放浪騎士   作:赤い月の魔物

7 / 27
・・・死ぬんじゃねぇぜ。

あんたの亡者なんて、見たくもねぇ・・・



第5話 初仕事と忘れていた決意

あれからギルドの地図で下水道までやってきた。

 

内容は巨大鼠と巨大蟲をそれぞれ5匹ずつ。あくまでこれはノルマなのでこれ以上倒しても問題はないらしい。

 

松明を片手に歩く。薄暗い下水道の中を火が照らすが、あまり有り難みが感じられなかった。

それもそのはずかつて松明を使うような状況がほとんどなかったからだ。自分が夜目が利いたのか

それとも火のない灰(不死人)になってからこうなったのかは定かではないが松明片手に探索をするのは随分と久しい気がした。・・・今はこうして現地のやり方にならってはいるものの自分には灯りを得る手段としては魔術(照らす光)があるし、いざというときはこちらのやり方でやらせてもらおう。手段を選んで死んでは元も子もない。

 

・・・!しばらく暗闇の中を進んでいると、何やら鳴き声のようなものが聞こえる。どうやらこれは鼠の声のようだが・・・曲がり角の先で頭を少し出して様子を見る。

そこには人の膝丈ほど・・・人側の大きさ次第では腰ほどになるであろう鼠がいた。

しかしどうやらここの鼠は、本当にただ()()()()()の鼠なようだ。目はギョロついていないし、体の各所が腐りかけているようなこともない。毒・・・の類はさすがに攻撃を喰らって見なければ分からないが好き好んでデカい鼠に齧られる狂人にはなりたくはない。

 

数の程は6 ノルマより1匹ほど多いが問題はないだろう。普段ならば集団戦は何がなんでも避けるのだがご丁寧に何かに群がっておりこちらには気づいていない。

纏まっているのならこれほどいい的はないだろう。松明を右手に持ち替え、左手に炎を灯す。

 

『呪術の炎』

 

かつて師の一人であった大沼の呪術師から教わった呪術を行使する為の触媒。

魔術や奇跡を使うこともあったがそれでも最も助けられたのはこれだろう。例え才能がなかった(能力不足)としてもある程度使うことができるのが呪術の強みだ。

 

鼠の群れに向けて呪術を唱える。唱えるとは言っても言葉で言う必要はない。

 

音も無く唱えられた呪術の炎が左手で大きくなっていき大きな火球を作る。

呪術の中でも基本的な一つである『火の玉』だ。かつては大火球などとも呼ばれたそれは大きな火球を投げつける物で多くの呪術師が使っていたそうだ。

 

巨大な火の玉を鼠の群れに投げつける。ゴウゥと燃え盛る音と共に放たれた火の玉は群れの中央に落ちた。

 

キィキィという金切り声のような鳴き声を上げ鼠が火だるまになる。少しすると巨大鼠の群れは物言わぬ灰のように黒焦げになった。

 

討伐の証拠として耳を短剣で切り落とす。・・・黒焦げで判別が出来ないと言われたらまた退治に来なければならなくなるがまぁ仕方ないだろう。

 

まずは1つ目の鼠退治は終わった。かつての鼠の群れと比べると何とも弱く呆気ない物だったがロスリックの地が異常だったのだろう。そういうことだ。そうだと思いたい。

 

―――――――

 

引き続き下水道を進む。次は巨大蟲(ジャイアントローチ)だ。巨大な黒光りする蟲とのことだがどんな物なのだろうか。ギルドで聞いた限りでも一目みれば分かるとのことだったが。

しかしいくら鼠が弱いとはいえ数がいて薄暗く、その上こんな不潔で汚い場所をなりたての新人に勧めるとは・・・これでは確かに新人といえど何度もやりたいとは思わないだろう。

 

だからだろう、こんな地味で割に合わない仕事を受けていてはと昇級に焦り、身の丈に合わぬ依頼を受け、新人は帰らぬ人となる。なんて悪循環なのか。馬鹿馬鹿しい。

こんな悪循環をギルドの受付嬢達はずっと見続けていたのだと考えるとぞっとする。彼女たちはどれほど人の心を押し殺していたのだろうか。どれほど過去の例を挙げて説明しても聞く耳を持たずで分かってもらえないもどかしさ。なまじ直接現場にいった人間でないが故に信じてもらえない苦しさ。どれ程こんなことを繰り返しているのか・・・

 

冒険者達の認識が変わらない限りこの悪循環が治ることはないだろう。少なくとも今の自分にはどうすることもできない。

 

そこまで考えが至った所で足を止める。

 

ふと耳にキチキチと耳障りな音が聞こえる。咄嗟に後ろを向いて松明を掲げた、その先には。

カサカサと地面を這いずり、こちらを威嚇する巨大蟲(ジャイアントローチ)だった。

なるほど、確かに一目見れば分かる見た目だ。蟲と名うってはいたがこれは完全にゴ○ブリではないか?

