『神聖ブリタニア帝国、第99代、唯一皇帝陛下にして、黒の騎士団CEO、超合集国第2代最高評議会議長であらせられる、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様のお姿が見えました!』
ダモグレスの戦いに勝ち、世界を手に入れたルルーシュは、皇帝直轄領日本の首都、東京の大通りで、己に歯向かった黒の騎士団の公開処刑パレードを行っていた。
『そしてご覧下さい。愚かにも、ルルーシュ様に反逆した者達が処刑場へと運ばれて行きます』
世界の人々に見せつけるように、大通りの道の端を進んでいるパレード車に黒の騎士団の面々が磔台に拘束されて運ばれている。
『先の大戦で、帝都ペンドラゴンや多くの将兵。そして、ナイトオブゼロ、枢木スザク卿という尊い犠牲を払いつつも、E.U.が超合集国憲章を批准した今、我らがルルーシュ様は、遂に世界統一という偉業を成し遂げられたのです!』
ルルーシュ本人は、中央のパレード車の1番高いところに設置された玉座に満悦な笑みを浮かべながら座っており、車の下の方にあるスペースではナナリーが俯きながら拘束されていた。
『ルルーシュ様に栄光あれ!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ルルーシュ!!』
「何が栄光だ…」
「ただの独裁だろ…!」
「逆らう者は全て殺して…」
「しっ!!誰かに聞かれたら、一族皆殺しにされるわ…!」
こうしてパレードを行っているが、世界の人々は誰1人として祝福しておらず、それどころか、ルルーシュに世界の対して憎しみが集まっていた。
―フッ…、条件は全てクリアされた。後は…。
それがルルーシュの計画とも知らずに。
一方、大通りの近くのビルからパレードの様子を窺っていたコーネリア。
「ルルーシュめ…」
その周りには、ブリタニア軍から逃げ切った者達…周香凛、南、ギルフォード、 ヴィレッタなどといったメンバーが集まっていた。
「っ、扇…!!」
ヴィレッタが磔にされた扇を見つけ、思わず駆け出そうとするが、その肩をコーネリアが止めた。
「隙が出来るまで我慢しろ」
「しかし…!!」
コーネリアの言葉にヴィレッタが反論しかけと、
『『『おぉ…!!』』』
外でざわめきが起こる。
一同が何事かと思い外を見ると、そこには驚愕の人物が現れていた。
ルルーシュがいる以上、絶対に現れる事のない人物が。
「セシル君。そろそろ始まった頃かなぁ?僕らの陛下の計画」
「かもしれませんね。上手くいくといいんですが」
「でも君は失敗してほしいなんて思ってるんじゃないの?」
「…だって悲しいじゃないですか。陛下が考えられた計画は」
「え?計画?」
パレードには連れられず、独房の中で待機していたロイドとセシルの呟きを聞いたラクシャータは、思わず2人に聞き返した。
「ルルーシュが考えた、人々が明日を迎える為の計画です」
ラクシャータの疑問に、ロイドやセシルではなくニーナが答えた。
「僕達は感謝しないといけないのかもね。陛下に」
「感謝?なんでルルーシュに?」
「後で分かる事だよ。そういえばニーナ君。君は陛下を許したのかい?」
「…私はユーフェミア様を殺したルルーシュ…ゼロを一生許す事はないと思います。でも、あの人はあの人なりに、ユーフェミア様を想い、世界の人々の事を想っていました」
そう言ってニーナは苦笑いを浮かべる。
「だから、ゼロだったルルーシュは許さなくても、ゼロじゃないルルーシュは別と考えようかなって思ってます。私達が知るルルーシュは優しい人だったって」
「…ねぇプリン伯爵、結局、ルルーシュの計画ってなんなの?」
「君はしつこいね…。じゃあ、1つだけ言っておくよ」
「何?」
「この後、僕達は生きて解放される。殺される事はない。パレードに連れていかれた者達も全員」
「え?それってどういう意味?」
「さぁ?どういう意味でしょ?」と適当に答えるロイドだったが、心の中で、僕も偶には真面目になろうかなぁ?と思い、上を見上げた。
ロイドだけじゃなく、セシルやニーナも、今まで会話に参加していなかった咲世子も上を見上げる。
―お疲れ様、陛下。
―陛下、後の事は私達にお任せください。
―ルルーシュ、明日をありがとう。…ユーフェミア様によろしくね。
―ルルーシュ様、貴方にお仕え出来た事、私は誇りに思います。…今までありがとうございました。
今まで順調に行われていたパレードだったが、途中で先頭のナイトメアが人影を捉えて、足を止めた。
「何だ?」
パレードの先頭にいるナイトメアがファクトスフィアを起動し、モニターを確認すると、そこには…
「ゼロ!?」
黒の騎士団から死亡が発表されていたゼロが立っており、その姿を確認した歩道に集まっていた観衆からは、驚きの声が上がった。
「…ゼロ?」
ゼロの登場に、ナナリーは俯いていた顔を上げる。
