「も~、何ぃ? あの言い草~。私たちは助けに来てあげたんだよ~? プンプン」
シャワールームにあったのは、メアリー、ジニー、ユマ・シラサワの三名の姿。
「しっつれいしちゃうよね~! 私たちだって危険な中、がんばったってのにさ~」
苛立ちながら、バシャバシャと水を体に当て汗を流すメアリー。
その華奢な肩も、くびれたウエストも、丸みを帯びたヒップも、水に塗れて艶かしい色気を発している。
まだあどけない子供のようにも見えるシルエットも、少女を過ぎて大人になりはじめているような、ほのかな色気を感じさせるスタイルだ。
何より、豊満に実った果実のような巨大な二つのバストは、彼女が女性である事を象徴し、その手を動かすたびに大きく揺れて弾むのだった。
「……でも、しょうがないよ」
憤るメアリーを、ジニーが静かに諭す。
バシャバシャと豪快に水を浴びて体を洗うメアリーとは対照的に、ジニーは静かに体を洗う。
わずかにくびれたウエスト、小さいながらも滑らかな曲線美を描くシルエットのお尻、平坦な中にもわずかに張り出した小さなふくらみと、その先端にある桜色の突起は見紛うはずも無く、柔らかで女性的な魅力を帯びていた。
「……たぶん、二人は恋人とかだったんだよ」
「うぇぇ!? あの二人がぁ!?」
「……いや、たぶん違う。その想像はきっと違う」
「ふぇ? あの赤髪の人と、黒人の男の人、でしょ?」
ジニーの言葉に対し、やや喰い気味に、興奮した面持ちで問うメアリー。
「……どうしてそうなる」
「いや、普通そうなるでしょっ」
「死んじゃったミリィって人と、ヘンリーさんだね」
「……そう」
なぜか同性愛説をかたくなに主張するメアリーの思考を、ユマ・シラサワがかろうじて修正する。
平均よりやや下回るがツンと張り出した柔らかな膨らみ、しっかりとくびれたウエスト、柔らかく張り出したヒップ。
シックスパックに割れた腹筋と、鍛えこまれた体中の筋肉、特に、女性にしてはガッチリとし過ぎた肩が玉に瑕ではあるが、健康的な美しい美として見れば、一つの芸術とも言える美しい体つきである。
「ふ~ん、だったらなんだって言うのさ~。恋人だとそんな悲しいものなの~?」
シャワーの水を、口に溢れさせ、うがいをしながら返答を待つメアリー。
「……そればっかりは、よほど特別な大切な人とかが出来ない限り理解するのは難しいかもね」
「メアリーは、そうね。家族がいないものね」
「まぁ、施設に来る前の記憶がないからさ~、そういうのはよくわからないけど、みんなの事は大切だよ?」
「……じゃあ、その私達がもし敵に落とされたら、って考えてみて」
「う~……それは、何かやだ」
「……でしょ? 大切な人を失うのはさ、やっぱ誰だって嫌なんだよ」
「う~……だからって暴力はよくないっ」
「……軍人の悪い癖だね。叩けば治ると思ってる。私たちを古びた家電製品か何かと勘違いしてるんだよ」
「もうね。本当、それだよねっ」
シャワーをひねる音共に、仕切りの開く音が鳴る。
「私はもうあがるから、二人はゆっくりしてきて」
「は~い」
ユマ・シラサワがシャワーを終え、二人きりとなる。
「何となく、想像はできたけどさ」
「……うん」
「私たちってさ。もしかして、おかしいのかな?」
「……そうかもしれない」
頭からシャワーを浴び、髪を洗いながら、ジニーは静かに口を開く。
「……私は薬で心が抑えられてる。だから恐怖も悲しみも余り感じない……メアリーの場合は、ハイな方向で、けどたぶん、同じ感じだよね」
「うん!」
「……たぶんなんだけどね。普通の人はきっと、死ぬのが怖いんだよ」
「そうなの?」
「……そう、幸せな人達はきっとね。戦うのが怖いものなんだよ」
「ふ~ん」
バシャバシャと陰部にシャワーを当て、泡に直接水を当てて体を洗うメアリー。
一方、体にシャワーをあてがいながら、手で洗い落とすように水を流すジニー。
しばし、無言の時間が二人の間に流れる。
「……それにしてもさ、さっきの。何で避けなかったの?」
「あ~、あれ? う~ん何ていうかさ、不意を突かれたっていうか……殺意も敵意も無かったんだよね……それで攻撃として反応できなかった」
「……そっか」
二人はゆったりと体を洗った後に、シャワールームを後にするのだった。
その頃、大き目のTシャツにズボン姿で廊下を歩む姿があった。
シャワーを浴びたばかりのユマ・シラサワである。
火照った体を覚ましつつ、休憩室へと向かう。
彼女は一人、その事実に心を痛め、恐怖していた。
――戦場で、また一人、命が散ったのだ。
それは私だったかもしれないし。
次こそは、私なのかもしれない――と。
震えてくる体を抑えるように、両肩を抱きしめるようにして震える。
扉が開くと、そこにあるのは平和な日常。
休憩室でコーヒーを飲み語らう制服姿の二人。
目元を覆い隠すまでに長く伸ばした長い前髪に、肩まで伸びた茶髪の女性。
眉毛を隠す程度まで伸ばした前髪に、襟足やや長めの黒髪の男性。
先ほどの作戦でガンペリーを操縦してくれた、同じチームのエリカ・ムスターマン伍長とアラン・スミシー伍長である。
「アラン、それにエリカ」
「あ、ユマ曹長」
「ユマさん、お疲れ様ッス」
敬礼で挨拶する二人に、同じように敬礼で返すユマ。
「貴方達もシャワー、浴びてきたらいいのに」
