東京政庁の首相専用部屋では、扇が部下からある報告を受けていた。
「本当か?C.C.と思われる人物の居場所が見つかったというのは」
「はい。確定ではありませんが、おそらく…」
「そのC.C.がいると思われる居場所は?」
「ある者が経営している、オレンジ農園です」
前回のスザクとの通信から1ヶ月が経った頃、ルルーシュとC.C.は特にやる事もなく、屋敷の中にある一室でゆったりと過ごしていた。
「今週中にカレンが此処に来るんだっけ?」
「そのはずだ。もうすぐ引き継ぎが終わるとスザクが言っていたからな」
「カレン、驚くだろうな。此処に来たらルルーシュが生きていて、さらに私と結婚している事に」
「間違いなくな。そして俺たちを問い詰めてくるんだ」
そうなる未来を簡単に想像できたルルーシュとC.C.は、顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「さて、そろそろ昼食にするか。ジェレミアとアーニャを呼びに行くが、お前もついてくるか?」
「そうだな。1人で待っていても暇だし、私もついて行こう」
そう言ってルルーシュとC.C.は、外でオレンジの収穫をしているジェレミアとアーニャを呼びに行った。
その日の夜、スザクとカレンはブリタニアから手配した航空艦の中で話し合いをしていた。
「まさかこの艦に乗る日が来るなんてねぇ」
「ラクシャータも同じ事を言っていたよ」
スザクとカレン、そしてラクシャータが乗っている艦は、ルルーシュが皇帝に即位した時にブリタニア軍の旗艦となったアヴァロンの後継艦である。
「それにしても、この艦凄いわね。完全にオートで動いてるんでしょ?」
「うん。ロイドさんが「造るんなら陛下の艦がいいよね〜」とか言って最初は普通に造っていたんだけど、途中から「完全オートで動く航空艦って面白いと思うんだ〜」と暴走して造ったのが、この新しいアヴァロンだよ。ただ、武装はブレイズルミナスしかないけど」
「あの人らしいわね…。ラクシャータさんは?」
「今、医務室のチェックをしてるよ。その後は格納庫をチェックするって」
この場にいないラクシャータは、現在医務室のチェックをしていた。
「それと星刻は斑鳩でカンボジアに向かう準備をしているんだっけ?」
「藤堂さんがカンボジアにいるという情報があったからね。それを星刻が指揮を執って確かめに行くんだ。明後日には出発するらしい」
「で、私は星刻がカンボジアに向かうのと同時に、オレンジ農園に向かえばいいんでしょ?」
「一応その予定でいる。僕はこの航空艦で待機してる感じかな」
「わかったわ」
カレンとスザクが話し合いを進めていると、血相を変えた星刻が通信をかけてきた。
『ゼロ、カレン!!!』
「どうした星刻?そんなに慌てて」
『日本国内でナイトメア戦闘が起きてるらしい!!』
「なに…?」
『そして戦闘を行ってるナイトメアのうち、1機はサザーランド・ジークという話だ!!』
「なんだと!?カレン!今すぐ紅蓮でオレンジ農園に向かえ!私はラクシャータに今の状況を伝えたあと、このアヴァロンをオレンジ農園へ運ぶ!」
「わかった!!」
カレンはスザクが言ったことを了承すると、全速力で格納庫へと走っていった。
「星刻!!サザーランド・ジーク以外のナイトメアの所属はわかるか!?」
『わからん!だが、ガレスや暁の姿があるみたいだ!!』
「…ということは、日本が不正所持していたナイトメアか!星刻!今すぐに団員を東京政庁へと向かわせて、ナイトメア不正所持の疑いで扇を拘束しろ!そして神楽耶に連絡を取って状況の説明を!!」
『了解した!!』
通信を切ったスザクは、すぐにラクシャータに現状の説明と航空艦をオレンジ農園に向かわせる為に目的地を入力しに向かい始めるが、
―紅蓮で此処からオレンジ農園に全速力で向かったとしても、約20分はかかる。ルルーシュ、C.C.、無事でいてくれ…!!
