初GBNから一夜明け、クリュセのとある学校にて。
「なぁ、マジで昨日のアレは何だったんだろうな」
オルガは頬杖をついてぶすくれた様子で昼食をつついていた。正面に座るミカヅキもそれは同じらしく、少々不機嫌そうに好物の乾燥デーツをつまんでいる。
彼らは昨日のGBNでの出来事を引きずっていた。MWに乗って、気分爽快、意気揚々としていた中、呆気なくビームライフルの前に塵と化したのである。
これ以上興醒めなことはない。
「多分だけど、あれはガンプラ向けのミッションだったんじゃないかな?」
そう言ったのは、ミカヅキ達と一緒に弁当を食べていたビスケット。
「あの後GBNのミッションについて調べてみたんだけど、大抵のミッションはガンプラ向けに作られているみたいだね。まぁ、GBNの元になっているのがガンプラバトルだから仕方ないんだけど…」
「つまり俺たちはMWに向いてねぇミッションを選んじまってたってことか……ったく、ガンプラ向けならガンプラ向けと説明して欲しかったぜ」
「…二度とあのビームは見たくないな」
すっかりビーム兵器がトラウマになっていた。
「ま、まぁ、受付の人もMW目当ての人が珍しかったんじゃない?確認不足だった俺たちも俺たちだけどさ」
「ガンプラ向けってことは、ちゃんとMW向けのミッションもあるってことなのか?」
「そうだなぁ、ガンプラ用程じゃないけれどそれなりにあったよ。確か…【火星エリア】に多くあるみたい」
『火星エリア?』
ミカヅキとオルガは眼を丸くして聞き返す。
「火星って、あの火星だよな?」
「そうだよ。GBNはガンダム作品の世界を再現しているVR世界でもあるから、砂漠や南国の島、寒冷地は勿論、その気になれば宇宙空間や人工宇宙都市、月にだって行けるんだ」
「何だと!?」
「それで、GBNに数多くあるエリアのうち火星エリアは他のエリアと違って、ビーム兵器使用禁止の独自のルールがあるんだ。実弾や接近戦がメインのエリアだし、火星は荒野や渓谷だらけだからMWFの世界観にピッタリなんだよね」
「火星エリアか…!」
「俺、行ってみたい。その火星エリアって所」
「だよなぁ!宇宙に火星に荒野とくれば男のロマンがたっぷりじゃねぇか!」
「それで、何かいいミッションってあるの?」
「そうだなぁ…こんなのなんか…」
「よぅお前ら!何話してんの?」
聞こえた声の方を向くと、短髪にピアスの背の高い青年と金髪の目つきの悪い青年の二人組がいた。
「おお、【シノ】に【ユージン】じゃねぇか」
二人はミカヅキ達のクラスメイトである。付き合いはオルガ達程長くは無いが、ミカヅキらとは高校に上がる前から互いに知っていた。
「GBNの話してた所だ」
「GBN?MWFじゃねぇのか?」
この二人もまた、ミカヅキらと同じくMWFのプレイヤーであった。オンライン対戦がままならなくなった頃から、あまりMWFで遊ぶことが少なくなっていた。
「MWFがGBNってゲームに吸収されて、そこで遊べるようになったんだ」
「マジか!いいなぁ〜」
「シノもやる?おやっさんの所でできるよ」
「おうよ!そんな面白そうなことやらねぇ訳いかねぇからなぁ!」
「じゃ、放課後四人でおやっさんのとこ行こう」
「おいコラ、ミカヅキ!俺を抜かしてんじゃねええ!」
シノ達三人はワイワイと騒ぎはじめる。オルガとビスケットはその様子を見てふっと笑った。
「ユージン達がMWを組み立てるとなると、今日のGBNはお預けだな」
「そうだね、どうせなら五人一緒にやりたいし」
「よぉ、おめぇら。今日もGBNをやりに来たのか?」
ミカヅキら五人はユキノジョウの店に来ていた。
「やりたいにはやりたいんだけどな、コイツらもGBNをやりたいって言うから、今日はその準備って所だな」
「よぉ!おやっさん、久しぶり〜!」
「まだしぶとく店やってんのかよ」
オルガの後ろからシノとユージンが顔を出す。
「こりゃまた久しぶりの顔じゃねぇか。ユージン、シノ、おめぇらもGBNやんのか?」
「おうよ!MWFが無くなって退屈してたんだ。面白そうなモンができたらやるだろフツー!」
「んで、GBNってのはどれなんだよ?」
「あれだ」
ユキノジョウは例の長テーブルの方を指す。
『ショボくね!?』
「…俺らと同じ反応だな」
「だね」
ミカヅキ達は二人がユキノジョウから説明を受けている姿を眺めていた。
「今日はどうするの、オルガ」
「今日はGBNにはいかねぇ。シノ達のMWが用意できたら全員で行く。だから明日のために、ミッションを調べたり準備をしたりする」
「そっか」
「まぁ、もしかしたら二人はガンプラを選ぶかもしれねぇけどな」
オルガは笑っているが、その傍らでビスケットはデジャヴを感じていた。
「よし、じゃあ俺らもそのガンプラってヤツを組もうぜ!」
「なぁ、おやっさん」
シノ達が模型の棚に移動したのを見て、オルガはユキノジョウに話しかけた。
「何だァ?」
「この先ガンプラを入荷する予定はあるか?」
「ガンプラ?店に置いてあるだろうが」
「いやあれ以外で」
「GBNがMWF並みに流行りそうなら入荷する予定だ。
…元々ここぁガンプラ専門店じゃねぇんだぞ。すぐにでも欲しいんなら、ネット通販でも使え」
「おやっさん、状況わかってんのか?この店に金を落としてんのはおやっさんか、俺か、どっちだ?
