ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・

 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください。



チャプター1 非日常編 ② 学級裁判編

 獲得コトダマ一覧

 

・モノクマファイル1

 被害者は寺踪萌佳

 死因は後頭部の殴打。他、致命傷は無し

 死亡時刻は1時46分

 ラウンジにあるソファの上で、仰向けの状態で倒れていた

 

 検死を行った生田厘駕の証言によって、かなり固い物で殴られたせいで右顎の形が変形していた事が明らかになった。

 

・床のシミ

 ラウンジの出入り口付近に広がる薄いシミ。

 都築航の証言から、寺踪萌佳の飲んでいたコーヒーである事がわかった。

 

・床下の破片

 たくさんの美術品が並ぶ、展示用の棚の床下にあった細かな破片。

 

・ラウンジの美術品

 オブジェやボトルシップ、青磁の壺等が展示されている。

 事件発生前の状態から、紛失した物も位置が変わった物も見られない。

 

・売店の伝票

 夢見縛が犯行に使われた凶器を探すべく、モノクマから借りて調べていた物。

 木刀や像等、凶器になりそうな物はどれも持ち出された形跡はなかった。

 

・半開きの掃除用具室

 女子トイレの掃除用具室。

 玉村晴香が羽美垣子を介抱する為に入る前から、扉が開いたままで、掃除道具も雑に置かれていた。

 

・破片のついた箒

 女子トイレの掃除用具室に置かれていた箒。

 掃く部分には細かな破片が付着していた。

 

・西尾圭太の証言

 レストランにいた西尾圭太による証言。

 22時~7時までの夜時間の間、レストランは閉鎖して使えなくなるため昨夜のうちにゴミを分別して袋に詰めていた。それ以降ゴミが捨てられ形跡はない。

 

・わずかに開いたシャッター

 2階と3階を繋ぐ階段の前で降ろされたシャッター。

 普段は閉まっているが、何故か捜査中開いていた様な形跡があった。

 

・洗面台に置かれた花

 エレベーターの前で出会ったはなっちーによる証言。

 大浴場の洗面台に、捨てられたような形で置かれていた。

 

・モノクマエコバッグ

 寺踪萌佳の客室に置かれていた黄色のエコバッグ。

 以前、成宮金次郎も使った事があるらしい。

 

・深海紅葉の証言

 医務室にいた深海紅葉の証言。

共に船内を探索した成宮の次に出会ったのが寺踪萌佳だった。

 出会った場所は医務室で、初対面とはいえ激しく動揺しているようだった。

 その時、何故か深海達から花瓶を隠すように立っていたらしい。

 

・消えた花瓶

 昨日まで医務室に置かれていた花瓶。

 赤い花が活けてあり、ラウンジにあった深緑の壺と酷似している物が使われていた。

 

・使用不可のAED

 診察室に置かれていたバッテリーの切れたAED。

 昨日、遊木皆人が調べた時にはバッテリーが満タンの状態だった。

 

・診察室の薬品

 診察室の棚に並べられた飴色の瓶に入った薬品。

 髑髏のラベルが貼られていて、劇薬である事が窺える。

 

・指原雅の証言

 大浴場にいた指原雅による証言。

 夜中、エレベーターから降りてくる人影を見たらしい。

 人影の特徴は長身で、男女二人のようだ。

 

・乱れた制服

 Yシャツのボタンが掛け違えられていて、スクールセーターは解れてボロボロの状態だった。

 

・綺麗なままの付け爪

 付け爪には剥がれた様子も欠けている様子も見られず、制服の乱れに比べて争った様子が見られなかった。

 

・船内ルール

 電子生徒手帳に記された船内ルール。

 5番目の項目によれば、監視カメラ等の設備の破壊、また海にゴミを捨てる等の環境破壊を禁じると記されていた。

 

 

 ようやくエレベーターが到着し重い扉が開かれると、待ってましたとばかりに両手を広げたモノクマに出迎えられた。

 赤と黒のタイルで彩られたその部屋には16の証言台が円状に並べられていて、なんともいえない不気味さを感じた。

『好きな席に行って良いからね。全員が集まり次第、学級裁判を始めるよ』

「ねえモノクマ。どうして証言台が16もあるの? ボク達は15人しかいないし、君専用の席もあるみたいだけど」

 16個の席を見渡せるようにそびえ立つ派手な椅子を指差しながら紫中君が尋ねる。

『ああ気にしなくていいよ。16人で使えるだけだから。ランチプレートの横に置かれたパセリみたいなもんだと思ってもらえればいいよ!』

 つまり余りというわけか。

 ボクが全国のパセリ好きにケンカを売っていると、一人、また一人と裁判場にやってくる。そんな中、何故か太刀沼君がバスタオルに縛られた状態でピョンピョン跳ねながらやってきた。なかなかにシュールな光景だ。

「おい、着ぐるみ! テメェ良くも俺様を縛りやがったな!? さっさとこれを外しやがれ!」

「もう目覚めるとは頑丈なやつなっちー」

「ああ?!」

 巻き寿司のようになった太刀沼君を小馬鹿にするよう証言台の上で肘を突くはなっちー。なんてふてぶてしい態度なんだ。ゆるキャラというよりマフィアのボスだな。

 無駄に貫禄のある体勢にボクがツッコミを入れていると、突然走り出したモノクマが鋭利な爪を伸ばして太刀沼君を縛る洗濯用のロープを切断した。

「なんだよぬいぐるみ。こんな事したってテメェの事許すわけじゃあねぇぞ?」

『それくらいわかっているよ! くだらない事でせっかくの学級裁判を遅れさせたくないだけ!』

「ああそうかい」

 ようやく自由になった体をほぐしながら適当な証言台の上に立つと、最後の一人であるハミちゃんが壁に手を添えながら覚束ない足でやってきた。

「ハァ、待たせたわね」

「大丈夫ですかハミちゃんさん?」

「平気。ありがと梶路さん」

 青い顔をしたハミちゃんが空いている証言台に立つのを確認すると、モノクマも派手な椅子に腰を降ろしてクラッカーを鳴らした。

『ではでは、改めて学級裁判について説明しましょう! え~、学級裁判の結果は、オマエラの投票によって決定されます。正しいクロを指摘できればクロだけがオシオキされ、もしも間違った人間をクロとした場合はクロ以外の全員がオシオキされて、みんなを欺いたクロだけがめでたく下船となります!』

 説明を聞いても信じられない。

 いや、信じたくないだけなのかもしれない。この中に寺踪さんを殺した人間がいるだなんて……。

「本当に、この中に犯人がいるのか?」

『もちろんです!』

「ちょい聞いてもええか? あの寺踪の写真はなんや。まるで遺影みたいやないか」

 遊木君が指を差したそれは、派手な額縁に白黒の寺踪さんの写真が入れられていて、ショッキングピンクのバツ印がついている事を除けば彼の云う通りまさに遺影そのもののようだった。

『丸でも三角でもなく四角い遺影だよ? 短い間とはいえ一緒に過ごした仲間だからね。仲間外れは可哀想でしょ?』

「おまえから可哀想なんて言葉が出るとは思わなかったなっちー!」

 はなっちーの皮肉を余裕の表情でスルーすると、モノクマは腰を振りながら拳を掲げ、悪趣味なゲームの開始を告げる。

『イエイ! とりあえず始めちゃってよ! レッツ議論~♪』

「いきなり云われても……」

「何から話していいやら。オレ、難しい話は苦手だぜ?」

 頭のカチューシャを直しながら西尾君が答えると、他のみんなも同じように頭を抱えているようだった。

 そりゃあそうだ。正直ボクだってまだ寺踪さんの死に動揺しているんだ。まともに議論なんか出来るはずがない。

 そんな中、誰よりも早く発言したのは太刀沼君だった。

「話す事って云ったらあれしかねえだろ? おいテメェら! 夜中何してたんだよ!?」

「……なんのことかしら?」

「昨日の晩、梶路達が一人一人部屋に行ったって云うじゃあねぇか。だが俺と紫中と寺踪以外の奴はシカトこいたって聞いたぜ? まず怪しいのはテメェらじゃねぇかよッ!」

「わ、わわわ私はやってませんよぉ!?」

「おおおおお俺だってやっていないぞいッ!?」

「酷いよ幸雄君! あんまりだよ!」

「もう一度眠らされたいなっちー!?」

「黙りやがれ! 俺様の目の黒いうちは好き勝手――」

「はいはいそこまで」

 これ以上太刀沼君に余計な事を云わせまいと、彼の言葉を遮るように強く両手を叩く紫中君の判断は正しい。

 このままだと議論じゃなくて罪の擦り合いになってしまって、散々捜査した意味がなくなってしまう。

 ボクがさっそく冷や汗をかいていると、周りが静まったのを確認した紫中君は人差し指を立ててゆっくりと発言をした。

「まずは、死体の状況を整理しようよ。検死の現場に立ち会っていない人もいるわけだしね。それでいいかな? 太刀沼君」

「チッ、わーったよ」

 不貞腐れたように髪を弄る太刀沼君に感情の籠ってないお礼を云うと、紫中君は改めて話を続けた。

「被害者は、超高校級のバリスタの寺踪萌佳さん。深夜1時46分、ラウンジにて死亡……ここまではいいよね」

「死因は、凶器による後頭部の殴打……だったよね?」

「その通りです麗しき人魚姫。モノクマファイルにも記されていますし、俺が直接調べたので間違いありません!」

「……」

「き、気にするな羽美。誰もお前を責めたりしない」

「わかってるわよ……それくらい」

 未だ青い顔をしたままのハミちゃんを成宮君が慰めるも、彼女の返事はなんとも冷たいものだった。

 まあ、最初に寺踪さんを見つけたのもハミちゃんだし、生田君とのあれがあったわけだから落ち込むのも仕方が無いけど。

「そもそも凶器なんてあるなっちー?」

「ではそれを確認する意味でも、議論をしてみましょうか」

 

 

 

 議論開始!

