遊戯王~召喚士?いいえ決闘者です。~   作:ねおけらとどぅす

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第14話 - 貪食者(どんしょくしゃ)

《八咫神村 駅前 料亭トリトン》

 

「お疲れ様です。相席、よろしいでしょうか?」

 

 少し早めに、そして静かに昼食を済ませようとしていた捜査一課の二人の前に“面倒な奴ら”が現れた。

 

「チッ…どうぞご自由に。」

 

「どうも。」

 

「邪魔するぜ。」

 

 駅前が見渡せる窓辺のテーブル席、日差しが優しく照らす心地良さげな空間でありながら、皆表情は固く物々しい雰囲気となっていた。

 

「で、要件は何です?」

「出来れば飯が来る前に済ませてもらえますか?」

 

「ええ、ふたつほどお聞きしたい事が。」

「まずは………」

 

「いらっしゃいま…あらぁ昨日はどうもぉ。」

「まさか刑事さんだったなんてねぇ。」

 

「昨日は失礼しました。」

「テレビ局の取材だなんて期待させるような嘘をついてしまって反省してたんですよ。」

 

「そんなお気になさらずに、なんせ昨日の夜から警察の方々で大忙しなもんですからぁ。」

 

「ゴホン!!」

 

「おっと、長々と失礼しました!」

「ええと…このカツサンドセットをお願いします。」

 

「俺はカツ丼の大盛りで。」

 

「かしこまりましたぁ~。」

 

「………。」

 

「その後、神主さんの様子はいかがでしたか?」

 

「取り調べにはすんなり了承しましたよ。」

「ただ、その前に瞑想したいと言って朝から本堂に籠もってます、県警の見張り付きで。」

 

「そうでしたか…。」

「先程、麦沢さんが神社に到着しました、科学技術庁の最新鋭の機材と共に。」

 

「思ったより早かったな…。」

 

「ええ、とても。」

「どの計器をとっても、本来なら借用許可が下りるのに1週間以上かかるでしょう。それがたったひと晩で…。」

 

「………。」

 

「頂いた捜査資料、拝見させて頂きました。」

「失踪した若者は僕達が捜索してた天光龍姫さんの他に5名、ですが公開されてる名前も捜査資料も4名だけてした。1名だけ名前も身元も伏せられてるのがどうも気になりま…」

 

「お 答 え 出 来 ま せ ん 」

 

 何か理由があり気な強い口調で伊原は松上の静止を図るが、最早それは“探し物はここに在るぞ”と白状してるようなものだった。

 

「先輩…無理ッスよ、松上警部に隠し事なんて。」

「それに多分、僕たちが黙っててもあちこち聞き回って大変な事なりますよ?」

 

「………。」

「チッ…分かったよ!耳貸せ!」

 

 4人はテーブルで前屈みになり顔を寄せる。

 

「残念だが、その1人の捜査は特務の連中がやってる、俺らでも詳しくは分からん。けどな…」

 

「名前は聞いてる、トップシークレットだ。」

 

「その伏せられてる1名は陽炎坂(かげろうざか) 凰司(おうじ)。」

 

「陽炎坂………オイそれって!?」

 

「ああ、そうさ。」

「現職総理大臣、陽炎坂(かげろうざか) 鳳扇(ほうせん)のご子息だ。」

 

「ふぅ………」

「はぁ………」

 

 特令係の二人は上半身を起こし背もたれの向こう側まで反り返った。

 

「なるほど、早急に捜査が開始されたのも、科学技術庁が迅速に機材を貸したのも納得です。」

「伊原さん、我々がこの村の捜査で得た情報は、どの程度向こうへ伝わっているでしょうか?」

 

「向こう?あぁ…。」

「昨晩、大方の情報は本部に送りましたよ。」

「理解が追いつかない内容でしたが、それでもこう応援を寄こしたって事は事実として認められたようですね。」

 

「となると…恐らくその上にも。」

「事態が事態です、解決を急いで大変な事にならなければ良いですが…。」

 

「お待ちどう様ですぅ~。」

「カレーうどんと親子丼、あとカツサンドとカツ丼の大盛りですねぇ。」

 

「はぁ…食欲はねぇが旨そうだな。」

 

「お食事前にお話し頂きすみませんでした。」

「お詫びにここのお代は僕達で持ちましょう。」

 

「ちょっ左京さん!?」

 

