機動戦士ガンダム0087~ウロボロスの軌跡~   作:賢者黒蓮
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プロローグ
1~FLY IN THE SKY~


――UC0085 9/15 現地時間06時25分。

 

――アフリカ地区上空。

 

 地上から僅か300mを翔る三機の機体があった。それは、旧リベリア地区ニューモンロビア近郊にある連邦軍駐屯基地へと向かっていた。

 

 一機は円形状の戦闘機らしき機体。黒く塗装されたその特徴的なフォルムのボディは、日の出よりも僅かに早い朝焼けの青の中、闇に紛れるように鈍く輝き、空を滑るように飛行する。

 

 まるでUFOのような見た目だが、下部から長く伸びたガトリング砲の形だけが地球上の軍事兵器である事を主張していた。

 

 残る二機は輸送機だ。各自見分けが付くようにか、赤と黄色にそれぞれ塗装されている。その不可思議な形状でもっとも目を引くのは機体下部、抱えるように設置された巨大な四角い輸送用コンテナだろう。

 

 CB-X5ガンぺリー。コンテナの左右と前方から伸びるように生えた計三基の回転翼により揚力を得て浮上する。そして、機体上部中央に左右二基づつ取り付けられたジェットエンジンの推進力で移動する垂直離着陸(ヴィトール)機だ。

 

 三機の見据える先、地上に無数の光が飛び交っていた。まだ遠く、そこで動く何かは豆粒ほどにも見えない。だがそんな遠方で、確かに何かが光り輝いていた。そして、あがる黒煙。断続的に爆ぜては消える爆煙。それはまさに――。

 

「……小さな光が付いたり消えたりしてる……彗星かなぁ」

 

 赤いガンペリーのコクピット内、小さな声で男が呟く。若者の声だ。

 

「違うなぁ……彗星ならもっと、バーって動くもんな……」

 

 パイロットスーツのヘルメット。放射線対策か、それとも紫外線か、強い光に対するものかもしれない、青く色を塗られたバイザーに隔てられ顔はよく見えない。だがその内側からかろうじて見える表情は……だらしなく緩み、焦点の定まらない虚ろな瞳で虚空を眺めながら、わずかに開かれた口元からは、惨めにも泡と涎が垂れ流されていた。

 

「……うん、違うよ~アランく~ん。今見えてるそれが、“戦場”だよ~」

 

 隣に随伴する黄色いガンペリー。その積荷内から通信機を通して声がした。

 それは幼い少女を思わせる声。物静かでどこか儚げな、小声でポソポソと喋る特徴的な声だ。

 

 ガンペリーが抱える改良コンテナの中。仰向けに寝そべるような形で運ばれる超重武装の人型戦闘兵器。モビルスーツ。そのコクピット内。

 まるで小学生と見紛うほどの小柄で華奢なシルエットがあった。パイロットスーツ姿の少女だ。

 ヘルメットのバイザーに隠され顔はやはりよく見えない。少女は冷静にコクピット内の最終チェックを行っていた。

 

「あ……」

 

 その黄色いガンペリーのパイロットが小さく声を漏らす。

 

 徐々に近づきつつある戦場。やっと豆粒サイズでかろうじて人型に見える何か。恐らく連邦側であろう白いその機体が一機、轟音と共に爆ぜて散った。

 あがる黒煙の中、素早くスライドして動く黒い重厚なシルエット。ジオン残党のモビルスーツ、MS09ドムである。

 連邦のジムⅡが一機、ドムの主武装であるジャイアントバズの餌食になったのだ。

 

「動きが悪かったな。新米か?」

 

 ガンペリーに随伴していた円形戦闘機、そのコクピットから通信機を通し、ワイルドな渋みを帯びた中年男性の声がした。

 一方、黄色いガンペリーから届けられる音は、まだあどけない、少女と呼べるほどに若く幼い声だ。

 

「えぇっと……あのジム、ですか? なんか、爆発……した、みたいなん……ですけど?」

 

 そのコクピットにあったのは、小柄で華奢なスタイルの良い丸みを帯びたシルエット。

 怯えて泣きそうなほどに震える少女から発せられた声は、アイドルや歌手、旧世紀におけるアニメ全盛の極東アジアの島国であれば、声優(ボイスアクター)にでもなれそうなくらいに透き通った美しい声だった。

 

「救難シグナル出てる~?」

 

