カーキー色の翼が独特の重低音を響かせ、厚い雲に覆われた灰色の世界を突き進む。開け放たれたドアから高度3000ft(約914m)の冷たい風が容赦なく機内に吹き込み、彼女たちの体感温度を極寒のシベリアと錯覚させるほど冷たくする。ダグラスC-53は西暦2062年の空を飛ぶには余りにも古すぎる機体であるが、1世紀以上も前の機体に頼らざるを得ないG&Kの懐事情を物語っている。
機内には25人あまりの少女がそれぞれの得物を持ち、窓際の固定ベンチに座っていた。ある者は十字架のペンダントを持って祈りを捧げ、ある者は丸い窓から闇夜の世界を見つめていた。
「なあ本体、火をくれよ」
気流とエンジンの振動でガタガタと揺れる機内で葉巻を咥える三つ編みの少女、MG3のダミーが向かいの本体にライターを求める。ポケットからジッポを取り出し、葉巻の先端に火を灯す。立ち昇る紫煙の匂いに隣のG36Cは若干嫌な顔をするが、両方のMG3は気にも留めない様子だ。その様子を見た私は思わず苦笑いしてしまう。
ドン…ドドン…
エンジン音に交じり炸裂音が木霊する。私と副官のG3は窓の外に広がる雲海が怒り狂う積乱雲の如く、所々に閃光を放つ様子に顔を合わせた。そして航法が合っていれば間も無く目標地点の上空だ。副操縦士はスイッチを操作すると、ドアの横に付けられた赤色のランプが点灯した。
「降下用意! 立て!」
ワタシは開け放たれたドアの傍に立ち上がり、エンジン音で満たされた機内で叫ぶ。対面式の固定ベンチに座る少女達はフックを持って一斉に立ち上がった。
「フックをかけろ!」
機内天井に張られた太いワイヤーに少女達はフックをかける。
「装備を確認!」
続いて大声で叫びながら身振り手振りで指示を出し、各々が自身の降下器具や装備を直接触って確認する。フック、ハーネス、ベルト、銃、弾、ヘルメットに不備が無いか確認し、前にいる者の背中の装備を確認した。
「声を出して確認!」
「USPコンパクト、大丈夫です!」
「G36、問題ありません!」
「G36C、装備に不備はありませんわ!」
「MG3装備確認!」
「G3、いつでも行けます!」
「全員装備確認完了!」
コックピット側からUSPコンパクト、G36、G36C、MG3、G3の順に並び、最後に私がドアの傍で自身の装備確認の完了を叫んだ。機体が雲の切れ間から飛び出し姿を見せると、左手からの眩い閃光と共に大きく機体が揺れた。窓から記者会見のフラッシュの如く点滅する光が差し込み、衝撃に押されUSPコンパクトが座っていたベンチに倒れ込む。大きく揺さぶられる機内でむき出しになっている構造材を掴み、なんとか態勢を立て直す維持する。そしてドアから見えたのは、地上から激しく撃ち上がる色とりどりの対空砲火と高射砲砲弾の炸裂であった。
ズドンッ
『あぁクソッ! 他の部隊がやられたぞ!』
機長の悲痛な叫びが無線機越しに木霊する。先行していた他の基地の部隊を乗せた大型ヘリが対空砲の直撃を受けて真っ二つになり、脱出の機会を与えないまま地面へと急降下していく。
「なんてこった! 早く降下しようぜ指揮官!」
「まだだ! 降下ランプが青色じゃない!」
ズガガンッ!
至近距離で高射砲の砲弾が炸裂し、砲弾の破片がアルミニウム合金の機体を貫いて金属とガラス片のシャワーがG36Cのダミーを吹き飛ばす。
「きゃあ!」
「3番ダミーがやられました!」
生体部品と疑似血液が飛び散り機内を赤く染めていく。右へ左へと揺さぶられ、徐々に被害が増加していく部隊。そして隣を飛行する輸送機に砲弾が当たり、エンジンから出火する。出火に気付いた機長が慌てて部隊を降下させようとするが、それより早く魔の手が迫った。熱と衝撃に耐えれなくなったエンジンが遂に爆発し、火焔が生き物のように躍動し機内を飲み込む。片方の推力を失った輸送機は急速に左へ旋回しながら墜落していく。火だるまになった戦術人形が1、2人飛び降りたが、それ以外は機体と運命を共にした。
「2時方向から2番機接近!」
「避けろ!」
2人の操縦士は操縦桿を目一杯引いて燃え盛る2番機を回避する。
『第2小隊の通信途絶!』
「鉄血の抵抗が大きすぎる。早く降下させろ!」
『まだ目標地点まで3分かかる!』
「これ以上高度を下げたらパラシュートが開く前に地面にキスするぞ!」
損害に耐えかねた指揮官が操縦士に降下させろと抗議するが、高度の回復と降下地点に到達していない事を理由に機長は降下を拒否する。その時、近距離で炸裂した砲弾の破片がコックピットを貫き、先ほどまで指揮官と言い争いをしていた機長は物言わぬ屍となり果てた。
『あぁ、クソ! 降下開始だ!』
若い副操縦士がスイッチを切り替え、ドアの傍に付けられた降下ランプが赤から青へと切り替わった。
「行くぞ! 降下降下降下!」
私が号令すると小隊長のG3を先頭に次々とドアから外の世界へと飛び立っていく。最後に私は途中でやられたG36Cのダミーを除いて全員が降下したことを確認すると、曳光弾で彩られた夜空の世界へダイブした。フックに繋がれたパラシュートが開き、衝撃と共に降下速度が遅くなる。エンジン音が遠くなり、代わりに聞こえるのは地上から撃ちあげられる対空砲の音であった。降下中に敵の攻撃が当たらないよう祈りながら左右にある紐で風に流されないように降下地点へと近づく。ドスンと強い衝撃が足に伝わり、雪に埋もれた草原に着地する。風で流されるパラシュートを素早くまとめると、先に降下した小隊員を集合させた。
「全員無事か?」
「全員無事降下できました。それから第2小隊のMP40が1人だけ生き残っているようです。救難信号が検出されました」
小隊長のG3が報告する。MP40は数百メートル離れた地点にいるようだ。MP40を回収して作戦を開始しよう。
「前途多難だな。だが
『
は始まったばかりだ」
移動手段がヘリばっかなので輸送機で空挺降下もいいなって思って。指揮官は元特殊部隊員だった設定が生きた瞬間です。作戦後はジャンピング・コマンダーとか呼ばれたり呼ばれなかったりするかも