「大丈夫か、遊大?」
「あ、ああ。なんとかな」
遊大がアフリマと戦ってから一日が過ぎた。あの後病院に搬送された遊大は体に異常はないもののあり得ない程衰弱していたためそのまま入院していた。そして遊大は先ほど目を覚まし涙を流しながら抱き着いてくる瑠奈と安心したように息を吐く一の姿を目にした。
「遊大、これ食べる?」
「いや、今は食欲なくてな」
「そう…」
医者からの説明を終えた遊大に瑠奈がお土産のリンゴを差し出してくる。ウサギ型に切り分けられたそれを見ながら食べないことを説明する。瑠奈は悲しそうに俯くが直ぐにリンゴを自分の口に運んだ。遊大の許可なくリンゴを向いていたことから遊大が食べなければ自身が食べるつもりであったのだろう。
「それで?結局何があったんだ?」
「ああ、それがな…」
教室にいなかった一は遊大に説明を求めてくる。遊大は一にあの霧の中であった事を教える。
「っていう訳さ。ただ、最後の方はあんまり覚えてなくてな。気が付いたら病院にいたって言うわけだ」
「成程な。十郎から一応話を聞いていたとは言え信じられない話だな」
「そのアフリマっていう男強かったの?」
「ああ、ものすごく強かったよ。ただ、どうやって勝ったかは覚えていないんだよな~」
遊大はそう言うとベッドの隣に置いてあるデッキホルダーから一枚のカードを取り出した。
「これもいつの間にか入っていたしな」
そう言って瑠奈に見せたのは『氷結界の帝龍アスカロン』であった。イラストからも分かる神々しい姿に一目見ただけで瑠奈は虜になってしまいそうなほどであった。
「奇麗…。あ、でもこのカードのシンクロに必要な素材って氷結界の龍なんだね。私は持ってないから使えないな」
瑠奈はシンクロの素材について書かれたテキストを見てがっかりとばかりに肩を落とすとカードを遊大に返した。遊大はカードを受け取るとデッキホルダーの中にしまい隣に置いた。
「さて、遊大は無事のようだし俺はそろそろ帰らせてもらう」
「ああ、ごめんな。一にだって予定があるのにな」
「ふ、気にするな。お前のせいで予定が狂うのは何時もの事だろ」
「うぐっ!」
一の言葉に遊大は胸を抑えて蹲る。一の言葉が正しいため瑠奈も擁護しようにもできずただ苦笑いを浮かべるだけであった。
「また明日来る。まあ、精々しっかりと休養を取る事だな。何時も無茶するお前には小名木の入院はぴったりだ」
「そ、そこまで言わなくても…」
遊大は一の言葉にすっかりを落ち込みその言葉を漏らすのであった。
☆★☆★☆
「はあ、良かった。遊大が無事で」
夕暮れで真っ赤に染まる病院を背景に瑠奈は安堵の息を吐きながら家への帰路についていた。学校を終えてから真っすぐに病院に来ていたため瑠奈はかばんを背負いながら遊大の事を考える。
「…やっぱり、学年が違うと不便だな~」
瑠奈は自分が遊大と同年代でないことを嘆くが既に何度も同じことを思っているため心の中で何時もの事か、と思っていた。
「それにしてもアフリマって一体何だったんだろう?」
【…それは貴方には関係ない事ですよ】
ふと漏れた瑠奈の独り言。その独り言に返す言葉があたりに響いた。
「…え?」
【とは言えあなたには聞きたいことがあるのですよ】
驚く瑠奈に再び声が聞こえてくると瑠奈の周りを黒い霧が覆い始めた。やがて直ぐに周りは閉ざされてしまう。
「これって、遊大が言っていた事と同じ…?」
【ふむ、遊大、と言うのですか。アフリマ様を消した輩は】
「誰!?」
【おっと、これは失礼しました】
瑠奈は黒い霧に向かって叫ぶ。すると瑠奈の目の前に悪魔が出現した。人型の姿をしているが人間とは思えない不気味をしたその悪魔はその姿とは裏腹に丁寧な口調で瑠奈に語り掛けた。
【私は魔王様の命を受けアフリマ様を消した者を探しております、ガーゼットと言います。以後よろしくお願いします】
「あ、どうもこちらこそ…って、違う!」
瑠奈はあまりの丁寧語に思わずと言った感じで挨拶を返すが直ぐに我に返った。
「この黒い霧は何?何で私を狙ったの?」
【答える霧はありませんが、それではいつまでも話が進みませんからね、特別に教えて差し上げましょう。この黒い霧は単純にあなたを拘束するためですよ。そしてあなたの知り合いの遊大?でしたか、その方の持つカードが目当てでしてね。その為にあなたを利用させてもらおうかと】
「そんなことするわけないじゃない!」
ぺらぺらと喋るガーゼットに瑠奈は噛みつくように否定するがそれは予想出来ていたのかガーゼットは特に反応を示さず話を続ける。
【まあ、あなたがそう言うのは分かっていました。ゆえにここはデュエルで決着を付けましょう。あなたが勝てばこの黒い霧は晴れ元の場所に戻ることが出来ます。しかし、あなたが負けたら…、分かりますね?】
「デュエルで?いいわ。必ず勝ってここを出て見せる!」
瑠奈はかばんから最新型のデュエルディスクを取り出し装着する。ガーゼットも悪魔を模したデュエルディスクを装着して準備を完了させる。
「【デュエル!】」
「先行は私が貰う!ドロー!」
松井瑠奈
手札5枚→6枚
「私は
ATK800 DEF600