ローチという名前で察するべきだった。そんなデカイゴ○ブリなんぞいるものかと本能が否定していたのだろうか。いやこれはある種の願望かもしれない。

 

そんな化物(気色悪い生物)なんざ見たくないと。

 

どうやら数多の化物共を見て屠ってきてもこうした生理的にキツい物は見たくなかったらしい。俺は先の鼠を燃やしてしまった反省を気にもせず火の玉を投げつけた。

 

 

 

~~~

 

 

 

巨大蟲を火の玉でもやしすっかり焦げた蟲の一部を切り取って俺は下水道を後にした。あれは確かに見たくない。例え熟練の冒険者でも行きたくないと言われているのがよくわかった。

ああいった物には耐性がついてると思ったが流石に俺も御免こうむる。毎日あれと対面するのはキツい。・・・だが新人達ならばアレらを狩って稼ぎを出すしかないのだ。精神的には苦しいかもしれないが立派な冒険者の仕事だ。背に腹は変えられないだろう。

 

 

薄暗い下水から出て街に戻った俺はその足で鍛冶屋へ向かった。結局下水道で武器は抜かなかったがこの後受ける予定の依頼では武器を使う必要があるだろう。そうなれば武器の整備などは必須になってくる。少しして鍛冶屋に辿り付き中へ入る。中にはいかにも頑固そうな人物がいた。恐らく店主だろう。雰囲気からしてもかなり長く店をやっていそうだった。

 

鍛冶屋は俺を見るなり訝しげな顔をして声をかけてきた。

 

「見ねぇ顔だな。何の用できた?」

 

「武器の手入れを頼みたい」

 

簡潔に内容を話す。こういった頑固な職人のような人物には要件は手早く言うのがいい。

俺は腰の刀を鞘ごと鍛冶屋に渡す。鍛冶屋は刀を鞘から抜き刀身を暫く見て顔をしかめた。

 

「・・・お前さんからかってるのか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「ワシも長い間ここをやってるがこんな業物は見たことねぇ。特に特別な魔法とかが宿ってるわけじゃないがそれでも刃の鋭さを見りゃ分かる。よく鍛えられて、それでいてかなり長い間使い込まれてる。このタイプの剣は手入れを怠るとすぐ刃毀れを起こすものだがこれは刃毀れもせず僅かに血脂に汚れてる程度。つまりそれだけの技術と物を使って鍛えられたモンだ。お前さんがどこで、何を、どのくらい切ったかは知らんがこいつを打ったのは相当な腕と技術を持った鍛冶屋だろうな」

 

刀身を見ただけでここまで見抜いた鍛冶屋の観察眼に驚く。そこまで分かるものなのか・・・修理の光粉を使って手入れもしていなかったのが少々申し訳なくなってくる。

壊れさえしなければあの粉を使えば殆ど直ってしまったからだ。

 

「それで手入れは頼めそうなのか?」

 

「・・・ああ。こいつを打った鍛冶屋には及ばねぇだろうが手入れくらいなら出来るだろうぜ」

 

「では頼む。この後すぐに依頼に出るからな。簡単なものでいい」

 

「わかった。だが今の状態だとせいぜいが血脂を落として軽く研ぎなおす程度だぞ」

 

「構わない。それだけでも十分すぎるさ。依頼を受けたら取りに戻る」

 

そういって俺は鍛冶屋を出る。ギルドへ報告をして次の依頼を受けに行くとしよう。

 

 

 

~~~

 

 

 

ギルドに入り受付に向かう。俺は受付嬢に依頼の達成を証拠と共に報告した。

 

「終わった。特に何事もなく終えることができたよ」

 

「お帰りなさい。放浪さんには少々物足りなかったでしょうか?何はともあれお疲れ様です。こちらが報酬になります」

 

