無冠のおしごと!   作:神光の宣告者

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あり得ない師匠

「こ、こんな服で大丈夫かな?」

「はいっ!!とっても似合ってますです。」

 

笑顔で全肯定してくれる妹弟子が可愛すぎて頭を撫でてあげたくなるが今回ばかりは綾乃の評価は当てにできない。

普段、研究もコンピューターで一人でする俺は基本的に対局以外で人に会うことがない。

だから普段はシャツとジャージ意外の服を着ることがない。

しかし今回ばかりはそんな格好で行くわけにはいかないのだ。

もしもシャツとジャージなどという格好で綾乃の友達に会ってしまえば、俺だけでなく綾乃にまで恥をかかせてしまうことになる。

そして幻滅した綾乃が俺の側から離れて……

それだけは絶対に阻止しなくてはならない!!

 

結局考えに考えた結果、ジーパンとコートを羽織って行くことに決めた。

ちょっとラフすぎる気もするけど少なくとも常識の範囲内には収まっている筈だ。

近鉄電車に揺られること30分、焼肉で有名な『鶴橋』や関西オタクの聖地『日本橋』を通過して今日の目的地の『大阪難波駅』に到着した。

 

「今日の夜ご飯は焼肉がいいです。」

 

綾乃は鶴橋での焼肉の匂いにすっかりやられてしまったようだ。

かく言う俺も香ばしいタレの香りですっかり肉が恋しくなってしまっているのだが。

綾乃にバレないようにさり気なく財布の中身を確認する。

……これだけあれば足りるはず。

帰りの寄り道の算段を立てながら待ち合わせ場所の難波パークへ向かった。

人でごった返した休日の難波パークへと到着すると既にそこには綾乃と同い年くらいの小学生の女の子と高校生くらいの男の子がいた。

 

「おはよう、あいちゃん!」

「おはよう!!」

 

綾乃はその小学生の女の子と楽しそうにキャッキャっと話し出した。

俺はそんな二人の様子を横目にその子の師匠の姿を探した。

この子の師匠は一体誰なのだろう、関西将棋連盟所属の棋士で弟子を取りそうな人……

 

「えっ!?あいの友達のスッゴイ強い兄弟子って角井さんのことだったんですか!」

 

まさか綾乃の友達の師匠が俺よりも年下など誰が予想できただろうか。

しかも、俺どころか将棋ファン全員が知っているほどの大物である。

 

「や、八一くん!?まさか君が綾乃の友達の師匠なのかい!?」

「え、あ、はい。……あいの師匠の九頭竜八一です。年下ですし、呼び捨てしてもらって大丈夫ですよ。」

 

若干16歳という若さで将棋界最高タイトルの竜王を手に入れた天才が弟子を取ってたなんて……

しかも小学生。

俺の中で九頭竜八一に対してある疑念が生まれる。

 

「あの……何か勘違いしてません?」

「い、いや大丈夫だ。安心してくれ。そ、そうだなこれからは八一と呼ばしてもらうよ。」

「「……」」

 

2人の間に気まずい沈黙が流れる。

しかしこれは仕方ないことだ。

そもそも俺はコミュ力が高い方ではない。

研究会も表向きは敵に情報を与えかねないことになるから敬遠していると言っているが、実際は人と話していると必要以上に緊張してしまい将棋に集中できないからコンピューターを使って一人でやっているのだ。

何故か世間では噂が一人歩きしてコンピューター将棋の申し子なんて言われてるけど……。

 

その上さらにこの状況はとても味が悪いのだ。

目の前にいる九頭竜八一とはちょうど2週間後の玉座戦の二次予選で当たるのである。

2週間後に戦う相手と一緒に一日過ごすなど前代未聞だ。

この状況はコミュ力皆無の俺にはあまりに難解すぎる。

俺は脳細胞をフル回転さして最善手を導き出そうとする。

……綾乃には悪いが今回は帰らせてもらおう。

 

「綾乃、ちょっといいか?」

 

綾乃は俺の手を読んでいるのか逆に強烈な一手を放ってきた。

 

「今からあいちゃんの家に行くことになったんですけどいいですよねっ!!」

「うん、いいよ!」

 

その笑顔は反則だよ……。

その隣では九頭竜八一の腑抜けた声が聞こえてきた。

 

「いいよ、存分に指そう!!」

 

もしかして俺たちって意外と気が合うのかな?