「エア・ハミングバードの効果発動!1ターンに1度相手の手札の数×500ライフを回復する」
【私の手札は五枚。と言う事は】
「ライフを2500回復する」
松井瑠奈
LP8000→10500
「更に私は手札から魔法カード二重召喚を発動!私はこのターンの間もう一度通常召喚を行うことが出来る。手札から極聖獣グルファクシを召喚!」
極聖獣グルファクシ
ATK1600 DEF1000
「私はレベル3エア・ハミングバードにレベル4極聖獣グルファクシをチューニング!命の光を重ね、無垢なる輝きを来たれ!シンクロ召喚!エンシェント・ホーリー・ワイバーン!」
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK2100 DEF2000
1ターン目にして瑠奈のエースモンスター、エンシェント・ホーリー・ワイバーンが姿を現した。しかし、黒い霧に包まれているためかいつもに比べてエンシェント・ホーリー・ワイバーンの輝きは弱っているように見えた。
「エンシェント・ホーリー・ワイバーンは自分のライフが相手より上回っている時その差だけ攻撃力をアップする。私のライフは10500。よって攻撃力を2500アップ!」
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK2100→4600
DEF2000
「私はカードを二枚伏せてターンエンド」
【私のターン、ドロー】
ガーゼット
手札5枚→6枚
【私は魔法カードおろかな埋葬を発動!これによりデッキからモンスター一体を墓地に送る。私はヘルウェイ・パトロールを墓地に送る。そして墓地のヘルウェイ・パトロールの効果発動!このカードをゲームから除外する事により攻撃力2000以下の悪魔族モンスター一体を手札から特殊召喚出来る。私はダーク・リゾネーターを特殊召喚する】
ダーク・リゾネーター
ATK1300 DEF300
【更に私はデーモンの騎兵を召喚】
デーモンの騎兵
ATK1900 DEF0
【私はデーモンの騎兵にダーク・リゾネーターをチューニング!新たなる王者の鼓動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高きデーモン・カオス・キング!】
デーモン・カオス・キング
ATK2600 DEF2600
ガーゼットの場に現れたのは一体の悪魔であった。背中より炎を噴き出し自身より体躯の大きいエンシェント・ホーリー・ワイバーンに臆さずにしている。
【バトル!デーモン・カオス・キングでエンシェント・ホーリー・ワイバーンを攻撃!】
「うそでしょ!?デーモン・カオス・キングの攻撃力は2600。エンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力は4600。かなわないはずなのに…」
瑠奈はガーゼットの行動に驚くがガーゼットは意に介さずそのまま続行した。そしてエンシェント・ホーリー・ワイバーンとデーモン・カオス・キングがぶつかり合い、エンシェント・ホーリー・ワイバーンが消失した。
「そんな!?エンシェント・ホーリー・ワイバーンがっ!?」
【デーモン・カオス・キングの効果は攻撃時相手モンスターの攻撃力と守備力を入れ替える。よってエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力は2000になったので破壊されたと言う事ですよ】
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK4600→2000
DEF2000→4600
松井瑠奈
LP10500→9900
「私はエンシェント・ホーリー・ワイバーンの効果を発動!戦闘で破壊された時に1000ライフを払いフィールドに特殊召喚する。ドロップ・リボーン!」
松井瑠奈
LP9900→8900
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK2100→3000
DEF2000
【ほう、なら私はカードを三枚伏せてターンエンド】
松井瑠奈
LP8900 手札1枚
モンスター
なし
魔法、罠
セット
セット
ガーゼット
LP8000 手札0枚
モンスター
デーモン・カオス・キング
魔法、罠
セット
セット
セット
ライフでは未だに瑠奈が優勢であったが場は完全にガーゼットが圧倒していた。
「まだだ!まだ終わっていない!エンドフェイズにリバースカードオープン!神の恵み!これは私がカードをドローした時にライフを500回復する永続罠!そして私のターン、ドロー!これにより神の恵みの効果発動!」
松井瑠奈
手札1枚→2枚
LP8900→9400
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK3000→3500
DEF2000
「私はエンシェント・ホーリー・ワイバーンでデーモン・カオス・キングを攻撃!エタニティ・ライフ・ストリーム!」
【ふっ、そんな単調な攻撃が通用すると思っているのですか?リバースカードオープン!
