰周りを覆う布地のところは軽量の鎖がしっかりと編みこまれている。
足甲も膝の重要な関節を守りつつ各部に細かく配置された金属版がしっかりと急所を守っている。
何も知らない素人が見たら明らかに怪しく騎士とも戦士とも呼べなそうなチグハグな見た目からこれらの事を察するのは非常に難しいだろう。
せいぜいが盗人や小汚い追い剥ぎが独自に装備を改造したようにしか見えない。
贔屓目に言ったとしても傭兵か旅人が関の山だろう。
だがそれは長い旅路のなかで「俺」が最低限の防御力と機動力、そして多種多様な武器を持つ事で攻撃力を補う戦い方に裏打ちされた装備だった。
体が軽い分(今はさすがに持っていないが)重く高い攻撃力を持った武器を持てたので巨大な敵とでも十分戦えたのだ。
「しかし、ここがあの地でないなら・・・ここは一体・・・?」
周囲を見渡しながら一人呟く。
今まで幾度なく繰り返し、最後にたどり着いた場所で意識を手放した後はまるで今までの事がなかったかのように最初の柩の中から目覚めるのだ。
今までその行為を幾度も繰り返して来た中、唐突に違う光景に放り出されれば誰だって迷うのは仕方のないことだと思う。
「ここがあの地でないのなら・・・俺は・・・」
俺が望みながら終いには終ぞ手に入れることは出来なかった物。
「
使命から解放され自由に生きたいと願った俺の願いは当たり前のものだと思う。だがその当たり前の物こそ俺が最も叶えたかった「願い」だった。
(一先ず移動するか。ここでいつまでも呆けてるわけにもいくまい。)
彼は、一先ず木々の合間を縫うように草の根を分けつつも進み続けた。しかし自分のいる位置が分からない上に森の中というのはいやでも迷う。
「不死人は腹を空かせんとはいえ・・・些かこの状況は不味いのではないか?」
そう、端的に言って迷子である。結局ひたすら前に進んだところで特に何かあるわけでもなく、日が暮れていく。
日がすっかり沈みあたりに夜の帳が降りて少し。時間にして一日の半分といったところだろうか。彼はようやく森を抜けた。
「ようやくか・・・しかしすでに日が落ちて・・・む?」
見れば遠目には村のような物が見える。しかしもう夜だというのに妙に「人影」が多い。門の付近に立つ「人影」に遠眼鏡をポーチから取り出して様子を見る。
そこに映っていたのは「人々」ではなく「化物」が騒いでいる姿だった。
化物の見た目は何とも醜悪だった。
皮膚は緑色。身長はおよそ120cmと少しくらいだろうか。手足は細く髪は生えていない。鬼の子供・・・さながら小鬼のような感じだろうか。
一通り見た俺は駆け出していた。
―頼むから、誰か生きていてくれと。
村は既に壊れ果てていた。
辺りには人であったろう死体が溢れ、吊るされ、血と臓物の臭いが溢れている。
そして我が物顔で闊歩する小鬼の群れ。
唐突に俺の中に一つの感情が芽生えた。
「・・・何かの為、か・・・もう久しく忘れたものだと思っていたが」
「Gobb!?」 「Gob!Gob!」
小鬼共がこちらに気づき飛びかかってくる。しかし
「どうやら、まだ『俺』の人間性は擦り切れていないらしい」
「・・・ああ。この感覚も久しく忘れていたな」
誰かの為に、何かの為に剣を振るう。あの呪われた旅路の中ではそれすらも忘れ果てていたが今になって思い出したようだ。
俺という奴は使命などに縛られていないとこうも直情的だったらしい。
切り裂かれた小鬼の声に反応して他の小鬼が集まってくる。本来なら不死人にとって一対多というのは絶望的なまでに避けたい状況だ。だが、
「今の俺は、機嫌が悪い・・・!」
襲いくる小鬼の群れ。遠目にいる奴の脳天目掛けて投げナイフを投げる。2つのナイフは綺麗な直線を描き小鬼の頭に突き刺さった。刃が脳に達したのか、
2匹は倒れこみ動かなくなる。棍棒を持っている奴を優先的に排除していく。打撃は不得意が少なく誰が使っても一定の脅威になる。近づいてくる小鬼は刀で次々と切り伏せていく。
曰くある人物が言うには「1本の剣では5人と切れない」らしい。特に乱戦となる戦場では遮二無二振り回すことが多く刀身に敵の肉や血糊が付いて切れ味が落ち刃毀れを起こすからだ。
