恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回、殆ど暴れるのはあの人です。


第百二話 世の中、やっちゃいけねぇモンがある

 声をかけられて早々頭が痛くてしょうがねぇよ。

こいつは何の冗談だ? もし悪夢を見てるんだったら、直ぐにでも醒めてもらいてぇもんだ。だが、この明らかにはっきりと分かる実体感が夢であるわけがねぇ。つもり本物だ

なんだってこんな奴を呼んじまうかねぇ、お嬢様は。これならまだカイルの方がウン倍もマシってもんだ。

しかもクソオヤジに至っては、オレを見ての第一声がこれだ。

確かに似合わねぇとは分かってるが、流石にこのオヤジに言われるのはどうにも好かねぇ。

それに馬鹿にされてそのままってのも性に合わねぇんでなぁ。こっちも挨拶するかねぇ。

 

「おいおい、ここは何処の雪山だ? いくら秋が近づいてるからってイエティがいて良い場所じゃねぇんだよ。とっととロシアの雪山にでも帰えんな」

「テメェこそせっかく学校に通ってんだ、もうちったぁ語学を学べってんだ、このボケ!」

 

もう少しは理知的な話し方ってもんがあるだろうによぉ。嫌だねぇ、文化的な生活ってもんを知らねぇビックフットは。

そのままオレはクソオヤジと睨み合う。

クソオヤジもオレにむかってガンを飛ばして来やがった。

 

「何だ、ガキ? この場で俺にピロシキの具を作れって言うのか、あぁ?」

「それはこっちの台詞だ。今すぐにでもテメェをミンチに変えて出荷してやろうか?」

 

そのまま互いに殴り合える距離までジリジリと距離を詰めていく。

一触即発って言葉が合うんだろうが、このクソ野郎相手には一触も必要ねぇよ。手榴弾はピンを抜けば後は爆発するだけさ。クソオヤジ相手にピンを抜くのに躊躇するなんざぁありえねぇよ。

そして互いにそのいけ好かねぇ面をぶん殴ろうと動こうとした瞬間……。

 

「はい、二人ともそこまでです」

 

クロードの声で止められちまった。そう、この上司がいつもオレ等の手榴弾のピンを炸裂する前に刺しちまう。爆発する前にピンを戻せば手榴弾は爆発しねぇのさ。

流石に文句の一つでも言いたい所だが、あの鬼畜眼鏡に何か言おうモンならその場で反論されて逆に返り討ちに遭うのがオチだ。むかつくが、黙ってるのが利口ってもんだろうよ。

 

「団長、せっかく招待されたのですからお静かにお願いします。ここで暴れられたらどれだけ被害が出ると思ってるんですか。もし被害の一つでもだそうものなら、慰謝料などは全部団長の給料から引かせても引かせてもらいますから。それにレオスもそんな風に反応するから団長がノって来るんです。もう少し堪えることを覚えて下さい」

 

さっそく言われちまったよ。

分かってはいるんだが、このクソオヤジを前にするとどうもいけねぇなぁ。

 

「レオスさん、駄目ですわよ。せっかくご招待したのに失礼なことをしては」

 

お嬢様も腰に手を当ててぷんぷんって感じに怒ってる。

まぁ、分からなくはねぇんだけどなぁ……。

 

「だがよぉ、お嬢様。何だってこんな奴等を呼んだんだ? まぁ、クロードだけだったらわからなくもねぇ。夏休みにはお嬢様もそれなりに世話になったしなぁ。だが、そこのクソデケェのはそうじゃねぇだろ。何で呼んだんだい?」

 

その問いに対し、お嬢様は少しだけ頬を染めると答えてくれた。

 

「その……クロードさんにはお世話になりましたし、ブリュッケンさんはレオスさんの保護者ですから。レオスさんの学園での生活を見せてあげたくて……」

 

お嬢様……そいつは所謂、いらぬ世話って奴だぜ。

寧ろ呼ばない方がオレとしては嬉しかったんだがねぇ。

だが、それを言うのはあまりにもしのびねぇ。お嬢様が楽しんでるようだからなぁ。

オレは溜息を一回だけ吐くと、お嬢様に答える。

 