「竜の血族?何でそんなカードを…」
【無論意味はある。
ガーゼットがそう言うと遠くの方から何かが近づいてくる音が聞こえてくる。そして段々と近くなり瑠奈はその姿を見ることが出来た。瑠奈の目の前から大量の土砂が流れてきていたのである。そしてそれは普通の土砂とは違い黒く汚れておりこの世の者とは思えなかった。土砂はフィールドに近づくに連れ浅くなっていったがそれでも流れる力は強く瑠奈は土砂に流されそうになる。
【冥界を流るる嘆きの河より亡者の激流を逆巻き浮上せよ!シンクロ召喚!冥界濁龍ドラゴキュートス!】
そして土砂が地上に舞い上がり巨大な禍々しい龍が姿を現した。龍は空を飛ぶエンシェント・ホーリー・ワイバーンを見ると大きな咆哮を上げる。エンシェント・ホーリー・ワイバーンも負けじと咆哮を上げた。
冥界濁龍ドラゴキュートス
ATK4000 DEF2000
【冥界濁龍ドラゴキュートスは戦闘では破壊されない龍だ。さあ、あなたはこれをどう乗り越えますか?それともこのままサレンダーですかな?】
「っ!私はターンエンド」
【では、私のターン!ドロー!】
ガーゼット
手札0枚→1枚
【冥界濁龍ドラゴキュートスの効果発動!相手フィールドのモンスター一体を選択して発動する。相手モンスターの攻撃力を半分にしてその数値分相手にダメージを与える!私はエンシェント・ホーリー・ワイバーンを選択!現時点でのエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力は3500。よって1750のダメージを受けてもらう!】
「っ!きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK3500→1750
DEF2000
松井瑠奈
LP9400→7650
既にエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力は下級モンスター並みに下がっている。その影響なのかエンシェント・ホーリー・ワイバーンは力尽きたように濁流で溢れるフィールドに落下した。
「エンシェント・ホーリー・ワイバーン!」
【もはや飛ぶ力も残っていないか。せめてもの慈悲で止めを刺してあげましょう。バトル!冥界濁龍ドラゴキュートスでエンシェント・ホーリー・ワイバーンを攻撃!
ドラゴキュートスの巨大な濁流の如き黒いブレスが発射される。エンシェント・ホーリー・ワイバーンは抗う力も残されていないのか何もせずそれを受け入れていた。
「リバースカードオープン!女神の加護を発動!この効果で私のライフを3000回復する!」
【…何?】
「これで私のライフは10650になった。よってエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力もアップ!」
エンシェント・ホーリー・ワイバーン
ATK1750→4400
DEF2000
【ちぃ!ドラゴキュートスの攻撃力を上回ったか!】
「行け!エンシェント・ホーリー・ワイバーン!ドラゴキュートスを返り討ちにして!」
瑠奈の言葉に答えるように力なく倒れていたエンシェント・ホーリー・ワイバーンは女神の加護から放たれる光を受け力を取り戻した。そのままブレスを放ちドラゴキュートスに押し返した。
ガーゼット
LP8000→7600
「まだまだよ!私はまだ負けていない!」
瑠奈の力強い宣言に答えるようにエンシェント・ホーリー・ワイバーンが巨大な咆哮を上げるのであった。
どう書いてもガーゼットの小物感が抜けない…。本来はこんな事になる筈じゃなかったのに…。