放浪騎士   作:赤い月の魔物

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…ああ、お前も死に損ないか。

俺もそうさ。

火のない灰、何者にもなれず、死にきることすら出来なかった半端者さ。

…まったく、笑わせるよな







俺には最初はあの言葉の意味が分からなかった。

この言葉の意味がわかったのは幾度も繰り返し、「俺」が「私」になった時だった。


第6話 一党

あれからゴブリン共の巣穴を殲滅した俺は生き残りがいないかの探索をして、村へと戻り報告をした。もう少し遅かったらギルドに報告に行く所だったらしい。短いようで随分長く巣穴にいたようで時刻はもう日が沈もうとしている。空の色がすっかり夕暮れになってしまっていた。

 

ギルドに戻った俺は受付に報告をしにいく。

 

ギルドの中には依頼を終え、その成果を話し合ってる者。仲間が死んだのか、依頼をしくじったのか、暗い表情をしている者。1日の疲れを癒すように酒場へ向かおうとする者、様々だ。

扉をくぐった俺はそのまま受付に向かい報告をする。

受付嬢が仕事の顔(営業スマイル)で迎えてくれる。

 

「おかえりなさい ご無事でなによりです。…大丈夫でしたか?」

 

「ああ 案の定ゴブリン共は巣穴に巣食っていたよ。数は30を超えたあたりから数えていない。ホブやシャーマンもいた。それとこれが一応討伐証明の耳だ」

 

報告をしつつ証拠である袋に入ったゴブリンの耳をカウンターな置く。俺の報告を聞いて受付嬢は羊皮紙に内容をまとめていく。

 

「…はい 確かに。中にはゴブリンが30以上。ホブやシャーマンもいたと…大変じゃなかったですか?」

 

「ああ 油断も慢心もしないと心構えはしていたがどうにもその辺りで失敗するあたり私もまだまだらしい。いくつもミスをやらかしたよ。運が良かったとしか言えない。長旅の経験がなければ確実に死んでいただろうよ」

 

「そうですか…気をつけてくださいね。口酸っぱく言うようですが、ゴブリン退治に出た冒険者の皆さんの中には、ベテランの方でも帰ってこなかった人はいますから…」

 

受付嬢の顔が陰る。やはり多くの冒険者を見送り、帰ってこなかったことに心を痛めたのだろう。しかしベテランでもゴブリン退治に行き帰らぬ人になるとは。やはり個々が弱くても数の暴力の恐ろしさはどこの世界でも変わらない。なまじ過去の自分の戦闘に置ける死因の大半が数に囲まれて死ぬことだった。ああいう手合いは1匹1匹始末していくのが一番だ。欲張ればあっという間に包囲されて死ぬ。慎重になりすぎるくらいが丁度いい。

 

「…私が言えた立場でもないだろうが君が気に病む必要はないだろう。彼らは自ら選んで行ったのだから」

 

「そう なんですけどね…自分が送りだした冒険者さんが帰ってこないと責任を感じてしまうんです。先輩達からも言われてはいるんです。一々気に病んでたら身が持たないって。でもそれでも私は新人さんでもベテランの方でも生きて、帰ってきてほしいんです」

 

「……」

 

その言葉を聞いて俺は何も言えなかった。いやかける言葉がなかったと言うべきか。ただ武器を振るい正気を失った者達を倒し続けるしかなかった俺には人に対する思いやりの言葉は持ち合わせていなかった。だが…

 

「…あまりそういった顔をするものじゃない。ギルドの人間が暗い表情なのはいただけないな。ならば君の憂いを晴らすためにも私だけでも生き延びて見せよう。どれだけ惨めな姿になろうとも必ず生きて戻るとも」

 

受付嬢は俺の言葉を聞いて驚いた表情になりながらも

 

「…はい! でもいずれは報告だけでなく冒険のお話も聞かせてくださいね?」

 

明るい太陽のような笑顔を向けてくれた。

 

その光景を他の受付嬢達が微笑ましそうに見守っていた。それはまるで娘をみる母親のようでもあったとか。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

あれから俺は篝火のある場所に戻り消耗品の補充と武器の修復を行う。結局鍛冶屋の主人には悪いことをしてしまった。今度適当な貴石でも送ろうか。

 