 

 梶路美耶子

「死因が後頭部の殴打という事ですが、他に致命傷になった部分はあるのでしょうか?」

 

 生田厘駕

「いいえ。他に目立った外傷もなく、後頭部を殴られ即死だったようです。凶器はよほど固い物のようですね」

 

 玉村晴香

「でも、そんなに堅い物あったかなぁ?」

 

 はなっちー

「まな板の角とかどうなっちー?」

 

 遊木皆人

「夜中はレストランには入れないやろ」

 

 西尾圭太

「それに、調理器具が凶器に使われたならすぐにわかるぜ」

 

 太刀沼幸雄

「テメェら馬鹿だなぁ。凶器っつったらあれしかねぇだろ?」

 

 成宮金次郎

「太刀沼……お前はわかったのか?」

 

 太刀沼幸雄

「ああ! ずばり、凶器は売店にあった木刀だな! 犯人は売店からパクった木刀で、寺踪を背後から襲ったんだ。木刀の先制攻撃だぜ!」

 

 << それは違う! >>

 

 

「あ? 何が違うってんだよ。俺様の見せ場を邪魔してんじゃねェぞコラ!」

「そんなつもりはないよ。これを見てみて」

 ボクがポケットから小さく畳んだ紙を開いて見せると、太刀沼君はそれをまじまじと見る。

「なんだよその紙きれ」

「あら、それは……」

「うん。夢見さんが売店で調べていた伝票だよ」

「伝票だあ? どういう事だよ夢見」

 ボクの手元から夢見さんへと視線を移す太刀沼君。

 怪訝そうな顔で睨まれるも、夢見さんは特に怯む様子もなくいつも通りのペースで答えた。

「フフフ、売店には凶器に使えそうな物がいくつかあったから、その在庫の数を調べる為に、そこにいる呪われし従者からリストをもらったのよ」

「それになんの意味があるんだよ?」

「あなた馬鹿なの?」

「ああ?!」

 気持ちはわかるけど直球過ぎるよ夢見さん。

 こめかみに青筋を立てながら今にも証言台から乗り出して夢見さんの元へ詰め寄ろうとする太刀沼君を止めるべく、説明に補足をする形で梶路さんがフォローを入れる。

「お店にある商品が、伝票の数より減っていれば、それが凶器に使われた物である可能性はかなり高い、という事ですよね?」

「フフフ、さすがは梶路さん。神秘の力を秘めているだけあるわね。ワタシもそう思って在庫と店頭に並べられている物の数を照らし合わせてみたけど、減っているのはもちろん、使われたような形跡は一つもなかったわ」

「仮に木刀で殴ったんなら、血痕の一つやそれを拭いた痕がどこかしらについてるはずやからな」

「流石は罪深きサキュバス! 俺にはとても思いつきませんでした!」

「これで、木刀が凶器である可能性はなくなったというわけよ」

 みんなに事細かく説明された太刀沼君は、自分の思った通りにいかなかった事が気に入らないのか両手を上げてわざとらしく溜息をついた。

「んだよハズレかよ! ツマンネ~」

「不謹慎だぞ太刀沼!」

「議論してみたけど、結局凶器はわからなかったぞ? これからどうすんだ」

「もう一度最初から話しあってみようよ。今度は違う角度からね」

「違う角度?」

「うん」

 

 議論開始!

 

 紫中舞也

「皆、現場の状況は覚えてる?」

 

 西尾圭太

「寺踪がラウンジのソファの上で死んでたんだろ?」

 

 紫中舞也

「そうだね。でもどうして寺踪さんはソファの上で、しかも仰向けでいたんだろう?」

 

 深海紅葉

「そっか。後ろから勢いよくを殴られたならうつ伏せで倒れているはずだもんね」

 

 はなっちー

「クルクル回転しながら倒れた可能性もあるなっちよ?」

 

 遊木皆人

「それは影武者の歌姫だけや」

 

 指原雅

「実は生きていて、助けを求めようとしたけど、途中で力尽きて……とかでしょうか?」

 

 生田厘駕

「いえ、あの傷からして即死です。お言葉ですがとても動けるとは思えません。先程も俺が申したと思うのですが?」

 

 指原雅

「そ、そういえばそうでしたね……やっぱりダメですね私……」

 

 生田厘駕

「落ち込まないでくださいウェヌス。あなたの使えなさもまた魅力の一つです!」

 

 指原雅

「うぅ……」

 

 梶路美耶子

「ほ、他の可能性としては、犯人がなんらかの理由で寺踪さんを移動させたという事ですが……」

 

 遊木皆人

「それはないやろ。犯人が証拠を残すような事するわけあらへん」

 

 夢見縛

「ええ。裸眼でメデューサに会いに行くのと同じくらい無謀よ」

 

 梶路美耶子

「めじゅ、ウサ?」

 

 玉村晴香

「なんかゆるキャラっぽい!」

 

 はなっちー

「若い眼は早めに摘むなっちー!」

 

 成宮金次郎

「ソファの付近で争ったのではないか? 殴られた勢いのまま、後ろに倒れたのだろう」

 

 << それは違う! >>

 

「な、なに?」

「ソファの近くで争ったって事はないと思うよ」

「なぜそう云い切れるのだ都築」

 納得がいかないとばかりにボクの方を見る成宮君。

 彼の瞳はまっすぐで、ボクの方が間違っているのではないかという錯覚に陥りそうになったが、ボクは怯む事なく証拠を示した。

「この床を見てよ。乾いてはいるけど、何か溢したような痕がうっすら残っているでしょ?」

「本当だ。気付かなかったよ」

「それがなんの証拠になるのだ?」

「夜中、寺踪さんはラウンジでコーヒーを飲んでいたんだよ。ドリンクバーのコーヒーが思っていた以上に美味しくなくて、ミルクやガムシロップを大量に入れていたから、余計にベタついて床に染みついちゃったんだよ」

「ちょ、ちょっと待て。なぜ都築は寺踪がガムシロップやミルクを入れていた事なんて知ってるのだ?」

「あ、そういえば云ってなかったね。最後に寺踪さんと会ったのはボクなんだ。ボク達6人は梶路さんの客室で遊んでいて、いろいろあって、コーヒーが飲みたいねって話しになったんだ。寺踪さんが気遣ってくれてラウンジのドリンクバーに行くっていうから、一人で6人分を運ぶのは大変そうだと思ってボクが付き添ったんだよ」

「ならその時、誰か怪しい奴を見なかったの?」

 ハミちゃんの問いに、ボクは首を横に振った。

「見なかった。でも、寺踪さんの様子はやっぱりおかしかった。あの時、無理をしてでも寺踪さんの手を引っ張っていたらこんな事には……」

「過ぎた事を悔やんでも意味が無いよ」

「そうですよ都築さん。それを云ったら、様子を見に行かなかったわたし達にだって非はあります」

「そうだよ! 思いつめちゃダメ」

「ありがとう、みんな」

 ボクがみんなからの優しい言葉に感動していると、その様子を見ていた成宮君が申し訳なさそうにボクを見る。

「……す、すまなかった。嫌な事を思い出させてしまったな」

「成宮君は悪くないよ」

「う、うむ……」

「それで、その床のシミがなんだと云うの?」

「このシミはきっと、寺踪さんが犯人に殴られた時に紙コップの中身がこぼれて出来た物なんだよ。犯人は頑張って拭いたのかもしれないけれど、焦っていたのか、ちゃんと拭ききれなかったみたいだね」

「なるほど。このシミは寺踪が倒れていたソファから、大分離れた所に出来てるみたいやな……これだとソファの近くで争った可能性は低いっちゅうわけか」

「そういう事」

「ですが謎が残ります。犯人は証拠を隠滅する為に、コーヒーのこぼれた床を掃除したんですよね? ではその道具はどこからもってきたのでしょうか?」

 

 犯人が証拠隠滅に使った道具か。これは、やっぱりあれしか考えられないよな。

 

 【 半開きの掃除用具室 】

 

 

「きっと犯人は、女子トイレの用具室にあるモップや雑巾を使ったんだよ」

「僕もそう思う。女子トイレの用具室は開けっぱなしで、掃除道具もかなり雑に置かれていたよ」

「え? もしかして二人とも……女子トイレに入ったの?」

「うん。捜査の時、都築君と一緒にね。何かおかしかった?」

「おかしいも何も……」

「ハミちゃん。捜査の為に仕方なくだから大目に見てあげて?」

「わ、わかったわよ」

 深海さんに説得されるも、どこか腑に落ちない表情のハミちゃん。

 まあ、男子が女子トイレに入ったなんてあまりいい気はしないだろう。

「ってことは、女子の誰かが犯人なのか?」

「それは……まだわからないかな。女子トイレの方がラウンジに近いから、そのまま入った可能性もあるからね」

「犯人は焦っていた……ですね?」

「その通り」

 梶路さんの問いかけに紫中君が答える。

 犯人は寺踪さんを殺して大分焦っていた。それは証拠を集めているうちにわかった事だし、間違ってはいないと思うけど……他にも原因があったんじゃないか?

