ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・


この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください




チャプター3 非日常編 ④

 

『キャッホオオオオオオオオオオオオオオオオオ! またまた大正解!! 超高校級の手タレの指原サンと、超高校級の文化委員の遊木クンをコロしたのは、超高校級の歯科衛生士の羽美垣子サンでした~! あ~はっはっはっは!!』

 ファンファーレをバックにお腹を抱えて爆笑するモノクマ。

 悔しいのに、理性が邪魔して拳を握るしか出来ない自分に嫌気がさす。

『ヒーッ、ヒー! 笑いすぎてお腹痛~い! ふぅ、でもまさか二人を除いてみんな自分に投票するとはね~。もし全員が自分に投票なんてなったら、めんどくさい事この上ないもん。みんなも太刀沼クンと生田クンを見習って、次の学級裁判ではちゃんと自分以外の誰かに投票してよね!』

「どういうこと?」

『簡単な事だよ夢見サン。太刀沼クンは指原サンに、生田クンは羽美サンに、それ以外の人は自分に投票しちゃったってこ~と♪ ふっふふ~ん♪』

 締りのない顔で鼻歌まで歌い始めるモノクマ。

 周りが動揺を隠しきれない中、太刀沼君の唸るような声だけが響く。

「おい生田ァ。テメェどうして垣子に票を入れやがった」

「俺はハミちゃん様の意思を尊重したまでだ。仮に票がバラけていた場合、あの雑巾はハミちゃん様だけでなく、遺体となった愛しきウェヌスまでオシオキしていたかもしれないのだぞ?」

 生田君の言葉に背筋が冷える。

 あのモノクマのことだ。よりボク達を絶望させようと最悪なジャッジを下す事は十分にありえる。

「だからって、テメェなあ!?」

「やめて太刀沼君。生田君は自分の判断に従ったまでよ。それにこれはあたしが望んだ結果。悔いはないわ」

 ハミちゃんの迷いのない言葉を聞いた太刀沼君は説得するのを諦めたのか、それ以上何も云わず、ズボンが汚れるのも気にしないでその場に腰を下ろした。

「ごめんハミちゃん。ぼく、ぼく……」

「良いのよ玉村さん。それにね? あたし、実際は遊木君を殺しているのよ」

「え?」

「ほら、胸に刺さっていたナイフ。凶器を隠す為に遊木君に刺しちゃったけど、あれって遊木君の意識がまだ僅かに残っていたから、トドメを刺す為に刺したのよ。だから、雅は自殺でも、どっちにしてもあたしは人を殺しているのよ」

 

 ――これがトドメの一撃ってところかしら。

 