客に向かってネット通販使えって、店の売り上げを落とす気かよ」
「こちとら商売だってんだ。売れると思って大量に入荷したガンプラが全く人気でなかった、なんてこともあんだぜ?まぁ、店に出てんのが気にいらねぇなら、倉庫にある品でも物色しな。昔入荷してそのままになってるガンプラの一つや二つはあんだろ」
「サンキュな、おやっさん。俺はおやっさんの商売に貢献できて嬉しいぜ」
「ったくおめぇはよぉ…」
オルガとユキノジョウは笑い合う。
「ほらよ、倉庫の鍵だ」
オルガは鍵を受け取り、店の奥へ進む。ミカヅキはオルガの後をついて行った。
鍵を開け、薄暗く埃っぽい倉庫に足を踏み入れる。そこらにこれから店に出すもの、型落ちしたもの、いつ仕入れたのか分からないものがうず高く積まれている。
「戦闘機に戦車、バイク…あぁ?扇風機のプラモデル?」
「白無地極小3000ピースパズルだって、オルガ」
「どうなってんだよ、ここの発注はよ…」
少ない足場を探して、慎重に奥へ進む。プラモデルの箱が積まれた中、オルガの目はある一つの箱に留まった。それは箱のインクが色褪せてしまい、何と書いてあるか読むのが難しかったが、オルガは何かに導かれるようにしてその箱を取る。
「オルガ、どうしたの?」
「これ、ガンプラ、だよな…何て書いてあるかわからねぇけど…」
「ガンプラに興味あるの?」
「いや、昨日のミッションをやってから、MWじゃガンプラには対抗出来ねぇって思っただけだ。大きさも、破壊力も、おそらくMWじゃ足りねぇ。
それに、せっかくのGBNだしよ、ガンプラでも何でも、楽しめることは全部やってみてぇ」
「そっか。じゃあオルガについて行けばたくさん楽しいことが出来るね」
「ああ」
オルガはミカヅキの方を振り返り、片目を閉じてニヤリと笑った。
「おぉ、戻って来たか。どうだ、目当てのモンはあったか?」
「ああ。おやっさん、これは多分ガンプラだろ?」
オルガはユキノジョウに、ほとんど色あせて白くなった箱を見せる。
「こりゃいつのモンだぁ…?あぁと、【ガンダムフレームタイプ】…バル?バッ、バロ?」
ユキノジョウは箱の文字を何とか解読しようと箱の正面を睨む。
ミカヅキはオルガの後ろから顔を覗かせ箱を見つめ、そして呟いた。
「【バルバトス】…」
『は?』
「このガンプラの名前だって」
ミカヅキは箱の側面を指差して言った。
たしかに色褪せてはいるが、そこには辛うじて読める程度にガンプラの名称が書いてあった。
「中々いい名前じゃねぇか。おやっさん、こいつを貰うぜ」
「値札はあるんだろうな?」
オルガは代金を支払いにユキノジョウとレジに向かう。
一方、模型の棚にいたビスケット、シノ、ユージンはというと…
「決めたぜ!俺はこいつにする!」
目を輝かせる二人の手にあったのは…
「それ武器セットだから二人共!」
シノとユージンは武器セットのMWを選んでいた。
「とりあえず、今日はここでお開きだな」
「プラモデルとか組むの初めてなんだよな…」
「大丈夫だよ、MWはそんなにパーツが多くないから。でも、GBNに行った時の自分の機体の性能はプラモデルの完成度で決まるんだって」
「ちょっとしたパーツのズレとか、はめ込み具合でポンコツになるってのか…」
「そう言われると上手く作れる自信ねえなぁ…ヤマギに手伝ってもらうとすっか」
「は!?シノてめぇずりぃぞ!こういうのは自分で組むからいいんじゃねぇか!」
「別に、誰かに組んでもらうのだって普通でしょ」
「……あ。…そうか、そうだよな」
「何それ」
「あだだだだ!!おいミカヅキ取れる、取れるって!!」
ユージンの何かを察した憐れむ様な視線が気に入らなかったのか、ミカヅキは不機嫌な顔でユージンの耳を引っ張っていた。
「それじゃあ、俺はここで」
「おう、じゃあな、ビスケット」
「またね」
「さて、と、俺達も寮に帰るか」
割と年季の入ったコンクリートの建物、ここはミカヅキ達の暮らす寮である。
「オルガ」
