恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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尚もスランプ継続中です……。


第百七話 大人なお疲れ会

 お祭り騒ぎってのは騒いでる間にあっという間に時間が過ぎていくもんだ。

いつもと時間の流れは一緒なのに、そいつを感じる感覚ってのが違えぇ。

その所為なのか、気が付きゃあっという間にもう夜だ。月も昇って実に良い夜空って奴だなぁ。

お嬢様は実に満足そうな寝顔で眠ってるよ。今日はそれなりに頑張ってたからねぇ。

学園祭のメイド喫茶でメイドを満喫したり、あの碌でなし上司二人組の相手をしたり、泥棒相手に奮闘したりなぁ。

まぁ、充実した時間を過ごして疲れたんだろうよ。その寝顔が実に満足そうだ。

そんなお嬢様の頭を軽く触ると、可愛らしい唇から寝息が零れる。

そのいつもはまずやらねぇ事をしているテメェに苦笑しつつ、俺は部屋を出るべく扉を開ける。

 

「………良い夢見ろよ、お嬢様」

 

それだけ言って扉を閉めると、オレは歩き始めた。

向かう先は決まってる。

 

あの腹黒い爺さんのところだよ。

 

 

 

 

 真っ暗な校舎内を歩いていく。

この学園の奴等の祭り好きも大概なもんだが、片付けの速さには驚かされるモンがある。昼間はかなり浮かれ上がった校舎内だったってのに、今じゃいつもとかわらねぇ廊下に戻ってやがる。

その事に感心しつつ、唯一灯りが灯っている部屋の扉の前に来た。

その扉にする必要も無ねぇがノックをする。

 

「開いてますよ」

 

聞き慣れた声を聞いて気にする事もなく扉を開く。

その先にいるのは勿論決まってる。

この学園の実質的支配者にして実に腹黒い爺様だ。

その爺さんはオレを見るなりいつもと変わらねぇニコニコとした笑顔を向けて来た。

 

「やはり来ましたね。今日はお疲れ様でした」

「別に来たくて来たわけじゃねぇよ。どうせ来なきゃ呼んでただろうに」

 

呆れ返ったって面で爺さんを見ながら部屋に入る。

そしてもう一人いる来客に声をかけた。

 

「よぉ、会長さん。こんな夜遅くまで起きてると、ご自慢のお肌が大変なことになっちまうぜ」

「余計なお世話よ! まったく……」

 

会長はオレに噛み付いてくるが、そいつももう慣れたもんだ。

そのまま無視して勝手に部屋の奥に入り、そこから爺さんが隠してる酒を拝借する。

そこで珍しいもんを見つけたのでさっそく引き抜き、グラスを三人分用意して戻る。

 

「爺さん、あんたにしては随分と珍しいもんがあるじゃねぇか。『カーサ・デ・ルナ』、こんな最近のモンがあるとは意外だよ」

 

爺さんに瓶を見せながらそう話しかけた。

この『カーサ・デ・ルナ』ってのはテキーラなんだが、つい最近作られた代物で爺さんみたいな古い酒を好むタイプが持つには珍しい代物だ。

爺さんはそれを見て、笑顔で返してきた。

 

「えぇ、結構美味しいって評判だったので妻に内緒で購入しました」

 

爺さんの応答を待たずに封を開け、氷を入れたグラスに注ぐ。

もうこれも慣れたもんだ。爺さんもそれが当たり前になってる。

唯一真面目な会長がジト目で睨んでくるのもご愛敬って奴さ。

そしてグラスを爺さんと会長に渡す。

 

「ねぇ、私未成年なんだけど」

「それならオレもだろ。一々細かいこというなよ。くだらねぇ事言ってると酒がまずくなる。なぁ、爺さん」

「ほっほっほ、そうですね。お酒は楽しんで飲まないといけませんよ、更識君」

「それでいいんですか、大人が」

 

会長が疲れた面になるが、別にいいんだよ。この場で咎める奴はいねぇ。

そして三人でグラスを片手に持ち上げると、爺さんが代表として言う。

 

「では……学園祭は本当にお疲れ様でした。この場にいる貴方達の御蔭で無事に済んだことを、心から嬉しく思います。その讃辞と今日の皆の頑張りに……乾杯」

 

そしてグラスを軽く付き合わせると、この部屋にグラスのぶつかり合う音が静かに鳴った。

それを終え次第、オレと爺さんはグラスの中身をぐいっと煽る。

テキーラってのはワインみてぇに飲む酒じゃねぇからなぁ。

それに倣って会長も思いっきり煽り…………。

 

「っ!? ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅ!!」

 

盛大に噴いた。

おいおい、淑女の立ち振る舞いにしては随分とワイルドだなぁ。

そのまま咳き込む会長はオレと爺さんをジト目で思いっきり睨んできた。

 

「ちょっと、けほ、これ、なんなのよ! けほけほ」

「何でもも何も、そのまんま酒だろ。テキーラだよ、テキーラ。どうやら会長はまだお子様らしい。酒の味がわからねぇ内はまだまだお子様だよ」

「そう言わずに。彼女には合わなかったようですから、仕方ありませんよ」

 