「はぁ……まぁ、呼んじまったなら仕方ねぇか。お嬢様も善意で呼んだんだしなぁ」

「はい!」

 

オレの返答に喜ぶお嬢様。

そんなお嬢様には聞こえねぇように二人に話しかける。

 

「お嬢様のご厚意って奴だ。今回は見逃してやる、クソオヤジ。クロード、ちゃんと手綱を握っておけよ」

「分かってますよ。ご招待して下さったセシリアさんの顔に泥を塗るような真似をするわけには行きませんから」

「わかってるっての。テメェにはいくらでも迷惑かけようがこれっぽっちも気にしねぇが、嬢ちゃんのはそう言うわけにはいかねぇだろ。テメェこそ、嬢ちゃんに免じて勘弁してやるよ」

 

今すぐにでもさっきの続きをおっ始めたくなったが、流石にさっき言った手前、ちゃんとまもらねぇとなぁ。

そんなわけで、このクソデケェうどの大木と鬼畜眼鏡を連れてお嬢様と一緒に学園祭を廻るわけになったわけだが、どうにもオレは嫌な予感しかしねぇ。

何にも起こらなきゃいいが、そいつは無理ってもんだろ。

オレの今までの経験上、このクソオヤジと鬼畜上司が揃って何処か行くと必ず何かしら騒動に巻き込まれる。

トラブルメイカーが泣いて逃げるくらい、そいつは確実だ。

どうか……そのやってくるもんが温いもんであることを期待したい所だ。

 

 

 

 

「おぉ、このデビルフィッシュが入った奴、中々イケルじゃねぇか!」

「たこ焼き……でしたか、確か。日本の大阪の名物でしたよね。成る程、これは確かに美味しいですね。デビルフィッシュが入ってるとは思えないですよ」

「で、デビルフィッシュを食べるんですの………」

 

学園祭を廻る前から分かりきってたことがある。

そいつは誰が見たって余裕で分かるだろうさ。もし、そいつをわからねぇって奴がいるんだったら、オレはそいつを直ぐにでも眼科医へ行くことを勧めるぜ。

そいつが何なのかって言えば……………。

 

周りからの視線って奴だ。

 

明らかにこの面子は悪目立ちし過ぎだ。

お嬢様の美貌に釣られてってんなら、側にいる俺達は役得ってもんだ。

だが、そんな羨ましいモンじゃねぇだろ。

周りの連中が見てるのは、今まさにたこ焼きに舌鼓を打ってる上司二人組だ。

まずクロード。

オレは今まさに、美形ってのが如何に得なのかを改めて思い知らされたね。

今喰ってるたこ焼き以外にも喰いモンを喰ってるわけだが、その代金は全部無料だ。

クロードが喰いモンを取り扱ってる教室に入る度、その教室内の視線を独り占め。そこで笑顔の一つでも振り撒こうもんなら、周りの女共は目をハートにして進んで商品をプレゼントしてくるって寸法だ。

当然クロードは代金を払うと言うんだが、周りの連中はクロードにお代を貰うわけにはいかねぇと答えるのさ。

 

「これはおいくらですか?」

「そ、そんな………貴方のような方からお代なんて貰えません………」

 

てな具合だ。こいつは見てて中々に笑えるもんさ。癪だがクソオヤジ共々笑っちまったよ。

結果、クロードは代金を払う代わりに写真を一緒に撮ったり握手したりしてたけどな。

まさかこうも無料で手に入るとはねぇ……イケメン様様だ。

前も思ったが、何でこいつはこんな仕事なんてしてるんだろうねぇ。ハリウッドにでも行った方が良いんじゃねぇか?

