遊戯王オリジナルストーリー   作:鈴木颯手

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お久しぶりです。


第十九話:戦いの後に

「遊大…」

 

遊戯町にある病院の一室。ボロボロになった痛ましい姿の友人の名を、斎藤一は呟いた。遊大のお見舞いに行った翌日、病室でボロボロの遊大と同じくボロボロで行方不明だった瑠奈が見つかったと言う報告を一は夜中に知らされた。急いで遊大のもとに駆け付けそれからずっと目を覚まさない友のそばに寄り添っていた。

 

この病院には遊大と一緒に発見された瑠奈がいるが無理矢理強姦された影響か体中が傷つき今も集中治療室から出る気配が無かった。瑠奈の両親はたった一日で変わり果てた娘の姿を見てずっとそばを離れず泣き続けている。遊大の両親は今は医者の話を聞くために別室にいるが先ほどまで一と共に付きっ切りであった。

 

「一体、何でこんな事に…」

 

一は傷つく友の姿に何で自分はその場に居なかったのかと後悔していた。そう思ってもどうしようもないと一自身も分かっているがそう思わずにはいられなかった。

 

「遊大が話していた…アフリマと言う奴の仕業なのか?」

 

一は遊大と瑠奈をこんな姿にした犯人について考察する。遊大から聞いたアフリマと言う人物。痛みが実体化する恐ろしいデュエル。どれも聞いたことが無い物だった。

 

「せめて、その時の様子が分かれば…!」

 

そこまで考えて首を横に降る。遊大のデュエルディスクは損傷が激しくデータを取り出す事が不可能になっていた。少しでも当時の状況を知りたいと願った初めにとって絶望とも言える結果であった。

 

「しかし、何故瑠奈が狙われたんだ…、あいつは何も関係ないはずなのに…!…いや、それを言ったら遊大もそうだな」

 

一はデッキホルダーから一枚のカードを取り出す。遊大と同じくデュエルモンスターズ・ハイスクールの合格の際に貰ったカードであった。未だデュエルでは一度も使用したことがないそのカードを手に持ちながら一は遊大の無事を心から願うのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

【ガーゼットを破るとは…】

 

精霊世界を見下ろすように作られた魔王城にある幹部たちが使用する会議室にて精霊世界を統べる魔王は苛立ちを抑え込みながら部下がまとめた報告書を呼んでいた。

 

【まさかあの局面から逆転するとは…、負け犬め。面倒な奴に憑りつきおったな】

 

「魔王様、いかがなされますか?幾人か送り込みますか?」

 

玉座に座る魔王から見て右手に座るゾンビの如き容姿をしたモンスターが話しかける。

 

『いや、ガーゼットは四天王ではなかったがそれに匹敵する実力を持っていた。奴が負けたと言う事から数より質で押すべきだろう』

 

ゾンビの真正面に座った悪魔が否定的な意見を出す。ゾンビはその意見を聞き顎に手を当てながら考えるしぐさをする。

 

〈でもさぁ~?ガーゼットを倒せるような奴と言う事は少なくとも俺らが出るしかないんじゃない?〉

 

悪魔の言葉にこの会議に参加している最後の一人、禍々しい鎧を着こんだ軽薄そうな男が批判的な事を言う。軽い口調の男に悪魔は不服そうに睨みつける。

 

『会議中だぞデュークシェード。その言葉遣いを何とかせぬか』

 

〈え~?別に構わないでしょ~?誰に迷惑をかけている訳じゃないんだし〉

 

『そういう問題ではない。既に我らはこの世界を統べる立場にいるのだ。それにふさわしい態度をとる必要がある』

 

〈え~?面倒くさいな~〉

 

『貴様…っ!』

 

「まあ、プロメティスの言う事も分かるが今は我らの敵となった人間、近藤遊大をどうするかを話すべきだろう?」

 

【…リッチーロードの言う通りだ。奴は我が臣であったアフリマを殺し更にガーゼットを降した。近藤遊大とか言う人間はどうでもいいが奴に憑りついている負け犬が問題だ】

 

魔王の言葉を受け四天王達が一斉に魔王の言葉に耳を傾ける。

 

【負け犬を慕う者は未だに存在する。奴らは負け犬がここ(精霊世界)に戻って来るのを望んでいるがそれを行えばこの世界の時は再び止まるであろう。そうなればモンスター達は変わらない今日を永遠に続けていく事になる。それだけは避けねばならない】

 

魔王はそう言うと勢いよく立ち上がった。

 

【次は我自らが出向こう】

 

