「指揮官さん、S08のユノ指揮官から通信です」
「おぉユノからか、最後に会ったのはD08の結婚式以来だな。すぐ出よう」
ある日の昼下がり。午後の業務がひと段落し遅めの昼食を終えた矢先にS08地区のユノ指揮官から通信が来た。あそこの基地とはスチェッキンの移動販売が初めて来た時以来、移動販売を通じて交流している。スチェッキンのお陰でレストアして以降ほとんど倉庫に眠っていたT-34/85中戦車も順調に稼働しており、鉄血と暴徒相手に戦果を挙げている。
さて通信に出るとユノ指揮官……が大人びたような若干低い声が返ってきた。あのユノにお姉さんがいたのかと聞いてしまったが、驚いたことにユノ本人だと言う。しばらく見ない間に成長したのだろうか。通信内容は射撃アシスタントが無くともちゃんと撃てるよう射撃の訓練を受けたいとのこと。幸運なことに明日は特に予定も無かったので快く受けることに。ユノと副官のナガンリボルバー、そして妹の3人が来るそうだ。最後に別れの挨拶をして通信を切った。
射撃訓練として室内訓練場の準備を終えて先方の到着時間になり正面ゲートへ。分厚いゲートが開き懐かしい感じのするミニクーパーがやって来る。ドアが開き現れたのはいつもの副官ナガンと5歳ほど年を取り成長したようなユノと、それによく似たもう一人の少女。やはりユノのお姉さんではなかろうか。
「遠いところからよくお越しくださいました。ユノ指揮官……のお姉さん?」
「お久しぶりですプーシキナさん、え?いや、姉じゃないです、本人ですよ!?」
「【一応】妹のノアだ、よろしく」
人ってこんなに成長するももなのか、それとも知らぬ間に季節が過ぎ去ってしまったのか。「見ない間に成長したね」と会う度に言っていた親戚を思い出すが、今まさに親戚の気分を味わっているぞ。
もう1人のユノのそっくりさんはユノの妹のようだ。名前はノアと言う。一応があまりにも強調されているし姉よりも内面が成長しているのだろう。大方、射撃でユノが姉の威厳を見せれず落胆したからここに来たんだろうなと予想しつつ中に案内する。
「呵々、要件は昨日の通信の通りじゃ、遠慮は要らぬ、時間もたんまりと用意した、徹底的に扱いてやってくれ」
徹底的に扱く。その言葉を聞き軍人としてのスイッチが入る。ユノの方に振り向き思いっきり笑顔を見せて
「覚悟しておけよ」
ユノが絶望しきった顔をしたのは言うまでもない。
3人と向かったのは基地内にある室内訓練場の一つである奥行き50mあるシューティングレンジ。固定されたターゲットだけでなくボタン一つで移動や接近するターゲットへの射撃、命中箇所と所要時間の測定などを自動で記録する機能がある。
「まずは基本の銃の握り方から。今回はH&K社のUSP拳銃を用意した。以前のユノ指揮官なら大きくて握るのに一苦労するだろが、今の状態なら大丈夫だろう」
USP拳銃とマガジンを机に置く。弾は9mmパラベラム弾で軍用拳銃としては平均的な大きさと威力だ。
「まず利き手の指を真っ直ぐにしたまま手をコの字にする。次にグリップを包むように握る。注意点として射撃時以外は常に人差し指を真っ直ぐにしてトリガーから離すんだ。こうすれば不慮の事故を防げる(1,上から見た図2,横から見た図)。なるべくグリップの高い位置で握るのが理想だが、指とスライドが干渉しないよう親指はセーフティレバーの下に添わせるんだ。さあやってみろ」
ユノ指揮官はぎこちなくUSPを握る。うん、言った通りに握ってくれたな。おい! 銃口を人に向けるな! ……はい、よろしい。相手に撃つ時以外は決して銃口を向けてはならない。私との約束だぞ。
「反対側の手はグリップに添えるようにして握る。左手の親指は右手の親指の下に、左手の人差し指から小指は握っている右手の指を包むように(3,左手側から見た両手で握った様子、4,右手側から見た両手で握った様子、5,正面から見た様子)。右手は前に突き出すように、左手は後ろに引くように力をかけると安定させやすい」
ユノが10m先にあるシューティングレンジの的に向けてUSPを握る。呑み込みが早く握る姿は早速一人前だ。だが姿勢は酷くこのまま撃っても反動で姿勢を崩しロクに当たらないだろう。