だからなのか、クロードが歩いてるだけで周りの女共の視線が集まってくる。

それだけでも目立つってのに、このクソオヤジの所為で更に目立ってやがる。

こっとはこっちで大層なもんさ。

図体がデケェから、歩いてる廊下が狭くて仕方ねぇ。

しかもそんなデケェ図体の奴が甘いもんをぱくついてるってんだから、そのギャップの差ってのは激しいもんだ。見て違和感しか感じねぇよ。

まぁ、それだけだったら可愛げがあるんだがねぇ。

政府関係者や企業の重役の中には、当然オレ等の面を知ってる奴もいるわけだ。御蔭でさっきからひそひそ話が聞こえてきて仕方ねぇよ。『巨人の大剣』の主要メンバーが揃って何をする気だってなぁ。

と、禄でもねぇくらい目立ちまくる二人の所為で、現在周りの視線を独り占めだ。

御蔭で目立つこと目立つこと。流石のお嬢様もこんな状態になるとは思わなかったのか、苦笑を浮かべてる。

そこから始まったのは、クロードって言う金のなる木を使ったグルメツアーだ。

あっちこっちの教室に行ってはクロードを使って喰いモンを手に入れていく。

え、汚ねぇだって?

おいおい、そんなこと言うなよ。貰ったモンは全部『善意』で貰ったもんなんだぜ。そいつを汚ねぇっていうことは、そいつらの善意を無下に扱うってことだ。それはいけねぇだろ。善良な人間ならなぁ。

それで色々なモンを無駄にデケェ胃袋の中に入れた行くオヤジが最後に手に入れたクレープに囓りつこうとしたところで放送が入ってきた。

 

『これより、生徒会主催の演劇を行います。会場は第三アリーナを使用しますので、是非御覧下さい』

 

それを聞いて、オレとお嬢様は互いに顔を見る。

この演劇、表側はそのまんま演劇だが……裏側は例のストーカーを捕まえるための罠だ。

つまりある程度ストーカーの見通しが付いたって事になる。

だからこそ、オレは二人に話しかけた。

 

「さっきの放送で流れた演劇、見に行かねぇか? この日のために実に頑張った奴が主演を張るんでなぁ。是非とも見ておきたいのさ」

 

そう語るオレの顔を見て見事としか言いようがねぇ。クロードは全部読んだらしい。本当に千里眼の二つ名は伊達じゃねぇなぁ。そっち方面で喰っていけるんじゃねぇか?

ニッコリと笑顔でオレに話しかけてきた。

 

「成る程。演劇を隠れ蓑に侵入者をあぶり出す、ということですか。この作戦を考えた人は随分と策士ですね」

「そいつは本人に言ってくれ。多分その裏の劇で主演と一緒に演じてるはずだからなぁ」

 

オレとクロードの会話を聞けば、いくらオツムがアレなクソオヤジでも理解出来るもんさ。オヤジもノリ気で話に乗ってきた。

 

「まぁ、多少喰いモンばかりで飽きてきたところだしな。少しは違ったモンも楽しむか」

「楽しむのはいいが、壊すなよ。オレの気に入ってる奴が主演なんだよ。劇を壊したら可哀想になっちまうからなぁ」

 

上司二人が一緒に行くということに何とも言えない顔をするお嬢様。

実力ってもんは分かってるんだが、流石に部外者を連れて行くのはどうかと思ってるって面だ。

そんなお嬢様にオレはニヤリと笑いかける。

 

「そう気張んなよ、お嬢様。オレ等はあくまでもサブだ。いざとなったら会長が出て来るんだから見ていればいい。そこに二人三人増えようとそこまで変わりはねぇ。寧ろ観客が増えた方が、奴さん達も張り合いが出てイイ動きを見せてくれるもんだよ」

「そ、そういうものですの?」

「あぁ、そんなもんさ。それにお嬢様だってちゃんと見たいだろ? イチカがどれだけ成長したかってもんをよ」

「た、確かに…………」

 

お嬢様はそう言われて少し難しそうな顔をしてたが頷いた。

お嬢様もノリは良い方だからなぁ。結局乗っちまう。まぁ、そういうフランクな所も魅力の一つってもんだ。

 そんなわけでお嬢様と上司二人を連れて、イチカの野郎が主演を演じてるであろう劇を見に行くことにした。

と言っても、表でやってる『灰被り姫』じゃねぇ。

オレ等が向かったのは、その劇の裏側。会長が出番待ちをしているであろうこの会場の更衣室だ。

そのストーカーも表だってはこねぇ。なら、一番人気が少ねぇ場所で仕掛けてくるのはガキでも分かる話さ。

ってことで、オレ等は会長がいるであろう更衣室へと入っていった。

そこは真っ暗で非常灯の明かりだけが唯一灯ってる部屋。

これが今回の劇場ってわけだ。

さっそく会長を見つけたんで声をかけるかねぇ。

 