「ふっ…特令係のおごりか…。」

「なら気分が良いや、いただきます。」

 

「兎谷くん、僕達もいただきましょう。」

 

「あーもぅそうッスね、いただきます!」

 

 温かく湯気香る柔らかな料理が各々の口へと運ばれる。

 

(「はくっ……もぐもぐもぐ…」)

 

「旨い!!」

 

 

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《地の国 大街道 旧ベリィーデ》

 

 

(「ガリッ……ボソボソボソ…」)

 

「………まずい。」

 

「文句言わずに食べなさい。」

 

 4日目の暮れ、二人が中継地点のアテにしていた地図上のその街は住民は去り真新しくも廃墟となっていた。

 寝床だけは何とか確保出来たものの、食料の補給はどうにもならず、翌朝、舌触りの悪い保存食と水筒に残った僅かな水で朝食となった。

 

「聖都まであと3日かかるとして、飯はどうにかなんねぇかなぁアミア?」

 

「ルートルビアで貰ったこの地図、古いみたいね…。」

「あっ、けど次の街は絶対残ってるわ!」

 

「ほんとか〜?こんな廃墟続きなのに?」

 

「城塞都市フワンタ、古城跡と市場の街。」

「色んな国の料理が巡れる名所よ!」

 

「縁日屋台やフードフェスみたいな感じか?」

 

「ユースケ、わざと私が知らない例え使ってる?」

 

「………。」

 

「何か言いなさいよこのぉ!」

 

「い"て"て"て"て"!」

 

 腹ペコの二人と一頭が青空の下、大街道をつき進む。騎乗の二人は空腹でふらつくものの、それを乗せて走るコクオー号もまた空腹なのか落ち着いたのか、最初の疾走とは打って変わった軽快な程度の足の運びになっていた。

 欧州の青空市場なイメージを膨らませるユースケだったが、進路の先にあるその城塞からは何やら良からぬ煙が立ち昇っている。

 

 

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《地の国 大街道 城塞都市フワンタ》

 

「何じゃ…こりゃ?」

 

 空腹でたどり着いたフワンタ、だが観光ムードは微塵も無く、城門の向こう側には慌ただしく駆ける兵隊とその怒号が満ちていた。

 

「コレどう見ても飯食えるムードじゃないよな…。」

「どうするアミア?」

 

「つ…次の街まで進みましょ、それまで我ま…」

 

「おおお!!その首飾りは!!!」

 

「ゔぇ!?」

「ひっ!?」

 

「君たち、スクォールからの派兵だな!」

「こんな勇ましい騎獣で駆け付けてくれるとは!!」

 

「い、いや違、あの私達は…。」

 

「詳しくは奥で、おーい!開門!!」

 

「開門じゃなくてっ!ちょっと!!?」

 

(ギイィィィ………バタン!)

 

「………ワン?(·ω·∪)⁠」

 

 二人はコクオー号を外に残し、厄災の香り漂う城門の奥に吸い込まれていった。もちろん空腹のままである。

 

・

・

・

 

「よく来てくれた召喚士殿、早速だが手短に状況をお伝えしよう。」

 

「その前に何か食べさせて下さい…。」

 

「つい先程、市場の競りに遅れて到着した獣車から妙な怪物が出て来て暴れ出している。」

 

「もしもーし…。」

 

「貴殿らには我がフワンタ自警団とソレの討伐にあたってもらいたい。」

 

「だからその前に食べ物…。」

 

「怪物は市場がある広場の…ん?」

「何だ?食べ物がどうしたって?」

 

「旅の食料が尽きて空腹なんです…。」

 

「そもそも俺達は通りがかr」

 

「ガハハハッ!朝飯抜きで駆けつけてくれたか!」

「おーいチャネル、あれ持ってるか?」

 

「うーすっ。」

 

(ガサゴソ………)

 

「どうぞ。」

 

「あ"…。」

 

 大柄の兵士が取り出したのは、見覚えのある地の国の印がされた包み紙、あの保存食だった。

 

「これで良ければお好きなだけご用意しますよ。」

 

「………。」

「………。」

 

(ビリッ)

 

「あ、アミア…?」

 

(ボリボリボリ…)

 

「………まずい。」

 

 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

 

《地の国 城塞都市フワンタ 大広場》

 

「こりゃひどい…。」

 

 チャネルという自警団員を案内役にユースケたちは渦中の街に降り立った。突然の出来事であったのだろう、屋台や出店はそのままで、一部崩れ落ちているものもあった。しかし…