今日の依頼は反省点が多い。暗殺すべき場面で火だるまにして騒がれたり、場所も考えず武器を振るなど初歩の初歩だ。所構わず武器を振っていた昔の自分をぶん殴りたい。まだ自分は運がよかった。ある程度戦いの経験もあったし、敵の数も少なかった。だがあれで経験がなかったら?敵の数が多かったら?結果は言うまでもない 間違いなく死んでいた。

 

自分は最悪死んでも篝火で目覚めるだけだが、ここの世界の人達はそうじゃない、死んだらそこで終わりなのだ。命は儚くすぐに散る安いものだが、それと同時にとても重いものだ。我々(不死)は何度でも命を投げ出せるが彼らにそれは許されない。そのためには先人達が根気よく新米達を導いて、少しでも冒険者の死亡率を下げるしかない。俺も多くの師や同胞に導かれてあの旅路を歩んだのだ。それと何が変わろうものか。ただそれには俺も経験を積んだ一人前になる必要がある。実績のない人間の言葉なぞ誰も聞かないだろう。

 

柄にもないことだと自分でも思う だが悪くはないはずだ。助け合うのもまた「冒険者」の務めだ。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

あの日から俺は、毎日来る日も来る日も依頼を片っ端から受け続けた。

受付嬢からは心配そうな顔をされたが生き残った実績だろう。前のように緊迫した表情ではなく笑顔で送り出してくれるようになった。

 

経験を積むために我武者羅に依頼を受け続けていたらいつのまにか黒曜を終えて鋼鉄になっていた。黒曜に上がる時も昇級試験の際に面接があったのだが、1日に依頼をこなした数を正直に答えたらギルドの監督官にすごく困ったような顔をされた。後に聞いた話では看破(センス・ライ)という嘘を見抜く術の類を使って真偽を見定めていたらしい。どうやら依頼を受けすぎて周りに影響を受ける人(特に新人)がいるかもしれないので程々にしろとのこと。

 

だがこれは俺が決めたことだ 譲れない。それに困った人々を救うためなのだ。このくらいは目を瞑ってもらわねば困る。

 

 

鋼鉄級になってから依頼をこなし続ける日々。相変わらず俺は一人で依頼をこなしていた。そうあれから俺はずっと一人で依頼を受けている。俺の素性が窺えないからか、はたまた外見の問題なのか、俺に声をかける者はいなかった。いるとしたら精々受付嬢くらいだろう。まぁもとより愛想のいい方ではないし気配りも苦手だから特に問題はない。ないのだが…

 

 

「おい あいつだ。放浪の…」

 

「今日は何件片付けて来たんだか…まるで狂戦士だぜ」

 

「仕事を選んでねぇって話だが…そんなに出世したいのかね」

 

「言うなよ。大方化け物共に恨みでもあんだろ。あれじゃ先は長くねぇな…」

 

 

こう周りから根も葉もない噂ばかり立つと流石に鬱陶しく感じる。悪口の類ではないものがあるのもわかるが…あいにく出世そのものには興味の欠片もないというに…

 

今日も依頼を受けに受付に向かう。今ではすっかり馴れ親しんだ受付嬢に声をかける。

 

「依頼を受けたい。何かあるだろうか?」

 

「あ 放浪さん!戻られたんですね。何度も言いますが無理をして死んでは元も子もないんですから無理してはいけませんよ。…まぁ言った所で止めるつもりはないんでしょうけど…っとっと…ええと今受けられる依頼は…」

 

そうして書類を取り出して依頼の内容を一つ一つ簡潔に読み上げてくれる。…彼女も大分明るくなったものだ。心なしか応対している時の笑顔が柔らかくなった気がする。以前のような顔に張り付けたような笑みではなく心から笑っているような気がした。

 

「聞いているんですか? 今受けられそうなのは五件ありますよ」

 

「ああ すまない なんだったか?」

 

「もう…ちゃんと聞いていてくださいね。依頼内容の把握は大事ですよ?」

 

本当は聞いていたのだが。このくらいの冗談を言ったっていいだろう。

呆れた表情になりつつも再び依頼内容を受付嬢が説明している時に後ろから声をかけられた。

 

「よう お前さん。ちょっといいか?」

 

その声に振り向くとそこには無精髭が特徴的な斧を背負った男。耳が長く金色の髪を背中あたりまで伸ばした森人(エルフ)の女性。もう一人は錫杖を持ち法衣を着た僧侶の男がいた。声を察するに先頭の斧を持った男が頭目(リーダー)だろうか?