そうして報酬の金貨2枚 その依頼が2つなので計4枚の金貨を受け取る。そのまま俺はもう一枚の依頼書を受付嬢に差し出す。

 

「え?また依頼に行くんですか?・・・私が言える立場ではないのですが今日はお休みになられた方が・・・」

 

「・・・先ほど君が言った通りだが少々物足りなくてな。それにここに来るまでの村のような惨状が生まれると思うといてもたってもいられん」

 

俺の言葉に受付嬢は難しそうな表情になって依頼書を見つめ、ふぅっとため息を吐いた。

 

「・・・分かりました。ですがいくら()()()()退()()でも危険な物は危険なんです。ましてや一人なら尚更ですよ?」

 

「問題ないとも。奴等に慈悲などかけん。一切の慢心もなく屠ってみせよう」

 

ゴブリン共に対する憎しみを隠さずに声に出す。俺はそのまま踵を返すと鍛冶屋に武器を取りに戻る。

その背に受付嬢の声が掛けられた。

 

 

「無事に、帰ってきてくださいね。帰ってくるまでがお仕事ですから・・・ちゃんと、生きて帰ってきてください」

 

 

――ああ、分かっているとも。

 

 

 

~~~

 

 

 

鍛冶屋から武器を受け取り代金を払った俺はそのまま辺境の街を出て、郊外の小さな森の中に入る。そう以前にも懸念していた篝火の設置だ。

 

「ここならよさげか?」

 

少し開けて小さな広場のようになっている場所を見つけた。ここなら十分だろう。

 

そして俺は広場の中央に剣を刺し、手をかざす。

 

・・・しかし一向に待っても火が付く気配がなかった。

 

(・・・どういうことだ?ただ突き刺すだけでは駄目なのか?)

 

何か手順が必要なのか?そこまで考え過去の擦り切れた記憶を探る。確かこの剣が刺さっていた場所は・・・

 

(そうだ、灰だ。・・・焚き火と同じように燃やすための燃料がないということか)

 

地面に刺さった剣の根元に使い道の無くなった不死の遺骨と帰還の骨片を敷き詰める。十分に敷き詰めてできたそれはかつてみた篝火と寸分違わぬ物になった。改めて螺旋の剣に手をかざす。

するとボゥッという音と共に剣に炎が灯る。懐かしくどこか温かいそれは紛れもなくかつての『篝火』そのものだった。俺はそこに座り込んで底なしの木箱を開く。

 

(・・・よかった。まだ中には山ほど溜め込んだ物資が残っている。予備の武器もどうにかなりそうだ)

 

鍛冶屋や街の薬屋には悪いかもしれないがこれで当分はしばらくこの場所で補給と武器の修理ができるだろう。物資の補充をして立ち上がりその場を後にする。

いざというときは螺旋剣の破片を使ってここに帰還できる。最悪の場合逃走手段としても使えるだろう。

 

さて依頼のある村へと向かうとしよう。俺は依頼を出した村へと足を運んだ。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

昼時を過ぎて少し。村に辿りついた俺は村人に依頼を受けた冒険者だと伝える。

 

「依頼を受けた冒険者だ。ゴブリンの被害に悩まされていると聞いたのだが…」

 

「ああ!ようやく来てくれただか!どうか助けてくれぇ!あの小鬼共毎晩毎晩やってきて村の収穫や家畜を奪っていくんだぁ!最初は数も少なくて村の若いのでも追い払えたんだけども今は数も増えて若いのにも怪我人が出てる。このままじゃオラ達は飢え死にしちまう!」

 

…数が増えてきたのであれば厄介だな。場合によっては巣があるかもしれない。

 

「奴等は村から見てどの方角から来てる?正確にはどっちに逃げて行ったか分かるだろうか?」

 

「村の見張りをやってる若いのの話じゃあっちの山の方から来てるって話だ。方角じゃ北のほうになるだな」

 

「そうか…最悪巣がある可能性がある。数が増えて食料が持っていかれてるなら襲撃の準備をしているかもしれない。すぐにでも潰しにいく」

 

「なんか出来ることはあるだか?オラ達に出来ることならするんけんども…」

 

その言葉に「私」は少し考える。最悪の場合を想定するならば…

 

「…もしも私が、日が落ちても村に戻って来なければギルドに事情を説明しに行ってくれ。依頼を受けた冒険者が帰って来ないと。その後は次の冒険者が来るまで木でできた柵を作って村の周囲を囲っておいてくれ。気休め程度の防備だが侵入を手間取らせることくらいは出来るだろう。あとは女子供、特に女は夜には絶対に外に出すな。ゴブリン共は女を攫って慰み物にするらしいからな」

 