 

「品物が散らかってない…そもそも無い?」

 

 食べカスのような破片や汚れはあれど、店頭に並んでた食材の姿は無い。

 

「怪物のしわざですよ、アイツら人は襲わなかったですが市場のモン手当たり次第食っちまいやがったんス。」

「我々も応戦しましたが、あっという間に仲間は怪我人だらけにされてしまいました。」

 

「その負傷した兵士や住民は?」

 

「家に籠らせたり城壁内に避難させてます。」

「旧世代の遺物ですがここは立派な城塞ですよ。」

 

「およそで構わないから、その怪物の特徴とか教えてもらえないかしら?」

 

「特徴っすね…何かなぁ…こう生き物と言うより…」

 

(「キシャーーー!!」)

 

 チャネルの真後ろ、物陰から赤い何かが飛び掛かった。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「竜魔導!!」

 

 刹那、『竜魔導の守護者』の一閃で向かってきたソレは空中で両断された。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「はぁはぁはぁ…助かった。」

「さすが地の決闘者(デュエリスト)だぁ。」

 

「それよりユースケ、コイツは…?」

 

 地面に散らかった残骸、それはまさに巨大なトマトそのもの。真っ二つになっても尚、その口は舌を出しヘラヘラと不気味な奇声を上げている。

 

 

「『キラー・トマト』だ。」

 

「やっぱりこれもカードの霊獣?」

 

「ああ、だけどコイツは厄介だ…。」

 

「そう言う割には柔らかくて弱くて…」

「あと美味しそうだけど?」

 

(「え…?」)

 

「まぁコイツには特殊効果があってな…。」

 

(「ケケケケ」)

(「ケケケケケケ」)

(「ケケケケケケケケ」)

 

「破壊されると仲間を呼ぶんだ。」

 

 周囲から現れる赤い影、見えている姿以上に聞こえてくる奇声に包囲された。

 

「みんな走って!!」

 

 アミアの掛け声で一斉に走り出す。『キラー・トマト』もウヨウヨと3人を追い掛ける。

 

「普通に襲って来るぞコイツら!!」

 

「市場のモン食い尽くしたせいかもッス!!」

 

「話しが違うじゃない!」

 

(「ピィーピィーピィー!!」)

 

(「!?」)

 

「きゃああ!!何コレもぉー!!!」

 

(フミッ)

 

 物陰から飛び出して来た鶏のような怪しげな怪物、奇抜なフォルムもものともしないアミアに踏みつけられ、虚しく路肩に転がっていった。

 

「(あれは…『儀式(ぎしき)の供物(くもつ)』?)」

 

「皆さんこっちです!!」

「この先の卸市場に親玉が…!!」

 

(「ビーーーン!!」)

 

「チャネルさん!?」

 

(ガキィン!!)

 

 チャネルは『ビーン・ソルジャー』の凶刃を受け止め鍔迫り合いになる。人の丈ほどある豆の奇兵、だが兵士たる彼も負けてはいない。

 

「くっっそッ!!好き勝手しやがって…!!」

 

(キィィィン!!)

 

 押し出して間合いを取った。だが相手もジリジリと、そして奥から新手がゾロゾロと湧いて出る。

 

「皆さんは市場の奥へ…ここは自分が引き付けます…。」

 

「け、けど!?」

 

「逃げ道なら詳しいのでご安心を、さぁ!」

 

「ユースケ行きましょ…。」

 

「くっ…ご無事で…。」

 

 

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《地の国 フワンタ 中央卸売市場》

 

 仄かに日の光が照らす広間、周囲には肉や魚、野菜が収めてあったであろう空箱が散在し静寂を引き立てていた。

 

「外よりずっと静か…だな。」

 

「ええ、けどそのせいでずっと不気味ね。」

 

 壁や空箱を背に奥へ進む。積まれた木箱の向こうに競り場が見えた。

 

「待って…何か居る…。」

 

「あれは…。」

 

(「ピィ〜ピィピィピィ〜♪」)

 

 さっき外に居た『儀式(ぎしき)の供物(くもつ)』だろうか、青白く燃える何かを持ってくるくると踊っている。

 

「気を付けろアミア、来るぞ…。」

 

「え?」

 

(「ピピィー!!」)

 

 供物のかん高い鳴き声が響き渡る。

 

(「ケケケ…ケケケ…」)

 

 窓から、物陰から、そして…

 

(「ビビーンビビーン」)

 

 背後から、ぞろぞろと『儀式の供物』めがけモンスターが集まって行く。

 

(ゴォォォオオオォ…)

 

 供物の手にあった青白い炎が集まって来たモンスター全てを包み込んだ。

 

 炎は一瞬鉄鍋を振るう料理人の姿を成し、大量の闇のソウルを沸き立たせじわじわと新たな姿を成す。

 

(ズドォォォオン!!!)