 

「…何の用だ?」

 

警戒の意味も込めてやや無愛想に返す。悪人らしくは見えないがどうしても初見で疑ってしまう癖は抜けない。男はフッと笑って応える。

 

「そう警戒するな 取って食いやしねぇよ。最近依頼を一人で片っ端から片付ける放浪者がいるって聞いてな もしやと思ったがお前さんであってるみたいだな」

 

放浪者…まぁあってはいるか。依頼で東西南北あらゆる場所を行ったり来たりを繰り返しているのだ。そう思われてもやむなしか。

 

「それだけか?貴公等もただそれだけを聞くために声をかけたわけではあるまい?」

 

「っとそうだ いけねぇいけねぇ。お前さん噂じゃ鋼鉄級にしちゃ不相応に腕が立つらしいじゃねぇか。悪魔(デーモン)だって倒したんだろ?俺の後輩が言っていたぜ?悪魔に襲われて死にかけた所で黒い外套を纏った騎士みたいな奴に助けられたってな」

 

デーモン…助けた…ああ 遺跡の調査依頼の時だろうか。依頼の帰り道にあるからという理由で安易に受けたら中が悪魔の巣窟になっていたという奴か。確かにあの時他の一党らしき冒険者を見かけた気がする。だがあの悪魔は倒した際に消えてしまったしあの一党も生存確認をする前に見失ってしまったのですっかり忘れてしまっていた

 

「え?放浪さん悪魔も討伐してたんですか!?調査報告の時にはそんな報告はしてなかったじゃないですか!?」

 

受付嬢が驚いたように声を上げる

 

「む?ああ、中に化物どもがいたとは報告をしたはずだが…あれはデーモンだったのか」

 

何とも弱っちぃ化物共だったので普通に化物と報告をしたのだがあれはデーモンだったのか。俺の知るデーモンはもっと巨大で岩を吐いたり火を吐いたり、大槌をぶん回して来たりととんでもない奴等ばっかりなのだが、恐らくは下級も下級のデーモンだったのだろう。そうに違いない。

 

俺の言葉に彼女は怒った表情になり机に身を乗り出した。

 

「ちゃんと報告してください!他の冒険者の人が悪魔に出くわしたらどうするんですか!?」

 

むぅ…鋼鉄級がデーモンを倒したなどと言っても法螺吹きにしか思われんだろうし証拠も残らなかったからせめて荒波を立てぬよう化物共を倒したと報告したのだが…

 

「…すまない。次からは些細全て報告する」

 

「当たり前です!調査なんですからしっかり報告してください!ギルドからの評価にも影響するんですからね!」

 

顔前に指を突き付けて怒鳴る受付嬢。女性は怒ると怖いと言うのはこういうことだったのか。あの世界でも怒った女性は怖かったがこちらのような威圧感はなかった。普段との雰囲気の差が出るのだろうか。

 

「ハッハッハ!お前さん達仲いいなぁ!こりゃお邪魔だったかな?」

 

頭目の男が豪快に笑う。見れば後ろの森人の女性と僧侶の男も笑っていた。

 

「い いえ…私はそんな…」

 

その言葉に急に先程までの剣幕は鳴りを潜め尻すぼみな声になり椅子に座る受付嬢。心なしか顔が赤い気もする。まったく失礼な、そんな関係なぞないというのに。

 

「そんなことはない 冒険者とギルドの受付 私達の関係はそれだけだ」

 

「おいおい…お前さんなぁ…そんなんじゃ人生損しちまうぜ?」

 

「ふむ…?」

 

ふと見ると受付嬢がムスッとした表情になっていた。何故だ。

 

「っと本題に入るぜ つい話が逸れちまっていけねぇ。お前さんに声をかけたのは他でもねぇ この前俺達が発見した遺跡の調査に同行して欲しいのさ」

 

そういって頭目の男が依頼書もとい調査書を見せる。内容を見る限りでは地下遺跡の調査のようだ。

 

「…何故私なんだ?貴公等は見た限り冒険者歴は長いのだろう?声をかければ他に適任は幾らでもいるだろう」

 