艦内を駆け抜けてる間、スザクはそう願うしかなかった。
少し時間を遡り、オレンジ農園ではルルーシュがご飯を作っており、その後ろ姿をC.C.は席に座りながら見つめていた。
―昔の私が今の現状を見たら驚くんだろうな。こうやってルルーシュと共に生きる事が出来るなんて、あの時は考えもつかなかった。
C.C.は思い浮かべる。
ルルーシュの死が間近に迫った日のことを。
−ゼロレクイエム前日−
ゼロレクイエム前日の深夜、C.C.はルルーシュと共に過ごしている寝室で、電気もつけずにベッドの端に座っていた。
―明日、ついにルルーシュが逝ってしまう。世界に明日を迎えさせる為に…。
今、この寝室にはC.C.だけしかおらず、ルルーシュの姿は朝から見えなかった。
―朝からルルーシュの姿が見えなかったが、どうせ私の為に色々と手を回しているんだろうな。
ルルーシュ自身は気付かれてないと思っているが、自分が居なくなった後でもC.C.が悲しまずに、この先ずっと笑顔で過ごしていけるように色々と手を回していることをC.C.本人は気付いていた。
その手回しの1つとして、少し前にかなりの額が入った通帳をルルーシュのギアスがかかった兵士から渡されている。
後にルルーシュから「此処に入っている金で好きなだけピザを食っても良いぞ。ざっと計算して、約40年間は食べれる筈だ」と言われて、自分は金を渡されて喜ぶ女だと思っているのかとイラついてしまったが。
―ナナリーをもう特別扱いは出来ないと言っておきながら、私を思いっきり特別扱いしているじゃないか。…気持ちは嬉しいけど。
そこまで考えて、C.C.は部屋の天井を見上げる。
―…私が止めてほしいと言えば、ルルーシュはゼロレクイエムを止めてくれるのだろうか?私の想いを伝えれば、ルルーシュは生きてくれるのだろうか?私の今の願いを伝えれば…。
最初の願いは人から愛される事だった。
次に願ったのは、生きる事が苦痛に感じ、自分を置いて人々が逝ってしまう事に絶望してしまい、死ぬ事を願った。
そして今は、ルルーシュと共に生きたいと願っている。
―はぁ…。今更言えるわけがない。アイツはスザクと共に走り出してしまい、此処まで来てしまったのだから。
パチッ
「っ!?まぶしっ…!」
天井を見上げていたら急に寝室の明かりが点いた為、C.C.は顔を腕で覆ってしまう。
「…明かりも点けずに何やっているんだ?」
声をした方に顔を向けると、皇帝服姿のルルーシュが呆れながら此方を見ていた。
「…考え事さ。お前こそ、朝から何処に行っていたんだ?」
「計画の最終確認をしていたのと、ゼロの仮面をスザクに渡してきたんだ。その後はやる事があったから執務室にいた」
服を着替えながらルルーシュは答える。
「寂しかったのか?」
「馬鹿を言え。私がそんな風に思う女に見えるか?」
「どうだろうな。お前は魔女の癖して結構寂しがり屋だからな」
「…言ってろ」
「荷造りは済んだのか?」
「もう終わってる」
「それならもう寝るぞ。明日は大事な日なんだ」
着替え終わったルルーシュは部屋の明かりを消してからベッドで横になり、C.C.も隣に寝転ぶ。
ギュッ
「…どうしたんだ?C.C.。寂しくなかったんだろ?」
「……」
「……?」
横になった途端に後ろから抱きついてきたC.C.に話しかけるが、いつものような人を小馬鹿にした返事がなかった事に疑問を感じるルルーシュ。
「…ついに明日なんだな」
「…そうだな…」
―明日、俺は世界の人々の前で…。
前に回されたC.C.の手に、自身の手を重ねる。
「止めてほしいのか?ゼロレクイエムを」
「そうだと言ったらお前は止まってくれるのか?」
「やっと此処まで来たんだ。今更止まる気は無い」
「…なら言うな」
自身の声が震えているのを自覚しながら、C.C.はルルーシュの背中に顔を埋める。
「なぁルルーシュ。今更ゼロレクイエムを止めてくれなんて言わない。というより、そんな資格は私にはない。だけど、これだけは言わせてくれ」
「最後まで傍にいさせてくれてありがとう」
そんな事を言われたルルーシュは、少し驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべた。
