合同訓練は建前でアレクサンドラはある事を伝えに来ました。あと短いです。
合同訓練は苛烈な砲撃から始まった。Jupiter役の砲撃妖精が前衛に集中攻撃すると同時に、Aegis役のショットガンとManticore役のT-34/85中戦車が発煙弾で視界を遮りつつ前進する。
砲撃が後衛に狙いを移すと、ライフルと機関銃は身を隠す事を余儀なくされ、その隙にAegis役の間をすり抜けたRipper役のサブマシンガンが躍り出て前衛にペイント弾の嵐をお見舞いする。
後続のVespid役のアサルトライフルと共に前衛が破られ、そのまま押し込まれると思われた瞬間、砲撃がピタリと止んだ。着弾観測で潜んでいたハンドガンを潰した後に諜報部がハッキングで砲撃妖精を停止させたのが決め手となったのだ。それと同時にライフルと機関銃の阻止射撃によって鉄血側は全滅判定をくらって訓練終了となった。
「今日は良い経験になった、また今度合同訓練をやろう。ところでユノ指揮官、少し副官と話がしたい。借りてもいいかな?」
「話……ですか? おばあちゃんがいいならいいですけど」
「唖々、わかった。ちょっと行ってくるぞ」
ナガンは何かを察したのかわざわざ普段使わない廊下から案内しこの基地の車が置いてある車庫に来た。人払いし後部座席に乗り込む。
「ここなら誰にも盗聴される心配は無い。して話とな?」
「すまない。さて、端的に言うとこの基地、特にユノが正規軍に狙われている」
「ユノが……? 理由ななんじゃ?」
「カーター将軍は知ってるな?」
カーター将軍、旧ロシア連邦の残党を撃破した正規軍の有力な将軍の1人で、正規軍に与える影響力は大きい。カーター将軍とその派閥は旧西側との融和を拒否し、新たな冷戦を起こそうとしている。そして鉄血のエルダーブレインとユノを欲している。
「エルダーブレインじゃと? だがなぜじゃ?」
「理由はわからないが良からぬ事に使われるのは間違いない。そしてユノが妊娠したことを正規軍は掴んでいる」
秘匿していた筈の情報が正規軍に漏れている。驚愕したナガンはユノを守るよう依頼したS03地区の指揮官から情報が漏れたのではないか、そう考えるも否定された。S03から漏れた形跡は無く、恐らくペルシカとの通信が傍受されていたのだろう。軍の諜報は民間の数段上を行くから形跡も残さず傍受するのも造作もない。
逆にこっちからハッキングして情報を得ようとしない方がいいと伝える。セキュリティは世界最高レベルでまず突破できないし、逆探知され軍が攻撃する口実を作ってしまう。
「今は国家保安局と私の空軍のツテで情報を探している。だから何かあるまで普段通り過ごしてほしい」
「わかったのじゃ」
「話が逸れたな。正規軍は自律人形同士の性交による妊娠に衝撃を受けている」
生存域の縮小とELIDの増加に伴う出生率の低下は陸軍の人的資源の欠乏に大きく影響を与えているのは周知の事実だ。新たな冷戦で優位に立ちたい陸軍は人形同士の交配で忠実な兵士を得たいと躍起になっている。もしカーター将軍らが行動に移せばこの基地は危ない。だが正当な理由無しに軍が民間に手出しする事はできない。
「だから警戒すれど正規軍相手に諜報戦を仕掛けてはならない、じゃろ?」
「そうだ、そのことをここの諜報部に釘を刺しておいてくれ。それから……」
「それから?」
「できればユノには伝えないでくれ。軍の事は軍で解決したいからな。グリフィンだけでなく地区に住む人々が人知れず彼女に助けられている。だから、たまには我々大人が彼女を守るのもいいだろう?」
子どもを守るのが大人の役目だ。あの子達は戦場ではなく学校や公園に行かせなくてはならない。それが出来ぬのなら、せめて遠ざけるようにしなければ。
「よし、話は以上だ」
「早く行かねばユノが心配するからの」
「おばあちゃん離れはまだ時間がかかりそうだな。ところで……」
「なんじゃ?」
「次会う時にユノが4人になっていないよな?」
アレクサンドラ「おかしい、会う度にユノが増えてる気がする」