「あの~、結局寺踪さんがソファの上にいたのはどうしてなっち?」

「あ! そういえばすっかり忘れてた!」

「美耶子ちゃんの云うように、何か理由があったんじゃないかな?」

 思い出したように自分の手を打つ玉村さんの方を見ながら深海さんが云うと、西尾君がなんとか意見を出そうと拳を握る。

「例えば……ダメだ出て来ねぇ」

「あるとすれば、バールウーマンの美しき亡骸に欲情した犯人がその御身体を――」

「ないから! それはないから!」

「アブノーマル過ぎやろ」

「俺様もさすがに引くわ……」

 これは太刀沼君に納得せざるを得ない。どうすればそんな考えに至るのか逆に教えてほしいよ。

「ほ、他の可能性も考えませんか……?」

「ですが衣服に乱れがありました。まるで、一度無理やり脱がされたかのような……これはどう説明するのです?」

 生田君は恥じる事なく、それが事実であるかのように堂々と云うと、みんな何も云えなくなってしまい裁判所には沈黙が作られてしまった。

 仮に事実だとしても、この中にそんな如何わしい事をした人間がいる事をみんな認めたくないのだろう。

 ボクだってそうだ。人殺しが既にこの中にいるのは決まっているのだから無駄な事だって理解していても、それとこれとは話が違う。

「ほ、他にないのかな? 萌佳ちゃんの制服が乱れていた理由」

「このまま生田の意見を通すのはさすがにあかんて」

 遊木君の云う通り、このまま話を進めるのはいろいろマズイ。

 TPO的にもいろいろ問題も出るし……とにかくもう一度話し合おう!

 

 議論開始!

 

 玉村晴香

「他にないのかなぁ……萌佳ちゃんの制服が乱れていた理由」

 

 太刀沼幸雄

「そういうプレイは興味ねーし、したくもねーっての。いいか? 俺様の望むプレイってのは――」

 

 遊木皆人

「いや誰も訊いてへんて」

 

 指原雅

「寺踪さんに、なにか大事な物を取られたのでしょうか?」

 

 玉村晴香

「なにかって?」

 

 指原雅

「え!? えっと、えっと……わ、わからないです」

 

 成宮金次郎

「犯人と揉み合っているうちにボロボロになったのではないか?」

 

 紫中舞也

「争った形跡はなかったよ」

 

 梶路美耶子

「逆に、寺踪さんを助けようとしたのではないでしょうか?」

 

 << それに賛成だよ! >>

 

「ボクもそう思う。いや、そうとしか考えられないよ」

「はあ!?」

「え? え?」

「わけワカメの増えるめかぶちゃんなっちー!」

 混乱するみんなの視線がボクに集中する。

 こうなるだろうとは思っていたけど、大勢に見られるのってなかなかにくるものがあるな。

「あの、都築さん。賛同していただけるのは嬉しいのですが、わたしにも確証がなくて……」

「安心して梶路さん。ちゃんと理由はあるから」

「どういう事ですか?」

 小首をかしげる梶路さん。かわいい。ああいやいや、いまは裁判に集中しないと。

「ゴホン、医務室にあったAEDなんだけど、使われている形跡があったんだ。中のバッテリーが減っていて使用不可のランプが点いていたんだよ」

「もともと使えなかったんじゃねぇか?」

「救命道具よ。そんなわけないじゃない」

「ああ。わいが昨日調べた時は使用可能のランプが点いていたから間違いないで」

「昨日? 何かトラブルがあったのですか?」

「なんも? ただAEDの場所を確認しに行っただけや。まあ、帰り際に腹壊した都築にはあったけどな」

「そうだったんですか。大丈夫ですか都築さん?」

 遊木君の言葉を聞き、梶路さんは心配するようにボクに声をかける。

「今は平気だよ」

「つまり……犯人に殺すつもりはなかったって事?」

「殺人じゃなくて事故だったなっちー!」

「ねぇモノクマくん。仮に故意の殺人でなかったとしたら、犯人はオシオキを免れるの?」

『まさか! 故意だろうがなんだろうが殺人は殺人だよ! 正解したらクロがオシオキされる事に変わりはないよ!』

「そうなんだ……」

 モノクマの言葉を聞いて悲しそうな顔をする深海さん。

 この状況で犯人の心配までするなんて凄いな。

「都築君。話を続けてくれる?」

「あ、うん。犯人はAEDを使う為にこのソファまで移動させたんじゃないかな? 倒れた場所はコーヒーで濡れているし、何より入口に近いから、誰かに見られる危険もあるわけだしね」

「なるほど。そういう事でしたら納得出来ます」

「どうかな生田君? これなら、寺踪さんの制服が乱れていた理由も納得出来ると思うんだけど」

 口を開かず長めの前髪を弄っていた生田君にボクが顔色を窺うように尋ねると、彼の口から出てきた言葉は、ある意味で予想通りの物だった。

「フッ、まあ良いだろう。宵闇の巫女の顔を立てる為にもそういう事にしておいてやる。なにより、キサマ等の様な細菌が女神に服を着せる事が出来るわけがないのだからな!」

「ぜってー後で締める」

「おい太刀沼。わいにもそれ参加させえや」

 ボクも入れてもらおうかな。

「都築君、顔が恐いよ?」

 おっと顔に出ていたみたいだ。気を付けよう。

「まあ、ソファの上にいたのはそこまで重要じゃないしね。問題はどうして仰向けかって事だし。制服の乱れも、犯人がAEDを使った後で急いで服を着せ直したせいだと思うよ」

「それ、もっと早く行ってほしかったよ紫中君」

「これは失敬」

 感情の籠っていない声で謝る紫中君にボクが肩を落としていると、そのやり取りが面白かったのか、梶路さんが笑みを含みながら議論を促した。

「では、そろそろ再開しましょうか。まだ明確な凶器がわかっていませんからね」

「云われてみればそうね……」

「別に良いんじゃない? とりあえず固い物が凶器なのはわかったし」

「それはダメだよ玉村さん。凶器は正確に判明させておかないと、後で取り返しがつかない事になるからね」

「そうなんだ。それじゃあ話し合わないとね!」

 

 

 議論開始!

 

 玉村晴香

「結局、凶器はなんなのかな?」

 

 成宮金次郎

「そもそも凶器などないのではないか? 事故の可能性もあるのだろう?」

 

 遊木皆人

「いや、モノクマファイルに殴られたって書いてあるんだから何かしらあるはずや」

 

 梶路美耶子

「計画的な殺人でないとすると、凶器はラウンジの中にある物だと思います」

 

 西尾圭太

「ラウンジにある物……絵画とか?」

 

 太刀沼幸雄

「なんかやたら角ばった置物みたぜ? あれだろ!」

 

 はなっちー

「テーブルなら持ち上げられるし、なにより固いなっちー!」

 

 深海紅葉

「多分それは、はなっちーちゃんにしか出来ないと思うよ?」

 

 玉村晴香

「う~ん……あ、この壺とか持ち易そうだよね!」

 

 << それに賛成だよ! >> 

 

「壺か……きっとそれに間違いないよ」

「ホント? やった!」

「なぜそう云い切れるのだ? 凶器になりそうな美術品は他にもあるぞ?」

「確かにそうなんだけどさ。咄嗟に掴んで、さらには人を殴り殺せるほどの凶器っていうと、そこまで大きい物じゃないと思うんだ」

「となると、やっぱ棚に飾ってある美術品のどれかいうわけか」

「うん。棚を確認してみたんだけど、他の美術品は角ばっていたり大きかったりして、丁度振り切れる程の大きさの物だと、壺くらいしか思いつかないんだ」

 

 << その目はレプリカか! >>

 

「都築、悪いがお前に納得する事は出来ん!」

「ど、どうして?」

「わからないのなら仕方がない。特別に! タダで! この俺が! わかり易く説明してやろう!」

 

「あの棚に並ぶ美術品は確かに凶器になりえるかもしれん」

 

「だがな都築! あそこに並ぶ美術品はどれも欠けていないのだ!」

 

「俺が昨日ラウンジの美術品を品定めしている時、お前はその場にいたではないか!」

 

 そうか。この中で一番ラウンジに並ぶ美術品に詳しいのは成宮君だ。

 ボクの推理に言葉を挟むのも仕方が無いかもしれない……でも、壺が凶器に使われた事に間違いない。その証拠もある。

 これで成宮君の反論を斬り返すんだ!