魔王のその言葉に四天王達は驚くと同時に焦った。精霊世界は長い戦いの末、魔王の元に統一されていたが各地にはそれに反感を持っているものがいた。そんな状況で魔王がここを離れるのはリスクが大きかった。

 

そして、万が一魔王も失う事になればそれこそ魔王が負け犬と呼ぶ者たちが精霊世界に戻ってきて再び時が止まった世界となる可能性があった。四天王達はそれだけは避けようと必死に呼びかける。

 

「魔王様!今魔王様がこの世界を離れるのは危険すぎます!せめて一年、いや半年は我慢してください!」

 

〈リッチーロードの言う通りですよ~?流石に魔王様が自ら出向くとなるとそれ相応の手順が必要になってきますから~〉

 

『既に魔王様はこの世界を統べる王となられたのです。今までの様に軽々しく動くことは許されませんぞ』

 

四天王達からの呼びかけに魔王は不服そうに呻くが再び椅子に座りなおした。

 

【…分かった。なら今は奴の周囲に手下を潜り込ませ情報を集めよ。そして期が熟した時一気に取りにいく。よいな?】

 

「『〈はっ!〉』」

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

「なあなあ!聞いたか、あの噂」

 

魔王城の城下町、表通りに並ぶ飲食店の一つ、様々な酒を浴びるように飲んでいる居酒屋の端の席で小悪魔の様な外見をした悪魔が目の前の牛の姿をしたモンスターに話しかける。

 

「噂ぁ?一体何の噂だぁ?」

 

「魔王軍のガーゼット様が死んだって言う噂だよ!」

 

牛のモンスター、牛魔人は酒でへべれけになりながら問い返した。それを小悪魔、インプが答える。城下町を出た先に広がる農園で働く二人はよく一緒に酒を飲んでは様々な噂を酒の肴にして日々を楽しんでいた。

 

「何でもデュエルを挑んで返り討ちにあったんだとよ」

 

「はぁ?馬鹿を言うな。あのお方は魔王軍の中でも上位に入る実力者だぞ。いくら何でも負ける事なんて…」

 

「その噂なら俺も聞いたぞ」

 

牛魔人はあり得ないと否定的な言葉を発しかけた時二人の会話に割り込む声が聞こえてきた。二人は声のした方を見れば鎧を着た戦士風の男がビールの入ったグラスを片手に立っていた。

 

「あ、ラーズさん。お久しぶりです」

 

「何の用だ?ラーズ」

 

インプは戦士風の男、ラーズに丁寧にあいさつをするが牛魔人の方は若干不機嫌であった。そんな反応にラーズは肩をすくめながら答える。

 

「何、たまたま知り合いが話しているところに出くわしたのでな。酒の肴代わりに話に参加させてもらおうと思ってな」

 

「お断りだ。てめぇなんかと酒が飲めるかよ」

 

ラーズの言葉に牛魔人は即答するがインプがまあまあと宥めている内にラーズは勝手に椅子を持ってきて二人の席に座ってしまった。

 

「あ、てめぇ!何勝手に…」

 

「さて、先程の噂だったが」

 

「何か知っているんですか、ラーズさん?」

 

「勿論だ。俺の所属先でもかなり噂になっているよ」

 

「けっ、そんなに魔王軍に入れたことを自慢したいのかよ」

 

牛魔人は面白くないとばかりに嫌味を言う。かつて牛魔人は魔王軍に入りたくて志願した事があったがその審査の際に不適格とみなされ入ることが出来ていなかった。しかし、その時一緒に審査を受けていたラーズが合格した事で牛魔人は嫉妬していたのである。

 

「ちょっと、牛魔人。いくら何でもそこまで言う事は…」

 

「いいんだ。こいつがどれだけ魔王軍に入りたかったは俺も分かっている。だからこそ今も志願しているんだろ?」

 

「世界が魔王様の元で統一された今、魔王軍に入るのは難しいと思うけどな」

 

「いや、そうでもない。ここ最近各地の反魔王勢力が活発化している。それに伴い軍備の増強を行っている。無論兵士も今以上に募集される」

 

「と、言う事は牛魔人でも入れる可能性があるって事か!」

 

よかったじゃないか、とインプは自分の事の様に喜び牛魔人の肩を叩く。牛魔人も憧れの魔王軍に入れる可能性が出てきて若干嬉しそうにしていた。そんな二人にラーズはビールの入ったグラスを掲げる。

 

「少し前までこんな生活が送れるとは夢にも思っていなかった。俺はこの生活を守るために俺に出来る事をやるつもりだ」

 

ラーズの言葉に二人も杯を掲げる。そして、

 

「「「魔王万歳!」」」

 

三人はそう言うってグラスをぶつけるのであった。

 


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