 

 床を踏み砕き、天井を突き破り、それは現れた。

 

「グゥウォーーーン!!!」

 

「は、『ハングリー・バーガー』だって!!?」

 

 巨大な、そして異様な貪食者(どんしょくしゃ)の登場にそれを目にした全ての人間が驚愕した。

 

 ただ、1人を除いて。

 

「………。」

 

 その男は冷静な表情で土煙上がる市場を眺めていた。

 

 

********************************************

 

《地の国 フワンタ 中央卸売市場》

 

 魂(ソウル)のちからか、あるいは生贄の数のせいか、この『ハングリー・バーガー』もまた『真紅眼の黒竜(レッドアイズブラックドラゴン)』同様、カードから想像しきれぬ程の強大な怪物が目の前に君臨している。

 

(ワサ…ワサワサ…)

 

 左右からはみ出たレタスが2人めがけ抱き寄せるように襲い掛かる。

 

『万物を還す紅蓮の炎よ、我が魂と連なり猛威を示せ』

 

『猛よ…召喚獣、ヴォル・グリフィス』

 

 

 逆巻く火輪で迫るレタスを焼き切りながらアミアの炎獣が喚び出される。

 

「乗ってユースケ!!」

 

「お、おう!」

 

 炎獣の背に乗り天井の穴から外へ、それを巨大な貪食者は屋根を噛み砕きながら迫る。

 

「広場だ、そこで迎え撃つ!」

 

「わかった、任せて!」

 

 城壁を跳び渡るように炎獣を駆り、2人は広場中央ヘ降り立った。

 

(ガタガタガタ…)

 

「…来る!」

 

(ドゴォォォオン!!)

 

「グゥウォーーーン!!!」

 

 怪獣映画さながら、石造りの壁を突き破り貪食者が姿を現した。日の下に晒され、その舌が、牙が、顎が、生々しく不気味な様子まで露となる。

 

「いったいどこが戦士族だよまったく…。」

「戦士族ってのはこうだ!」

 

『バスター・ブレイダー!!』

 

 地のソウルを帯びた黄金色の光柱が立ち昇る。

 

(シュリィィィ…)

 

 刃と鎧の擦れる抜刀音、群青の巨人は貪食者に向け大剣を構えた。

 

「グゥウォーーーン!!!」

 

 巨体と巨体が、大剣と牙がぶつかり合う。

 

「ヌウゥ…ハアッ!!!」

 

 巨体の突進を押し返し、すかさず横一閃を放つ。

 

「ウォーーーン!」

 

 放たれた一閃は貪食者の牙を数本へし折るが、決定打には至らない。

 

「チッ…デカいせいかやっぱ固い。」

「『バスター・ブレイダー』もどこまで闘れるか…。」

 

 体格差は5倍以上、『バスター・ブレイダー』の刃は通るものの、双方がぶつかる度に広場や城壁が崩れていく。

 貪食者の頭上で靡く日の丸の旗が、元の世界へ帰ろうと意気込むユースケの心情を囁かに煽る。

 

(「そういやあの旗、下まで貫通してないんだな…。」)

(「………あ、そっか。」)

 

「受け取れ!『バスター・ブレイダー』!!」

 

 宙を斬り放たれた大剣、『破壊剣−ドラゴンバスターブレード』それを手に群青の巨人は高く跳躍する。

 

「この世界ならこんな事もやれるはずだよな!!」

 

 半ば乱雑にストレージから1枚のカードを引き抜き『バスター・ブレイダー』に向けて掲げる。

 

『巨大化!』

 

『バスター・ブレイダー』の全身が光りだす。

 

「ただしバスターソードだけ!!!」

 

 光は手に握られた大剣へ集束し巨大な剣となった。

 

「テーブルマナー講座の時間だゴラァ!!!」

 

(ズドォォォン!!!)