「ゼ、ゼロって…!」
玉城は困惑しながら驚き、
「嘘!?だってルルーシュはあそこに…!!」
カレンは驚きながらルルーシュの方を見る。
…ルルーシュの顔を見た瞬間、カレンは気付いてしまった。
ルルーシュが驚きの表情を浮かべながらも、少し口元が笑っている事に。
そして…
「っ!?まさか、ルルーシュ達がやろうとした事って…!!」
ルルーシュとスザクがやろうとした事を。
カレンが気付いたのと同時にゼロがパレード車に向かって走り出して、護衛についていたナイトメアが一切にマシンガンを放つ。
だが、ゼロはあり得ない身体能力を披露しながらマシンガンの弾を走って避けていき、マシンガンの弾を全て避け切ったゼロは、目の前にいるナイトメアを飛び越えた。
「撃つな!私が相手をする!」
ゼロがナイトメアを突破した事で、パレードの護衛についていたジェレミアが、周りの兵士に指示をしてゼロに向かっていく。
そんなジェレミアの左肩を踏み台にして、ゼロはかなり高くジャンプする。
踏み台にされた事で前方に倒れかかったジェレミアは笑みを浮かべた。…まるで、突破されるのが分かっていたかのように。
―行け、仮面の騎士よ…。
護衛を突破したゼロはナナリーの前に降り立ち、目の前に現れた事で少し驚いてるナナリーに見向きもせず、ルルーシュの元に向かった。
「この痴れ者が!!」
自身の元まで辿り着いたゼロに対して、ルルーシュは立ち上がって懐にしまっていたコイルガンで撃とうとしたが、そのコイルガンはゼロが持っていた剣によって弾かれてしまう。
その後すぐにゼロは構え直し、剣をルルーシュに向ける。
絶対絶命のピンチ。
なのにルルーシュは、
「フッ…」
不敵な笑みを浮かべていた。
ゼロレクイエム前日。
「予定通り、世界の憎しみは今、この俺に集まっている」
東京政庁の一室で、ルルーシュとダモクレスの戦いで死んだ筈のスザクが話し合っていた。
「後は俺が消える事で、この憎しみの連鎖を断ち切るだけだ」
そう言ってルルーシュはスザクに、ゼロの仮面を差し出す。
「どうしてもやるのか?」
差し出されたゼロの仮面に視線を向け、ルルーシュの意思を確認するスザク。
「その為に此処まで来たんだ」
「…そうか」
ルルーシュの意思は固かった。
「黒の騎士団には、ゼロという伝説が残っている。シュナイゼルもゼロに仕える。これで世界は、軍事力ではなく、話し合いという1つのテーブルに着くことが出来る。…明日を迎える事が出来る」
スザクはルルーシュからゼロの仮面を受け取る。
「それが…」
「ああ」
「…ゼロ・レクイエム」
世界を独裁政治で支配することで人々の憎しみをルルーシュに集め、ゼロとなったスザクが憎しみの象徴となったルルーシュを討つ。
人々の憎しみの連鎖を断ち切り、世界に平和を築く。
それがルルーシュ達が考えた人々が明日を迎える計画、ゼロ・レクイエムだった。
「Cの世界で僕らは知った。人々が明日を望んでいる事を」
「なぁスザク、願いとは、ギアスに似ていないか?」
「え…?」
「自分の力だけでは叶わない事を、誰かに求める」
「願い、か…」
「そう。俺は人々の、願いという名のギアスにかかろう。世界の明日の為に」
ここまで言ってルルーシュは、己の信念を口にした。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ」
ゼロがルルーシュに剣を向けたのと同時刻、C.C.はアッシュフォード学園の大聖堂で膝をついて祈りを捧げていた。
これから逝く、明日を望んだ心優しい少年の為に。
「ルルーシュ…。お前は、人々にギアスをかけた代償として…」
祈りを捧げるC.C.の瞳から、涙が零れた。
ゼロ…スザクが構えた剣が、ルルーシュに向かっていく。
それを見たナナリーは、思いっきり目を見開く。
ルルーシュ達がやろうとした事を理解したカレンは、悲しい表情を浮かべながら思いっきり叫ぶ。…止めて、と。
玉城もルルーシュに向かって叫ぶ。
それでも、ルルーシュに向かっていく剣が止まる事はない。
神楽耶は叫ぶことはしなかったが、悲しい表情を浮かべた。
ビルで様子を伺っていたコーネリアは今が好機と見て、周りの者に声をかけて走り出した。
自身に向かってくる剣に逃げる事なく、笑みを浮かべながら待つルルーシュ。
―スザク、おまえは英雄になるんだ。世界の敵、皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアから世界を救った救世主…
そして、
―…ゼロに。
剣はルルーシュの胸を貫いた。
その瞬間、時が止まった。
目の前で起きた光景に、世界中の人々が声を失う。
「ル、ルルーシュ…!」
持っていた剣でルルーシュを刺したスザクは、仮面の中で涙を流す。
「これは…お前にとっても罰だ…。お前は…、正義の味方として…仮面を被り続ける。枢木スザクとして生きる事は…、もう…ない…」