 それに応えるように、戦場にはまるでそぐわない陽気な少女の声が響き渡る。

 アランの操縦する赤いガンペリー、そのコンテナ内にある格納された二機のモビルスーツの内一機。コクピット内からだ。

 

「ない……みたいです」

「脱出の信号は~?」

「ありません……」

「あっちゃ~」

 

 自身のヘルメットを片手でペチンと叩きつつ、軽く舌を出しながら少女は笑う。

 

「そっか~、脱出できなかったか~。残念無念~」

 

 不自然なほどに、まるで悲壮感を感じさせないその声に、恐る恐るだがガンペリーの少女が問う。

 

「えっと、それってやっぱり……」

「うん? 死んじゃったんじゃない?」

 

 あっけらかんと少女はそれを口にした。

 

「ひぎぃぃぃ!」

 

 目の前に突きつけられた死と言う現実に、ガンペリーのコクピット内で悲鳴を上げる少女。

 

「落ち着きなってエリっち。当たらなければ死にはしないから~」

「だ、だって、あた、当たったら……どうなるんでしょぅ……」

「……それはね、お空のお星様になるんだよ」

 

 無慈悲にクールに、アラン機に格納されたモビルスーツ内の少女が答える。

 

「いやぁぁぁ、お家帰してぇぇぇ」

「やれやれ、現地調達の新米とはいえ、軍とは思えんね」

 

 この部隊のリーダーであろう、円形戦闘機内で中年男性がぼやいた。

 

 そうこうしている内にも戦場は近づいていき――。

 

 白と黒の機体によるバズーカ砲の応酬。緑の機体が投げる小型爆弾が爆ぜ、白い機体は懸命に光線を撃って応戦する。

 先ほどまでは豆粒程度にすら見えなかったその姿が、形が、徐々に鮮明になってくる。今では親指の第一関節ほどのサイズにまで見える距離だ。

 そして、一機の白い機体が放った光の線が緑の機体胴部を貫き――次の瞬間、緑の機体が爆散して果てた。

 

「うひ、うへへっ……僕はねぇ~……」

 

 その光景を見て、死への恐怖によるものか両目から大量の涙を流し首を斜めに傾けた姿勢で脱力しながら、アランは引きつるような笑みを浮かべて現実から意識を乖離させる。

 

「おーいアランっち~。そろそろ目ぇ覚ませ~」

「……気絶し(ね)たら死ぬぞ~」

 

 少女達からの激励が飛んだ次の瞬間。飛翔する二機のガンペリーのちょうど間、虚空を切り裂く様に地上から120mm弾の群れが貫いた。

 

「ひぃぃ! こっち撃ってきましたよぉぉ」

 

 モビルスーツのスラスター出力による限界降下高度のせいとはいえ、やむなく慣行された低空飛行。当然、敵からも視認されやすく、見つかれば脅威として迎撃行動に出られる。当然の結果と言えた。

 

「大丈夫大丈夫~」

「……あの距離なら、そうそう当たるもんじゃない」

「も、もし当たったら?」

「当たり所しだいかなぁ~」

「こ、コクピットとか、当たっちゃったりしたら……?」

「その時はむしろラッキーだね~」

「……痛みとか感じる前に死ねるらしいよ」

 

 相変わらず冷淡なパイロット二人だった。

 

「いいいいやぁぁぁぁぁ」

「……エリっち、もし死んじゃっても、エリックやリチャードみたく、基地の裏庭に埋めてあげるからね」

「うん、エリち~は良い子だったからね。特別にダッツの棒を刺してあげる。二階級特進だよ~」

「……わぉ、ゴージャ~ス」

「あれ? でもダッツにアイスの棒ってあったっけ?」

「……スプーンがある」

「それだ~!」

「ざ、ザリガニ扱いは御免ですぅぅ~!」

 

 片やダウナー気味に。片や陽気でお気楽元気に。二人のモビルスーツパイロットがはしゃいでいた。

 

「嫌ならがんばれ~」

「……生~きろ~」

 

 それは、生死をかけた戦場とは不釣合いな、そして――。

 

――そんな戦場に駆り出された幼い少女とは思えない程に、どこか底冷えするような、不自然で異質な冷淡さだった。

 