爺さんとオレは会長の様子を見て笑い、笑われた会長は顔を真っ赤にしたまま拗ね返る。

と、それなりに緊張を解した所で改めてソファにどっかりと座り込み、今日の話を始めることに。

爺さんは酔ってるのか分からねぇ面で真面目な感じに話し始めた。

 

「では、改めて。今日は本当にお疲れ様でした。学園祭も無事に終わり、被害も少なく……はありませんが、結果から言えば上々です」

 

被害の辺りでオレを見るのはやめて貰いたいねぇ。

 

「此方には当初の目的通り亡国機業の戦闘員を手に入れる事が出来ました。これでより実体の分からないあの組織について、詳しく知ることが出来そうです」

 

その意見に賛同するかのように、会長が頷く。

今回の目的であるイチカの野郎の防衛、及びそのストーカーの確保は成功した。

結果だけ見れば成功だ。文句を付ける謂われはねぇくらいにな。

だけど、それだけじゃぁこの反省会は終わらねぇ。

 

「ですが、それでも多少では無い被害を出してしまったことは遺憾の限りです。学園の設備なども壊してしまいましたしね。唯一の救いは人的被害がゼロだったことです。更識さんは頑張ってくれましたが、こればかりは少し……」

「そうですね。もっとスマートに押さえることが出来れば良かったです……」

 

そう言いながらも二人してオレを見てきた。

だからってオレの見ないでくれよ。今回は何もしてねぇんだからよぉ。

オレは呆れた感じに両手を挙げて爺さん達に答える。

 

「そうオレの所為にしないでくれよ。確かにあのストーカーをボロ雑巾にしたのはウチの馬鹿だが、アイツとクロードを呼んだのはお嬢様だぜ。オレは呼ぶ気なんてなかったんだからよぉ。それが来ちまった挙げ句、イチカの舞台で賭けをしてたら奴さんの銃弾が馬鹿のクレープに直撃。それで逆鱗に触れた奴さんが馬鹿にド突かれてたって話だよ。オレが怒られる道理はねぇし、それに爺さんもちゃんとクロードから修理代金は受け取ってんだろ。なら、この問題はこれ以上ねぇだろ」

「まぁ、そうなんですけどね」

 

全部分かってるんなら言わないで欲しいもんだ。この爺さん、若者を痛ぶって楽しんでないか? まったく、悪趣味極まりないってもんだぜ。

会長も納得しきってねぇって面だが、事実そうなんだからしかたねぇだろ。

今回の一件、オレは悪くねぇ。文句は会社の方にでもしてくれ。

 さて、オレへのからかいが終わったところで、今度は今後について話し合わねぇとなぁ。

それを話すべく、爺さんから話を切り出してきた。

 

「では次に、今後の敵について考えていきましょうか。更識君、よろしくお願いします」

「はい」

 

爺さんに促され、会長が説明し始める。

 

「今後、亡国機業は戦闘員の奪還、もしくは織斑君のISや身柄の奪取を目論むと思われます」

 

その話を聞いて爺さんは軽く頷く。

 

「つまり、学園がさらに襲撃されやすくなるということですね。勿論、此方から下る気はありませんから、交渉出来なければ徹底抗戦ということになるのでしょう。君はどう思いますか?」

 

こっちに話題が振られたので、オレは面倒臭そうに答える。

 

「別にいいんじゃねぇか。そっちの方が退屈せずにすみそうだしよ」

「つまりやる気はあると」

 

そんな事は言ってねぇってのに、この爺さんは勝手に解釈を変えやがった。

別にやる気なんてねぇよ。ただ、賑やかな方が退屈はしねぇってだけだ。

 

「ちゃんと依頼するんだったらカッチリとやることはやるさ。今回タクシーを見逃したのだって、ボランティアで出来る限りの最善策だったんだからよ」

 

そう答えると会長は怒った面をするが、爺さんは暢気に笑ってる。

どうせそう思ってたんだろうが。

 

「まぁ、そうですね。確かに君はボランティアの範囲で最大限の事をしてくれました。ですが、やはり私としては捕まえて欲しかったですね。相手の戦力は削っておきたいし、奪われた機体を返せば貸しも出来ますから。だから次からは前と同じように依頼させてもらいますよ」

「毎度。やっぱりそうでなきゃなぁ」

 

そう言って爺さんと笑い合いながら酒を呷る。

だが、会長はどうにも煮え切らねぇって面をしてきた。

 

「随分と勝手に動くわね、あなた。もうちょっと人としてのモラルはないのかしら?」

 

その質問に対し、オレはニヤリと笑いながら答える。

 

「そんなもんがあるんだったらこんな仕事はしてねぇよ。世の中一番シンプルに事を表すんだったら金が一番だ。善意じゃ金は稼げねぇ。ギブ・アンド・テイク、それが世界を回す秘訣だぜ、お嬢ちゃん」

 

その答えに言い負かされたのか悔しそうに唸る会長。

そんな会長の面を見て、この後も爺さんと酒を呷った。

学園がどうなろうが、爺さんがどうなろうが気にはならねぇ。

だが、依頼されたんならきっちりと熟すのが社会人って奴だろ。

これまでも、これからもオレのスタンスは変わらない。

そのことをこの酒の席で確認した。

やっぱりオレには、ボランティアなんて向いてねぇってことさ。

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