『サ ボ っ て ま し た !』
まさかコロナ禍で逆にクソ忙がしくなるなんてもう予想外です。それ抜きだとしても1年半の休稿すみませんでした!m(_ _;)m
《ポカポク 温泉街 泉湯郷》
(ワイワイ…ガヤガヤ…)
大女将の宴の合図と共に泉湯郷は大宴会場と化した。踊り子達が行脚祈願の踊りを舞い、村を救った英雄の姿を見ようと集まった村民達にも酒やご馳走が振る舞われ、いつしか飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。
「ふぅ…飲め飲めって言われてもこっちは明日も早いってのに、やれやれ…」
「召喚士様方、お楽しみ頂けてますかな?」
「ええ、とても。…って言うよりびっくりさせられた感じですね、えーと…確かブロキスさんでしたっけ、どうしました?」
「はい、実は大女将がお呼びでして、お二方共少しこの場を外して頂いてもよろしいですか?」
「俺たちに?…はい今行きます。」
「宴の最中にどうもぉ~、詳しくは奥でお話ししますんで付いてきてくれますかぁ?」
「ブロキス、あんたも立ち会ってくれんかねぇ、大事な話しだぁ。」
「こちらへどうぞぉ~。」
「ここは…?」
大女将に案内され旅館の奥、古びた戸の前にたどり着いた。戸の上には客室と同様に部屋の名が記されているのだが…
「えーと…何て書いてあるんですコレ?」
そこにはローマ字に似てるようで少し違う…どこかで見覚えのある文字が記されていた。
「古文字だ…」
「え?今なんて?」
「『古文字』よ、大昔の魔術書なんかに使われてる文字で…ってあんたには分かんないよね。」
「全然な、で、これ何て書いてあるんだ?」
「えーとっ…『ルラネミス オノ サロナ』?」
「ちょっと待って…ルラネミスって!?」
「ええ、地の大賢者ルラネミス様の事であります…」
「この部屋は暦すら無い遥か昔、戦を治められた地の大賢者様がこの地の湯で疲れを癒した時にお使いしたお部屋…『地の賢人の間』ですぅ。」
「さぁ…皆様中へぇ…」
「お、お邪魔します…」
「母さんまさか…」
床板から柱、何もかもが古びた、決して広くはない一室に4人は上がり込む。部屋には地の大賢者を象ったであろう木像が置かれ、火の揺めきとお香にも似た蝋燭の香りに包まれていた。
「宴の最中お呼び出し申し訳ありませんでしたぁ。」
「皆さんにはぁ村を救って頂いたお礼お渡ししようと思いましてぇ…」
「そんな、あのご馳走でお礼はもう充分ですよ。」
「そう仰るかと思いましたぁ。けれどもぉ…」
「“これ”はあなた方様のような勇敢な方が手にしてこそ世の為、人の為になるかと…」
そう言いながら大女将は木像の首元から何かを取りゆっくり二人の元へ運んで来た。
「まずはぁご覧ください。」
「これは…?」
大女将の手にあったのは小指程度の長さの小さな結晶を飾ったペンダントだった。それは黄金色の光を仄かに放ち、薄暗い部屋の中央に居た四人の顔を優しく照らし出した。
「このソウルの煌めき…それに収穫期のユーイエの様な黄金色…もしかしてこれって!?」
「ええ、『地の大霊石』の欠片になります…」
「大賢者様が神霊樹を創るため、大霊石に鏡面を削った時に出た欠片だと伝わってますぅ。」
「地の…大霊石…」
「ちょっと待ってくれ母さ…いや村長!」
「これは我が家が代々村長の証として受け継いで来た物でしょう、何故それを!?」
「ブロキス、此度の事で分かっただろう…」
「これは私らが持ってるだけでは所詮『村長の証』程度さぁ。そうだろぅ?」
「ぅ………む。」
「そういう事じゃ、我々で代々継いでいても何の役にも立てられはせん、腕の立つ召喚士が手にしてこそなんだよぅ…」
「召喚士様方ぁ…」
「は、ハイ!」
「はい!」
「あなた方はきっとこの国を…この世界を平和にしてくれると信じこれを託します。お受け取りください。」