 

「確かに、あの時は成宮君から深緑の青磁器について教えてもらった。でも君が知らない美術品が他にもあったんだよ!」

 

「そんなわけあるか! あそこの美術品については俺が一番詳しいのだ!」

 

「捜査中にラウンジで美術品を見たが、位置が変わった品もすり替えられた品もなかった!」

 

「よって、その深緑の壺が凶器に使われている事はないのだ!」

 

 << その言葉、断ち斬らせてもらうよ! >>

 

 

「なにぃ!?」

「ねぇ成宮君。医務室にあった壺の事は知ってる?」

「医務室の壺? ……あの花瓶の事か」

「うん。昨日ボクが医務室に行った時には、確かにラウンジにあった物と同じ深緑の壺が花瓶として使われていたんだ。でも、捜査中に医務室に寄ったらそれがなくなっていたんだよ」

「な、なんだと? ならばあの花瓶はどこにいったのだ!」

「ラウンジに飾ってある、あの壺こそが医務室にあった花瓶なんじゃないかな?」

「わかったなっちー! 犯人は凶器に使った壺と医務室の壺をとりかえっこプリーズしたなっちな! 洗面台にあったお花はその時に捨てたものに違いないなっちー!」

「花の件は合っているけど、壺は取り変えたわけじゃないと思うよ」

「な、なんだってなっちー!?」

 ムンクが叫ぶようなポーズを取りながら驚くはなっちーに少しだけ恐怖を感じながらも、ボクは話を続ける。

「ラウンジの床には細かい破片が見つかっていたから、取り変えたんじゃなくて、代わりになるまったく同じ物を持って来たんだと思う」

「寺踪さんを殺害した時、凶器に使った壺が予想以上に飛び散っちゃったんだろうね。床下の破片はその残りに違いないよ」

「タイミング良く同じ色と形を使った壺があるなら使わない手はないな。きっと、AEDを取り行く時に見つけたんやろ」

「だがラウンジに置かれた壺は青磁器といって、そこらの陶磁器の様にそう易々と壊れるものではないぞ」

「ヒビでも入ってたんじゃね?」

「青磁器にはヒビが入っている物もあるが、それも美術品の味の一つだ。破片が散らばる程粉々になったりはしない!」

 そういう物なのか……やっぱり奥が深いな。

 しみじみと成宮君の話に耳を傾けているボクとは違い、聞いてもいないのに難しい話を聞かされた太刀沼君はイライラしたように証言台を蹴り付けた。

「知らねーしウルセーよ! これだからオタクってやつは」

「オタクではない! 俺は収集家だ!」

「一緒だろうがッ!?」

「でも、医務室にあったはずの花瓶がなくなっているのならそう考えても不思議じゃないよね?」

 紫中君に確信を突かれた成宮君は何か云い返そうと頭を捻っているようだが、何も浮かばなかったのか、額に浮かべた汗をハンカチで拭いながら頭を下げた。

「紫中の意見ももっともだ。すまなかった都築! この通りだ許してくれ!」

「いいよそんな! 頭を上げて成宮君!」

 そんなに深々下げられたらこっちが気まずくなっちゃうよ……。

「これで凶器はわかりましたね」

「ああ! この調子なら楽勝なんじゃないか?」

「残念だけど、ここからが本番だよ西尾君」

「なぬ?」

 紫中君の云う通りだ。

 凶器はわかったけれど、まだ明かさなければならない大事な問題がある。

 寺踪さんを除いたボク達5人以外、つまり9人の中から犯人を絞り出さなければならないのだから、これからが本番と云っても過言じゃない。

 ボクが気の遠くなりそうな作業に眩暈を覚えていると、太刀沼君が周りの人間を指差しながら睨みつける。

「ついにこの話をする時が来たってわけだな! おい、テメェら! 昨日の晩何をしていたか白状しやがれぇッ!」

「や、やっぱり私、疑われているんですね……仕方ないですよね。私みたいな気持ち悪い人間が疑われない方がおかしいですものね」

「まあしゃーないか。都築達には証拠があるが、わいらにはそれがないわけやからな」

「良い気はしないけどね」

 自分が安全な立ち位置にいる余裕からか、腕を組んで偉そうな態度をしている太刀沼君をハミちゃんが恨めしそうな目で睨んでいると、彼女の隣に立つ紫中君が話を戻すように手を叩く。

「はいはいその辺にして。まずは一人一人、昨日何をしていたか教えてもらえるかな?」

 紫中君が尋ねると、最初に挙手したのは玉村さんだった。

「ぼ、ぼくは昨日、例の映像を見て、恐くなってお布団の中にいたよ? そしたら美耶子ちゃん達が尋ねてきて……」

「はい。扉越しですが、ちゃんと声を聞きました」

「あの状況でよく返事出来たわね」

「だって、せっかく誘ってくれたのに返事をしないのは失礼じゃん。あの時はごめんね。ホントは一緒したかったけど、部屋から出るのが恐くって」

「わかっています。気にしないでください」

 梶路さんが優しく玉村さんを気遣っていると、なにか思い当たる節があるかのように腕を組んで考えていた西尾君が口を開いた。

「もしかして美耶子……オレも誘いに来てたりするのか?」

「はい、皆さんのお部屋を尋ねましたよ?」

「じゃあ、あれは夢じゃなかったんだな。あの映像見たけど、あまりに実感沸かなくてそのまま寝ちまったんだよ。なんとなく美耶子の声は聞こえた気はしたんだけど……悪かったな」

「いいえ。眠っていたなら仕方ないですよ」

「わいも客室で寝てたわ」

「胡散臭ぇな」

「ホンマやて。こればっかは信じてもらうしかあらへんけど」

「ケッ! 胡散臭いといやあテメェは何してたんだよ生田」

「病気が移る。口を開くなこのクラミジア」

「ああ?!」

 またか……悪い意味でブレない二人が絡むと本当に収拾がつかなくなる。こんな時くらい強力できないのかな?

 下手したら自分が死ぬかもしれないという危機的状況の中、気持ちが良い程に平常運転な二人にボクが呆れていると、その様子を見ていた深海さんが仲裁に入るように声を掛ける。

「太刀沼君落ち着いて。生田君、昨晩何をしていたか教えてくれる?」

「麗しき人魚姫の頼みとあらばよろこんで! 俺は昨晩、スカイデッキで海を眺めていました!」

「海?」

「ええ。我が小さき妖精、ディーヴァが恐ろしい蛇に呑みこまれる映像を見せられた俺は、その恐ろしさのあまり母なる海に慰めてもらいに行ったのです」

「えっと、ちなみにそのディーヴァっていうのは?」

 聞き慣れない名前に興味を持ったのか、あまり生田君の事を良く思っていないハズの梶路さんが遠慮がちに尋ねた。

「俺が飼育させていただいているモルモットです。どんな危険な実験を受けても必ず生き返るその逞しい生命力に俺は心惹かれ、教授に頼んで特別に預からせてもらっているのです。ちなみにこれが彼女の写真です」

 胸ポケットから一枚の写真を取り出した生田君は、まるでそれが家宝でもあるかのように自慢げにみんなに見せつける。

 その写真には大きな体の白いネズミが滑車を回している姿が映っていて、なんともいえない愛らしさをボクは感じた。

「可愛いなっちー」

「ウソでしょ? あんた趣味悪いわね」

「そうか? まるまるしていて可愛いじゃねぇか。オレは好きだぞ?」

「……食材として、とかいうなよ?」

 ああ西尾君なら云いそうだな。

 それにしても、こうして見てみるとなかなか可愛いじゃないか。こいつが蛇に飲み込まれる映像なんて見たくないよ。

 モルモットの写真にみんなが一喜一憂していると、一人省かれたモノクマが鋭利な爪を立てながら顔を真っ赤にして抗議する。

『ネズミの写真なんかで和まないでよ! 早くそれを仕舞え! 仕舞わないと消し炭にしてやるぞ!?』

「黙れ雑巾。云われなくともキサマなんぞには見せん」

 モノクマの目に入れぬようすかさず胸ポケットに写真を仕舞うと、その様子を可笑しそうに見ていた夢見さんが怪しく微笑みながら発言をする。

「ちなみにワタシもその場にいたわ。海は海でも、眺めに来たのは星の海だけれど……フフフ」

「はい。ですので、俺達二人にはアリバイがあるというわけです!」

 二人が嘘を云っているようにも思えないし、これ以上は疑わなくても大丈夫かな?

 生田君が共鳴するように飛ばしたウインクを華麗にかわす夢見さんを横目に見ながらボクが胸を撫で下ろしていると、それを全否定するかのように太刀沼君がドヤ顔で余計な口を挟んできた。

「そうでもねぇだろ」

「……何がかしら?」

「だからよ。テメェらが協力して寺踪を殺す事も出来るってわけだよ。お互いにデッキにいたって口裏合わせりゃあどうとでもなるだろう? なあおい!」

 驚いた。まさか太刀沼君の頭がここまで回るとは思わなかった。

 気遣いとは無縁の人間だから人を疑う事に関してはこの中で一番ズバ抜けているのかもしれない。あまり褒められる事じゃないけれど……。

「そ、そういう事なのか? 生田、夢見。お前達が寺踪を……」

 成宮君の言葉と共に、他のみんなの疑いの視線が夢見さんと生田君に突き刺さる。

「こんな展開になるなんて……これも、ワタシの運命<フェイト>という事なの伯爵?

 ……わかったわ。この運命<フェイト>を見事乗り越えてあげるッ!!」

「細菌共に見られるのは苦痛だが、女神たちに猜疑の目を向けられるのはなかなかに気持ちが良い……クックックック」

「恐いよ! なんかこの二人恐いよ!?」

「はなっちー一族に伝わる秘薬でも治せない感染レベルなっちー!」

「割と似たもん同士かもしれへんな」

 遊木君に一票。

 ってそんな事云っている場合じゃない。本当に二人が寺踪さんを殺したのか? あの生田君が女性を殺すとは思えないし、夢見さんも生田君に協力するとは……いや? それとも夢見さんに生田君が手を貸したのか? それならまだ……

 混乱しているボクとは対照的に冷静に思案している様子の紫中君は、ボク達の喧騒をおかずにハチミツを舐めていたモノクマに質問をする。

「一つ聞きたいんだけど、仮に共犯者がいた場合、その人もクロと一緒に下船出来るの?」

『レロレロ……お答えしましょう! ズバリ! 共犯者は下船する事が出来ません! あくまで下船する事が出来るのは、犯行に及んだクロ一人だけです!』

 つまり、手を貸したところで意味はないってことか。

「それで、結局二人は犯人なの?」

「いいえ。罪深きサキュバスも俺も犯人ではありませんよ麗しき人魚姫。あなたの手で裁かれないのはとても残念ですが……」

「どうだかな。昨日までは共犯しても意味がねぇ事を知らなかったんだろ? ならこんなかで一番怪しいのはテメェらなんだ! とっとと白状しろ!」

「黙れクラミジア!」

「ああ……運命の鎖がワタシの魂を縛りつける……ッ!」

 なんだかおかしな展開になってきたぞ。

 この状況を打破する術はなにかないだろうか。何か、きっかけになるような事。

 

 

 議論開始!