「わ、わかっただ。みんなによく言っておくだよ」

 

私の言葉を聞いて顔を青ざめながらも村人は頷いてくれた。

奴らの活動時間は夜だ。日が暮れる前に奴らの巣を探し出して潰さなければならない。最悪の事態はいつだって想定しておくべきだ。襲撃するぶんには問題ないがもしゴブリンが群れになって村を襲ったら一人では守れないだろう。そうなる前に襲撃をかけ全て倒さなければ。

 

 

〜〜〜

 

 

 

村人が教えてくれた山の方へ歩き森の中へ入る。その際に木々の葉を自身の体に擦りつけて匂いを消す。下水の匂いを完全に消せるとは思っていないがある程度は誤魔化せるだろう。幸い木々が生い茂り姿勢を低くすればすぐに見つかることはないはずだ。それに今回は襲撃をかける以上装備も隠密に長けた指輪をつけた。

 

『静かに眠る竜印の指輪』と『幻肢の指輪』の二つだ。

 

前者は装備者の出す音の一切を出さなくし、後者は近づかれなければ視認することが出来なくなるものだ。ロスリックの地でも重宝され特に幻肢の指輪は姿を消して死角から一撃を放つ戦術が極めて恐ろしい物だった。かなり近づかないと見えず少し油断すると見失い奇襲を受ける。これをつけた魔術師の魔法は恐ろしい。詠唱の音すら聞かせず確実に葬れるというのは数の不利を減らすという工夫で生まれたものだろう。暗殺をする上ではこの上なく強力な指輪であることは間違いない。今回のように数の多い相手をする上では囲まれないようにしないのが最優先だ。増援を呼ばせないように確実に、1匹1匹確実に仕留めていかなければならない。

 

! 森の中を進んでいると声が聞こえる。いつかの時に聞いた醜悪な声。咄嗟に屈んで匍匐前進の要領で進む。少しして開けたところに何匹かのゴブリンが見えた。奥には洞窟のような物がある。間違いなく巣穴だろう。悪い予感というのは嫌でも当たるものらしい。

 

何やらゴブリン共は投石をして遊んでいるようだ。1匹が投げた石が他のゴブリンの頭に当たる。

打ち所が悪かったのか、石があたったゴブリンは動かなくなった。他のゴブリン達はヘラヘラと笑って死体を蹴っ飛ばした。

 

ーどうやら自分の事しか頭にないというのは本当らしい。

 

群れを襲われれば怒るらしいが、それは仲間意識があるというものではないのだろう。単純に自分が襲撃を受けたという事に怒るのだろう。その時にも周りにあたって自分は悪くないとでも思うのだ。なんと醜い汚物どもだろうか。あんな奴等は吹き溜まりにすらいないだろう。

 

ゴブリン共が巣穴に戻ろうとする。好機だ。俺は音も無く茂みから飛び出るとゴブリン共に向けて弓を構える。

 

『コンポジットボウ』だ。ショートボウと同じ短弓だがより大きな力を必要とする代わりに威力を高めた物。射程が短いという欠点はあるがロングボウと比較しても素早い攻撃が出来るのが長所だ。素早く狙いを定め連中の後頭部に向けて矢を放った。

 

音も無く放たれた矢はゴブリン共の後頭部にあたり頭蓋を砕いた。…今更ながらなんと脆いのだろうか。いくら単体で弱いといえども弓矢で射抜かれて頭蓋が砕けるとはどれだけ脆弱なのか。…だからこそか。だからこそ新人達は慢心するのだろう。あれは雑魚だと。…そこまで思い至って頭を振る。こんなにも弱い連中にも村人達は無力なのだ。だからこそ「あの村」は滅んだのだ。ゴブリンの死体を茂みに放り込んで洞窟に入る。1匹足りとも逃がすわけにはいくまい。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

松明をつけ洞窟に入る。中は下水道以上に暗かった。夜目は中々にいいと自負してはいるがここまで暗いとさすがに松明の類をつけて明かりを確保しなければ厳しいかもしれない。指輪の効果で歩く音一つ聞こえず静寂が支配する中を進む。ふと進むと何やら頭蓋骨などを組み合わせて作った物が置いてある。何かのトーテムだろうか。文字の類は書いていない。

 

…耳を澄ませる。こういった所には何かある。考えろ。目を引くような場所に置いてある物。暗い洞窟。個々が弱くとも集団行動を取るならば…

 