俺と九頭竜八一は幼女達に引っ張られながら家へと向かった。

 

余談だがその日俺たちが難波パークを離れた後に血相を変えた警察官が慌てて来たらしいのだが何か事件があったのだろうか……

まぁ、俺たちは巻き込まれなかったので良かったとしておこう。

 

 

ーーーーーー

 

 

結局なし崩し的に八一の家に来ているのだが本当にどうしてこうなった……。

外では小学生らしく騒がしく話していた綾乃とあいちゃんだが一度将棋を始めると静かに淡々と指しあっている。

部屋の中にはペチペチと小気味いい駒音が響き渡っている。

 

一心不乱に将棋に打ち込んでいる小学生組に対してプロ棋士組の間には気まずい沈黙が流れている。

ここはやっぱり練習対局でもした方がいいだろうか。

でも2週間後に当たる相手だしな……

そんな事を考えていると八一がおもむろに駒を並べ始めた。

 

「取り敢えず指します?」

 

遠慮がちにこちらを見上げる八一を見て笑いがこみ上げてくる。

何歳になっても結局俺たちには将棋しかないらしい。

対局が始まるとなぜか会話もすんなりと始まった。

どうやら俺は将棋を指すとコミュ力も上がるらしいやっぱり将棋ってスゴイ!

 

「遅くなっちゃったけど竜王獲得おめでとう。」

パチっ。タン!

「あ、ありがとうございます。」

パチっ。タン!

「会うのは指し始め式の時以来だね。」

パチっ。タン!

「そうですね。」

パチっ。タン!

駒を置く音とチェスクロックの音が規則的に鳴る。

その音の隙間を埋めるように短い会話が続くいている。

 

「角井さんもA級残留おめでとうございます。」

「あぁ、ありがとう……。」

「それにしても凄いな。来年は待ち受ける側なんだもんな。」

「正直今から不安で一杯です。俺なんてたまたま、竜王戦に勝ち星が集中しただけでたまたま勝てたようなものなので。」

「そんな事はないよ。その年で竜王になったのは八一の実力だよ。……八一は将棋の神様に認められたんだよ。」

 

会話をしながら徐々に目の前の少年に対して嫉妬している事を自覚する。

目の前の少年はたった一度のタイトル挑戦でタイトルを獲得した。

俺はもう既に10回以上タイトル戦に挑みながら1度も勝つことができない。

こいつと俺の差は一体なんなんだ。

 

バチンっ!!ダンっ!!

 

部屋中に響き渡るほど大きな音が出たことに驚いて我に帰る。

知らない間に指し手に力が入っていたようだ。

 

八一は少し驚いて動きを止めたがすぐさま盤に目を移し小刻みに体を揺らして手を読み始めた。

 

「誰にも竜王のタイトルを渡す気はないです。」

 

パチっ。タン。

決意のこもった手つきで八一は次の手を指した。

俺はノータイムで八一の王の頭に銀を打ち付けて勝ち誇って言い放った。

 

「これで25手詰めだな。」

「嘘!?……ホントだ。」

 

対局を終えて周りの景色に目を向けるとさっきまで規則的に鳴っていたペチペチという音がいつのまにか消えていた。

違和感を感じて見てみると俺と八一の使う将棋盤に綾乃とあいちゃんがビッチリと引っ付いていた。

 

「二人とも何やってるの?」

「やったー。お兄様の勝ちです!」

「で、でも惜しい将棋だったし。練習対局だし!」

 

二人はいつの間にか対局をやめて俺たちの将棋を見ていたらしい。

兄弟子の俺が勝って嬉しいのか綾乃はピョンピョンと飛び跳ねている。

喜んでくれるのは嬉しいけどはしたないから辞めなさい。

 

「ほら、言ったでしょ。お兄様は最強だって。」

「そんな事ないもん。師匠は竜王タイトル取ってるから師匠の方が強いよ!」

 

あいちゃん、それは私自身が一番よく分かってます……。

 

「で、でも……お兄様はどの棋戦でも強いから。し、失礼ですがあいちゃんの師匠は竜王戦以外はダメダメです!」

「うはっ!?」

 

綾乃……

俺を庇ってくれるのは嬉しいが、それは流石に酷すぎるぞ!?

 

「そ、それは……。でもっ!」

 

まだ続くのかこれ……

次はどんな鬼手が飛び出してくるんだ。

 

「師匠はとっても優しいですっ!昨日もあいの髪を優しく梳かしてくれました。それに寝るまで側にいてくれましたし……。」

 

あいちゃんの暴露話のせいで周囲の空気が一気に凍った。

あいちゃんは自分で暴露したのに顔を真っ赤にして今にも爆発しそうだ。

向かいでは八一がこの世の終わりみたいな表情になっている。

 

「あ、あのこれは違うんです!」

「あいちゃん、羨ましいな……。」

 

浮気が妻にバレた夫の定跡みたいな様子の八一を白い目で見返す。

綾乃に関しては聞かなかったことにしよう。

 

「しょ、小学生が良かったのか……。」

「誤解ですっ!」

「えっ!?師匠は私のことが好きじゃなかったんですか……。」

「いや、あいの事は好きだぞ!?」

 

目の前でここまで見せつけられたら流石にもはや認めないわけにはいかない。

先刻抱いた疑念が確信に変わる、八一はロリコンだ……!

 

再び室内に気まずい沈黙が流れる。

しかしこの沈黙は長くは続かなかった。

突然ドアの鍵を開ける音がして静寂が破られた。




りゅうおうのおしごとの二期が見たいな〜
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