何かお手伝いできますでしょうか。
――意識が戻る。少しの休息のつもりで意識を手放したが、どうやら馬車に乗った安心からか大分眠りこけていたようだ。
自分で用心棒紛いの発言をしておきながら何とも迂闊なものだと思う。しかし・・・
(なんだか、懐かしい夢を見た気がする。あの時の勇姿は――)
今や遠い彼方の記憶の筈だがまだ完全に忘れてはいなかったらしい。頭に残っておらずともあの時の記憶はこの体がしっかりと覚えていたのだ。
「お、丁度良かった。ほら街についたぞ」
起き上がり馬車の中から顔を出した俺に主人は軽い笑顔で言ってくれた。
その後に聞いたが彼はどうやら牧場を営んでいるようで、食材の配達で街まで行く事があると話してくれた。
今は一人暮らしらしいがついこの前に姪が牧場にきて仕事を手伝ってくれたらしい。まだ小さいが大切な家族だと嬉しそうに話していた。
「ありがとう。主人のおかげで助かった」
馬車から降りて礼を言う。・・・いつか彼にはお礼をしなければいけないな。
「構わないさ、ここに来るっていう目的は一緒だったんだ。1人乗せるくらいどうってことはない。
ギルドはこのまま道沿いに行きゃある。あんたはすぐ向かうのか?」
「いや、まずは物を質に出そうと思う。無一文では満足に街を歩くこともできんだろうしな」
「そうか、私はギルドにこのまま荷物を降ろしてくるからここでお別れだな」
「ああ。世話になった」
「頑張れよ」
そう言って牧場の主人と別れる。質屋を探して歩き出して辺りを見渡してみる。
溢れんばかりの人々。往来では客寄せの声掛けをしている商人達。これから冒険に出るであろう若者達。
あの殺伐とした世界では決して見る事の出来なかった世界。呪いも使命もなかった頃はあの世界もこのような賑わいがあったのだろうか?
今ではもうその答えを得ることは出来んのだろうが。
感慨深さも程々に歩き出す。まずは金だ。先立つにはまず金である。お金が無ければ旅も始まらない。武器を手にして即走り出したあの世界とは違うのだ。
~~~
街で何人かの人に質屋の場所を聞き、目当ての場所へ辿り着く。やや薄汚く、古いお店だ。見た目はお世辞にも良いとは言えないが多くの冒険者も世話になっているという。
ドアを開けるとカウンターの向こうにはモノクルをつけた店主であろう男がいた。
「いらっしゃい鎧のお客さん。どんな御用で?
「手持ちの物を質に出したい。この国の通貨を持っていないのでな」
「お客さん。異国から来たのかい?遠路はるばるこんな辺境までご苦労な事で・・・っとと何をお売りになさるので?」
「急ぎではないからな。取り敢えずこれを」
俺はそう言って、炎の貴石をカウンターに置く。あの呪われた旅路の中で
他にもあるがあまりひけらかすものでもないだろう。この石一つでどれだけ取れるかだ。
「では、失礼して・・・」
店主は貴石を手に取り、眺めて顔を顰める。何やら驚いたりしているような顔になったりと大忙しだ。
少しして店主が石を置いて訪ねてくる。
「・・・お客さん、こいつを何処で?」
「ここに来るまでの長い旅路の中で、な。今の私には不要なものだが、どれだけの価値になる?」
「私もここをやって長くなりますがね。こんなもんは見たことない。恐らく武器を鍛えるための鉱石なんでしょうが炎の魔力が尽きることなく宿ってる。
元々出来てる武器に魔法を付与したりはするでしょうが鉱石にこんな事するのは相当なモノ好きでしょうね。珍しさで言えばかなりの貴重品ですよ。
ざっと・・・金貨50枚くらいでどうでしょうかね」
50枚か。金貨50枚がどれくらいかは分からんが店主の発言を聞く限りではそれなりに大金なのだろう。
それにしてもこの店主はあの僅かな時間でこの貴石の効果を瞬時に見抜いている。相当鋭い目をしているようだ
そのくらいあれば冒険者になる上での支度金としては十分だろう。・・・よし。
「それでいい。助かる」
店主から金貨の入った袋を受け取り、店を出る。さぁ、いよいよ冒険者ギルドとやらへ行ってみようか。
~~~
(ここが冒険者ギルド・・・)
流石に冒険者が依頼を受ける所というだけあって周りには沢山の冒険者らしき人物が見える。
軽装の剣士から、重装備な戦士まで、聖職者のような人もいれば魔法使いのような人もいる。
扉を開け、中にはいった彼に奇異の目が向けられる。多くのものが見ない顔に対する興味を持ったものが殆どだ。
―おい。あんな奴いたか?