「ああ それなりにな。だが調査ってのは何もわかってねぇ危険かどうかですら分からない依頼だ。少しでも人手が欲しいのさ それに…」

 

そうして彼は銅のプレートを見せる。等級序列4位 銀等級ほどでは無いにしろ社会的にも信用され実力もある冒険者の証だ。

 

「お前さん 俺の後輩から聞いた話じゃ武器も魔術の類も使えるんだろ?ただの鋼鉄級冒険者が出来ることじゃねぇ。それに悪魔の巣窟を一人で生きて帰ってきてるとありゃ同じ冒険者として気になるのもわかるだろう?」

 

 

成る程実力が見たいというわけか?その言葉を聞いて思案する。確かに俺は武器もそれなりに多くの物を使えるし魔術も呪術も奇跡も闇術も行使できる。指輪の効果もいれればかなりの役回りを演じることが出来るだろう。だがそれらを人伝てに聞いただけで誘うものなんだろうか?

 

「ああ勿論一党に入ってくれって訳じゃねぇ。そら入ってくれるなら歓迎するがお前さんはそういう類じゃねぇだろう?今回の調査の間だけでもいいのさ。お互い明日も知れぬ身なんだ。協力できるときは協力しあうのもアリだと思うぜ?」

 

この世界に来てから俺は誰かと組んだ試しは一度もない連携は難しいだろう。だがいつまでも一人というわけにもいくまい…一党を組むというのも大事なのだろうが…

こういった事に慣れていないので思案していると受付嬢から声を掛けられる。

 

「せっかくですから放浪さんもこれを機に他の方とももう少し接点を持った方がいいですよ。ベテランの方々についていける機会ってあんまりないんですよ?」

 

背中を押すような発言で組むことを勧める受付嬢。俺が危惧しているのはそういうことではないのだが…

 

「…分かった 同行しよう ただ過度な期待はしてくれるな。所詮一人の鋼鉄級の冒険者だ」

 

「なんだ?能ある奴はなんとやらってか?ははっだがよろしくな!改めて俺はこの一党の頭目をしてる只人(ヒューム)の戦士だ。んでこいつらが…」

 

「森人の野伏(レンジャー)よ。大丈夫、いざってときはおねーさんに任せなさい!」

 

只人(ヒューム)僧侶(プリースト)である 以後お見知り置きを。僧侶とは名ばかりの坊主であるが本業以外にも棒術で戦える故、背中は任されよ」

 

森人の野伏は豊満な胸を張りながら、僧侶は佇まいを直して自己紹介をする。彼等も銅等級のようだ。首から下げた銅のプレートが輝く。

 

「私は異国の地を旅してきた放浪の騎士だ。未だ鋼鉄級だが先人の足を引っ張らぬよう努めさせてもらうとしよう」

 

「そんな固くなるなよ!もっと気楽に行こうぜ!一時であれども立派な仲間なんだからよ!」

 

そういって俺の肩を叩きながら笑う頭目の戦士。豪快な笑いはかつての友である玉葱鎧の騎士を思い出させる。

 

「…ああ、よろしく頼む」

 

こうして俺はこの世界に来て初めて一党を組むことになった。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

そうして俺を含めて4人になった一党は早速、戦士が予約しておいた馬車に乗り現地の近くへ向かった。

見つかった遺跡は少し遠出の歩きで行くには遠い場所にあるらしい。ただその付近の森を抜け開けた場所に入口があったそうなので馬車で近くまでついたあとは野営をして夜を明かして万全の体勢で行くとのことだった。…恐らく「噂」とやらを聞いて疲れが残っている可能性を考慮して気を使ってくれたのだろう。俺達(不死人)は一応飲まず食わず眠らずでも大丈夫ではあるのだが…まぁせっかくの気遣いを無碍にする必要はない お言葉に甘えさせてもらおうか。

 

「よし。この森だ。この森を入って抜けた所に少し開けた広場のような場所がある。そこが遺跡の入口があったとこだ。だが未知の場所の調査には何があるか分からん。だから今日はここで一晩野営をして明日の朝に全員が万全になってから遺跡の調査に向かう。いいな?」

 

「おっけーい」

 

「承知した」

 

「わかった」

 

森人 僧侶 俺の順で三者三様に返事をする。

 