 捜査中にハミちゃんが云っていた言葉が蘇る。

 あれだけ何度も刺されて意識があるわけがない。それは裁判でも議論した。ハミちゃんは苦し紛れの嘘をついている。こんな情報蛇足以外のなにものでもない。

「ハミちゃん、君は最後まで指原さんを――」

 それより先の言葉をボクは飲み込んだ。

 ハミちゃんの目が、必死にボクに訴えかけていたから。

「お花もごめんね。あんな酷い云い方して」

「うっ、ひっく……あねご……」

「もう、そんなに泣いちゃって。可愛い顔が台無しじゃない」

「ふひぅ……わ、わたじが……よげいなごと、じた、からぁ……うぅう、ごめんなじゃい……ごめなしゃぁい!」

「いいのよ。あたしの事を庇おうとしたのよね。わかってるから。ありがとう」

 花子さんの心に傷が残らないよう、ハミちゃんは温かい言葉をかける。

 その言葉は確かに温かいのに、ボクの心臓は氷水に浸けられたかのように痛んだ。

「わたじも、いっじょに……あねごといっじょに、オシオキ――」

「それはダメ」

「どうじで……デス? わたじもきょーはん、デス。だから!」

「あなたは生きるの。あたしや、雅の分まで。生き続けるのよ」

「ぞ、ぞんなノーデス! いやデス! みやびチャンもあねごもいないのに、ひとりぼっち、やーデス゛ッ!」

 可愛らしい顔をぐちゃぐちゃにしながら、擦れた声で懇願するようにハミちゃんに泣きつく花子さん。ハミちゃんはただ優しく頭を撫でると、視線をボク達の方へ向ける。

「あなたは一人じゃない。あんなに心強い仲間がいるじゃない。約二名、変なのもいるけどね」

 その二人とは太刀沼君と生田君の事だろう。

 太刀沼君はその事に気付いて舌打ちしながら顔を背けているけど、生田君に関しては無言でハミちゃん達を焼き付けるように見つめていた。

「だからお願い。生きて。この船から無事に脱出して、元の生活に戻ったら、いつか大切な人を見つけて、ずっと幸せでいて。あたし達の分まで……幸せになって」

「あねごぉ……がきこち゛ゃあん」

「もう。垣子って……云うな」

 ハミちゃんの瞳から一筋の光が頬を伝う。

 その光は、今まで見たきたどんな光よりも、綺麗だった。

『もう良い? そういう茶番は金曜の映画だけで十分なんだよね』

「ふん。ささっとオシオキするならすればいいでしょ? 本当に鬱陶しいぬいぐるみね。虫に食われちゃえばいいのに」

 今から自分の命を奪おうとするぬいぐるみを相手に憎まれ口を叩いていると、今まで見た事もない様な表情をした紫中君がゆっくりとハミちゃんの元へと歩み寄り、口を開く。

「ハミちゃん」

「はぁ。やっぱりあなたを騙す事は出来なかったわね。さすがよ紫中君」

「あの髪の毛、わざと残したね」

怒っているようにも、悲しそうにも聞こえる低い声から紡がれる言葉。

 その言葉を聞いたハミちゃんは一度目を丸くすると、怒るでも、悲しむでもなく。

「さあ、どうでしょうね」

 ただ、微笑んだ。

『それではちゃっちゃと始めましょう! オシオキタ~イム!』

「がきこちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!」

 

 

 GAME OVER

 ハネミさんがクロにきまりました。おしおきをかいしします

 

 

『虫歯はダメ×ダメ☆ 予防を要望!』

 

 ……ここはどこ?

 ピンク色の壁に囲まれた空間は妙に生温かく、床はヌメヌメしていて居心地が悪い。

「嫌な感じ……うえっ、なにこれ」

 あたしの触れた壁は、まるで噛んだ後のガムみたいにベトベトしていた。

 指と指の間で糸を引いていて非常に気持ち悪い。

「最悪……ん?」

 背後に気配を感じて振り向くと、そこにいたのは変なコスプレをした二匹のモノクマ。

 その手には自分の体よりも大きい歯ブラシを携えていて、それを槍のようにあたしに向ける。

「……そういうこと。やっとわかったわ。ここは口内で、あたしは虫歯菌、あんた達はそれを退治する存在ってとこかしら。本当に悪趣味ね」

『うぷぷ、うぷぷぷ!』

『うぷぷ、うぷぷぷぷ!』

「いいわ。来なさいよ。でもね、あたしだってただでやられるわけにはいかないのよ」

 あたしは制服の上着を脱ぐと、ずっと忍ばせていたメリケンサックを拳に填める。

 卒業式の日、鬼子先輩から譲り受けたこのメリケンサック。

 一度も使った事ないけれど、きっとあたしに勇気をくれる。

「さあ! かかってきなさい!」

『 『 クマーッ! 』 』

 同時に襲ってくるモノクマ達の攻撃を紙一重で避ける。

 動きが遅いから避けるのは簡単だけど、不安定な足場が油断を許さない。

 あたしはすぐに一方のモノクマの背後に回って、メリケンサックを填めた拳を叩きつけた。

「はあッ!」

『うぐぅ!』

 ドラム缶を叩いたような感覚が拳に伝わる。

 ダメだ。今のじゃ全然効いてない……もっと腰を入れないと。

 適度に距離を取りながらモノクマの動きを観察する。

 体よりも大きな歯ブラシに振り回されているせいか、隙は多い。

 よし、腋が空いた今がチャンスっ!

「はあああっ!」

『おっと~』

「しまっ、きゃあ!」

 今度はモノクマに避けられると、あたしはバランスを崩して床の上に倒れ込む。

 水風船のような床のおかげで怪我はないものの、顔を上げると、あたしはモノクマ達に見下ろされていた。

「あ、あは。万事休すってとこかしら」

 カラカラに乾いた喉と、汗にまみれたシャツが張り付く中、絶体絶命だというのに何故かあたしは笑っていた。

 人って、こういう時笑うんだ。あいつは……成宮君はどうだったのかしら。まあどうでもいいか。だってあたしは、もう…………なんてね!

「がら空きッ!」

『ぎゃ!?』

『ぎぇ!?』

 本能に従うままに足を延ばすと気持ち良い程に尻もちをつくモノクマ達。

 まるで裏返された亀のようになるその瞬間をあたしは見逃さない。

「そこおおおおおおおっ!!」

『うぐぅ~』

「こっちもおおおおおっ!!」

『うへぇ~』

 あたしがお腹目掛けて拳を下ろすと、モノクマ達は機能停止したかのように動きを止める。

「はぁ、はぁ……あたし、勝ったの?」

 正直、本当に勝てるなんて思わなかった……。きっとあたしは、こいつらのおもちゃになるだけ、そう思っていたのに……思って、いたのに……っ!