「このパーツがこれで、これとこれがあーなって…」
「オルガ」
「なんかここ数合わなくないか…?いや、合ってんのか…」
「オルガ」
「おぉ、ミカ。どうかしたのか」
「どうかした、じゃないよ。帰ってからずっとガンプラと睨めっこして。
そろそろ浴場が閉まる時間だよ」
「あ〜…まぁいいだろ、1日くらい」
「アトラが風呂入らないと身体は臭くなるって言ってた。俺、部屋が臭くなるの、嫌だな」
「お前…しょうがねぇな…」
オルガは渋々とガンプラをいじる手を止めて立ち上がり、さっさと支度を済ませて部屋を出た。
ミカヅキとオルガは寮の同じ部屋で暮らしている。この寮は基本二人一部屋だ。そこまで大きい訳ではないので、少年達にとっては窮屈に感じるかもしれない。
誰かの部屋に集まって騒ぐ物音や笑い声が聞こえるし、音程を外した歌声が聞こえることもある。ミカヅキの隣の部屋からは、よく何か重い物を規則的に上げ下げする音や、息切れしながら数を数える声が聞こえる。
これと言った騒音をたてられている訳では無いので、ミカヅキ達は隣人のことは知ろうとは思わなかった、というか興味が無い。そもそも顔合わせた事すら無い。
ミカヅキはオルガが机に置いて行った、まだ完成には程遠いガンプラを眺めた。MWとは比べ物にならないパーツの多さ、組み立ての指示の細かさを知り、自分には到底ガンプラ作りなど出来ないだろうと悟る。
しかし、なぜたろう。
作りかけでも、このガンプラを見ると胸の奥がざわざわする。きっと完成するのが楽しみなのだろう。
「バルバトス、完成したらどんな感じなんだろ」
GBNの格納庫を思い出す。あそこに行った時、このガンプラはどんな大きさになるのか。
ミカヅキはまだ作りかけとも言えない進度のガンプラを見つめる目を細めた。
「おおぉー!!これがGBNってヤツかぁ!」
「なんだこれ、スゲェ!」
GBNのエントランスでシノとユージンの興奮した声が響く。
「だろ?物は試しってよく言ったもんだよなァ」
二人の元へオルガ、ミカヅキ、ビスケットが現れる。
「シノはシノっぽい格好してんね」
「まぁな〜本当はもっといじってみてぇんだけどよ、尻尾とか耳とかおっぱいとかさぁ〜」
「てめーは美少女ダイバーにでもなるつもりかよ!?」
「そういうユージンだって、足の長さ調整したんじゃねぇの?」
「してねぇ!!」
シノはオレンジ色のタンクトップにミカヅキらと同じカーゴパンツにブーツといった姿だ。ユージンは7分丈の黒いシャツに赤ネクタイ、下は同じ格好である。
「それじゃあ、早速MWFやろうぜ!」
「いきなりミッションってよりは、操作方法の確認とかした方がいいんじゃない?シノ達はGBN初めてなんだし」
「そうだな……それなら良いミッションがあるじゃねぇか」
「ん、何だそりゃあ?」
「(あっ、嫌な予感…)」
オルガは悪い笑顔を浮かべていた。
「MWユージン機、出るぜ!」
「シノ、MW流星号、行くぜおらああぁぁ!!」
黄色のMWとピンク色に塗装されたMWが大地を駆ける。
その様子をオルガ達は離れた箇所で眺めていた。
「だああああぁぁああぁ!!??」
程なくして悲鳴と爆煙が遠くに上がる。
その様子を見たオルガ達は笑い転げていた。
「ざっけんなオルガてめぇぇ!!」
「 ハハッ悪かったって。中々良い花火だったんだぜ、動画見るか?」
「いらねぇ!」
オルガはシノ達に、自分達がやったチュートリアルミッションをやらせたのである。当然MWは瞬殺されたのであった。
「まあまあ、とりあえず落ち着いて。次のミッションを探して来たからさ、出発しようよ」
「出発?どこにだよ」
『火星エリアさ』
誤字脱字の報告があれば、お願い致します。
余談
ミカヅキ達は寮制の学校に通っている、という設定。未記載ですが、シノとユージンは同室です。
ビスケットは実家から通っているので、帰り道が違いました。
バルバトスはユキノジョウの店のお蔵入りプラモ。オルガはガンプラ初心者なので完成にはまだまだ時間がかかります。