咄嗟に後ろに振り返る。そこには案の定というか横穴があった。だが中は薄暗くよく見えない。…松明を中に放り込んで見る。

 

…!中にはゴブリンがいる!数にして3。どうやら奴等の視界にも今の俺は見えていないらしい。どうやら何もない所から松明が投げられて疑問を覚えているようだ。暗闇からそっと近づいていき最も近いゴブリンの脳天に刀を突き刺す。

 

「GORB!?」

 

他の2匹は突然仲間が死んだ事に気付いたのか驚愕の声を上げた。音も姿も無く襲撃者が姿を現したのだから当然だろう。だが2匹のゴブリンは此方を視界に写すと怒りの形相で飛びかかってきた。

 

「煩い奴だ」

 

短剣を抜いて1匹の首に突っ込む。そのまま横に振り抜いて喉元を掻っ切った。もう1匹が仲間に見向きもせず来るが関係ない。松明を捨ててフリーになった左手に呪術の炎を宿して首を掴む。

 

「GOB!?GORB!GORB!!」

 

ジタバタと暴れ拘束から逃れようとするゴブリン。手に持っていた粗悪な棍棒を落とし必死にもがくが無意味だ。掴んだ手から直接呪術を放つ。

 

『浄火』

 

本来は穢れを祓うための儀式用の呪術で零距離で放てる変わった呪術だ。

ロスリックでは間合いの短さや隙の大きさからあまり使われなかったが、こいつら相手なら十分すぎる。

 

ゴブリンの体内に炎が育つ。拘束から解放され投げ飛ばされたゴブリンは自分に何が起こっているのか分からないうちに内側から浄火の炎に焼かれ燃え尽きた。

 

3匹のゴブリンの死体から討伐の証拠として耳を切り落とす。最初の死体に突き刺してそのままにしていた刀と投げ捨てた松明も回収した。その時だった。背後から声が聞こえた!恐らくゴブリンだろう。戦闘の音に気づいてこちら側に来たのだ。直感的に左手の小盾を裏拳の要領で振り抜く。

 

ガンッという鈍い音と共に1匹のゴブリンが壁に叩きつけられる。力強い殴打で壁に叩きつけられたそれはすぐに物言わぬ屍になった。あと2匹。!片方が暗闇から弓矢を構えている!飛び掛かってきた1匹を回避してすり抜け弓持ちに向かって投げナイフを投げる。

 

「GUGAAAA!!」

 

眼球にナイフが刺さり痛みに悶えている間に素早く駆け寄り短剣でトドメを刺す。背後ですり抜けたゴブリンの声が聞こえる。やけくそになったのか逃げもせず破れかぶれに向かって来る。短剣をしまって腰に帯刀した打刀に手を掛ける。腰を深く落とし低い姿勢になって居合の構えを取る。そのまま勢いをつけて刀を振り抜き研ぎ澄まされた刃がゴブリンの身体を真っ二つに切り裂く。

 

 

 

 

 

 

ーはずだった。

 

 

 

 

 

 

キィンっという甲高い音と共に手に衝撃が伝わる。思わず武器を落とし持ち手を見ると刀身が洞窟内の出っ張った岩の部分にあたって落としたのだということが分かる。

 

(チッ…!!)

 

即座に後ろに下がって短剣を抜く。何という失態だ。相手が1匹の時で良かった。これが群れでいたとしたら間違いなく死んでいただろう。飛び掛かりの隙を狙って火炎壺を投げる。

 

「gieeeee!!」

 

火だるまになったゴブリンが悲鳴を上げてのたうち回る。不味い。あれだけの声が上がったのだ。すぐにでも奥から増援が来るだろう。落とした打刀を拾い直しゴブリンに突きを繰り出し息の根を止める。

 

(何を焦っているんだ俺は…!)

 

自分の馬鹿さ加減に反吐がでる。相手が弱いのをいいことに内心では調子づいてたのだろう。いつも通りの戦いをしようとして物の見事に大失敗だ。今回は運が良かったが次もこうとは限らない。しかもその後の対応で咄嗟に火炎壺を投げてしまった。あれらは確かに有効ではあるが今回のように隠密行動をしている最中では敵に声を出されバレるリスクの方が高い。あの場なら投げナイフで怯ませた後に短剣で直ぐに仕留めるべきだった。

 

(打刀はここでは不向きだ。刀身が長すぎる。もう少し取り回しのいい…小型の武器を装備しておくべきだった)

 

打刀をソウルの中へしまい、ショートソードを取り出す。横穴の中で通路の真ん中に立ちショートソードを振る。手を思い切り伸ばしても壁に引っかからず振り回せた。・・・よし。

 

ショートソードを右手に松明を左に持ち奥へ進む。背後からの奇襲の芽は摘んだ。あとは正面から倒すだけだ。

 

 

 