「いやぁぁぁ、おかあさぁぁぁん!」

「ここから出してくださいよ~……出られないかなぁ……」

「うっかり気絶してつっこまないでね~」

「……ところでさ、一年戦争時にドムのスレッジハンマーでコクピットごと叩き割られて死んだ輸送機パイロットがいたらしいよ」

「ひ、ひぇぇぇ……と、ところで、スレッジハンマーってどんな武器なんです?」

「……素手」

「マニピュレーター!? 輸送機脆すぎぃぃ!」

「……まぁ、がんばって生きろって事」

「うぇへへへぇぁ~……もう死んでますけどねぇ~……」

「あ~、二人とも戸籍上はそうらしいね~」

「……ま、がんばれ」

 

 ちなみに、なぜ戦場に出たことも無いこんな新兵二人がガンペリーなどという撃墜されやすい機体で出撃させられているのか、そもそもなんでこんな部隊に所属させられているのか。それにはきちんと訳がある。

 

 ……のだが、今はまだ語るまい。

 

「目標戦域到着だ。お前ら、荷物降ろしてさっさと帰れ。投下開始!」

「……アランち~にエリっち、押すボタンわかるかい?」

「あわわ、えっとぉ」

「うへへへ!! ポチっとな!! しぇしぇしぇしぇ~!!」

 

 まずはアランの機体。半ばヤケクソ気味に押されたスイッチに反応し、赤いガンペリーの下部コンテナユニットが左右に開かれる。

 二機のモビルスーツが投下された。

 

「ひゃっほー」

「……ユマ・シラサワ。出ます」

 

 アラン機に格納された二機めから、初めて声が響く。大人びたクールで知的な、静かな女性の力強い声だ。

 相変わらずパイロットスーツのバイザーにより隠れて見えないが、コクピット内にあったのはスタイルの良い、大人としては比較的やや小柄なシルエットだった。

 コクピット内のレバーを力強く握りしめ、女性パイロットはペダルを大きく踏みしめる。

 バイザー内からかすかに覗くその口元に不敵な笑みが浮かぶ。

 それに反応するかのように、重武装なモビルスーツが中空で体を反転させ、激しくバーニアの噴射炎を吹かせながら一直線に戦場へと向かう。

 

「ひぃやっはぁぁぁぁ!! ユ・ニ・ヴァー・ス!!」

 

 直前とは打って変わったような奇声を発しながら、ユマ・シラサワ機はあっという間に飛び去って行った。

 

「相変わらずだね~」

「……棒を握ると性格変わる」

「いやん、エロエロしぃ~」

 

 続いて、スラスターから勢い良く青い噴射炎を吐き出しつつ、軽装のモビルスーツが宙を舞う。

 

「あ、忘れてた~、てへペロ。メアリー・スー。行っきま~す」

 

 メアリー機の機影も、あっという間に小さくなっていく。

 

「……あの~ジニー・メイ。早く出たいんだけど。まだ~?」

 

 未だに開かない格納ユニットにやきもきしながら超重武装モビルスーツパイロットの少女が不満の声をあげる。

 

「あわ、あわわ。こ、これですかぁ?」

 

 やっとスイッチを見つけたのか、赤いガンペリーも格納ユニットを開いて投下体勢に入る。

 

「……んだば、行って来るね~」

 

 スラスターの出力不足を警戒して付けられたパラシュートを開きながら、超重武装のモビルスーツが落下する。

 

「ご苦労、輸送隊緊急離脱。戦闘区域から全力で離脱しろ~」

「は、ひゃい!」

「……体が重い……こんな気持ちで飛ぶなんて初めてぇ……もう何もかもが怖ぁい! おがぁぢゃぁぁぁん!!」

 

 一人は恐怖に怯えながら、一人は発狂しかけながら、二人の操縦する二機のガンペリーは緩やかにUターンして戦域を離脱して行った。

そして投下されたモビルスーツ達の内二機。近距離と中間距離で戦闘を行う予定のメアリー機とユマ機をフォローすべく、円形の航空機はブースターを吹かせながら前線へと向かう。

 

「しかし、初陣かぁ」

 

 射程圏外から放たれる牽制の弾丸を踊るように回避しつつ、リーダーらしき中年の男がしみじみと口にした。

 

「……うん、ういういしいね」

「ありゃ、漏らしたな。賭けても良い」

「賭けにならないって~」

「……まぁ、初陣は誰だって漏らすよね」

「うんうん、初めてなら仕方ないよ~」

「願わくば、漏らしてでも生還して欲しいもんだ」

 

 遠く離れていくガンペリー二機を眺めつつ、前線部隊の三機は各自得意な戦闘フィールドへ向けて散開した。

 


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