―いや見たことないな・・・ありゃ騎士か?
―騎士にしては無骨すぎねぇか?でも戦士や野伏とかでもねぇだろうし・・・
―ボロい兜だな。賊が追い剥ぎでもして装備を改造したか?
様々な発言や憶測が飛び交う中、受付に向かう。そこにいる女性に声を掛ける。
「冒険者ギルドへようこそ!本日はどういったご用でしょうか?」
黒く長い髪の見目麗しい受付嬢が眩しい笑顔と共に出迎えてくれる。
「すまない、冒険者になるのは此処だと聞いたのだが」
「はい!冒険者登録ですね。こちらの
「いや、出来ない。異国から来たのでな。此方の字はまだ読めない」
「では、代筆ですね。少し料金が掛かりますが大丈夫でしょうか?」
「それなら問題ない。代筆で頼む」
「では始めますね。口頭で教えてください。まずは―」
出自や職業など様々な事を聞かれた。・・・しかし生まれ故郷の事はもう分からないし、年齢もサッパリだ。もうどのくらい生きたかなぞ覚えていない。
中でも一番困ったのは・・・
「次は職業ですね。職業は・・・」
「職業・・・か・・・」
騎士というには無骨で削られた兜や籠手。戦士というには少々合わないフルフェイス兜。野伏というには重めな見た目と何とも回答に困る見た目をしてしまっている。
さてどう答えたものか・・・
「・・・君に私の姿はどう見える?」
少々卑怯かもしれないが此処は対面をしている人間に訪ねてしまうのが一番だろう。俺は軽く腕を広げて受付嬢に自身の見た目の印象を尋ねてみる。
「私ですか?・・・そうですね・・・」
受付嬢も俺の言葉を聞いて頭から足までを撫でるように見る。しかし多くの冒険者を見てきたであろう彼女も印象が複雑な為か
返答に困っているようで顎に手を当てて顔をしかめている。やはり言葉にするのが難しいのだろうか。
少しすると受付嬢は意を決したように口を開いた。
「私の印象ですと・・・各地を旅してきた騎士・・・さながら放浪騎士、といったところでしょうか」
その言葉に俺は兜の下で少し目を見開く。中々的確な答えを出してきた。あの地獄とも言える長い旅路を歩いてきたのだから放浪してたのは間違いないし騎士というのは兜などの名残を残した防具から印象づけたのだろう。
「なるほど。では「放浪騎士」で頼む。・・・正直自分でも印象は答えにくい」
「クスッ。確かに放浪騎士さんの外見を一目で言葉に出すのは難しいかもしれませんね・・・はい。ではこれがあなたの冒険者の証になります。
机に置かれた、白磁色のプレート。冒険者の階級第10位白磁級のプレートだ。
それを受け取り首にかける。今この瞬間から俺は「冒険者」だ。
「これで登録は完了です。さっそく依頼を受けて行きますか?」
「いや今日の所は良い。長旅でようやく街についた所だからな。まずは知識の収集などに努めるさ・・・そういえば一つ聞きたい事がある」
「?なんでしょうか?」
「此処に来るまでの間に緑色の皮膚をした120~130cmくらいの小鬼のような化物共の群れと戦った。アレらは何ていう奴らなんだ?」
「・・・それは、『ゴブリン』ですね。どこかで退治してきたんですか?」
「・・・すでに襲われたであろう村の跡地でな。死体の腐敗具合を見てもそんなに時間は経ってなかったようだが私が行ったときにはすでに手遅れだった。数にしてもおよそ20以上はいた筈だ」
「そう、ですか。・・・ちなみに村の位置などは分かりますか?」