断れるような状況ではなかった。ブロキスさんは大女将の気迫に負け後ろに下がり、今度はその気迫が決意の表情を込めて二人にぶつけられていたのだから…。
「ユースケ、あんたが受け取りなさい。」
「え?」
「村を守ったのも、私の霊珠を取り返したのも、全部あんただったでしょ?」
「ほら、はやく。」
「あぁ…えっと…」
「では村長様、この大霊石に恥じぬよう、人の役に立つよう努めます。」
こうして、地の大霊石の欠片を受け取った。その結晶はユースケの胸元で優しく輝き、そしてカードケースの中の1枚が同調するかのように人知れず輝きだすのであった…。
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《翌朝》
湯煙立ち上る温泉街を抜け、朝霧立ち込める旧街道の峠道を進む…
「ユースケ、こっち!」
「了解。」
旧街道を反れ、山頂へと続く雲で満ちた登山道へと手綱をきる。白く霞んだ静寂の中、足元には小さな高山植物が花を咲かせ、岩だらけの登山道を艶やかな黄色で縁取っている。
「すごい霧…ユースケ、はぐれないように付いてきて!」
「大丈夫このくらいなら、アミアも先導よろしく。」
二頭のスケが登山道を駆け抜け霧中へと姿を消す。その後ろを…
(バサバサバサッ…)
首に玉石を着けたコウモリもまた二人を追い霧中へと姿を消すのだった。
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≪埼玉県 熊谷市 熊谷警察署≫
取調室の一室、青年が一人席に着き、人を待ちつつ壁にかかった時計に目をやっていた…
「お待たせしました、警視庁特令係の松上です。」
「同じく、兎谷です。」
「初めまして、諏訪部です。」
「急なお呼びだしをしてすみません、菊地さんの件で些かお聞きしたい事がありまして。」
「いえいえ、お構い無く、刑事さんの方からこっちまで来てくれると助かります、前の時は東京まで行ったり来たりでしたから…。」
「ユースケについて、何か分かったんですか?」
「ええ、ただ今日は以前貴方から頂いた証言に少し気になる点がありまして…彼が失踪する直前についてまたいくつかお聞きしてもよろしいですか?」
「…はい。」
兎谷がタブレットを取りだし、防犯カメラの撮った映像が再生される…
程なくしてレジ前に諏訪部が現れ会計を済ませそして…
「ここです。」
松上の合図で映像が止められた。そして店の自動ドアの外に立つ諏訪部に指を向け…
「買ったばかりの商品を手から落としてます。そしてこのすぐあと貴方は彼の居た方へ走り出すのですが…」
「証言では“店を出て彼の元へ戻ると彼の姿は無かった”となってます。ですが、友人の姿が無かっただけでこうもなるかと思いましてねぇ…」
「この時の状況を詳しく教えて頂けませんか?」
「この時…ですか…」
「……………」
「……………」
部屋の中にしばしの沈黙が流れる。
諏訪部は困惑した表情で俯き、松上と兎谷はそんな彼の姿を見つめる…。
松上は動画を巻き戻し最初から再生し出した。
「今度は外を歩いてる人を見ていてください。この事件に貴方を除いた目撃者が居ない理由が分かります。」
「目撃者が居ない理由…?」
1分1秒と動画が進む…松上が指した店の外には夕暮れ間近の通行人の流れが絶えない様子であった。
「…えっ!?」
諏訪部は驚いた…通行人の足取りがピタリと止まったのである。いや止まったのは足取りだけではない、姿勢も手つきも…全てが停止していたのだ。
「5時47分…」
「この時、外では監視カメラに異常を来す程の強烈な磁気嵐が起きていたそうです。」
「そして人もまた、得体の知れない“何か”にまるで時間を止められたように、行動と意識を静止され…そんな中で彼、菊地さんは失踪したんです…」
「………」
「諏訪部さん、これはもはや常識外れの怪事件です。どんな証言であろうと信じます。貴方が何を見たのかが頼りです。」