だがそれでも「切り方しだいでは何人でも切れる」ように、骨に達さぬよう刃を当てて切り裂いていく。元より斬撃に向いた武器だ。相応の技量が要求されるが長年使い続けた得物だ。扱いは心得ている。
咄嗟に横っ飛びをして回避行動を取る。直後先ほどいた場所の背後から矢が飛来した。恐らく闇に紛れ不意を突こうとしたのだろう、しかし殺意が丸出しなのが良くなかった。
あの世界では闇霊からの殺意を嫌でも浴び続けたのだ。物陰に潜んでいたり死角に回り込んでの落下攻撃など何度喰らったことか。
かくいう俺も勿論使った手だ。自分がやられて嫌な事は相手もやられると嫌なものだ。
「もう少し殺意を抑えて出直すんだな・・・!」
そう言いつつ火炎壺を投げる。弓持ちは炎に包まれて焼け死んだ。
不意打ちにしくじり多くの仲間を殺られて不利を悟ったのか小鬼達は次々と逃げ出す。
「逃すと思ったのか?」
俺は
鴉羽と呼ばれるこの武器は魔力を込めることで左の短剣に質量を持たせた幻影を投げる。かの地ではあまり威力を出せず目立たなかったが小鬼どもなら話は別だ。ほとんど裸のような小鬼には。
助走をつけ、飛び上がって逃げた小鬼の背に剣を投げる。腕を振り4つ飛ばされた剣は見事に小鬼達の背中に刺さる。
ただそれでも死には至らなかったのか何匹かは這ってでも逃げようとする。追いかけその背に右手の刺剣を刺し止めをさしていく。
この世界で初めて殺した汚物共の詳細を知るのはもう少し後の事だった。
それから村に戻り辺りを見回った。もう小鬼はいないようだった。数は数えていなかったが地面に倒れている数を見るだけでも30はいるだろう。
ここが平地で良かったと思う。平地での戦闘に慣れているのでどうにかなったがこれが狭い場所・・・例えば洞窟などではまた違った結果になった筈だ。
少なくとも今装備している武器では間違いなく苦戦を強いられた。いつの時代も数の暴力というのは時に1つの巨大な敵を打ち倒すこともある。
俺自身何度もそれが原因で死んだのだから尚更だ。
そしてこの村にもう自分以外に生きてる人間がいないことを確認すると身体の中に昏い感情が込み上げる。
「ああ・・・俺はまた救えなかったのか・・・」
そうだ。あの時から俺は誰かを救おうとして殺し続けた。きっとその先に皆が助かるということを信じ、「俺」を殺し「私」であり続けた。
心を殺し感情を殺し理性を殺した。その先に待っていたのがあの暗闇だ。誰もおらず、誰一人救えず・・・
それでも誰かが救われる事を信じて剣を振るい誰一人助ける事は出来なかった。
小鬼を倒し、村を救ったのかもしれない。しかし、そこに生きていた人々を。遠く自分が夢見た当たり前の日々を持つ人々を自分は救えなかった。
仕方がないと言う人もいるだろう。間が悪かったと言う人もいるだろう。でも、それでももしものことを考えずにはいられない。
ふと足元に何かがぶつかった。
「これは・・・?」
それは短剣だった。柄に鷲を催した小振りの短剣だ。鞘に収められ小鬼共が持っている武器にしては妙に綺麗だった。
恐らくこの村の誰かの持ち物だったのだろう。まるでこの剣は自分に今日の日を忘れるなと言われているような気がした。それを拾いポーチへしまうと、踵を返して歩き出す。
もうこの場所に用は無い。何も無い場所に、用など無い。
だが分かった事もある。直接話せなかったのが痛いがこの世界には人がいる。それも大勢の人が。
今日の出来事で確信した。此処はあの地とは別の場所だ。それも世界その物が違うと言ってもいい。村があったのだ。
道がある所に出られれば人が通る可能性がある。そこに行けば人の集まる場所にも行けるだろう。決意を新たにして歩き出す。
自由に生き、好きなように死ぬ。
そしてこの手が届く範囲で―「俺」は
放浪騎士と言っているものの胴は黒い手の鎧
それ以外をアルバで固めている。
最初は一式だそうと思ったけどオリジナリティを出したくて変えてみた。
鎖云々の下りはオリジナル。強靭度少しついてるからそのあたりが仕込まれてるのかなと思った。
ステに関しては考えちう。