あたりはすっかり日が暮れ夕焼け模様の空になっていた。

 

焚き火囲み夕食を取る。本来は取る必要はないのだが不信がられてもアレなので食事をとることにした。…美味い。食事などいつ以来だろうか。ロスリックでは口に含むものと言ったら虫を固めた丸薬。解毒や凍傷直しの苔。精々マシだったのが代謝を上げるための草なあたり相当だ。

…本当にあの場所は碌でもない場所なんだということを痛感する。それと同時に人の生活はとても素晴らしかったのだとも。…ああ、今ならばハッキリと生きててよかったと言えるかもしれない。

 

「どうした?飯が気に食わなかったか?」

 

俺の様子を見かねてか戦士が顔をしかめて話しかけてくる。俺はそれに首を振って応えた。

 

「いや、私が旅をした場所では碌に食事も取れなかったからな…こうして普通の食事を取るのが酷く懐かしくて感傷に耽っていた」

 

「ええ?碌に食事してないって…貴方どんな所を旅してたのよ?」

 

森人の野伏が自身の食事を口に運びながら俺に質問をしてきた。…だがこれには答えるべきではないだろう。あの呪われたあらゆる者が流れ着く、救いようのなかった旅路の話なぞこうした場所でするものではないだろう。

 

「…とても過酷な旅だったよ。それこそ食事なんて概念を忘れて生き延びねばならないくらいには」

 

簡潔に中身は伝えず結果だけは教える。それこそ知り合って一日の知り合いに話す内容ではない。

 

「大変だったのですなぁ…食事を忘れてすら生き延びねばならないとは、拙僧達の想像を絶するような場所だったのですな」

 

僧侶の言葉を皮切りに俺はこの話はやめようと話を切り上げた。せっかくの食事時なのだ暗い顔をするものではない。

 

「そういやお前さん、なんであんなにいくつも手当たり次第依頼を受けてんだ?しかも誰もやらねぇような余った依頼とかまで優先してやるなんてよ。そんなことしなくてももうちょい羽振りのいい依頼だってあったろうに」

 

戦士が俺の冒険者としての活動に疑問を持ったのか質問を投げかけた。

 

「…この世界の人々が化物共に襲われて死ぬ可能性を少しでも下げるためにな。生憎今の私は化物共と戦うことしか出来ないからな。困っている人間がいて化物共による被害が出ているなら私はそいつらを狩るだけだ」

 

「立派ではないですか。世の冒険者達に見習わせたいものですな」

 

そう言ってうんうんと頷く僧侶の男。

 

「へぇ~いいじゃない。おねーさんそういう頑張り屋さんは好きよ?」

 

からかうように柔らかな笑みを浮かべながらウインクをする森人の女性。

 

「…成る程なぁ。金や名誉に頓着してねぇってのは本当だったんだな。だがあまり気負うなよ?俺達は勇者や英雄なんかじゃねぇんだからな」

 

真剣な表情になり釘を刺すように言う戦士の頭目。その目で残酷な現実を見てきたことがハッキリとわかる表情だった。

 

「ああ…分かっているとも。私は英雄になるなぞ御免だからな」

 

そこまで話して再び食事を再開する。すると急に頭目の戦士が寝そべりながら声を上げる。

 

「カーッ!こういう時に酒がありゃなぁ!明日の景気付けとかにもなるんだが…」

 

「勘弁してよ…この前酒場で酔い潰れて私と僧侶で奥さんのとこまで連れて行ったの忘れたの?」

 

「あれは大変でしたな…泥酔なんて言葉すら生温く感じるとは思いませんでしたぞ」

 

森人の言葉に少し驚く。彼は既婚者なのだろうか?