「やった! やった! 会える! またお花に会える! やったああああっ!」

 全身を歓喜が駆け巡る。

 拳が震えているのは、殴って痺れているからじゃない。

「よし! よし! あ、でもどうやってここから出ればいいのかしら」

 どうにかして出口を見つけないと。こんなところで餓死なんて絶対にい、や……なに、この音。

 必死に耳を澄ませながら辺りを見回すと、背後のピンク色の壁がシャッターのように開き始め、眩い光があたしを包む。

「――あ」

 その瞬間、開いた口から流れてきたのは激しい絶望。

 無様にもがきながらあたしが最後に見たのは、あの脱出用の船を使って走るモノクマ達の姿だった。

 最後の最後でしくじった。

 あんなに覚悟したのに、目の前の希望に縋ってしまった……踊らされた……本気で、助かると思ってしまった。

 覚悟したのに……かく、ご……した、のに…………。

 

 

 

 

『エクストリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィィィム!!!!』

「あ、ああ……! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「ダメ! ダメだよ花子ちゃん!」

 髪を掻き毟り、自身の頬に爪を立てようとする花子さんを深海さんが必死に止める。

 

 ハミちゃんは溺死した。

 

 奇妙な格好をしたモノクマ達に誑かされて。

 

 どれだけ恐ろしかっただろうか。気持ち悪かっただろうか。

 

 いやそれよりも、溺れるというのはどんな感覚なのだろうか。

 

 ボクにはわからない。

 

 わからない。わかりたくもない。知らない。知りたくない。思い出したくない。違う。ボクは違う。俺は違う。俺じゃない。俺は何も……違う。違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違――――

 

 

「――違うッ!」

「なにが違うのかな」

「え? ……ここは、あれ?」

 どこからか微かに聞こえる声を無視しながら、ゆっくりと首を動かす。

 そこまで狭くはないけれど、広いとも云えない空間。えっと、どこだっけ。

「君は、都築航。超高校級のバックパッカー。そしてここは、君の客室……わかる?」

 朦朧とする意識の中、徐々に頭の中のテープが巻き戻る。

 そうだ。今までボクは学級裁判をしてて、ハミちゃんがオシオキされて……それで……それで……。

「倒れた時、変なところでも打った?」

「あ、紫中君。そうか、ボク、あの後倒れたのか……」

「そうだよ。ちなみに深海さんは、花子さんの看病しているよ」

 どうして深海さんの名前が……いや、それより。

「もしかして花子さんも倒れたの?」

「うん。泣き叫んだまま気絶しちゃってね。生田君が云うには、過度のストレスが原因じゃないかって、云ってたよ」

「まあ、あんなのを見せられたらね。しかもそれが、ハミちゃんじゃ……」

 あまりに辛過ぎる。

 いまは自分の身体より花子さんの方が心配だ。なんともないといいけど。

「都築君みたいにすぐ目を覚ましてくれると良いんだけどね」

「……いま何気にバカにされた? って顔を背けないでよ!?」

「うん。それだけ元気があれば大丈夫みたいだね。ふあ……僕は客室に戻る事にするよ」

 欠伸をしながら座っていた椅子から腰を上げると、フラフラとした足取りで客室のドアに向かう紫中君。

 ボクはやや丸まった彼の背中を見ると、思い出したように呼び止める。

「あ、待って紫中君」

「なにかな?」

「その、この際だから訊きたいんだけどさ。どうしていつもボクの手助けをしてくれるの? 君なら、ボクがいなくても一人で事件を解決出来るんじゃないか?」

 一歩も動かず、無言を貫く紫中君。

 何故か二度とこんな機会はないんじゃないかと思うと、ボクは焦るように捲し立てる。

「さっきだってハミちゃんに髪の毛の事を云っていたし、君は最初からこの事件の犯人がわかっていたんじゃ……!」

「買いかぶりだよ。僕は、そんな奴じゃない」

「でもボクは何度も助けられた。成宮君の時だって梶路さんの……時だって。何か理由があるなら教えてほしい。教えてもらったからってどうこうするわけでもないけど……」

 沈黙が夏の湿気のようになる。自分で聞いておきながら、この間はとても居心地が悪い。

 これはダメだ。きっと紫中君は無言のまま客室を出ていくに違いない。そして明日になったら、何事もなかったかのようにいつも通り――

「理由なんてないよ。僕は、前に出る人間じゃないってだけ」

 背中を向けてつぶやくその声はとても落ち着いていた。

 落ち着いていたのに、どこか辛そうにも聴こえたのは、彼が振り向きざまに見せた眩しい笑顔のせいかもしれない。

「僕は……裏方だからね」

 

 

 

 

 

 ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~

 

 

 Chapter3

 

 フライングデッド end

 

 残り乗客数 8人

 

 

 

『ピンクのバレッタ』を手に入れた。

 

 羽美垣子がつけていたバレッタ。

 可愛らしいピンク色で、いつまでも少女の心を忘れない女子にピッタリの品。

 在学中、仲の良かった女子生徒にもらったものらしい。

 

 


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