「おっす、一」
「ああ…」
遊大達が通う教室で起きた黒い霧の一件から一週間が過ぎた。あれ以来未だに遊大が目覚める事は無く瑠奈の様子も変わっていなかった。友人二人の痛々しい様子に一も元気がなくなっていた。そんな一を心配してクラスメイトが良く声をかけていた。
「よう、おはよう一」
「ああ、おはよう」
一は遊大の後ろの席に座っている十郎の挨拶に軽く返した。一週間ずっと同じ反応をされ十郎は一を心配する。
「遊大はまだ…?」
「ああ、あれ以来一度も目を覚ましていないんだ」
十郎の問いに一は力なく答える。十郎も遊大を心配して幾度かお見舞いに病院を訪れた事もあるがいつも憔悴した遊大の眠る姿しか見ていなかった。
「…早く、眼覚めると良いな」
「…ああ」
HRの時間となり教師が入ってくる中十郎はその様に呟くのであった。
☆★☆★☆
「…くそ、何処まで続いているんだよ、ここは…」
真っ暗な空間の中、一人の少年の声が響く。その少年、近藤遊大は既に幾日もの間この暗い空間をさまよい続けていた。体感時間は狂いこの空間で目覚めてからどのくらいの日数が経過したのかすら分からなかった。もしかしたら一年経過しているかもしれないし一日も経っていないのかもしれない。今の遊大に出来るのはこの暗闇の中を歩き続ける事だけだった。
幸いな事に空腹や疲労は感じず遊大はただ歩き続けてきたが刺激がほとんどないこの空間でただ歩き続けるのは精神的に辛く眼に見ない形で疲労が溜まってきていた。
「はあ、もしかして一生ここから出られないのかな…?」
そう思ってはいけないと分かりつつもどんどん思考は悪い方向に考え始めやがて精神を少しずつ壊していた。しかし、何処までも続いていたと思っていた暗闇は突如として姿を変えた。
「ここは…?」
遊大が目にしたのは巨大なピラミッド型の遺跡であった。ピラミッド型の建造物を中心に石造りの遺跡が広がっている。もう誰もいないのか遺跡はボロボロで所々崩れていた。
「なんでこんなところに遺跡が…」
遊大はそう呟きながら後ろを振り返る。後方には今までと変わらない暗闇があったが遺跡の所だけ日があるように明るかった。この光が暗闇に届いていないことから暗闇には光すら飲み込んでいるのだろう。
遊大はゆっくりと周りを見渡しながら遺跡を歩いていく。なんの目的で作られたのか、一体何処の遺跡なのか遊大には分からなかったが今まで刺激に飢えていた遊大はただ歩いて行くだけでも良かった。
そして遊大はピラミッドの入り口と思われる場所から中へと入っていく。しばらく歩き大きな空洞部分に出た遊大は驚いた。
「…!これは…」
空洞は何かの闘技場の様になっており四方には太い台が置かれその上に大きな狼の様な生物の石像が祭られるようにして存在していた。その石像を見ていた遊大は見た事も無い筈なのにデジャブを感じていた。
「何で…?俺はこんな生物知らないはずなのに…」
【…それはお前が実際目にしているからだ】
デジャブについて遊大が考えていると何処からともなく声が聞こえてくる。遊大は驚きあたりを見回すと遊大が入って来た入り口とは別に奥の方にも道があった。そしてその方向から何かが近づいてきているのが分かった。
やがて姿を現したそれは目の前の石像と同じ姿をしていた。全体的に青い体毛に包まれたその生物は遊大を親の仇とばかりに睨みつけている。
「…もしかして、今の声はお前が…?」
【その通りだ、近藤遊大。そして久しぶりだなぁ】
「…悪いが俺はこんな喋る狼とあった事は無いぞ」
遊大は自分が知らない相手が自分を知っていることに恐怖を覚えつつ聞き返す。
【それもそうだろうな。貴様と会った時は人の体を介してだったからな。では改めて名乗ろう。我が名はアフリマ。魔王様に仕える臣である】
アフリマ。その名を聞いた遊大は目を見開いて驚く。てっきりあの人間がその様な名だとばかり思うと同時にあれ以来よく分からない事に襲われ続けていたため遊大はアフリマを睨みつける。
「アフリマだと…。お前とデュエルしてからよく分からないことが置き続けているんだ」
【ほう、と言う事は魔王軍の誰かとデュエルでもしたのか?魔王様なら必ずや気付いてくれると思っていたが予想は的中したな】
「…さっきから魔王とか言っているが一体何の話をしてるんだ?」
【ふん、貴様には関係ない事だ。今から死ぬお前には、な】
アフリマの不敵な笑みに遊大はいいしれない恐怖を感じた。それと同時に左手を何かが覆いそちらをみてみればデュエルディスクが装着されていた。デッキも補充されておりカードを見てみれば自分の使っているデッキであった。
【あちらの世界から引っ張ってきた。貴様には今から体を賭けたデュエルを行ってもらう。貴様が勝てば無事にここから出してやる】