 

「嫁がいるのか?」

 

「んー?ああ、まだ式は上げてねぇけどな。新居の分も考えるとまだ金が足りねぇのさ。それに指輪も渡せてねぇ。でもな今回の依頼を終えたら指輪だけでも渡そうと思ってな。そこで改めてプロポーズするつもりなのさ」

 

…愛する人か。誰かを愛するということはどういうことなのだろうか。あの呪われた世界にそのような概念を抱くことすらなかった俺にはもう分からんな。繰り返した中で伴侶を取ったこともあったがあれは愛した内に入るのだろうか?…駄目だ考えれば考えるほど分からなくなる。不死になる前ならば分かったのかもしれないが…

 

「そうか …なら前祝いだけでもするか?」

 

「んー?そりゃどういう…」

 

不思議そうにこちらを見る一党の皆の前に樽のジョッキを差し出す。中には酒が入っている。玉葱の騎士や記憶を失った鉄塊の鎧を着た男から貰った酒だ。

 

「ん…?お?こりゃ酒じゃねぇか!?なんだお前さん持ってたなら早く言ってくれりゃよかったのによぉ!」

 

「昔知り合いに教わった酒だ。せめてこういった場所で祝杯をあげる為だとか言って私にも勧めてきてな。まぁまだ終わったわけではないが明日の景気付けにはなるだろう」

 

「おう!いいじゃねぇか。飲んだことねぇ味だが景気付けには最適だ!」

 

「全くもう…あんまり彼を甘やかしちゃ駄目よ?すぐ羽目を外すんだから」

 

「まぁまぁ、こういった場所で羽目を外してもバチは当たらぬでしょう。拙僧等も明日があるかは分かりませんからな」

 

酒を全員が少し飲んだあたりで頭目の戦士が立ち上がって音頭をとる。

 

「いよぉし!んじゃ明日の遺跡調査を成功を願って…そして!俺達全員が無事に家に帰れることを願って!…乾杯!」

 

「かんぱーい!」

 

「乾杯!」

 

「…乾杯」

 

全員でジョッキをぶつけて酒を呷る。かつてはたった二人だけで酒を飲みあったが4人で飲むのは初めてだ。兜のしたで俺は自然と頰が緩んだのを感じた。…久しぶりに笑ったような気がした。この繋がりを共に過ごしたこの時間を俺は忘れることはないだろう。

 

野営が終わり皆が眠りにつく。俺は慣れていると言って最初の見張りを申し出た。頭目が気遣って先にやると言っていたがどうにか折れてもらった。頭目は一党の命を預かる身なのだ。一番休んでおくべきだろう。彼等は俺と違って休息を取らねば俺以上に判断力が鈍ったりするだろう。戦場で判断を誤れば死んでしまう。そんなことにはならないようにするべきだ。俺は夜空に浮かぶ二つの月を見ながら、全員で生きて帰れるように願った。

 

誰も欠けることがないようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラン。 カラン。

 

 

 

 

人の認識できぬ天上で、骰子は振られた。

 

 

 

 

 

 

 

 




評価バーに色ついてる…こんな稚拙作に評価・感想、投票してくれた方ありがとうございます。

前回のゴブリン退治の失敗で生き残った結果ですが、「彼」には何度も繰り返しという名の周回を重ねた経験があったからこそです。あとは敵の数がやらかした時に少なかったという「運」の良さもあったからですね。個々の強さが弱いというのもありました。もし刀を落としたときに原作1話の剣士君のように敵がいっぱいいた場合捌けず問答無用でYOU DIEDでした。
判断ミスを連発するのは感想欄でも言ってくれた方がいましたが「浮かれていた」というのがあります。これは私達でいうなれば無印をずっとやってやっとこさ次回作が出たときに浮かれて前作のような動きとかをしようとしてミスったりするのと同じです。無印から3の武器の振る速さとかパリィのタイミングの違いとか。

要するに「彼」がまだ「四方世界」という仕様に慣れていなかったという事ですね(適当)

デーモン討伐の下りは幕間という形でやる・・・かも
未だ本編どころかイヤーワンにすら合流していませんが、今回で鋼鉄級になるあたりまで飛ばしたように、そろそろ合流に向けて書いていこうとは思ってます。それでももうちょい続きそうですが。
今回出てきた一党の方はオリジナルです。特に原作の誰とかはないです。現状の段階では外伝っぽい感じで見てもらえると見やすいかも?
ちなみにメンバーをダイスで決めたんですが複数回結果を残してその中から決めるという方式を取り、その際に全員がおっさんのパーティというなんともむさい集団もあって扱いにすげぇ困ってました

あ そして誤字報告してくれた方ありがとうございます。6話投稿時に機能に気づいて修正を行いました。
相変わらず設定ガバい所とかでるかもしれませんがゆっくり進めて行くので気長に待っててくださいね
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