頭で声を出すのが苦しい中、それでもルルーシュはスザクに語りかけ、スザクが被っている仮面に手を添える。
「人並みの幸せも…、全て世界に捧げてもらう…。…永遠に…」
「…その
ルルーシュからのギアス…願いを受け取ったスザクは、ルルーシュを貫いた剣を引き抜くのと同時に、民衆にバレないようにルルーシュの身体を少しだけ前に押し出す。
スザクに押し出され、バランスを失ったルルーシュの身体は崩れ落ち、そのまま台座を滑り落ちて行く。
「…お兄様…?」
ズサァァァという音と共に滑り落ちてきたルルーシュに、ナナリーは声をかけるが、ルルーシュは声を発する事が出来なかった。
呆然としたまま、ナナリーは手に触れた。
何故か満足気な表情を浮かべているルルーシュの手を。
「あっ……」
ナナリーの頭の中に、ルルーシュの記憶が…真実が流れ込んでくる。
ルルーシュがゼロになった理由。ルルーシュがシャルルとマリアンヌと黄昏の間で対峙した記憶。ルルーシュが考えた計画…ゼロレクイエムの事。今までの事の全てがナナリーの中に流れ込んできた。
「そんな…、お兄様は…今まで…」
真実を知ったナナリーは、握ったルルーシュの手を自分の頬に当てた。
「お兄様!愛していますっ!!」
「あぁ…俺は……」
ルルーシュの脳裏に走馬灯が走る。
「世界を…壊し……」
シンジュクゲットーでの出来事から、今までの出来事が、幼き日の頃、ルルーシュ、スザク、ナナリーの3人で笑いあった記憶が脳裏に浮かぶ。
「世界を……」
そして、最期に浮かんだのは、
―…さよなら、C.C.…。
出来たら、自分の手で笑顔にさせてやりたかった、C.C.の姿だった。
「……創る……」
ルルーシュは目を閉じた。
同時に、
アッシュフォード学園の大聖堂で祈りを捧げていたC.C.は、ルルーシュとの繋がりが切れた事を感じて、俯いたまま身体を震わせ、嗚咽を漏らすのであった。
「お兄様!?いや!?目を開けてください!お兄様!お兄様ぁぁぁああ!!!」
ナナリーの目から涙が溢れ、彼女の悲鳴が響く。
ルルーシュの思惑を理解した他の者達は、彼の死に唖然とし、目を見開いて固まる。
どうしてこうなってしまったのか。どうして彼の思いに気付くことが出来なかったのか。どうして自分達は彼を裏切ってしまったのか。
心の中に後悔だけが広がる。
ゼロが血の付いた剣を振り払った時、周囲から爆発的な歓声が上がった。
「魔王ルルーシュは死んだぞ!人質を解放しろ!!」
ビルの中からコーネリアの声と共に、大通りの両側から手に手に武器を持った人々が飛び出してきた。
―…ゼロよ。今のお前の正体が何者なのかは知らぬが、ルルーシュを殺してくれた事は感謝しよう。
コーネリアはゼロに視線を向けつつ、ユーフェミアの仇の1人が死んだ事に笑みを浮かべた。
「いかん!退け!この場は退くんだ!」
ジェレミアが撤退の指示をすると、ブリタニア軍は即座に退却していく。
「まさか…あれは…」
ルルーシュの思惑を理解し、ゼロの正体に気付いた星刻は、ゼロの名前を口にしようとする。
「あれは…ゼロよ」
それを、瞳に涙を溜めたカレンによって遮られる。
「いや、しかし…」
「私達は、その名前を口にしてはいけない。…だから、あれはゼロなのよ…」
ルルーシュ達の思いを無駄にしない為に。
だが、コーネリアと同様に、ルルーシュ達の思いに気付く事が出来ない者もいる。
「扇、これで…」
「はい。これで、俺達の日本が帰ってきます…!」
「…やっと、我等の悲願が達成されたのだな」
自分達は助かり、ルルーシュの死によって日本が完全に戻って来た事に扇と藤堂は喜び、笑みをこぼす。
日本を取り戻すためにルルーシュを裏切り、それを反省しようとしなかったこの2人は、彼の思いに気付くことはなかった。
「ずるいです…。私は、お兄様だけでよかったのに…。お兄様がいない明日なんて…そんなの…!」
もう動く事のないルルーシュにしがみつきながら、涙を流すナナリー。
「う……うう……うああああああああああああああああっ、ああああああああああああああっ……!」
『『『ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!』』』
ナナリーは泣き叫ぶが、その泣き声は周囲で地鳴りのように響くゼロコールに呑み込まれていく。
ルルーシュの死によって明日を迎えた世界の空は、人々を祝福するかのように青く澄みきっていた。
1人の少年がいた。
彼は世界を変える力を得て、新たな秩序を打ち立てた。
世界は彼を恐れ、憎んだ。
しかし、私は知っている。
彼が、微笑みを浮かべて逝ったことを。
為すべきことを為した者にしか知り得ない、深い満足とともに去っていったことを。
だから、これは悲劇ではないのだ。
それでも、時に、抗いようのない悲しみとともに、涙溢れる夜が来たのなら。
私は謳おう。鎮魂の歌を。
『ゼロ・レクイエム』を。