ガンプラバトル、通称GPB。それが開発されてから熱狂的なガンプラブームが世界中で巻き起こった。
自分の作ったガンプラを特殊なシステムを用いて、実際に作中のパイロット達のようにモビルスーツを操縦し、戦うことができる。この夢のようなゲームシステムは老若男女、国境を越えて広がっていった。
世界大会やGPBイベントが各地で開催され、未だ衰えぬガンプラブームから数年、従来のGPBから進化した【ガンプラバトルネクサスオンライン】通称【GBN】が開始。従来のバトルに加え、バーチャル空間でのイベント、ミッション、様々な要素を備えたそれは瞬く間に世界に浸透していったー
土埃が上がり、それと同時に画面端から逃げ出そうとした敵機をとらえ、トリガーを素早く弾く。とそこへ、右方センサーより反応、グリップを握り、ペダルを踏み込んで回避をしながら目標を捕捉する。
正面にうつる敵機、その砲台が火を噴く前に回避、その側面に砲撃を浴びせ、そしてー
『BATTLE END』
『Congratulations! New Record!』
「…」
「よぉ、ミカ。また新記録更新か?」
レースゲームのようなアーケードゲームの座席に座っている黒髪の小柄な少年、【ミカヅキ】に、褐色の肌に銀髪で大きな一房の前髪の少年…というよりは青年が話しかける。
「うん。今日もオンラインだと人が集まらなかったから、一人でやってた。【オルガ】もやる?」
オルガと呼ばれた前髪の青年は、いや、いい、と断る。
正面の画面には今までのスコアのランキングが表示されている。どれも高得点なのはわかるが、記録の主の名前は全て"MIKAZUKI "であった。
「本当にやる人いなくなっちゃったね、前は色んな名前があったのに」
オルガの隣に立っていた恰幅の良い少年、【ビスケット】が画面を見てつぶやく。
ここは【クリュセ市】、山中の田舎町である。少年達が遊んでいたのは【MWF】と呼ばれる、小型戦車のような機体でバトルをするアーケードゲームであった。
世間がGPB、GBNで湧き立つ頃、田舎のクリュセ市では普及が遅く、MWFが主流であった。GBNが広まるにつれ、MWFのプレイヤーはGBNに流れ、MWFのオンライン対戦ができないほど過疎ってしまっていた。
「しかしまぁ、残念なモンだなァ、MWF高ランカー高校生ミカヅキも今日で引退だとはよ」
声のする方三人が顔を向けると、そこには黒い肌にくたびれた白いシャツ、腹巻姿の男が立っていた。
「おやっさん!」
「【ユキノジョウ】さん、どういうことですか?」
ユキノジョウ、通称おやっさんはミカヅキらが今訪れている、おもちゃ屋や、模型屋やらゲームセンターが、合体したようなこの店の店主である。
「MWFの人気低迷が止められなくってよ、廃盤になるんだそうだ。今日でウチのも打ち止めってこった」
「そんなぁ…」
田舎のクリュセで唯一と言ってもいい娯楽であったMWFの廃止を受け残念がる三人。
「代わりと言ってはなんだがなぁ…」
「代わり?」
「ウチにもGBNを導入することになった」
「GBN?」
初耳といった表情のミカヅキとオルガ。
「何それ」
「ガンプラバトルネクサスオンラインってゲームだよ。ガンプラ…えっと自分で作ったプラモデルを操縦してバトルしたり、バーチャル空間で遊んだり出来るんですよね?」
「ああ。MWFのシステムがそのGBNに吸収されたんだとよ。それでアーケード版は終了ってことだ」
「じゃあ、GBNをやればまたMWFができるんだね」
「そうと決まればやってやろうぜ、ミカ!ビスケット!」
「うん」
「ちょっと待ってよ。おやっさん、そのGBNがここに来るのって…」
「あ?明日だが」
「早くない!?」
「お前達がやるってなら、GBNに必要な【ダイバーギア】を用意してやるよ。GBNにゃあ、必ずガンプラがいる訳じゃねぇが、やるからには何か組んでみたらどうだ?」
「わかった、そうする」
「ありがとな、おやっさん」
礼を言うと、ミカヅキ達は席から立ち上がり、模型の箱が積まれている方へ移動する。
「ねぇオルガ、ガンプラって何?」
