無冠のおしごと!   作:神光の宣告者

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妹のいる家

桂香さんと別れて暖かい気持ちで家に帰った俺は異変に気付く。

なんと部屋から明かりが漏れているのだ。

朝、家を出る前に電気を消したことは確認している。

合鍵を持っている万智は今日は関東にいる筈だ。

他には俺の家の合鍵を持っている人はいない。

つまり、今俺の部屋にいる人物は不法侵入をしたことになる。

どうしようか……。心臓の鼓動が早くなる。

泥棒だろうか、だとしたら下手に遭遇するより警察に連絡した方が良いのではないか?

物音を立てないようにそっと後退しながら家から出ようとする。

平静を失っていた俺は足元の段ボールに気づかなかった。

 

ゴトン

 

最悪だ。

蹴飛ばされた段ボールは盛大に音を立てながら転がって行った。

部屋から人影がこちらに向かってくるのが確認できた。

……あれ?

この影妙に小さい気がする。

 

「お帰りなさいですっ!」

 

聞き慣れた声を聞いて緊張から解放された俺はその場で崩れ落ちた。

対局の数倍は疲れた……。

 

「綾乃か……。驚かすなよ。」

「あれ?……すいませんです。」

「どうやって俺の家に入ったんだ?」

「はいっ!それは万智姉様から借りてきました。」

 

万智は我が家のセキュリティシステムを軽く見過ぎじゃないか……。

とは言うものの家に帰ってお帰りと言ってくれる人がいるのはありがたい事だ。

このやり取りだけで今日1日の疲れが半減されるような気がする。

まぁ今日は綾乃のせいで普段の3倍疲れたワケなんだけども。

 

「取り敢えず、ただいま。」

「お疲れ様でした。快勝でしたねっ!」

「そうだね。そうなんだけど……。」

「どうしたんですか?」

 

浮かない顔をしている俺を綾乃は心配そうに斜め45度の角度で見上げてくる。

その上目遣いが可愛すぎるっ!

綾乃は将来はアイドルになれるな。

国民のアイドル間違い無しだ。

……いやでもそうすると変な虫がついてしまうか。

やっぱりアイドルはダメだ。

許しませんっ!

 

「お兄様、大丈夫ですか?」

「あ、あぁごめん。何でもないよ。」

 

いかんいかん、綾乃の前では優しいお兄様で居なくてはならない。

嫌われたくないからね。

 

「あのぉ、私今日は頑張ってお夕飯を作ってみたんですけど……。」

 

そう言われてみると確かに部屋の中に食欲を刺激するカレーの匂いが充満している。

この子は本当に健気で良い子だなぁ。

にへらぁとだらしない笑みを浮かべてしまう。

 

「ありがとう。すごく嬉しいよ。」

「はいっ!万智お姉様ほど上手くはないと思いますけど、心を込めて作りました。」

 

綾乃は無邪気に微笑んで俺の腕を掴んで急かすように席に座らせた。

 

いくら溺愛している綾乃の料理とはいえ、冷静に考えれば綾乃はまだ小学4年生だ。

最悪この世のものではないダークマターを作り出していてもおかしくない。

確かに匂いは美味しそうなカレーの匂いを発しているが味もそのまま美味しいとは限らない。

ここは一旦落ち着いて、カレーを遠くから眺めてみよう。

大局観って大事だもんね。

うん、見た目も確かに普通のカレーだ。

だがここで油断してはならない。

もしかしたらルゥが液体ではなく固体になっているかましれない。

スプーンを恐る恐るカレーに突き刺す。

……液体だ!!

どうやら本当に大丈夫なようだ。

 

「いただきます。」

 

口の中に程よい辛さが広がった。

そして辛さが抜けるとその後から苦味が襲って来た。

……苦味?

この疑問を脳が認識する前に俺の意識は闇に消えた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「大丈夫ですか?」

 

綾乃の甘ったるい声によって脳が段々と覚醒する。

知ってる天井だ。

 

「大丈夫ですか?お兄様。」

「あ、あれ?」

 

綾乃のカレー食べて、それからの記憶がない。

 

「すいません。カレーが失敗だったみたいです。」

 

そう言ってしょんぼりとしている綾乃を見上げて激しい自己嫌悪に陥ってしまう。

なんで俺はあのカレーを食べきれなかったんだ!!

 

「ごめんね。もう大丈夫だから。ちょっと今日は対局で疲れてたからそれで倒れただけだよ。」

「……すいませんです。次こそは頑張ります。」

 

綾乃は小学4年生にしては賢い子供だ。

俺の言葉がお世辞であることもしっかりと見抜けているようだ。

 

「それはそうとあの……そろそろ足が痺れてきたので起きてもらってもいいですか?」

「足……?」

 

そういえば俺はどこで寝ていたのだろう。

丁度人の体温くらいの温もりを持った柔らかい枕だ。

 

「ふぇっ!?」

 

その正体を探るべく手で触ると綾乃が変な声を上げた。

 

「ん?……ごめん!!すぐどけるから!!」

 

なんて事だ。

幼女の膝枕で寝てたなんて俺はどこのロリコンなんだよ!!

こんなロリコンの兄じゃ綾乃に嫌われてしまう。

すぐにフォローしないと。

 

「ごめんね。いやぁ、やっぱ俺今日は疲れてるみたいだなぁ。早く寝たほうが良いかもな。それに綾乃も学校があるだろ。師匠に電話して迎えに来てもらうよ。」

 

慌てて電話をかけようとする手を綾乃が止めた。

 

「ちょっと待ってください。そのアドレスは何ですか?」

 

綾乃の言葉を受けて自分の携帯に目を向けると今さっき登録したばかり桂香さんのアドレスが表示されていた。

 

「あぁ、帰りに偶然ばったり会ってね。その時に交換したんだ。」

「ふーん、偶然に……。」

 

さっきまであんなに無邪気に笑っていた綾乃が今は氷のような冷たい視線でこちらを見てくる。

 

「私が一生懸命、カレーを作っている間。お兄様はおばさんとイチャイチャしてたわけですか。」

「普通に話しながら帰ってただけなんだけど。」

「口答えしないっ!!」

「はいっ!」

 

別に浮気をしたわけでもないなに何故か浮気がバレた夫の気分が分かる気がする。

 

「それで楽しかったんですか?」

 

ここは正直に言わない方が身のためだろうか。

いや、綾乃は賢い子だ。俺の嘘なんか簡単に見抜いてしまうだろう。

ここは誠意を見せるべきだ!

 

「楽しかったよ。桂香さんって意外とすごく表情豊かなんだよ。銀子ちゃんの事話すときなんてね……」

「もう今日は帰ります。お兄様のバカっ!!」

 

俺の言葉を遮るように綾乃が声を張り上げる。

ご近所さんに聞こえちゃうから声のトーン落としてくれませんかね……。

 

「夜に一人で外に行くのは危ないから待って!」

 

結局、仲直りする代わりに綾乃を一日家に泊まることになった。

しかし後日、貞任家の両親が心配して師匠に連絡し俺が綾乃を泊めたことがバレて大目玉をくらったのはまた別の話だ。




そろそろ原作とも絡めていきたいと思っています

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