「フッ…。共犯者は傍にいるものだからな」
「…1つだけお願いを聞いてもらえないだろうか?」
「なんだ?」
「私を抱き締めてくれないか?お前の温もりを忘れない為に寝てる間ずっと…」
「…はぁ、分かった」
ルルーシュは身体を反転させて、C.C.を抱き締める。
「これでいいか?」
「ああ。…寝たからといって離すなよ?」
「我儘な女だ。離さないから安心しろ」
2人は抱き合いながら、眠りについた。
翌日、ルルーシュとC.C.の2人は、トウキョウ政庁の入口前に立っていた。
「…これで、本当に最後だ」
そう呟くルルーシュは、これからパレードを行い、そして世界の人々の前で死ぬ。
「俺が居なくなった後のブリタニアは一度合集国から脱退する手筈になっているが、数年後に再加入する事になるだろう」
おそらく、ルルーシュが死んだ後はナナリーが皇帝の地位に就くと予想しているので、ブリタニアが昔に戻る事はないと安心出来る。
それから、黒の騎士団が存在する限り国同士の武力による争いは当面起きないだろうと、ルルーシュは考えていた。
というより、自身の贖罪の為でもあるが、それでも話し合いという1つのテーブルにつかせ、世界に明日を迎えさせる為にゼロレクイエムを実行するのだから、簡単に武力による争いが起きてもらっても困るだけだが。
「世界の憎しみを全て背負った俺が死んで明日を迎えたとしても、世界には様々な問題が残る。だが、人々はどんな困難も乗り越えていけるだろう。明日を求める限り希望は消えないのだから」
ルルーシュはC.C.の方を向く。
「今まで世話になったな、C.C.」
「…こちらこそ」
2人は握手を交わす。
これで最後になるが、2人は自身の想いを伝える事はしない。
…いや、出来ないのだ。
ルルーシュはC.C.を置いて逝ってしまう罪悪感から。
C.C.はルルーシュの邪魔をしたくないという思いから。
そしてお互いの事を大切に想い、相手の想いを理解しているからこそ、自身の想いを伝える事は出来なかった。
「それじゃあ、逝ってくる」
ルルーシュは歩き出した。
それをC.C.は見送る。…身体を少し震わせながら。
だが、C.C.が震えてる事を感じたルルーシュは立ち止まり、
「C.C.!!」
C.C.の名を大きな声で呼びながら振り向く。
「―幸せにな。笑顔で元気に生きろよ?それだけで俺は満足だから」
優しい笑みを浮かべるルルーシュにC.C.は泣きそうになったが、それを気合いで我慢して、身体を震わせながらも笑顔を浮かべる。
「ああ。もう私は死ぬ事を選ばないし、希望を持ってちゃんと笑顔で生きていく。…だから安心して、いってらっしゃい」
その言葉に満足したのか、ルルーシュはもう一度笑みを浮かべて再び歩き始めた。
―さよなら、C.C.…。今までありがとう。
最初は安心させる為に笑顔で見送っていたが、ルルーシュの姿が完全に見えなくなった瞬間、C.C.は地面にペタンと座り込み、
「うぅ……グスッ……ルルーシュッ…!!」
…泣き崩れた。
次にルルーシュを見る時は、既に死んだ姿を見る事になるのだ。
「っ、あああああぁぁぁぁ!!!!」
もう二度と生きているルルーシュに会う事が出来ないC.C.は、空に向かって泣き叫び続けた。
―まぁ、その後はルルーシュがせめて安らかに眠れますようにとアッシュフォード学園の大聖堂で祈っていたんだが。
当時の事をしみじみと思うC.C.。
「おいC.C.、料理が出来たから運ぶのを手伝ってくれ」
「はいよ」
出来上がった料理をどこか嬉しそうに運ぶC.C.の姿を見て、ルルーシュは首を傾げる。
「何か嬉しい事でもあったのか?」
「この瞬間が幸せだと思ってるだけさ。だから気にしないでくれ」
「???」
―相変わらず鈍感な奴め。
理由を分かっていなさそうな表情をしているルルーシュを見ながら、C.C.は苦笑いを浮かべるのであった。
ちなみにルルーシュはと言うと、
―…そんなにナポリタンが食べたかったのか?俺が単純に食べたくなったから作っただけなのに、こんなに嬉しそうにされるのは予想外だった。それなら、もう少し本格的に作るべきだったか?
C.C.が嬉しそうにしている理由を、ナポリタンを食べれるからだと勘違いしていたりする。