「いえ、私たちはその、お先に……母艦で浴びさせてもらいましたから」
その言葉に、二人の状況を察するユマ。
「初陣、大変だったでしょ」
「は……はい」
「……うぅ……」
二人の表情に、彼らがなぜシャワーを浴びてこなければならなかったのを理解する。
「怖かったよね。戦場」
「うぅ、ユマさん」
「曹長……!」
その言葉に、先ほどの恐怖を思い出したのか、震える二人。
「……私だって、怖かったもの」
戦場を思い出し。震えるユマ。
「そんな、ユマ曹長ほどなら、もう楽勝って感じだったじゃないですか」
「そうそう、何か叫んでたし」
「……違うよ」
二人の言葉を遮り、否定する。
「怖いから、ああいった違う自分を演じるんだよ」
その身を抱くように両腕を抱き、ユマは続ける。
「怖いから強気の自分を装うんだよ。私はそんなに強くない」
そして、震え始める。
「私はあの二人みたいに強くは無いよ……戦場はいつだって怖い。けどね。だからこそ、私は戦を楽しむ戦闘狂なんだ……って。暗示をかけてるだけなんだよ」
「じゃあ、どうしてパイロットなんか……」
「なんでだろうね……帰還後は震えてる事も多いのに」
しばし言葉を選んだ後に語りだす。
「怖いならメカニックに戻ればいいのにさ……それでもやるのはたぶん……私の腕があれば戦艦や地上よりも安全って、信じちゃってるからなのかもね。理不尽に何もせず、巻き添えで艦ごとやられるくらいなら……って。あと、やっぱり後はモビルスーツが好き、だからなのかもね」
自販機で紅茶を手にし、二人のいるテーブルに座るユマ。
「今回の作戦、ごめんね。いきなり巻き込んじゃって」
「いえ、艦長命令でしたし」
「それでも、艦長に代わって謝るよ」
先ほどの戦闘は唐突なものだった。
本来ならば補給物資の輸送隊に過ぎない彼ら。
母艦であるへビィ・フォーク級陸上戦艦ルティーヤは、あの時、次なる基地への補給を載せて進んでいる最中に突如の救難信号を受けたのだ。
それは、近隣のジオン残党を探索するべく作られた駐屯地からだった。
そこに明け方、夜襲がかけられたのだと言う。
敵の機影を発見、囲まれてる。との暗号通信だった。
補給も少なく、隊の戦力も足りない様子。
場所は残党襲撃の噂が多数ある地域。
捜索隊が偶然機影を見つけるも何度も、撤退された、という報告がなされた地域だ。
恐らく、分散していた小隊が集まりつつある地区だったのだろう。
最悪、ここに駐屯地が作られる事さえ敵の想定内だったのかもしれない。
なぜなら、敵の狙いは、こちらの物資の強奪なのだから。
物資を強奪し、海へと逃げる狡猾なジオン残党の部隊。
嫌な予感だけがした。
盛り上がった山場により、足場が悪くて母艦の動きじゃ到底間に合わない。
そこへ、最善の案として、新兵を利用したガンペリーでの輸送、出撃が提案されたのだ。
「無茶な命令に付き合ってくれてありがとう。おかげで、何人もの命が救えたんだよ」
「いえ、そんな……」
「……どうせ俺らには、ここで生きる以外に道はもう無いんだし」
二人は半ば諦めの表情で虚空を見つめるのだった。
そして、同時刻――。
湯上りで、タンクトップにショートパンツという出で立ちで、廊下を歩むメアリーとジニーの姿があった。
そこへ偶然通りがかったのは――。
オールバックの黒髪がトレードマークのアレクセイ・ドレクサス中尉だった。
「さっきは悪かったな」
にこやかに、大人の対応として握手を求めるアレクセイだったが。
メアリーは無言で足を蹴り上げた。
「んごっ!?」
その足は、アレクセイの股座の中央にある急所へと見事に叩きつけられる。
「さっきのお返し。これでチャラね」
ドヤ顔で返すメアリー。
「お前なぁ……っ」
かよわい女子の蹴りとは言え、男子の急所に叩き込まれてはたまらない。
股間を押さえながらすごむアレクセイ。
それに対し――。
「あと、貴方間違ってるから」
「あ?」
アレクセイはその言葉に疑問浮かべるしかない。
「私は確かに兵士だけど軍人じゃないから」
「……どういう事だ」
痛みも引いて、冷静に尋ねるアレクセイ。
「簡単な事だよ……。私たちはね。備品なの」
「備品?」
「そう、だから私たちを壊したら、怒られるのは貴方達だからね」
「それはどういう……」
「……まぁ、そういう事。ユマちーはともかくとして、私たちはモビルスーツの付属品なんだよ」
アレクセイはその言葉に、先ほどの強化の噂と相まって、口を閉ざす事しかできない。
「……そんなのって」
「……ま、それ以上は知らないほうが良いよ。それじゃ」
メアリーとジニーは、ペコリとお辞儀して去っていくのだった。
――それと、時を同じくして。
ゆるやかに連邦軍キャリフォルニアベースの基地に降り立つ艦の姿があった。
艦から降り立つ無数の軍人の中に、その姿はあった。
アジア系宇宙移民独特の肌の色。黒い髪。
長い前髪に隠されてはいるが、額には傷がある。
それは顔にも――額に傷のある、鋭い目つきの男だった。
高い身長に筋肉質の体を持つ美丈夫。
どこか影を背負った憂いを帯びた瞳で、男は周囲を見渡すと呟いた。
「地球か……相変わらず、生臭いな」
そして、階段のステップを進む。
リュー・フェイウォン大尉。
彼こそが、この物語の主人公。
これは、全てをなくした男が再び大切な者を手に入れて――。
――また……失うまでの物語である。