「ガンプラ?ガンプラってのは…そりゃあ…」
「ガンダムプラモデル、の略だよ。簡単に言えばロボットのプラモデルだね。例えばこんな感じの…」
ビスケットが積まれた箱から、一つ取り出して二人に見せる。
「何これ」
「なんか…正直ピンとこねぇな…」
ビスケットが見せたのは【ハイ・モック】と書かれたガンプラであった。
ガンプラは色々あるだろ?と思う人へ、ビスケットの選択には理由がある。
ユキノジョウの店はガンプラの品揃えが恐ろしく悪い。 MSにドッキングするような機体や武器セットはあるのに、肝心なMSが殆どない。辛うじて見つかったのがこれである。……作者があまりガンプラを知ってる訳でないのもある。
「まあ、これはGBNより前のシステムで使われていたガンプラなんだ。本当のシリーズはもっと良いガンプラが多いんだけどね…ここには置いてないみたいだ」
「ふーん……あ」
「どうした、ミカ」
ミカヅキが積まれた箱から何かを見つけたようだ。
「俺、これにする」
「おお、いいじゃねぇか。俺もそいつにするぜ」
箱を元の場所に戻したビスケットが目にしたものは
「それは武器セットだよ二人共!!」
ミカヅキとオルガはガンプラの武器セットにある、MWに目を付けていた。
翌日、ユキノジョウの店にミカヅキ、オルガ、ビスケットの三人が集まる。
「あの後準備はできた?」
「うん」
「おう」
ミカヅキは白く塗装をされたMWを、オルガとビスケットは黄色っぽい色の素組みのMWを出す。
ビスケットはMWFがやりたい、という二人の意向を汲んで同じくMWを選んでいたのだ。
「ミカヅキのMWは白いんだね」
「うん、オルガがやってくれた。俺、こういう細かいの苦手だから。」
「はは…」
この三人は小さい頃からお互いを知っている。特にミカヅキとオルガは付き合いがとても長い。小さい頃からオルガとビスケットとは違い、ミカヅキの手先はお世辞にも器用とは言え無かった。
絵を描かせれば、何を描いたのか分からない程壊滅的な絵が誕生し、何かを工作するにしても、見本と悪い意味で乖離した物を完成させる程の腕前であった。
「おぅ、来てたか、おめぇら。準備は出来てるぞ」
店からユキノジョウが現れる。
「ほらよ、こいつがダイバーギアってヤツだ」
「ありがと」
ミカヅキ達は三角形の端末、ダイバーギアを受け取り、代金をユキノジョウに渡して店内へ入る。
昨日までMWFが置いてあった所にー
長テーブルの上に、パソコンのディスプレイ、何かのグリップが2本付いている台座、ヘッドセットが5つずつ、そしてパイプ椅子が5脚並んでいた。
「これが、GBN…?」
「MWFよりショボくない…?」
「おい、おやっさん、こいつは何なんだよ?」
「何って、GBNのシステムに決まってんだろうが。本当はもっと大層な機械なんだが、ウチみてぇなど田舎のちっせぇ店にゃあコイツで限界だ。
見た目はなんだか、騙されたと思ってやってみな」
半信半疑で各々が席に座り、ヘッドセットを付ける。
「ねぇ、次はどうすればいい?」
「そこに台座があんだろ?そのグリップの間にダイバーギア置いてみろ。システムが起動したらGBNのID登録になる筈だ」
ユキノジョウに指示されるまま操作を進めるミカヅキ達。
「ねぇ、オルガ、"次回から自動でログインする"って何?」
「次からGBNをやる時に、このIDとパスワードをわざわざ入力しなくてよくなる。けどこういうのは一々入力しておけるようにしとけ、パスワードとか覚えてられるだろ?」
「そうだね」
「登録が済んだみてぇだな。それじゃあダイバーギアに持ってきたガンプラを置いてみな」
目の前のダイバーギアにMWをセットすると、ギアから青白い光の輪が現れ、MWをスキャンする。
パリッと何かが割れる音と同時に光の輪は消え、MWのカメラがあるであろう場所が光る。
「おお…」
「それじゃ初GBN、行ってきな」
背後のユキノジョウの声はだんだんと聞こえなくなり、目の前には青い光のトンネルが迫ってきていた。
「……!……カ!ミカ!」