「分かりました、全て話しましょう。」
「一枚のカード、それと黒い煙…」
「はい、ユースケは“このカード”から出てきた煙に呑まれて…」
「諏訪部さんご自身には何とも?」
「ええ、僕が拾った時、ユースケが消える前に見た時とイラストが変わっていました。多分これはもう抜け殻なんだと思います。」
「そのカードですが、この男性と何か関係は無いでしょうか?」
松上は長身長髪の白人風の男を写した一枚の写真を取り出した。
「この人です…ユースケはこの人から受け取ったと言ってました。」
(コクリ)(コクリ)
合点が付いた瞬間だった…松上と兎谷は互いに目をやり小さく頷いた。
「私たちはとある少女を探してます。この男性について教えて頂けますか?」
「………はい!」
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《地の国 アタゴン山嶺 登山道》
雲の中、白く暗く塗り潰された世界を登山道の痕跡を頼りに駆け登る…。
「うぅ…寒ぃ…」
「大丈夫ユースケ?もうちょっとで雲を抜けるから。」
アミアがそう言って間もなくして頬を撫でる風が次第に速くなり、景色も徐々に明るくなってきた。そして…
「おおぉ!」
雲を抜け、快晴の山頂が二人の前に姿を現した。足元の高山植物はいつの間にか黄色から青い花に代わり、山頂まで続く稜線の登山道を清楚に彩っていた。
「登山の名所だっただけあって綺麗な景色ね。」
「だな、ついでに近道だなんて女将さんには感謝だ。」
雲海を突き抜け青空にまで刺さるような山嶺を仰ぎ見る。するとその先に…
「飛行機雲…?なワケないよな、何だあれ?」
山嶺の遥か上、青空を横切るように黄色い光線が走っていた。
「地の大霊石から放たれてるソウルの光よ。あの光で神霊樹を育ててるの。」
「ほんと…こっち幻想的な世界だよなぁ。ビルや機械だらけの向こうとは大違いだ。けど…」
彼方の雲の合間、無数の白点…いや鳥の編隊が山脈を抜ける風に乗り飛んでいた。
「渡り鳥は向こうもこっち同じみたいだな、綺麗なV字飛行だ。」
「ぶい…じ…?」
「あぁ、あの尖った形で並ぶ飛び方だよ。ああすると仲間の羽ばたきのお陰で風の抵抗が減らせるんだ。こっちでは何て呼んでるんだ?」
「飛び方にまで名前は無いかなぁ…」
「けど、あの鳥は『ピース』って言って、6つの国を隔たり無く渡る『平和の象徴の鳥』なの。」
「へぇ~その名前も先々代の王様が?」
「これは先代だったかな?名称統一を国策として進めてたし…ユースケの世界だと『ピース』ってどんな言葉なの?」
「まさしく『平和』って意味だよ。世界中でそう使われてる。こうやってサイn…手で表せるんだ。」
そう言ってアミアに向け笑ってピースを送る。ユースケは自分の指を見ながら『あーそう言う意味もあってか』と、ピースという渡り鳥への名付けに納得した。
「さぁ急ぎましょ、夕暮れまでには反対側の梺まで行かないと。」
山頂へと続くかつての登山者達の足跡と大岩が入り交じる稜線上の登山道、吹き抜ける風に乗り蒼空の世界と灰暗の世界が繰り返す…
「見えてきた!ユースケ、山頂よ!」
「やっと着いた~。」
アミアの指差す先には石を積み上げ鮮やかな布で彩られた簡素な石碑、それと…
「あれ…?人か?」
黒いローブをはためかせた人影が一つ立っていた…。
(バッサバッサ…)
「うあっ!?」
「きゃっ!?」
背後からコウモリが現れ人影の元に飛び去る。ローブの奥で怪しく微笑したのが分かるほどの距離、唯ならぬ気配に二人は身を構えていた。
「まさかそちらからやって来るとは…お陰で奇襲の手間が省けました…」
「え…!?」
「貴様ッ何者だ!!」
「私はラテス=ニロチクス、地の
『我々、ヤタガラスと共に来てもらおうか。』
その瞳に宿すのは信念か、決意か…
燃え盛る意志を秘めた紅蓮の瞳が牙を剥く。
次回『紅く漲る瞳』