「よぉ、会長。首尾はどうだい?」

「っ!? な、何、貴方だったの!」

 

暗闇で急に声をかけられたんで驚く会長。

こんなことで驚くなよ、会長。可愛いところがあるじゃねぇか。

そして会長はオレの後ろにいるお嬢様を見て頬を緩めるわけだが、更にいる二人を見て驚いてやがった。

 

「え、ちょっと! 何部外者を勝手に……」

「そう怒んなって。ちょっと観客を増やしただけなんだからよ。大丈夫だ、こいつ等なら全裸で戦場に放り込んだって死にやしねぇ。寧ろ殺せるってんなら是非見てぇもんだ」

「すみません。ですが、邪魔にならないように気をつけますので」

「悪いなぁ、嬢ちゃん。まぁ、邪魔にならねぇように隅っこで見てるからよ」

 

会長に二人はそう言うと、会長の近くでその視線の先を見ることにする。

お嬢様の方を見ると、少し不安なのかそわそわとした感じだ。そんなお嬢様にオレは笑いかけてやる。

 

「落ち着けよ、お嬢様。あれだけ鍛えたんだ、そう簡単にゃぁくたばらねぇだろ。それにいざとなったら会長やオレは勿論、お嬢様だっているんだ。それだけでも充分な戦力なんだからよ。不安な事なんざぁなにもねぇ。違うかい?」

 

そう言うと、お嬢様は俺を見つめながら笑顔になった。

 

「そうですわね。すみません、こんな醜態を見せてしまって」

「別にいい。お嬢様は真面目にし過ぎなんだよ。肩の力を抜くくらいが丁度良い。リラックスだよ、お嬢様」

 

オレの言葉を聞いて、お嬢様は少しは不安が薄れたらしい。

だが、だからといってオレの手をぎゅっと握るのは勘弁願いてぇなぁ。クロードとクソオヤジがニヤついてるからよ。

そいつを寧ろ笑い返しながらオレも見ると、さっそく主演が登場した。

イチカをここに引っ張ってきたのは、スーツを着た女だ。

あれがどうやら例のストーカーらしい。一人で来させるなんて、亡国なんたらは人手不足なのかねぇ。

 

「誰だ、お前!」

「私か……私はな……企業の人間に成りすました謎の美女だよぉ!」

 

そんな台詞のやり取りと共にISを展開する女。

これまた随分とキワモノだなぁ。腕が八本も付いやがる。

それを見てイチカもISを展開するわけだ。実にドラマチックな展開ってやつか。

そのまま二人の戦闘を見ていると、クロードが納得したかのようにオレに話しかけてきた。

 

「あぁ、彼が噂の。鍛えてあげたんですか?」

「別にオレは何もしてねぇよ。ただ遊んでやっただけだ。まぁ、気に入ってるけどなぁ。アイツはの周りは常にお笑いのネタで溢れてるのさ。見てて飽きねぇ」

「へ~、アレが噂の世界初ねぇ~。随分と青臭ぇガキだなぁ」

 

クソオヤジがクレープ片手にそう洩らす。事実なのは仕方ねぇが、それが普通の学生ってもんなんだよ。

そして普通のガキだったら、これで向こうのストーカーに捕まって即終わり、何だが……あれでも三人で弄くったんだ。多少はマシになってるもんさ。

 

「ちっ、こいつ、ちょこまかと!!」

「遅い! これでもくっらえぇええぇええぇえっぇえぇええええ!!」

 

イチカはストーカーの射撃の雨を潜り抜け、その八本の腕の攻撃を右手で払いながら左手で掌底を嚙ます。その際に左手の荷電粒子法砲を発射。

零距離からの攻撃にストーカーはダメージを負って後退する。

 

「何でこんな手慣れてるんだ!?」

「これでも鍛えられてるんでなぁ。これぐらい出来ないと教えてくれた人達に申し訳が立たないんだよ!」

 

そこから更に追撃をかけるイチカ。

この狭い空間で取り回しが悪い刀を振り回すよりも、拳打と荷電粒子砲の砲が有利に戦えるってことを分かってるようだ。

その様子を見ながらオレは会長に話しかける。

 