~~~

 

 

 

ひたすら来るゴブリンを切っては捨て切っては捨てを繰り返す。もうどれだけ倒しただろうか?途中から数えるのをやめてしまったので覚えていない。中には呪術で燃やした奴等もいる。そうしてどれくらい進んだのか・・・ようやく少し開けた所に出た。どうやらここが最深部らしい。自分からは音が出ておらず接近しないと見えないので奴等は気づいていないようだ。奥には杖を持ち、口元に布をつけ帽子をかぶったゴブリンと他と比べて大きなゴブリンがいた。あれが情報にあったシャーマンとホブゴブリンだろう。・・・事前情報の有難さが身にしみる。・・・他にもゴブリン共がざっと見ても15匹程。途中で倒した数も合わせたら下手したら50を超えているのではないか?本当に手遅れになる前でよかった。ここにいるまでの奴等は全体的に体の細い奴等ばかりだった。恐らく数が増えに増えて群れ全体に食料が行き届いてなかったのだろう。それらの統括もあの頭脳担当のシャーマンがいたから・・・。そうでなければゴブリン共の事だ。すぐにでも村に向かって襲撃を掛けていたかもしれない。最も今回はそれが奴等にとっては仇になったわけだが。

 

ゴブリン達はシャーマンとホブを前にして何やら隊列じみた物を組んでいる。ゴブリン共が軍隊の真似事とは・・・。

 

だがこれは普段なら統率の取れていないゴブリン共が連携じみた動きをしてくるようになると思うと恐ろしい。数の暴力は時に巨大な戦力を倒すことも出来るのだ。だがスペルキャスター…今回の場合はシャーマンが指揮官の立ち位置に居る。こうした連中は指揮官を倒して統率を崩して戦術を瓦解させればいい。そうすれば動きを雑にして判断力を鈍らせることが出来る。あとは殲滅するだけだ。魔術を使っても良かったがあれはあれで集中力がいる。不要な所で使うのは愚者というものだろう。

 

弓を構えシャーマンの脳天目掛けて矢を放つ。シャーマンの頭に矢が刺さりシャーマンは倒れた。

 

奇襲に気づいたゴブリン達が一斉にこちらを向く。弓をしまいショートソードに持ち替える。

 

袈裟斬り。斬り払い。盾の殴打に刺突。狭い洞窟では刀は使えないがこの武器ならばゴブリンの群れとの洞窟内の戦いで存分に振り回せる。残るゴブリンは3匹。すぐに終わらせてここから離脱する――そこまで考えた途端に身体が宙を舞った。

 

「ぐっは…!?」

 

何が起こったとすぐに元いた方向を確かめる。

 

ホブゴブリンだ。

 

背後から思いっきり棍棒の横振りで殴られたのだ。まったく先ほど油断も慢心も捨てたつもりだったがそこまで完璧にはなれないようだ。やはり最初の依頼から立て続けに来たのが良くなかったのかもしれない。集中力が切れかけた所を狙われたのだ。

 

全身に痛みが残っているが腰の雑嚢から治癒の水薬を取り出し飲み干す。…少しは痛みが引いたようだ。

 

ゴブリン共がニヤついた笑みを浮かべながらこちらに向かってくるその後ろにはホブもいる。…間抜けめ。たかだか一撃加えただけで有利になったと思い込むとは…

 

3匹のゴブリンがこちらに駆け出す。俺は左手に火を宿すとその手を大きく振り払う。大きな炎が手から放たれ一瞬にして3匹のゴブリンは消し炭になった。

 