「へえ、前も突発的だったけど今回もそうみたいだな。…因みに負けた場合は?」
【無論ここから出る事は適わず貴様の体を我がいただく。貴様のせいで私が使用していた肉体は消えてしまったのでな。替えが必要なのだ。体が無ければ我はここから出る事すらかなわん】
「なら二度と出られないようにしてやるよ。行くぜ!」
遊大はそう言うとデュエルディスクを起動させる。軽快なスライド音と共にデュエルディスクが展開された。アフリマは四足歩行の獣の姿の為か普通より大きなカードが宙に浮かび遊大から見えないようにしていた。
「【デュエル!】」
【先行は私がいただく。ドロー!】
アフリマ
手札5枚→6枚
【手札から魔法カードおろかな埋葬を発動!これによりデッキからダークアイズ・カオスドラゴンを墓地に送る。更に手札から魔法カード死者蘇生を発動!現れろ!ダークアイズ・カオスドラゴン!】
前回のデュエルで遊大を苦しめた龍が最初の段階で登場した。前回よりも禍々しく感じる龍は遊大に、向かって恨みの籠った咆哮を上げる。
ダークアイズ・カオスドラゴン
ATK3000 DEF2000
【ダークアイズ・カオスドラゴンの効果発動!召喚、特殊召喚に成功した時デッキから一枚ドローする。更に私は永続魔法闇龍の栄光を発動!その効果は…言わなくても分かっているな?】
アフリマ
手札4枚→5枚
「ああ、あの時受けた痛みは思い出すたびに感じているよ」
闇龍の栄光の効果でいくらでも蘇ったダークアイズ・カオスドラゴンの姿を思い出し胸を抑える。
【なら再びその痛みを味わうがいい!私はこれでターンエンドだ。この瞬間ダークアイズ・カオスドラゴンの効果発動!このカードをリリースする事により相手に1000のダメージを与える!カオス・フレア!】
「ぐ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
近藤遊大
LP8000→7000
遊大は自身を襲った強烈な痛みに膝をつく。痛みはこれまでのデュエルとは比べ物にならない程であり遊大は額に汗を流し膝をついた。
「はぁ、はぁ…くそ、何打この痛みは…!?」
【ここは精神世界。肉体が存在しない分ダメージは直接魂を削る。つまり貴様の命とライフは繋がっているという事だ】
「へぇ、そう言う事は予め言って欲しいな」
【生憎、敵に塩を送るほど甘くはないのでな。さぁ、貴様のターンだ】
「分かっているって。俺のターン、ドロー!」
近藤遊大
手札5枚→6枚
【闇龍の栄光の効果発動!ライフを800払いダークアイズ・カオスドラゴンを蘇生する!そしてダークアイズ・カオスドラゴンの効果により一枚ドローする。…ぐっ!】
アフリマ
LP8000→7200
手札
4枚→5枚
アフリマの場に再び暗黒の龍が蘇る。一方アフリマは苦しそうにしている事からあちらも魂を削っていることが遊大には分かった。
「(出し惜しみは危険だな)俺は手札を一枚捨てる事で嘲笑の道化師を特殊召喚する!」
近藤遊大
手札6枚→5枚
嘲笑の道化師
ATK0 DEF0
「更に手札の一足三手の傀儡の効果発動!自分フィールドにレベル3モンスターが特殊召喚されたため手札から特殊召喚する!」
一足三手の傀儡
ATK0 DEF0
「そして
ATK500 DEF500
「俺はレベル3嘲笑の道化師と一足三手の傀儡にレベル2
デストロイ・ジャンク・ドラゴン
ATK2600 DEF2000
「デストロイ・ジャンク・ドラゴンは墓地の攻撃力1000以下のモンスター一体につき攻撃力は200アップする!俺の墓地には出すのに使った三体のモンスターと嘲笑の道化師の効果で送った屋敷わらしがある!よって攻撃力は800アップ!」
デストロイ・ジャンク・ドラゴン
ATK2600→3400
DEF2000
「そしてデストロイ・ジャンク・ドラゴンの召喚時効果発動!相手フィールドの魔法、罠カード一枚を破壊する!俺は闇龍の栄光を破壊!」
【ぐっ!】
「これで厄介なカードは消え失せた!バトル!デストロイ・ジャンク・ドラゴンでダークアイズ・カオスドラゴンを攻撃!ダークデストロイヤー!」
デストロイ・ジャンク・ドラゴンより放たれた闇の炎がダークアイズ・カオスドラゴンを包み込む。ダークアイズ・カオスドラゴンは悲鳴を上げながら破壊されていった。
アフリマ
LP7200→6800
【…っ、まさかこうも簡単に破壊されるとはな】
「へっ!俺をあの時のままだと思ったら大間違いだぜ!」
そう言うと遊大は右手を突き出しアフリマを指さす。
「俺は必ずお前を倒してここから出てやる!俺はこのままターンエンドだ」
アフリマ
LP6800 手札5枚
モンスター
なし
魔法、罠
なし
近藤遊大
LP7000 手札2枚
モンスター
デストロイ・ジャンク・ドラゴン
魔法、罠
なし