自分を呼ぶ声が聞こえて、ミカヅキはハッと我に帰った。
目の前にはオルガとビスケットがいるが、何か違和感を感じた。
「あれ、二人共いつのまに着替えたの」
「着替えたって、これはGBNのアバター、【ダイバー】の姿だからな…ミカもリアルとは違う格好だろ?」
ミカヅキは紺色のタンクトップにカーゴパンツ、ブーツと言った傭兵らしい格好になっていた。
タンクトップと下の格好は同じだが、オルガは赤いシュマグを首元に付け、ビスケットはタンクトップではなく作業着で、頭に帽子、首にタオルを巻いた整備士の様な格好であった。
「なんか、皆同じ感じだね」
「リアルで知ってる奴とやるってなると、あまり姿をいじる気にならねぇしな…」
「始めたばかりだと、あまりダイバーの姿も選べないしね」
「それにしてもすげぇな、ここは。これがGBNの世界か」
今三人がいるのはGBNのメインエントランスである。白を基調とした空間に様々な姿格好のダイバー達が賑やかに会話をしたり、真ん中の受付でミッションを受注したり、広告や上の画面に生中継されているバトルを眺めていたりした。
「…さっきはあんなこと言ったけどよ、結構いいんじゃねぇの、なぁ?」
「うん、そうだね」
あのお粗末な長テーブルとパイプ椅子からは想像ができない世界であった。
しばらく呆気に取られた後、ビスケットが口を開く。
「せっかくGBNに来たんだしさ、何かやろうよ!」
「何か、か…とりあえずあの受付に行ってみるか」
「GBNのご利用は初めてですか?」
受付の美人なお姉さんがにこやかに応対する。
「え、ああ…その…」
「はい、今日初めてGBNに来たんですけど、何か初心者向けのミッションはありませんか?」
「それでしたら、こちらのミッションはいかがでしょう?」
「チュートリアルミッション…?」
「NPGというダイバー未搭乗のガンプラを三体撃破すればクリアのミッションです。初心者用にNPGの強さも調整してありますので、安心してプレイができますよ」
「なるほど、そうと聞けばこいつで決まりだ!行くぞミカ、ビスケット!」
「うん」
「え、あの、僕たちはガンプ…」
「それでは三名様でミッションを受理致します。ミッションはメインメニューを開いて選択した後開始になります。頑張って下さいね!」
ビスケットが何か言い終わる前にミッションの受理は済んでいた。
「おお、こりゃすげぇな!」
「あのMWがこんな大きさになるんだ…」
「MWFじゃできない体験だね」
三人は格納庫に移動し、目の前に鎮座しているMWを見上げた。三者三様に目の前の光景に興奮している。
「よぉしお前ら!GBNでの初めてのミッションだ、気合い入れて行くぞぉッ!」
「(あれ、なんか嫌な予感がする…)」
ふと先程のミッション説明を思い出したビスケットは、人知れず冷や汗をかいていた。
「MWミカヅキ機、出るよ」
「MWオルガ機、前に出る!」
「え〜と…MWビスケット機、行きます」
カタパルトから3機のMWが勢いよく飛び出し、草木の生い茂る大地を駆け抜ける。
「 いいスピード出るじゃねぇか、フヘッ」
「気持ち良い、これ」
MWFをプレイしている身とあって、スピードを落とさずに器用にMWの操縦をこなす。
そこへ、前方に敵機の反応が現れる。
「あれが今回の敵みたいだね…」
前方に飛行しながら近づいてくるMSが3機…
「なぁ」
「オルガどうしたの?」
「なんかあれ、ヤケにデカすぎねぇか…?」
言い終わるが否や、三人の視界は鮮やかな光で覆い尽くされる。
「おう、戻って来たか。どうだ?初GBNは………って、良かったとは言えねぇみてぇだな…」
ユキノジョウが見たのは、なんとも言えない表情でヘッドセットを取る三人であった。
ミッション開始から数秒、ミカヅキ、オルガ、ビスケットのMWは初心者向けに調整されたNPGのビームライフルの前に呆気なく倒されてしまったのである。
マイペースに進めます。
余談
ミカヅキらが使用したGBNの機械は、GBD本編でコーイチさんが自宅で使ってた奴をイメージしてほしいです。
MSにMWで挑んではいけない(戒め)