「次に姿勢だ。足を肩幅に開いて体重を均等にかけ、両腕は体に対して対称形に伸ばす。この時腕は完全にのばさず肘をやや曲げて、そう、そうだ。腕はさっき言ったように右手を突き出すように、左手は引くように力をかけて。よし基本の姿勢と握り方は大丈夫だな」
姿勢だけは一人前(ノア談)になったユノにマガジンを渡す。
「次にマガジンの装填だ。弾が入れば引き金を引くだけで簡単に命を奪うことができるる。細心の注意を払え」
ユノが覚悟したように頷く。
「右手でグリップを保持しマガジンを左手で持つ。マガジン前面に左手人差し指を添えてからグリップにマガジンを押し込む。カチッと音が出るまで押し込んだら左手でスライドのすべり止めになっている部分を持ちスライドを引く。この時に左手を引くんじゃなくてグリップを持つ右手を突き出してスライドを引くんだ。スライドを全部引いたら左手を離し右肩に添える。こうすることで手がリアサイトに引っかかることを防ぐ」
言われたようにユノはマガジンを装填する。ついでにノアにも同様に教えてUSPを持たせ装填させる。
「最後に射撃だ。トリガーは人差し指の腹の真ん中に来るように。標的とリアサイト、フロントサイトが重なるように目線を合わせる。目のピントは標的に合わせるんだ。サイトがぼやけるが標的から目を離さないことが重要だ。そして先ほど言ったように姿勢をとって……撃て!」
PAM!PAM!
2つの銃声がシューティングレンジに響き渡る。ユノのレーンの的は中心から大きく左に、ノアのレーンの的は中心からやや上にズレて着弾していた。ユノは先ほど言ったにもかかわらず指先でトリガーを引いたか、狙いか体が左に向いている。ノアは腕に力を入れすぎで硬直し、反動を逃しきれてなく銃口が上を向いた可能性がある。
以上の点を言ってもう一度射撃。
PAM!PAM!
ノアは中心円の中に入った。筋がいいな。ユノはさっきよりは改善したがまだまだ左に寄っている。基礎は優しく、訓練は厳しく、だんだん厳しく大きな声で叱責しながら撃たせ続ける。具体的な問題点とその改善方法を教え、時にどこがいけないか自分で考えさせ、リロードの仕方とホルスターから引き抜いて射撃姿勢に移る動作などを教え休憩を挟みつつ3時間ほど訓練を行った。
小休憩を取ってからキルハウスに移動し訓練を再開する。キルハウスとは、元々特殊部隊が立て籠もったテロリストを制圧、または人質の救助を行うために大きな倉庫の中をベニヤ板で出来た壁で仕切り建物内部を再現した訓練施設のことだ。廊下と小さな部屋が乱立し、いつ廊下の角やドアから敵が出てくるか分からない中で閉所での戦い方を教えていく。
「腰が引けてる!! リロードはもっと手早く、構えから狙うまでが長い! 悠長に狙ってる場面ばかりだと思うな!!」
怒号と銃声が交互に響くこと2時間、私が見本を見せユノとノアが動き、銃声と怒号と撮影したビデオを見ながらの反省会を繰り返す。G3が遠隔操作でランダムに人型の的を立てたり移動させたりして急に襲ってくるシチュエーションを想定し、ナガンも参加して2対2で、あるいは1対1でどちらが早く目的の部屋に辿り着けるかの競争を行った。
ユノは姉の威厳を見せるため、ノアはこんな姉に負けたくないため2人は切磋琢磨して訓練を行った。日が傾く頃には2人はかなり上達し、100点とはいかないが合格点は出せる程度になった。後は自分の基地に帰って訓練すれば大丈夫だろう。後で教練ビデオも送っておこう。
最後にノアを煽って私とユノ姉妹で勝負した。ルールは簡単、キルハウスで先にペイント弾に当たった方が負けというものだ。結果はもちろん言うまでもない、アシストや飛行といった能力が使えない状況では彼女らはただの人間に過ぎない。自身の能力を過信せず訓練を怠らないようにと締めたところでお別れとなった。
「お世話になりました!」
「次は絶対負かしてやるからな!」
「また何かあったらよろしく頼むのじゃ。それじゃ」
「「「さようなら! また今度!」」」
「さようなら、いつでも来ていいぞ」
アレクサンドラは士官学校の基礎訓練課程+特殊部隊の訓練課程を受けた元空軍特殊部隊で、現地軍への教育も任務にあったりするのでこう言った訓練もお手の物だったりします。
元正規軍だからUMP45と仲の良い某スイートキャンディや義足の某ブリッツオウル等は名前だけは知っていたり