 

 巨大な剣は直上の旗を押し砕きバンズにパテ、レタスやトマトまで綺麗に串刺しにした。そして…

 

(「ゥォォオオオォ………」)

 

 巨大な貪食者は力なく地に伏せ、闇のソウルへと霧散しだした。

 

「おぉ!?やったのか!!」

 

「召喚士殿!!お手柄であります!!」

 

 後方から多数の兵、今更ながらの登場だったがぴったり片付いたタイミングであった。

 

「俺たちは大丈夫です。あと…」

「チャネルさんは無事ですか!?」

 

「チャネルですか…?」

「あいつなら我々を呼びに来たあと、そこの展望塔に登って行きましたよ。」

 

「良かった、無事だったんですね。」

 

「ええ、ほら、あそこに!」

 

 兵が指差す先、独特な青赤の鎧飾りの大柄な人影が塔からこちらを見下ろしていた。

 

「うーん…確かにチャネルさんっぽいかなぁ?」

「おーーーい!やりましたよー!!」

 

 ユースケは塔に向けて大きく手を振った。

 

 

********************************************

 

《地の国 フワンタ 展望塔》

 

「あーあ…手なんか振っちゃってまぁ…。」

 

 そう口に漏らすチャネルの左手にはイラストの抜けた『ハングリー・バーガー』のカードが握られていた。

 

「やっぱ有り合わせじゃこんなもんか。」

「どうすっかなぁ…足止めしろって言われたし。」

「追撃ぃ…?いやもうさぁ…。」

 

(「おーーーーい!」)

 

(「フッ。」)

 

「今はまぁ手ぇ振っとくか、疑われんのもアレだし。」

 

 チャネルは広場のユースケに向け小さく手を振り返す。苦笑いとも作り笑いとも言えない表情で。

 

・

・

・

 

「いやお二方ともお手柄でした。」

 

「団長さん!」

 

 甲冑を鳴らしながら両手いっぱいに何かを抱えたフワンタ自警団団長がやってきた。

 

「先程隣町から良い物が届きましてね、空腹だとお見受けしたので早速持ってきてみました。」

 

 程よく手で掴めるくらいの筒状の゙何か、持つとそれは軽く地の国とは違う印の封がされている。

 

「チャルメラです!」

 

「ちゃる………今何て???」

 

「チャルメラです。」

「聖都騎士団の支給品なんできっと旨……。」

「おっといかんいかん、お湯を忘れてました。」

 

「え………カップ麺かコレ!?」

 

「ユースケ知ってるの?」

 

「ああ、元の世界でよく食ってたよ!」

「まさかこっちにも来てたんだなぁ…。」

 

「へぇ〜どうやって食べるのかしら?」

 

「アミア、やっぱりお前って田舎モンだろ?」

 

(ボコッ)

 

「皆さんお湯が用意出来ま…その顔どうしました!?」

 

「いえ、痛いですけど大した事ないです。」

 

「そうそう。」

 

 広場の皆にお湯と匙が配られ時計の無い3分間を刻む。

 封を開けると共に漂う馴染みのあるあの香りが。

 

「いただきます…。」

 

 温かく湯気香る柔らかな麺が各々の口へと運ばれる。

 

(「はくっ……もぐもぐもぐ…」)

 

「んんん~。」

「くぅぅ〜。」

 

「旨い!!!」

 

「ははは、大げさな。」

「まだたくさんあります、どうぞどうぞ!」

 

 夕焼け色の中、兵士たちとのカップ麺の祝杯。

 ひと仕事終えた安堵と歓喜が広場に溢れる。

 

(ゴゴゴゴゴ…)

 

「!?」

 

 遥か遠方から空気を伝い聞こえる雷鳴、一瞬場が静まるがまた盛り上がる中、アミアだけがその方角を眺め立ち止まる。

 

「そっかぁ…もうそんな時期か…。」

「ユースケ!」

 

「どうしたアミア?」

 

「出発するわ!」

「今のうち、ちょっとでも進みましょ!」

 

「え!?お、おう…!」

 

 アミアに手を引かれフワンタを出発する。

 飯を食わせて貰ったのか、或いは状況を悟ったか、コクオー号も今までになく颯爽と街道を駆ける。雷鳴響く暗雲の方角に向けて。

 




五月雨を あつめて早し 最上川
旅路を救う渡りに船は 人の人情か、或いは…

次回、第15話‐『激流讃歌(げきりゅうさんか)』
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