 

 西尾圭太

「結局生田と夢見は犯人なのか? 犯人じゃねぇのか?」

 

 生田厘駕

「俺がバールウーマンを殺すわけがありません。女神達、どうか信じて下さい……あと細菌共は死ね」

 

 太刀沼幸雄

「決まり確定ビンゴだゴラァッ! こいつが犯人に違いねぇッ!」

 

 遊木皆人

「落ち着け太刀沼。気持ちはわかるが今は耐えるんや」

 

 夢見縛

「この運命を超える力、我に与えたまえ……」

 

 梶路美耶子

「八百万の神にもお願いしてみては?」

 

 玉村晴香

「うわああん! つに美耶子ちゃんまでおかしくなっちゃったよお!?」

 

 梶路美耶子

「わ、わたしそんなつもりじゃ……」

 

 深海紅葉

「とにかく一度落ち着こ? みんなちょっとおかしいよ」

 

 太刀沼幸雄

「落ち着くも何も、目撃者がいない以上テメェらが犯人に違いねぇんだよ!」

 

 << それは違う! >>

 

 

「またかよ!? おい都築! テメェ俺様になんの恨みがあんだ!」

「恨みならいくらでも……じゃなくて、ちゃんと目撃者はいるんだよ太刀沼君」

「なんだって?」

「それ本当なの都築君」

「うん。捜査時間の時に、人影を見たって人がいたんだ。そうだよね? 指原さん」

 ボクが隣で脅えていた指原さんに尋ねると、彼女は思い出したように目を見開いた。

「そ、そうでした! あ、あのですね? 多分二人は、犯人じゃない……と、思います」

「なんでだよ? 一番怪しいのはそこの二人だろうが?!」

「ひぃッ!? そそそそそそっそそそうですよね! きっと私の見間違いなんですよね両目2,0の視力なんてまるで充てにならないですよね余計な事云ってごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!!!」

「両目2,0は凄いなっちー!」

 大粒の涙を流しなら身体を左右に向けてなぜか全員に謝る指原さん。

 美人な顔がグチャグチャになる姿はあまりに哀れでボクが気の毒に思っていると、その様子を見ていた深海さんが真剣な表情で太刀沼君の方を向いた。

「太刀沼君謝って」

「はあ? なんで俺様が」

「いいから」

「チッ……悪うございま――」

「ちゃんと謝るッ!」

「すんませんっしたッ!」

 す、凄い迫力だ……。

 あの優しい深海さんからは想像出来ない程の怒気を含んだ声にボクはもちろん、他のみんなも、まるで鳩がガトリングガンを喰らったように威圧されていた。

やっぱり昨日のエチュードで見せたあれが素なんじゃないのか?

「おお……耳がキンキン鳴ってるぞ」

「あの太刀沼が素直に謝るとは」

「紅葉ちゃんかっこいい!」

 周りが深海さんに羨望の眼差しを向ける中、太刀沼君だけは納得いかないとばかりに頭を掻いていた。

 深海さんは指原さんの方を向くと、子供を慰める母親のような声色で脅える彼女に声を掛ける。

「太刀沼君も謝ってくれたし、どうして二人が犯人じゃないか教えてもらえるかな? 雅ちゃん」

「は、はい……えっと、昨日私、例の映像を見たあと恐くてずっと震えていたんですけど、梶路さん達が声をかけてきて……ああ! あの時は無視してしまってごめんなさい!」

「気にしていませんよ。話を続けて下さい」

 ゆっくりでいいですから、と天使の微笑みを見せながら指原さんに優しく云う梶路さん。

 その微笑みに安堵したのか、指原さんは涙目のまま深呼吸をすると再び話し始めた。

「えっと、その後、無視した事を謝ろうと思って梶路さんのお部屋に行こうとしたのですが、その途中で二つの人影がエレベーターから降りてくるのを見たんです。顔は見えなかったんですけど、影の形からして、あれは長身の男女でした」

「こん中で、遠目で見てもわかるくらいに背の高い男女云うたら……」

「生田と夢見……だよな?」

「それで、雅ちゃんはどうしたの?」

「なんだか恐くなって、そのまま部屋に戻ってしまいました……信じてもらえないかもしれませんけど……」

 やはり自信が持てないのか、話せば話すほど声が小さくなっていく指原さん。

 だがそれを見た深海さんと梶路さんの二人は、彼女を非難する事なく温かい言葉をかける。

「頑張ったね雅ちゃん。私は信じるよ」

「わたしも信じます」

「ああああああああああああありがとうございます! お、お二人とも良い人です!」

 なんだか深海さんと梶路さんに全部持って行かれた気がするけど、指原さんがちゃんと証言する事が出来てひとまずはよかったかな。これで二人の疑いも晴れる事だろうし。

 またもや大粒の涙を流しながら頭を下げる指原さんを横目に見ながらボクが胸を撫で下ろしていると、いつのまにか素に? 戻っていた夢見さんが周りの状況を観察するように首を左右に振ると、落ち着いた口調で梶路さんに尋ねた。

「この流れ……ワタシの疑いは晴れたという事で良いのかしら?」

「はい。指原さんのおかげで、お二人が無実だという事が証明されました」

「そう。お礼を云うわ指原さん」

「い、いえ! 滅相もないですです!」

「ああ、ウェヌスッ! この俺の無実を明らかにしてくれた事、心より感謝致します!お礼にどうか、俺の命をお受け取り下さい!」

「いいいいいいいりませんよぉ!?」

 これで6人、そのうちの3人は確実なアリバイがあるわけか。うん、良い調子だな。

「油断したらダメだよ」

「え!? な、なんの事?」

「なんでもないよ」

 そういうと紫中君は何事もなかったかのようにボクから顔を背けた。

 ビックリした……なんだったんだ今の。まさか紫中君、エスパーだったりしないよな?

「さて。それじゃあ後3人、成宮君とハミちゃんとはなっちーは何をしていたか聞かせてもらえるかな?」

「はなっちーは自分の客室でオフトゥンに入っていたなっちー! 嫌な事は眠って忘れる性分なっちー!」

 なんだか健康的だな。見習いたいくらいだ。

 バンザイをするはなっちーが云い終わると、次に成宮君が金色に輝く派手なスーツの襟を正しながら話し始めた。

「俺は客室にいたぞ! もちろん! あの映像に決して恐れたわけではなく、所持している札束の整理の時間だったのでずっと机の上で枚数を数えていた!」

 ああ、君って奴はどうして……。

 精一杯自慢げな表情をする成宮君に、みんなの哀れむような視線が集中する。

「そ、その視線はなんだお前たち!? 俺が虚言を吐いていると云いたいのか!」

「お前がそう思うんならそうなんだろうな。お前ん中ではな」

「!?」

「はなっちーが標準語を喋った!」

「ツッコむんそっちかい!」

「まあいいいんじゃない? 成宮君はそういう人だからね」

「あの時、もう少し強引にお誘いしていればよかったですね。ごめんなさい」

「これが終わったら好きなもん作ってやるよ。パン以外でも構わないぜ」

「お、なら俺様の分も頼むわ」

「大丈夫。みんな、わかってるからね」

「……ッ!」

 一部を除いたみんなの気遣いにいたたまれなくなったのか、成宮君は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。

 さてと、はなっちーと成宮君の話は聞いたから、あと一人はハミちゃんか。まだ顔色が優れないみたいだし、あまり強く問いただしたくはないんだよな。

 今も成宮君とは違う理由で俯いたままのハミちゃんの様子を窺いながらどう言葉を切りだそうか考えていると、そんなボクの苦労を物ともせずに紫中君がストレートに切り込んだ。

「で、ハミちゃんは昨日何をしていたの?」

 もう少し云い方はないのだろうか。今の云い方だとあからさまに彼女を疑っているみたいじゃないか。

 淡々と、そして作業的に言葉を放つ紫中君にボクが不安を感じていると、その不安はズバリ的中したようで、ハミちゃんの気の強い性格をそのまま表したようなしょうゆ顔がよりキツイものに変わる。

「……あたしも自分の部屋に籠っていたわ。悪いけど一歩も外に出てないから。だからせっかく誘ってくれたのに悪いけど、あの状況じゃあ無視されても仕方ないわよね梶路さん?」

「え? そ、そうですね。ごめんなさい」

 突然自分の名前を出された梶路さんは、困惑した表情のまま頭を下げる。

 ちょっと待ってよ。紫中君の云い方に腹が立っているのはわかるけれど、そこで梶路さんの名前を出すのは筋違いじゃないか。

「ハミちゃん。いま梶路さんの事は関係ないよね?」

「何よ、あたしが悪いの?」

「梶路さんに八つ当たりした事に関してはね」

「は? なにそれ」

「梶路さんに謝ってよ」

「つ、都築さん。わたしは気にしていないので」

 不安そうな表情でボクを見る梶路さん。これ以上彼女にこんな顔をさせたくはないのなら、ここは引くべきなのかもしれないけれど、それでもボクは引く事が出来ない。

「ごめんね。ここは譲れないよ梶路さん。昨日あんなに頑張っていた君を否定するような事を云われたら、ボクは我慢できないよ」

「都築さん……」

 証言台越しに見つめ合うボクと梶路さんを茶化すようにハミちゃんが言葉を投げる。

「なに二人で気取ってんのよ。それとも二人は本当にそういう関係なの?」

「違います」

「……そうだよ。変な事云って話をすり変えないでよハミちゃん」

 ボクはわかってたよ? でも、こうキッパリ云われると、きついなあ……あはは!