俺の説明を聞いて受付嬢の顔が険しくなる。その表情はまるで何か悔いているようにも見えた。
「ここの地理に詳しくはないから分からん。だが大分遠い所だったというのは覚えている」
残念ながら此処に来るまでは我武者羅に進んでいたので道は覚えていない。こんな事ならもう少し進む方向を考えるべきだったか。
「すみません。この辺りに来たばかりの人に聞くべき事ではありませんでしたね・・・ゴブリンによる被害は最も多いので此方としても困っているんですよ」
あんな弱っちい奴の被害が最も多いとは。しかし奴等がいくら弱くとも集団で来られれば確かに危険だ。ある程度集団戦に慣れてこそいたから良かったもののあの世界での経験が無ければタコ殴りにされて瞬殺されていたであろうことは想像に難くない。この辺り・・・ないしはこの世界にはあの汚らわしい化物共がわんさかいるとの事。あの村の跡地を見てしまった以上あのような出来事はよくある事だという事も。
・・・自然と手に力が入る。あのように日常的に人が死んでいくのであれば、そんなことをする奴等を許す道理などあるまい。
「一先ず、今日の所は宿を探して休むとするさ。依頼は明日から受けさせてもらおう」
「分かりました。今後の貴方の活躍を期待しています」
登録済ませて立ち去ろうとしたが大事な事を忘れていた。
「ああ、それとこの国の文字の資料の類はあるか?あるならば一晩だけでも借りたい」
「はい ありますよ。此方ですね」
「助かる」
代金を払って資料を受け取って俺は受付嬢を一瞥すると、一先ずの宿を探してギルドを後にした。
~~~
「ふぅ・・・」
普段通りに仕事をしただけなのにいつもの倍以上疲れた気がする。先ほど登録した冒険者の方の姿を思い浮かべる。
まず兜。一見騎士の被っているような兜だったが、よく見ると削られており、軽量化を目的とした実戦的な改造をされていたのだと分かる。
籠手や足甲にも似たような改造がされていた。
鎧も全体的にみて軽装の革鎧のようだったが黒一色に近い色にする事で隠密性を高めているのだろう。
そんな、騎士とも戦士とも違う何ともチグハグな印象を持っていた彼は「放浪騎士」という名前で登録を受けた。
多くの冒険者を見てきた自分でもああも言葉にしづらい印象の人は初めてだと思う。
大体の冒険者はある程度分かりやすい見た目をしているからだ。
軽めの鎧や胸当てなどを着て剣を装備した「戦士」。
錫杖などを持って神官服などを着た「聖職者」。
杖を持ち三角帽などを被りローブなどを着込んだ「魔術師」。
他にも例を挙げればキリがないので割愛するが、それでも彼は分かりやすい言葉で表現をするのは難しかった。
「それにしても・・・」
憂いを帯びた表情になって受付嬢は顔を伏せる。
ゴブリン。この世界においては単体では最も弱いとされる、祈らぬ者。そう、単体では。
奴等の真に怖い所は群れる所だ。単体での弱さを数で補い、罠を張ったり待ち伏せをして奇襲を仕掛け襲い掛かる。
多くの冒険者達の共通の見解では「雑魚」「大した事ない」「退治は白磁の仕事」などと言われている。
確かにゴブリン達は弱い。単体で見ればそれこそ白磁の新人でも倒せるだろう。だがそれでも多くの新人達がゴブリンの巣に向かい帰って来ないのもまた事実なのだ。以前も冒険者になった白磁の新人達が帰って来なかった一例がある。多くの冒険者にとって弱いとされている奴等も大きな群れになると危険度は跳ね上がる。冒険者が依頼を受ける際は自己責任、ギルドの立場からは依頼をあくまで斡旋しているだけなのであまり強くは言えないのだ。