「この様子じゃ会長の出番はねぇかもなぁ」

「そうね。でもいいじゃない、それだけ一夏君が成長してくれたってことなんだから」

 

会長は満足そうに笑いながらイチカを見つめてる。

お嬢様もイチカの奮闘ッぷりを見て胸を撫で降ろしてるようだ。

なら、今度は遊ばねぇとなぁ。

オレはその戦いを見てる上司二人にふっかける。

 

「なぁ、せっかくだから賭けようぜ。イチカの野郎がどれくらいであのストーカーをぶちのめすのか。オレはあと7分に100ドルだ」

「お、いいじゃねぇか。なら、俺は10分に200賭けてやるよ」

「まったく、貴方たちは……では、私は15分に150ドルで」

 

せっかくの祭りなら、楽しまねぇとなぁ。

その声を聞いたお嬢様が不謹慎だって面で睨んできたが、見逃してくれ。

これぐらいの遊びならいいだろ。

 そう思ってたんだけどなぁ……世の中、賭け事ってのは上手くハマるもんじゃねぇらしい。

イチカとストーカーの戦闘は中々に苛烈を極め、そろそろ俺の指定した時間の7分に到達しようって時だ。

 

「くっそぉおおおぉおおぉおおぉおおおお!! とっとと落ちろ、クソ野郎!!」

 

ストーカーがぶち切れて狙いも定めずに乱射して来やがった。

それは別に問題ねぇ。イチカの野郎もお嬢様にしこたま鍛えられた身だ。難なく躱したよ。

だがなぁ……非常に運が悪かった。

流れ弾の一つがこっちに飛んで来やがったのさ。

別に誰も怪我なんてしてねぇよ。だけどなぁ……正直、一番当たっちゃいけねぇモンにぶち当たりやがったんだよ。

それは何か? そいつはなぁ………。

 

クソオヤジの持ってるクレープだよ。

 

見事に直撃して弾け飛んだそいつをじっと見るオヤジ。

それを見た途端、俺はクロードと目を合わせる。

 

「どうやら賭けはここまでみてぇだな。クロードはお嬢様と会長を頼む。オレは主演俳優をこの劇から下ろしてくるよ」

「えぇ、お願いします」

 

そして急いで動き始めた。

ヤバイって言葉を此処まで使いたいモンは、オレが知ってる中でもこいつが一番だ。

珍しく焦りながらオレはISを展開してイチカの方に駆け出した。

クロードは二人を優しく手で支えるようにしてエスコートを始める。

急いでくれよ。どこかの馬鹿が導火線に火をつけちまったんだからなぁ。

 

「あの、クロードさん! 一体何が…」

「すみません、事情は後で説明します。急いでここから出ないと巻き込まれかねないので。そこの貴方もです!」

「え、ちょっと!」

 

クロードの動きを確認しつつオレはイチカに向かって突進し、そして体当たりを嚙まして一緒に吹っ飛んだ。

 

「なっ、レオス!? 何で邪魔するんだ!」

「悪いな、イチカ。この劇はもう終わりだ。直ぐにでもここから離れるぜ。でないと巻き込まれてお前さんも一緒にミンチに早変わりだ。あの女、よりにもよって、この場で一番しちゃいけねぇことをやらかしやがった」

 

そしてイチカが理解する前に抱えてこの更衣室の壁をぶち破る。

その途端にオレの背中から、イチカから見て視線の先から……。

 

獣のような咆吼が轟いた。

 

あぁ、始まっちまった。

あのストーカーにゃあ可哀想だが、仕方ねぇ。世の中やっちゃいけねぇことってモンがある。その一つをしちまったんだからよぉ。

 いいかい、オレが知ってる中の常識の中に、特にやっちゃいけねぇもんがいくつかある。

その一つはなぁ………。

 

『クソオヤジの前で菓子を無残に扱うな』

 

だ。もし扱おうモンなら、そいつはなぁ……真の意味で『巨人』の意味を知ることになる。

本当に可哀想で仕方ねぇ。もう助からねぇんだからなぁ。

あの馬鹿、怒りが収まるまで暴れ続けるんだからよぉ。

 

 

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