「ねえ紅葉ちゃん。なんで航君は今にも泣きそうな顔してるの?」

「あ、足が痛いんじゃないかな? ここに来てから立ったままだったし」

「そっか。確かに立ちっぱなしだもんね」

「俺様はいつでも勃ちっぱなしだぜ? ゲハハハ!」

「太刀沼君は立っている方が楽なんだ? すごいね! 足腰が丈夫なんだね!」

「お? おお! 俺様はこう見えて結構鍛えてるからな!」

「うそ……噛み合ってる」

「いやいや噛み合ってはないやろ」

 天然な玉村さんと馬鹿野郎な太刀沼君のすれ違い漫才に関心する深海さんに遊木君がツッコミを入れていると、呆れ気味にそのやりとりを見ていたハミちゃんがキツイ声色でボクを責め始める。

「そもそもさあ、都築君が一番怪しいんじゃないの?」

「どういう意味だよそれ」

「あたし気付いちゃったのよ。寺踪さんに最後にあったのって都築君よね? しかもあたしが死体を見つけたら、気持ち悪い程タイミング良く現れた。これって……そういう事なんじゃないの?」

「そういう事って……」

「犯人は現場に戻るという事ですね? ハミちゃん様」

「そうよ!」

 生田君め。大人しくしていたと思ったらまた余計な事を。

「確かに、ボクは寺踪さんと一緒にいたけどそれは数十分の事だよ? そんな短時間で寺踪さんを殺して、AEDを持って2階と3階を行ったり来たりしたっていうの? さすがにそれは無理だよハミちゃん」

「どうかしらね。前もって用意していたなら不可能じゃないんじゃない?」

 少しずつ冷静さを取り戻してきたせいか、ハミちゃんの様子がやはりおかしい事にボクは気が付く。

 そもそもここまでの流れが唐突過ぎるんだ。もしかして彼女、何か知っているんじゃないか?

 

 

 議論開始!

 

 羽美垣子

「だからあたしは都築君が犯人だって云っているのよ!」

 

 生田厘駕

「やはり貴様だったかプランクトン! バールウーマンを辱めた罪、万死に値する!」

 

 遊木皆人

「そりゃあもう解決したやろ……」

 

 梶路美耶子

「それに、都築さんが犯行を行うにはやはり無理があります」

 

 夢見縛

「でもこれ以上手がかりがないのなら、都築君が一番クロに近いのではなくて?」

 

 梶路美耶子

「それは……」

 

 西尾圭太

「ん~、さっぱりわからん」

 

 玉村晴香

「略してさぱらん、だね!」

 

 西尾圭太

「お! 云い易くて良いなあそれ!」

 

 成宮金次郎

「やはり都築……お前なのか?」

 

 生田厘駕

「ハミちゃん様が戯言を云うわけがない! いいから自分の罪を認めろプランクトンがッ!」

 

 太刀沼幸雄

「おい都築! なんとか云いやがれッ!」

 

 羽美垣子

「ほら! さっさと白状しちゃいなさいよ! どうせあんたも知ってるんでしょ? 夜中に階段のシャッターが開いてたって事!」

 

 << それは違う! >>

 

 

「待ってハミちゃん! ボク、階段のシャッターなんて使ってないよ」

「しらばっくれてんじゃないわよ! 深夜、階段のシャッターが開いていたじゃない! それを使えばエレベーターに乗れなくても自由に行き来する事が出来るでしょ!?」

 どう考えても思い当たる節がない。昨日エレベーターを使った時、階段のシャッターは閉まっていたよな? エレベーターはシャッターのすぐ横にあるから、いくら暗いとはいえ見間違える事なんてないと思うんだけど。

「ごめん、やっぱり知らないよ。確かに捜査中、階段のシャッターが完全に閉じてはいなかったのは確認したけど、とても人が通れるような隙間じゃなかったよ?」

「そんな事ない! だって、昨日あたしは階段を上って……あ」

 自分がとんでもないミスを犯してしまった事に気付いたのか、ハミちゃんの顔はみるみるうちに青白くなっていった。

 その瞬間、ボクに向きかけていた疑いの風か一気にハミちゃんの方へと向く。

「が、垣子テメェ……!」

「ち、違……あたし、やってない。あたしじゃない!」

「は、ハミちゃんが萌佳ちゃんを? 信じられないよ……」

「女神が女神を殺めるとは……なんて悲しくも美しい戯曲」

「まあ、結末なんてこんな物よね」

「だからやってないってば! お願い、みんな信じて……信じなさいよおッ!」

 涙を流しながら、それまでボクに向けていた強気な態度を今度はみんなに向けて反論をするハミちゃん。

 その様子をいやらしく見ていたモノクマが、追い打ちをかけるように無慈悲な判決を下す。

『うっぷっぷっぷ。議論は済んだみたいだね。それじゃあ始めましょうか! 投票ターイム!』

「え、ちょっと待って!? まだ、まだあたし死にたくない! あたしはやってないんだってば! オシオキなんて嫌ァッ!!」

「悲しいけど、これが現実なのよね」

 証言台にしがみ付き、おもちゃを買ってもらえない子供が駄々をこねるように泣き喚くハミちゃん。みんなはその様子を直視できないのか、俯いたり、顔を背けてしまっている。

 本当にこれで終わりでいいのか? まだ、ボク達は何か見逃している事があるんじゃないか? でも何がある。他に、この状況を変える一手はどこに――

「ハミちゃんは犯人じゃないよ」

 紫中君の声が裁判所に響く。

 犯人じゃないって、君は何を根拠に云っているんだ紫中君。

「え……なに?」

「正確には、まだ犯人に決めるのは早いって事だけどね」

「どういう事、紫中君?」

 相変わらず何を考えているかわからない表情でボクの方を見ると、紫中君は指で作ったVサインを見せてから、唖然とした表情で彼の顔を見つめるハミちゃんの方を向いた。

「ハミちゃん。正直に話してほしいんだけど、君は昨晩、寺踪さんに会っているんじゃない?」

 どう答えるのが正解なのかわからないかのように、紫中君の変色のない顔色を窺いながらしばし考えると、ハミちゃんは覚悟を決めたように歯を食いしばってから重い口を開く。

「……ええ、そうよ。あたしは昨日の夜、寺踪さんと会った」

「で、そのまま殺したんだろ?」

「違う! あ、あたしは、パパとママが変な被り物を被った奴らに、甚振られる映像を見せられて……こ、恐くて恐くて堪らなくて……泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……涙が出なくなるくらい泣いて……」

 ハミちゃんはその時の映像を思い出してしまったのか、自分の肩を抱いてプルプルと震えだした。ボクも似たような映像を見たせいか、彼女の気持ちが痛いほど伝わってきた。

「そしたら、喉が渇いて……ラウンジで何か飲みに行こうと、エレベーターを使おうとしたら、誰かが3階に上がってくる途中で、顔もボロボロだったから、誰かと鉢合わせしたくなくて、あたし、すぐ横にある女子トイレに隠れたの」

「それは、何時頃ですか?」

「わからない。けど、深夜の12時を過ぎてたいと思う」

「だとすると、それは多分ワタシ達ね。月の向きが丁度その辺りだったから」

 月の向きって……いや、今は夢見さんのミステリアスな一面を気にしている場合じゃない。

「じゃ、じゃあ、私ともすれ違っていたかもしれないって事ですか?」

「多分、そう。それでエレベーターを降りて、ラウンジに行ったら寺踪さんがソファに腰かけていたの。最初は驚いたけど、簡単に挨拶だけして、ドリンクバーで紅茶を淹れてからすぐにラウンジを出たわ。それからエレベーターに乗って帰ろうとしたら、階段のシャッターが開いていたの」

「そん時、他の階には行ったんか?」

「行ってない。というか行けなかった。シャッターが開いていたのは2階と3階を繋ぐ階段だけだったから」

「それでハミちゃんは、その階段を使ったんだね?」

「ええ。エレベーターを降りた瞬間、誰かに会うんじゃないかって思ったら尻込んじゃって……階段なら上りながら周りの様子も見れるし。その後は、朝まで部屋からは一歩も出てないわ。本当よ」