『大発火』

 

呪術の中でも極めて単純な火を起こすだけの『発火』の上位呪術。しかしそれは単純が故の威力の高さを持っており多くの不死達が愛用した呪術だろう。

 

かつてとは少々唱え方(モーション)が違うがそんなことは些細な事だろう。

 

残るはホブだ。棍棒を持ちこちらをじっと見据えている。だが先の呪術を使われるのは不味いと踏んだのか大ぶりに棍棒を振りかぶって来る。…愚か者め。

 

片手持ち(パリィ可能な振り方)とはな。

 

棍棒が振り下ろされるタイミングで盾に持ち替えた左手を振るう。盾に当たったと同時に棍棒が弾かれ体勢を大きく崩したホブゴブリン。そのまま間髪入れずに首に短剣を差し込んだ。体勢を崩すという膨大な隙を生んだホブは致命の一撃(クリティカル)を受けて死んだ。首から勢いよく血が噴き出し返り血を浴びる。

両手で全身の力を加えた振り下ろしだったなら回避せざるを得なかっただろうに。そこまでは頭が回らないようだ。まぁ打撃武器を扱う連中なぞ大体そんなものなのかもしれない。かくいう自分も大きな棍棒(ラージクラブ)巨大な棍棒(グレートクラブ)を振るうときは何も考えず両手で持って叩き潰すだけだった。考えも戦術もあったものではない。

 

・・・これで全部だろうか?ようやく終わりの見えた仕事だったがシャーマンが座っていた椅子の先に何やら骨で出来た扉のような物があった。蹴りで扉を壊しそのまま中に入る。暗闇の中から何かか細い声が聞こえた。だが人の声とは違うような気がする。松明をかざした先には―――

 

 

 

生まれて間もないであろう3匹の()()()()()()()がいた。

 

 

 

「GORB…」

 

こちらを見るなり肩を抱き合い怯える子供のゴブリン。

 

俺はゴブリン達の目の前まで来て武器を手に振り上げる。しかし何故か手を振り下ろすことが出来なかった。

 

―奴等は子供だ。子供は力を持たない。そんな奴等の命を奪う権利がお前にあるのか?

 

―殺せ。お前はさっきまで何と戦った?何を殺した?放れば奴等は復讐にくるぞ。

 

「・・・」

 

頭の中に言葉が響く。殺さなければならないのに動きが思考が鈍る。

 

―やめろ!お前だって無力な時代があったはずだ。罪のない者達をお前は斬るというのか!?

 

―躊躇うな。いずれ奴等は害を為す。お前はあの村のような惨劇を起こす要因を見逃すのか?

 

 

「・・・・・・」

 

 

怯えるゴブリンを前に振り上げていた手を下ろす。自分でも何をしているのかとは思う。

だが迷ったまま、いくらゴブリンとはいえ無抵抗な者の命を奪うのは殺戮者と同じではないか・・・

 

武器をしまい子供のゴブリン達に背を向けて歩きだす。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ガンッと後頭部に大きな衝撃がはいった。

 

 

 

 

 

 

よろめき倒れそうになるのをどうにか堪えて後ろを振り向く。そこにはゴブリン達のうち1匹が石を投げた姿勢でこちらを見ていた。

 

石を投げられたのは足元に落ちている石を見れば一目瞭然だろう。・・・ゴブリンの目には確かに憎しみが宿っていた。

 

(まったく何を迷っていたのか・・・)

 

再びゴブリン達に向けて歩き武器を抜く。自分の甘さに反吐が出る。今日は失敗だらけだ。言い訳もできん。

 

不意打ちに失敗し危険を悟ったのか泣き叫びながら命乞いをするように手を前にだすゴブリン。

 

―あんただって生きてるし、俺だって謝ってるじゃないか。

 

ああ、そうだな。結果的に何もなかったなら許すのかもしれない。『同じ存在』なら許したかもな。

 

このゴブリン達には感謝せねばなるまい。「私」の・・・いや「俺」の迷いの霧を、晴らしてくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3つの命を俺は無慈悲に刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




展開遅ぇ上に書きたいこと書いてたら1万文字超え。
もう少し簡潔に読みやすくまとめたい物ですね
でも私が過去編という形で後から書くの苦手なもんで・・・ね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。