冒険者が依頼を受ける際は自己責任、ギルドの立場からは
依頼をあくまで斡旋しているだけなのであまり強くは言えないのだ。
(はぁ・・・もう少しゴブリン退治に皆が真剣に取り組んでくれればなぁ・・・)
机にだらしなく突っ伏して彼女は思う。そういえばさっきの人はそんなにゴブリンを侮っているようには見えなかった。
彼は一体どのような冒険者になるのだろう?今までの人たちのように英雄を夢見ているようには見えなかったし、復讐に身をやつしているようでもなかった。
どちらかというとまるで武者修行をして道を探す武人のような雰囲気を感じていた。
(はぁ・・・やめやめ!)
パンッと顔を叩いて意識を切り替える。気にし過ぎても仕方がない。さっきまで見ていた人がその後すぐに帰らぬ人になることもあるのだ。
冒険者と深い関わりを持ってはいけないというのが受付嬢達の中では暗黙のルールなのだ。
「すみません、冒険者登録をしたいんですが・・・」
「はい!冒険者登録ですね。ではこちらの―」
再び訪れた新しい冒険者志望の人に、和やかな笑顔で迎える。
この辺りの切り替えはさすが受付嬢と言ったところであろう。ここにしばらく勤めれば自然と笑顔を作るのが上手くなるものだ。
だがそれは本来の笑顔ではなくあくまで仕事上の笑顔になりつつあるということだ。
彼女はもうここしばらく本当の意味で笑ってはいなかった。
~~~
ようやく登録を済ませた。
少々周りからの視線が辛かったが、よそ者が来た以上気になるのは仕方がないことだ。
その辺りは割り切るほかない。
適当に近場にあった宿を取り、受付で借りたこの世界
明日から冒険者としての道を本格的に歩むのだ。
(以前までは同じ事の繰り返しで心が荒んでいったが・・・此処ならば・・・)
少なくともあの時のように何度も終わらない旅を繰り返すなんて事態にはならないはずだ。
街中で見た人々の営み。冒険者としての新しい日々。
そう思うと心が躍る。まだ見ぬ旅路はいつでも人の心を躍らせるものだ。
(だが忘れてはならない。ここの世界ではあの村のようなことが常にありえるのだ)
ここに来るまでに見た村の惨状。鷲の意匠が施された短剣を取り出し、見つめる。
(・・・あのような事が当たり前など、あってならないことだ。あんな惨状が「当たり前」など・・・)
かつてあれ以上に悲惨な末路を辿った者達を何人も見てきた。だからこそだろう、自分が求めた当たり前の幸せがあんな形で奪われているのが当たり前なのが許せなかったのだ。
・・・奴等への憎しみはいずれ依頼を赴いたときに晴らすとしよう。なに、奴等はこの世に腐る程いるらしい。それならば心置きなく殺れるというものだ。
俺は短剣を自身のソウルへ仕舞うと、新しい旅路への高揚とこの世界に蔓延る汚物共への怒りを胸に仕舞い、資料に目を向けて夜を過ごした。
お気に入り59件 UAも4000超えるとは・・・皆ソウルシリーズが大好きなんですね。
こんな拙い文章に評価をくれた方。感想を残してくれた方。
ありがとうございますm(_ _)m
展開遅めかもしれませんがある程度は過去編もやっていきたいので・・・
もうしばし続くんじゃよ(´・ω・`)