「それを証明出来る物、何かあるかな?」

「あたしの部屋のゴミ箱にその時に飲んだ紙コップがあるわ。多分、紅茶の茶渋が残ってるはず」

「ありがと。それだけあれば充分だよ」

「いいの? あたし、嘘ついているかもしれないのよ?」

「この状況で嘘をつく意味はないよ。それに僕は、最初からハミちゃんが犯人だなんて思ってないからね」

「紫中君……」

 この天然ジゴロめ。そう思っていたならもっと早く云ってほしいよ。

 でもハミちゃんの疑いが晴れてよかった。もしあのままハミちゃんを選んでいたら……。

 危うく取り返しのつかない事になる所だった恐怖にボクが鳥肌を立てていると、顔を仄かに赤くしたハミちゃんが申し訳なさそうに梶路さんの方を見る。

「その、ごめんね梶路さん。イライラしてたとは云え、酷いこと云ったわよね、あたし」

「仕方ないですよ。それより、無実が証明されてよかったですね」

「……ありがとね」

「ボクも結構いろいろ云われたんだけど……」

「ああそうだったわね。ごめんごめん」

 軽いなぁ……まあいいけどさ。

 

 

「でも、どうしてシャッターは開いていたのかな?」

「それはモノクマの仕業だよ」

 紫中君の発言と共にみんなの視線がモノクマに向くと、奴はそれすら楽しむように微笑む。

『うん、そうだよ。何も事件が起きないんじゃあ動機を渡した甲斐がないからね。ちょっとでも殺人をし易くする為に、ボクがサービスサービス♪ してあげたんだ~!』

「おい、テメェ今動機とか云いやがったな!」

「それしか考えられへんやろ。あのタイミングであの映像……作り物や思うても吐き気がしてくるわ」

『あの映像はノンフィクションだってば! 作り物なんかじゃないの!』

「でもどうしましょう。このままでは、全員にアリバイがある事になってしまいます。いえ、もちろん皆さんの中に犯人がいるとは思いたくないですけど……」

 痛む心を抑えるように胸に手を添える梶路さん。

 皆もどうしたらいいかわからないのか、急に口数が少なくなる。

「ちょっと考える時間がほしいな」

「そうなっちなぁ……これだ! って物があれば良いなっちが」

「ひとつ良いかな?」

「これだって物があるなっちー!?」

「まあ、そんなところ」

 興奮気味に飛び跳ねるはなっちーに対して信号機のように直立不動の紫中君が話を続ける。

「この中で捜査前に、ラウンジと医務室、両方行った事がある人って何人いる?」

「前にも話したけど、私と成宮君はみんなより早く目が覚めたから、一通り船の施設は見て回ったよ」

「ああ。深海の云う通りだ」

「わいも行ったなぁ。客室で目が覚めた後、最初に寄ったんがラウンジで、医務室には、昨日AEDを確認しに来たのが最初や」

「俺も目が覚めてから最初に寄ったのはラウンジだ。そこのキツネ野郎と同じとは死にたくなるがな」

「めんどいから聞き流したるわ」

「深海さん、成宮君、遊木君、生田君、それに都築君も入れるから5人だね。ならその5人に聞きたいんだけど、医務室の花瓶に赤い花が活けられていた事は覚えているよね?」

 紫中君が尋ねるとボクを含め、全員が同じように頷いた。

 全員? ……なんだろう、何か引っかかるぞ。

「花の事を覚えていたらなんだというのだ? もっと詳しく教えてくれ紫中」

「その前に深海さん。捜査中、都築君に話してくれたって云う話をみんなにもしてくれないかな?」

「え? 別に良いけど……」

 頭にハテナを浮かべながら、深海さんは医務室でボクにしてくれた時と同じように話し始める。

「えっと、目が覚めてみんなを探している時なんだけど、成宮君の次に出会ったのは萌佳ちゃんだったんだ。その場所が医務室だったんだけど、彼女、私達の顔を見てなんだかそわそわしている風だったんだ」

「そわそわ?」

「うん。さっきも話していたけど、医務室には赤い花が活けられた花瓶があってね? 萌佳ちゃんはそれを背中で隠すようにして立っていたんだ……どうしてかは、わからないけど」

「ありがとう深海さん。さて、都築君。裁判でいろいろ話したわけだけど……ここまで来たらもうわかるよね? 寺踪さんが慌てていたわけが」

 まるでボクを試すかのように、いつもの鉄仮面を少しだけ外して微笑む紫中君。

 普段ならとんだ無茶振りにツッコミを入れるところだけど、ボクは彼の言葉で一つの可能性に辿り着く。

「……この中で、誰よりも先に目が覚めたのは寺踪さんだったんじゃないかな?」

「なんでそこで寺踪の名前が出て来んだよ! もっとわかり易く説明しろ!」

「都築君、私が萌佳ちゃんと会ったのは……そうか! 私が間違っていたんだね!」

 一度目を見開くと、納得したようにボクの方を見る深海さん。

 ボクは彼女に無言で頷くと、興奮気味に高鳴る鼓動を落ちつけながら話を続ける。

「深海さんは最初に目が覚めて次に成宮君、その次に寺踪さんて云ったけど、寺踪さんからしたら、最初に目が覚めたのは自分で、次に深海さん、その次に成宮君だったんじゃないかな?」

「なんとなく、話が見えてきた気がします……」

「船の探索に疲れてラウンジで休憩している時に、そこに飾られていた美術品を落としたりしたんじゃないかな? 普通の人は壺の種類なんてわからないし、ヒビが味の一つだなんて尚更わからないんだから、きっとかなり焦ったはずだよ」

「ここは豪華客船だから、そこに飾られている物を落としたりしたら焦るどころか卒倒するなっちよ。はなっちーのポケットマネーで払い切れるかどうか……」

「結果的に寺踪さんは、医務室に同じ壺があるのを思い出して、それと取り変えて誤魔化そうとしたんだよ。その途中で深海さん達が現れた、だからそこまで動揺していたんだよ」

「仮に貴様の云う様に、バールウーマンがこの中で最初に目が覚めていたのなら、3階を調べた後に2階を調べるだけの時間もあるわけか」

「て、寺踪さんは強い人ですね。私が同じ立場だったら、恐くて2階まで調べようなんて思いませんよ……」

「まあ、キレたら恐い女だったからな……別にビビってたわけじゃねぇぞ!?」

「だが都築。ラウンジあった壺も、医務室の花瓶も、どっちもそれなりに大きかったで? 女子が運び出すんは骨が折れる思うんやけど」

「寺踪さんの客室からはエコバッグが見つかっているから、きっとそれで運んだんだよ」

「そんな物があったんか」

「つまりわたし達がデッキに集まっていた段階で、ラウンジに飾られていた壺は花瓶に使われていた偽物だった、という事なんですね?」

「もちろんそんな事を知らない犯人は、破片が散らばる程に壊れてしまった凶器を見て動揺し、結果的に多くの証拠を残してしまったってわけだね。都築君、ここまで来れば自ずと犯人が絞られてくるんじゃない?」

 今度は完全に鉄仮面を外し、口角を上げた紫中君がボクの目をまっすぐに見つめる。

 梶路さんが云うように、ラウンジの壺は偽物で、犯人はそれを知らずに凶器に使ってしまった。

 ボクと深海さんは梶路さんの客室にいたからアリバイがある。生田君も裁判中にアリバイがある事がわかった。寺踪さんに関しては、もうこの世にいない。

 そうなると、この中で一番彼女を殺した可能性が高いのは…………一人だ。

「君が犯人だね? ……成宮君」

「な……な……なにを云っているんだ都築。何を証拠に……云っているのだ」

 ボクに名指しされた成宮君は信じられないとばかりに大きく目を見開いた。

「犯人は大分焦っていた。それは、寺踪さんを殺しただけじゃない」

「……他に、何があると?」

「あの壺が、青磁の壺が人を殴っただけで粉々になるなんて思わなかった……そうだよね?」

「バカを云うな……俺は部屋で札束を数えていて――」

「ならそれを見せてよ。普段あんなにお金を見せびらかしている君ならすぐに出せるよね?」

「そ、それは……い、今は持っていない」

「だから今、ハンカチで額の汗を拭いたの?」

 自分でも気付かずに行っていた動作だったのか、指摘された成宮君は驚いたようにハンカチを仕舞いボクを忌々しく睨みつける。

「くっ! ……だから今は持っていないと云っているだろッ! そんな事が証拠になるか!」

「なら、もっと確実な証拠になるものを示すよ。これで終わらせる!」

 

 

 クライマックス推理!

 

「寺踪さんが一人でコーヒーを飲んでいると、ラウンジに犯人がやってきた。

 最初は二人仲良く話でもしていたんじゃないかな? でもその途中、何がきっかけはわからないけれど口論になってしまって、逆上した犯人は手近な所にあった壺を使って寺踪さんを殴ってしまったんだ」

 

「我に返った犯人はなんとか寺踪さんを助けようと医務室にあったAEDで救命措置を取ったけど、柔らかいソファの上で行ったせいで大した効果は得られなかった。

 そもそも後頭部を殴打した時点で寺踪さんは亡くなっていたんだから、仮に床の上でやっていても同じだったとは思うけど……」

 

「自分が人を殺してしまったのなら、普通なら逃げたり証拠隠滅を図ったりするのだろうけど、犯人にはそれが出来なかった。

 この犯人からしたら人を殺してしまった事よりも、割れるハズのない壺が粉々に散らばってしまった事の方が衝撃的だったんだよ。

 それは、間違えて女子トイレに入ったり、雑な掃除で証拠を残してしまった事からも見て取れる」

 

「証拠隠滅の後、使い終わったAEDを診察室に片付けに行った犯人は、医務室に置かれた花瓶が自分が凶器に使った壺と同じ物だって事に気が付いたんだ。

 それこそが、寺踪さんが取り変えた本物の壺だとも知らずにね」

 

「そうして活けられていた花と水を大浴場の洗面台に捨てた後、犯人は階段を使ってラウンジに戻り正確な位置に壺を置き、自分の客室に戻って夜が明けるのを待ったんだ」

 

「船内の設備だけじゃなく、ラウンジの棚に並ぶ美術品の順番まで把握している人物……それは君しかいないんだよ、成宮君!」

 

 ~~~~~~

 

「そ、そんな物を認めるわけないだろう! あくまで妄想だ! それを云うなら遊木にだって可能ではないか!? こいつは客室で寝ていたと云ったがそれを信じるのか!? ええ!?」

 

「遊木君には無理だよ。だって彼は、医務室とラウンジには行ったけど、売店には行っていないんだ。君と違って売店にエコバッグがある事を知らないんだから、割れた壺を運ぶ事は出来ないんだよ」

 

「そんな事知るか! そ、そもそもエコバッグとはなんだ? どんな物も所持している金持ちの俺だが、そんなバッグ聞いた事も見た事もないぞい!」

 

「嘘つかないでよ。一緒に寺踪さんの客室を調べていた時、前に使った事があるって云ったじゃないか!」

 

「ええいッ! 壺壺壺壺五月蝿いぞッ! あの壺は深緑の壺だ! 緑でも黄緑でも浅緑でも鶸でも海松でも萌黄でも草でも根岸でも苔でも菊塵でも若葉でも柳でも松葉でも緑青でも秘でも鴨の羽でも錆浅葱でも常盤でも鉄でも萌葱でも鶯でも老緑でも青丹でも抹茶でも白緑でも裏柳でも若苗でも老竹でも若草でも千歳緑でも木賊でも若竹でもなく深緑の青磁の壺だ! 正式名称で呼ばぬかこの愚か者があッ!」

 

「論点を変えないでよ! それだけじゃあない、他にも決定的な証拠はあるんだ!」

 

「おおなんだ云ってみるが良いいいいッ!! ただし的外れな事を云ったらお前は罰金だ! 金を払え! 金が無ければ所持品を売れ! 所持品が無ければ臓器を売って来るが良いこの愚か者がああああああッ!!」

 

「船内ルール、覚えてるよね?」

 

「船! 内! ルー! ル! だあとぉおおお!?」

 

「そうだよ。電子生徒手帳に載っている船内ルールによると、船内の物を壊したり、海にゴミを捨てたりしたらいけないって書いてあるよね。レストランは閉まっていて、ラウンジのゴミ箱にもそれらしい物はなかった」

 

「何が云いたい! 時は金なりハッキリ云えええッ!!!!」

 

「君の客室を見せてくれるかな成宮君。ボクの推理が正しければ、君の客室にはエコバッグと、それに詰まった壺の残骸があるハズなんだ!」

 

「くううううううううううううううううううううッ!」

 

 頭を抱え、瞳孔を開きながら蹲る成宮君。

 ボクの推理は正しかったみたいだ。

 

「おい、なんか云えよ」

「成宮君?」

「嘘よね? あんたが寺踪さんを……そ、そうだ。早く客室に行きましょう。そうすれば、あんたの無実は証明されるんだから、ね?」

 自分をお見舞いに来てくれた成宮君の罪を認めたくないのか、声を震わせながら、必死に彼を説得するハミちゃん。

 ボクだって受け入れたくはない。でも、これは現実なんだ……。

「……俺が、寺踪を殺した」

「……冗談やめてよ。あんたみたいなヘタレの成金に人殺しする度胸があるわけないじゃない! あたしにつ、罪を……擦り、つけ……る、事……なんて……あんたみたいな――」

「俺はお前に罪を擦り付けようとした。見舞いに行ったのも、最初に死体を発見したと云うお前が余計な物を見ていないかそれとなく聞こうとしただけだ」

 「……ッ」

 信じて庇おうとした相手から残酷な現実を突き付けられたハミちゃんはそれ以上何も云えなくなり、唇を噛みながら俯いてしまった。

『今度こそ良いかな? それでは始めましょう! 投票タ~イム……の前に、簡単に説明をしておきましょう。皆さんはクロだと思う人を、そこのボタンを押して指名してください。投票の結果、一番票の多かった人がクロとしてオシオキされます! 果たして君達の選択は正解か不正解か。では改めて始めましょう~! 投票タ~イム!』

 

 これで、本当に終わる。

 学級裁判という悪趣味このうえないゲームが……ボク達自身の手によって。

 ボクは床から現れたボタンを押して犯人である人物を指名する。

 ドラムロールと共に巨大なモニターにはボク達の顔がスロットのように映し出され、強い緊迫感の中、犯人である人物の顔が一つ、また一つと埋まって行く。

 そして、最後の一つが埋まると派手なファンファーレと共に犯人の、成宮君の顔が画面いっぱいに映し出された。

 

 

 モノクマ

「大正解~♪ 超高校級のバリスタ寺踪萌佳さんを殺したクロは、超高校級の収集家、成宮金次郎君でしたぁ~!」

 

 生田厘駕

「これで終いか」

 

 太刀沼幸雄

「……チッ」

 

 遊木皆人

「キッツイわ……」

 

 西尾圭太

「……ハァ」

 

 紫中舞也

「……」

 

 深海紅葉

「なんで、こんな事……」

 

 梶路美耶子

「……成宮さん」

 

 指原雅

「あわわわわ……」

 

 はなっちー

「はわわわわ……」

 

 玉村晴香

「あ、当たっちゃったよぉ」

 

 夢見縛

「だから現実は嫌なのよ」

 

 羽美垣子

「……バカ」

 

 都築航

「成宮君……どうしてなんだ? どうして寺踪さんを……」

 

 成宮金次郎

「全ては、あの映像がきっかけだ……」

 

 ******

 

『な、なんなんだこれは……ッ!』

 

 俺の見た映像には、モノクマのマスクを被った者達によって俺の大切なコレクションが次々に壊されていく様子が映し出されていた。

 

 多くの時間と金と情熱を費やして集めたコレクションが壊される様子を見せられたんだ。その衝撃はひとたまりもなかったよ。

 

 形ある物はいずれ壊れる。

 

 収集家である俺はそれも理解しているつもりだった。

 

 でも、でもあれだけはダメなんだ……仕事で忙しく、なかなか家族の時間を過ごす事が出来ない父が買ってくれた最初で最後のプレゼントであるあの超合金ロボだけは……どうしても我慢する事が出来なかったのだ……。

 

 奴らは、全てのコレクションを破壊したくせにあの超合金ロボだけはどこかに持ち去って行きやがった。

 

 俺はどうしてもどうしてもどうしてもどうしてもあれを探しに行ってどんな非情な手を使ってでも奴らから取り返さなければならなかったのだ! 俺はこんな低レベルの船でお前達庶民と怠惰に時を過ごしてなぞいられないのだあああああああああああああああああ!!!!

 

 学級裁判に成宮君の絶叫が響き渡る。

 その姿は今まで見てきた、見栄っ張りなのに臆病で、だけど思いやりのある彼とは違い、欲に塗れ、己の願望の為に平気で他者を踏み台にする…………吐き気がする程に人間臭い化物だった。

 きっとこれが、成宮金次郎という者の真の姿なのだろう。

 

「き、気持ちはわかるよ……でも」

「おもちゃ如きで……そう云いたいのだろう玉村」

「そ、それは……」

「寺踪にも同じような事を云われた。その後、もっと大切な物をこれから集めれば良いなんて臭い台詞を云われたがな……」

 寺踪さんがそんな事を……。

「あとはお前の云う通りだ。寺踪を殺してしまった俺はパニックを起こして、まともな救命措置も証拠隠滅も出来ず、挙句の果てにモノクマが作った贋作の壺を弁償する事になったのだ……はは、金を払う価値もない陳腐な話だろ?」

「モノクマが作った?」

「そうだよ! 実はラウンジに置かれた美術品はぜ~んぶボクが作ったレプリカなんだ!」

「そういう事らしい。俺が凶器に使った壺もモノクマが拵えたガラス製品だそうだ。俺の目も衰えたな。超高校級の収集家の名が聞いて呆れる……」

 さっきまでの獣のような姿はなんだったのか、全てを諦めたような、清々したような、虚無感のような物をボクは感じた。

「くだらんな。キサマがバールウーマンを殺し、ハミちゃん様に罪を擦り付け、俺達を殺しにして外へ出ようとした細菌以下の屑野郎である事に違いないのだ。さっさと死に――」

「黙って」

「何故ですハミちゃん様。この細菌以下の屑野郎はあなたを――」

「黙れ。それ以上云ったら……今度は私があんたを殺す」

 ハミちゃんの冷たい言葉が刃となって生田君の喉元に突きつけられるも、彼は眉一つ動かさずに長めの白い髪を靡かせた。

「ハミちゃん様に裁かれるのも悪くはありませんが、女神の怒りを買うのは俺としても不服な事。ここはあなたの言に従うとしましょう」

 あくまでも自分の調子を崩さない生田君に苛立ちを感じているのか、ハミちゃんは彼をもう一度だけ睨みつけると、それ以上は何も云わずに顔を背けてしまった。

 静まりかえる学級裁判の場には……誰かの涙をすする声だけが響き、やりきれない思いのボク達の心に冷たい爪を立てた。

 これで、ようやく終わった。

 終わったんだ……。

 

 ――学級裁判、閉廷


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